説明

熱硬化性組成物、硬化膜、及び表示素子

【課題】透明性、耐薬品性、及び耐熱性に優れ、クラックを生じず、かつ10〜200μmの厚みの硬化膜を得ることができる材料、及びそれを用いた硬化膜及び表示素子を提供する。
【解決手段】マレイミド構造とシラノール構造とを有する特定のシラノール化合物と、その他のシラノール化合物とのシラノール基の縮重合によって得られるシロキサンポリマー(A)と溶剤(B)とを含有する熱硬化性組成物を形成し、その塗膜の焼成によって硬化膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜等の硬化膜に用いることができる熱硬化性組成物、それによる硬化膜、及び該硬化膜を有する表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子等の素子の製造工程では、製造途中の表示素子の表面を、有機溶剤、酸、アルカリ溶液等の種々の薬品で処理したり、スパッタリングにより配線電極を成膜する際に局部的に高温に加熱することがある。そのため、各種の素子の表面の劣化、損傷、変質を防止する目的で表面保護膜を設ける場合がある。この保護膜には、上記のような製造工程での各種処理に耐えることができる諸特性が要求される。具体的には、耐熱性、耐溶剤性、耐酸性、耐アルカリ性等の耐薬品性、耐水性、ガラス等の下地基板への密着性、透明性、耐傷性、塗布性、平坦性、長期に亘って着色等の変質が起こらない耐光性等が要求される。このような特性を持つ硬化膜を形成するための材料として、シロキサン系材料が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
一方、カラーフィルター製造工程やTFT製造工程においても、透明性、耐熱性、耐薬品性等に優れた材料が求められている。近年、これらの製造工程において、200℃以上のプロセス温度が必要となり、より高い耐熱性を有する材料が求められてきた。
【0004】
また、年々、10μm以上の膜厚(厚膜)であっても、高い透過率をもつ材料が要求されてきている。厚膜可能な材料について検討されている(例えば、特許文献1参照)が、膜厚は数μm程度が限界であった。従来の材料では、さらなる厚膜化が困難になっている。
【0005】
さらに、膜厚を10μm以上にして、高温焼成すると、焼成時にクラックが発生し、透過率も下がることがあった。このため、透明性、耐熱性、厚膜の点において要求されている特性を満たす透明膜の形成が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−346025号公報
【特許文献2】特開2000−303023号公報
【特許文献3】特開2001−115026号公報
【特許文献4】特開2003−031569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐薬品性、及び耐熱性に優れ、クラックを生じず、かつ10〜200μmの厚みの硬化膜を得ることができる材料、及びそれを用いた硬化膜及び表示素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の問題点を克服すべく種々検討した結果、下記式(1)で表される化合物の一以上と下記式(2)で表される化合物の一以上とから得られるシロキサンポリマー(A)と溶剤(B)を含有する組成物が、上記の課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の構成を有する。
【0009】
[1] 式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との加水分解及び縮合反応によって得られるシロキサンポリマー(A)及び溶剤(B)を含有する熱硬化性組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表し、Yは炭素数1〜100の二価の有機基を表し、Xは炭素数2〜100の二価又は四価の有機基を表し、nは1又は2を表す。ただし、R1、R2、R3のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。
【0012】
【化2】

