説明

熱硬化防音塗料組成物

【課題】振動を抑え防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種の産業製品の充填材として使用でき、振動を吸収し、周囲に対する騒音源となり難くする防音アンダーコート機能プラス吸音機能を持ち、1液として塗布可能な熱硬化防音塗料組成物を提供する。
【解決手段】表面20Aに形成された微細孔21を有する表層20と、表層20よりも深い内部に形成され、微細孔21の容積よりも大きな容積を有する音響空孔14とを具備し、音響空孔14の一部が微細孔21に連通し、表層20の微細孔21及び音響空孔14によって吸音特性及び/または遮音特性を持たせ、このとき、液状未架橋ゴムは音響空孔14として音響空孔14のサイズを制御する。架橋によって表面20Aの孔を内部の音響空孔14より小さく制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車、電気製品、機械装置等に使用する塗料等の吸音特性に優れた構造物に関するもので、特に、自動車以外にも、工具の一部またはその筺体、機械的構造体及びその筺体、技術的に可動であるパーツを備える内燃機関、電動機、変圧器等の構造体、自動車等の車両の車体表面や吸音壁等の弾性構造体から発生する騒音等を吸収する熱硬化防音塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、工具の一部またはその筺体、機械的構造体及びその筺体、技術的に可動であるパーツを備えるエンジン、変圧器等の構造体、自動車等の車両の車体表面や吸音壁等の弾性構造体は、通常、振動にさらされ、それらに発生する音の影響が空気を媒体として伝えられる。特に、自動車の車外騒音は規制が厳しくなる一方にあり、自動車から近隣住民に排出される車外騒音(エンジンノイズ、タイヤノイズ、マフラーノイズ等)は低減させることが急務となっている。
【0003】
将来、内燃機関から電気自動車のみに移行していったとき、内燃機関のエンジンノイズ及び排気ガスを排出するマフラーノイズからは自然に開放される。しかし、このタイヤと路面との接触によって生じるタイヤノイズ(ロードノイズ)からは開放の可能性は皆無である。
図4は現在のタイヤノイズの発生を示す図で、タイヤと路面との接触によって直接発生するものばかりでなく、ホイルハウスに反射して外部に出るものがある。一方、ホイルハウス側からすれば、タイヤノイズのみではなく、エンジンノイズ及び排気ノイズの一部を反射し、車外騒音の発生源となっている。
【0004】
このような騒音対策としては、特許文献1に自動車のセンタピラー等の内部に、風切り音等を遮音する目的で発泡体が充填され、高い発泡倍率で発泡する構造物を開示している。また、タイヤが跳ね上げた小石等の衝突、及び水溜まり走行時の泥水等の飛散、衝突等からフェンダーを保護するフェンダーライナには、合成樹脂の成形板を用いているのが一般的である。しかし、合成樹脂の成形板は吸音性能が低く、共鳴を起こすため遮音性能が低いことから、エンジンノイズ及びロードノイズが十分に低減されない。また、合成樹脂の成形板は、小石等の衝突及び泥水等の飛散、衝突等の衝撃を、人に聞こえ易い周波数域の音に変えるため、合成樹脂を用いたフェンダーライナは防音性能が低い。このため、フェンダーライナのフェンダー側となる表面のうちの所定箇所に、不織布等からなる吸音材を貼着し、防音性能を向上させたフェンダーライナも知られている。
そこで、特許文献2では、自動車の走行時にタイヤが跳ね上げた小石、土砂等の衝突音及び水溜まり走行時の泥水等の飛散、衝突によるスプラッシュノイズ等を緩和することができ、十分な剛性を有するため前輪側のフェンダーに取付けたときでも風圧に耐え、かつ、付着した水が凍って着氷したときでも氷が剥離し易いフェンダーライナを提供している。
【0005】
そして、特許文献3は、広い周波数域に亙って高い吸音性能を達成することは非常に困難であり、例えば、多孔質吸音材の吸音特性は高周波数域(約4000Hz以上)に適合しているから、中周波数域以下の吸音性能を上げるには、吸音材の厚みを増す必要がある。しかしながら、そのように厚みを増やすと吸音材の嵩が高くなり、重量が増加し、吸音構造体の設置に制約が生じる。また、多孔質吸音材に他の膜材料や吸音材を組み合わせる方法は、多孔質吸音材の吸音プロファイルを変更して中周波数域の吸音性能を向上させるのに効果的であるが、それに伴って本来優れていた高周波数域の吸音性能が低下することにもなる。そこで、人間の耳の感度が高い中周波数域から高周波数域で吸音性能が優れた、薄型で軽量の吸音構造体を、複数の開口部を持つ板状体と板状体上に配置される薄膜とを有し、音源側に配置される複合膜吸音材と、複合膜吸音材に隣接配置される多孔質吸音材とを有する吸音構造体とし、前記薄膜は厚みが2〜50μmで、弾性率が1×106〜5×109Paとしたものである。
【0006】
更に、特許文献4は、アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤、ブロック型ウレタン樹脂、硬化剤及び発泡剤を含有することにより、アクリル重合体微粒子が主構成単位となって、ポリ塩化ビニル系プラスチゾルを主構成単位とする防音アンダーコートの焼却時に塩化水素ガスやダイオキシンを発生することのない防音アンダーコート用アクリルゾルとすることができる。また、アクリル重合体微粒子がコア−シェル型である場合、調製されたアクリルゾルの貯蔵安定性がより向上し、塗布時の粘度上昇や、加熱硬化後のブリード発生もより抑制することができる防音アンダーコート用アクリルゾルとすることができる。結果、焼却時に塩化水素ガスやダイオキシンを発生させることがなく、耐寒性と自動車鋼板との接着性が良好で、かつ、優れた耐チッピング性能と防音性能とを発揮するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−59345号公報
【特許文献2】特開2009−274711号公報
【特許文献3】特開2010−14888号公報
【特許文献4】特開2001−329208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、自動車のセンタピラー等の内部に、風切り音等を遮音する目的で発泡体が充填されるものであり、車内の騒音の低減には直接繋がるものの、車外の騒音防止、即ち、吸音効果に対する影響は殆ど効果が確認できない。
