説明

熱硬化性粉末組成物

本発明は、顕著な耐候性、優れた機械的性質、及び優れた流動性を持つことが判明する被覆を与える熱硬化性粉末組成物であって、50〜100モル%のイソフタル酸及び70〜100モル%のネオペンチルグリコールを含む無定形ポリエステル(A)と、75〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸及び75〜100モル%の少なくとも一種の分岐鎖脂肪族ジオールを含む無定形ポリエステル(B)との混合物を含む結合剤を含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕著な耐候性、優れた機械的性質、及び優れた流動性を立証する被覆を与える、無定形ポリエステルの混合物を含む結合剤を含む熱硬化性粉末組成物に関する。
【0002】
本発明は、前記組成物を、粉末状ペイント及びワニスを製造するために用いることにも関する。
【背景技術】
【0003】
粉末状ワニス及びペイントの製造で用いるのに適したカルボキシル官能性及びヒドロキシル官能性ポリエステルは、通常、芳香族ポリカルボン酸、主にテレフタル酸及びイソフタル酸、及び任意選択的に僅かな割合の脂肪族又は脂環式ポリカルボン酸、及びエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、等のような種々のポリオールから製造されている。
【0004】
これらのポリエステルの或るもの及びそれらから誘導された粉末は、そられの顕著な耐候特性の故に用いられている。これらのポリエステルは、殆どが、就中、最も重要な酸成分であるイソフタル酸から誘導されている。しかし、これらのポリエステルから得られた被覆は、優れた耐候性を持つことが判明しているが、可撓性を全く持たない。
【0005】
イソフタル酸に富むポリエステルを含む粉末から作られた被覆の可撓性が欠如している問題を解決するための幾つかの方法が探求されてきた。
【0006】
EP64890には、実質的に、80〜100モル%のイソフタル酸を含むジカルボン酸単位及び少なくとも4個の炭素原子を有する少なくとも50モル%の分岐鎖脂肪族グリコールを含むグリコール及び、前記ジカルボン酸とグリコールの全量に基づき、8%までの量の少なくとも三つの官能基を有する単量体に基づく、15〜70mgKOH/gの範囲の酸価を有する酸官能性ポリエステルと、β−(HAA)架橋剤とを含む粉末被覆組成物が記載されている。
【0007】
EP389926には、イソフタル酸に富むポリエステルと、優勢な量のイソフタル酸を含むポリエステルから誘導された被覆の耐衝撃性に予想外の影響を与える1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とから誘導された可撓性室外耐久性粉末ペイントが記載されている。
【0008】
上で言及した樹脂の変性は、適用して硬化すると、遅い変形が考慮される場合には改良された可撓性を有する被覆になることが判る粉末をもたらすが、直接又は逆衝撃のような速い変形が加わると、多かれ少なかれそれらは損傷する。
【0009】
それ以外に、結合剤が、イソフタル酸に富むポリエステルと、半結晶質ポリエステルとを、ポリエステルの官能基と反応することができる官能基を有する硬化剤と一緒にした同時反応性混合物から構成されている、熱硬化性粉末組成物が提案されている。
【0010】
樹脂の官能基と反応することができる硬化剤と共に、結合剤系中のカルボン酸又はヒドロキシル官能性無定形樹脂の夫々の同時反応性部分として半結晶質カルボン酸又はヒドロキシル官能性ポリエステルを使用することは、US4,859,760、WO89/05320、WO94/02552、WO95/01407、WO91/14745、及びWO97/20895のような幾つかの特許の主題になっている。
【0011】
それにも拘わらず、イソフタル酸に富む無定形ポリエステルが含まれている場合、優れた耐候性及び可撓性が必要な用途のために特に設計されている場合、無定形及び半結晶質ポリエステルの適切な組合せが非常に重要になる。なぜなら、純粋な無定形ポリエステルに基づく粉末に典型的な最初の好ましい性質が劣化する可能性があるのみならず、粉末加工又は貯蔵安定性が考慮された場合に起きる潜在的欠陥によるものである。実際、無定形と半結晶質のポリエステルの混合は、非常に臨界的で、ガラス転移温度が余りにも低い「可塑化され過ぎた」系を与える結果になることがある。このようにして得られた粉末の押出し物の研磨及び貯蔵は問題になる。
【0012】
結論として、優れた耐候性及び可撓性が必要になる場合の屋外での用途のために今日まで提案されてきた種々の粉末組成物は、全て幾つかの起こり得る制約又は欠点を持つ特徴があり、それらの適合性が疑問になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、これらの性質の独特の組合せを与えることが判明し、従来法の欠陥及び/又は欠点を示さない被覆を生ずることができる粉末状熱硬化性組成物が依然として要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
今度、イソフタル酸に富む無定形ポリエステル(A)と、直鎖脂肪族二酸及び分岐鎖脂肪族ポリオールに富む無定形ポリエステル(B)との混合物を用いることにより、優れた流動性及び可撓性と共に優れた耐候性持つことが判る被覆を生ずる粉末状熱硬化性組成物を得ることができることが図らずも見出された。
【0015】
更に、従来法とは対照的に、それらの被覆の性能のみならず、粉末処理性及び貯蔵性が、両方のポリエステル(A)及び(B)の混合条件とは無関係であることが見出された。
【0016】
従って、本発明は、
● ポリエステルの全重量に基づいて計算して、99〜55重量部の少なくとも一種の無定形ポリエステル(A)であって、酸の全重量について、50〜100モル%のイソフタル酸、及び任意選択的に0〜50モル%の、少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、アルコールの全量について、70〜100モル%のネオペンチルグリコール、及び任意選択的に0〜30モル%の少なくとも一種の他の脂肪族及び/又は脂環式ポリオールを含み、かつ、1100〜11500の数平均分子量を有する無定形ポリエステル(A)及び
