説明

熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法および熱線遮蔽微粒子含有組成物、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物を用いた熱線遮蔽膜および当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材

【課題】ポリビニルアセタール樹脂を主成分としながら、熱線遮蔽効果の高い複合タングステン酸化物微粒子を用い、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式MWOで示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して分散液を得る第1工程と、第1工程で得られた分散液へ、カルボン酸の金属塩を混合して混合物を得る第2工程と、第2工程で得られた混合物を乾燥して熱線遮蔽微粒子含有組成物とし、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物に残留する上記有機溶剤の含有率を5質量%以下にする第3工程とを、有する熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好で、かつ、優れた熱線遮蔽機能を有する合わせ透明基材に用いられる、熱線遮蔽膜の製造に適用される熱線遮蔽微粒子含有組成物とその製造方法に係り、さらには、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物が適用された熱線遮蔽膜と、当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用などに用いられる安全ガラスとして、2枚の板ガラス間にポリビニルアセタール樹脂等を含む中間膜を挟み込んで合わせガラスを構成したものが用いられている。さらに、当該中間膜に熱線遮蔽機能を持たせ、当該合わせガラスにより入射する太陽エネルギーを遮断して冷房負荷や人の熱暑感の軽減を目的とした合わせガラスが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の板ガラス間に、0.1μm以下の微細な粒径の酸化錫または酸化インジウムから成る熱線遮蔽性金属酸化物を含有した軟質樹脂層を存在させた合わせガラスが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、少なくとも2枚の板ガラスの間に、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、窒化物、硫化物、または、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物が分散している中間層を設けた構成を有する合わせガラスが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、TiO、ZrO、SnO、Inから成る微粒子と、有機ケイ素または有機ケイ素化合物から成るガラス成分とを、透明板状部材の間に存在させた自動車用窓ガラスが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、少なくとも2枚の透明ガラス板状体の間に3層から成る中間層を設け、中間層のうち第2層の中間層にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、窒化物、硫化物、または、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物を分散させ、他方、第1層および第3層の中間層を樹脂層とした合わせガラスが開示されている。
【0007】
一方、本件出願人は、熱線遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に存在させて成り、この中間層が、六ホウ化物微粒子単独若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子とビニル系樹脂を含有する中間膜により構成された熱線遮蔽用合わせガラス、あるいは、上記中間層が、少なくとも一方の板ガラスの内側に位置する面に形成された上記微粒子が含まれる熱線遮蔽膜と、上記2枚の板ガラス間に存在されるビニル系樹脂を含有する中間膜とで構成された熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献5として提案している。
【0008】
一方、近赤外線領域の遮蔽機能を有する微粒子として、上述したITO微粒子、ATO微粒子や六ホウ化物微粒子の他に、複合タングステン酸化物微粒子が知られている。発明者らは、合わせガラスの中間膜を、ポリビニルアセタール樹脂の代わりに紫外線硬化樹脂と複合タングステン化合物と六ホウ化物とを組み合わせた中間膜を特許文献6に提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−217500号公報
【特許文献2】特開平8−259279号公報
【特許文献3】特開平4−160041号公報
【特許文献4】特開平10−297945号公報
【特許文献5】特開2001−89202号公報
【特許文献6】特開2010−202495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明らが更なる検討を行った結果、以下の課題が見出された。
第1の課題は、特許文献1〜4に記載された従来の技術に係る合わせガラスでは、上述したように、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でない。さらに透明基材の曇り具合を示すヘイズ値は、車両用窓材で1%以下、建築用窓材で3%以下とする必要があるのに対し、例えば、特許文献5に記載された熱線遮蔽用合わせガラスにおいても、未だ改善の余地を有していた。また、従来の技術に係る熱線遮蔽用合わせガラス等は、いずれも長期使用した際の耐候性が不足で、可視光透過率の低下(劣化)も指摘されていた。
【0011】
第2の課題は、各種窓材に用いられる熱線遮蔽用合わせガラス等には、光学的特性に加えて機械的特性も求められることである。具体的には、安全ガラス等の合わせガラス等には、貫通への耐性が求められる。従来、合わせガラス等に貫通耐性を付与する為、中間層には、ポリビニルアセタール樹脂が用いられてきた。ところが、ポリビニルアセタール樹脂へ複合タングステン酸化物微粒子を含有させると光学特性が低下することが知見された。そこで、次善の策として、例えば特許文献6に記載するように、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を開示した。しかし、市場では安全ガラス等の機械的強度充足の観点から、中間層用の樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を要望する声が高い。
【0012】
本発明は、上記課題に着目してなされたものである。そして、その解決しようとする課題は、ポリビニルアセタール樹脂を主成分としながら、熱線遮蔽効果の高い複合タングステン酸化物微粒子を用い、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽膜とその製造方法、当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材を製造することを可能とする熱線遮蔽微粒子含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者等は、まず、分散溶媒中に複合タングステン酸化物の微粒子を分散させた熱線遮蔽微粒子含有組成物を調製し、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物を可塑剤と伴に、ポリビニルアセタール樹脂へ添加し混合してから混練するという、全く新規な概念に想到した。
当該新規な概念は、既に可塑剤の添加されたポリビニルアセタール樹脂へ、複合タングステン酸化物等の光学的特性を有する微粒子を添加し混合してから混練して、均一に分散させようとした、または、ポリビニルアセタール樹脂へ、可塑剤と同時に当該光学的特性を有する微粒子を添加し混合してから混練することで、当該微粒子を均一に分散させようとした、従来の技術に係る概念とは全く異なるものである。
【0014】
当該新規な概念においては、上述した熱線遮蔽微粒子含有組成物中において、複合タングステン酸化物の微粒子が凝集することなく、分散溶媒中にて、既に高度に分散した状態となっている。この為、熱線遮蔽微粒子含有組成物とポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを混合し混練することで、複合タングステン酸化物の微粒子がポリビニルアセタール樹脂中へ均一に分散していくものと考えられる。
【0015】
