説明

熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液および熱線・紫外線遮蔽膜、並びに、熱線・紫外線遮蔽基材

【課題】優れた紫外線遮蔽能および日射遮蔽能を得られながら、基材等へ塗布した際の、当該塗布前後の可視光透過率の差が小さく、且つ、色度の変化が小さい熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液および熱線・紫外線遮蔽膜、並びに熱線・紫外線遮蔽基材を提供する。
【解決手段】硬化性紫外線吸収剤と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒とを含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液であって、前記硬化性紫外線吸収剤の少なくとも1種が2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルへ、イソシアノ基をもつアルコキシシランを配合して得られた反応物であり、かつ前記近赤外光遮蔽成分が複合タングステン酸化物微粒子から選ばれた少なくとも1種である熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材等に適用可能な、熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液であって、優れた紫外線遮蔽能および日射遮蔽能を得られる熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液、および、これを用いて形成された熱線・紫外線遮蔽能が高く表面硬度の高い熱線・紫外線遮蔽膜、並びに、熱線・紫外線遮蔽機能を有する熱線・紫外線遮蔽基材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外線、可視光線、紫外線の3つに大きく分けることができる。このうち、長波長領域の近赤外線(熱線)は、熱エネルギーとして人体に感じる波長領域の光であり、室内、車内の温度上昇の原因ともなるものである。一方、短波長領域の紫外線は、日焼け、しみ、そばかす、発癌、視力障害など人体への悪影響があり、物品の機械的強度の低下、色褪せなどの外観の劣化、食品の劣化、印刷物の色調の低下なども引き起こすものである。
【0003】
これらの、不要な近赤外線(熱線)や有害な紫外線を遮蔽するために、熱線・紫外線遮蔽膜を基材上に形成して、熱線・紫外線遮蔽機能を持たせたガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材が使用されている。
また、熱線・紫外線遮蔽材料を含有する塗布液を適宜な基材上に塗布し、熱線・紫外線遮蔽膜を当該基材上に形成することによって、簡単かつ低コストで熱線・紫外線遮蔽機能を持たせた透明基材を製造することも提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、常温硬化性バインダーに近赤外光遮蔽材料として六ホウ化物を、無機紫外線遮蔽成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液について開示している。
また、特許文献2は、上記常温硬化性バインダーに近赤外光遮蔽材料として含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子および/または含ロジウム酸化物微粒子を、無機紫外線遮蔽成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液について開示している。
また、本発明者は、特許文献3に、上記常温硬化性バインダーへ、近赤外光遮蔽材料として複合タングステン酸化物を、無機紫外線遮蔽成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を添加した日射遮蔽膜形成用塗布液について提案している。
【0005】
さらに、特許文献4は、硬化性紫外線吸収剤に近赤外光遮蔽材料として含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子および/または含ロジウム酸化物を、無機紫外線遮蔽成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液について開示している。
また、特許文献5は、硬化性紫外線吸収剤に無機紫外線遮蔽成分として六ホウ化物を、無機紫外線遮蔽成分としてCeO、ZnO、Fe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液について開示している。
【0006】
【特許文献1】特開2001−262061号公報
【特許文献2】特開2001−262064号公報
【特許文献3】特開2006−299087号公報
【特許文献4】特開2000−191957号公報
【特許文献5】特開2000−319554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によると、特許文献1,2に記載されているバインダー成分に近赤外光遮蔽材料として含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、含ロジウム酸化物、六ホウ化物の少なくとも1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を基材上に成膜した場合、当該成膜の着色が著しいことが見出された。この著しい成膜の着色の為、優れた日射遮蔽能を得ようとして、近赤外光遮蔽材料の添加量を増やすと着色がさらに進み、可視光透過率まで低下してしまうという問題があった。
【0008】
特許文献3のように、近赤外光遮蔽材料として複合タングステン酸化物を用いた場合には、高い可視光透過率と優れた日射遮蔽能が得られる。しかし、紫外線遮蔽能をも同時に得ようとして、無機紫外線遮蔽成分としてFe、FeOOH微粒子のうちの1種以上を併用すると、特許文献1,2と同様に、日射遮蔽膜の着色が著しいという問題があった。そこで、当該日射遮蔽膜の着色を抑制しようとして、無機紫外線遮蔽成分としてCeO2、ZnO微粒子のうちの1種以上を含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液とした
場合、優れた紫外線遮蔽能を得るために必要な紫外線遮蔽成分の添加量が多くなり、塗布作業性や成膜の外観、表面硬度が悪化するという問題があった。
【0009】
一方、特許文献4,5に記載されている紫外線遮蔽能を有するバインダー成分に近赤外光遮蔽材料を添加した熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液とした場合であっても、近赤外光遮蔽材料として含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、含ロジウム酸化物、六ホウ化物を用いている為、特許文献1,2と同様に、成膜の着色が著しいという問題があった。
【0010】
