説明

熱硬化性組成物及び注型成形品の製造方法

【課題】分散安定性、熱硬化性及び耐水性に優れた熱硬化性組成物並びに該熱硬化性組成物を用いた注型成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子又はその他の付加重合性高分子、及び、充填剤、を含有することを特徴とする熱硬化性組成物。


式(I)、式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物及び該熱硬化性組成物を用いた注型成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂等のラジカル硬化性樹脂にシリカ等の充填剤を添加した樹脂組成物は、例えば、耐水性、耐熱性、耐候性等の物性や外観に優れた人工大理石を製造しうる材料として有用であることが知られており、このような樹脂組成物を成形して得られた成形品は、各種水回り用品等の幅広い用途で汎用されている。前記樹脂組成物の成形方法としては、注型法、プレス法に大別でき、生産量やコストに応じて使い分けされている。注型成形を行う場合、注入時間や材料中の泡抜けの問題から、用いる樹脂組成物の粘度は、例えば8,000mPa・S以下と比較的低粘度に設定することが必要になるのであるが、このような低粘度の樹脂組成物においては、樹脂組成物の製造時から成形までの間に樹脂成分と充填剤との分離が起こりやすく、しかも一旦分離が生じると成形前に再混練しても均一な状態に戻らないといった問題があった。
【0003】
このような樹脂成分と充填剤との分離の問題を解決する方法としては、樹脂組成物中にシリカ微粒子粉末を添加して揺変性を付与させる技術が提案されている(特許文献1及び2)。しかしながら、シリカ微粒子粉末の添加により付与された揺変性は、経時的に大きく変化する傾向があり、上記従来の技術では、樹脂組成物を長期間保存した場合、やはり樹脂成分と充填剤との分離が生じてしまったり、その都度、成形条件の微調整が必要になったりするという問題が生じていた。また、シリカ微粒子粉末は、一般に使用されている通常の装置では均一に混練することが難しく、特殊な混練装置が必要となるという問題もあった。
【0004】
一方、ラジカル硬化性樹脂成分と充填剤との分離を回避するために、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の特定の官能基を有する揺変性付加重合体を別途添加し、さらに該官能基と相互作用する官能基を表面に有する充填剤を組み合わせて使用することが開示されている(特許文献3)。しかし、該相互作用では、主にイオン性や高極性の相互作用を利用しており、耐水性の点で、まだ十分なものではなかった。また、表面官能基を有する点で使用する充填剤に制約があり、その結果として、用途にも制約があるという問題があった。
【0005】
すなわち、充填剤において、表面官能基に由来する制約がなく、また、重合して膜となった際の粘性、接着性、弾性、硬度、親水性、導電性等々の膜物性、又は、膜機能において、そのバリエーションの幅を広げることが要求されていた。
【0006】
【特許文献1】特許2869135号公報
【特許文献2】特開平9−110498号公報
【特許文献3】特開2001−92127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分散安定性、熱硬化性及び耐水性に優れた熱硬化性組成物並びに該熱硬化性組成物を用いた注型成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記に記載の手段により達成された。
<1>式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子又はその他の付加重合性高分子、及び、充填剤、を含有することを特徴とする熱硬化性組成物、
【0009】
【化1】

式(I)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい、
【0010】
【化2】

式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい、
<2>前記X1の該ヘテロ原子が、酸素原子又は窒素原子である<1>に記載の熱硬化性組成物、
<3>前記X1が、酸素原子及び窒素原子を併せて2つ以上含有する<1>又は<2>に記載の熱硬化性組成物、
<4>前記X1が、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合、ウレタン結合及びウレア結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの結合を有する有機残基又はポリマー鎖である<1>〜<3>いずれか1つに記載の熱硬化性組成物、
<5>揺変性付加重合体を含まない<1>〜<4>いずれか1つに記載の熱硬化性組成物、
<6><1>〜<5>いずれか1つに記載の熱硬化性組成物を硬化して得られた注型成形品、
<7>注型成形品の製造方法であって、<1>〜<5>いずれか1つに記載の熱硬化性組成物と硬化剤とを混合し、注型成形用組成物を調製する工程、前記注型成形用組成物を型に注入する工程、及び、前記注入した注型成形用組成物を加熱して硬化させる工程を含むことを特徴とする注型成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分散安定性、熱硬化性及び耐水性に優れた熱硬化性組成物並びに該熱硬化性組成物を用いた注型成形品の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<熱硬化性組成物>
本発明の熱硬化性組成物は、式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子又はその他の付加重合性高分子、及び、充填剤、を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の熱硬化性組成物に使用する式(I)の化合物について以下に説明する。
【0014】
【化3】