また、特許文献2は、自動車の走行時にタイヤが跳ね上げた小石、土砂等の衝突音、及び水溜まり走行時の泥水等の飛散、衝突によるスプラッシュノイズなどを緩和することができ、風圧に耐えるフェンダーライナを提供しているが、ホイルハウス内での吸音を不織布材で対応するものであるから、このフェンダーライナは車内へのチッピングノイズ、ロードノイズの低減が主な目的であり、車外騒音に対する効果は期待できない。
そして、特許文献3は、複数の開口部を持つ板状体と、その板状体上に配置される薄膜からなる複合膜吸音材と、その複合膜吸音材に配置される多孔質吸音材とを有する吸音構造体とし、前記薄膜は厚みが2〜50μmであり、弾性率が1×106〜5×109Paとしたものであるから、実施する場合には、板状体面に形成する薄膜、当該薄膜に形成する複合膜吸音材の接合が必要となり、それらを張り合わせる多層構造の接着工程が必要となり、生産性が良くなかった。
更に、特許文献4は、アンダーフロアへの小石等が衝突する際に発生する衝撃音の緩和(チッピングノイズ低減)は可能になるが、防音アンダーコート用アクリルゾルの表面に吸音性能がないので車外騒音の低減効果は期待できない。
【0009】
即ち、例えば、工具の構造体の一部またはその筐体、機械及びその筐体、可動部分を有するパーツを備えるエンジン、変圧器等の筐体、自動車の車体表面や吸音壁等といった自動車の弾性構造体は、直接振動に曝され、また、音の影響を空気を介して伝えられる。特に、将来、エンジン駆動ではなく電気自動車だけになったとき、エンジンノイズ及びマフラーノイズからは開放されるがタイヤと路面との接触によって生じるタイヤノイズ(ロードノイズ)から開放される可能性はゼロである。タイヤからのノイズは自動車のホイルハウス内にて共鳴・反響現象(フラッターエコー現象)が生じ、増幅された音波として拡散されるため、ホイルハウス内で吸音対策する必要がある。
但し、このフェンダーライナは車内へのチッピングノイズ、ロードノイズ低減が主な目的であるため、車外騒音への効果が不足している。また、車外騒音対策は人の耳に敏感な800〜3000Hzという中音域の吸音性能が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、振動を抑え防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種の産業製品の充填材またはコーティング材として使用でき、振動を吸収し、周囲に対する騒音源となり難くする防音機能プラス吸音機能を持ち、1液としても塗布可能な熱硬化防音塗料組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1にかかる発明は、被塗物に塗布し加熱することで、表面に微細孔を形成した表層と、前記表層の前記微細孔に連通し、前記表層よりも深い内部に位置し、前記微細孔よりも大きな容積を有する多孔質層の音響空孔によって吸音性能を持たせた発泡構造体を形成する熱硬化防音塗料組成物は、熱硬化性樹脂と発泡剤と液状未架橋ゴムを含有し、加熱による前記発泡剤の発泡とともに前記液状未架橋ゴムの架橋が進行することで、前記表層の前記微細孔の制御を行うものである。
ここで、表層の微細孔と連通し、前記微細孔を有する前記表層より深い内部に多孔質層が位置し、その容積が前記表層の微細孔の容積よりも大きな容積を有する多孔質層の音響空孔とは、ランダムな形状及びサイズを有し、前記表層の微細孔が形成する容積と多孔質層の音響空孔の容積との個々の比較において、個々の音響空孔の容積が大であることを特定するものである。なお、多孔質層の音響空孔の容積も、一定ではなくランダムな形状及びサイズとして複数種類有している。
そして、前記表層の微細孔と、前記表層よりも内部に位置した前記表面の微細孔より大きなランダムな音響空孔は、熱硬化性樹脂の発泡体で形成することができる。
更に、液状未架橋ゴムは、熱硬化防音塗料組成物を構成している。この液状未架橋ゴムは、塗布の際には液状であるから粘性が低く、その塗布を容易にしている。また、架橋によってゴム弾性を発現し表面の孔を内部の孔より小さく制御することができる。
【0012】
請求項2にかかる発明は、前記熱硬化防音塗料組成物が、ウレタン樹脂を主成分としていることにある。
【0013】
請求項3にかかる熱硬化防音塗料組成物のウレタン樹脂は、分子量が10000〜30000Mwのものとしたものである。
ここで、発泡ガスを効率よく内包するためには、分子量1000〜30000Mwが好ましく、10000〜20000Mwがより好ましい。分子量が1000Mwを下回ると、硬化時にガスを閉じ込めることができず、また、30000Mwを上回ると吸音効果の高い構造体が得られない。したがって、分子量1000〜30000Mwが特定され、生産性及び品質管理からすれば、10000〜20000Mwがより好ましい。
【0014】
請求項4にかかる熱硬化防音塗料組成物のウレタン樹脂は、ブロックウレタン樹脂としたものである。
【0015】
請求項5にかかる熱硬化防音塗料組成物の液状未架橋ゴムの配合量を、対ウレタン重量比で1%〜20%としたものである。
【0016】
請求項6にかかる熱硬化防音塗料組成物の発泡剤は、OBSH(P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)を使用したものである。
ここで、発泡剤にOBSHを使用するとOBSHの分解によって発生する硫黄Sが液状未架橋ゴムの架橋剤の役割を果たし、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明にかかる熱硬化防音塗料組成物は、被塗物に塗布し加熱することで、表面に微細孔を有する表層と、前記表層の前記微細孔に連通し、前記表層よりも深い内部に位置し、前記微細孔よりも大きな容積を有する多孔質層の音響空孔を形成して吸音性能を持たせた発泡構造体を形成する熱硬化防音塗料組成物は、熱硬化性樹脂と発泡剤と液状未架橋ゴムを含有し、加熱による前記発泡剤の発泡とともに前記液状未架橋ゴムの架橋が進行することで、前記表層の前記微細孔の制御を行うものである。
したがって、被塗物に塗布し加熱すると、熱硬化防音塗料組成物に含まれた発泡剤が発泡することで、表面に微細孔を有する表層と、前記表層よりも深い内部に位置し、前記微細孔の容積よりも大きな容積を有する多孔質層の音響空孔とを具備し、前記音響空孔の一部が前記微細孔に連通し、前記表層の微細孔及び前記音響空孔によって防音機能を持った発泡構造体を形成することができる。
ここで、液状未架橋ゴムは、塗布の際、未架橋の液状であるから粘性が低く塗布を容易にし、発泡とともに進行する架橋によってゴム弾性が次第に発現することで表面の微細孔を内部の音響空孔より小さく制御することができる。