さらに、本発明者らは、上述した熱線遮蔽微粒子含有組成物に用いる分散溶媒として沸点120℃以下の有機溶剤が好ましいことを知見した。さらに、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物を可塑剤と伴に、ポリビニルアセタール樹脂へ混合し混練する際、当該沸点120℃以下の有機溶剤の含有率が5質量%以下であれば、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物が熱線遮蔽合わせ透明基材に加工された際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれることも知見した。
【0016】
そして、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物を可塑剤と伴に、ポリビニルアセタール樹脂へ添加し混練し、さらに、押出成形法、カレンダー成形法等の公知の方法により、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもつような熱線遮蔽合わせ透明基材用の熱線遮蔽膜の作製が可能となることを見出すに至った。本発明はこのような技術的知見に基づいて完成されたものである。
【0017】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して分散液を得る第1工程と、
第1工程で得られた分散液へ、カルボン酸の金属塩を混合して混合物を得る第2工程と、
第2工程で得られた混合物を乾燥して熱線遮蔽微粒子含有組成物とし、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物に残留する上記有機溶剤の含有率を5質量%以下にする第3工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法である。
【0018】
第2の発明は、
上記カルボン酸の金属塩を構成する金属が、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、マンガン、セリウム、亜鉛、銅、鉄から選択される少なくとも1種であることを特徴とする第1の発明記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法である。
【0019】
第3の発明は、
上記有機溶剤が、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチルイソプロピルアルコール、エタノールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法である。
【0020】
第4の発明は、
上記複合タングステン酸化物微粒子が、前記分散液中にて平均粒径40nm以下の微粒子であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法である。
【0021】
第5の発明は、
上記複合タングステン酸化物微粒子が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物によって表面処理されていることを特徴とする第1〜第4の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法である。
【0022】
第6の発明は、
第1〜第5の発明のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする熱線遮蔽微粒子含有組成物である。
【0023】
第7の発明は、
第6の発明に記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤とを混練し、フィルム状に成形することにより製造されたことを特徴とする合わせ熱線遮蔽膜である。
【0024】
第8の発明は、
沸点120℃以下の有機溶剤の含有率(残留率)が、0質量%を超え0.06質量%以下であることを特徴とする第7の発明に記載の熱線遮蔽膜である。
【0025】
第9の発明は、
第7または第8の発明に記載の熱線遮蔽膜が二枚の透明基材の間に存在されていることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物を可塑剤と伴に、ポリビニルアセタール樹脂へ添加して混合し混練することで、ポリビニルアセタール樹脂を主成分としながら、熱線遮蔽効果の高い複合タングステン酸化物微粒子を用い、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽膜と、当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材を得ることが出来た。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、熱線遮蔽微粒子含有組成物とその製造方法、熱線遮蔽微粒子含有組成物を用いた熱線遮蔽膜および当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材の順で詳細に説明する。
【0028】
[1]熱線遮蔽微粒子含有組成物
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物は、熱線遮蔽機能を有する微粒子、分散剤、有機溶剤、およびカルボン酸の金属塩、さらに所望によりその他の添加剤を含有している。
以下、熱線遮蔽微粒子含有組成物の各々の成分について説明する。
【0029】
(1)熱線遮蔽機能を有する微粒子
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物に用いられる熱線遮蔽機能を有する微粒子は、複合タングステン酸化物微粒子である。複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm以上の光を大きく吸収するため、その透過色調はブルー系の色調となるものが多い。
当該複合タングステン酸化物微粒子の粒子径は、その使用目的によって適宜選定することができる。例えば、透明性を保持した応用に使用する場合は、当該複合タングステン酸化物微粒子は、40nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。40nmよりも小さい分散粒子径であれば、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。
【0030】
特に、可視光領域の透明性を重視し、例えば、自動車のフロントガラスに適用する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。そして、この粒子による散乱の低減を重視するときには、当該タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は30nm以下、好ましくは25nm以下がよい。
【0031】
この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による波長400nm〜780nmの可視光線領域における光の散乱が低減されるからである。当該光の散乱が低減されれば、強い光が照射されたときに熱線遮蔽膜が曇りガラスのようになってしまい、鮮明な透明性が得られなくなることを回避できる。これは、分散粒子の径が40nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる為である。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、分散粒子径が25nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径は小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
また、熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン微粒子の量は、単位面積あたり0.2g/m〜2.5g/mが望ましい。
以下、熱線遮蔽機能を有する微粒子である複合タングステン酸化物微粒子およびその製造方法についてさらに説明する。
【0032】
(a)複合タングステン酸化物微粒子
一般式MyWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2
.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、Cs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、y、zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。添加元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、Zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MyWOで表記される複合タングステン酸化物材料においても、上述したWOで表記されるタングステン酸化物材料と同様の機構が働くのに加え、z≦3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。尤も、光学特性の観点から、より好ましくは2.45≦z≦3.00である。