【0015】
式(I)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0016】
本発明において、式(I)で表される化合物は、エチレン性不飽和二重結合を形成する片方の炭素原子に2つの置換基が結合したエチレン性不飽和基を少なくとも1つ有する。
1及びX2は1価の有機残基でもよく、2価若しくはn価(n≧3;nは3以上の整数を表す。)の有機連結基によってX1同士若しくはX2同士が連結して2官能型若しくはn官能型となっていてもよく、また、オリゴマー又はポリマー中のモノマー単位の残基を形成して高分子型となってもよい。
【0017】
以下に式(I)で表される代表的な化合物群i)〜iv)について説明する。
以下の説明において、X2はエチレン性不飽和結合のα−位にあるカルボニル基に直接結合するので、X1と同じく、「ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子」ともいうことにする。
式(I)で示される化合物は、Q1が−COX2を表す場合において、X1及びX2がヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子である場合には、後掲のi)単官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物A−1〜A−42)、X1とX2、RaとRb、X1とRaあるいはRbとが互いに結合して環状構造を形成する場合には、環状構造を有する単官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物B−1〜B−9)。
式(I)で示される化合物は、Q1が−COX2を表す場合において、X1がヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子であって、X2がヘテロ原子を介して2つのカルボニル基に結合する2価の基である場合には、ii)2官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物C−1〜C−14)、X1がヘテロ原子を介して2つのα炭素に結合する2価の有機残基であって、X2が水素原子、1価の有機残基又はハロゲン原子である場合にもやはり2官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物D−1〜D−30)。
式(I)で示される化合物は、X1が1価の基であって、X2がn価の有機残基(n≧3)である場合には、iii)3官能型以上の官能基数を有するn官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物E−1〜E−22)、X1がn価の有機残基(n≧3)であってX2が水素原子、1価の有機残基又はハロゲン原子である場合にもやはりn官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物F−1〜F−30)。
また、式(I)で示される化合物は、X1又はX2のいずれかが、好ましくはX2が、付加重合又は付加共重合により生成するオリゴマー又は高分子のモノマー単位の残基である場合には、iv)高分子型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物G−1〜G−15)。
式(I)で示される化合物は、Q1がシアノ基を表す場合においても、Q1がCOX2である場合と同様にして、後掲のようなi)単官能型、ii)2官能型、iii)多官能型、及び、iv)高分子型の化合物となることができる(H−1〜H−8)。
1が−COX2又は−CNを表す場合において、上記の4つの化合物群以外にも、当業者は多くのバリエーションの化合物を製造できることはいうまでもない。
【0018】
上述の高分子型エチレン性不飽和化合物では、X1、X2のうち少なくとも片方で、重合体の主鎖に結合している。即ち、重合体鎖の側鎖に式(I)から誘導される構造が存在する形態を採っている。ここで、重合体としては次の線状有機高分子重合体が例示できる。
すなわち、ポリウレタン、ノボラック、ポリビニルアルコール、ポリヒドロシスチレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸アミド等のようなビニル系高分子、ポリアセタールが例示できる。これら重合体はホモポリマーでも、コポリマー(共重合体)でもよい。
【0019】
式(I)においてQ1がシアノ基又は−COX2基であり、X1又はX2において、α炭素及び有機残基等に結合するヘテロ原子は、炭素以外の原子を意味し、好ましくは非金属原子であり、具体的には酸素原子、イオウ原子、窒素原子、リン原子が挙げられ、酸素原子、イオウ原子、窒素原子が好ましく、酸素原子、窒素原子がより好ましい。
1又はX2がハロゲン原子である場合、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0020】
1は、好ましくは、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、置換アミノ基、スルホ基、スルホナト基、置換スルフィニル基、置換スルホニル基、ホスホノ基、置換ホスホノ基、ホスホナト基、置換ホスホナト基、ニトロ基及びヘテロ環基(但し、ヘテロ原子で連結している)よりなる群から選ばれた、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖であり、より好ましくは、該ヘテロ原子が酸素原子又は窒素原子であり、更に好ましくは、該ヘテロ原子が酸素原子及び窒素原子を併せて2つ以上含有する有機残基若しくはポリマー鎖であり、特に好ましくは、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合、ウレタン結合及びウレア結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの結合を形成する有機残基又はポリマー鎖である。