【0013】
式(2)中、R4、R5、R6、R7はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表す。ただし、R4、R5、R6、R7のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。
【0014】
[2] 式(1)の化合物が、モノアミン(a1)と酸無水物基を有する化合物(a2)とを反応させることで得られるイミド化合物である、[1]に記載の熱硬化性組成物。
【0015】
[3] モノアミン(a1)が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジメトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジエトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、及びm−アミノフェニルメチルジエトキシシランからなる群から選ばれる一以上である、[2]に記載の熱硬化性組成物。
【0016】
[4] 酸無水物基を有する化合物(a2)が、フタル酸無水物、3−メチルフタル酸無
水物、4−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、こはく酸無水物、グルタル酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、アリルナジック酸無水物、ブチルこはく酸無水物、n−オクチルこはく酸無水物、デシルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、テトラデシルこはく酸無水物、ヘキサデシルこはく酸無水物、オクタデシルこはく酸無水物、2−ブテン−1−イルこはく酸無水物、2−ヘキセン−1−イルこはく酸無水物、n−オクテニルこはく酸無水物、n−デセニルこはく酸無水物、2−ドデセン−1−イルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、ヘキサデセニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、p−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、p−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、トリメトキシシリルプロピルこはく酸無水物、トリエトキシシリルプロピルこはく酸無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2−[ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)]ヘキサフルオロプロパン二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、エタンテトラカルボン酸二無水物、及びブタンテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる一以上である、[2]又は[3]に記載の熱硬化性組成物。
【0017】
[5] 酸無水物基を有する化合物(a2)が、酸無水物基を一つ有する化合物である、[4]に記載の熱硬化性組成物。
【0018】
[6] 酸無水物基を有する化合物(a2)が、フタル酸無水物、こはく酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、及びアリルナジック酸無水物からなる群から選ばれる一以上である、[5]に記載の熱硬化性組成物。
【0019】
[7] 式(2)で表される化合物が、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、及びテトラエトキシシランからなる群から選ばれる一以上である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【0020】
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物の膜を200℃以上で熱硬化させてなる硬化膜。
【0021】
[9] 膜厚が10〜200μmである[8]に記載の硬化膜。
【0022】
[10] [8]又は[9]に記載の硬化膜を有する表示素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱硬化性組成物は、透明性、耐薬品性、耐熱性に優れた硬化膜を得ることができる。本発明の熱硬化性組成物から得られる硬化膜は、厚膜(膜厚が10〜200μm)とした場合でも、クラックを生じることがない。また本発明によれば、このような硬化膜、及びそれを有する表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1 本発明の熱硬化性組成物
本発明の熱硬化性組成物は、シロキサンポリマー(A)及び溶剤(B)を含有する。シロキサンポリマー(A)は単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。溶剤(B)も単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の熱硬化性組成物の25℃における粘度は、用いる塗布方法によって適宜選択されるが、スクリーン印刷機を用いて塗布する場合は500〜10万mPa・s、スピンコーターを用いて塗布する場合は5〜100mPa・s、スリットコーターを用いて塗布する場合は2〜100mPa・s、インクジェット印刷機を用いて塗布する場合は2〜30mPa・sであることが好ましい。ただし、インクジェット印刷機を用いる場合にインクジェットヘッドを加温するとより高い粘度の熱硬化性組成物を使用することが好ましく、例えば30〜120℃に加温した場合に適する粘度は3〜200mPa・sである。
【0026】
前記熱硬化性組成物の粘度は、例えば東機産業株式会社製のE型粘度計 TV−22によって測定することができる。また、前記熱硬化性組成物の粘度は、溶剤(B)の種類、シロキサンポリマー(A)の含有量、シロキサンポリマー(A)の分子量等によって調整することができる。
【0027】
本発明の熱硬化性組成物の表面張力は特に限定されないが、ピエゾ式インクジェットヘッドを搭載したインクジェット塗布装置を用いて塗布する場合には、25〜45mN/mであることが好ましい。
【0028】
前記熱硬化性組成物の表面張力は、例えば協和界面科学株式会社製 DM500を用い、25℃の雰囲気中でのペンダントドロップ式の測定方法によって測定することができる。また、前記熱硬化性組成物の表面張力は、溶剤(B)の種類や界面活性剤の添加等によって調整することができる。
【0029】
1−1 シロキサンポリマー(A)
シロキサンポリマー(A)は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とから得られる。式(1)で表される化合物は一種でも二種以上でもよい。また式(2)で表される化合物も一種でも二種以上でもよい。
【0030】
シロキサンポリマー(A)のモノマーにおける式(1)の化合物と式(2)の化合物の好ましい混合割合(重量比)は1:99〜90:10であり、透明性の観点からは1:99〜80:20であることが好ましく、耐クラック性及び基板密着性の観点からは5:95〜90:10であることが好ましく、透明性、耐クラック性及び基板密着性を全て満たす観点からは5:95〜80:20であることが好ましく、10:90〜60:40であることがより好ましい。
【0031】
シロキサンポリマー(A)の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準としたGPC分析で求めた重量平均分子量が1,000〜100,000の範囲であることが、得られる熱硬化性組成物から形成される硬化膜において、耐熱性及び耐溶剤性を高める観点から好ましい。さらに、前記重量平均分子量が1,500〜50,000の範囲であることが、シロキサンポリマー(A)の他成分との相溶性を向上させ、得られる熱硬化性組成物から形成される硬化膜において、膜の白化を抑制し、かつ膜の表面の荒れを抑制する観点からより好ましい。同様の理由により、重量平均分子量が2,000〜20,000の範囲であることが、さらに好ましい。
【0032】
なお、本発明において、重量平均分子量は、標準のポリスチレンには重量平均分子量が645〜132,900のポリスチレン(例えば、VARIAN社製のポリスチレンキャリブレーションキットPL2010−0102)、カラムにはPLgel MIXED−D(VARIAN社製)を用い、移動相としてTHFを使用してGPCで測定することができる。
【0033】
本発明の熱硬化性組成物におけるシロキサンポリマー(A)の含有量は、1回の塗布で硬化膜の膜厚を10μm以上にする観点から、20〜95重量%であることが好ましく、30〜90重量%であることがより好ましく、40〜80重量%であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のシロキサンポリマー(A)の合成方法は特に制限されないが、シロキサンポリマー(A)は、式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物とを加水分解及び縮合させることによって得ることができる。
【0035】
前記の加水分解には水と、酸あるいは塩基触媒を用いることができる。酸触媒としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ酸、ホウ酸、リン酸、及び陽イオン交換樹脂が挙げられ、また塩基触媒としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、及び陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0036】
前記の加水分解における反応温度は特に限定されないが、通常50〜150℃の範囲である。反応時間も特に限定されないが、通常1〜48時間の範囲である。また、当該反応は、加圧、減圧又は大気圧のいずれの圧力下でも行うことができる。反応後は、シロキサンポリマーを安定化させるために、留去により低分子量成分を除去することが好ましい。留去は減圧でも常圧でも可能で、常圧では留去温度は通常100〜200℃程度である。
【0037】
上記の反応に使用する溶剤は、前記シラン類及び生成するシロキサンポリマー(A)を溶解する溶剤であることが好ましい。前記溶剤は一種でも二種以上の混合溶剤であってもよい。また前記溶剤は、前記溶剤(B)であってもよい。当該溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、3−メトキシプロピオン酸メチル、及び3−エトキシプロピオン酸エチルが挙げられる。
【0038】
1−2 式(1)で表される化合物
シロキサンポリマー(A)のモノマーには、式(1)で表される化合物が用いられる。式(1)の化合物をモノマーに用いることにより、得られる硬化膜の耐クラック性及び基板への密着性を高くすることができる。
【0039】
【化3】

【0040】
式(1)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表し、Yは炭素数1〜100の二価の有機基を表し、Xは炭素数2〜100の二価又は四価の有機基を表し、nは1又は2を表す。
【0041】
1、R2、R3のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。R1〜R3のうちのアルコキシの数は、得られる硬化膜の耐薬品性の観点から2〜3であることが好ましい。
【0042】
Yにおける有機基としては、例えばアルキレン及びフェニレンが挙げられる。前記有機基は、得られる硬化膜の柔軟性と耐薬品性の観点から炭素数2〜20のアルキレンであることが好ましい。
【0043】
Xは、nが1のときに二価の有機基であり、nが2のときに四価の有機基である。二価のXとしては、例えば下記式の基が挙げられる。
【0044】
【化4】

【0045】
また四価のXとしては、例えば下記式の基が挙げられる。
【0046】
【化5】

【0047】
上記の式中、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル、又はフェニルを表し、Zは、単結合、任意の水素がハロゲン、CF3、或いはCH3で置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキレン、−O−、−S−、−SO2−、−CO−、−COO−、又は−CH2−COO−を表し、Yは炭素数1〜8のアルキレンを表し、Aは、任意の水素が炭素数1〜8のアルキル又はフェニルに置き換えられてよい下記構造のいずれかから誘導される2〜4価の基を表す。
【0048】
【化6】

