説明

熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法およびポータブル型ガス検知器

【課題】 湿度センサを用いることなく、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度補正を容易に行うことのできる熱線型半導体式センサの感度補正方法、および、熱線型半導体式センサを具え、信頼性の高いガス検知を効率よく行うことのできるポータブル型ガス検知器を提供すること。
【解決手段】 測定雰囲気の湿度に応じた熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の、基準湿度における当該熱線型半導体式ガスセンサの基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と基準湿度との湿度差による変動量と、測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動量とが比例関係にあることを利用して、熱線型半導体式ガスセンサの基準ガス感度を補正する。ポータブル型ガス検知器は、上記ガス感度補正を行うガス感度補正機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法、および、熱線型半導体式ガスセンサを具えたポータブル型ガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば可燃性ガスや毒性ガスを検知するガスセンサの一つとして、例えば白金もしくは白金合金線よりなる線状抵抗体によって形成されたコイルが埋設された金属酸化物半導体の表面でのガス吸着による金属酸化物半導体の抵抗値の変化を検出することにより検知対象ガスのガス濃度を測定する熱線型半導体式ガスセンサが知られている。熱線型半導体式ガスセンサは可燃性ガスを低濃度から検知できる特長がある。
【0003】
一般に、ガスセンサの校正には、ボンベガス(相対湿度が0%Rhである標準ガス)が用いられるが、熱線型半導体式ガスセンサには、湿度影響が大きいという欠点があるため、例えば、ドライエアー(ボンベガス)を用いてゼロ校正したものにおいて、室内エアー(ゼロガス)を測定した場合には、湿度の影響でゼロ出力値が高い数字として出力され、ゼロ出力値が湿度の影響によって変動(ドリフト)する。また、ガス感度(スパン校正点とゼロ校正点との差)についても同様に、湿度の影響によって変動(ドリフト)する。これは、ガス反応による酸素脱離以外にガス感応部の表面に吸着しているHO等も奪われてしまうためである。このように、従来においては、熱線型半導体式ガスセンサの校正には、湿度ゼロのDRYガスであるボンベガスをそのままの状態で使用することができず、例えば予め加湿を行うなどして測定雰囲気と同等の湿度の校正用ガスを生成していた。しかしながら、校正用ガスを測定雰囲気の環境条件に応じてその都度生成することが必要となって相当に手間がかかり、また、測定雰囲気の環境条件と同等の校正用ガスを常時用意しておくことは実際上困難である、という問題がある。
【0004】
一方、半導体式ガスセンサが収納されたガス検知部内に温度センサと相対湿度センサとが配置されてなり、半導体式ガスセンサより得られるセンサ出力が、温度センサおよび相対湿度センサの各々の測定値より算出される絶対湿度に基づいて、補正される構成とされたガス濃度測定装置が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
しかしながら、湿度センサは高価であるため、ガス検知器の製造コストが高騰すると共に、特に、吸引式のガス検知器においては、湿度センサが接ガス環境下に晒されることとなるため、湿度センサとして、ガスに対する耐久性を有するものを用いることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−350380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、熱線型半導体式センサのガス感度の湿度の影響による変動量は、温度によらず、ゼロ出力値が湿度によって変動する量にほぼ比例するとの知見を得、測定雰囲気におけるエアー(ゼロガス)を測定し、当該測定雰囲気の湿度によるゼロ出力値の変動量を取得することにより、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度の補正を行うことができることが判明し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、熱線型半導体式センサについて、湿度センサを用いることなく、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度補正を容易に行うことのできる熱線型半導体式センサの感度補正方法、および、熱線型半導体式センサを具えたものにおいて、信頼性の高いガス検知を効率よく行うことのできるポータブル型ガス検知器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法は、測定雰囲気の湿度に応じた熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の基準湿度における当該熱線型半導体式ガスセンサの基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と前記基準湿度との湿度差による変動量と、