【0021】
2は、好ましくは、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合している水素原子、有機残基又はポリマー鎖であり、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、置換アミノ基、ヘテロ環基(但し、ヘテロ原子で連結している)が例示できる。
【0022】
a、Rbは、各々独立して、より好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、又は有機残基を表し、有機残基は置換基を有していてもよくかつ不飽和結合を含んでいてもよい、炭化水素基、置換オキシ基、置換チオ基、置換アミノ基、置換カルボニル基、カルボキシラート基を表し、またRaとRbは互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0023】
次に、式(I)におけるX1、X2、Ra、Rbに許容される置換基の例を示す。この置換基には、さらに置換基を有していてもよくかつ不飽和結合を含んでいてもよい炭化水素基、アシル基、ヘテロ環基が含まれる。
【0024】
上記の置換基を有していてもよくかつ不飽和結合を含んでいてもよい炭化水素基としては、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基及び置換アルキニル基が挙げられる。
【0025】
上記のアシル基には、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルフホニル基、アリールスルホニル基が含まれる。
【0026】
上記のヘテロ環基には、窒素、酸素、硫黄原子をヘテロ原子として含む5員又は6員のヘテロ環基及びこれに芳香族基が縮合した基が含まれる。
【0027】
アルキル基としては炭素原子数が1から20までの直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を挙げることができ、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2−ノルボルニル基をあげることができる。これらの中では、炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状、ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキル基がより好ましい。
【0028】
置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成される基であり、その置換基としては、水素を除く一価の非金属原子(団)が挙げられ、式(I)で示される化合物の重合反応を阻害しない限り任意の原子又は基が許容される。置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換アリール基も同様に定義できる。これらの基において、好ましい置換基の例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、シアノ基が例示できる。その他の許容できる置換基は、特許文献3の段落0017〜0041に記載されている。
【0029】
アリール基としては、炭素数が6〜20であり、1個から3個のベンゼン環が縮合環を形成したもの、ベンゼン環と5員不飽和環が縮合環を形成したものをあげることができ、具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、アセナブテニル基、フルオレニル基、をあげることができ、これらのなかでは、フェニル基、ナフチル基がより好ましい。
【0030】
アルケニル基としては、炭素数2〜20の基が好ましい。置換アルケニル基は、置換基がアルケニル基の水素原子と置き換わり結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられる。
【0031】
アルキニル基としては、炭素数2〜20であることが好まし。置換アルキニル基は、置換基がアルキニル基の水素原子と置き換わり、結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられる。
【0032】
次に、X1とX2、RaとRb、又はX1とRaあるいはRbとが互いに結合して形成する環状構造の例を示す。X1とX2、RaとRb、又はX1とRaあるいはRbとが互いに結合して形成する脂肪族環としては、5員環、6員環、7員環及び8員環の脂肪族環をあげることができ、より好ましくは、5員環、6員環の脂肪族環をあげることができる。これらは更に、これらを構成する炭素原子上に置換基を有していてもよく(置換基の例としては、前述の置換アルキル基に許容される置換基をあげることができる)、また、環構成炭素の一部が、ヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換されていてもよい。また更に、この脂肪族環の一部が芳香族環の一部を形成していてもよい。
【0033】
以下に式(I)で示される化合物を前に説明したi)単官能型、ii)2官能型、iii)多官能型、及び、iv)高分子型の順に例示化合物を示す。
【0034】
なお、以下に例示する具体例以外にも特許文献3の段落0043〜0066及び特開2002−105128の段落0043〜0051に他の具体例が例示されている。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
【化9】