● ポリエステルの全重量に基づいて計算して、1〜45重量部の少なくとも一種の無定形ポリエステル(B)であって、酸の全重量について、75〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、75〜100モル%の少なくとも一種の分岐鎖脂肪族ジオール、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族又は脂環式ポリオールを含み、かつ、1100〜17000の数平均分子量を有する無定形ポリエステル(B)、
を含む結合剤組成物を与える。
【0017】
無定形ポリエステル(A)及び(B)は、カルボキシル官能性ポリエステル、又はヒドロキシル官能性ポリエステル、又は両方の混合物でもよい。カルボキシル官能性ポリエステルとは、本発明で、遊離の、一般に末端のカルボキシル基を有し、10〜100mgKOH/gの酸価を有するポリエステルを指定することを意味する。ヒドロキシル官能性ポリエステルとは、本発明で、遊離の、一般に末端のヒドロキシル基を有し、10〜100mgKOH/gのヒドロキシル価を有するポリエステルを指定することを意味する。
【0018】
本発明の第一の好ましい態様に従い、本組成物は、少なくとも一種のカルボキシル官能性ポリエステル(A)及び少なくとも一種のカルボキシル官能性ポリエステル(B)を含む。この態様では、カルボキシル官能性無定形ポリエステル(A)は、好ましくは15〜100mgKOH/g、一層好ましくは20〜70mgKOH/gの酸価を有する。この態様では、カルボキシル官能性無定形ポリエステル(B)は、好ましくは15〜80mgKOH/gの酸価を有する。
【0019】
本発明の第二の態様に従い、本組成物は、少なくとも一種のヒドロキシル官能性ポリエステル(A)及び少なくとも一種のヒドロキシル官能性ポリエステル(B)を含む。この態様では、ヒドロキシル官能性ポリエステル(A)は、好ましくは15〜100mgKOH/g、一層好ましくは20〜70mgKOH/gのヒドロキシル価を有する。この態様では、ヒドロキシル官能性無定形ポリエステル(B)は、好ましくは、15〜80mgKOH/gのヒドロキシル価を有する。
【0020】
本発明の第三の態様によれば、本組成物は、上で定義したような、少なくとも一種のカルボキシル官能性ポリエステル〔(A)又は(B)〕及び少なくとも一種のヒドロキシル官能性ポリエステル〔(B)又は(A)〕の混合物を含む。
【0021】
無定形ポリエステルとは、結晶化を全く示さないか、又は微量しか示さないポリエステルで、ASTM D3418に従い、20℃/分の加熱勾配を用いた示差走査熱量測定により測定して融点を示さないポリエステルを指定することを意味する。
【0022】
本発明による結合剤組成物は、ポリエステル(A)及び(B)の外に、好ましくは5重量部以下、一層好ましくは3重量部以下の、ポリエステル(A)及び(B)とは異なったポリエステルを含む。最も好ましくは、結合剤は、ポリエステル(A)及び(B)以外のポリエステルを含まない。結合剤組成物は、結合剤中に存在するポリエステルの全重量について、好ましくは75〜97重量部、一層好ましくは80〜90重量部の一種以上のポリエステル(A)、及び好ましくは3〜25重量部、一層好ましくは5〜20重量部の一種以上のポリエステル(B)を含む。ポリエステル混合物は、どのような既知の仕方でも無定形ポリエステル(A)と(B)とを混合することによって得ることができる。ポリエステル混合物は、慣用的円筒状二重壁反応器を用いて溶融物として混合することにより得るのが好ましい。
【0023】
本発明による組成物で用いられるポリエステル(A)は、イソフタル酸の外に、0〜50モル%の少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリ酸カルボン酸を含むことができる。これらの他のポリカルボン酸は、ジカルボン酸又はそれらの無水物から一般に選択され、好ましくはフマール酸、マレイン酸、o−フタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、及びそれらの対応する無水物、及びそれらの混合物から選択される。しかし、ポリエステル(A)は、少なくとも三つのカルボン酸基を有するポリ酸又はそれらの無水物、例えば、トリメリト酸、ピロメリト酸、又それらの無水物、又はそれらの混合物を、酸の全量に対し15モル%まで配合した分岐鎖ポリエステルにすることができる。
【0024】
本発明による組成物で用いられるポリエステル(A)は、イソフタル酸を、一層好ましくは85〜100モル%、最も好ましくは95〜100モル%含む。
【0025】
ポリエステル(A)は、ネオペンチルグリコールの外に、一種以上の他の脂肪族又は脂環式ポリオールを含むことができる。一般に、これらのポリオールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−プチル−1,3−プロパンジオール、水素化ビスフェノールA、ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバレート、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、及びそれらの混合物のようなジオールである。しかし、ポリエステル(A)は、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、それらの単独又は混合物を、アルコールの全量に対し15モル%まで配合した分岐鎖ポリエステルにすることもできる。
【0026】
本発明による組成物で用いられるポステル(A)は、85〜100モル%のネオペンチルグリコール、及び0〜15モル%の三及び/又は四官能性ポリオールを含むのが一層好ましい。
【0027】
本発明で用いられる無定形ポリエステル(A)は、 好ましくは、
● ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定して、1600〜8500の数平均分子量、及び/又は
● ASTM D3418に従って示差走査熱量測定により、20℃/分の加熱勾配で測定して、40〜80℃のガラス転移温度(Tg)、及び/又は
● ASTM D4287−88に従って、200℃で測定して、5〜15000mPa.sのブルックフィールド〔コーン(cone)/プレート(plate)〕粘度、
を有する。
【0028】