【0049】
式(1)の化合物は、モノアミン(a1)と酸無水物基を有する化合物(a2)とを、酸無水物基とアミノ基との脱水縮合反応させることで得ることができる。このような反応は、例えば常圧下、70〜250℃、1〜20時間の条件で行うことができる。式(1)の化合物の合成において、モノアミン(a1)と酸無水物基を有する化合物(a2)とは、アミノと酸無水物基とがモル比で0.95:1〜1.05:1となる量で用いられる。
【0050】
モノアミン(a1)は、式(1)中のY及びシラノール基を有するモノアミンである。モノアミン(a1)は一種でも二種以上でもよい。
【0051】
モノアミン(a1)としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジメトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジエトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、及びm−アミノフェニルメチルジエトキシシランが挙げられる。
【0052】
これらの中でも3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及び3−アミノプロピルメチルジエトキシシランが、得られる硬化膜の耐薬品性が高いので好ましい。
【0053】
酸無水物基を有する化合物(a2)は、一種でも二種以上でもよい。酸無水物基を有する化合物(a2)は、酸無水物基を一つ有する化合物でもよいし、二以上有する化合物であってもよい。
【0054】
酸無水物基を一つ有する化合物(a2)としては、例えば、フタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、こはく酸無水物、グルタル酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、アリルナジック酸無水物、ブチルこはく酸無水物、n−オクチルこはく酸無水物、デシルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、テトラデシルこはく酸無水物、ヘキサデシルこはく酸無水物、オクタデシルこはく酸無水物、2−ブテン−1−イルこはく酸無水物、2−ヘキセン−1−イルこはく酸無水物、n−オクテニルこはく酸無水物、n−デセニルこはく酸無水物、2−ドデセン−1−イルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、ヘキサデセニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、p−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、p−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、トリメトキシシリルプロピルこはく酸無水物、及びトリエトキシシリルプロピルこはく酸無水物が挙げられる。
【0055】
酸無水物基を二つ有する化合物(a2)としては、例えば、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2−[ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)]ヘキサフルオロプロパン二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、エタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、及び下記式(a1−1)〜(a1−80)の酸二無水物が挙げられる。ここで、式(a1−1)〜(a1−80)中の、式(a1−15)〜(a1−17)、(a1−37)、(a1−38)、(a1−51)〜(a1−57)、(a1−72)及び(a1−73)において、環構造に結合しているアルキルを一直線又は折れ線で表している。すなわち、例えば式(a1−55)においてベンゼン環から下方に突き出している直線はメチルを表し、式(a1−57)においてベンゼン環から下方に突き出している折れ線はエチルを表している。また、式(a1−79)及び(a1−80)のようにアルキレンを折れ線で表すこともある。
【0056】
【化7】

【0057】
【化8】

【0058】
【化9】

【0059】
【化10】

【0060】
【化11】

【0061】
【化12】

【0062】
【化13】

【0063】
【化14】

【0064】
なお、式(a1−79)中、「Ph」はフェニル基を表す。
【0065】
これらの酸無水物基を有する化合物の中でも酸無水物基を一つ有する化合物が、得られる硬化膜の耐クラック性が高いので好ましい。
【0066】
特に、フタル酸無水物、こはく酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、及びアリルナジック酸無水物が、得られるシロキサンポリマー(A)の溶媒への溶解性を高める観点から好ましい。
【0067】
1−3 式(2)で表される化合物
シロキサンポリマー(A)のモノマーには、式(2)の化合物が用いられる。式(2)の化合物をモノマーに用いることにより、得られる硬化膜の透明性、耐熱性を高めることができる。式(2)で表される化合物は一種でも二種以上でもよい。
【0068】
【化15】