【0041】
【化10】

【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
【化13】

【0045】
【化14】

【0046】
【化15】

【0047】
【化16】

【0048】
【化17】

【0049】
【化18】

【0050】
前掲の例示化合物の中で、A−1、A−12、A−17、A−22、A−27、A−38、B−5、C−1、D−7、E−4、F−3、G−5及びG−13については、特許文献3の段落0322〜0335に合成方法が記載されている。その他の例示化合物についても、これらの合成方法に準じて合成することができる。また、例示化合物H−1、H−2、H−3、H−4及びH−5についても特開2002−105128の段落0178〜0182にそれらの合成方法が記載されており、その他の例示化合物についても、これらの合成方法に準じて合成可能である。
【0051】
本発明の熱硬化性組成物は、式(I)で表される化合物に他の重合性化合物を併用することができる。他の重合性化合物には、アクリル酸エステル類、α−位にヘテロ原子を有しない通常のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、α−位にヘテロ原子を有しない通常のメタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレンなどの芳香族基を有するエチレン性不飽和化合物、アクリルニトリル類、(メタ)アクリルアミド類、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知の重合性化合物が含まれる。これらの具体例としては、特開2002−107927号公報の段落0051〜段落0056に記載された重合性化合物が含まれる。
【0052】
式(I)で表される化合物の含有率は、重合性化合物の全成分の重量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが特に好ましい。
【0053】
以下、本発明の熱硬化性組成物に使用することができる式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子について説明する。
【0054】
【化19】

【0055】
式(II)中、Q1、X1、X2、Ra及びRbは、式(I)におけるQ1、X1、X2、Ra及びRbと同義であり、好ましい範囲も同様である。なお、式(I)で表される化合物及び式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子を併用する場合において、Q1、X1、X2、Ra及びRbはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0056】
上記式(II)で表される構成単位のみから成るホモポリマーであってもよいが、他の構成単位をも含む共重合体であってもよい。好適に用いられる他の構成単位としては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーより導入される構成単位が挙げられる。
【0057】
式(II)で表される構造を有するモノマー単位を重合して得られるポリマーは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマ−等いずれでもよいが、ランダムポリマーであることが好ましい。次に式(II)で表される構造を有するモノマー単位を重合して得られるポリマーの具体例を示す。
【0058】
【化20】