当該測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と前記基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動量と
が比例関係にあることを利用して、前記基準ガス感度が補正されることを特徴とする。
【0009】
本発明の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法においては、前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度が下記式(1)に基づいて算出される。
【0010】
【数1】

【0011】
また、本発明の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法においては、測定雰囲気における温度および前記ゼロ校正用ガスの温度の温度差と当該温度差によるゼロ出力値の変動量との関係を示すゼロ出力温度補正データ、および、前記温度差と当該温度差によるガス感度の変動量との関係を示すガス感度温度補正データを予め取得しておき、
前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を算出するに際して、前記ゼロ校正値の前記ゼロ出力温度補正データに基づく温度補正がなされると共に、前記基準ガス感度の前記ガス感度温度補正データに基づく温度補正がなされることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法においては、前記ゼロ校正値として、相対湿度が0%Rhであるゼロ校正用ガスを用いて取得されたものを用いることができる。
【0013】
本発明のポータブル型ガス検知器は、熱線型半導体式ガスセンサと、当該熱線型半導体式ガスセンサのガス感度を測定雰囲気の湿度に応じて補正する機能を有するガス感度補正機構と、前記熱線型半導体式ガスセンサについての基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値および当該基準湿度における基準ガス感度を含む情報が記録された記憶手段とを具えており、
前記ガス感度補正機構は、測定雰囲気の湿度に応じた前記熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の当該熱線型半導体式ガスセンサの前記基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と前記基準湿度との湿度差による変動量と、
当該測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と前記基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動と
が比例関係にあることを利用して、前記基準ガス感度を補正する機能を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のポータブル型ガス検知器においては、前記ガス感度補正機構は、前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を上記式(1)に基づいて算出する機能を有する構成とすることができる。
【0015】
また、本発明のポータブル型ガス検知器においては、前記記憶手段には、前記測定雰囲気における温度および前記ゼロ校正用ガスの温度との温度差と当該温度差によるゼロ出力値の変動量との関係を示すゼロ出力温度補正データ、および、前記温度差と当該温度差によるガス感度の変動量との関係を示すガス感度温度補正データがさらに記録されており、
前記ガス感度補正機構は、前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を算出するに際して、前記ゼロ校正値の、前記ゼロ出力温度補正データに基づく温度補正を行うと共に、前記基準ガス感度の、前記ガス感度温度補正データに基づく温度補正を行う機能を有する構成とされていることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明のポータブル型ガス検知器においては、前記ゼロ校正値を、相対湿度が0%Rhであるゼロ校正用ガスを用いて取得されるものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法によれば、測定雰囲気の湿度に応じた熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の基