本発明は、上述の状況の下でなされたものであり、優れた紫外線遮蔽能および日射遮蔽能を得ながら、基材等へ塗布した際の、当該塗布前後の可視光透過率の差が小さく、且つ、色度の変化が小さい上、既存の各種の基材に適応出来る熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液、および、これを用いて形成された熱線・紫外線遮蔽膜、並びに熱線・紫外線遮蔽機能を有する熱線・紫外線遮蔽基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、優れた紫外線遮蔽能および日射線遮蔽能が得られる熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液、およびこれを用いて形成された熱線・紫外線遮蔽能が高く表面硬度の高い熱線・紫外線遮蔽膜を得るため、鋭意研究を重ねた結果、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとイソシアノ基をもつアルコキシシランを混合反応させてなる反応物を硬化性紫外線吸収剤の機能も有するバインダー成分として用い、さらに近赤外光遮蔽成分として、複合タングステン酸化物微粒子を用いて熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造し、該熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を適宜な基材上で硬化させると、熱線・紫外線遮蔽能が高く、塗布前後の可視光透過率の差が小さく、且つ、色度の変化が小さい熱線・紫外線遮蔽膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
硬化性紫外線吸収剤と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒とを含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記硬化性紫外線吸収剤の少なくとも1種が、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対しイソシアノ基をもつアルコキシシランを2モル以上10モル未満の割合で配合し、触媒の存在下で反応させて得られた一般式(化1)で示される反応物であり、
前記近赤外線遮蔽成分が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属
、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記さ
れる複合タングステン酸化物を含む平均粒径200nm以下の微粒子であることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液である。
【化1】

(但し、一般式(化1)中のXは、加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、一般式(化1)中のRは、炭素数1〜3のアルキレン鎖を示す。)
【0013】
第2の発明は、
前記硬化性紫外線吸収剤が10〜40重量%含まれ、且つ、前記近赤外線遮蔽成分が1〜10重量%含まれることを特徴とする第1の発明に記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液である。
【0014】
第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする第1または第2のいずれかの発明に記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液である。
【0015】
第4の発明は、
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第1から第3のいずれかの発明に記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を提供する。
【0016】
第5の発明は、
前記硬化触媒がパラトルエンスルホン酸であり、前記熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液中における当該硬化触媒の含有量が0.1〜3重量%であることを特徴とする第1から第4のいずれかの発明に記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を提供する。
【0017】
第6の発明は、
第1から第5の発明のいずれかに記載された熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を硬化して得られることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽膜を提供する。
【0018】
第7の発明は、
第6の発明に記載の熱線・紫外線遮蔽膜が、基板の少なくとも片面に形成されている熱線・紫外線遮蔽基材であって、
前記熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を塗布して得られた基材の可視光透過率と塗布前の基材の可視光透過率との差が10%以下であり、且つ、紫外線透過率が5%以下であり、且つ、日射透過率が65%以下であり、且つ塗布前後の基材のL表色系における色度b値の差が2以下であることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽基材を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化し得るものであり、優れた紫外線遮蔽能および日射遮蔽能が得られる熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液、およびこれを用いて形成された熱線・紫外線遮蔽能が高く表面硬度の高い熱線・紫外線遮蔽膜を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、(1)硬化性紫外線吸収剤、(2)硬化性紫外線吸収剤の製造方法、(3)近赤外線遮蔽成分、(4)近赤外遮蔽成分の製造方法、(5)希釈溶媒、(6)硬化触媒、(7)熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液、(8)熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の調製方法、(9)熱線・紫外線遮蔽膜の形成と、熱線・紫外線遮蔽機能を有する基材、の順で詳細に説明する。
【0021】
(1)硬化性紫外線吸収剤
本発明において用いられる紫外線吸収剤は、バインダー成分としても用いられる硬化性紫外線吸収剤である。そして、当該バインダー成分としても用いられる硬化性紫外線吸収剤の少なくとも1種は、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンと、イソシアノ基をもつアルコキシシランとを、触媒の存在下で反応させて得られた硬化性紫外線吸収剤である。
当該硬化性紫外線吸収剤の基本構造は下記の一般式(化1)で示される。
【化1】

(但し、一般式(化1)中のXは、加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、一般式(化1)中のRは、炭素数1〜3のアルキレン鎖を示す。)
