説明

熱線反射部材

【課題】シリコン半導体の製造などに用いられる熱処理装置などに好適に使用できる新規な熱線反射部材を提供する。
【解決手段】熱線反射部材1は、基材10と、熱線反射層20を備える。熱線反射層20は、基材10の上に配されている。熱線反射層20は、シリコン層22と酸化シリコン層21とが交互に積層されてなる。酸化シリコン層21は、第1の領域21aと、第2の領域21bとを含む。第2の領域21bは、第1の領域21aとシリコン層22との間に位置する。第2の領域21bの屈折率n2は、第1の領域21aの屈折率n1よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線反射部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン半導体の製造などにおいて使用される熱処理装置などに熱線反射部材が用いられている。例えば特許文献1には、透明石英層と、透明石英層の上に配されており、金、チタンナイトライドからなる層とを有する炉蓋を熱線反射部材として半導体の熱処理装置に配することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−17740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、透明石英層と、金またチタンナイトライドからなる層とを有する熱線反射部材を半導体装置に用いた場合、熱線反射部材に含まれる金、チタン、窒素等により、シリコン半導体にコンタミネーションが生じる場合がある。
【0005】
本発明は、シリコン半導体の製造などに用いられる熱処理装置などに好適に使用できる新規な熱線反射部材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱線反射部材は、基材と、熱線反射層を備える。熱線反射層は、基材の上に配されている。熱線反射層は、シリコン層と酸化シリコン層とが交互に積層されてなる。酸化シリコン層は、第1の領域と、第2の領域とを含む。第2の領域は、第1の領域とシリコン層との間に位置する。第2の領域の屈折率は、第1の領域の屈折率よりも高い。
【0007】
なお、本発明において、屈折率は、分光光度計によって測定した波長2.5μmにおける反射率から算出した値である。
【0008】
酸化シリコン層は、第1の領域を構成している第1の酸化シリコン層と、第2の領域を構成している第2の酸化シリコン層とを有していてもよい。
【0009】
第1の領域は、SiOで表される酸化シリコンからなり、第2の領域は、SiOで表される酸化シリコンからなり、xとyがx>yの関係を充足することが好ましい。
【0010】
酸化シリコン層は、シリコン層から離れるに従って屈折率が漸減するように設けられていてもよい。
【0011】
基材は、酸化シリコン及びシリコンの少なくとも一方により構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコン半導体の製造などに用いられる熱処理装置などに好適に使用できる新規な熱線反射部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱線反射部材の略図的断面図である。
【図2】本発明の実施例における熱線反射部材の断面の顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例における熱線反射部材の断面の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の比較例における熱線反射部材の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0015】
また、実施形態において参照する図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0016】
熱線反射部材1は、例えば、1500nm〜5000nmの波長範囲に入るような熱線を反射させる部材である。図1に示されるように、本実施形態に係る熱線反射部材1は、基材10を備える。基材10は、例えば、酸化シリコン及びシリコンのうちの少なくとも一方により構成されていることが好ましい。基板10の厚みは、耐久性、重量などの観点から、通常1mm〜20mm程度であり、2mm〜10mm程度であることが好ましい。
【0017】
基材10の上には、熱線反射層20が配されている。熱線反射層20の厚みは、熱線反射部材1に付与しようとする熱線反射特性等に応じて適宜設定することができる。熱線反射層20の厚みは、例えば、2000nm〜30000nm程度とすることができる。
【0018】
熱線反射層20は、交互に積層された少なくともひとつのシリコン層22と少なくともひとつの酸化シリコン層21との積層体により構成されている。シリコン層22は、シリコンにより構成されている。
【0019】
シリコン層22及び酸化シリコン層21のそれぞれの厚み、シリコン層22と酸化シリコン層21との積層数は、熱線反射部材1に付与しようとする熱線反射特性等に応じて適宜設定することができる。シリコン層22の厚みは、例えば、100nm〜1000nm程度とすることができる。酸化シリコン層21の厚みは、例えば、100nm〜2000nm程度とすることができる。シリコン層22と酸化シリコン層21との積層数は、例えば、7〜50程度とすることができる。