準湿度における当該熱線型半導体式ガスセンサの基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と前記基準湿度との湿度差による変動量と、当該測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と前記基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動量とが比例関係にあることを利用して、前記基準ガス感度が補正されることにより、基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値および当該基準湿度における基準ガス感度を予め取得しておき、測定雰囲気における検知対象ガスが含まれないガスについてのセンサ出力値(ゼロ出力値)を取得するという操作を行うだけで、湿度センサ等の特別なデバイスを用いることなく、熱線型半導体式ガスセンサについて、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度補正を容易にかつ効率よく行うことができる。
また、熱線型半導体式ガスセンサのガス感度補正を行うに際して、測定雰囲気の環境に応じて生成したものではなく、ボンベガス(相対湿度0%Rh)を校正用ガスとして用いることができるので、高い利便性を得ることができる。
従って、熱線型半導体式ガスセンサについて上記のガス感度補正が行われる本発明のポータブル型ガス検知器によれば、測定雰囲気の環境条件によるセンサ出力の変動が補償された信頼性の高いガス検知を効率よく行うことができる。また、湿度センサ等の特別なデバイスが不要であるので、所期のガス検知器をコスト的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のポータブル型ガス検知器の一例における要部の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】熱線型半導体式ガスセンサを構成するガス感応素子の一例における構成の概略を、ガス感応部の一部を省略して示す斜視図である。
【図3】ガス感度補正処理の一例を示す動作フロー図である。
【図4】湿度補正係数の設定方法を説明するめの、ガス感度比と湿度の影響によるゼロ出力値の変動量との関係を示すグラフである。
【図5】実験例1におけるセンサ出力に対する湿度の影響を示すグラフである。
【図6】参考例1におけるセンサ出力に対する湿度の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のポータブル型ガス検知器の一例における要部の構成を概略的に示すブロック図である。
この実施の形態に係るポータブル型ガス検知器(以下、単に、「ガス検知器」という。)は、熱線型半導体式ガスセンサ10と、この熱線型半導体式ガスセンサ10を駆動するセンサ駆動手段20と、測定雰囲気の温度を測定する温度センサ30と、ガス検知器の動作制御を行う制御手段と、ガス濃度測定および感度補正に係る情報が記録された記憶手段60とを具えている。
【0020】
熱線型半導体式ガスセンサ10は、通電により加熱された状態において検知対象ガスに感応するガス感応素子(検出素子)を有し、図2に示すように、ガス感応素子11は、通電により発熱する抵抗体の周囲に、金属酸化物半導体、例えば酸化スズ(SnO)などの酸化触媒がアルミナ(Al)担体と共に焼結されてなるガス感応部12が形成されて構成されている。
【0021】
抵抗体は、例えば白金またはその合金よりなる金属素線がコイル状に巻回されてなるコイル部13Aおよびこのコイル部13Aの両端に連続する直線状のリード部13Bを有するヒータ13よりなる。
【0022】
ガス感応素子11の構成例を示すと、ガス感応部12の最大外径Dが0.2〜1.3mm、全長Lが0.2〜1.3mmであり、ヒータ13を構成する金属素線の素線径がφ15〜50μm、全長が7.5〜25.5mm(コイル部13Aの長さが3.75〜22.6mm)、コイル部13Aの巻き数が8〜18である。
【0023】
センサ駆動手段20は、ガス感応部12の表面温度が所定温度例えば300〜400℃に維持されるよう、熱線型半導体式ガスセンサ10におけるヒータ13に適正な大きさに制御された電圧または電流を印加する。ここに、例えば、ヒータ13に対する印加電圧は、1.0〜2.6Vである。
【0024】
制御手段は、センサ駆動手段20およびその他の構成部材の動作制御を行う動作制御機構(図示せず)と、測定雰囲気の環境条件(温度、湿度)に応じて熱線型半導体式ガスセンサ10の感度補正を行う機能を有するガス感度補正機構40と、熱線型半導体式ガスセンサ10により取得されるセンサ出力値に基づいてガス濃度を算出する機能を有するガス濃度算出機構50とを具えている。
【0025】
ガス感度補正機構40は、ゼロ校正点温度補正部41と、ガス感度温度補正部42と、ゼロ出力変動量算出部43と、ガス感度湿度補正部44とを有する。
【0026】
