説明

熱硬化性組成物

(a)少なくとも1種のリン非含有ジヒドロベンゾオキサジン成分;(b)少なくとも1種の第四アンモニウム塩;および(c)必要に応じて少なくとも1つのエポキシ基を含む化合物;を含んでなる熱硬化性組成物が開示されている。これらの組成物から製造される硬化生成物は、有用な化学的特性、物理的特性、および機械的特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のリン非含有ジヒドロベンゾオキサジン成分と芳香族N複素環化合物の少なくとも1種の第四アンモニウム塩とを含む熱硬化性組成物に関する。本発明はさらに、該熱硬化性組成物を、成形品を製造するのに使用することや、樹脂トランスファー成形法に使用することのほかに、表面塗料、複合材料、積層品、注型用樹脂、プレプレグ、プリント基板用プレプレグ、パイプ用塗料、樹脂トランスファー成形法のための樹脂、飛行機の翼、回転翼の羽根、電子部品向けまたは自動車用途もしくは航空宇宙用途向けのマトリックス樹脂、あるいは電子部品向けまたは自動車用途もしくは航空宇宙用途向けの接着剤として使用することに関する。本発明はさらに、該熱硬化性組成物から製造される硬化生成物、および製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドロベンゾオキサジン成分は、プレプレグ、積層品、成形材料、RTM(樹脂トランスファー成形)システム、シーラント、焼結粉末、注型品、複合部品、ワニス、表面塗料、または含浸法、塗被法、積層法、もしくは成形法による電気・電子部品を製造するのに使用されており、満足のいく結果が得られている。
【0003】
ジヒドロベンゾオキサジン成分は、幾つかのよく知られている方法にて、ビスフェノールと第一アミンおよびホルムアルデヒドとの反応によって容易に得ることができ、このとき該プロセスは、溶媒の存在下でも(例えば、米国特許第5,152,993号または米国特許第5,266,695号を参照)、あるいは溶媒の非存在下でも(例えば米国特許第5,543,516号を参照)行うことができる。こうした種類の熱硬化性樹脂を魅力的なものにする有用な特性を得るべくジヒドロベンゾオキサジン樹脂を硬化させるための種々の硬化剤(例えば、ノボラック、ポリエポキシド、またはポリアミン等)が知られている。
【0004】
ヨーロッパ特許出願第0789056A2号は、ポリフェノールのジヒドロベンゾオキサジンを含んでなる、硬化適性が改良された熱硬化性樹脂組成物(例えば、ノボラック樹脂またはビスフェノールA樹脂、およびノボラックフェノール樹脂)を開示している。該組成物は、接着剤として、あるいは成形品、塗料、封止剤、プリント基板用プレプレグ、ならびに、低い吸水性、改良された不燃性、および高い耐熱性を有するメタルクラッド積層板を製造するために使用される。しかしながら、ポリヒドロキシ官能性ノボラックをジヒドロベンゾオキサジン樹脂のための硬化剤として使用すると、望ましくない高反応性(短いゲル化時間)をもたらすことがあり、そしてさらには、高度に架橋した樹脂をもたらすことがある。高度の架橋は脆性を高めるので望ましくない。
【0005】
国際公開WO2006/035021A1号は、ポリマーを製造するための、フェノールフタレインをベースにしたビスジヒドロベンゾオキサジンを開示しており、これらのビスジヒドロベンゾオキサジンは高い温度安定性と優れた不燃性を示す。重合は、チアジプロピオン酸、フェノール類、またはスルホニルジフェノール等の触媒の存在下で行うことができる。しかしながら、第四アンモニウム塩を触媒として使用することは、国際公開WO2006/035021A1号には説明されていない。
【0006】
国際公開WO02/057279A1号は、エポキシ樹脂と有望な硬化剤としての第四アンモニウム塩とを含んでなるリン含有ジヒドロベンゾオキサジン樹脂組成物を開示している。しかしながら、リンを含有するジヒドロベンゾオキサジン樹脂システムは、ゲル化時間が長くて反応エンタルピーが低く、このため該樹脂システムは、高反応性塗料や成形の用途には不向きとなる。
【0007】
特に樹脂トランスファー成形法の場合は、熱硬化性組成物を液体状態もしくは溶融液状態に保持できることが望ましい。したがって、プロセスにおける液体状態もしくは溶融液状態の段階にて、熱硬化性組成物が速やかに硬化しないことが必要である。しかしながら、いったん製品が造形されたら、温度を上昇させるやいなや熱硬化性組成物が速やかに硬化することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,152,993号
【特許文献2】米国特許第5,266,695号
【特許文献3】米国特許第5,543,516号
【特許文献4】ヨーロッパ特許出願第0789056A2号
【特許文献5】国際公開WO2006/035021A1
【特許文献6】国際公開WO02/057279A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、温度上昇させたときの加工性と反応性の増大との間の良好なバランスを示す熱硬化性組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、自動車産業や航空宇宙産業における用途にとって特に重要であるTgの上昇を示す熱硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、特定の第四アンモニウム塩が、少なくとも1つ(好ましくは2つ)のジヒドロベンゾオキサジン基を有する成分〔特にビス(ジヒドロベンゾオキサジン)化合物〕の重合に対して優れた触媒である、ということが見出された。得られる熱硬化性組成物は、より高い反応性を示すと同時に、温度を上昇させたときの加工性を保持をする。さらに驚くべきことに、本発明の熱硬化性組成物は、反応性が増大するにもかかわらず、最良の潜伏時間と貯蔵安定性を示す、ということが見出された。したがって本発明の熱硬化性組成物は、1つの容器で貯蔵・出荷することができ、このことは経済的な利点であり、ユーザーにとってはより一層好都合である。さらに、成形操作(例えばプレス成形)時の加工性と制御が改良され、この結果寸法精度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施態様は、(a)少なくとも1種のリン含有ジヒドロベンゾオキサジン成分;および(b)i)1つ又は2つの窒素原子を含む芳香族N複素環化合物のカチオンと、ii)アニオンとを含む少なくとも1種の第四アンモニウム塩;を含んでなる熱硬化性組成物である。
【0012】
成分(a)
本発明の熱硬化性組成物の必須成分は、少なくとも1つのジヒドロベンゾオキサジン基を含むリン含有成分(a)である。
【0013】
好ましくは、成分(a)は、ビス(ジヒドロベンゾオキサジン)、すなわち2つのジヒドロベンゾオキサジン基を含んでなる化合物である。
より好ましくは、成分(a)は、以下の式(I)で示されるビス(ジヒドロベンゾオキサジン)である:
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、
各Rは、独立して、C−C18アルキル、C−C12シクロアルキル、C−Cアルキルで置換されたC−C12シクロアルキル、あるいは、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C18アリールであり;
各Rは、独立して、水素、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、C−C18アルキル、C−C18アルケニル、C−C18アルコキシ、C−C18アルコキシ−C−C18アルキレン、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12シクロアルキル、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール、あるいは、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール−C−C18アルキレンであり;
は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、−N(R)−、−O−C(O)−、−O−C(O)−O−、−S(O)−O−、−O−S(O)−O−、C−C18アルキレン、C−C18アルケンジイル、C−C12シクロアルキレン、C−C12シクロアルキレンジイル、−Si(OR−、および−Si(R−から選択される二価の架橋基であり;
は、H;C−C12アルキル;CまたはCシクロアルキル;メチル、エチル、もしくはフェニルで置換されたCまたはCシクロアルキル;ベンジル;あるいはフェニルエチ−2−イルである〕。
【0016】
基R〜Rが、アルキル、アルコキシ、またはアルコキシ−アルキレンであるとき、それらのアルキル、アルコキシ、またはアルコキシ−アルキレン基は、直鎖であっても、あるいは分岐鎖であってもよく、1〜12個の炭素原子を含有してよく、1〜8個の炭素原子を含有するのがさらに好ましく、1〜4個の炭素原子を含有するのが最も好ましい。
【0017】
アルキル基の例は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、種々のペンチル異性体、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、およびオクタデシルである。
【0018】
適切なアルコキシ基は、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、種々のペンチルオキシ異性体、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、トリデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ペンタデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、ヘプタデシルオキシ、およびオクタデシルオキシである。
【0019】
アルコキシ−アルキレン基の例は、2−メトキシエチレン、2−エトキシエチレン、2−メトキシプロピレン、3−メトキシプロピレン、4−メトキシブチレン、および4−エトキシブチレンである。
【0020】
シクロアルキルは、C−Cシクロアルキルが好ましく、特に好ましいのはCもしくはCシクロアルキルである。C−Cシクロアルキルの幾つかの例としては、シクロペンチル、メチルで置換されたシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルがある。
【0021】
アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、およびアントラニルである。
アリール−アルキレン基は、7〜12個の炭素原子を含有するのが好ましく、7〜11個の炭素原子を含有するのが特に好ましい。アリール−アルキレン基は、ベンジル、フェニルエチレン、3−フェニルプロピレン、α−メチルベンジル、4−フェニルブチレン、またはα,α−ジメチルベンジルからなる群から選択することができる。
【0022】
は、C−C12アルキル、C−Cシクロアルキル、1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−Cシクロアルキル、あるいは、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C10アリールであるのが好ましい。
【0023】
本発明のより好ましい実施態様においては、Rは、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、あるいはアリール部分が1つ以上のメチル基もしくはメトキシ基で置換されたフェニルまたはベンジルである。
【0024】
本発明によれば、Rがイソプロピル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、またはフェニルである場合の式(I)の成分が好ましい。
式(I)の成分中のRは水素であるのが好ましい。
【0025】
シクロアルキレンXは、2〜4の縮合炭素環及び/又は架橋炭素環を有するポリシクロアルキレンであってよい(例えば、ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタニレンやトリシクロ−[2,1,0]−デカニレン)。
【0026】
は、直接結合であるのが好ましく、あるいは−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、C−Cアルキレン、およびC−C12アルケンジイルから選択される二価の架橋基であるのがさらに好ましい。
【0027】
S含有架橋基が燃焼抵抗性(flammability resistance)を向上させ、該抵抗性が要求される場合は、S含有架橋基を選定することができる、ということが見出された。
は、H;C−C12アルキル;CまたはCシクロアルキル;メチル、エチル、もしくはフェニルで置換されたCまたはCシクロアルキル;ベンジル;あるいはフェニルエチ−2−イルである。
【0028】
好ましい実施態様では、Rは、C−Cアルキル、シクロヘキシル、フェニル、またはベンジルから選択される。
本発明の好ましい実施態様によれば、成分(a)は、それぞれのヒドロキシル基に対して少なくとも1つの未置換オルト位を有する未置換もしくは置換ビスフェノールと、ホルムアルデヒドおよび第一アミンとの反応によって製造されるビス(ジヒドロベンゾオキサジン)である。
【0029】
ビスフェノールをベースとするビス(ジヒドロベンゾキサジン)はよく知られていて、市販されており、よく知られていて公開された方法に従って製造することができる。
未置換もしくは置換ビスフェノールは、ヒドロキノン、レソルシノール、もしくはカテコールから、または、以下の式(II)のビスフェノールから選択するのが好ましい:
【0030】
【化2】