したがって、熱硬化防音塗料組成物は、振動を抑え防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種の産業製品の充填材として使用でき、振動を吸収し、周囲に対する騒音源となり難くする防音機能を持った発泡構造体を形成できる。したがって、防音を必要とする部材、部位等の被塗物に塗布することで形成でき、事前の成形が不要となる。
なお、本発明の「防音」の概念中には「吸音」、「遮音」も含まれる。
【0018】
請求項2の発明にかかる熱硬化防音塗料組成物は、ウレタン樹脂を主成分としている。ウレタン樹脂を主成分とすることで発泡制御がしやすくなり、発泡構造体が形成しやすくなる。したがって、熱硬化防音塗料組成物は、振動を抑え防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種の産業製品の充填材として使用でき、振動を吸収し、周囲に対する騒音源となり難くする防音機能持った構造体を熱硬化防音塗料組成物で形成することができる。
【0019】
請求項3の発明にかかる熱硬化防音塗料組成物の主成分となるウレタン樹脂は、分子量が10000〜30000Mwの樹脂としたものである。特に、分子量が1000Mwを下回ると、硬化時にガスを閉じ込めることができず、また、分子量が30000Mwを上回ると吸音効果の高い構造体が得られないから、発泡ガスを効率よく内包するように発泡させるには、分子量10000〜30000Mwのものを使用するのが好ましい。
【0020】
請求項4にかかる熱硬化防音塗料組成物は熱硬化性樹脂としてブロックウレタン樹脂を主成分としている。主成分をブロックウレタン樹脂とすることで熱硬化防音塗料組成物を1液化することができる。つまりブロックウレタン樹脂は、通常は硬化反応を起こす反応基がブロックされているため硬化反応が起こらず液状のままであるが、加熱等の操作が加わったときに反応基のブロックが解除されて硬化反応が進行する。このような特性を有するブロックウレタン樹脂を主成分とすることで熱硬化防音塗料組成物を1液化することができ、作業性が向上する。
【0021】
請求項5にかかる熱硬化防音塗料組成物の液状未架橋ゴムは、対ウレタン重量比を1%〜20%としたものである。
ここで、前記液状未架橋ゴムは、発泡構造体を構成するときの補助剤となり、表層の微細孔形成を容易にすることができる。ここで液状未架橋ゴムの添加量が対ウレタン重量比で1%未満ではゴム弾性の効果が少なく、また、20%を越えるとゴム弾性の効果が大きく影響して十分な防音特性を持った発泡構造体の形成が困難となる。また、液状未架橋ゴムを添加することで無添加に比べて発泡倍率を2倍以上に効率を上げることができ、発泡ウレタンと組み合わせた場合の表面空孔の面積比率、大きさをその添加量で制御することができる。即ち、吸音率、吸水率、吸音周波数帯特性を制御できる。
【0022】
請求項6にかかる熱硬化防音塗料組成物の発泡剤として、OBSH(P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)を使用したものであるから、OBSHの分解によって発生する硫黄が液状未架橋ゴムの架橋剤の役割を果たし、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の実施の形態の熱硬化防音塗料組成物によって形成した発泡構造体について、原理を理解し易くした基本原理を示す説明図で、(a)は基本原理を説明する模式図であり、(b)はヘルムホルツ共鳴体の基本的構成を説明する模式図で、(c)はヘルムホルツ共鳴体を構成しない音響空孔の模式図である。
【図2】図2は本発明にかかる実施の形態の熱硬化防音塗料組成物により形成した発泡体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面の微細孔部分、(b)は内部の音響空孔部分を示すものである。
【図3】図3は本発明にかかる実施の形態の熱硬化防音塗料組成物により形成した発泡構造体の表面に形成された微細孔と多孔質層の音響空孔との関係を示す説明図である。
【図4】図4は一般的に自動車のタイヤが発する雑音の発生状況を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0025】
[基本原理]
まず、図1を用いて本発明の熱硬化防音塗料組成物によって形成した発泡構造体1について模式図を使って説明する。
図1(a)において、多孔質層10は、複数のランダムな形状及び容積を有する音響空孔14を有している。ここでは説明上、音響空孔14を円柱状の大孔11、中孔12、小孔13として説明する。
音響空孔14がある多孔質層10の外側には多孔質層10に接して表層20が存在し、表層20には、その表面20Aに微細孔21が形成される。この微細孔21は円形に限定にされるのではないが、説明の容易さから円形としている。この微細孔21の径は、複数でランダムな容積を有する音響空孔14の径よりも小さい。即ち、ランダムな微細孔21の算術平均した平均径は、ランダムな音響空孔14の算術平均した平均径よりも小さいことを意味する。
【0026】
図1(a)、(b)、(c)から分かるように、多孔質層10の音響空孔14は発泡構造体1の表面20Aより深い内部に位置し、音響空孔14の一部が円柱状の連通路22によって微細孔21と連通している。つまり、音響空孔14の一部が円柱状の連通路22によって微細孔21を通じて発泡構造体1の外部と連通し、残りの音響空孔14は表層20と接した閉鎖空間となっている。なお、大孔11、中孔12、小孔13で示した音響空孔14の複数でランダムな容積はどれも、微細孔21とこれに続く連通路22を合わせた容積より大きくなっている。
【0027】
ここで、微細孔21を円形とし、これに続く連通路22を円柱状としているが、本発明を実施する場合には、微細孔21を円柱状とし連通路22を円形とした構造でもよい。また、音響空孔14の大孔11、中孔12、小孔13は説明上、円柱状の空間としたが、本発明を実施する場合の音響空孔14は、均一な孔となることを前提とするものではなく、大孔11、中孔12、小孔13のように各種の大きさ及び形状が混在しているものを前提とする。また、形状も円柱状のような一定の形状に限定するものではなく、球体、長円体、楕円体等の各種の形状が混在するものでも良い。したがって、この多孔質層10の音響空孔14は、微細孔21及び連通路22より大きなものであれば形状、大きさは限定されない。更に、微細孔21及び連通路22も、音響空孔14より小さくなるものであればその形状、大きさは限定されるものではない。ここで円形の観念は厚み(幅もしくは長さと言い換えても良い)がない概念であるが、円形の微細孔21または連通路22は、実施上は限りなくゼロに近いものからある程度の厚みを有するものまで、厚みを有したものである。つまり微細孔21、連通路22、音響空孔14のそれぞれは熱硬化防音塗料組成物を発泡させたときの気泡及び気泡の繋がりによって形成されるものである。