ゼロ校正点温度補正部41は、熱線型半導体式ガスセンサ10のゼロ校正点Zdを、測定雰囲気の温度に応じて温度補正して一次補正ゼロ出力Zd(t)を算出する。ここに、熱線型半導体式ガスセンサ10のゼロ校正点Zdは、基準湿度のゼロ校正用ガス例えば、相対湿度が0%Rhであるボンベガスを用いて取得されたものであって、記憶手段60に記録されている。そして、ゼロ校正点Zdの温度補正は、熱線型半導体式ガスセンサ10について予め実験的に取得された、温度変化量と当該熱線型半導体式ガスセンサ10のゼロ出力変動量との関係を示す補正用温度特性データαに基づいて行われ、この補正用温度特性データαは記憶手段60に記録されている。
【0027】
ガス感度温度補正部42は、熱線型半導体式ガスセンサ10の基準ガス感度Sdを、測定雰囲気の温度に応じて温度補正して一次補正ガス感度Sd(t)を算出する。ここに、スパン校正点Gdは、ゼロ校正用ガスと同一の湿度のスパン校正用ガス、例えば相対湿度が0%Rhであるボンベガス(標準ガス)を用いて取得されたものであって、記憶手段60に記録されている。そして、基準ガス感度Sdの温度補正は、熱線型半導体式ガスセンサ10について予め実験的に取得された、温度変化量と当該熱線型半導体式ガスセンサ10のガス感度の変動量との関係を示す補正用温度特性データβに基づいて行われ、この補正用温度特性データβは記憶手段60に記録されている。
【0028】
ゼロ出力変動量算出部43は、測定雰囲気における検知対象ガスが含まれないガス(ゼロガス、湿度Tm%Rh)が導入されることにより熱線型半導体式ガスセンサ10により取得されるセンサ出力をゼロ出力値Zmとし、このゼロ出力値Zmの、一次補正ゼロ出力Zd(t)に対するゼロ出力変動量Dzを算出する。
【0029】
ガス感度湿度補正部44は、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度の基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と基準湿度との湿度差による変動量と、ゼロ出力変動量Dzとが比例関係にあることを利用して、熱線型半導体式ガスセンサ10の基準ガス感度(この例では一次補正ガス感度Sd(t))の補正を行う。測定雰囲気の湿度の影響に対するガス感度の具体的補正方法(湿度補正)については後述する。
【0030】
記憶手段60に記録される情報としては、例えば、熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値とガス濃度値との関係を示す当該熱線型半導体式ガスセンサ10に固有の検量線データ、熱線型半導体式ガスセンサ10についてのゼロ校正点Zd、スパン校正点Gd、基準ガス感度Sd、ゼロ校正点についての補正用温度特性データα、スパン校正点についての補正用温度特性データβ、ガス感度についての湿度補正係数K、湿度補正処理後のガス感度Sm、測定雰囲気に係るゼロ出力値Zmなどを挙げることができる。これらのデータは、複数種の検知対象ガスの各々について設定された複数のものが記録されていてもよい。
【0031】
以下、上記のガス検知器の動作について説明する。
上記のガス検知器においては、例えばセンサ駆動手段20によって適正な大きさに制御された電圧が熱線型半導体式ガスセンサ10におけるヒータ13に供給されて(定電流制御)ガス感応部12の表面温度が所定の温度状態、例えば300〜400℃に維持されるよう加熱された状態において、測定雰囲気における被検ガスが熱線型半導体式ガスセンサ10に供給されると、ガス感応部12を構成する金属酸化物半導体の抵抗値(検出出力値)に応じた検出信号(センサ出力)がガス濃度算出機構50に入力されることにより、当該検出信号に応じたガス濃度が検量線データに基づいて算出され、その結果が表示手段(図示せず)に表示される。
【0032】
而して、上述したように、熱線型半導体式ガスセンサは、湿度、温度等の環境変化によってセンサ出力特性が変動することから、上記のガス検知器においては、測定を開始するに際して、熱線型半導体式ガスセンサ10の基準ガス感度Sdが測定雰囲気の環境条件に応じたものとなるよう補正するガス感度補正処理が行われる。以下、このガス感度補正処理について具体的に説明する。
【0033】
測定雰囲気における被検ガスの測定に際しては、図3に示すように、先ず、測定雰囲気における検知対象ガスを含まないゼロガス(湿度Tm%Rh)が導入されることにより、温度センサ30によって測定雰囲気の温度が測定されると共に、熱線型半導体式ガスセンサ10により取得されるセンサ出力値がゼロ出力値Zmとして取得され(S1)、記憶手段60に記録されたゼロ校正値Zdの、測定雰囲気の温度に応じた温度補正が行われて一次補正ゼロ出力値Zd(t)が取得される(S2)。具体的には、ゼロ校正点温度補正部41によって、測定雰囲気の温度と基準温度(ゼロ校正点を取得する際に用いられたゼロ校正用ガスの温度)との温度差に応じたゼロ出力の変動量が補正用温度特性データαに基づいて算出され、ゼロ校正点Zdが当該算出されたゼロ出力の変動量によって補正されることにより一次補正ゼロ出力値Zd(t)が算出される。