【0031】
〔式中、
は、独立して、水素、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、C−C18アルキル、C−C18アルケニル、C−C18アルコキシ、C−C18アルコキシ−C−C18アルキレン、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12シクロアルキル、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール、あるいは、アリール部分が、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール−C−C18アルキレンであり;
は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、−N(R)−、−O−C(O)−、−O−C(O)−O−、−S(O)−O−、−O−S(O)−O−、C−C18アルキレン、C−C18アルケンジイル、C−C12シクロアルキレン、C−C12シクロアルキレンジイル、−Si(OR−、および−Si(R−から選択される二価の架橋基であり;
は、H;C−C12アルキル;CまたはCシクロアルキル;メチル、エチル、もしくはフェニルで置換されたCまたはCシクロアルキル;ベンジル;あるいはフェニルエチ−2−イルである〕。
【0032】
式(II)中のRは、独立して、式(I)中のRと同じ好ましい意味を有してよい。
式(II)中のRは、独立して、式(I)中のRと同じ好ましい意味を有してよい。Rは、特に、水素またはC−Cアルキル(例えば、メチルやエチル)である。
【0033】
は、直接結合であるか、あるいは−O−、−S−、−S(O)−、−C(O)−、−N(R)−、C−Cアルキレン(例えば、メチレンや1,2−エチレン)、C−Cアルケンジイル(例えば、エテンジイル、1,1−プロペンジイル、2,2−プロペンジイル、1,1−ブテンジイル、2,2−ブテンジイル、1,1−ペンテンジイル、2,2−ペンテンジイル、3,3−ペンテンジイル、1,1−ヘキセンジイル、2,2−ヘキセンジイル、または3,3−ヘキセンジイル)、またはC−Cシクロアルケンジイル(例えば、シクロペンテンジイル、シクロヘキセンジイル、またはシクロオクテンジイル)から選択される二価の架橋基であるのが好ましく、ここでRは、水素またはC−Cアルキルであるのが好ましい。
【0034】
燃焼抵抗性の改良が必要とされるならば、Xは、−S−と−S(O)−から選択される二価の架橋基である。
ビス(ジヒドロベンゾオキサジン)を製造するのに使用されるビスフェノールの幾つかの好ましい例は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、(4−ヒドロキシフェニル)C(O)(DHBP)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)チオエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、フェノールフタレイン、およびビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ−[2,1,0]−デカンである。
【0035】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、成分(a)は、以下の式(III)〜(XII)の成分またはこれら成分のいずれかの混合物からなる群から選択される:
【0036】
【化3−1】