【0033】
(b)複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
一般式MWO表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
タングステン化合物出発原料には、三酸化タングステン粉末、ニ酸化タングステン粉末、または酸化タングステンの水和物、または、六塩化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。
【0034】
複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液である各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、六塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。さらに元素Mを、元素単体または化合物の形態で含有するタングステン化合物を出発原料とする。
【0035】
ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0036】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。
まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることがよい。
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を、まず還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。Hが体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
水素で還元された出発原料粉末は、マグネリ相を含み、良好な熱線遮蔽特性を示す。従って、この状態でも熱線遮蔽微粒子として使用可能である。
【0037】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物、好ましくは、酸化物で被覆された表面処理されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。前記表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物有機化合物をもちいて公知の表面処理を行えばよい。例えば、複合タングステン酸化物微粒子と有機ケイ素化合物混合し、加水分解等を行えばよい。
【0038】
また、所望とする熱線遮蔽微粒子含有組成物を得るには、前記複合タングステン酸化物微粒子の粉体色が、国際照明委員会(CIE)が推奨しているL表色系(JIS Z 8729−2004)における粉体色において、Lが25〜80、aが−10〜10、bが−15〜15である条件を満たすことが望ましい。
当該粉体色を有する複合タングステン酸化物微粒子を用いることで、優れた光学特性を有する熱線遮蔽膜を得ることが出来る。
【0039】
(2)分散剤
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物に用いられる分散剤は、示差熱熱重量同時測定装置(以下、TG−DTAと記載する場合がある。)で測定される熱分解温度が200℃以上あって、ウレタン、アクリル、スチレン主鎖を有する分散剤が好ましい。ここで、熱分解温度とはTG−DTA測定において、分散剤の分解により重量減少が始まる温度である。
熱分解温度が200℃以上であれば、ポリビニルアセタール樹脂との混練時に当該分散剤が分解することがないからである。これによって、分散剤の分解に起因した熱線遮蔽膜の褐色着色、可視光透過率の低下、本来の光学特性が得られない事態を回避出来るからである。
【0040】
また、当該分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、或いはエポキシ基を官能基として有する分散剤が好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、熱線遮蔽膜中でこれらの微粒子を均一に分散させる効果を持つ。具体的には、カルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000〜200000、アミン価5〜100mgKOH/gが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000〜200000、酸価1〜50mgKOH/gであることが望ましい。
【0041】
当該分散剤の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対し10重量部〜1000重量部の範囲であることが望ましく、より好ましくは30重量部〜400重量部の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子が、ポリビニルアセタール中で均一に分散すると伴に、得られる熱線遮蔽膜の物性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0042】
(3)有機溶剤
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物に用いられる有機溶剤は、120℃以下の沸点を持つものが好ましく使用される。
沸点が120℃以下であれば、乾燥工程、特に減圧乾燥で除去することが容易である。この結果、減圧乾燥の工程で除去することが迅速に進み、熱線遮蔽微粒子含有組成物の生産性に寄与するからである。さらに、減圧乾燥の工程が容易かつ十分に進行するので、本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物中に過剰な有機溶剤が残留するのを回避できる。この結果、熱線遮蔽膜成形時に気泡の発生などの不具合が発生することを回避できる。具体的には、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられるが、沸点が120℃以下で熱線遮蔽機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。
当該有機溶剤の、熱線遮蔽機能を有する微粒子に対する配合量については後述する「[2]熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法の(1)」欄にて説明する。
【0043】
(4)カルボン酸の金属塩
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物に用いられるカルボン酸の金属塩は、熱線遮蔽膜が長時間使用したときの、光学特性変化を少なくする目的で添加されている。つまり、カルボン酸の金属塩は、複合タングステン酸化物微粒子の経時劣化を抑制する働きを有すると考えられる。その具体的な機構については、未だ解明されていない。カルボン酸の金属塩の添加による具体的な効果は、熱線遮蔽合わせ透明基材を長期間使用した場合、当該合わせ透明基材の初期と長期間使用した後の可視光透過率の低下(劣化)が少ないことである。カルボン酸の金属塩の添加しない場合、当該合わせ透明基材を長期間使用すると初期に比べて可視光透過率が低下(劣化)することが確認された。
【0044】
様々な検討の結果、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩の添加が当該合わせ透明基材の長期使用による可視光透過率の劣化抑制の効果が確認されている。例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、マンガン、セリウム、亜鉛、銅、鉄などの塩が挙げられ、特に、ニッケル、マンガン、セリウム、亜鉛、銅、鉄の塩が望ましい。上記塩を構成するカルボン酸としては特に限定されないが、例えば、酢酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、2-エチルヘキサン酸、及び一般的に知られている高級脂肪酸が挙げられる。
【0045】
当該カルボン酸の金属塩の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して3重量部〜500重量部の範囲であることが望ましい。カルボン酸の金属塩添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子の耐久性を高める効果があり、且つ、得られる熱線遮蔽膜の物性に悪影響を及ぼすことがないからである
【0046】
(5)その他の添加剤