次いで、ゼロ出力変動量算出部43によって、測定雰囲気の湿度の影響によるゼロ出力変動量、すなわち、測定されたゼロ出力値Zmのゼロ校正点(この例では一次補正ゼロ出力値Zd(t))に対する変動量Dz(=Zm−Zd(t))が算出される(S3)。
【0034】
一方、記憶手段60に記録された基準ガス感度Sdの、測定雰囲気の温度に応じた温度補正が行われて一次補正ガス感度Sd(t)が取得される(S4)。具体的には、ガス感度温度補正部42によって、測定雰囲気の温度と基準温度(スパン校正点を取得する際に用いられたスパン校正用ガスの温度)との温度差に応じたガス感度の変動量が補正用温度特性データβに基づいて算出され、基準ガス感度Sdが当該算出されたガス感度の変動量によって補正されることにより一次補正ガス感度Sd(t)が算出される。
そして、ガス感度湿度補正部44によって、一次補正ガス感度Sd(t)の、測定雰囲気の湿度に応じた湿度補正が行われ、湿度の影響によるセンサ出力値の変動が補償されたガス感度Smが算出される(S5)。具体的には、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度Smは、基準ガス感度(この例では一次補正ガス感度)をSd(t)、測定雰囲気の湿度の影響によるゼロ出力変動量をDz、湿度補正係数をKとしたとき、下記式(2)により示される。
【0035】
【数2】

【0036】
上記式(2)における湿度補正係数Kは次のようにして取得されるものである。
すなわち、各々相対湿度が異なる基準温度(例えば20℃)の複数種のゼロ校正用ガスを用意し、各々のゼロ校正用ガスを用いて熱伝導型半導体式ガスセンサ10のゼロ校正処理を行い、各々のゼロ校正用ガスに係るゼロ出力値Zmの、相対湿度が0%Rhであるゼロ校正用ガスに係るゼロ出力値(ゼロ校正点)Zdに対する変動量Dz(=Zm−Zd)を算出する。
また、各々相対湿度が異なる基準温度(例えば20℃)の複数種のスパン校正用ガスを用意し、各々のスパン校正用ガスを用いて熱線型半導体式ガスセンサ10のスパン校正処理を行うことによりガス感度を算出し、各々のスパン校正用ガスを用いて算出されるガス感度Smの、相対湿度が0%Rhであるスパン校正用ガス(ボンベガス)を用いて算出される基準ガス感度Sdに対するガス感度比(Sm/Sd)を算出する。
そして、図4に示すように、ゼロ出力変動量Dz〔mV〕を横軸、ガス感度比Sm/Sdを縦軸にとって結果をプロット(四角形のプロット)し、これらを直線近似することにより取得される、図4において破線で示す湿度特性データにおいて、近似直線Lの傾きが基準温度における湿度補正係数Kとして設定される。
【0037】
ここに、校正用ガスの温度を0℃(図4において菱形のプロット)、40℃(図4において三角形のプロット)および50℃(図4においてバツ印のプロット)に変更して上記と同様の操作を行ったところ、ゼロ出力変動量およびガス感度比の両者は、校正用ガスの温度に拘らず、比例関係にあり、しかも、湿度補正係数K(近似直線Lの傾きの大きさ)は、実質的に一致する(一定の大きさ)であることが理解される。
【0038】
以上のようなガス感度補正処理が行われた後、ガス濃度算出機構50によって、測定雰囲気における被検ガスが導入されることにより取得される熱線型半導体式ガスセンサ10のセンサ出力値に応じた被検ガス中の検知対象ガスのガス濃度が当該熱線型半導体式ガスセンサ10についての固有の検量線データに基づいて算出される。
【0039】
而して、上記のガス検知器によれば、熱線型半導体式ガスセンサ10のガス感度補正処理が、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度Smの、基準湿度における基準ガス感度Sdに対するガス感度比Sm/Sdの、測定雰囲気の湿度と基準湿度との湿度差による変動量と、測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値Zmと基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値Zdとの差で示されるゼロ出力変動量Dzとが比例関係にあることを利用して、基準ガス感度Sdが補正されることにより、基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値、ゼロ校正用ガスと同一の湿度のスパン校正用ガスによるスパン校正値およびスパン校正値とゼロ校正値との差で示される基準ガス感度を予め取得しておき、測定雰囲気におけるゼロガスについてのセンサ出力値(ゼロ出力値)を取得するという操作を行うだけで、湿度センサ等の特別なデバイスを用いることなく、測定雰囲気の湿度に応じたガス感度補正を容易に行うことができ、測定雰囲気の環境条件によるセンサ出力の変動が補償された信頼性の高いガス検知を効率よく行うことができる。
さらに、基準ガス感度の補正に際して、予め取得されたゼロ校正点Zdおよび基準ガス感度Sdについて測定雰囲気の温度に応じた補正(温度補正)が行われることにより、上記効果を一層確実に得ることができる。
さらにまた、湿度センサ等の特別なデバイスが不要であるので、所期のガス検知器をコスト的に有利に製造することができる。