【0059】
【化21】

【0060】
【化22】

【0061】
【化23】

【0062】
<一般式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の合成>
<合成例1:化合物P−1>
フラスコ内にA−1(0.8mol)とメタクリル酸メチル(0.2mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−1を収量90%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
<合成例2:化合物P−5>
フラスコ内にα−ベンジルオキシメタクリレート(0.7mol)とメタクリル酸メチル(0.3mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−5を収量95%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
<合成例3:化合物P−14>
フラスコ内にα−アセトアミドメタクリル酸(0.7mol)とメタクリル酸メチル(0.3mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−14を収量94%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
以上の合成例に準じて具体例に示した全てのポリマーを合成できる。
【0063】
本発明の熱硬化性組成物は、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の替わりに、又は、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子に加えて、他の高分子を含んでいてもよい。他の高分子には、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等が含まれる。式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子に他の高分子を併用する場合には両者が相溶性を有することが好ましい。他の高分子の具体例として、特開2002−107927号公報の段落0063に記載された高分子が含まれる。
【0064】
式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の含有率は、高分子の全成分の重量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが特に好ましい。
【0065】
本発明の熱硬化性組成物には、(1)式(I)で示される化合物と式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の併用、(2)式(I)で示される化合物とPMMAなどのα位にヘテロ原子を有しないエチレン性不飽和化合物の重合体の併用、及び、(3)MMAなどのα位にヘテロ原子を有しないエチレン性不飽和モノマーと式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の併用、の3態様があるが、(1)及び(2)の両態様が好ましく、(1)の態様がより好ましい。
上記の3態様において、式(I)で表される化合物及び式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の含有率は、熱硬化性組成物の全成分の重量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが最も好ましい。
【0066】
<充填剤>
本発明では、熱硬化性組成物中に充填剤を添加する。
充填剤としては微粒子である充填剤(微粒子充填剤)、繊維状充填剤、板状フィラー及びウイスカー等が例示できる。
微粒子充填剤としては、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等の無機微粒子、有機微粒子、並びに、有機−無機複合微粒子が挙げられ;繊維状充填剤としては、ガラス繊維、セラミック繊維、カーボンファイバー、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、ポリエステル繊維及びポリアミド繊維等が挙げられ;板状フィラーとしてはタルク及びマイカが挙げられ;ウイスカーとしてはチタン酸カリウム及び硫酸マグネシウムが挙げられる。
中でも微粒子充填剤が好ましく、結晶性シリカ等の二酸化ケイ素粒子が更に好ましい。
結晶性シリカの平均粒径は500nm超が好ましく、1〜100μmがより好ましい。また、無機微粒子はハイドロキシアパタイトでないことが好ましい。
これらの無機微粒子を熱硬化性組成物に充填させることで、硬化時の収縮を改良でき、硬化後の熱硬化性組成物の硬度を高めることができる。
【0067】
一般に、無機微粒子はモノマーやポリマー等の有機成分との親和性が低いため単に混合するだけでは凝集体を形成したり、硬化後の熱硬化性組成物がもろくなる場合がある。そのため有機成分との親和性を高めるために無機微粒子に表面処理を施すことができる。
本発明のα−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物及び重合体は、α位に置換されたヘテロ原子からなる置換基が、重合することにより近接した多数の弱い相互作用サイトとなり、まるで溶媒和するかのごとくに充填剤を安定的に分散状態にする。
従って本発明で使用する式(I)で表される重合性化合物又は式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子は、無機微粒子との親和性が高いため、無機微粒子の表面処理を特に必要としないが、更に親和性を増すため、無機微粒子表面を、有機セグメントを含む表面修飾剤で処理してもよい。表面修飾剤は、無機微粒子と結合を形成するか無機微粒子に吸着しうる官能基と、有機成分と高い親和性を有する官能基を同一分子内に有するものが好ましい。
無機微粒子に結合もしくは吸着し得る官能基を有する表面修飾剤としては、シラン、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシド表面修飾剤や、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を有する表面修飾剤が好ましい。
さらに有機成分との親和性の高い官能基としては単に有機成分と親疎水性を合わせただけのものでもよいが、有機成分と化学的に結合しうる官能基が好ましく、特にエチレン性不飽和基若しくは開環重合性基が好ましい。