本発明で用いられる無定形ポリエステル(B)に含まれる4〜14個の炭素原子を有する直鎖飽和脂肪族二酸は、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、及びそれらの無水物、それらの単独又は混合物から選択されるのが好ましい。無定形ポリエステル(B)に含まれる直鎖飽和脂肪族二酸は、アジピン酸であるのが最も好ましい。
【0029】
無定形ポリエステル(B)に任意選択的に含まれる他のホリカルボン酸は、一般に、ジカルボン酸又はその無水物から選択され、一層好ましくは、フマール酸、マレイン酸、フタル酸無水物、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、それらの単独又は混合物から選択される。しかし、ポリエステル(B)は、少なくとも三つのカルボン酸基を有するポリ酸又はそれらの無水物、例えば、トリメリト酸、ピロメリト酸、又それらの無水物、又はそれらの混合物を、酸の全量に対し15モル%まで配合した分岐鎖ポリエステルにすることができる。
【0030】
本発明による組成物で用いられるポステル(B)は、4〜14個の炭素原子を有する直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸を、一層好ましくは85〜100モル%、最も好ましくは95〜100モル%含む。
【0031】
本発明で用いられる無定形ポリエステル(B)の分岐鎖脂肪族ジオールは、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバレート、及びそれらの混合物から選択されるのが好ましい。無定形ポリエステル(B)の分岐鎖脂肪族ポリオールは、ネオペンチルグリコールであるのが最も好ましい。
【0032】
無定形ポリエステル(B)に任意選択的に含まれる他の脂肪族又は脂環式ポリオールは、一般にジオールであり、好ましくは、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、及びそれらの混合物から選択される。しかし、ポリエステル(B)は、三官能性又は四官能性ポリオール、例えば、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、及びそれらの混合物を、アルコールの全量に対し15モル%まで配合した分岐鎖ポリエステルにすることもできる。
【0033】
本発明による組成物で用いられるポステル(B)は、85〜100モル%の分岐鎖脂肪族ジオール及び0〜15モル%の三及び/又は四官能性ポリオールを含むのが一層好ましい。
【0034】
本発明で用いられる無定形ポリエステル(B)は、好ましくは、
● ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定して、1400〜11500の数平均分子量、及び/又は
● ASTM D3418に従って示差走査熱量測定により、20℃/分の加熱勾配で測定して、−100〜25℃、一層好ましくは−100〜0℃のガラス転移温度(Tg)、及び/又は
● ASTM D4287−88に従って、100℃で測定して、5〜20000mPa.sのブルックフィールド〔コーン/プレート〕粘度、
を有する。
【0035】
無定形ポリエステル(B)は、25℃で液体であるのが好ましい。
【0036】
本発明による無定形ポリエステル(A)及び(B)は、例えば、当分野でよく知られた慣用的エステル化技術を用いて、どのような方法でも製造することができる。酸化ジブチル錫、ジラウリン酸ジブチル錫、n−ブチル錫トリオクトエート、チタン酸塩、例えば、チタン酸テトラ−n−ブチル、及びチタンに基づくキレート、硫酸、又はスルホン酸のような標準エステル化触媒を、反応物の0.05〜1.50重量%の量で用いることができ、任意選択的に色安定化剤、例えば、イルガノックス(IRGANOX)(商標名)1010のようなフェノール系酸化防止剤、又はホスホナイト型及び亜燐酸型安定化剤、例えば、亜燐酸トリブチルを反応物の0〜1重量%の量で添加することができる。
【0037】
ポリエステル化は、一般に、最初は常圧で、次に必要ならば各処理工程が終わった時に減圧にして、130℃から約190〜250℃まで徐々に上昇させた温度で、これらの操作条件を維持しながら、希望のヒドロキシル及び/又は酸価を有するポリエステルが得られるまで遂行する。エステル化度は、反応過程中に形成された水の量及び得られたポリエステルの性質、例えば、ヒドロキシル化、酸価、分子量、又は粘度を決定することにより得られる。
【0038】
ポリエステル化が完了した時、任意選択的に架橋触媒をポリエステルに、それが未だ溶融状態になっている間に添加することができる。そのような触媒の例は、特にカルボキシル化ポリエステルが用いられた場合に有用なものには、アミン(例えば、2−フェニルイミダゾリン)、ホスフィン(例えば、トリフェニルホスフィン)、アンモニウム塩(例えば、臭化テトラブチルアンモニウム、又は塩化テトラプロピルアンモニウム)、ホスホニウム塩(例えば、臭化エチルトリフェニルホスホニウム、又は塩化テトラプロピルホスホニウム)が含まれる。ヒドロキシル官能性ポリエステルが用いられた場合、有機錫化合物のような架橋触媒、例えば、ジラウリン酸ジブチル錫、ジマレイン酸ジブチル錫、酸化ジブチル錫、第一錫オクトエート、1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタノキサンをポリエステルに添加することができる。これらの架橋触媒は、ポリエステル(A)及び(B)の全重量について、0〜5%の量で用いるのが好ましい。
【0039】
本発明による結合剤組成物は、更に、ポリエステル(A)及び(B)の官能基と反応することができる官能基を有する少なくとも一種の架橋剤を含むのが好ましい。組成物にカルボキシル官能性ポリエステルが用いられた場合、架橋剤は一般にポリエポキシ化合物及び/又はβ−ヒドロキシアルキルアミド含有化合物である。この場合、架橋剤は、次のものから選択されるのが好ましい:
【0040】
● 室温で固体であり、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、ジグリシジルテレフタレート、トリグリシジルトリメリテート、又はそれらの混合物のような1分子当たり少なくとも二つのエポキシ基を含むポリエポキシ化合物。そのようなポリエポキシ化合物は、例えば、アラルダイト(ARALDITE)(商標名)PT810又はアラルダイトPT910という名で市販されている。
