説明

熱線遮蔽性を有するメタクリル系樹脂組成物およびその製造方法

【課題】透明性、熱線遮蔽性、耐久性及び電磁波透過性に優れるメタクリル系樹脂組成物およびその製造方法並びに当該樹脂組成物よりなる成形体を提供する。
【解決手段】メタクリル系樹脂100質量部およびアンチモン酸亜鉛0.02〜10質量部を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、アンチモン酸亜鉛がメタクリル系樹脂中に平均粒子径60nm以下で分散していることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。該メタクリル系樹脂組成物を製造する方法および該組成物からなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、熱線遮蔽性、耐久性及び電磁波透過性に優れるメタクリル系樹脂組成物およびその製造方法、並びに当該樹脂組成物よりなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明な有機重合体材料が、その軽量性を活かして、ガラスの代わりに電子や電気機器分野、光学機器分野におけるレンズ材、建材分野におけるカーポート屋根材などの種々の分野で広く用いられており、透明な有機重合体材料の一つとしてアクリル系樹脂が挙げられる。しかしながら、アクリル系樹脂は可視光線を透過し高い透明性を有しているものの、熱線遮蔽性に劣るという問題点があった。近年、省エネルギー化を図る目的の一つとして、建築物や乗り物の窓ガラスなどに近赤外線を反射または吸収する、いわゆる熱線遮蔽材料の需要が高まってきている。特に、体感上のじりじり感や熱感に関係すると考えられる780〜2100nmの波長領域にある熱線を効率よく遮蔽することが望まれている。
【0003】
熱線遮蔽性を付与する目的で、樹脂と複合し易い有機物を用いた樹脂組成物が提案されている。例えば、近赤外線吸収材としてフタロシアニン化合物を配合する方法が提案されているが、有機物では耐候性が悪く、長期の使用において効果が損なわれるなど、基本的に耐久性の問題を抱えていた。
【0004】
一方、透明フィルム状基体の表面に、アルミニウム、銀、金等の金属薄膜をスパッタリングや蒸着により形成してなる熱線反射フィルムを窓に貼付する方法などが知られている。しかしながら、金属のスパッタリング薄膜や蒸着膜は、熱線遮蔽性能については優れているものの、透明性が悪く、したがって、窓ガラスに貼付して用いる場合、窓の可視光線透過率が損なわれる上、金属による光沢反射もあるので、外観上好ましくなく、さらに製造コストが高くつくのを免れず、しかも電波特性に支障をきたすおそれがあるなどの欠点があった。
【0005】
他方、熱線遮蔽性を有する錫ドープ酸化インジウム(ITO)微粒子またはアンチモンドープ酸化錫(ATO)微粒子を含有した熱線遮蔽フィルムが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、ITOの使用には資源の枯渇化や価格高騰、ITO微粒子の人体への悪影響などの問題がある。一方、ATOの使用には性能不足などの問題があり、これらの代替材料が望まれている。
【0006】
一方、上記の熱線遮蔽性を有する微粒子の代替として、アンチモン酸亜鉛を用いた熱線遮蔽フィルムが提案されている(例えば、特許文献3および4参照)。特許文献3には、アンチモン酸亜鉛の粉末を水又は有機溶媒に分散させてから各種の樹脂と混合することが記載されている。しかしながら、このような方法で製造した場合、アンチモン酸亜鉛の一次粒子径は10〜50nmであるが、分散液や樹脂内では一次粒子が凝集した二次凝集状態にあるため、可視光下において光が散乱してヘイズが悪化することが避けられず、高度な透明性が要求される用途においては使用することができなかった。また、アンチモン酸亜鉛をシランカップリング剤で処理することも記載されているが、無水アンチモン酸亜鉛の表面の反応性が低く表面修飾が充分に進行しないために、凝集の発生が避けられず、透明性が不十分であった。さらに、アクリル系樹脂にアンチモン酸亜鉛を配合した実施例については記載されていない。特許文献4には、アクリル系樹脂にアンチモン酸亜鉛を配合することが記載されているが、市販のアンチモン酸亜鉛分散液を使用しているため、分散状態が充分ではなく、可視光下において光が散乱してヘイズが悪化することが避けられず、高度な透明性が要求される用途においては使用することができなかった。また、硬化型樹脂を使用しているため、二次加工性に乏しいという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−281860号公報
【特許文献2】特開平9−108621号公報
【特許文献3】特開平9−211221号公報
【特許文献4】特開平10−36415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、透明性、熱線遮蔽性および耐久性に優れ、電磁波透過性が良好なメタクリル系樹脂組成物を提供することを目的とするものである。また、そのようなメタクリル系樹脂組成物を製造する方法及びそれを用いた成形体を提供することも、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、上記課題は、