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物へは、さらに、一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、必要に応じて任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料、顔料を添加しても良い。また、ヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の有機紫外線吸収剤、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等を添加剤として添加することができる。
【0047】
[2]熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物は、熱線遮蔽機能を有する微粒子と、分散剤とを、有機溶剤に分散して分散液を得る第一工程、第一工程を経て得られた分散液に、カルボン酸の金属塩を混合し混合物を得る第二工程、第二工程を経て混合物を乾燥により、乾燥後の上記有機溶剤の残留量が5質量%以下となるまで除去する第三工程を経て製造される。
以下、熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法に係る各製造工程について説明する。
【0048】
(1)熱線遮蔽機能を有する微粒子と分散剤とを有機溶剤に分散して分散液を得る工程(第一工程)
複合タングステン酸化物微粒子の有機溶剤への分散方法は、当該微粒子が均一に有機溶剤に分散する方法であれば任意に選択できる。例としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることが出来る。
有機溶剤中の複合タングステン酸化物微粒子の濃度は、5〜50質量%とすることが望ましい。5質量%以上であれば、除去すべき有機溶剤量が多くなり過ぎて製造コストが高くなってしまう事態を回避出来る。また、50質量%以下であれば、微粒子の凝集が起こり易くなり微粒子の分散が困難になる事態や、液の粘性も著しく増加し、取り扱いが困難となる事態を回避出来るからである。
また、分散液中の複合タングステン酸化物微粒子は、平均粒径で40nm以下に分散することが望ましい。平均粒径が40nm以下であれば、加工後の熱線遮蔽膜のヘイズ等の光学特性がより望ましく向上するからである。
【0049】
なお、複合タングステン酸化物微粒子を、分散剤と後述する熱線遮蔽膜に添加される可塑剤に分散することも考えられる。しかし、複合タングステン酸化物と分散剤を可塑剤に分散すると、可塑剤が前記有機溶媒に対し粘度が高いので、分散に長時間を要することがある。そのため、本発明の熱線遮蔽微粒子含有組成物は複合タングステン酸化物を粘度が低い前記有機溶媒に分散し、その後の乾燥工程で熱線遮蔽膜には不要となる前記有機溶媒を除去する工程を取るのである。
【0050】
(2)第一工程を経て得られた分散液に、カルボン酸の金属塩を混合し混合物を得る工程(第二工程)
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法の第一工程で分散液を得た後に、第二工程で前記カルボン酸の金属塩を混合する。前記カルボン酸の金属塩の混合方法は、公知の混合方法を用いればよい。第二工程でカルボン酸の金属塩を添加するのは、分散工程である第一工程において、複合タングステン酸化物微粒子の分散に影響を与えない為である。
【0051】
(3)第二工程を経て混合物を乾燥により、乾燥後の上記有機溶剤の残留量が5質量%以下となるまで除去する工程(第三工程)
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物を得るための乾燥工程は、有機溶剤の除去のために行われる工程である。当該工程は、得られた混合物を減圧乾燥する方法が好ましい。具体的には、減圧乾燥法では、上記混合物を攪拌しながら減圧乾燥して、熱線遮蔽微粒子含有組成物と有機溶剤成分とを分離する。減圧乾燥に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機があげられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の圧力は適宜選択される。
【0052】
当該減圧乾燥法を用いることで、溶剤の除去効率が向上すると伴に、熱線遮蔽微粒子含有組成物が長時間高温に曝されることがないので、分散している微粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0053】
乾燥工程後の熱線遮蔽微粒子含有組成物には、残留する有機溶剤が5質量%以下であることが求められる。残留する有機溶媒が5質量%以下であれば、「[3]熱線遮蔽膜」にて後述するように、熱線遮蔽膜中の有機溶剤の含有率を0.06質量%以下とすることが出来、熱線遮蔽合わせ透明基材に加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
尤も、熱線遮蔽微粒子含有組成物に残留する有機溶剤が5質量%を超えたとしても、後述するポリビニルアセタール樹脂との混合比を制御することで熱線遮蔽膜に残留する有機溶剤の量を0.06質量%以下に抑えることが出来るようにも思える。
しかしながら、熱線遮蔽微粒子含有組成物中の有機溶剤が5質量%を超えた場合、熱線遮蔽膜に残留する有機溶剤含有率を0.06質量%以下に抑えるには、熱線遮蔽膜への熱線遮蔽微粒子含有組成物の添加量を削減(または、ポリビニルアセタール樹脂の添加量を増加)しながら、複合タングステン酸化物微粒子の添加量は確保する必要がある。その為、熱線遮蔽微粒子含有組成物製造に用いられる前記分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の含有率が50質量%を超えてしまい凝集を起こし易くなる。
そこで、当該分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の凝集を回避し、熱線遮蔽膜中の複合タングステン酸化物の分散を保ち、光学特性を発揮させる為には、熱線遮蔽微粒子含有組成物に残留する有機溶剤を5質量%以下とすることが求められる。
【0054】
[3]熱線遮蔽膜
本発明に係る熱線遮蔽膜は、上述した熱線遮蔽微粒子含有組成物と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤と、所望によりその他の添加剤や接着力調整剤とを混合し、混練した後、押出成形法、カレンダー成形法等の公知の方法により、例えば、フィルム状に成形することによって得られる。本発明の熱線遮蔽膜の前記有機溶剤の含有率(残留率)は、0.06質量%以下である。
以下、ポリビニルアセタール樹脂、可塑剤、接着力調整剤、さらに、熱線遮蔽膜の製造方法について説明する。
【0055】
(1)ポリビニルアセタール樹脂
ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が特に好ましい。
また、熱線遮蔽膜の物性を考慮した上で、アセタール化度が異なる複数のポリビニルアセタール樹脂を併用してもよい。更に、アセタール化時に複数種類のアルデヒドを組み合わせて反応させた共ポリビニルアセタール樹脂も用いることができる。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は60%、より好ましい上限は75%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
【0056】
上記原料となるポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られ、一般に、ケン化度80〜99.8モル%のポリビニルアルコールが用いられる。
また、上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は3000である。重合度が200以上であると、得られる熱線遮蔽合わせ透明基材の貫通への耐性が保持され、熱線遮蔽合わせ透明基材の安全性が保たれる。一方、重合度が3000以下であれば、樹脂膜の成形性が良く、また、樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎず、加工性が保たれる。
【0057】
上記アルデヒドとしては特に限定されず、一般に、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アセトアルデヒド等、炭素数が1〜10のアルデヒドが用いられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、より好ましくは炭素数が4のブチルアルデヒドである。
【0058】
(2)可塑剤
本発明に係る熱線遮蔽膜、さらには後述する熱線遮蔽合わせ透明基材に用いられる可塑剤は、一価アルコールと有機酸エステル化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系可塑剤、有機リン酸系可塑剤、有機有リン酸系可塑剤等のリン酸系可塑剤が挙げられ、いずれも室温液状であることが好ましい。特に多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物がより好ましい。
【0059】