● グリシジル基を含むアクリル共重合体、特にグリシジルメタクリレート及び/又はグリシジルアクリレート及び(メタ)アクリル単量体、及び任意選択的にグリシジル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル単量体とは異なったエチレン系モノ不飽和単量体の重合により得られたもの。この種のアクリル共重合体の例は、シンタクリル(SYNTHACRNL)(商標名)710及びGMA300〔エストロン・ケミカル社(Estron Chemical Inc.)により市販されている〕であり、WO92/01748で言及されている。
● 少なくとも一つの、好ましくは二つのビス(β−ヒドロキシアルキル)アミド基を含むβ−ヒドロキシアルキルアミド、例えば、US4,727,111、US4,788,255、US4,076,917、EP−A−322834、及びEP−A−473380で言及されているもの、及び
● それらの混合物。
【0041】
この架橋剤は、エポキシ及び/又はβ−ヒドロキシアルキル基の1当量当たり、無定形ポリエステル(A)及び(B)中に存在するカルボキシル基の好ましくは0.25〜1.40当量、一層好ましくは0.60〜1.05当量の量で用いられる。組成物中にヒドロキシル官能性ポリエステルが用いられた場合、架橋剤は、一般に、当分野でよく知られているブロック状イソシアネート架橋剤である。ブロック状ポリイソシアネート架橋用化合物の例には、ヒュールズ(HUELS)(商標名)B1530、ルコ(RUCO)(商標名)NI−2、及びカルギル(CARGILL)(商標名)2400として市販されているε−カプロラクタムでブロックされたイソホロンジイソシアネート、カルギル24500として市販されているε−カプロラクタムでブロックされたトルエン−2,4−ジイソシアネート、及びフェノールブロックヘキサメチレンジイソシアネートに基づくものが含まれる。用いることができる別の種類のブロック状ポリイソシアネート化合物は、イソホロンジイソシアネートとジオールとの1−ジアゼチジン−2,4−ジオン二量体の付加物であり、この場合、付加物の形成でNCO対OH基の比は、約1:0.5〜1:0.9であり、ジアゼチジンジオン対ジオールのモル比は2:1〜6:5であり、付加物中の遊離イソシアネート基の含有量は、8重量%以下であり、付加物は約500〜4000の分子量を有し、約70〜130℃の融点を有する。そのような付加物は、ヒュールズBF1540の商標名で市販されている。
【0042】
上に記載したブロック状イソシアネート架橋剤は、イソシアネート1当量当たり、無定形ポリエステル中に存在するヒドロキシル基の好ましくは0.3〜1.4当量、一層好ましくは0.7〜1.2当量の量で用いられる。
【0043】
本発明による組成物で、カルボキシル官能性ポリエステルとヒドロキシル官能性ポリエステルとの混合物が用いられた場合、上に記載した架橋剤の二種類以上を用いるのが好ましい。
【0044】
本発明による結合剤組成物は、一般に、45.5〜99.5重量部のポリエステル(A)及び(B)、0.5〜54.5重量部の上に定義した架橋剤、及び任意選択的に0〜5重量部の架橋触媒を含む。
【0045】
一層好ましくは、結合剤組成物は、63〜97重量部のポリエステル(A)及び(B)、3〜37重量部の架橋剤、及び0〜3重量部の架橋触媒を含む。
【0046】
本発明は、更に、上に記載した結合剤組成物の成分の外に、一種以上の通常の添加剤、例えば、流動調節剤〔例えば、レジフロー(RESIFLOW)(商標名)PV5、モダフロー(MODAFLOW)(商標名)、アクロナール(ACRONAL)(商標名)4F〕、ガス抜き剤(例えば、ベンゾイン)、UV光吸収剤〔例えば、チヌビン(TINUVIN)(商標名)900〕、安定化剤(例えば、チヌビン144のような立体障害アミン光安定化剤)、ホスホナイト又は亜燐酸塩型の安定化剤及び/又は他の安定化剤(チヌビン312及び1130のようなもの)、及び/又は酸化防止剤〔例えば、イルガノックス(IRGANOX)(商標名)1010〕を含む組成物に関する。これらの添加剤の全量は、通常組成物の10重量%を越えず、好ましくは5重量%を越えない。
【0047】
本発明の組成物は、透明ラッカー又はペイントのようなものとして用いることができ、又はもし望むならば、それらの組成物は、粉末ペイント及びラッカーを製造するのに慣用的に用いられている更に別の成分を添加することにより、透明粉末ラッカー又はペイントを製造するのに用いることができる。着色系のみならず透明ラッカーの両方を製造することができる、本発明の組成物には、種々の染料及び顔料を用いることができる。有用な顔料及び染料の例は、金属酸化物、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等、金属水酸化物、金属粉末、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、珪酸塩、例えば、珪酸アンモニウム、カーボンブラック、タルク、陶土、重晶石、紺青、レッド・ブルー(lead blue)、有機レッド、有機マルーン(maroon)等である。
【0048】
本発明による組成物で用いられる染料及び顔料の量は、一般に60重量%を越えず、好ましくは40重量%を越えない。
【0049】
好ましい態様によれば、本発明の組成物は、35〜95重量%の無定形ポリエステル(A)、1〜25重量%の無定形ポリエステル(B)、2〜30重量%の架橋剤、0〜5重量%の架橋触媒、0〜5重量%の通常の添加剤、及び0〜40重量%の染料及び/又は顔料を含む。
【0050】
本発明の組成物は、一般に熱硬化性粉末組成物のような粉末の形態で存在する。本発明による組成物の成分は、混合機又は混和機(例えば、ドラム混合機)中で乾式混合することにより混合することができる。予め混合したものを、一般に、一軸押出し機、例えば、BUSS−Ko−Kneter、又は二軸押出し機、例えば、プリズム(PRISM)又はAPVで、70〜150℃の範囲の温度で均質にする。押出し物を、冷却後、10〜150μmの範囲の粒径を有する粉末に通常粉砕する。
【0051】