【0069】
式(2)中、R4、R5、R6、R7はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表す。ただし、R4、R5、R6、R7のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。
【0070】
式(2)の化合物の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、及びテトラエトキシシランを挙げることができる。
【0071】
これらの化合物のうち、アルコキシを一つ有するシランであるトリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランは、得られる熱硬化性組成物の分子量制御に機能する観点から好ましい。
【0072】
また、アルコキシを二つ有するシランであるジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、及びメチルフェニルジエトキシシランは、得られる熱硬化性組成物から形成される硬化膜において、耐クラック性を向上させる観点から好ましい。
【0073】
また、アルコキシを三つ有するシランであるトリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、及びトリエトキシフェニルシランは、得られる熱硬化性組成物から形成される硬化膜において、膜の緻密性を向上させる観点から好ましい。
【0074】
さらに、アルコキシを三つ有するシランとして、残り一つの官能基がアルキルである化合物と同官能基がアリールである化合物を混合して使用すると、耐クラック性の観点から好ましい。残り一つの官能基がアルキルである化合物及びアリールである化合物の混合比率(モル比)は、前記のアルキルである化合物を1モルに対して前記のアリールである化合物が0.1〜10モルであることが好ましく、0.2〜5モルであることがより好ましく、0.3〜3モルであることがさらに好ましい。
【0075】
また、アルコキシを四つ有するシランであるテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランは、得られる熱硬化性組成物から形成される硬化膜において、膜の緻密性を向上させる観点から好ましい。
【0076】
式(2)の化合物は、アルコキシ数が異なる化合物を複数含むことが、得られる硬化膜の耐クラック性と耐薬品性のバランスの観点から好ましく、単官能から四官能までのそれぞれの式(2)の化合物を含むことがより好ましい。
【0077】
1−4 溶剤(B)
本発明の熱硬化性組成物は溶剤(B)を含有する。溶剤(B)は、沸点が100〜300℃であることが、得られる硬化膜の平坦性を高くする観点から好ましい。熱硬化性組成物における溶剤(B)の含有量は、熱硬化性組成物全量の5〜80重量%であることが好ましく、10〜70重量%であることがより好ましく、20〜60重量%であることがさらに好ましい。
【0078】
溶剤(B)としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、乳酸エチル、及び酢酸ブチルが挙げられる。溶剤(B)に、これらから選ばれる少なくとも一つを用いることが、熱硬化性組成物の塗布均一性を高める観点からより好ましい。
【0079】
1−5 その他の成分
本発明の熱硬化性組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、シロキサンポリマー(A)及び溶剤(B)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、シロキサンポリマー(A)以外のシロキサンポリマー(その他のシロキサンポリマー)、界面活性剤、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、メラミン化合物もしくはビスアジド化合物等の熱架橋剤、酸化防止剤、アクリル系、スチレン系、ポリエチレンイミン系もしくはウレタン系の高分子分散剤、シリコン系塗布性向上剤、シランカップリング剤等の密着性向上剤、及びアルコキシベンゾフェノン類等の紫外線吸収剤が挙げられる。前記他の成分は全体で一種でも二種以上でも添加してもよく、またそれぞれにおいても一種でも二種以上でもよい。
【0080】
1−5−1 その他のシロキサンポリマー
本発明の熱硬化性組成物は、種々の性能を向上させるために、その他のシロキサンポリマーをさらに含有してもよい。このようなその他のシロキサンポリマーとしては各種の市販シロキサンポリマーがあり、それらは熱硬化性組成物全量の20重量%以下であることが好ましい。
【0081】
1−5−2 界面活性剤
本発明の熱硬化性組成物は、塗布均一性をさらに向上させる観点から界面活性剤をさらに含有してもよい。界面活性剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して、0.005〜10重量%であることが好ましく、0.01〜8重量%であることがより好ましく、0.015〜5重量%であることがさらに好ましい。
【0082】
界面活性剤としては、例えば、ポリフローNo.45、ポリフローKL−245、ポリフローNo.75、ポリフローNo.90、ポリフローNo.95(以上いずれも商品名、共栄社化学株式会社)、ディスパーベイク(Disperbyk)161、ディスパーベイク162、ディスパーベイク163、ディスパーベイク164、ディスパーベイク166、ディスパーベイク170、ディスパーベイク180、ディスパーベイク181、ディスパーベイク182、BYK300、BYK306、BYK310、BYK320、BYK330、BYK344、BYK346(以上いずれも商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社)、KP−341、KP−358、KP−368、KF−96−50CS、KF−50−100CS(以上いずれも商品名、信越化学工業株式会社)、サーフロンSC−101、サーフロンKH−40(以上いずれも商品名、AGCセイミケミカル株式会社)、フタージェント222F、フタージェント251、FTX−218(以上いずれも商品名、株式会社ネオス製)、EFTOP EF−351、EFTOP EF−352、EFTOP EF−601、EFTOP EF−801、EFTOP EF−802(以上いずれも商品名、三菱マテリアル株式会社)、メガファックF−171、メガファックF−177、メガファックF−475、メガファックR−08、メガファックR−30(以上いずれも商品名、DIC株式会社)、フルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、フルオルアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、フルオロアルキルアンモニウムヨージド、フルオロアルキルベタイン、フルオロアルキルスルホン酸塩、ジグリセリンテトラキス(フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル)、フルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フルオロアルキルアミノスルホン酸塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレレート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレエート、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が挙げられる。
【0083】
これらの中でもフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、フルオルアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル、フルオロアルキルアンモニウムヨージド、フルオロアルキルベタイン、フルオロアルキルスルホン酸塩、ジグリセリンテトラキス(フルオロアルキルポリオキシエチレンエーテル)、フルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フルオロアルキルアミノスルホン酸塩等のフッ素系の界面活性剤は、熱硬化性組成物の塗布均一性を高める観点から好ましい。
【0084】
1−5−3 エポキシ樹脂
本発明の熱硬化性組成物は、耐熱性、耐薬品性、膜面内均一性、可撓性、柔軟性、弾性をさらに向上させる観点から、エポキシ樹脂をさらに含有してもよい。エポキシ樹脂の含有量は、前記熱硬化性組成物全量に対して、30重量%以下であることが好ましい。
【0085】
前記エポキシ樹脂としては、耐薬品性の高い硬化膜を得る観点から多官能のエポキシ樹脂が好ましく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
【0086】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、jER807、jER815、jER825、8jER27、8jER28、jER190P、jER191P、jER871、jER872、jER4250、jER4275、jER1004、jER1256、YX8000(商品名;三菱化学株式会社)、アラルダイトCY177、アラルダイトCY184(商品名;ハンツマンジャパン株式会社)、セロキサイド2021P、EHPE−3150、エポリードPB3600(商品名;ダイセル化学工業株式会社)、テクモアVG3101L(商品名;株式会社プリンテック)、EPICLON TSR−960、EPICLON TSR−601、EPICLON TSR−250−80BX、EPICLON 1600−75X(商品名;DIC株式会社)、YD−171、YD−172、YD−175X75、PG−207、ZX−1627、YD−716(商品名;新日鐵化学株式会社)、アデカレジンEP−4000、アデカレジンEP−4000S、アデカレジンEPB1200、アデカレジンEPB1200(商品名;株式会社ADEKA)、EX−832、EX−841、EX−931、デナレックスR−45EPT(商品名;ナガセケムテックス株式会社)、BPO−20E、BPO−60E(商品名;新日本理化株式会社)、エポライト400E、エポライト400P、エポライト3002(商品名;共栄社化学株式会社)、SR−8EG、SR−4PG(商品名;阪本薬品工業株式会社)、Heloxy 84、Heloxy 505(商品名;Hexion社)、SB−20G、IPU−22G(商品名;岡村製油株式会社)、EPB−13(商品名;日本曹達株式会社)が挙げられる。
【0087】
1−5−4 エポキシ硬化剤
本発明の熱硬化性組成物は、その他の成分としてエポキシ樹脂を含む場合は、硬化膜の耐熱性、耐薬品性、可撓性、柔軟性を向上させるためにエポキシ硬化剤を含有することが好ましい。エポキシ硬化剤としては、例えばカルボン酸系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、及び触媒型硬化剤が挙げられる。エポキシ硬化剤は、着色の抑制及び耐熱性の点から、カルボン酸系硬化剤、酸無水物硬化剤、又はフェノール系硬化剤であることがより好ましい。
【0088】
エポキシ硬化剤の好ましい具体例としては、カルボン酸系硬化剤では、SMA17352(商品名;サートマー(SARTOMER)・ジャパン株式会社)、酸無水物系硬化剤としては、SMA1000、SMA2000、SMA3000(商品名;サートマー(SARTOMER)・ジャパン株式会社)、無水マレイン酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、トリメリット酸無水物、ヘキサヒドロトリメリット酸無水物、無水メチルナジミック酸、水素化メチルナジミック酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、ピロメリット酸二無水物、ヘキサヒドロピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、リカシッドTMEG−S、リカシッドTMTA−C、リカシッドTMEG−500、リカシッドTMEG−600、(商品名;新日本理化株式会社)、EpiclonB−4400(商品名;DIC株式会社)、jERキュアYH−306、jERキュアYH−307、jERキュアYH−309(商品名;三菱化学株式会社)、SL−12AH、SL−20AH、IPU−22AH(商品名;岡村製油株式会社)、OSA−DA、DSA、PDSA−DA(商品名;三洋化成工業株式会社)が挙げられる。
【0089】