メタクリル系樹脂100質量部およびアンチモン酸亜鉛0.02〜10質量部を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、アンチモン酸亜鉛がメタクリル系樹脂中に平均粒子径60nm以下で分散していることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物、および該組成物からなる成形体を提供することによって解決される。このとき、波長領域380〜780nmでの可視光透過率が70%以上、波長領域300〜2500nmでの日射透過率が70%以下であることが好ましく、ヘイズが3.0%以下であることも好ましい。
【0010】
さらに上記課題は、
アンチモン酸亜鉛の分散液に湿式粉砕処理を施した後、メタクリル系樹脂と複合する、上記のメタクリル系樹脂組成物の製造方法を提供することによっても解決される。複合化する方法としては、生産性やコストの面から溶融混練により複合化することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、透明性、熱線遮蔽性および耐久性に優れ、電磁波透過性が良好なメタクリル系樹脂組成物およびその成形体を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、そのようなメタクリル系樹脂組成物を簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂とアンチモン酸亜鉛とを含有してなるものである。
【0013】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂は、アルキルメタクリレートを含有する単量体混合物を重合することによって得られる。
【0014】
アルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどが挙げられる。これらのアルキルメタクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレートが特に好ましい。
【0015】
アルキルメタクリレート以外の単量体としては、アルキルアクリレートが挙げられる。またアルキルメタクリレート及びアルキルアクリレートと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
アルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ミリスチルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレートなどが挙げられる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートが好ましい。これらのアルキルアクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
アルキルメタクリレート及びアルキルアクリレートと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレンなどのジエン系化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、ハロゲンで核置換されたスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンなどのビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、モノメチルマレエート、ジメチルマレエートなどを挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂は、メチルメタクリレート単位の割合が、耐候性の観点から、50〜100質量%であることが好ましく、80〜99.9質量%であることがより好ましい。
また、メタクリル系樹脂は、耐熱性の観点から0.1〜20質量%の範囲でアルキルアクリレート単位を含有するものであることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂は、分子鎖が、線状を成したものであってもよいし、分岐を有するものであってもよいし、環状構造を有するものであってもよい。
【0019】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂は、α,β−不飽和化合物を重合させることができる方法であれば特にその製法によって制限されないが、ラジカル重合によって製造されたものが好ましい。重合法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、注型重合などが挙げられる。
【0020】
重合時に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスγ−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、クミルパーオキサイド、オキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、全単量体100質量部に対して通常0.05〜0.5質量部用いられる。重合は、通常50〜140℃の温度で、通常2〜20時間行われる。