本発明は、更に、上に記載したような少なくとも一種のポリエステル(A)及び少なくとも一種のポリエステル(B)を含む少なくとも一種の粉末組成物(i)と、前記ポリエステル(A)とは異なった少なくとも一種のポリエステル(A′)を含む少なくとも一種の粉末組成物(ii)との混合物で、酸の全量について、50〜100モル%のイソフタル酸、及び任意選択的に0〜50モル%の、少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、アルコールの全量について、70〜100モル%のネオペンチルグリコール、及び任意選択的に0〜30モル%の少なくとも一種の他の脂肪族及び/又は脂環式ポリオールを含み、かつ、前記ポリエステル(A′)は1100〜11500の数平均分子量を有する、混合物を含む組成物に関する。粉末組成物(ii)は、好ましくは、更に、前記ポリエステル(B)とは同じか又は異なっていてもよい少なくとも一種の無定形ポリエステル(B′)を含み、酸の全量について、75〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、75〜100モル%の少なくとも一種の分岐鎖脂肪族ジオール、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族又は脂環式ポリオールを含み、かつ、前記無定形ポリエステル(B)は1100〜17000の数平均分子量を有する。粉末組成物(i)及び(ii)は、一般に、35〜95重量%の夫々無定形ポリエステル(A)及び(A′)、1〜25重量%の夫々無定形ポリエステル(B)及び(B′)、2〜30重量%の架橋剤、0〜5重量%の架橋触媒、0〜5重量%の通常の添加剤、及び0〜40重量%の染料及び/又は顔料を含む。
【0052】
粉末組成物は、粉末組成物(i)及び(ii)の外に、本発明による又はよらない一種以上の付加的粉末組成物を含むことができる。それら粉末組成物を、静電コロナ(CORONA)銃又はトリボ(TRIBO)銃のような粉末銃を用いて基体上に付着させることができる。一方、流動床法のようなよく知られた粉末付着法を用いることもできる。付着後、粉末を通常100〜300℃の温度に約5秒〜60分の時間加熱し、粒子を一緒に流動融着させ、滑らかで均一な、凹みのない連続的被覆を基体表面上に形成する。
【0053】
従って、本発明の別の目的は、本発明による熱硬化性粉末組成物を、静電気又は摩擦帯電銃を用いた噴霧付着又は流動床付着により物品に適用する、物品を被覆するための方法にあり、この場合そのようにして得られた被覆を10〜300℃の温度に5秒〜60分の時間硬化操作にかける。被覆は、金属、紙、ボール紙、木材、加工木材、ベニア板、繊維板、織物、プラスチック、等のような種々の基体に適用することができる。金属及び木材物品の場合に良好な結果が得られている。
【0054】
本発明による粉末組成物は、好ましくは伝導性支持体と接触するように配置した、中間密度の繊維板(MDF)又は他の加工木材に静電付着により80〜250μmの層厚さに堆積することができる。続いて、一般にその粉末を輻射熱により、好ましくは短波長赤外線(SIR)又は中間波長赤外線源(MIR)、又はそれら両方の組合せからの輻射熱により100〜200℃の温度で10秒〜60分の時間溶融硬化する。粉末組成物を適用する前に、基体に50〜150μmの層厚さに下地を適用し、次にそれを硬化し、紙やすりで磨くことができる。この下地は、上に記載したような組成物から得ることもでき、又はそれは、標準屋外樹脂又はハイブリッド樹脂のような他の種類の樹脂を含む組成物にしてもよい。
【0055】
本発明は、被覆処理により部分的に又は全体的に被覆した物品にも関する。
【0056】
本発明を次の実施例により例示するが、それらに限定されるものではない。
【0057】
ポリエステルPE1:イソフタル酸に富むポリエステル(A)の合成
423.82部のネオペンチルグリコールの混合物を、撹拌器、水冷凝縮器に接続した蒸留カラム、窒素のための入口、及び温度調節器に接続した温度計を具えた慣用的四口丸底フラスコ中に入れる。フラスコ内容物を、窒素中で撹拌しながら約130℃の温度に加熱し、その点で720.34部のイソフタル酸及び2.5部のn−トリブチル錫トリオクトエートを添加する。加熱を続け、徐々に230℃の温度へ上昇させる。180℃から、反応器から水が蒸留し始める。大気圧での蒸留が止まった時、50mmHgの真空を徐々に適用する。230℃及び50mmHgで3時間後、次の特性が得られる:AN=32mgKOH/g;OHN=2mgKOH/g;ブルックフィールド粘度200℃(コーン/プレート)=3000mPa.s;Tg(DSC、20°/分)=57℃。
【0058】
ポリエステルPE2:分岐鎖脂肪族無定形ポリエステル(B)の合成
PE1で記載した手順に従い、455.98部のネオペンチルグリコール、689.97部のアジピン酸、14.80部のトリメチロールプロパン、1.99部のn−ブチル錫トリオクトエート、及び1.00部の亜燐酸トリブチルを入れ、次の特性を有するポリエステルが得られるまで反応させる:AN=21mgKOH/g;OHN=2mgKOH/g;Tg(DSC、20°/分)=−45℃。
【0059】
ポリエステルPE3〜9、12及び13:無定形ポリエステル(A)及び(B)の合成
上に記載したPE1及び2の手順に従い、表1に示すような組成を有するポリエステルPE3〜9、12及び13を製造した。
【0060】
【表1】


iPA:フタル酸;AdA:アジピン酸;DDA:ドデカン二酸;NPG:ネオペンチルグリコール;HPN:ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート;BEPD:2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール;TMP:トリメチロールプロパン;ファスキャット(Fascat)(商標名)4102:n−ブチル錫トリオクトエート触媒
【0061】
PE10:
459.4部の1,6−ヘキサンジオールの混合物を、撹拌器、水冷凝縮器に接続した蒸留カラム、窒素のための入口、及び温度調節器に接続した温度計を具えた慣用的四口丸底フラスコ中に入れる。150℃の温度で、579.5部のテレフタル酸及び2.5部のn−ブチル錫トリオクトエートを添加する。水の理論的量の約95%が蒸留し、次の特性を有する透明ヒドロキシル官能性プレポリマーが得られるまで大気圧で235℃で反応を継続する:AN=5mgKOH/g;OHN=53mgKOH/g。
【0062】
200℃に設定した第一工程プレポリマーに、101.3部のアジピン酸を添加する。そこで、混合物を徐々に235℃に加熱する。235℃で2時間の後、10部の亜燐酸トリブチルを添加し、50mmHgの真空を徐々に適用する。230℃及び50mmHgで3時間後、次の特性が得られる:AN=32mgKOH/g;OHN=0.5mgKOH/g;ブルックフィールド粘度200℃=1500mPa.s;Tg(DSC、20°/分)=28℃;Tm(DSC、20°/分)=131℃。