【0020】
酸化シリコン層21は、第1の領域21aと第2の領域21bとを有する。第2の領域21bは、第1の領域21aとシリコン層22との間に位置するように配されている。このため、酸化シリコン層21は、具体的には、酸化シリコン層21の厚み方向の中央部に位置する第1の領域21aと、酸化シリコン層21の一の表面を構成している第2の領域21bと、酸化シリコン層21の他の表面を構成している第2の領域21bとを有する。即ち、酸化シリコン層21は、厚み方向中央部に位置する第1の領域21aと、厚み方向両端部に位置する2つの第2の領域21bとを有する。
【0021】
酸化シリコン層21の厚みに対する、第1の領域21aの厚みの比((第1の領域21aの厚み)/(酸化シリコン層21の厚み))は、0.5〜0.99であることが好ましく、0.9〜0.98であることがより好ましい。酸化シリコン層21の厚みに対する、ひとつの第2の領域21bの厚みの比((ひとつの第2の領域21bの厚み)/(酸化シリコン層21の厚み))は、0.001〜0.4であることが好ましく、0.002〜0.3であることがより好ましい。
【0022】
なお、基材10と熱線反射層20との間の密着強度を高める観点からは、熱線反射層20の基材10と接する層を酸化シリコン層21とすることが好ましく、第1の領域21aとすることがより好ましい。
【0023】
本実施形態では、第1の領域21aと第2の領域21bとは、異なる層により構成されている。第1の領域21aは、第1の酸化シリコン層により構成されている。第2の領域21bは、第2の酸化シリコン層により構成されている。
【0024】
第2の領域21bの屈折率n2は、第1の領域21aの屈折率n1よりも大きい。第2の領域21bの屈折率n2は、第1の領域21aの屈折率n1よりも、1.1倍〜2.4倍大きいことが好ましく、1.5倍〜2倍大きいことがより好ましい。
【0025】
従って、第1の領域21aの組成をSiOとし、第2の領域21bの組成をSiOとしたときに、xとyは、x>yの関係を充足する。具体的には、1.95≦x≦2であることがより好ましく、1.99≦x≦2であることがさらに好ましい。0.5≦y≦1.95であることがより好ましく、0.6≦y≦1.4であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、シリコン層22及び酸化シリコン層21の形成方法は、特に限定されない。シリコン層22及び酸化シリコン層21は、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタリング法等により形成することができる。
【0027】
以上説明したように、熱線反射部材1では、熱線反射層20がシリコン層22と酸化シリコン層21とにより構成されている。このため、熱線反射層が金、チタン、窒素等を含む場合とは異なり、熱線反射部材1をシリコン半導体の製造などに使用される熱処理装置に用いられた場合であっても、シリコン半導体にコンタミネーションが生じ難い。シリコン半導体にコンタミネーションがより生じ難くする観点からは、基材10が酸化シリコン及びシリコンの少なくとも一方により構成されていることが好ましい。基材10は、例えば、石英基板により構成されていることが好ましい。
【0028】
ところで、シリコン半導体にコンタミネーションが生じることを抑制する観点からは、例えば、Si層とSiO層とが交互に積層された熱線反射層を設けることも考えられる。しかしながら、Si層とSiO層とが交互に積層された熱線反射層を設けた場合は、例えば1000℃を超えるような高温雰囲気中において、熱線反射層が剥離したり、熱線反射層や基材にクラックや割れが生じたりする場合がある。従って、例えば1000℃を超えるような高温雰囲気中において使用することが困難である。
【0029】
それに対して、熱線反射部材1では、酸化シリコン層21の第1の領域21aとシリコン層22との間には、第2の領域21bが設けられている。第2の領域22aの屈折率は、第1の領域21aの屈折率よりも高い。このため、第1の領域21aの組成をSiOとし、第2の領域21bの組成をSiOとしたときに、xとyは、x>yの関係を充足する。即ち、酸素の割合が相対的に高い第1の領域21aとシリコン層22との間に、酸素の割合が相対的に低い第2の領域21bが設けられている。このため、熱線反射部材1を例えば1000℃を超えるような高温雰囲気中に配した場合であっても、熱線反射層20の剥離や、熱線反射層20及び基材10に割れやクラックが生じ難い。従って、熱線反射部材1は、例えば1000℃を超えるような高温雰囲気中においても使用可能である。換言すれば、熱線反射部材1は、優れた耐熱性を有する。このような効果が得られる理由としては、第2の領域21bの熱膨張係数が、第1の領域21aの熱膨張係数とシリコン層22の熱膨張係数との間に位置しているため、第2の領域21bが第1の領域21aとシリコン層22との間の応力を緩和することが考えられる。
【0030】