【0040】
以上のように、本発明の熱線型半導体式ガスセンサのガス感度補正方法によれば、熱線型半導体式ガスセンサ10について、測定雰囲気の環境条件、特に湿度に応じたガス感度補正を、測定雰囲気の環境に応じて生成したものではなく、ボンベガス(相対湿度0%Rhの標準ガス)を校正用ガスとして用いて行うことができるので、高い利便性を得ることができ、熱線型半導体式ガスセンサ10を具えたポータブル型ガス検知器、特に吸引式のポータブル型ガス検知器に極めて有用である。すなわち、湿度センサを用いて感度補正を行う構成のものであれば、吸引式のものに適用した場合には、湿度センサが接ガス環境下に晒されることとなるため、湿度センサとして、ガスに対する耐久性を有するものを用いることが必要となるなど、湿度センサを配管内に配置することが大変であるという問題が生ずることとなるが、本発明によれば、このような問題が生ずることがない。
【0041】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
<実験例1>
図2に示す構成の検出素子を具えた、各々互いに同一の構成を有する10個の熱線型半導体式ガスセンサを作製し、各々の熱線型半導体式ガスセンサについて、相対湿度0%Rh、温度20℃であるボンベガス(エアー(ゼロ校正用ガス)および濃度500ppmのメタンガス(スパン校正用ガス))を用いてゼロ校正処理およびスパン校正処理を行うことにより、ゼロ校正値(Zd)、スパン校正値(Gd)および基準ガス感度(Sd)を取得すると共にガス感度についての湿度補正係数(K)を取得した。
各々の熱線型半導体式ガスセンサにおける検出素子(11)は、ガス感応部(12)の最大外径(D)が0.55mm、全長(L)が0.7mm、表面積が1.2mmであり、ヒータ(13)を構成する白金線の素線径がφ20μm、全長が12.4mm(コイル部(13A)の長さが8.9mm)、コイル部(13A)の巻き数が18であり、供給電流が120mA(定電流)、通電時におけるヒータ(13)の発熱量が0.15Wである。
【0042】
各々相対湿度が30、60、90%Rh、温度が20℃、ガス濃度が500ppmである3種類のメタンガスを試験用ガスとして用い、各々の試験用ガスについてのガス濃度測定を行った。そして、ガス濃度測定に際して、湿度の影響によるゼロ出力変動量とガス感度比が比例関係にあることを利用してガス感度補正を行った。結果を図5に示す。図5において、縦軸は、各々の試験用ガスについて取得されるセンサ出力値の、相対湿度0%Rhの試験用ガスについて取得されるセンサ出力値に対するセンサ出力比であり、横軸は、相対湿度(%Rh)である。
【0043】
<参考例1>
上記実験例1において、各々の試験用ガスについてのガス濃度測定に際して、ガス感度の補正を行わないことの他は、実験例1と同様のガス濃度測定を行った。結果を図6に示す。
【0044】
以上の結果より明らかなように、湿度の影響によるゼロ出力変動量とガス感度変動量が比例関係にあることを利用してガス感度補正を行うことにより、湿度の影響によるセンサ出力の変動が補償された安定したセンサ出力値が得られることが確認された。これに対して、ガス感度補正を行わない場合には、湿度の影響によってセンサ出力値が最大で60%程度にまで低下することが確認された。
【0045】
また、ゼロ校正点についての補正用温度特性データを取得すると共にガス感度についての補正用温度特性データを取得し、上記実験例1において、試験用ガスの温度を0℃、40℃、50℃に変更して実験例1と同様のガス濃度測定を行った。そして、ガス濃度測定に際して、ゼロ校正点および基準ガス感度について温度補正を行うと共に、湿度の影響によるゼロ出力変動量とガス感度変動量が比例関係にあることを利用してガス感度補正を行ったところ、いずれの場合においても、上記実験例1と同様に、温度および湿度の影響によるセンサ出力の変動が補償された安定したセンサ出力値が得られることが確認された。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、熱線型半導体式ガスセンサの感度補正を行うに際して用いられる測定雰囲気の温度は、ガス検知器それ自体が有する温度センサにより検出された値であっても、ガス検知器と別個の温度検出手段によって検出された値が入力されたものであってもよく、従って、ガス検知器それ自体が温度センサを具備する構成とされている必要はない。
また、ガス感度補正を行うに際して用いられるゼロ校正点およびスパン校正点は、相対湿度が0%Rhである校正用ガスによる値でなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 熱線型半導体式ガスセンサ
11 ガス感応素子
12 ガス感応部
13 ヒータ
13A コイル部
13B リード部
20 センサ駆動手段
30 温度センサ
40 ガス感度補正機構
41 ゼロ校正点温度補正部
42 ガス感度温度補正部
43 ゼロ出力変動量算出部
44 ガス感度湿度補正部
50 ガス濃度算出機構