【0028】
次に、吸音特性を図1(b)及び図1(c)を用いて説明する。
振動によって発生した音(騒音)が空気を伝って発泡構造体1に伝播すると、音の一部は図1(b)に示す微細孔21の空気を振動させる。このとき微細孔21及び連通路22の径が音響空孔14の径より小さく、更に、微細孔21及び連通路22の容積が音響空孔14の容積より小さくなっている。つまり、音響空孔14内への通気は、音響空孔14に比べ通気しづらい(流れ抵抗値が高い)微細孔21及び連通路22を通過することになる。この通気しづらい微細孔21に音が伝播すると、微細孔21及び連通路22の空間と音響空孔14内の空間との相互作用によって共鳴が起こり、これによって伝播した音のうち、共鳴が起こった特定の周波数が減衰し吸音、遮音され、防音機能が発現する。このような共鳴を起こすものをヘルムホルツ共鳴体と呼び、図1(b)に示したような構造体がこれに該当する。
更に、発泡構造体1に伝播した残りの音は、図1(c)に示したように、音響空孔14に接した表層20を共振させる。この共振によっても伝播した音の特定の周波数は減衰し吸音、遮音される。図1(c)に示したような構造も防音機能を有するが上述したヘルムホルツ共鳴によるものとは異なり周波数領域が異なるため幅広い防音が可能となる。
【0029】
また、音響空孔14は熱硬化防音塗料組成物を発泡させて形成された多孔質層10である。したがって、一部の音響空孔14は音響空孔14同士が連通しているものもある。このため音響空孔14に伝播した音は更に別の音響空孔14へと伝播する。この際、音の伝播エネルギが多孔質層10内の空気の流れ抵抗(通気抵抗)によって減少させられる。更に、多孔質層10は伝播した音によって振動させられ、この振動によっても周波数は減衰し、結果、吸音、遮音され、防音が成される。このように、吸音、遮音によって防音効果が生まれるため、本発明の熱硬化防音塗料組成物とは吸音、遮音を含めた防音特性を有する塗料組成物の意味である。
このとき、図1(c)のときに説明したように微細孔21等の空間による共鳴による吸音と、表層20の共鳴による吸音の音を吸収する周波数が異なり、また、多孔質層10で吸音される周波数も異なる。したがって、騒音中に含まれる音の周波数のうち幅広い範囲の周波数を吸収し、効率の良い吸音特性、つまり防音特性が得られる。
【0030】
更に、本発明では、音響空孔14の容積は各種の大きさを備えているため、より幅広い範囲の周波数を吸収可能な吸音特性を持った構造物となっている。勿論、音響空孔14の大きさ(容積)を所定の範囲内に制御することで、減衰する音の周波数を制御でき、所望の吸音特性を得ることができる。本発明の場合は自動車等から発せられる騒音を抑制するため、表層20の微細孔21を音響空孔14より小さく制御し、表層20での空間共鳴、及び表層20の膜共振をさせることで、人の可聴周波数領域である中周波領域の吸音特性を向上させている。
【0031】
[実施の形態]
次に、本発明の実施の形態における発泡構造体1を形成する熱硬化防音塗料組成物について説明する。
表面20Aに微細孔を有する表層20と、表層20の微細孔21に連通し、表層20よりも深い内部に形成され、微細孔21よりも大きな容積を有する多孔質層10の音響空孔14によって吸音性能を持たせた発泡構造体1を形成する熱硬化防音塗料組成物は、次の組成を有している。
【0032】
本発明の熱硬化防音塗料組成物は熱硬化性樹脂と、この熱硬化性樹脂を発泡させるための発泡剤と、発泡時の弾性を制御する補助剤として液状未架橋ゴムと、必要に応じて配される各種フィラーや添加剤を構成材料としている。ここで熱硬化性樹脂としては発泡させやすいウレタン樹脂が好ましく、特に、ブロックウレタン樹脂を使用すると、ブロックウレタン樹脂は、通常は硬化反応を起こす反応基がブロックされているため硬化反応が起こらず液状のままであるが、加熱等の操作が加わったときにブロックされた反応基が解除されて活性化し硬化反応が進行する。このようなブロックウレタン樹脂を主成分とすることで、使用しないときでは液状を維持した熱硬化防音塗料組成物とすることができ、使用時には加熱等の操作によって硬化反応が起こるため、硬化時に硬化剤等の添加を必要としない1液化を可能とする。このような1液の熱硬化防音塗料組成物とすることで吸音、遮音、防音を必要とする場所、部位の形状を問題とすることなく必要な所に必要なだけ塗布が可能となり、加熱等の外的負荷を与えることでブロックウレタン樹脂の反応のブロックが外れて硬化が進行し吸音、遮音、さらには防音特性を有する構造物の提供が可能となる。このため使用時に硬化のために硬化剤等の混合を行う必要がなく取り扱いが容易となる。
【0033】
ブロックウレタン樹脂として、ブロックウレタン樹脂のイソシアネート類を特に限定するものではないが、吸音効果の高い音響空孔14を形成するためには、例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)またはMDI(ジフェニルマタンジイソシアネート)が好ましく、なかでも、TDIがより好ましい。
ここで、ウレタン樹脂の分子量は、発泡ガスを効率よく内包するためには1000〜30000Mwが好ましく、10000〜20000Mwがより好ましい。即ち、分子量が1000Mwを下回ると、硬化時にガスを閉じ込めることが困難となる。逆に、分子量が30000Mwを上回ると吸音効果の高い構造体が得られなくなる。発明者等の実験によれば、添加量は5%〜90%重量部、好ましくは、発泡状態から生産性及び品質管理を評価すると、10%〜50%重量部が好ましいことが判明した。
本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物としては、分子量1000〜30000Mwの5%〜90%重量部のブロックウレタン樹脂を使用している。
なお、一般に、例えば、2液ウレタン樹脂では水を発泡剤として使用する場合があるが、自動車塗装工場等の乾燥ラインに使用するとウレタン樹脂を硬化する前に水が揮発してしまうという問題点があった。しかし、本発明においては、発泡剤を添加して発泡構造を得ているためこのような問題は起こらない。