【0037】
【化3−2】

【0038】
[Xは、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、−N(R)−、−O−C(O)−、−O−C(O)−O−、−S(O)−O−、−O−S(O)−O−、C−C18アルキレン、C−C18アルケンジイル、C−C12シクロアルキレン、C−C12シクロアルケンジイル、−Si(OR−、および−Si(R−から選択される二価の架橋基であり;
は、H;C−C12アルキル;CまたはCシクロアルキル;メチル、エチル、もしくはフェニルで置換されたCまたはCシクロアルキル;ベンジル;あるいはフェニルエチ−2−イルであり;
は、独立して、C−C18アルキル、C−C12シクロアルキル、C−Cアルキルで置換されたC−C12シクロアルキル、あるいは、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C18アリールであり;
は、独立して、H、エテニル、またはアリルである]。
【0039】
成分(a)は、本発明の熱硬化性組成物中に、熱硬化性組成物の総重量を基準として最大で98重量%の量にて存在してよく、40〜95重量%の範囲の量にて存在するのが好ましく、50〜90重量%の範囲の量にて存在するのがさらに好ましく、60〜85重量%の範囲の量にて存在するのが最も好ましい。
【0040】
成分(b)
本発明の熱硬化性組成物のさらなる必須成分は、i)1つ又は2つの窒素原子を含む芳香族N複素環化合物のカチオンと、ii)アニオンとを含んでなる第四アンモニウム塩である成分(b)である。
【0041】
成分(b)として定義される第四アンモニウム塩は、例えば、ヨーロッパ特許出願第0066543号およびヨーロッパ特許出願第0673104号に開示のように得ることができる。
【0042】
芳香族複素環式窒素含有化合物の塩は、非求核性アニオン〔例えば、BF、PF、SbF、SbF(OH)、およびAsF等の錯ハロゲン化物アニオン〕を有するのが好ましい。芳香族複素環式窒素含有化合物の例は、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、およびこれらのアルキル誘導体とアリール誘導体、ならびにこれらのベンゾ誘導体とナフト誘導体等の、特に6員の窒素含有複素環化合物である。
【0043】
第四アンモニウム塩(b)は、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フタラジン、キナゾリン、アクリジン、フェナントリジン、およびフェナントロリンから選択される、置換もしくは未置換の芳香族N複素環化合物のカチオンi)を含むのが好ましい。第四アンモニウム塩は、置換もしくは未置換のキノリニウム塩であるのが好ましい。カチオンi)は、複素環N原子の少なくとも1つが、アルキル、アリール、アルコキシ−アルキレン、アリール−アルキレン、アルカノイル、およびベンゾイルからなる群から選択される、置換もしくは未置換の残部で置換された芳香族N複素環化合物であるのがさらに好ましい。
【0044】
本発明の好ましい実施態様によれば、第四アンモニウム塩(b)は、以下の式(XIII)、(XIV)、および(XV)から選択されるカチオンを含む:
【0045】
【化4】

【0046】
(式中、
は、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンであり;
、R、R10、R11、およびR12のそれぞれは、互いに独立して、水素、C−Cアルキル、またはフェニルであるか、あるいはRとR、またはRとR10、またはR10とR11、またはR11とR12が、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって縮合したベンゾ基、ナフト基、ピリジノ基、またはキノリノ基である)。
【0047】
は、メチル、エチル、n−プロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ドデシル、オクタデシル、ベンジル、フェニルエチ−2−イル、アセチル、およびベンゾイルからなる群から選択するのが好ましい。
【0048】
本発明の熱硬化性組成物はさらに、以下の式(XVI)〜(XXIV)の1つ以上から選択されるカチオンを含む少なくとも1種の第四アンモニウム塩(b)を含んでなるのが好ましい:
【0049】
【化5】

【0050】
(式中、Yは、−CH=または窒素原子であり;Rは、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンである)。
【0051】
上記の式(XIII)〜(XV)および(XVI)〜(XXIV)において、Rに対するC−C18アルキルは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、またはtert−ブチルであるのが好ましく、そしてRに対する、アリール部分が未置換であるアリール−C−Cアルキレンは、ベンジルまたはフェニルエチ−2−イルであるのが好ましい。
【0052】
特に好ましいのは、次の式のカチオンを含む第四アンモニウム塩(b)である:
【0053】
【化6】