ここで、イソシアノ基をもつアルコキシシランとしては、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランやγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0022】
本発明に係る硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)は、前記一般式(化1)の基本構造に示すように、分子内にベンゾフェノン系の骨格をもち、これが紫外線の吸収に寄与する。また、本発明に係る硬化性紫外線吸収剤は、分子端のアルコキシ基は、加水分解して反応性の高いシラノールを生じ、これが縮合重合することによって自身で高分子化、あるいは他のバインダー成分と結合することで、バインダーとしての効果を発揮する。なお、この硬化性紫外線吸収剤はアルコキシル基が加水分解し、シラノールが縮合重合したオリゴマーの形態でも存在しうる。
このように本発明に係る硬化性紫外線吸収剤は自身が重合し、堅牢な塗膜を形成することでバインダーとしての効果を発揮する。このため、本発明に係る熱線・紫外線遮蔽膜においては、紫外線吸収剤のブリードアウトが起こらず、塗布膜表面に紫外線吸収剤が浮き出し、脱落したり、流れたりしない上、紫外線遮蔽効果が劣化しにくい。
【0023】
(2)硬化性紫外線吸収剤の製造方法
上記硬化性紫外線吸収剤を製造する反応において、上記2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとアルコキシシランとの配合比は、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対して、イソシアノ基をもつアルコキシシラン2モル
以上、10モル未満が望ましい。
イソシアノ基をもつアルコキシシランの配合比を2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対して2モル以上とすれば、本発明に係る熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を塗布して得られる紫外線遮蔽膜が、ガラスクリーナーなどのアルカリ性物質に暴露された際であっても、著しく黄変することを回避出来るからである。また、イソシアノ基をもつアルコキシシランの配合比を2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対して10モル未満とすることで、高い紫外線遮蔽能を得られる水準の希釈をした時であっても、均一な塗布が容易な粘度を維持出来るからである。
また、触媒としてはジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオクトエート、ジオクチルスズジラウレート等が望ましい。
上記反応は、常温〜60℃程度の加温下において30分間〜2時間程度で完了する。
【0024】
(3)近赤外遮蔽成分
本発明において近赤外遮蔽成分として用いられる近赤外線吸収材料は、平均分散粒子径が200nm以下である複合タングステン酸化物の微粒子を主成分として含んでいる。
当該複合タングステン酸化物は、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0
)で示される複合タングステン酸化物微粒子であり、十分な量の自由電子が生成されるため近赤外線吸収成分として有効に機能する。
【0025】
前記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子であることが
好ましい。
さらに、例えば、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子の場合であれば、好ましいM元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素から選択される1種類以上の元素を含む複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。
このとき、添加されるM元素の添加量xは、x/yの値で0.001以上、1.0以下
が好ましく、更に好ましくは0.33付近であることが良い。これは六方晶の結晶構造か
ら理論的に算出されるxの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が
得られるからである。
一方、酸素の存在量は、z/yの値で2.2以上3.0以下が好ましい。典型的な例としてはCs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、y、zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な近赤外線吸収特性を得ることができる。
【0026】
以上説明した複合タングステン酸化物微粒子は、単独で使用してもよいが、二種類以上を混合使用することも好ましい。本発明者らの実験によればこれらの微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値を持ち、かつ700〜1800nmの間に極小値を持つことが観察された。可視光波長が380〜780nmであり、視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0027】
当該複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径は、200nm以下、好ましくは100
nm以下とすることが好ましい。平均粒径が200nm以下であると微粒子同士の凝集傾向が強くならず、塗布液中における微粒子の沈降が回避できるからであり、また、平均粒径が200nm以下の微粒子は、光散乱による可視光透過率の低下の原因とならないという特徴も有している。現在の技術において、粒径2nm程度までの微粒子は容易に商業的に製造できる。
【0028】
(4)近赤外遮蔽成分(複合タングステン酸化物微粒子)の製造方法
上記一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0029】
複合タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。ここで、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましい。さらに、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合が可能となるとの観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることが好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径の複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0030】
さらに元素Mも、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。溶液状の形態で混合することによって、より均一化できるからである。