【0034】
また、本発明の実施の形態における発泡構造体1を形成する熱硬化防音塗料組成物は発泡時の補助剤として液状未架橋ゴムを添加している。即ち、液状未架橋ゴムは熱硬化防音塗料組成物が発泡する時の溶融粘度を制御し、特に、表層の微細孔の制御を容易にしている。更に詳しく説明すると、熱硬化防音塗料組成物を加熱すると、加熱によって熱硬化防音塗料組成物内に含有している発泡剤が熱によって分解し、このときの分解ガスによって発泡が起こる。この際、液状未架橋ゴムは加硫剤と加熱によって次第に加硫による架橋が進み、ゴム弾性が発現するようになる。加熱が十分され熱硬化防音塗料組成物の硬化が終了する時には液状未架橋ゴムの加硫も終了し液状未架橋ゴムは架橋ゴムへと変化し、熱硬化防音塗料組成物は、液状未架橋ゴムを添加しない場合に比べて、ゴム弾性がより強く付与された状態になる。この弾性付与によって熱硬化防音塗料組成物の発泡体の気孔または気泡は発泡ガスが抜けて圧力が低下したとき弾性変形によって収縮し易くなる。特に発泡ガスが外部へ抜ける表面では圧力が略無くなった状態となるため顕著となり易い。したがって表面の気孔は内部の気孔に比べて小さく制御しやすくなり、前述したように効果的な吸音特性を有する構造物の形成を容易としている。このように液状未架橋ゴムは微細孔形成のための補助剤となる。液状未架橋ゴムとしてはポリブタジエン、イソプレン、ポリスルフィドゴムなどの液状ゴムが使用できるが、本実施の形態では入手が容易であるポリブタジエンを用いている。
【0035】
本実施の形態ではウレタン樹脂に対しウレタン重量比で1%〜20%の液状未架橋ゴムを添加している。1%未満ではゴム弾性の効果が少なく微細孔の制御が難しく、20%を越えるとゴム弾性の効果が大きくなりすぎ内部の音響空孔を所望の大きさに制御することが難しくなる。更に、好ましくは5%〜10%の範囲である。
さらに、ウレタン樹脂に対するウレタン重量比1%〜20%とした液状未架橋ゴムは、無添加に比べて発泡倍率を大きくする効果があり、かつ、発泡ウレタンと組み合わせた場合、表面20Aの微細孔21の空孔率、音響空孔14の大きさを制御し、吸音率、吸水率、吸音周波数帯域を任意に設定できる。本実施の形態のポリブタジエンでは無添加に比べて発泡倍率は2倍以上大きくすることができる。
【0036】
発泡剤は、ADCA(アゾジカルボンアミド)、OBSH等の有機発泡剤、炭酸水素ナトリウム等の無機発泡剤、低沸点溶剤等を内包するマイクロカプセル等が使用できる。これらの発泡剤を1又は2以上組み合わせて用いることができ、防音特性が必要な場所の部材、部位等被塗物の使用条件、環境条件に合わせて発泡開始温度を調整することができる。ここで、発泡剤としてOBSHを選択した場合には、分解時に硫黄の生成が起きるため加硫剤を不要或いは減量することが可能となる。
【0037】
発泡剤のウレタン樹脂に対する含有量は、ウレタン樹脂に対する重量比3%〜30%が好ましく、5%〜20%がより好ましい。勿論、必要に応じて発泡助剤を添加することができる。尿素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、二塩基性亜燐酸塩、酸化鉛などの金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸などの加硫促進剤、ステアリン酸、オレイン酸等の長鎖アルキル酸、ジエタノールアミンやジシクロヘキシルアミン等の有機アミンを使用することができる。この発泡助剤を添加は、対発泡剤量比で10%〜100%が望ましい。
本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物に用いられる発泡剤は、ウレタン樹脂に対する含有量をウレタン樹脂に対する重量比3%〜30%としたものである。3%未満では十分な発泡ができず、30%を超えると十分な防音特性が得難くなる。
【0038】
本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物は必要に応じて増量・強化・機能付与のために、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、タルク、マイカ、ワラスト、グラファイト等フィラーを添加できる。これ以外にも、目的に応じて着色顔料、価格、強度、透明な樹脂の不透明化、断熱化、導電化、絶縁化、生分解化等の機能を付与することができる。
加えて、安定剤、吸水剤、難燃剤、防錆剤、可塑剤、添加剤を加えることができる。
【0039】
このように、本発明にかかる熱硬化防音塗料組成物は、加熱によって硬化反応が進行する熱硬化性樹脂と、発泡時の熱硬化防音塗料組成物に弾性特性を付与する補助剤としての液状未架橋ゴムと、加熱によって所望の温度にて熱分解し分解ガスを発生する発泡剤と、必要に応じて添加されるフィラーや添加剤によって構成されている。このような構成物である熱硬化防音塗料組成物を防音等が必要となる場所の必要な部位(被塗物)に塗布し、加熱することで発泡構造体が形成される。
【0040】
こうして形成された発泡構造体1は、表面に微細孔21を有する表層20と、表層20よりも深い内部には、微細孔21の容積よりも大きな容積を有する多孔質層10の音響空孔14とを具備し、音響空孔14の一部が微細孔21に連通し、表層20の微細孔21及び音響空孔14によって吸音特性及び/または遮音特性を持たせることができ、効率的な防音が可能となる。したがって、防音等が必要となる場所の必要な部位による制約を受けることがなく、さらには事前に必要な形状に形成する手間も要らない。
【0041】
特に、本実施の形態では液状未架橋ゴムを発泡時の補助剤として添加している。この液状未架橋ゴムは、塗布の際には液状のため粘性が低く塗布を容易にする。そして、加熱によって熱硬化性樹脂の硬化が進行するとともに発泡剤の熱分解によって発泡がはじまるが、液状未架橋ゴムも液状未架橋ゴムとともに添加されている加硫剤の作用による架橋が進行しゴム弾性が次第に強く発現してくるようになる。その結果、熱硬化防音塗料組成物はゴム弾性の度合いが強くなり発泡によって生じた孔を小さくする力が強く働くようになる。このような力が働きながら熱硬化性樹脂の硬化が進行することになる。したがって構造物の内部では発泡による発泡ガスの圧力によって気泡は押し広げられたまま硬化が進行するが、表面では発泡ガスが外部へ拡散するため圧力の影響を受け難く液状未架橋ゴムの架橋によって発泡ガスの抜けた孔はゴム弾性の弾性力の増加に伴って小さくなる。つまり液状未架橋ゴムの架橋による弾性力によって表面の孔を内部の孔より小さく制御することができる。しかも、発泡剤にOBSHを使用するとOBSHの分解によって発生する硫黄Sが液状未架橋ゴムの加硫剤の役割を果たし、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することが可能となる。