【0063】
PE11:
PE1で記載した手順に従い、406.03部のネオペンチルグリコール、652.27部のイソフタル酸、69.00部のアジピン酸、21.52部のトリメチロールプロパン、1.99部のn−ブチル錫トリオクトエート、及び1.00部の亜燐酸トリブチルを入れ、次の特性を有するポリエステルが得られるまで反応させる:AN=31mgKOH/g;OHN=2mgKOH/g;ブルックフィールド粘度200℃=6500mPa.s;Tg(DSC、20°/分)=59℃。
【0064】
グリシジル基含有アクリル共重合体GA1の合成:
撹拌器、水冷凝縮器、窒素のための入口、及び温度調節器に接続した熱電対を具えた二重壁反応器に388.48重量部の酢酸n−ブチルを入れる。その酢酸n−ブチルを、穏やかな窒素流通条件で92℃に加熱する。92℃の温度で、別の97.12部の酢酸n−ブチルに溶解した12.29部のVAZO67〔2,2′−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)〕の混合物を、蠕動ポンプで215分かけてフラスコへ導入する。これを開始してから5分後に、別のポンプを始動させ、72.84部のスチレン、135.97部のメタクリル酸グリシジル、150.98部のアクリル酸イソボルニル、125.82部のメタクリル酸メチル、16.51部のn−ドデシルメルカプタンからなる混合物を180分かけて供給する。合成は315分かかる。酢酸n−ブチルが蒸発した後、次の特性を有するアクリル共重合体が得られる:Mn(GPC;ポリスチレン較正):5240;Mw(GPC;ポリスチレン較正):9500;分散度:1.80;エポキシ当量(g/当量):540;Tg(TMA):71/86;ブルックフィールド粘度175℃(コーン5)、200rpm:9500mPa.s。
【0065】
グリシジル基含有アクリル共重合体GA2の製造:
撹拌器、水冷凝縮器、窒素のための入口、及び温度調節器に接続した熱電対を具えた5リットルの二重壁フラスコに80部の酢酸n−ブチルを入れる。次にフラスコ内容物を、窒素を溶媒を通してパージしながら、連続的に加熱撹拌する。125℃の温度で20部の酢酸n−ブチル中に入れた3.0部のペルオキシ安息香酸t−ブチルの混合物を、蠕動ポンプで215分かけてフラスコへ導入する。これを開始してから5分後に、別のポンプを始動させ、52部のスチレン、18部のメタクリル酸グリシジル、及び30部のメタクリル酸メチルの混合物を180分かけて供給する。合成は315分かかる。酢酸n−ブチルが蒸発した後、次の特性を有するアクリル共重合体が得られる:ブルックフィールド粘度200℃:15900mPa.s;Mn:6217;Mw:15657;エポキシ当量:800g/当量;Tg(DSC、20℃/分):81℃。
【0066】
実施例1〜17及び21〜26及び比較例18及び19:
無定形ポリエステル(A)及び(B)の混合物:イソフタル酸に富むポリエステル、PE1、PE3、PE4、PE12、及びPE13の夫々に、未だ溶融段階にある間に、慣用的丸底フラスコを用いて窒素雰囲気中撹拌しながら、表2に具体的に示した明確に規定した量のポリエステル(B)、PE2、PE5、PE16、PE7、PE8、及びPE9を添加した。このようにして得られたポリエステル混合物を、次に表2に具体的に示した架橋剤及び架橋触媒(臭化エチルトリフェニルホスホニウム)と混合し(結合剤を形成し)、下で言及する配合の一つに従う粉末を配合した。
【0067】
【表2】

【0068】
次のようにして粉末を製造した。先ず種々の成分を乾式混合し、次にプリズム(PRISM)16mm L/D 15/1二軸押出し機を用い、85℃の押出し温度で溶融状態で均質化した。次にその均質化した混合物を冷却し、アルパイン(Alpine)で粉砕した。次に、その粉末を篩にかけ、10〜110μmの粒径を得た。このようにして得られた粉末を、GEMA−ボルスタテック(Volstatic)PCG1噴霧銃を用いて静電付着により0.8mmの厚さを有する冷間圧延鋼上に堆積した。50〜80μmのフイルム厚さで、パネルを通気炉へ移し、表3に示した或る時間及び或る温度で硬化した。
【0069】
本発明で例示した種々の無定形ポリエステル(A)及び(B)の組合せから得られた最終的被覆についてのペイント特性を、表3に転載する。同じ表に、比較例として無定形ポリエステル(B)を含まない、イソフタル酸に富むカルボキシル官能性化無定形ポリエステルから誘導された粉末のペイント性能を転載する(比較例18及び比較例19)。
【0070】
これらの表中:
欄I及びVIII:配合物の指定番号を示す。
欄II:配合物A又はBの種類を示す。
欄III:結合剤中に存在するイソフタル酸に富むカルボキシル官能性無定形ポリエステル(A)の種類及び量を示す。
欄IV:結合剤中に存在する無定形脂肪族ポリエステル(B)の種類及び量を示す(比較例18及び19を除く)。
欄V:架橋剤(硬化剤)の種類を示す:ここで
PT810=アラルダイト(ARALDITE)(商標名)810=イソシアヌル酸トリグリシジル。
XL552=プリミド(PRIMID)(商標名)XL552=N,N,N′,N′−テトラキス−(2−ヒドロキシエチル)−アジパミド。
シンタクリル(Synthacryl)=シンタクリル(商標名)710=グリシジル基含有アクリル共重合体。
GA1及びGA2=上に記載したようなグリシジル基含有アクリル共重合体。 欄VI:結合剤中の架橋剤の重量%を示す。
欄VII:結合剤中の架橋触媒の重量%を示す。
欄IX:硬化温度(℃)/硬化時間(分)を示す。
欄X:ASTM D523に従って測定した60°光沢を示す。
欄XI:ASTM D2794に従って測定した直接/反転衝撃強度を示す。被覆に亀裂を与えない最高衝撃を、kg.cmで記録する。
欄XII:ISO 1520に従って測定したエリクセン(Erichsen)低速凹凸付けを示す。被覆に亀裂を生じない最高侵入をmm単位で記録する。
【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
表3から明らかに分かるように、無定形イソフタル酸系ポリエステル(A)に無定形ポリエステル(B)を添加すると、低速変形が考慮される場合のみならず、直接又は反転衝撃のような高速変形が適用される場合に、適用して硬化すると、改良された可撓性を有する被覆になることが分かる粉末を与える結果になる。比較例19は、例3の物理的混合物として同様な単量体組成を有する一つの樹脂(PE11)から誘導された粉末は、全く可撓性を持たないことが判明することを明確に示している。