多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコール系エステル化合物又はテトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと上記有機酸とのエステル化合物等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコール ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−オクタネート、トリエチレングリコール ジ−2−エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。可塑剤の選択には加水分解に留意し、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネートが好ましい。
上述の通りトリエチレングリコールの脂肪酸エステルは、ポリビニルアセタールとの相溶性や耐寒性など様々な性質をバランスよく備えており、加工性、経済性にも優れている。
【0060】
また、他の可塑剤を熱線遮蔽膜の物性を考慮してさらに添加しても良い。例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性カルボン酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物やリン酸系可塑剤を添加してもよい。
熱線遮蔽膜へのこれら可塑剤の全添加量は、熱線遮蔽膜の物性を考慮して添加量を定めればよい。望ましい全添加量は、10質量%〜70質量%である。
【0061】
(3)接着力調整剤
本発明に係る熱線遮蔽膜へ、接着力調整剤を含有させることも好ましい。
当該接着力調整剤としては、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記塩を構成する相手方の酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。
アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の中でも、炭素数2〜16のカルボン酸マグネシウム塩及び炭素数2〜16のカルボン酸カリウム塩が更に好ましい。
【0062】
上記炭素数2〜16の有機酸のカルボン酸マグネシウム塩、又は、カリウム塩としては特に限定されないが、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が好適に用いられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、セリウムのカルボン酸塩ならば、接着力調整剤としての作用と、複合タングステン酸化物微粒子の耐久性向上の作用を兼ね備えることができる。
【0063】
(4)熱線遮蔽膜の製造方法
本発明に係る熱線遮蔽膜は、上述した熱線遮蔽微粒子含有組成物と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤とを混合し混練した後、押出成形法、カレンダー成形法等の、公知の方法によりフィルム状に成形することによって得られる。
なお、予め可塑剤と混錬されたポリビニルアセタール樹脂と上記熱線遮蔽微粒子含有組成物と混錬しても良い。このように可塑剤と熱線遮蔽微粒子含有組成物のポリビニルアセタール樹脂への混錬が別々な場合には、熱線遮蔽膜に含まれる全可塑剤含有率に留意する必要がある。
【0064】
(5)熱線遮蔽膜における有機溶剤の含有率(残留率)
本発明に係る熱線遮蔽膜は、上記熱線遮蔽微粒子含有組成物とポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを混錬して得る。ところが、上記熱線遮蔽微粒子含有組成物には、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノールをはじめとする沸点が120℃以下の有機溶剤が5質量%以下含有されている。そのため、本発明に係る熱線遮蔽膜は、沸点120℃以下の有機溶剤を含有することとなる。ここで、熱線遮蔽膜はトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノールをはじめとする沸点120℃以下の有機溶剤をできる限り含まないことが望ましい。しかし本発明に係る熱線遮蔽膜は、不可避的に熱線遮蔽微粒子含有組成物由来の、沸点120℃以下の有機溶剤を含むこととなる。
【0065】
本発明に係る熱線遮蔽膜において、沸点120℃以下の有機溶剤の含有率は0.06質量%以下とする。上述したように、本発明に係る熱線遮蔽膜の原料として上述した本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物を用いた場合は、有機溶媒の含有率は5質量%以下である。そこで、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物とポリビニルアセタール樹脂や可塑剤との混錬比率の制御や、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物に含有される有機溶媒量の制御により、本発明に係る熱線遮蔽膜中の沸点120℃以下の有機溶剤の含有率を0.06質量%以下とする。
本発明に係る熱線遮蔽膜中の沸点120℃以下の有機溶剤の含有率が0.06質量%以下であるならば、熱線遮蔽中間膜に微細な気泡が生じることがなく、熱線遮蔽中間膜が曇りガラス状となって可視光透過率を低下させるという問題を回避出来る。
【0066】
[4]熱線遮蔽合わせ透明基材
本発明に係る熱線遮蔽合わせ透明基材は、熱線遮蔽膜を存在させた2枚の無機ガラスと同様な透明基材を公知の方法で張り合わせ一体化するよって得られる。得られた熱線遮蔽合わせガラスは、主に自動車のフロントガラスや建物の窓として使用することが出来る。
【0067】
透明基材として、透明樹脂を用い上記ガラスと同様に、または、上記ガラスと併用し、対向する透明基材の間に熱線遮蔽膜を挟み込んで存在させることで、熱線遮蔽合わせ透明基材を得ることが出来る。用途は、熱線遮蔽合わせガラスと同様である。
用途によっては、熱線遮蔽膜単体として使用すること、ガラスや透明樹脂等の透明基材の片面または両面に熱線遮蔽膜を存在させて使用することも、勿論可能である。
【0068】
[5]まとめ
以上、詳細に説明したように、熱線遮蔽成分として複合タングステン酸化物微粒子と分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して得られる分散液に、カルボン酸の金属塩を混合した後、減圧乾燥法を用いて該有機溶剤を5質量%以下まで除去することにより、熱線遮蔽微粒子含有組成物を得ることが出来た。そして、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤を混練し、かつ、公知の方法により、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもつような熱線遮蔽合わせ透明基材用の熱線遮蔽膜の作製が可能となった。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、各実施例における複合タングステン酸化物微粒子の粉体色(10°視野、光源D65)、および、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。尚、当該日射透過率は、熱線遮蔽合わせ透明基材の熱線遮蔽性能を示す指標である。
また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
熱線遮蔽合わせ透明基材を長時間使用したときの熱線遮蔽膜の光学特性変化の評価は、キセノンアークランプ式耐侯性試験機(キセノンウエザオメーター)にて200時間放置を行い加速試験とし、加速試験前後の可視光透過率の変化率により評価した。尚、キセノンウエザオメーターのキセノンアークランプの波長と分光放射強度の関係(分光分布)は、太陽光の分光分布に近似している。
【0070】
[実施例1]
WO50gとCs(OH)18.7g(Cs/W(モル比)=0.33相当)をメノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給下で加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下で800℃で30分焼成して微粒子(以下、微粒子aと略称する。)を得た。
微粒子aの組成式は、Cs0.33WOであり、粉体色のLが35.2845、aが1.4873、bが−5.2114であった。
【0071】
微粒子a20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系分散剤(アミン価15mgKOH/g 分解温度230℃、以下、分散剤aと略称する。)10質量%、メチルイソブチルケトン(MIBK)70質量%を秤量した。これらを0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで6時間粉砕・分散処理することによって複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、A液と略称する。)を調製した。