よって、熱硬化防音塗料組成物は、振動を抑え防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種の産業製品の充填材として使用でき、振動を吸収し、周囲に対する騒音源となり難くする防音機能を持った発泡構造体1を形成する。ここで熱硬化性樹脂としてブロックウレタン樹脂を使用すると、熱硬化防音塗料組成物を1液で塗布可能となる。
【0042】
次に、本実施の形態による熱硬化防音塗料組成物によって形成した構造体について説明する。図2は熱硬化防音塗料組成物による発泡構造体1の電子顕微鏡による写真である。(a)は表面の微細孔21の形成状態を観察した写真であり、(b)は、表層を削除し内部の音響空孔14の形成状態を観察した写真である。(a)の写真から分かるように微細孔21は表面の全域に大きさの異なる孔が部分部分に存在し、孔の空いていない部分を多く残している。これに対し音響空孔14は観察領域の全域に気泡(気孔)が存在している。このことから微細孔21の孔は音響空孔14より小さな孔であり、音響空孔14は微細孔21より大きな容積を有し、本発明が意図した防音構造を熱硬化防音塗料組成物によって形成することができることが分かった。
【0043】
そして、図3は表面に形成された微細孔21と音響空孔14との関係を示す説明図で、吸音率AVL(平均)並びに吸音率ピークの特定周波数を示している。
この吸音率とは、音波は物に当たると反射または吸収される。この音波の吸収のことを吸音という。この吸音の大きさを数値表現したのが吸音率である。吸音とは、材料内部で空気が振動する音エネルギが、熱エネルギに変換されて消滅することを意味する。即ち、特定の材料に音が入射すると、その一部は反射され、一部は透過し、一部は吸音される。材料の吸音性能をあらわす吸音率は、入射した音エネルギに対する反射されてこない音のエネルギの比率のことで、この吸音率は一般に0≦吸音率≦1までの値をとる。ここで、吸音率の評価は、JIS1405−2に準じて測定を行った。
また、図中の微細孔の空孔率小・中は本発明の実施の形態であり、微細孔無しは本発明の実施の形態から発泡剤の添加量を変えることによって作製し、微細孔の空孔率大は未架橋液状ゴムとしてのポリブタジエンの添加を無くすことで作製した。
【0044】
図2に示した発泡構造体1の表面20Aに空いた図2(a)に示す孔は、発泡構造体1の内部に空いた断面の空孔より小さい微細孔21であり、またその孔の径はランダムであり、電子顕微鏡の画像測定から1μm〜300μmの範囲内で分布している。発泡構造体1の内部に空いた断面は、無数の空孔がある多孔質状となっていて、微細孔21より大きな空孔を有していることから音響空孔14である。そして、音響空孔14は、その大きさが電子顕微鏡の画像測定から300μm以上の孔であることが判明した。ここで微細孔21及び音響空孔14は完全な円、球になっておらず歪な円、球になっている。また、微細孔21及び音響空孔14は単純に1個の孔ではなく、複数個の孔の集まりの場合もある。
【0045】
また、発泡構造体1の内部に形成された音響空孔14は内部の略全域に形成されているのに対し、微細孔21は表面20Aの一部に形成されている。このときの表面での空孔率は電子顕微鏡の画像測定から0.1%〜10%の範囲内であった。なお、図3に結果を示す実施の形態では、微細孔21の空孔率は1%〜6%の範囲内であった。
電子顕微鏡(SEM)で観察される表面は、発泡構造体1の表面の一部であり、これを電子顕微鏡にて測定することになるため、観察される部分によって微細孔21の出現の仕方は変化する。このため、発泡構造体1の表面20Aの測定部位をいくつか変えて測定を行っている。これは前述した音響空孔14の径の測定でも同様である。ここで、空孔率は、電子顕微鏡で観察できる表面中(観察面の全面積)に含まれる全ての微細孔21の孔の総面積の割合である。この空孔率から発泡構造体1の内部に形成された音響空孔14は、すべて表面の微細孔21に連通せず、部分的には微細孔21がない表層20に覆われていることが分かる。したがって、前述の模式図で説明したように、大きさの異なる空間による吸音(遮音共鳴)と表層20による表層膜の振動による吸音(膜共鳴)が本実施の形態によって行うことができる。
【0046】
このように空孔率が0.1%〜10%の範囲内であるため、表層20の密度は発泡構造体1の内部に略全域に亘って形成された音響空孔14、つまり多孔質層10の密度より高くなっている。ここで微細孔21の連通路22が図2の電子顕微鏡写真からは不明であるが、微細孔21と音響空孔14は発泡剤の分解ガスによって形成されていることから、音響空孔14から微細孔21への分解ガスの通り路が連通路22となる。そして、これらは発泡によって形成されるため、その大きさは発泡剤の種類、量及び樹脂の硬化を含めた特性や加熱時の温度によって制御することができる。更に、音響空孔14には別の音響空孔14に繋がる連結孔16が空いている(図示せず)。これは発泡時の分解ガスによってできる気泡は大きく成長して気泡同士が接触すると連通して連続気泡となる。この連続気泡によって多孔質層10が形成され、更にこの連続気泡の一部が表面に達した孔が微細孔21となる。このように音響空孔14同士が連結孔16で繋がることで空間共鳴の効果が増し、更に、多孔質層10による共鳴効果も加わって、より効率的な吸音特性が得られる。
【0047】
なお、本実施形態ではブロックウレタン樹脂を発泡させることで発泡構造体1の形成を1液で行っているが、発泡によって本発明に示したような微細孔21、連通路22、多孔質層10の音響空孔14を持つ構造を形成できる樹脂であればブロックウレタン樹脂に限定されるものでなく、2液ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂も使用可能である。特に、本実施の形態のように熱硬化性樹脂による発泡体が弾性を有していると、表層20及び多孔質層10の壁が伝播した音の周波数に応じて共鳴によって振動しやすく、この共振によって音の伝播エネルギが共振エネルギに使われて音の伝播が減衰するため良好な吸音特性を示す。
【0048】