なお、本実施形態では、第1の領域21aと第2の領域21bとが、組成が相互に異なる別個の酸化シリコン層により構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、酸化シリコン層21を、シリコン層22から離れるに従って屈折率が漸減するように設けることにより、シリコン層22に第1及び第2の領域21a、21bを形成してもよい。
【0031】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0032】
(実施例1)
スパッタリング装置を用いて、洗浄した石英基板上(厚さ4mm)にシリコン層及び酸化シリコン層を形成し、表1に記載の層構成の熱性反射層を有する熱線反射部材を作製した。ターゲットには、シリコンを用いた。シリコン層を形成しているときには、アルゴンガスを導入しながらスパッタリングを行った。また、酸化シリコン層を形成しているときには、アルゴンガスと酸素ガスを導入しながらスパッタリングを行った。表1におけるNo.は、石英基板からの層の順序である。表1に示すように、石英基板に対する熱線反射層の積層数は、69である。SiOの屈折率は、1.46〜1.47であった。また、SiOの屈折率は、1.7〜2.5であった。
【0033】
次に、得られた熱線反射部材について、1500nm〜5000nmの熱線を照射したところ、この波長領域において、95%以上の反射率を示した。
【0034】
次に、熱線反射部材を1000℃で24時間加熱した。その結果、熱線反射部材の形状に変化はなかった。図2に、加熱後の熱線反射部材の断面の顕微鏡写真を示す。
【0035】
次に、加熱後の熱線反射部材について、1500nm〜5000nmの熱線を照射したところ、この波長領域において、95%以上の反射率を示した。
【0036】
【表1】

【0037】
(比較例1)
表2に記載の層構成としたこと以外は、実施例1と同様にして、熱線反射層を有する熱線反射部材を作製した。SiOの屈折率は、1.46〜1.47であった。
【0038】
次に、得られた熱線反射部材について、1500nm〜5000nmの熱線を照射したところ、この波長領域において、95%以上の反射率を示した。
【0039】
次に、熱線反射部材を1000℃で24時間加熱した。その結果、図3に、加熱後の熱線反射部材の断面の顕微鏡写真を示す。図3から明らかなように、石英基板と熱線反射層にクラックが発生していた。また、熱線反射層の一部が石英基板から剥離していた。
【0040】
図4に、加熱後の熱線反射部材の表面の写真を示す。図4からも、石英基板と熱線反射層にクラックと剥離が発生していることが分かる。
【0041】
【表2】

【0042】
なお、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。例えば、酸化シリコン層21は、シリコン層22から離れるに従って屈折率が漸減するように設けられていてもよい。このような酸化シリコン層21は、例えばスパッタリング法で酸化シリコン層21を形成する際に、酸素ガスの濃度を徐々に下げていくことにより形成することができる。
【0043】
熱線反射層20は、基材10の一主面の上のみに設けられていてもよいし、基材10の両主面に設けられていてもよい。
【0044】
以上のように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0045】
1…熱線反射部材
10…基材
20…熱線反射層
21…酸化シリコン層
21a…第1の領域
21b…第2の領域
22…シリコン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の上に配されており、シリコン層と酸化シリコン層とが交互に積層されてなる熱線反射層と、
を備え、
前記酸化シリコン層は、
第1の領域と、
前記第1の領域と前記シリコン層との間に位置する第2の領域と、
を含み、
前記第2の領域の屈折率が前記第1の領域の屈折率よりも高い、熱線反射部材。
【請求項2】
前記酸化シリコン層は、前記第1の領域を構成している第1の酸化シリコン層と、前記第2の領域を構成している第2の酸化シリコン層とを有する、請求項1に記載の熱線反射部材。
【請求項3】
前記第1の領域は、SiOで表される酸化シリコンからなり、前記第2の領域は、SiOで表される酸化シリコンからなり、xとyは、x>yの関係を充足する、請求項1または2に記載の熱線反射部材。
【請求項4】
前記酸化シリコン層は、前記シリコン層から離れるに従って屈折率が漸減するように設けられている、請求項1に記載の熱線反射部材。
【請求項5】
前記基材は、酸化シリコン及びシリコンの少なくとも一方により構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱線反射部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−50638(P2013−50638A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189412(P2011−189412)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】