【0068】
本発明において好ましい無機微粒子表面修飾剤は、金属アルコキシドもしくはアニオン性基とエチレン性不飽和基もしくは開環重合性基を同一分子内に有する硬化性樹脂である。これら表面修飾剤の代表例として以下の不飽和二重結合含有のカップリング剤や、リン酸基含有有機硬化性樹脂、硫酸基含有有機硬化性樹脂、カルボン酸基含有有機硬化性樹脂等が挙げられる。
【0069】
無機微粒子の表面修飾は、溶液中でなされることが好ましい。無機微粒子を機械的に微細分散する時に、一緒に表面修飾剤を存在させるか、又は無機微粒子を微細分散したあとに表面修飾剤を添加して撹拌するか、更には無機微粒子を微細分散する前に表面修飾を行って(必要により、加温、乾燥した後に加熱、又はpH変更を行う)、そのあとで微細分散を行う方法でもよい。
表面修飾剤を溶解する溶液としては、極性の大きな有機溶剤が好ましい。具体的には、アルコール、ケトン、エステル等の公知の溶剤が挙げられる。
【0070】
微粒子の微細化分散機としては、超音波、ディスパー、ホモジナイザー、ディゾルバー、ポリトロン、ペイントシェーカー、サンドグラインダー、ニーダー、アイガーミル、ダイノミル、コボールミル等を用いることが好ましい。また、分散媒としては前述の表面修飾用の溶媒が好ましく用いられる。
【0071】
充填剤の含有量は、その充填剤の種類と粒径、成形物に所望の物性等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、式(I)で表される化合物を含む重合性化合物及び式(II)で表されるモノマー単位を含む高分子を含む結合剤の総量100重量部に対して50〜300重量部が好ましく、100〜250重量部がより好ましい。
充填剤の含有量が前記範囲内であると、所望する物性が発揮しやすくなると同時に、収縮が小さくなり、成形性が良好になる。
【0072】
微粒子の平均粒子径は1〜100μmであることが好ましく、2〜80μmであることがより好ましい。充填剤の粒径は小さいほど注型成形品の耐衝撃強度を向上できるが、注型成形品用の熱硬化性組成物の粘度が高くなるため注型成形品の製造が困難となる。一方、充填剤の粒径が大きくなると、注型成形用の熱硬化性組成物の粘度は低下して製造での問題はなくなるが、注型成形品の耐衝撃強度が低下する。上記の数値の範囲内であると、耐衝撃強度及び作業性に優れた熱硬化性組成物が得られる。
【0073】
<紫外線吸収剤>
本発明においては、得られる成形品の耐候性、退色防止の観点から、種々の添加剤を添加することができ、紫外線吸収剤及び後述のその他の添加剤が例示できる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.5〜15重量%であることが好ましい。
【0074】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性組成物は、必要に応じて、例えば、消泡剤、顔料(着色剤)、可塑剤、カップリング剤、補強剤、低収縮化剤、酸化防止剤、離型剤、難燃化剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、改質剤、分散剤、核剤、中和剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。これら添加剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
【0075】
本発明の熱硬化性組成物の粘度は、25℃、60rpmにおいて8,000mPa・S以下であることが好ましく、より好ましくは5,000mPa・S以下であるのがよい。粘度が上記の範囲内であると注型成形に好適に適用できる。
【0076】
本発明の熱硬化性組成物は、揺変性付加重合体を含まないことが好ましい。ここで揺変性付加重合体とは、垂れ防止性を有する(thixotropic)付加重合体であって、熱硬化性組成物の6rpmの粘度に対する60rpmの粘度の相対比を求めた場合に、この粘度比を大きくするような作用を有する付加重合体であって、特開2003−105210号に記載された付加重合体が含まれる。
【0077】
<注型成形品の製造方法>
本発明の注型成形品の製造方法は、前記熱硬化性組成物と硬化剤とを混合して注型成形用組成物を得る工程、前記注型成形用組成物を型に注入する工程、前記注入した注型成形用組成物を加熱して熱硬化性組成物を硬化させる工程を含むことを特徴とする。
以下本発明の注型成形品の製造方法について説明する。
【0078】
<硬化剤>
本発明に使用することができる硬化剤は熱ラジカル発生剤であることが好ましい。
熱ラジカル発生剤は、熱エネルギーによりラジカルを発生し、重合性のエチレン性不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進させる化合物を指す。
本発明において、熱ラジカル発生剤は公知の熱重合開始剤や、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物を選択して使用でき、例えば、オニウム塩化合物、トリハロメチル基を有するトリアジン化合物、有機過酸化化合物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、キノンジアジド化合物、メタロセン化合物等が挙げられるが、中でも有機過酸化化合物を好ましく用いることができる。
本発明において好適に用いられる有機過酸化化合物であることが好ましく、例えばジアシルペルオキシド、ペルオキシジカルボナート、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド等が挙げられ、中でも、ジアシルペルオキシド、が好ましい。
【0079】