【0031】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し複合タングステン酸化物微粒子として効率が良い。
熱処理温度が650℃を下回ると還元不足となり、所定の日射遮蔽特性が得られない。即ち、所定の可視光透過率に対して日射透過率が高くなってしまう。言い換えると、所定の日射遮蔽能を得るために、より多くの複合タングステン酸化物微粒子が必要になってしまう。
【0032】
不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上、650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上、1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0033】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な近赤外遮蔽特性を示すので、この状態でも近赤外遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、複合タングステン酸化物微粒子中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある
。そこで、この水素を含む複合タングステン酸化物微粒子を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定なものとすることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、複合タングステン酸化物微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。ここで、当該マグネリ相には、一般式WO(2.45≦x≦2.999)で示されるタングステン酸化物が含まれる。
【0034】
上述のようにして得られた複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0035】
(5)希釈溶媒
熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液に用いる希釈溶媒は、特に限定されるものではなく、塗布条件や、塗布環境、塗布液中の固形分の種類に合わせて選択可能である。当該希釈溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノンなどのケトン類など各種溶媒が使用可能である。また用途によって、前記1種または2種以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
(6)硬化触媒
上述の硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)には湿気硬化性があるが、常温での硬化速度を実用的なものとするためには、熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液への硬化触媒の添加が必須である。そして、当該硬化触媒としては、パラトルエンスルホン酸が望ましい。さらに、当該硬化触媒の添加量を調整することによって、硬化時間を制御することが可能となる。この結果、当該熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の応用範囲を広げることが出来た。ここで、硬化触媒の添加量は0.1〜3重量%が好ましい。
【0037】
(7)熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液
本発明の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は、上記硬化性紫外線吸収剤を少なくとも1種類含有するものであるが、その硬化は硬化性紫外線吸収剤のアルコキシル基の加水分解とこれに続くシラノールの縮合重合による高分子化によって起こり、他のバインダー成分の添加は必須ではない。この結果、上述したように、硬化性紫外線吸収剤自身が重合し、堅牢な塗膜を形成するため、紫外線吸収剤のブリードアウトが起こらず、塗布膜表面に紫外線吸収剤が浮き出し、脱落したり、流れたりしない上、紫外線遮蔽効果は劣化しにくい。
したがって、本発明に係る、上記硬化性紫外線吸収剤をバインダーとする塗布液から得られる塗布膜は、紫外線遮蔽能の長期安定性に優れるため無機紫外線遮蔽成分を必要としない。また、該硬化性紫外線吸収剤をバインダーとし、近赤外線遮蔽材料として該複合タングステン酸化物を組み合わせた塗布液において、それぞれの添加量を最適範囲とすることによって、高い可視光透過率、無色透明に近い色調、優れた熱線・紫外線遮蔽機能、実用的な表面硬度を有する塗膜となる熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液が得られる。
【0038】
(8)熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の調製方法
本発明に係る熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の調製において、近赤外遮蔽成分である複合タングステン酸化物微粒子を1〜10重量%となるよう添加し、硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)を10〜40重量%、さらに希釈溶剤と硬化触媒とを添加することで、総計を100重量%となるように秤量し、混合すれば良い。
【0039】
ここで、近赤外遮蔽成分の全配合量が1重量%以上あれば形成される熱線・紫外線遮蔽膜の近赤外遮蔽能が十分に確保でき、一方、10重量%以下であれば熱線・紫外線遮蔽膜の透明性および良好な膜外観が確保できる。
なお、硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)自体が長期的に安定な紫外線遮蔽能を有するため、無機紫外線遮蔽成分は添加する必要がない。
さらに、硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)の配合量が10重量%以上あれば形成される熱線・紫外線遮蔽膜の表面硬度が十分に確保でき、一方、40重量%以下であれば塗布液の粘度が過剰に高くなるのを回避でき、均一な塗布が容易である。
【0040】
一方、上述したように、硬化触媒の含有量は0.1〜3重量%が好ましい。硬化触媒の配合量が0.1重量%以上あれば形成される熱線・紫外線遮蔽膜の硬化に対して促進効果が得られ、3重量%以下であれば塗布時の液のレベリング性が確保されるからである。
硬化触媒が熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液に添加されると、硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)の硬化が開始するが、塗布液中での硬化速度は極めて遅い。そこで、硬化触媒を予め該熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液に添加しておくことも可能である。