【0021】
メタクリル系樹脂の分子量を制御するためには、連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコエート、メルカプトエタノール、チオ−β−ナフトール、チオフェノール等が挙げられる。連鎖移動剤は、全単量体に対し通常0.005〜0.5質量%の範囲で使用される。
【0022】
本発明で用いられるメタクリル系樹脂は、必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、艶消し剤などが配合されていてもよい。
【0023】
本発明のメタクリル系樹脂組成物では、アンチモン酸亜鉛(ZnSb)を熱線遮蔽性付与の目的で配合する。本発明で用いられるアンチモン酸亜鉛は、酸化亜鉛成分と酸化アンチモン成分を含む無水アンチモン酸亜鉛からなる複合酸化物である。その酸化亜鉛に対する酸化アンチモンの成分比はモル比で0.8〜1.2であることが好ましい。樹脂成分100質量部に対するアンチモン酸亜鉛の含有量の上限は、透明性、微分散性の点から20質量部以下であり、10質量部以下であるのが好ましく、1質量部以下であるのがより好ましい。下限は、熱線遮蔽性の点から0.02質量部以上であり、0.05質量部以上であるのが好ましく、0.1質量部以上であるのがより好ましい。
【0024】
アンチモン酸亜鉛は、メタクリル系樹脂組成物中において微細に分散している必要があり、微細に分散していない場合には、可視光下において光が散乱しヘイズが増加してしまう。また一般に、アンチモン酸亜鉛の含有量が同じである場合、粒子径が百分の一になると、粒子間距離も百分の一になることが知られている[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。一方、メタクリル系樹脂組成物内でアンチモン酸亜鉛の粒子が凝集した場合には、メタクリル系樹脂組成物内で粒子分布の疎密が出来てしまい、熱線を遮蔽する箇所と透過する箇所ができ、結果として熱線遮蔽性能が低下すると考えられる。従って、アンチモン酸亜鉛がメタクリル系樹脂組成物中に平均粒子径60nm以下の微粒子で分散されている場合、アンチモン酸亜鉛がメタクリル系樹脂組成物中で疎な箇所がなくなることによって熱線遮蔽性能が向上する。本発明のメタクリル系樹脂組成物は、言わば、このナノサイズ効果により、少量のアンチモン酸亜鉛の微粒子で、効果的に熱線遮蔽性能を付与することができるものである。アンチモン酸亜鉛のメタクリル系樹脂組成物中での平均粒子径は、より好ましくは50nm以下である。本発明においてアンチモン酸亜鉛の平均粒子径は、メタクリル系樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、その写真から任意に50個以上のアンチモン酸亜鉛の微粒子を選び、その長径の平均値をいうものとする。
【0025】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、アンチモン酸亜鉛を平均粒子径60nm以下で分散させるために、更に必要に応じて表面改質剤を添加することができる。その表面改質剤としては、特に限定されず、一般的に、分散剤、乳化剤、消泡剤、潤滑剤、浸透剤、洗浄剤、ビルダー、疎水化剤、表面調整剤、粘度調整剤として用いられている化合物等が挙げられ、例えば、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子分散剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0026】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、上記メタクリル系樹脂、アンチモン酸亜鉛以外にも、発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、熱線反射剤、熱線吸収剤、耐衝撃助剤、充填剤、耐湿剤、界面活性剤等が添加されてもよい。また、必要に応じて他の樹脂を複合してもよい。他の樹脂は、本樹脂組成物の特性を損なわない限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂などが挙げられる。
【0027】
以下、本発明のメタクリル系樹脂組成物の製造方法について説明する。メタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂、アンチモン酸亜鉛を含有する樹脂組成物からなり、アンチモン酸亜鉛が樹脂組成物中に平均粒子径60nm以下で分散している。したがって、このようにアンチモン酸亜鉛を分散させることができる方法を採用することが重要である。
【0028】