フェノール系硬化剤としてはフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、好ましい具体例としてはマルカリンカーM(商品名;丸善石油化学株式会社)、ミレックスXLC(商品名;三井化学株式会社)、MEH−7800、MEP−6309、MEH−7500、MEH−8000H、MEH−8005(商品名;明和化成株式会社)、HE−100C(商品名;エア・ウォーター株式会社)、YLH−129B65、jERキュア170、jERキュア171N、YL−6065(商品名;三菱化学株式会社)、フェノライトVHシリーズ、フェノライトKHシリーズ、BESMOL CZ−256−A(商品名;DIC株式会社)、DPP−6000シリーズ(商品名;JX日鉱日石エネルギー株式会社)が挙げられる。
【0090】
エポキシ硬化剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して5重量%以上であることが耐熱性及び耐溶剤性を向上させる観点から好ましく、他特性とのバランスを考慮すると5〜50重量%であることがより好ましい。
【0091】
1−5−5 熱架橋剤
本発明の熱硬化性組成物は、耐熱性、耐薬品性をさらに向上させる観点からメラミン化合物もしくはビスアジド化合物等の熱架橋剤をさらに含有してもよい。熱架橋剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して、30重量%以下であることが好ましい。
【0092】
このような熱架橋剤としては、例えばニカラックMW−30HM、ニカラックMW−100LM、ニカラックMW−270、ニカラックMW−280、ニカラックMW−290、ニカラックMW−390、ニカラックMW−750LM、(商品名;株式会社三和ケミカル)が挙げられる。これらの中でも、ニカラックMW−30HMが、耐熱性、相溶性の観点から好ましい。
【0093】
1−5−6 酸化防止剤
本発明の熱硬化性組成物は、耐候性の点から酸化防止剤をさらに含有してもよい。酸化防止剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して、10重量%以下であることが好ましい。酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系化合物が挙げられ、中でもヒンダードフェノール系がより好ましい。
【0094】
酸化防止剤としては、例えば、Irganox1010、Irganox1010FF、Irganox1035、Irganox1035FF、Irganox1076、Irganox1076FD、Irganox1076DWJ、Irganox1098、Irganox1135、Irganox1330、Irganox1726、Irganox1425 WL、Irganox1520L、Irganox245、Irganox245FF、Irganox245DWJ、Irganox259、Irganox3114、Irganox565、Irganox565DD、Irganox295(商品名;BASFジャパン社)、ADK STAB AO−20、ADK STAB AO−30、ADK STAB AO−50、ADK STAB AO−60、ADK STAB AO−70、ADK STAB AO−80(商品名;株式会社ADEKA)が挙げられる。この中でもIrganox1010が、透明性、耐熱性、耐クラック性の点からより一層好ましい。
【0095】
1−5−7 高分子分散剤
本発明の熱硬化性組成物は、塗布均一性をさらに向上させる観点から高分子分散剤を含有してもよい。高分子分散剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0096】
高分子分散剤としては、例えば、SOLSPERSE3000、SOLSPERSE5000、SOLSPERSE12000、SOLSPERSE20000、SOLSPERSE32000(以上いずれも商品名、日本ルーブリゾール株式会社)、ポリフローNo.38、ポリフローNo.45、ポリフローNo.75、ポリフローNo.85、ポリフローNo.90、ポリフローS、ポリフローNo.95、ポリフローATF、ポリフローKL−245(以上いずれも商品名、共栄社化学株式会社)が挙げられる。
【0097】
1−5−8 シリコン系塗布性向上剤
本発明の熱硬化性組成物は、塗布均一性をさらに向上させる観点からシリコン樹脂系塗布性向上剤をさらに含有してもよい。シリコン系塗布向上剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0098】
シリコン系塗布向上剤としては、例えば、BYK300、BYK306、BYK310、BYK320、BYK330、BYK344、BYK346(商品名;ビックケミー・ジャパン株式会社)、KP−341、KP−358、KP−368、KF−96−50CS、KF−50−100CS(商品名;信越化学工業株式会社)が挙げられる。
【0099】
これらの中でも、BYK306、BYK344、BYK346、KP−341、KP−358、及びKP−368は、熱硬化性組成物の塗布均一性を高める観点から好ましい。
【0100】
1−5−9 密着性向上剤
本発明の熱硬化性組成物は、形成される硬化膜と基板との密着性をさらに向上させる観点から密着性向上剤を含有してもよい。密着性向上剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0101】
密着性向上剤としては、例えば3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤、及びテトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。
【0102】
これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが密着性を向上させる効果が大きいため好ましい。
【0103】
1−5−10 紫外線吸収剤
本発明の熱硬化性組成物は、硬化膜の劣化防止能をさらに向上させる観点から紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤の含有量は、熱硬化性組成物全量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0104】
紫外線吸収剤としては、例えばチヌビンP、チヌビン120、チヌビン144、チヌビン213、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン571、チヌビン765(商品名;BASFジャパン社)が挙げられる。これらの中でもチヌビンP、チヌビン120、チヌビン326が、透明性、相溶性の観点から好ましい。
【0105】
1−6 熱硬化性組成物の保存
本発明の熱硬化性組成物は、温度−30〜25℃の範囲で保存すると、組成物の経時安定性が良好となり好ましく、−20〜10℃であればより好ましい。
【0106】
1−7 塗布液の調製
形成する硬化膜の膜厚により、本発明の熱硬化性組成物を溶剤でさらに希釈して、塗布液を調製してもよい。
【0107】
2 本発明の硬化膜
本発明の硬化膜は、前述した本発明の熱硬化性組成物の膜を200℃以上で熱硬化させてなる膜である。熱硬化性組成物の膜は、基板上に本発明の熱硬化性組成物を塗布することによって形成することができる。基板及び塗布方法には、表示素子において通常使用される基板や技術を用いることができる。
【0108】
本発明の硬化膜は、10μm以上の厚さを有していても高透明性、耐薬品性及び耐熱性に優れ、クラックを生じない等の有用な効果を有する。
【0109】
硬化膜の厚さは通常の装置や方法によって測定することができ、硬化膜の厚さを代表する値を採用することができる。例えば、硬化膜の厚さは、同一膜の複数箇所で得られる測定値の平均値とすることができる。前記硬化膜の厚さは、高い透明性と機械的強度とを両立する観点から10〜200μmであることが好ましく、15〜150μmであることがより好ましく、20〜100μmであることがさらに好ましい。これらの範囲であれば、前記の有用な効果が顕著に発現する。
【0110】
硬化膜の厚さは、熱硬化性組成物を用いて形成された塗膜の厚さによって調整することができ、熱硬化性組成物を用いて形成された膜の厚さは、例えば、熱硬化性組成物の粘度
や熱硬化性組成物の重ね塗りによって調整することができる。熱硬化性組成物の粘度は固形分(主にシロキサンポリマー(A)等の溶剤以外の成分)の濃度によって調整できる。
【0111】
より具体的には、本発明の硬化膜は以下のようにして形成することができる。まず、熱硬化性組成物をスクリーン印刷、スピンコート、ロールコート、スリットコート、インクジェット等の公知の方法によりガラス等の基板上に塗布する。基板としては、例えば、白板ガラス、青板ガラス、シリカコート青板ガラス等の透明ガラス基板、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等の合成樹脂製シート、フィルム又は基板、アルミニウム板、銅板、ニッケル板、ステンレス板等の金属基板、その他セラミック板、光電変換素子を有する半導体基板、が挙げられる。これらの基板には、所望によりシランカップリング剤等の薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の前処理を行うことができる。
【0112】
次に、ホットプレート又はオーブンで、通常60〜120℃で1〜5分間乾燥する。乾燥した基板に対して重ね塗りすることも可能である。最後に200℃以上、例えば200〜400℃で10〜120分間焼成すると、所望の厚さを有する高透明な硬化膜を得ることができる。
【0113】
3 本発明の表示素子
本発明の表示素子は、前述した本発明の硬化膜を有する。本発明の表示素子は、本発明の硬化膜を有する以外は通常の表示素子と同様の構成を有する。このような表示素子としては、例えば液晶表示素子、タッチパネル、液晶素子とタッチパネル一体型の素子、及びOLED素子等の、有機化合物による発光層を有する表示素子とタッチパネルとの一体型の素子が挙げられる。
【0114】
液晶表示素子としては、例えば、カラーフィルターと、カラーフィルターに対向配置される画素電極及び共通電極を有する透明基板(例えばTFT基板)と、カラーフィルターの基板及び透明基板に挟持された液晶とを含む構成を有する。このような液晶表示素子において、前記硬化膜は、透明性と耐熱性とを要する膜に用いることができる。前記液晶表示素子は、配向処理されたカラーフィルター基板と配向処理された前記透明基板とをスペーサーを介して対向させて組み立てる工程、液晶材料を封入する工程、及び、偏光フィルムを貼り付ける工程を経て製造される。前記硬化膜は、例えば、このような製造工程のいずれにおける、適切な膜厚の塗膜を形成する塗布工程と、塗膜を焼成する焼成工程とによって、液晶表示素子中の、用途に応じた適切な位置に形成することができる。
【0115】
なお、前記液晶表示素子における基板に設けられた電極は、スパッタリング法等を用いて透明基板上にクロム等の金属を堆積した後、所定の形状のレジストパターンをマスクとしてエッチングを行って形成される。
【0116】
前述したように、本発明の好ましい態様に係る熱硬化性組成物は、例えば、重合体組成物から形成される硬化膜に対して一般的に求められている高耐溶剤性、高耐水性、高耐酸性、高耐アルカリ性、高耐熱性、高透明性、下地との密着性等を有する硬化膜を形成することができる。
【0117】
また、本発明の好ましい態様に係る熱硬化性組成物は、熱硬化の際にクラックを生じることなく、厚膜を形成することができる。
【0118】
このように、本発明の熱硬化性組成物は、特に数10μm以上の厚さを有する硬化膜としたときに透明性、耐熱性及び耐薬品性に優れるものであり、液晶素子、タッチパネル、液晶素子とタッチパネル一体型及びOLED素子とタッチパネル一体型素子に適したものである。また、カラーフィルター製造工程、TFT製造工程のいずれにおける、適切な膜厚の塗膜を形成する塗布工程と、塗膜を焼成する焼成工程に適したものである。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0120】
[合成例1]シロキサンポリマー(A1)の合成
攪拌器付四つ口フラスコに、溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを、酸無水物としてフタル酸無水物を、アミンとして3−アミノプロピルトリエトキシシランを下記の重量で仕込み、還流温度で3時間加熱し、下記式(1a)の化合物の溶液を得た。
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 36.95g
フタル酸無水物 14.81g
3−アミノプロピルトリエトキシシラン 22.14g
【0121】
【化16】