さらに、該硬化触媒は、上述した各種の希釈溶媒へ予め溶解させておくことが好ましい。溶液の形態であれば、添加が容易で且つ直ちに均一化できるからである。
【0041】
(9)熱線・紫外線遮蔽膜の形成と、熱線・紫外線遮蔽機能を有する基材
本発明に係る熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、ガラス基板、プラスチック板、フィルムなどの透明基材を始めとする所定の基材の片面あるいは両面に塗布し、常温で硬化させることによって前記透明基材の表面上に表面硬度の高い熱線・紫外線遮蔽能を持つ熱線・紫外線遮蔽膜を形成することができる。
【0042】
熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法は特に限定されるものではなく、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、布や刷毛による塗布方法など、処理液を平坦で、薄く、かつ均一に塗布できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。さらに、塗布温度は20℃から25℃程度の常温で、塗膜形成可能である。
この結果、熱線・紫外線遮蔽膜の形成の生産性は非常に高いものとなった。得られた熱線・紫外線遮蔽膜は、表面硬度が高く透明性に優れながら、高い熱線・紫外線遮蔽機能を有していた。さらに、当該熱線・紫外線遮蔽膜が片面あるいは両面に形成された透明基材は、高い機械的耐久性と透明性とを有し、高い熱線・紫外線遮蔽機能を有していた。そして、当該熱線・紫外線遮蔽膜は前記基材自体の紫外線による劣化をも抑制する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
なお、実施例および比較例に用いた熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液の構成成分、該熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を用いて形成した熱線・紫外線遮蔽膜の光学特性の一覧表を表1に示した。
【0044】
[実施例1]
<複合タングステン酸化物微粒子分散液>
メタタングステンアンモニウム水溶液(WO換算で50wt%)と塩化セシウムの水溶液とを、WとCsとのモル比が1対0.33となるように所定量秤量し、両液を混合し
て混合溶液を得た。この混合溶液を130℃で乾燥し、粉末状の出発原料とした。この出発原料を、還元雰囲気(アルゴン/水素=95/5体積比)中において550℃で1時間加熱した。そして、一度室温に戻した後、800℃アルゴン雰囲気中で1時間加熱することで、Cs0.33WOの粉末を製造した。この粉末の比表面積は20m/gであっ
た。また、当該Cs0.33WO粉末についてX線回折による結晶相の同定の結果、六方晶タングステンブロンズ(複合タングステン酸化物微粒子)の結晶相が観察された。このCs0.33WO粉末20gと、トルエン75gと、分散剤5gとを混合し分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(A液)とした。
【0045】
<紫外線吸収剤(バインダー成分)>
2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン28.4gとγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン71.1gをビーカーにとり、ジブチルスズジラウレートを0.5g加えてメカニカルスターラーで混合撹拌を行った。
当該混合液中のγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン量は、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対して2.5モルとした。
発熱反応が起こるがそのまま約1時間放置冷却し、目的の反応性紫外線吸収剤を含む赤褐色、高粘度の液を得た(当該本発明に係る硬化性紫外線吸収剤(バインダー成分)を含む赤褐色、高粘度の液を、以降において「合成液1」と記載する。)。
【0046】
<熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液>
25gの「合成液1」と、希釈溶媒である39.8gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0047】
<熱線・紫外線遮蔽膜>
この熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、厚さ3mmのソーダライム系ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布し、常温で放置して熱線・紫外線遮蔽膜を得た。
得られた熱線・紫外線遮蔽膜の光の透過率を、日立製作所(社)製の分光光度計を用いて測定し、JIS R 3106にしたがって可視光透過率(τv)、日射透過率(τe)を、ISO 9050にしたがって紫外線透過率(τuv)を算出した。
次に、熱線・紫外線遮蔽膜の色調は、JIS Z 8729にしたがってL表色系における色度bを算出した。
さらに、膜の表面硬度を、摩耗試験前後のへイズの変化量(ΔH)から評価した。具体的には、摩耗試験として、テーバー摩耗試験機に摩耗輪CS10fを用い、荷重250g、50回転を行った。へイズは村上色彩技術研究所(社)製の反射・透過率計で測定した。
【0048】
実施例1で得られた熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化可能であり、容易に熱線・紫外線遮蔽膜を得ることができた。
また膜のτvは81.5%、τeは51.0%、τuvは0.2%であり、可視光透過性に優れ、熱線・紫外線遮蔽能があることが判明した。
さらに、bは−0.3であり、塗布前のガラス基板との色調の差が小さいことが判明した。ΔHは12.5%であり、爪で強く引っ掻いても傷のつかない実用的な表面硬度の膜が形成されていた。
【0049】
[実施例2]
<熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液>
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である44.8gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、10gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0050】
<熱線・紫外線遮蔽膜>
この熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、厚さ3mmのソーダライム系ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布し、常温で放置して熱線・紫外線遮蔽膜を得た。
得られた熱線・紫外線遮蔽膜の可視光透過率(τv)、日射透過率(τe)、紫外線透過率(τuv)を実施例1と同様に算出した。
また、熱線・紫外線遮蔽膜の色調の色度bについても、実施例1と同様に算出した。
さらに、膜の表面硬度についても実施例1と同様に評価した。