ここで、A液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ19nmであった。
【0072】
A液100質量%へ、分散剤a40質量%、酢酸マンガン10質量%を添加混合し、それらを攪拌型真空乾燥機(三井鉱山製ヘンシェルミキサー)へ装填した。そして、80℃で2時間加熱乾燥することで減圧乾燥を行ってメチルイソブチルケトンを除去し、実施例1に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Aと略称する。)を得た。
ここで、組成物Aの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.5質量%であった。
【0073】
得られた組成物A0.8質量%、可塑剤a28.2質量%、ポリビニルアセタール樹脂70質量%を秤量して混合して樹脂組成物とし二軸押出機に装填した。そして、当該樹脂組成物を200℃で混練しTダイより押出し、カレンダーロール法で0.7mm厚として、実施例1に係る熱線遮蔽合わせ透明基材用の熱線遮蔽膜(以下、遮蔽膜Aと略称する。)を得た。遮蔽膜Aのメチルイソブチルケトンの含有率は0.028質量%と算出された。
【0074】
得られた遮蔽膜Aを2枚の無機ガラスで挟み込み、公知の方法で実施例1に係る熱線遮蔽合わせ基材(以下、合わせ透明基材Aと省略する。)を得た。
【0075】
合わせ透明基材Aの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.2%のときの日射透過率は35.1%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Aを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.8%であった。この結果を表1に示した。
【0076】
[実施例2]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸鉄へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Bと略称する。)を得た。ここで、組成物Bの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ、3.7質量%であった。また、B液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ23nmであった。
【0077】
組成物Aを組成物Bに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜B(遮蔽膜Bと略称する。)を得て実施例2に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Bと略称する。)を得た。遮蔽膜Bのメチルイソブチルケトンの含有率は0.03質量%と算出された。
合わせ透明基材Bの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率71.6%のときの日射透過率は35.9%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Bを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.5%であった。この結果を表1に示した。
【0078】
[実施例3]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸銅へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Cと略称する。)を得た。ここで、組成物Cの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ、2.8質量%であった。また、C液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ25nmであった。
【0079】
組成物Aを組成物Cに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜C(遮蔽膜Cと略称する。)を得て実施例3に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Cと略称する。)を得た。遮蔽膜Cのメチルイソブチルケトンの含有率は0.022質量%と算出された。
合わせ透明基材Cの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.9%のときの日射透過率は35.5%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Cを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.9%であった。この結果を表1に示した。
【0080】
[実施例4]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸亜鉛へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Dと略称する。)を得た。
ここで、組成物Dの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ、3.9質量%であった。また、D液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ30nmであった。
【0081】
組成物Aを組成物Dに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜D(遮蔽膜Dと略称する。)を得て実施例4に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Dと略称する。)を得た。遮蔽膜Dのメチルイソブチルケトンの含有率は0.031質量%と算出された。
合わせ透明基材Dの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率69.9%のときの日射透過率は34.8%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Dを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.7%であった。
この結果を表1に示した。
【0082】
[実施例5]
有機溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Eと略称する。)を得た。
ここで、組成物Eの残留メチルエチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.1質量%であった。また、E液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ22nmであった。
【0083】
組成物Aを組成物Eに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜E(遮蔽膜Eと略称する。)を得て実施例5に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Eと略称する。)を得た。遮蔽膜Eのメチルエチルケトンの含有率は0.025質量%と算出された。
合わせ透明基材Eの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.5%のときの日射透過率は35.2%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Eを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.9%であった。
この結果を表1に示した。
【0084】
[実施例6]
微粒子a20質量%、メチルトリメトキシシラン10質量%、エタノール70質量%を秤量し、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで6時間粉砕・分散処理することによって複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製し、スプレードライヤーを用いてメチルイソブチルケトンを除去し、シラン化合物にて表面処理を施した複合タングステン酸化物微粒子(微粒子b)を得た。
次に、微粒子b30質量%、分散剤a10質量%、メチルイソブチルケトン60質量%を秤量し、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで1時間粉砕・分散処理することによって表面処理を施した複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、F液と略称する。)を調製した。また、F液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ40nmであった。