【0054】
(式中、各R13は、互いに独立して、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンである)。
【0055】
好ましい実施態様によれば、第四アンモニウム塩(b)は、好ましくは非求核性アニオン〔例えば錯ハロゲン化物アニオン;BF、PF、SbF、およびSbF(OH)からなる群から選択するのが最も好ましい〕であるアニオンii)を含む。
【0056】
1つ以上のハライドが、1つ以上の電子求引基(−F、−CF、−OCF、−NO、およびこれらの混合物から選択するのが好ましい)で置換されたフェニル基で置き換えられた場合のホウ素ハロゲン化物錯体もしくはリンハロゲン化物錯体も、アニオンii)として使用することができる。
【0057】
以下に記載するのは、使用する上で好ましい第四アンモニウム塩の具体例である:1−メチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチルキノリニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−メチルキノリニウムヘキサフルオロアーセネート、1−メチルキノリニウムペンタフルオロヒドロキシアンチモネート、1−メチルキノリニウムテトラフルオロボレート、1,2−ジメチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンゾイルメチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンゾイルメチルキノリニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−2,3−ジフェニルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1,2−ジメチル−3−フェニルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンゾイル−2−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エトキシエチルキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、2−メチルイソキノリニウムヘキサフルオロホスフェート、10−メチルアクリジニウムヘキサフルオロホスフェート、10−ベンゾイルメチルアクリジニウムヘキサフルオロホスフェート、10−ブチルアクリジニウムヘキサフルオロホスフェート、5−メチルフェナントリジニウムヘキサフルオロホスフェート、5−ベンゾイルメチルフェナントリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチルナフチリジウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−2,3−ジフェニルキノキサリニウムヘキサフルオロホスフェート、1,2,3−トリメチルキノキサリニウムヘキサフルオロホスフェート、1,2,4,6−テトラメチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−2,4−ジフェニルピリミジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−2,5−ジフェニルピリダジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチルフェナントロリニウムヘキサフルオロホスフェート、5−ブチルフェナジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチルキノキサリニウムヘキサフルオロホスフェート、および1−ベンゾイルメチルキノキサリニウムヘキサフルオロホスフェート。
【0058】
本発明の好ましい実施態様によれば、熱硬化性組成物は、第四アンモニウム塩(成分(b))を、熱硬化性組成物の総重量を基準として最大で15重量%の量にて含み、1〜13重量%の範囲の量にて含むのがさらに好ましく、2〜10重量%の範囲の量にて含むのが最も好ましい。
【0059】
成分(c)
本発明の熱硬化性組成物は、少なくとも1つのエポキシ基(好ましくは2つ以上のエポキシ基)を含む化合物である成分(c)をさらに含んでよい。
【0060】
成分(a)、(b)、および(c)を含む熱硬化性組成物は、大幅に改良された反応性を示し、この結果、高いガラス転移温度(Tg)を有する熱硬化生成物が得られる、ということが見出された。
【0061】
エポキシ樹脂、および、特に、架橋エポキシ樹脂の製造に使用されるタイプのジエポキシドとポリエポキシドとエポキシ樹脂プレポリマーがとりわけ重要である。ジエポキシドとポリエポキシドは、脂肪族化合物であっても、脂環式化合物であっても、または芳香族化合物であってもよい。このような化合物の例は、脂肪族または脂環式のジオールもしくはポリオール〔例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、または2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキセニル)プロパン〕のグリシジルエーテルとβ−メチルグリシジルエーテル;およびジフェノールとポリフェノール〔例えば、レソルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン、ノボラック、または1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン〕のグリシジルエーテルである。
【0062】
工業的に重要な他のグリシジル化合物は、カルボン酸(好ましくは、ジカルボン酸とポリカルボン酸)のグリシジルエステルである。これらの例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、または二量化脂肪酸のグリシジルエステルがある。
【0063】
グリシジル化合物とは異なるポリエポキシドの例としては、ビニルシクロヘキセンとジシクロペンタジエンのジエポキシド、3−(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸の3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチルエステル、ブタジエンジエポキシド、イソプレンジエポキシド、エポキシ化リノール酸誘導体、またはエポキシ化ポリブタジエンがある。
【0064】
好ましいエポキシ樹脂は、ジヒドロキシフェノールまたは2〜4個の炭素原子を有するジヒドロキシ脂肪族アルコールのジグリシジルエーテルまたはアドバンスド(advanced)ジグリシジルエーテルである。特に好ましいエポキシ樹脂は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンのジグリシジルエーテルまたはアドバンスドジグリシジルエーテルである。
【0065】
本発明の好ましい実施態様によれば、熱硬化性組成物は、少なくとも1種の脂環式エポキシ成分を含む。下記の式(XXV)〜(XXIX)
【0066】
【化7】