【0051】
実施例1で得られた熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化可能であり、容易に熱線・紫外線遮蔽膜を得ることができた。
また膜のτvは83.5%、τeは57.5%、τuvは0.3%であり、可視光透過性に優れ、熱線・紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、bは0.4であり、塗布前のガラス基板との色調の差が小さいことが判明した。ΔHは10.2%であり、爪で強く引っ掻いても傷のつかない実用的な表面硬度の膜が形成されていた。
【0052】
[実施例3]
<熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液>
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である24.8gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、30gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0053】
<熱線・紫外線遮蔽膜>
この熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、厚さ3mmのソーダライム系ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布し、常温で放置して熱線・紫外線遮蔽膜を得た。
得られた熱線・紫外線遮蔽膜の可視光透過率(τv)、日射透過率(τe)、紫外線透過率(τuv)を実施例1と同様に算出した。
また、熱線・紫外線遮蔽膜の色調の色度bについても、実施例1と同様に算出した。
さらに、膜の表面硬度についても実施例1と同様に評価した。
実施例3で得られた熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化可能であり、容易に熱線・紫外線遮蔽膜を得ることができた。
【0054】
また膜のτvは78.5%、τeは45.0%、τuvは0.1%であり、可視光透過性に優れ、熱線・紫外線遮蔽能があることが判明した。
また、bは−1.8であり、塗布前のガラス基板との色調の差が小さいことが判明した。ΔHは14.5%であり、爪で強く引っ掻いても傷のつかない実用的な表面硬度の膜が形成されていた。
【0055】
[比較例1]
比較のため、3mmのソーダライム系ガラス基板のみを試料として、実施例1と同様の測定を行った。
その結果、当該ソーダライム系ガラス基板のτvは90.3%、τeは87.3%、τuvは70.7%であった。
【0056】
[比較例2]
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である42.3gのイソブチルアルコールと30gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、2.5gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0057】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例2により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは87.5%、τeは75.5%、τuvは0.2%、bは1.2であったことから、可視光透過性に優れ、十分な紫外線遮蔽能を有し、塗布前のガラス基板との色調の差が小さくなったが、日射遮蔽能が不十分であることが判明した。
【0058】
[比較例3]
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である10gのイソブチルアルコールと4.8gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、60gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0059】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例3により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは75.2%、τeは41.5%、τuvは0.1%、bは−2.5であったことから、可視光透過性に優れ、十分な熱線・紫外線遮蔽能を有し、塗布前のガラス基板との色調の差が小さいことが判明した。しかしながら、ΔHは24%であり、爪で引っ掻くと塗膜に傷がつき、表面硬度の弱い膜であった。
【0060】
[比較例4]
45gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である19.8gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gのA液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0061】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例4により得られた熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液は粘度が著しく高く、均一な塗布が行えなかった。
【0062】
[比較例5]
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60gとアミノプロピルトリエトキシシラン40gとを混合し、マグネティックスターラーで1時間撹拌後、室温で14日間熟成させて、比較例に係るバインダー成分100gを得た(当該比較例に係るバインダー成分を以降において「合成液2」と記載する。)。
【0063】
RuO粉末15gと、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)23gと、ジアセトンアルコール(DAA)14gと、メチルエチルケトン47.5gと分散剤0.5gとを混合し分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(B液)とした。
FeOOH微粒子15gと、プロピレングリコールモノエチルエーテル80gと、分散剤5gとを混合して分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(C液)とした。
25gの「合成液2」と、希釈溶媒である21.7gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、3.3gのB液と、20gのC液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0064】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例5により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは68.8%、τeは61.6%、τuvは2.2%、bは17.8であったことから、熱線・紫外線遮蔽能には優れるが、基材への着色が強く、塗布前のガラス基板との色調の差が大きいことが判明した。