【0085】
組成物Aを組成物Fに代替した以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Fと略称する。)を得た。ここで、組成物Fの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.8質量%であった。
【0086】
組成物Aを組成物Fに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜F(遮蔽膜Fと略称する。)を得て実施例6に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Fと略称する。)を得た。遮蔽膜Fのメチルイソブチルケトンの含有率は0.03質量%と算出された。
合わせ透明基材Fの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率71.0%のときの日射透過率は35.7%で、ヘイズ値は0.8%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Fを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.4%であった。この結果を表1に示した。
【0087】
[実施例7]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸マグネシウムへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例7に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Gと略称する。)を得た。ここで、組成物Gの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ5.0質量%であった。また、G液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ25nmであった。
【0088】
組成物Aを組成物Gに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜G(遮蔽膜Gと略称する。)を得て実施例7に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Gと略称する。)を得た。遮蔽膜Gのメチルイソブチルケトンの含有率は0.04質量%と算出された。
合わせ透明基材Gの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.7%のときの日射透過率は35.5%で、ヘイズ値は0.6%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Gを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−1.2%であった。
この結果を表1に示した。
【0089】
[実施例8]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸ニッケルへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Hと略称する。)を得た。ここで、組成物Hの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ、3.7質量%であった。また、H液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ18nmであった。
【0090】
組成物Aを組成物Hに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜H(遮蔽膜Hと略称する。)を得て実施例8に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Hと略称する。)を得た。遮蔽膜Hのメチルイソブチルケトンの含有率は0.03質量%と算出された。
合わせ透明基材Hの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率71.2%のときの日射透過率は36.1%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Hを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.7%であった。
この結果を表1に示した。
【0091】
[実施例9]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンからオクチル酸ニッケルへ代替し、分散剤を官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系分散剤から、官能基としてカルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤(分子量Mw25000、酸価110.5、分解温度270℃、以下分散剤bと略称する。)へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Iと略称する。)を得た。ここで、組成物Iの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ4.2質量%であった。また、I液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ17nmであった。
【0092】
組成物Aを組成物Iに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜I(遮蔽膜Iと略称する。)を得て実施例9に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Iと略称する。)を得た。遮蔽膜Iのメチルイソブチルケトンの含有率は0.034質量%と算出された。
合わせ透明基材Iの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.3%のときの日射透過率は35.0%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Iを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.8%であった。この結果を表1に示した。
【0093】
[実施例10]
カルボン酸の金属塩を酢酸マンガンから酢酸ナトリウムへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例10に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Jと略称する。)を得た。ここで、組成物Jの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.1質量%であった。また、J液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ24nmであった。
【0094】
組成物Aを組成物Jに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜J(遮蔽膜Jと略称する。)を得て実施例10に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Jと略称する。)を得た。遮蔽膜Jのメチルイソブチルケトンの含有率は0.025質量%と算出された。
合わせ透明基材Jの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率71.3%のときの日射透過率は35.9%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Jを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.5%であった。この結果を表1に示した。
【0095】
[実施例11]
水13.5gにRbNO8.8gを溶解し、これをHWO45.3gに添加(Rb/W(モル比)=0.33相当)して十分攪拌した後、乾燥した。当該乾燥物を、Nガスをキャリアーとした2%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で30分間焼成した後、同温度でNガス雰囲気下800℃で90分間焼成して微粒子(以下、微粒子cと略称する。)を得た。
微粒子cの組成式は、Rb0.33WOであり、粉体色はLが36.3765、aが−0.2145、bが−3.7609であった。
【0096】