【0075】
その外、イソフタル層に富む無定形ポリエステル(A)に無定形ポリエステル(B)を添加すると、良好な耐候性を得ることができることが観察されている。表4では、ASTM D523に従って400時間毎に記録された相対的60°光沢値が、実施例14及び15で得られた、Q−UV強制耐候試験にかけられた被覆について報告されている。この表には、最大値の50%までの光沢減少だけが言及されている。耐候性の測定は、非常に厳しい環境で行われ、即ち、ASTM G53−88(非金属材料を曝すための、蛍光UV/集光型の光及び水への露出装置を操作するための標準的実施法)に従うQ−UV強制耐候性試験機〔Q−パネル社(Q-Panel Co.)〕で行う。この表から、被覆したパネルは、蛍光UV−Aランプ(340nm、I=0.77W/m2/nm)によりシミュレートした太陽光による損傷効果と同様、集光の間欠的効果に(50℃で4時間)かけた。Q−UVで用いたパネルは、クロムメッキアルミニウム板である。
【0076】
同じ表に、比較例20(実施例14の組成物であるが、無定形ポリエステル(B)PE2が除外された組成物に基づく)及び比較例18(実施例14と同様であるが、無定形ポリエステル(B)が半結晶質ポリエステルPE10により置き換えられたもの)の粉末から得られた被覆についての耐候性試験結果が与えられており、全て配合物Bの場合のように褐色ペイント配合に従って配合された。表3から、平凡な可撓性が得られ(比較例18)、更に表4から明らかなように、イソフタル酸に富むポリエステルPE1に半結晶質ポリエステルPE10を20部添加すると、その耐候性能に非常に悪い影響を与えることを知ることができる。
【0077】
低光沢熱硬化性粉末被覆組成物は、屡々褐色化に対する抵抗性を持たない。即ち、低光沢の物品は、損傷、引っ掻き傷又は擦り傷を与えた後に高光沢に変化するであろう。驚いたことに、本発明に従う組成物から得られた低光沢被覆は、同様な結合剤から誘導されているが、無定形ポリエステル(B)を含まない結合剤から誘導された被覆とは対照的に、褐色化に対する優れた抵抗性を持つことが判明したことも観察されている。
【0078】
【表6】

【0079】
表3及び4から明らかに分かるように、結合剤として本発明によるカルボキシル官能性ポリエステル(A)及び(B)の組合せを含む本発明による粉末組成物は、適用して硬化すると、独特の性質の組合せ、例えば、良好な可撓性と顕著な耐候性を持つことが立証される。
【0080】
実施例27〜29
実施例21〜26で得られた粉末を用いて、次に強力な混合により1:1重量比の乾式混合を行なった。200℃で18分の硬化サイクル後、得られた粉末ペイントの性能を、表5に転載する。
【0081】
【表7】

【0082】
表5から明らかに分かるように、夫々本発明による二種類の粉末の乾式混合物により、種々の光沢;組成物中の夫々の粉末組成物の差に依存して光沢が減少した可撓性被覆を得ることができる。
【0083】
実施例30
実施例4の粉末組成物を、GEMA−ボルスタテックPCG1噴霧銃を用いて、銅支持体と接触して配置した9mm厚のMDFパネル上に150μmの層厚さで適用した。そのパネルを、SIR炉(36kW、約100kW/m2の電力出力の金反射板を有する空冷短波二重管エミッターを具えている)中で硬化し、150℃で30秒加熱し、次にMIR炉(9kW、約33kW/m2電力出力の金反射板を有する空冷中間波高速応答炭素アークエミッターを具えている)へ移し、その中で150℃で270秒間維持した。得られた被覆は、良い外観を持ち、100回を越える往復MEK摩擦に対する抵抗性を持っていた。
【0084】
例31
例30を繰り返した。但し、最初に、716gの、30mgKOH/gの酸価を有する、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、及びトリメチロールプロパンに基づくカルボキシル化ポリエステル、54gのアラルダイトPT810、150gのクロノス(Kronos)2160、50gのブラン・フィクセ・ミクロ(Blanc Fixe Micro)、30gのステアリン酸亜鉛、3gのベンゾイン、及び10gのモダフロー(Modaflow)6000を含む下地組成物で基体を被覆した。この下地は100μmの被覆厚さで適用し、MIR炉中で140℃で120秒間硬化した。次にその下地を3MからのP240サンドペーパーを用いて滑らかな表面が得られるまで磨いた。次に実施例4の組成物を、そのサンドペーパーをかけた下地の上に80μmの被覆厚さで適用し、SIR炉中で150℃で30秒間硬化し、次にMIR炉中で150℃で270秒間硬化した。得られた被覆は滑らかで良い外観をもち、100回を越える往復MEK摩擦に対する抵抗性を持っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
● ポリエステルの全重量に基づいて計算して、99〜55重量部の少なくとも一種の無定形ポリエステル(A)であって、酸の全重量について、50〜100モル%のイソフタル酸、及び任意選択的に0〜50モル%の、少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、70〜100モル%のネオペンチルグリコール、及び任意選択的に0〜30モル%の少なくとも一種の他の脂肪族及び/又は脂環式ポリオールを含み、かつ、1100〜11500の数平均分子量を有する無定形ポリエステル(A)、及び
● ポリエステルの全重量に基づいて計算して、1〜45重量部の少なくとも一種の無定形ポリエステル(B)であって、酸の全重量について、75〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式、及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、75〜100モル%の少なくとも一種の分岐鎖脂肪族ジオール、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族又は脂環式ポリオールを含み、かつ、1100〜17000の数平均分子量を有する無定形ポリエステル(B)、
を含む結合剤組成物。
【請求項2】