アンチモン酸亜鉛を平均粒子径60nm以下、好ましくは50nm以下で分散させるためには、アンチモン酸亜鉛が細かく分散した分散液を予め調製し、それをメタクリル系樹脂に配合することが好ましい。分散液の溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド等の極性有機溶媒または水などが使用できる。最終的に樹脂組成物中において平均粒子径60nm以下、好ましくは50nm以下で分散できるようにするためには、分散液中でも同様に細かく分散している必要があると考えられる。分散液は市販のゾルとして入手することができるが、その状態では一次粒子が凝集していて、その平均粒子径は60nmを大きく超え、100nm前後あるいはそれ以上であることが多い。したがって、分散液に対して機械的に湿式粉砕する操作を施すことが好ましい。
【0029】
アンチモン酸亜鉛を分散液中で機械的に湿式粉砕して細かく分散させるための装置としては、サンドミル、ボールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、アトライター、ペイントシェーカー、高速攪拌機、超音波分散機、ビーズミルなどが挙げられる。これらの装置を用いて一次粒子が凝集したアンチモン酸亜鉛の粒子を粉砕して分散させることができる。効率良く、細かい平均粒子径に到達させるためには、ビーズミルが好ましい。ビーズミルを使用する際は、粉砕処理時にビーズを用いて処理を行うが、そのビーズは細かいほど効率よく微粒子化できる。使用するビーズの直径は、0.2mmφ以下が良く、より好ましくは0.1mmφ以下が良く、さらに好ましくは0.05mmφ以下が良い。ビーズの直径が0.2mmφより大きい場合、得られる分散液中にアンチモン酸亜鉛の凝集体が残存し、目的とするアンチモン酸亜鉛の微細化が達成できず、高度な透明性が要求される用途においては使用が制限される場合がある。
【0030】
具体的なメタクリル系樹脂組成物の製造方法としては、アンチモン酸亜鉛の分散液を予め調整してから、その分散液に対して上記の機械的な粉砕処理を施し、アンチモン酸亜鉛が微分散した分散液(b1)を調整する。分散液(b1)中のアンチモン酸亜鉛の平均粒子径は60nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは40nm以下である。60nmを超える場合、最終的に得られる樹脂組成物内に一次粒子が凝集した二次凝集体が多く存在するため、可視光下において光が散乱してヘイズが増大し、高度な透明性が要求される用途において使用が制限される場合がある。
【0031】
上記分散液(b1)とメタクリル系樹脂とを混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練により混合することができる。混練方法としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの公知の混練機を用いることができる。このとき、分散液(b1)を形成する溶媒は、混練操作中に除去することが好ましく、例えば押出機であればベントから溶媒を揮発させて除去することができる。また、分散液(b1)中のアンチモン酸亜鉛粒子の表面を、メタクリル系樹脂とより親和性の高い状態に表面改質した状態の分散液(b2)としてから混合することもできる。このような表面改質の方法としては、例えば、分散液(b1)の分散媒として用いる極性有機溶媒がメタクリル系樹脂の貧溶媒である場合に、分散液(b1)にメタクリル系樹脂の良溶媒である極性有機溶媒やメタクリル系樹脂の該極性有機溶媒溶液を過剰に加えてアンチモン酸亜鉛粒子の表面を置換する方法などを挙げることができる。
【0032】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は熱可塑性であり、溶融混練を伴う溶融成形や、加熱可塑化を伴う成形・加工成形によって各種の成形体や製品の製造に有効に用いることができる。溶融混練を伴う成形(溶融成形)は、一般に、150〜300℃の範囲内の温度で行うことが好ましく、200〜260℃の範囲内の温度で行うことがより好ましい。溶融成形温度が低いと溶融混練が困難になる場合があり、一方、溶融成形温度が高いとメタクリル系樹脂の分解、着色などが生ずることがある。
【0033】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、熱可塑性重合体材料に対する公知の成形方法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、プレス成形などによってフィルム、シート、容器、型物など種々の形状の成形体にして使用することができる。また、シートや板状に成形した後に、真空成形、圧空成形、真空圧空成形などの二次成形加工を行うことによって、種々の形状の成形体に加工することができる。高い透明性、優れた熱線遮蔽性が有効に利用される用途であればいずれの用途に使用してもよく、例えば、カーポートの屋根材、建築物、自動車、車両等の窓材に適用することができる。本発明のメタクリル系樹脂組成物からフィルムまたはシート状の成形体を製造する場合は、それらの厚みは10μm〜10cm程度とするのが一般的であり、50μm〜1cm程度とするのが好ましい。