60 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定雰囲気の湿度に応じた熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の基準湿度における当該熱線型半導体式ガスセンサの基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と前記基準湿度との湿度差による変動量と、
当該測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と前記基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動量と
が比例関係にあることを利用して、前記基準ガス感度が補正されることを特徴とする熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法。
【請求項2】
前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度が下記式(1)に基づいて算出されることを特徴とする請求項1に記載の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法。
【数1】

【請求項3】
測定雰囲気における温度および前記ゼロ校正用ガスの温度の温度差と当該温度差によるゼロ出力値の変動量との関係を示すゼロ出力温度補正データ、および、前記温度差と当該温度差によるガス感度の変動量との関係を示すガス感度温度補正データを予め取得しておき、
前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を算出するに際して、前記ゼロ校正値の前記ゼロ出力温度補正データに基づく温度補正がなされると共に、前記基準ガス感度の前記ガス感度温度補正データに基づく温度補正がなされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法。
【請求項4】
前記ゼロ校正値が、相対湿度が0%Rhであるゼロ校正用ガスを用いて取得されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の熱線型半導体式ガスセンサの感度補正方法。
【請求項5】
熱線型半導体式ガスセンサと、当該熱線型半導体式ガスセンサのガス感度を測定雰囲気の湿度に応じて補正する機能を有するガス感度補正機構と、前記熱線型半導体式ガスセンサについての基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値および当該基準湿度における基準ガス感度を含む情報が記録された記憶手段とを具えており、
前記ガス感度補正機構は、測定雰囲気の湿度に応じた前記熱線型半導体式ガスセンサのガス感度の当該熱線型半導体式ガスセンサの前記基準ガス感度に対するガス感度比の、測定雰囲気の湿度と前記基準湿度との湿度差による変動量と、
当該測定雰囲気において検知対象ガスが含まれないガスが導入されることにより取得されるゼロ出力値と前記基準湿度のゼロ校正用ガスによるゼロ校正値との差で示されるゼロ出力変動と
が比例関係にあることを利用して、前記基準ガス感度を補正する機能を有することを特徴とするポータブル型ガス検知器。
【請求項6】
前記ガス感度補正機構は、前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を下記式(1)に基づいて算出する機能を有することを特徴とする請求項5に記載のポータブル型ガス検知器。
【数2】

【請求項7】
前記記憶手段には、前記測定雰囲気における温度および前記ゼロ校正用ガスの温度との温度差と当該温度差によるゼロ出力値の変動量との関係を示すゼロ出力温度補正データ、および、前記温度差と当該温度差によるガス感度の変動量との関係を示すガス感度温度補正データがさらに記録されており、
前記ガス感度補正機構は、前記測定雰囲気の湿度に応じたガス感度を算出するに際して、前記ゼロ校正値の、前記ゼロ出力温度補正データに基づく温度補正を行うと共に、前記基準ガス感度の、前記ガス感度温度補正データに基づく温度補正を行う機能を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のポータブル型ガス検知器。
【請求項8】
前記ゼロ校正値が、相対湿度が0%Rhであるゼロ校正用ガスを用いて取得されるものであることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のポータブル型ガス検知器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−79832(P2013−79832A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218934(P2011−218934)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】