更に、本実施の形態では熱硬化性樹脂を主成分とした組成物を騒音発生源または騒音発生源近傍の必要部位(被塗物)に塗布した後、組成物を発泡させて構造物にする塗布型の発泡構造体1にすることで、従来のフェルト等の成形品のように成形の手間や必要部位への取付作業を軽減すると共に、塗布後に構造物を形成するため取付部位の形状の制約を受けることがない。しかし、従来品同様に成形した後取り付けることもできる。また、本実施の形態では発泡構造体1は一つの組成物(材料)で作製しているから、塗布等の作業効率がよく、塗装ロボット等によって作業させることができる。
【0049】
図3においては、微細孔21がない場合には吸音率(AVE)が低く、多孔質層10に音響空孔14が形成されても、発泡構造体1自体の弾性に委ねられた特性を示している。吸音率(AVE)は表層20の微細孔21がないことにより略一定(吸音率0.22〜0.29)であるから、多孔質層10内の音響空孔14のみに左右されないことが分かる。
また、微細孔21の空孔率を大きくした場合には、多孔質層10に形成された音響空孔14が大きいとき吸音率(AVE)が低く、多孔質層10に形成された音響空孔14が小さいと吸音率(AVE)が良くなる傾向にある。しかし、吸音率(AVE)のピーク周波数は、5000Hz、6000Hzと高いところにある。なお、吸音率(AVE)のピーク周波数は、5000Hz、6000Hzと高いところにあるが、通常、この周波数は人の耳には聞こえ難くなっているので、微細孔21の空孔率(AVE)を大きくすることが得策ではない。
【0050】
また、微細孔21の空孔率を1.0〜6.0%とした場合には、多孔質層10に形成された音響空孔14が大きいとき吸音率が0.45と高く、多孔質層10に形成された音響空孔14が小さいと吸音率(AVE)が0.36と低くなる傾向にある。吸音率(AVE)のピーク周波数は、3150Hz、4000Hzと人間の可聴周波数の高いところにある。特に、人間の耳によく聞こえる周波数の1000Hz〜2000Hzの周波数に近い周波数帯域に良好な吸音率を示しているので、微細孔21の空孔率を1.0〜6.0%で実施物を得るのが好適である。
【0051】
発明者等の実験によれば、微細孔21の空孔率を1.0〜10.0%とした場合には、その範囲内で音響空孔14の大きさを増減することにより、吸音率(AVE)の最適な範囲が得られることが判明した。
なお、発明者等は、発泡構造体1の表面の流れ抵抗をJIS1405−2に準じて測定した。流れ抵抗値は特性インピーダンスによる値であり、試料の厚みは10mmとし、リオン音響菅(アコースティックダクト 垂直入射音響計測システム)の9302型計測システムにより測定を行った測定値である。その結果、微細孔21の空孔率が大(略100%)のとき、多孔質層10の音響空孔14を変化させると、流れ抵抗値が42000〜450000Pa・s/m3までの変化に対して、空孔率を小・中(1.0〜6.0%)とした場合には、多孔質層10の音響空孔14を変化させると、流れ抵抗値が140000〜540000Pa・s/m3と変化し空孔率が大(略100%)に比べて流れ抵抗値つまり流れ抵抗が大きい。このことから、前述した吸音特性について説明したように微細孔21の空孔率を小さくすると良好な吸音特性を有するヘルムホルツ共鳴体構造の形成が成されることが分かる。
【0052】
ここで図3に示す音響空孔の大きさは、音響空孔大では2000μm〜5000μmの孔を、音響空孔中では300μm〜2000μmの孔を、音響空孔小では10μm〜300μmの孔である。本発明の実施で形成される微細孔21の大きさは測定結果から1μm〜300μmの範囲内であることから、音響空孔小のとき、音響空孔14の孔は個別に比較すると微細孔21より小さな大きさの音響空孔14も存在することとなる。しかし、音響空孔14は微細孔21のように面上に部分的に存在するのではなく全面に亘って存在している。このため、一つの微細孔21が複数の音響空孔14に亘って連通するものも有り得る。この場合複数の音響空孔14を一つの音響空孔とみなせるため音響空孔14の容積は微細孔21の容積より大きくなる。
【0053】
以上のように、本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物によって形成した発泡構造体1は、表面に微細孔を有する表層20と、表層20の微細孔21に連通し、表層20よりも深い内部に位置し、微細孔21よりも大きな容積を有する多孔質層10の音響空孔14によって吸音性能を持たせた発泡構造体1である。そして熱硬化防音塗料組成物は熱硬化性樹脂と、液状未架橋ゴムと、発泡剤、必要に応じて各種フィラーや添加剤を構成材料とし、特に熱硬化性樹脂と液状未架橋ゴムと発泡剤を必須の構成材料としている。
【0054】
したがって、加熱による温度上昇に伴って熱硬化性樹脂の硬化反応の進行と、発泡剤による熱硬化防音塗料組成物の発泡構造体の形成と、さらに、液状未架橋ゴムの加硫による架橋ゴム化による熱硬化防音塗料組成物の弾性向上が同時進行して、表面に微細孔21を有する表層20と、表層20の内部に微細孔21よりも大きな気孔、気泡の音響空孔14を有する多孔質層10を持った発泡構造体1が形成できる。
【0055】
この発泡構造体1が、表面の微細孔21を有する表層20と、表層20よりも深い内部に位置し、微細孔21の容積よりも大きな容積を有する多孔質層10の音響空孔14とを具備し、音響空孔14の一部が微細孔21に連通し、表層の微細孔21及び音響空孔14によって吸音特性及び/または遮音特性を持たせることができ、防音特性を発揮できる。
殊に、分子量1000〜30000Mwのウレタン樹脂を5%〜90%重量部とすると、吸音効果の高い微細孔21と音響空孔14を効率よく形成することができる。分子量が1000Mwを下回ると、硬化時にガスを閉じ込めることができず、また、分子量が30000Mwを上回ると吸音効果の高い構造体が得難くなる。このため、発泡ガスを効率よく内包するように発泡させるには、分子量10000〜20000Mwのものを10%〜50%重量使用するのが好ましい。
さらに、熱硬化性樹脂としてブロックウレタン樹脂を使用すると1液として塗布が可能となり作業性が大幅に改良できる。
【0056】
また、液状未架橋ゴムは、前記ウレタン樹脂に対するウレタン重量比1%〜20%とすると、防音機能を有する発泡構造を維持するだけでなく、無添加に比べて発泡倍率をポリブタジエンでは2倍以上に拡大する効果がある。また、発泡ウレタンと組み合わせた場合に表面の微細孔21の面積比率(空孔率)及び音響空孔14の大きさを制御し、吸音率、吸水率、吸音周波数帯を任意に制御することができる。