【0067】
によって示される成分の群から選択される脂環式エポキシ成分が特に好ましい。最も好ましいのは、式(XXIX)によって示される脂環式エポキシ成分である。
本発明の好ましい実施態様によれば、熱硬化性組成物は、25℃で液体であるエポキシ成分(成分(c))を含む。液体エポキシ成分は、反応性希釈剤として使用することができ、熱硬化性組成物の加工性を向上させることができる。熱硬化性組成物は、最大で2500mPa・sの、さらに好ましくは最大で1000mPa・s(特に50〜1000mPa・s、例えば150〜500mPa・s)の粘度を有する少なくとも1種の液体エポキシ成分を含むのが好ましい(粘度は、ISO12058−1:1997に従って、25℃での動的粘度として測定)。
【0068】
本発明の好ましい実施態様によれば、熱硬化性組成物は、成分(a)と(b)と(c)を含み、成分(b)と、成分(a)と(c)の合計との重量比が1:1000〜1:10である。成分(a)とエポキシ基含有成分(c)との重量比は95:5〜10:90であるのが好ましい。
【0069】
他の好ましい実施態様は、成分(a)と第四アンモニウム塩(b)との重量比が100:1〜10:2、さらに好ましくは50:1〜10:1、特に40:1〜15:1である場合の熱硬化性組成物である。
【0070】
少なくとも1つのジヒドロベンゾオキサジン基を含むリン非含有成分(a)とエポキシ化合物(c)との重量比が、好ましくは15:1〜2:3である場合の、そして特に好ましくは8:1〜2:1である場合の熱硬化性組成物は好ましい実施態様を示す。
【0071】
成分(c)は、熱硬化性組成物の総重量を基準として最大で55重量%の量にて存在するのが好ましく、10〜50重量%の範囲の量にて存在するのがさらに好ましく、15〜40重量%の範囲の量にて存在するのが最も好ましい。
【0072】
成分(d)
驚くべきことに、さらに熱ラジカル開始剤〔成分(d)〕(例えば、ピナコール、またはそのエーテルを誘導体、エステル誘導体、もしくはシリル誘導体)を使用するのが有利である、ということが見出された。こうした化合物は広く知られており、公知の方法によって製造することができる。化合物(d)は、1,1,2,2−置換−1,2−エタンジオール〔例えば、1,1,2,2−テトラフェニル−1,2−エタンジオール〕およびベンゾピナコールジメチルエーテルであるのが好ましい。
【0073】
本発明の熱硬化性組成物は、成分(d)を、熱硬化性組成物の総重量を基準として最大で20重量%の量にて含むのが好ましく、1〜15重量%の範囲の量にて含むのがさらに好ましく、3〜12重量%の範囲の量にて含むのが最も好ましい。
【0074】
通常の添加剤を加えることによって、熱硬化性樹脂の特性を特定の用途に適応させることができる。下記の添加剤が特に重要である:強化用繊維〔例えば、短繊維、ステープルファイバー、スレッド、布帛、またはマットという通常の形態でのガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、鉱物繊維、合成繊維(ケブラー、ノメックス)、もしくは天然繊維(例えば、亜麻、ジュート、サイザル、または大麻)〕;可塑剤(特にリン化合物);無機フィラー〔例えば、酸化物、炭化物、窒化物、シリケートと塩(例えば、石英粉末や溶融シリカ)、酸化アルミニウム、ガラス粉末、マイカ、カオリン、ドロマイト、カーボンブラック、またはグラファイト〕;顔料と色素;微小中空球;金属粉末;難燃剤;消泡剤;スリップ剤;粘度調整剤;接着促進剤;および離型剤。
【0075】
本発明の熱硬化性組成物はさらに、特に積層用組成物や表面塗料組成物として使用されるときに、溶剤もしくは溶剤混合物を含んでよい。特に適している溶剤の例としては、メチルエチルケトン、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ペンタノール、ブタノール、ジオキソラン、イソプロパノール、メトキシプロパノール、メトキシプロパノールアセテート、ジメチルホルムアミド、グリコール、グリコールアセテート、トルエン、およびキシレンからなる群から選択されるものがある。特に好ましいのはケトンとグリコールである。一般に、積層用組成物は、組成物の総重量を基準として20〜30重量%の溶剤を含む。
【0076】
本発明の熱硬化性組成物は、プレプレグや積層品を製造するために、あるいはホットメルト成形法を適用するために、約130〜200℃(好ましくは150〜200℃、特に160〜180℃)の温度で硬化もしくは予備硬化させることができる。
【0077】
本発明のさらなる目的は、本発明の熱硬化性組成物を、表面塗料、複合材料、積層品、注型用樹脂、プレプレグ、プリント基板用プレプレグ、パイプ用塗料、樹脂トランスファー成形法のための樹脂、飛行機の翼、回転翼の羽根、電子部品向けのマトリックス樹脂もしくは接着剤、または自動車用途もしくは航空宇宙用途向けの樹脂として使用することである。
【0078】
本発明の熱硬化性組成物は、例えば、自動車産業と航空宇宙産業における電気・電子工業向けの、あるいは多くの製品(例えば、パイプやパイプライン)の表面保護のための成形品もしくは被覆品または複合材料を製造するのに、溶剤非含有の注型用樹脂、表面塗料樹脂、積層用樹脂、成形用樹脂、引抜成形用樹脂、封入用樹脂、および接着剤として使用することができる。
【0079】