具体的には、ジアシルペルオキシドとしてはオクタノイルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、コハク酸ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド及びm−トルイルペルオキシドが挙げられ;ペルオキシジカルボナートとしてはジ−n−プロピルペルオキシジカルボナート、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボナート、ジ−(2−エトキシエチル)ペルオキシジカルボナートが挙げられ;ペルオキシエステルとしてはtert−ブチルペルオキシイソブチラート、tert−ブチルペルオキシピバラート、tert−ブチルペルオキシオクタノアート、オクチルペルオキシオクタノアート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノアート、tert−ブチルペルオキシネオドデカノアート、オクチルペルオキシネオドデカノアート、tert−ブチルペルオキシラウラート、tert−ブチルペルオキシベンゾアートが挙げられ;ジアルキルペルオキシドとしてはジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサンが挙げられ;ペルオキシケタールとしては2,2−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルペルオキシ)バレラートが挙げられ;ケトンペルオキシドとしてはメチルエチルケトンペルオキシドが挙げられ;ヒドロペルオキシドとしてはp−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドが挙げられる。
【0080】
本発明において、前記熱ラジカル発生剤(硬化剤)としては、10時間半減期温度が好ましくは60℃以上、望ましくは70℃以上のものを単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。硬化剤の添加量は、前記化合物(I)及び/又は(II)の合計100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましい。上記の数値の範囲内であると、保存性及び反応性に優れ、硬化時に気泡が発生しない熱硬化性組成物が得られる。
【0081】
注型成形用組成物を型に注入する工程、及び、前記注入した注型成形用組成物を加熱して熱硬化性組成物を硬化させる工程について説明する。
【0082】
本発明の注型成形品の製造方法について、具体例として注型成形板の製造を例として取り上げて説明する。まず、2枚の型板間に、ガスケットを挟み込んで、間隙を形成させて型枠とする。
次いで、この間隙に熱硬化性組成物と硬化剤とを混合して得た注型成形用組成物を注入し、一定時間加熱して、注型成形用組成物を硬化させて注型成形板を得る。
型板としては、注型成形に耐えうる強度を有するものであれば特に限定されないが、その材質としては、ガラス、ステンレス鋼など一般的に使用されるものが好ましい。
また、型板は、平行に配置され、かつ内側に位置する面が実質的に平滑なものである。ここで「実質的に平滑」とは、JIS B0601附属書1記載の十点平均粗さが5μm以下であることをいう。
【0083】
上述の製造方法で使用されるガスケットとしては、2枚の型板間の間隙を保持することができ、かつ注入された注型成形用組成物の漏れを防ぐことができれば制限されない。ガスケットの材質は、弾力性があり、重合時の加温や発熱に耐えることができ、十分な強度を有する上に、熱硬化性組成物に接しても膨潤や溶解しないものが好ましい。
このような材質としては、例えば、塩化ビニル樹脂やシリコンゴム等が挙げられる。また、ガスケットにおいて、その表面に平行に切断したときの断面形状には特に限定がなく、例えば、丸形、角形であってもよいし、さらには、中空であってもよい。
2枚の型板間の間隔は特に限定されず、通常1〜120mmである。
【0084】
注型成形用組成物を硬化させる際には、適宜好適な硬化条件を選択できる。好ましい硬化温度は70〜110℃、さらに好ましくは80〜100℃の熱媒を用いて30分間〜2時間、型板周囲を加熱することが好ましい。さらに、この加熱の後、型板に挟んだ状態で、好ましくは100〜140℃、さらに好ましくは100℃〜120℃の温度範囲で加熱して重合させることが好ましい。また、このときの加熱時間は1時間以上であることが好ましい。
【0085】
なお、上述した製造方法の例では、型枠として、平行に配置され、内側面が実質的に平滑な2枚の型板間に、ガスケットを挟み込んだものを用いたが、本発明ではこれに限定されない。例えば、凹凸が形成された2枚の型板を使用してもよいし、ガスケット以外のもので型板の間隔を調整してもよい。
【0086】
本発明の熱硬化性組成物と硬化剤等の添加物とを配合した熱硬化性組成物を所望の注型用の型に注入し、加熱硬化させることによって、例えば、人造大理石を形成することができる。本発明の成形品の製造方法により得られた成形品は、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボールなどに広く利用することができる。
【0087】
<硬化反応>
該結果に繋がる明確な機構は不明であるが、主成分であるラジカル硬化性樹脂成分の直接的な充填剤との相互作用が重要であると考えている。
【0088】
すなわち、α−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物及び該重合体は、α位に置換されたヘテロ原子からなる置換基が、重合することにより近接した多数の弱い相互作用サイトとなり、まるで溶媒和するかのごとくに充填剤を安定的に分散状態にするものと考えられる。
【0089】
また、α−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物においては、α位に置換基を有する重合性の低いイタコン酸基やα−アルキルアクリル基などとは違いα位に置換されたヘテロ原子の電子的効果及び立体的効果により重合性が向上し、アクリル系に匹敵する重合性をもつ基であること。特にα−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する化合物と光開始剤の組み合わせにより、酸素の重合阻害の影響が大幅に低減でき、高感度化し保存安定性がよい光重合性組成物を得られること、それは、重合成長速度定数や停止速度定数や開始剤とのマッチングによる連鎖成長末端が酸素と反応しにくい等の理由によるものであることが、特開2001−92127により開示されているが、充填剤を含有した際の熱硬化性においては十分に理解されていない。
すなわち、充填剤を含有する場合、重合性成分の含有率が下がるため、通常は充填剤無添加に対し、硬化性(重合性)が低下することが一般的であるが、本発明においては、低下のないことが確認された。
この点においては、上述の充填剤との相互作用が、擬似架橋構造をとり、むしろ熱硬化性を補助することに効いて、本来、充填剤を入れた場合に硬化性が低下するところを相殺したものと考えている。
【実施例】
【0090】
以下、具体的に実施例と比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特にことわりのない限り「%」は重量%を、「部」は重量部を表すものとする。