【0122】
上記式(1a)の化合物の溶液に、式(2)で表される化合物としてトリメチルエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランを、溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを下記の重量で加え、さらに、ギ酸0.18g、リン酸0.08g、水11.62g、エタノール4.57gの混合溶液を滴下して加えた。
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 30.00g
トリメチルエトキシシラン 2.00g
メチルフェニルジメトキシシラン 4.00g
メチルトリメトキシシラン 3.00g
フェニルトリエトキシシラン 10.00g
テトラエトキシシラン 7.00g
【0123】
その後、80℃で1時間加熱し、さらに徐々に昇温しながら低分子成分を2.5時間かけて留去し、さらに130℃で2時間留去してシロキサンポリマー(A1)の溶液を得た。留去により除去した低沸点成分の合計は、21.43gであった。この溶液の1.00gを採取し、200℃1時間加熱した後の乾燥重量から求めたシロキサンポリマー(A1)の溶液の固形分濃度は44.2重量%であった。得られたシロキサンポリマー(A1)の溶液の25℃における粘度は18.7mPa・sであった。また、GPC分析により求めたシロキサンポリマー(A1)の重量平均分子量(Mw)は、10,300であった。
【0124】
シロキサンポリマー(A1)の粘度は、東機産業株式会社製のE型粘度計 TV−22によって求めた。また、シロキサンポリマー(A1)のMwは、標準のポリスチレンとして重量平均分子量が645〜132,900のVARIAN社製のポリスチレンキャリブレーションキットPL2010−0102、カラムにはPLgel MIXED−D(VARIAN社製を用い、移動相としてTHFを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。
【0125】
[合成例2]シロキサンポリマー(A2)の合成
攪拌器付四つ口フラスコに、溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを、酸無水物として3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物を、アミンとして3−アミノプロピルトリエトキシシランを下記の重量で仕込み、還流温度で3時間加熱し、下記式(1b)の化合物の溶液を得た。
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 7.52g
3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物 3.10g
3−アミノプロピルトリエトキシシラン 4.42g
【0126】
【化17】