本発明のさらなる実施態様は、本発明の熱硬化性組成物を、成形品の製造のために、あるいは樹脂トランスファー成形法のために使用することである。
プレプレグもしくはB段階樹脂およびRTM(樹脂トランスファー成形)システムから複合材料を製造するのに、本発明の熱硬化性組成物を使用するのが特に好ましい。
【0080】
組成物の硬化と含浸・積層プロセスを以下に説明する。
(1)本発明の熱硬化性組成物を、ローリング、浸漬、噴霧、もしくは他の公知の方法、及び/又はこれらの組み合わせによって支持体に塗被するかあるいは含浸させる。支持体は一般に、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維、または紙を含む織布マットもしくは不織布マットである。
【0081】
(2)含浸させた支持体を、熱硬化性組成物中の溶剤(存在する場合)を蒸発させるに足る温度に、そしてベンゾオキサジン配合物を部分硬化させるに足る温度に加熱することによって「B段階にする」(したがって、含浸支持体が取り扱いやすくなる)。「B段階化」工程は、通常、80℃〜190℃の温度にて1分〜15分にわたって行われる。「B段階化」により生じる含浸支持体を「プレプレグ」と呼ぶ。温度は、最も一般的には、複合材料の場合が90℃〜110℃であり、電気積層品の場合が130℃〜190℃である。
【0082】
(3)プレプレグの1枚以上のシートを互いの上に積み重ねるか、あるいは電気積層品が求められる場合は、導電性材料(銅箔)の1枚以上のシートと交互に積み重ねる。
(4)レイドアップシート(laid-up sheets)を、高温・高圧にて、樹脂を硬化させて積層品を形成するに足る時間にわたってプレスする。積層工程の温度は、通常は100℃〜240℃であり、165℃〜190℃であることが最も多い。積層工程はさらに、2つ以上の段階で行うこともできる(例えば、第1段階が100℃〜150℃で、第2段階が165℃〜190℃)。圧力は通常、50N/cm〜500N/cmである。積層工程は、通常は1分〜200分で行い、45分〜90分で行うことが最も多い。積層工程は、必要に応じて、より高い温度にてより短い時間にわたって行うこともできるし(例えば連続積層法において)、あるいはより低い温度にてより長い時間にわたって行うこともできる(例えば低エネルギープレス法において)。
【0083】
(5)必要に応じて、こうして得られる積層品(例えば銅クラッド積層品)を、高温と周囲圧力にてある時間にわたって加熱することによって後処理することができる。後処理の温度は、通常は120℃〜250℃である。後処理時間は通常30分〜12時間である。
【0084】
被覆用の固体支持体は、金属、金属合金、木材、ガラス、鉱物(例えば、シリケート、コランダム、または窒化ホウ素)、およびプラスチックから選択することができる。
硬化樹脂は、高い耐薬品性、高い耐食性、高い機械抵抗、高い耐久性、高い硬度、高い靱性、高いフレキシビリティ、高い耐熱性もしくは温度安定性(高いガラス転移温度)、低い燃焼性、支持体に対する高い接着性、および高い離層抵抗を有する。
【0085】
本発明のさらなる実施態様は、本発明の熱硬化性組成物から製造される硬化生成物である。
本発明のさらに他の実施態様は、a)布帛を供給する工程;b)布帛に本発明の熱硬化性組成物を含浸させる工程;およびc)含浸布帛を硬化させる工程;を含む、製品の製造方法である。
【0086】
布帛は、炭素繊維、ガラス繊維、および鉱物繊維からなる群の材料を含むか、あるいは前記群のある材料からなるのが好ましい。製品は、例えば、航空宇宙部品、自動車部品、プロトタイプ、または構造用部品(特に軽量構造物の場合)である。工程a)における布帛は、成形品の形で供給されるのが好ましい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
(A)熱硬化性組成物の製造
実施例A1〜A3および比較例C1〜C4
ジヒドロベンゾオキサジン成分(a)と第四アンモニウム塩成分(b)と必要に応じたエポキシ化合物(c)との混合物(重量部にて)を、必要であれば130〜140℃で溶融させ、充分に撹拌して混合する。このような均一混合物のゲル化時間を、ホットプレート上にて190℃で測定する。混合物を、オーブン中190℃にて120分硬化させ、引き続き220℃でさらに120分硬化させる(実施例A1〜A3および比較例C1〜C4を参照)。
【0088】
結果を下記の表1と表2に示す。
表1は、本発明による実施例A1〜A3と比較例C1〜C3を示す。A1〜A3は、加熱すると、反応性が高いために比較的短いゲル化時間を示す。特に、エポキシ化合物が追加的に使用されるときは、飛び抜けて高いガラス転移温度が得られる。さらに、DSCにおいて発熱硬化を観察することができる温度(開始温度)と、反応の最大速度を観察することができる温度(ピーク温度)との間の差は比較的小さい。こうした挙動により、本発明の熱硬化性組成物は、形成させようとする所望の製品形状を形づくるためにある特定の液体状態が要求され、そして後続する硬化プロセスにおいて速やかな硬化が要求され、これにより高いガラス転移温度(硬化後のTg)を有する硬化樹脂が得られる、という樹脂トランスファー成形法に対して特に有用なものとなる。
【0089】
開始温度とピーク温度との差は、システムの反応性を示す(差が小さいほど反応性が高い)。
【0090】
【表1】