複合タングステン酸化物微粒子として微粒子aを微粒子cへ代替し、カルボン酸の金属塩として酢酸マンガンをオクチル酸マンガンへ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例11に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Kと略称する。)を得た。ここで、組成物Kの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.5質量%であった。また、組成物K内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ21nmであった。
【0097】
組成物Aを組成物Kに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜K(遮蔽膜Kと略称する。)を得て実施例11に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Kと略称する。)を得た。遮蔽膜Kのメチルイソブチルケトンの含有率は0.028質量%と算出された。
合わせ透明基材Kの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率69.7%のときの日射透過率は34.8%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Kを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−0.7%であった。
この結果を表1に示した。
【0098】
[比較例1]
減圧蒸留が行える真空攪拌型乾燥機を使用せず、常圧80℃で6時間攪拌してメチルイソブチルケトンを除去した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Lと略称する。)を得た。ここで、組成物Lの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ7.8質量%であった。また、L液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ25nmであった。
【0099】
組成物Aを組成物Lに代替した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽合わせ透明基材用の熱線遮蔽膜(以下、遮蔽膜Lと略称する。)を得た。遮蔽膜Lのメチルイソブチルケトンの含有率は0.62質量%と算出された。
使用した組成物Lの残留メチルイソブチルケトンが7.8質量%と多く、さらに遮蔽膜Lに含有されるメチルイソブチルケトン量は0.062質量%と多いため、ポリビニルアセタール樹脂との混練時に残留メチルイソブチルケトンが十分に取り除けず、遮蔽膜L内に気泡が見られ、外観が良くなかった。
【0100】
得られた遮蔽膜Lを2枚の無機ガラスで挟み込み、公知の方法で比較例1に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Lと省略する。)を得た。
合わせ透明基材Lの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率71.2%のときの日射透過率は37.1%で、ヘイズ値は1.9%であった。これは、真空攪拌型乾燥機を使用せずに、常圧で長時間加熱してメチルイソブチルケトンを除去したため、微粒子の凝集が起こり、ヘイズが高くなり透明性が損なわれたものと考えられる。この結果を表1に示した。
キセノンウエザオメーターを使用した加速試験は実施しなかった。
【0101】
[比較例2]
カルボン酸の金属塩を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る熱線遮蔽微粒子含有組成物(以下、組成物Mと略称する。)を得た。ここで、組成物Mの残留メチルイソブチルケトン量を乾量式水分計で測定したところ3.2質量%であった。
また、M液内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ31nmであった。
【0102】
組成物Aを組成物Mに代替した以外は実施例1と同様にして、熱線遮蔽膜M(遮蔽膜Mと略称する)を得て比較例2に係る熱線遮蔽合わせ透明基材(以下、合わせ透明基材Mと略称する。)を得た。遮蔽膜Mのメチルイソブチルケトンの含有率は0.026質量%と算出された。
合わせ透明基材Mの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は35.0%で、ヘイズ値は0.4%であった。
キセノンウエザオメーターを使用し、合わせ透明基材Mを試験サンプルとし、加速試験200時間後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は−4.8%であった。
これは、カルボン酸の金属塩を添加しなかったため、複合タングステン酸化物微粒子が経時劣化し、可視光透過率の変化が大きくなったと考えられる。この結果を表1に示した。
【0103】
【表1】

【0104】
[実施例1〜11および比較例1、2の評価]
実施例1〜11においては真空型攪拌乾燥機を使用して、有機溶剤残留量を5質量%以下の範囲とした為、熱線遮蔽膜内に気泡が発生せず、外観の良い合わせ透明基材A〜Kが得られた。また、乾燥工程において、真空型攪拌乾燥機を使用することで、短時間で有機溶剤を除去することが可能となり、長時間過熱することによる複合酸化タングステン微粒子の凝集を防ぐことが出来、ヘイズの低い透明な合わせ透明基材A〜Kが得られた。
また、カルボン酸の金属塩を添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の経時劣化が抑制され、長時間使用されても光学特性変化が少ない、耐候性に優れた合わせ透明基材A〜Kが得られた。
【0105】
一方、比較例1では、常圧にて加熱攪拌することで有機溶剤を除去している為、有機溶剤残留量が5質量%よりも多くなっていた。そのため、混練時に残留有機溶媒が十分に除去されず遮蔽膜L内に気泡が発生し、外観が劣っていた。また、有機溶剤を除去する為に、乾燥機を使用せず長時間加熱したため、複合タングステン酸化物微粒子の凝集が起こり、得られる合わせ透明基材のヘイズが高くなり透明性が損なわれていた。
比較例2では、カルボン酸の金属塩を添加しなかったため、キセノンウエザオメーターによる加速試験において、複合タングステン酸化物微粒子が経時劣化し、合わせ透明基材Mの可視光透過率変化が大きく低下(劣化)した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示されかつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを、沸点120℃以下の有機溶剤に分散して分散液を得る第1工程と、
第1工程で得られた分散液へ、カルボン酸の金属塩を混合して混合物を得る第2工程と、
第2工程で得られた混合物を乾燥して熱線遮蔽微粒子含有組成物とし、当該熱線遮蔽微粒子含有組成物に残留する上記有機溶剤の含有率を5質量%以下にする第3工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記カルボン酸の金属塩を構成する金属が、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、マンガン、セリウム、亜鉛、銅、鉄から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチルイソプロピルアルコール、エタノールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、前記分散液中にて平均粒径40nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する化合物によって表面処理されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物の製造方法で製造されたことを特徴とする熱線遮蔽微粒子含有組成物。
【請求項7】
請求項6記載の熱線遮蔽微粒子含有組成物と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤とを混練し、フィルム状に成形することにより製造されたことを特徴とする熱線遮蔽膜。
【請求項8】
沸点120℃以下の有機溶剤の含有率(残留率)が、0質量%を超え0.06質量%以下であることを特徴とする請求項7記載の熱線遮蔽膜。
【請求項9】
請求項7または8記載の熱線遮蔽膜が二枚の透明基材の間に存在していることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材。

【公開番号】特開2012−229388(P2012−229388A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119470(P2011−119470)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】