ポリエステル(A)が、10〜100mgKOH/gの酸価を有するカルボキシル官能性ポリエステルであり、ポリエステル(B)が10〜100mgKOH/gの酸価を有するカルボキシル官能性ポリエステルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリエステル(A)が、10〜100mgKOH/gのヒドロキシル価を有するヒドロキシル官能性ポリエステルであり、ポリエステル(B)が10〜100mgKOH/gのヒドロキシル価を有するヒドロキシル官能性ポリエステルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ポリエステル(A)が、酸の全量について、85〜100モル%のイソフタル酸、及び/又はアルコールの全量について、85〜100モル%のネオペンチルグリコール及び0〜15モル%の三及び/又は四官能性ポリオールを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
無定形ポリエステル(B)に含まれる、4〜14個の炭素原子を有する直鎖飽和脂肪族二酸が、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸及びそれらの無水物、又はそれらの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
無定形ポリエステル(B)中に存在する分岐鎖脂肪族ジオールが、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバレート及びそれらの混合物から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリエステル(B)が、酸の全重量について、85〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、及び/アルコールの全量について、85〜100モル%の分岐鎖脂肪族ジオール、及び0〜15モル%の三及び/又は四官能ポリオールを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ポリエステル(B)が、示差走査熱量測定により、ASTM D3418に従い、20℃/分の加熱勾配で測定して、−100〜25℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
結合剤が、ポリエステル(A)及び(B)の官能基と反応することができる官能基を有する一種以上の架橋剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
結合剤が、1分子当たり少なくとも二つのエポキシ基を含むポリエポキシ化合物、グリシジル基含有アクリル共重合体、β−ヒドロキシアルキルアミド又はそれらの組合せから選択される一種以上の架橋剤を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
架橋剤が、エポキシ及び/又はβ−ヒドロキシアルキル基の1当量当たり、無定形ポリエステル(A)及び無定形ポリエステル(B)中に存在するカルボキシル基0.25〜1.4当量の量で用いられる、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の無定形ポリエステル(A)を35〜95重量%、請求項1に記載の無定形ポリエステル(B)を1〜25重量%、前記両無定形ポリエステルの官能基と反応性である官能基を有する架橋剤を2〜30重量%、架橋触媒を0〜5重量%、通常の添加剤を0〜5重量%、染料及び/又は顔料を0〜40重量%含む組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の、少なくとも一種のポリエステル(A)及び少なくとも一種のポリエステル(B)を含む少なくとも一種の粉末組成物(i)と、前記ポリエステル(A)とは異なった少なくとも一種のポリエステル(A′)を含む少なくとも一種の粉末組成物(ii)との混合物であって、酸の全量について、50〜100モル%のイソフタル酸、及び任意選択的に0〜50モル%の、少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、70〜100モル%のネオペンチルグリコール、及び任意選択的に0〜30モル%の少なくとも一種の他の脂肪族及び/又は脂環式ポリオールを含み、かつ、前記ポリエステル(A′)が1100〜11500の数平均分子量を有する混合物を含む組成物。
【請求項14】
粉末組成物(ii)が、ポリエステル(B)とは同じか又は異なっていてもよい少なくとも一種の無定形ポリエステル(B′)を更に含み、酸の全量について、75〜100モル%の、4〜14個の炭素原子を有する少なくとも一種の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族、脂環式及び/又は芳香族ポリカルボン酸、及びアルコールの全量について、75〜100モル%の少なくとも一種の分岐鎖脂肪族ジオール、及び任意選択的に0〜25モル%の少なくとも一種の他の脂肪族又は脂環式ポリオールを含み、かつ、前記無定形ポリエステル(B)が1100〜17000の数平均分子量を有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を、静電気又は摩擦帯電銃を用いた噴霧付着によるか、又は流動床付着により物品に適用し、このようにして得られた被覆を100〜300℃の温度で5秒〜60分の時間硬化操作にかける、物品を被覆するための方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法により部分的又は全体的に被覆された物品。

【公表番号】特表2008−542457(P2008−542457A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512731(P2008−512731)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004556
【国際公開番号】WO2006/125545
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505365965)サイテック サーフェース スペシャリティーズ、エス.エイ. (38)
【Fターム(参考)】