【0127】
上記式(1b)の化合物の溶液に、式(2)で表される化合物としてトリメチルエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランを、溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを前記合成例1と同じ量で加え、さらに、ギ酸0.12g、リン酸0.05g、水7.78g、エタノール3.05gの混合溶液を滴下して加えた。
【0128】
その後合成例1と同様に、80℃で1時間加熱し、さらに徐々に昇温しながら低分子成分を2.5時間かけて留去し、さらに130℃で2時間留去してシロキサンポリマー(A2)の溶液を得た。シロキサンポリマー(A2)の溶液の固形分濃度は42.3重量%、シロキサンポリマー(A2)の溶液の25℃における粘度は15.7mPa・sであった。シロキサンポリマー(A2)の重量平均分子量(Mw)は、12,300であった。
【0129】
[比較合成例1]比較シロキサンポリマー(E1)の合成
攪拌器付四つ口フラスコに、式(2)で表される化合物としてトリメチルエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランを、溶媒としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを下記の重量で加え、さらに、ギ酸0.09g、リン酸0.04g、水5.81g、エタノール2.29gの混合溶液を滴下して加えた。
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル 30.00g
トリメチルエトキシシラン 2.00g
メチルフェニルジメトキシシラン 4.00g
メチルトリメトキシシラン 3.00g
フェニルトリエトキシシラン 10.00g
テトラエトキシシラン 7.00g
【0130】
その後合成例1と同様に、80℃で1時間加熱し、さらに徐々に昇温しながら低分子成分を2.5時間かけて留去し、さらに130℃で2時間留去してシロキサンポリマー(E1)の溶液を得た。シロキサンポリマー(E1)の溶液の固形分濃度は41.5重量%、シロキサンポリマー(E1)の溶液の25℃における粘度は13.3mPa・sであった。シロキサンポリマー(E1)の重量平均分子量(Mw)は、8,500であった。
【0131】
[実施例1]
合成例1で得られたシロキサンポリマー(A1)の44.2重量%溶液、及び界面活性剤であるメガファックR−08を下記の重量で混合溶解し、メンブレンフィルター(0.5μm)で濾過して熱硬化性組成物1を得た。
シロキサンポリマー(A1)の44.2重量%溶液 10.00g
メガファックR−08 0.01g
【0132】
得られた熱硬化性組成物を用いて以下の評価を行った。
[評価方法]
1)透明膜の形成及び膜厚の測定
ガラス基板上に熱硬化性組成物1を200〜800rpmの任意の回転数で10秒間スピンコートし、100℃のホットプレート上で5分間プリベイク乾燥した。さらに、この基板をオーブン中300℃で30分ポストベイクし、膜厚が約20μmの透明膜を形成した。オーブンから取り出した基板を室温まで戻して透明膜1を得た。得られた透明膜1はガラス基板上から割れずに剥がすことができ、かつ剥がした透明膜1は柔軟性を有していた。
【0133】
得られた透明膜1の膜厚を測定した。膜厚の測定にはKLA−Tencor Japan株式会社製の触針式膜厚計P−15を使用し、三箇所の測定値の平均値を透明膜の膜厚とした。
【0134】
2)塗布性
上記1)で透明膜を作製する際、プリベイク乾燥時の塗布性(基板ハジキ)を目視により観察した。基板ハジキが見られなかった場合は良好(G:Good)と、基板ハジキが見られた場合は不良(NG:No Good)と判定した。
【0135】
3)クラック
上記1)で得られた透明膜のクラックの有無を目視により観察した。膜面にクラックが生じなかった場合は良好(G:Good)と、膜面にクラックが生じた場合は不良(NG:No Good)と判定した。
【0136】
4)表面粗度
上記1)で得られた透明膜の表面粗度(Ra値)を測定した。Ra値が2nm未満の場合は良好(G:Good)と、2nm以上の場合は不良(NG:No Good)と判定した。測定にはKLA−Tencor Japan株式会社製触針式膜厚計P−15を使用し、三箇所の測定値の平均値を透明膜の表面粗度とした。
【0137】
5)透明性
有限会社東京電色製TC−1800を使用し、透明膜を形成していないガラス基板をリファレンスとして、上記1)で得られた透明膜が形成されている基板の波長400nmでの光透過率を測定した。透過率が95T%以上の場合は良好(G:Good)と、95T%未満の場合は不良(NG:No Good)と判定した。
【0138】
6)耐酸性
上記1)で得られた透明膜が形成されている基板を50℃の塩酸/硝酸/水=4/2/4(重量比)に10分間浸漬し、膜厚の変化を測定した。浸漬の前後で上記1)と同様に膜厚を測定し、膜厚の変化率を次式から計算した。
(浸漬後膜厚/浸漬前膜厚)×100(%)
膜厚の変化率が−5〜5%の時が良好(G:Good)、膨潤により5%を超えたり、溶解により−5%より減少した時は不良(NG:No Good)と判定した。
【0139】
7)耐アルカリ性
上記1)で得られた透明膜が形成されている基板を60℃の5重量%水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、膜厚の変化を測定した。浸漬の前後で上記1)と同様に膜厚を測定し、膜厚の変化率を次式から計算した。
(浸漬後膜厚/浸漬前膜厚)×100(%)
膜厚の変化率が−5〜5%の時が良好(G:Good)、膨潤により5%を超えたり、溶解により−5%より減少した時は不良(NG:No Good)と判定した。
【0140】
8)耐熱性
上記1)で得られた透明膜が形成されている基板を300℃のオーブンで1時間加熱し、上記4)と同様に光透過率を測定し、さらに加熱の前後で上記1)と同様に膜厚を測定し、膜厚の変化率を次式から計算した。
(加熱後膜厚/加熱前膜厚)×100(%)
膜厚の変化率が−5%未満の時が良好(G:Good)、加熱後の膜厚の変化率が−5%以上の時は不良(NG:No Good)と判定した。
【0141】
評価の結果を表1に示す。
【0142】
[実施例2]
合成例2で得られたシロキサンポリマー(A2)の42.3重量%溶液、及び界面活性剤であるメガファックR−08、を下記の重量で混合溶解し、メンブレンフィルター(0.5μm)で濾過して熱硬化性組成物2を得た。
シロキサンポリマー(A2)の42.3重量%溶液 10.00g
メガファックR−08 0.01g
得られた熱硬化性組成物2を用いて実施例1と同様に透明膜2を得て、評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、透明膜2も、透明膜1と同様に、ガラス基板上から割れずに剥がすことができ、かつ柔軟性を有していた。
【0143】
[比較例1]
比較合成例1で得られたシロキサンポリマー(E1)の41.5重量%溶液、及び界面活性剤であるメガファックR−08、を下記の重量で混合溶解し、メンブレンフィルター(0.5μm)で濾過して熱硬化性組成物E1を得た。
シロキサンポリマー(E1)の41.5重量%溶液 10.00g
メガファックR−08 0.01g
得られた熱硬化性組成物E1を用いて実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
実施例1、2の熱硬化性組成物については厚い膜厚においてもクラックのないきれいな膜が得られたのに対し、式(1)の化合物を用いない比較例1ではクラックが生じた。また、比較例1では熱可塑性組成物E1を基板上にスピンコートしたところ、はじきのためにピンホールが生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の熱硬化性組成物は、例えば、液晶表示素子、タッチパネル、タッチパネル付液晶表示素子及びタッチパネル付OLED表示素子の製造工程に用いられることができる。また、本発明の硬化膜は、透明で、滑らかで、物理的及び化学的な耐性を有するのに加えて、膜厚10μm以上の比較的厚い膜であってもクラックが生じず、かつ柔軟性を有することから、光透過性と柔軟性とを要する部材(例えば透明基板やコンタクトレンズ)への利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物と式(2)で表される化合物との加水分解及び縮合反応によって得られるシロキサンポリマー(A)及び溶剤(B)を含有する熱硬化性組成物。
【化1】