【0091】
表2は、リン含有ジヒドロベンゾオキサジンを含む熱硬化性組成物である比較例C4を示す。記載の成分の量は、重量部にて表示している。
【0092】
【表2】

【0093】
比較例C4は、本発明の熱硬化性組成物A1〜A3と比較して、硬化後により低いガラス転移温度を示す。比較例C4はさらに、加熱すると分解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のリン非含有ジヒドロベンゾオキサジン成分;
(b)i)1つ以上の窒素原子を含む芳香族N複素環化合物のカチオンと、ii)アニオンとを含む少なくとも1種の第四アンモニウム塩;
を含んでなる熱硬化性組成物。
【請求項2】
成分(a)がビス(ジヒドロベンゾオキサジン)である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
成分(a)が式(I)
【化1】

〔式中、各Rは、独立して、C−C18アルキル、C−C12シクロアルキル、C−Cアルキルで置換されたC−C12シクロアルキル、あるいは、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C18アリールであり;各Rは、独立して、水素、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、C−C18アルキル、C−C18アルケニル、C−C18アルコキシ、C−C18アルコキシ−C−C18アルキレン、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12シクロアルキル、未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール、あるいは、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上のC−Cアルキル基もしくはC−Cアルコキシ基で置換されたC−C12アリール−C−C18アルキレンであり;Xは、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、−N(R)−、−O−C(O)−、−O−C(O)−O−、−S(O)−O−、−O−S(O)−O−、C−C18アルキレン、C−C18アルケンジイル、C−C12シクロアルキレン、C−C12シクロアルキレンジイル、−Si(OR−、および−Si(R−から選択される二価の架橋基であり;Rは、H;C−C12アルキル;CまたはCシクロアルキル;メチル、エチル、もしくはフェニルで置換されたCまたはCシクロアルキル;ベンジル;あるいはフェニルエチ−2−イルである〕
のビス(ジヒドロベンゾオキサジン)である、請求項1または2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
第四アンモニウム塩(b)が、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フタラジン、キナゾリン、アクリジン、フェナントリジン、およびフェナントロリンから選択される置換もしくは未置換の芳香族N複素環化合物のカチオンを含む、請求項1〜3の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
第四アンモニウム塩(b)が、式(XIII)、(XIV)、または(XV)
【化2】

(式中、Rは、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンであり;R、R、R10、R11、およびR12のそれぞれは、互いに独立して、水素、C−Cアルキル、またはフェニルであるか、あるいはRとR、またはRとR10、またはR10とR11、またはR11とR12が、それらが結合している2つの炭素原子と一緒になって縮合したベンゾ基、ナフト基、ピリジノ基、またはキノリノ基である)
のカチオンを含む、請求項1〜4の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
が、メチル、エチル、n−プロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ドデシル、オクタデシル、ベンジル、フェニルエチ−2−イル、アセチル、およびベンゾイルからなる群から選択される、請求項5に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
第四アンモニウム塩(b)が、Yが−CH=または窒素原子である場合の式(XVI)〜(XXIV)
【化3】

(式中、Rは、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンである)
の1つ以上から選択されるカチオンを含む、請求項1〜6の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
第四アンモニウム塩(b)が、下記の式
【化4】

(式中、R13は、互いに独立して、C−C18アルキル、アリール部分が未置換であるか又は1つ以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のC−C12アルキルで置換されたアリール−C−Cアルキレン、C−Cアルコキシ−C−Cアルキレン、C−C12アルキルオキシ、C−C12アルキルカルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、C−C15アルコキシ−C−Cアルキレン、またはベンゾイル−メチレンである)
のカチオンを含む、請求項1〜7の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
第四アンモニウム塩(b)が、BF、PF、SbF、およびSbF(OH)からなる群から選択されるアニオンii)を含む、請求項1〜8の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
少なくとも1つのエポキシ基を有する成分(c)をさらに含む、請求項1〜9の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
成分(a)と第四アンモニウム塩(b)との重量比が100:1〜10:2である、請求項1〜10の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1〜11の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物の、成形品を製造するための、あるいは樹脂トランスファー成形法のための使用。
【請求項13】
請求項1〜11の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物の、表面塗料、複合材料、積層品、注型用樹脂、プレプレグ、プリント基板用プレプレグ、パイプ用塗料、樹脂トランスファー成形法のための樹脂、飛行機の翼、回転翼の羽根、電子部品向けまたは自動車用途もしくは航空宇宙用途向けのマトリックス樹脂、あるいは電子部品向けまたは自動車用途もしくは航空宇宙用途向けの接着剤としての使用。
【請求項14】
請求項1〜11の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物から製造される硬化生成物。
【請求項15】
(a)布帛を供給する工程;
(b)布帛に請求項1〜11の少なくとも一項に記載の熱硬化性組成物を含浸させる工程;
(c)含浸布帛を硬化させる工程;
を含む、製品の製造方法。

【公表番号】特表2013−508485(P2013−508485A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534606(P2012−534606)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064057
【国際公開番号】WO2011/047929
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504177804)ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】