【0091】
(実施例1)
表1の重合性化合物[X](A−15) x部
表1の高分子[Y](P−5) 8部
トリメチロールプロパントリアクリレート 92−x部
からなる組成物100部に対して、
充填剤:結晶性シリカ(クリストバライト 粒径5〜40μmの範囲に58.4重量%を含有 OAKAMOOR XPF6SM WBB MINERALS(株)製)
150部
消泡剤:BYK−A515(ビックケミー・ジャパン(株)製) 0.2部
UV吸収剤:TINUVIN 234(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
0.1部
を添加し、スリ−ワンモ−タ−(新東科学社製)にて1時間混練して、本発明の熱硬化性組成物を得た。
【0092】
<分離状態の観察>
得られた熱硬化性組成物を40℃で7日間保持した後、1時間撹拌し、目視により樹脂成分と結晶性シリカの分離状態を観察した。樹脂成分と結晶性シリカの分離状態は、以下のように評価した。結果を表1に示す。
○:分離層が認められない。
×:分離層が認められる。
【0093】
得られた熱硬化性組成物を用いて注型成形による成形品を製造した。
まず、熱硬化性組成物100部に、硬化剤(化薬アクゾ(株)製「パ−カドックス16」)0.4部、硬化剤(化薬アクゾ(株)製「ラウロックス」)0.2部を添加し、真空脱泡したものを注型用コンパウンドとした。
次に、10mm厚のガラスセルに該コンパウンドを注入し、70℃の温水中で1時間硬化させた。さらに、90℃で1時間、引き続き110℃で2時間、オ−ブン中でアフタ−キュアして、成形品を得た。
【0094】
<耐水性の評価>
得られた成形品を80℃の温水中に500時間浸漬させ、浸漬前後の色差(ΔE)を測定した。色差(ΔE)の値が小さいほど耐水性に優れる。製品としての耐水性の許容レベルは1以下である。結果を表1に示す。
【0095】
<硬化性の評価>
110℃で2時間のオーブンによるアフタキュアをした場合としない場合において、上記の耐水性評価を行い比較した。アフタキュアしない場合でも、色差(ΔE)が小さく、変化のない場合を硬化性良好と判断する。製品としての硬化性の許容レベルは1以下である。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例2〜12、比較例1〜4、7及び8)
表1に記載の重合性化合物Xをx部、高分子Yを8部、及びトリメチロールプロパントリアクリレートを92−x部用いた。それ以外は実施例1と同様にして、分散状態、耐水性及び硬化性を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例5〜6)
表1に記載の重合性化合物[X]をx部、高分子[Y]を8部、及びトリメチロールプロパントリアクリレートを92−x部用いた以外は実施例1と同様にして熱硬化性組成物を得た。熱硬化性組成物にさらに、ビックケミー・ジャパン(株)製の不飽和ポリカルボン酸ポリマー「BYK−W935」(不揮発分51%、酸価180mgKOH/g)を0.1重量部、分散安定剤として添加した。それ以外は実施例1と同様にして、分散状態、耐水性及び硬化性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表中の記号は以下に示す通りである。
X1:メタクリル酸メチル/A−15=50/50(%)
X2:メタクリル酸メチル/D−12=70/30(%)
T1:n−ブチルメタクリレート
T2:メタクリル酸メチル/ヘキサンジオールジメタクリレート=70/30(%)
T3:メタクリル酸メチル/ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート=70/30(%)
PMMA:ポリメタクリル酸メチル Mw7.0万
MMA:メタクリル酸メチル
【0100】
表1に示す結果より本発明の熱硬化性組成物は、充填剤の分散安定性良好であり、特に充填剤を含む注型成形用の熱硬化性組成物において、高硬化性、高耐水性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物、
式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子又はその他の付加重合性高分子、及び、
充填剤、を含有することを特徴とする
熱硬化性組成物。
【化1】

式(I)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【化2】

式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【請求項2】
前記X1の該ヘテロ原子が、酸素原子又は窒素原子である請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記X1が、酸素原子及び窒素原子を併せて2つ以上含有する請求項1又は2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
前記X1が、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合、ウレタン結合及びウレア結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの結合を有する有機残基又はポリマー鎖である請求項1〜3いずれか1つに記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
揺変性付加重合体を含まない請求項1〜4いずれか1つに記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1つに記載の熱硬化性組成物を硬化して得られた注型成形品。
【請求項7】
注型成形品の製造方法であって、
請求項1〜5いずれか1つに記載の熱硬化性組成物と硬化剤とを混合し、注型成形用組成物を調製する工程、
前記注型成形用組成物を型に注入する工程、及び、
前記注入した注型成形用組成物を加熱して硬化させる工程を含むことを特徴とする
注型成形品の製造方法。

【公開番号】特開2008−201891(P2008−201891A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39390(P2007−39390)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】