そして、発泡剤として有機発泡剤のOBSHを使用する場合には、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することが可能となる。
このように、熱硬化防音塗料組成物は、振動によって発生する音(騒音)を吸収または干渉(共鳴)して、周囲に対する騒音の拡散を抑制することができるため、振動を抑える防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種産業製品に使用できる。
【0057】
以上説明してきたように、本実施の形態にかかる熱硬化防音塗料組成物は、表面に微細孔21を有する表層20と、表層20の微細孔21に連通し、表層20よりも深い内部に位置し、微細孔21よりも大きな容積を有する多孔質層10の音響空孔14を形成して吸音性能を持たせた発泡構造体1を、防音機能を必要とする部材、部分等の被塗物に塗布し加熱硬化させることで形成できる組成物である。この熱硬化防音塗料組成物は液状未架橋ゴムの含有によって発泡によって形成される表層20の表面の微細孔21を多孔質層10の音響空孔14より小さな容積の気孔に制御をするものである。
【0058】
したがって本実施の形態にかかる熱硬化防音塗料組成物を発泡硬化させて形成した発泡構造体1が、表層20よりも深い内部に位置して微細孔21の容積よりも大きな容積を有する音響空孔14の一部と、これに連通する表面に形成された微細孔21とによるヘルムホルツ共鳴体構造を形成し、また音響空孔14の一部と表層20がヘルムホルツ共鳴体とは異なる共鳴構造を形成する。さらに音響空孔14同士が連通による構造によっても吸音効果が生まれる。これらの異なる構造を熱硬化防音塗料組成物によって発泡形成することで幅広い範囲の吸音特性及び/または遮音特性を持たせることができ、良好な防音構造体の形成が可能となる。
また、液状未架橋ゴムは、塗布の際、未架橋の液状であるから粘性が低く塗布を容易にする。そして、架橋によって表面の微細孔21を内部の孔より小さく制御することができる。しかも、発泡剤にOBSHを使用するとOBSHの分解によって発生する硫黄Sが液状未架橋ゴムの架橋剤の役割を果たし、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することが可能となる。
【0059】
よって、振動によって発生する音(騒音)を吸収または干渉(共鳴)して、周囲に対する騒音の拡散を抑制することができ、防振材、防音材、防塵材、断熱材、緩衝材等の各種産業製品に使用できる。
【0060】
ここで、熱硬化防音塗料組成物に使用する熱硬化性樹脂としては、発泡の制御がし易いウレタン樹脂が好ましい。特にブロックウレタン樹脂を使用すると発泡制御の容易だけでなく、熱硬化防音塗料組成物の1液化が可能となり取り扱いが向上する。さらにブロックウレタン樹脂としてはTDIまたはMDIを使用することで吸音発泡構造の音響空孔が容易に作成され、吸音効果の高い音響空孔を形成することができる。特に、TDIが好適である。
【0061】
更に、本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物に用いる液状未架橋ゴムは、吸音発泡構造を構成するときの補助剤となり、無添加に比べて発泡倍率を2倍以上に効率を上げることができ、発泡ウレタンと組み合わせた場合の表面空孔の面積比率(空孔率)、大きさをその添加量で制御することができる。即ち、吸音率、吸水率、吸音周波数帯特性を制御できる。
【0062】
更にまた、本実施の形態の熱硬化防音塗料組成物の発泡剤として、OBSH(P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)を使用したものであるから、OBSHの分解によって発生する硫黄Sが液状未架橋ゴムの架橋剤の役割を果たし、硫黄等の加硫剤不要或いは減量することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 多孔質層
14 音響空孔
16 連結孔
20 表層
20A 表面
21 微細孔
22 連通路
30 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に塗布し加熱することで、表面に微細孔を形成した表層と、前記表層の前記微細孔に連通し、前記表層よりも深い内部に位置し、前記微細孔よりも大きな容積を有する多孔質層の音響空孔によって吸音性能を持たせた発泡構造体を形成する熱硬化防音塗料組成物は、熱硬化性樹脂と発泡剤と液状未架橋ゴムを含有し、加熱による前記発泡剤の発泡とともに前記液状未架橋ゴムの架橋が進行することで、前記表層の前記微細孔の制御を行うことを特徴とする熱硬化防音塗料組成物。
【請求項2】
前記熱硬化防音塗料組成物は、ウレタン樹脂を主成分としたことを特徴とする請求項1に記載の熱硬化防音塗料組成物。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂の分子量は、10000〜30000Mwとしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の熱硬化防音塗料組成物。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂は、ブロックウレタン樹脂としたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の熱硬化防音塗料組成物。
【請求項5】
前記液状未架橋ゴムは、対ウレタン重量比を1%〜20%としたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1つに記載の熱硬化防音塗料組成物。
【請求項6】
前記発泡剤は、OBSH(P,P'−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)を使用したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の熱硬化防音塗料組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−255967(P2012−255967A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129958(P2011−129958)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】