【0065】
[比較例6]
LaB粉末10g、トルエン83gおよび分散剤7gとを混合し分散処理を行い、平均粒径90nmの分散液(D液)とした。
25gの比較例5で調製した「合成液2」と、希釈溶媒である20gのイソブチルアルコールと20gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、5gのD液と、20gのC液とを混合撹拌し、さらに硬化触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0066】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例6により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは72.2%、τeは53.5%、τuvは1.5%、bは19.8であったことから、熱線・紫外線遮蔽能には優れるが、基材への着色が強く、塗布前のガラス基板との色調の差が大きいことが判明した。
【0067】
[比較例7]
25gの比較例5で調製した「合成液2」と、希釈溶媒である30gのイソブチルアルコールと15gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、15gの(A液)と、20gの(C液)とを混合撹拌し、さらに触媒として三弗化ホウ素ピペリジンのイソブチルアルコール溶液(濃度:1重量%)10gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0068】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例7により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは76.4%、τeは49.8%、τuvは2.1%、bは14.4であったことから、熱線・紫外線遮蔽能には優れるが、基材への着色が強く、塗布前のガラス基板との色調の差が大きいことが判明した。
【0069】
[比較例8]
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である41.5gのイソブチルアルコールと30gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、3.3gの(B液)とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0070】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例8により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは70.5%、τeは63.2%、τuvは0.2%、bは4.5であったことから、熱線・紫外線遮蔽能には優れるが、基材への着色が強く、塗布前のガラス基板との色調の差が大きいことが判明した。
【0071】
[比較例9]
25gの実施例1で調製した「合成液1」と、希釈溶媒である39.8gのイソブチルアルコールと30gのプロピレングリコールモノエチルエーテルと、5gの(D液)とを混合撹拌し、さらに硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸(一水和物)0.2gを加えて撹拌することによって熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を製造した。
【0072】
つぎに実施例1と同様な手順で熱線・紫外線遮蔽膜を形成し、膜の評価を行った。
比較例9により得られた熱線・紫外線遮蔽膜のτvは74.5%、τeは55.5%、τuvは0.2%、bは5.5であったことから、熱線・紫外線遮蔽能には優れるが、基材への着色が強く、塗布前のガラス基板との色調の差が大きいことが判明した。
【0073】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性紫外線吸収剤と、近赤外線遮蔽成分と、希釈溶媒と、硬化触媒とを含有する熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液であって、
前記硬化性紫外線吸収剤の少なくとも1種が、2、2’、4、4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン1モルに対しイソシアノ基をもつアルコキシシランを2モル以上10モル未満の割合で配合し、触媒の存在下で反応させて得られた一般式(化1)で示される反応物であり、
前記近赤外線遮蔽成分が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記さ
れる複合タングステン酸化物を含む平均粒径200nm以下の微粒子であることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【化1】

(但し、一般式(化1)中のXは、加水分解によってシラノールを生じるアルコキシル基を示し、一般式(化1)中のRは、炭素数1〜3のアルキレン鎖を示す。)
【請求項2】
前記硬化性紫外線吸収剤が10〜40重量%含まれ、且つ、前記近赤外線遮蔽成分が1〜10重量%含まれることを特徴とする請求項1記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項3】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項4】
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項5】
前記硬化触媒がパラトルエンスルホン酸であり、前記熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液中における当該硬化触媒の含有量が0.1〜3重量%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載された熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を硬化して得られることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽膜。
【請求項7】
請求項6記載の熱線・紫外線遮蔽膜が、基板の少なくとも片面に形成されている熱線・紫外線遮蔽基材であって、
前記熱線・紫外線遮蔽膜形成用塗布液を塗布して得られた基材の可視光透過率と塗布前の基材の可視光透過率との差が10%以下であり、且つ、紫外線透過率が5%以下であり
、且つ、日射透過率が65%以下であり、且つ塗布前後の基材のL表色系における色度b値の差が2以下であることを特徴とする熱線・紫外線遮蔽基材。

【公開番号】特開2009−46609(P2009−46609A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215046(P2007−215046)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】