(式(1)中、R1、R2、R3はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表し、Yは炭素数1〜100の二価の有機基を表し、Xは炭素数2〜100の二価又は四価の有機基を表し、nは1又は2を表す。ただし、R1、R2、R3のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。)
【化2】

(式(2)中、R4、R5、R6、R7はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数6〜10のアリール、任意の水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数2〜10のアルケニル、又は炭素数1〜10のアルコキシを表す。ただし、R4、R5、R6、R7のうち少なくとも一つは前記アルコキシである。)
【請求項2】
式(1)の化合物が、モノアミン(a1)と酸無水物基を有する化合物(a2)とを反応させることで得られるイミド化合物である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
モノアミン(a1)が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチルメチルジエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジメトキシシラン、p−アミノフェニルメチルジエトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、及びm−アミノフェニルメチルジエトキシシランからなる群から選ばれる一以上である、請求項2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
酸無水物基を有する化合物(a2)が、フタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、こはく酸無水物、グルタル酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、アリルナジック酸無水物、ブチルこはく酸無水物、n−オクチルこはく酸無水物、デシルこはく酸無水物、ドデシルこはく酸無水物、テトラデシルこはく酸無水物、ヘキサデシルこはく酸無水物、オクタデシルこはく酸無水物、2−ブテン−1−イルこはく酸無水物、2−ヘキセン−1−イルこはく酸無水物、n−オクテニルこはく酸無水物、n−デセニルこはく酸無水物、2−ドデセン−1−イルこはく酸無水物、テトラデセニルこはく酸無水物、ヘキサデセニルこはく酸無水物、オクタデセニルこはく酸無水物、p−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、p−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリメトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、m−(トリエトキシシリル)フェニルこはく酸無水物、トリメトキシシリルプロピルこはく酸無水物、トリエトキシシリルプロピルこはく酸無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2−[ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)]ヘキサフルオロプロパン二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、エタンテトラカルボン酸二無水物、及びブタンテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる一以上である、請求項2又は3に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
酸無水物基を有する化合物(a2)が、酸無水物基を一つ有する化合物である、請求項4に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
酸無水物基を有する化合物(a2)が、フタル酸無水物、こはく酸無水物、イタコン酸無水物、cis−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、アリルこはく酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、及びアリルナジック酸無水物からなる群から選ばれる一以上である、請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
式(2)で表される化合物が、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、及びテトラエトキシシランからなる群から選ばれる一以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物の膜を200℃以上で熱硬化させてなる硬化膜。
【請求項9】
膜厚が10〜200μmである請求項8に記載の硬化膜。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の硬化膜を有する表示素子。

【公開番号】特開2012−149196(P2012−149196A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10443(P2011−10443)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】