【0034】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、成形体とした状態で波長領域380〜780nmでの可視光透過率が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。また、本発明のメタクリル系樹脂組成物は、波長領域300nm〜2500nmでの日射透過率が70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。波長領域380〜780nmでの可視光透過率が70%以上であり、かつ、波長領域300nm〜2500nmでの日射透過率が70%以下であることによって、可視光を透過させながら熱線遮蔽効果を得ることができる。可視光透過率が日射透過率よりも12%以上高いことが好ましく、15%以上高いことがより好ましい。また、本発明のメタクリル系樹脂組成物のヘイズが3.0%以下であることが好ましく、それによって透明性の良好なメタクリル系樹脂組成物とすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、各物性の測定または算出は以下のようにして行った。
【0036】
[分散液中のアンチモン酸亜鉛の分散粒子径]
大塚電子社製のダイナミック光散乱光度計「DLS−7000」を用いて、He−Neレーザー(632.8nm)を用いて、測定角度90°、20℃での分散液中の平均粒子径を測定した。得られた測定結果を用いて、キュムラント法に従い、平均粒子径(nm)を算出した。
【0037】
[可視光透過率・日射透過率]
島津製作所社製の分光光度計「SolidSpec−3700」を用い、実施例または比較例で作製した厚さ1mmの鏡面平板成形体について、波長領域280〜2500nmの透過率を測定した。そして、JIS R3106に準じ、380〜780nmまでの可視光透過率(%)を求めた。また、JIS R3106記載の重価係数を用いて300〜2500nmまでの日射透過率(%)を求めた。
【0038】
[ヘイズ]
日本電色工業社製の濁度計「NDH−5000」を用い、実施例または比較例で作製した厚さ1mmの鏡面平板成形体について、JIS K7105に準じてヘイズ(%)を測定した。
【0039】
[成形体中での無水アンチモン酸亜鉛の平均粒子径]
日立ハイテクノロジーズ社製透過型電子顕微鏡(TEM)「H−800NA」を用いて、実施例または比較例で作製した成形体の断面写真を撮影した。その写真から任意に50個のアンチモン酸亜鉛の微粒子を選び、それぞれ実測し、その長径の平均値を平均粒子径(nm)とした。ただし、5nm未満の粒子は、写真のコントラスト斑と区別がつかないため、測定の対象外とした。
【0040】
[電磁波透過性]
電磁波シールド効果測定法(関西電子工業振興センター法)により、実施例または比較例で作製した成形体について、10MHz〜1GHzの周波数領域での反射損失値を測定し、メタクリル系樹脂(クラレ社製パラペットG、Mw=100,000)を用いて作製した厚さ1mmのメタクリルシートから得られる値と比較した。測定周波領域全体を比較し、その差(ΔdB)を以下の基準で判定することにより電磁波透過性を評価した。
○:ΔdBが5dB以内(合格)
×:ΔdBが5dBを超える
【0041】
<実施例1>
[分散液の作製]
ZnSbであるアンチモン酸亜鉛の60質量%メタノール分散液(日産化学社製「CX−Z693M−F」)をビーズミル(使用ビーズの径:0.05mmφ)を用いて湿式粉砕処理し、ZnSbが35nmで分散した分散液(b1)を得た。分散液(b1)0.5gに、メタクリル系樹脂(クラレ社製パラペットG、Mw=100,000) 3gが溶解したジメチルスルホキシド溶液15gを攪拌しながら加え、分散液(b2)を得た。
【0042】
[メタクリル系樹脂成形体の作製]
以上のようにして調製した分散液(b2)をメタクリル系樹脂(クラレ社製パラペットG、Mw=100,000)55gに添加し混合した。この混合物をラボプラストミルで、200℃にて、3分間揮発分を除去しながら混練した後、プレス機で、200℃、5分間プレス成形することにより、厚さ1mmのメタクリル系樹脂成形体を作製した。
【0043】
[評価]
得られたメタクリル系樹脂成形体について評価した結果を表1に示す。
【0044】
<実施例2>
実施例1において、分散液(b2)を調製する際に添加したメタクリル系樹脂(クラレ社製パラペットG、Mw=100,000) のジメチルスルホキシド溶液を、メタクリル系樹脂が0.72g溶解した溶液を7.2g添加したこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られたメタクリル系樹脂成形体について評価した結果を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
実施例1において、分散液(b2)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られたメタクリル系樹脂成形体について評価した結果を表1に示す。
【0046】
<比較例2>
実施例1において、分散液(b1)0.5gに、メタクリル系樹脂が溶解したジメチルスルホキシド溶液を加えず、メタクリル系樹脂(クラレ社製パラペットG、Mw=100,000)55gに添加し混合したこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られたメタクリル系樹脂成形体について評価した結果を表1に示す。
【0047】
<比較例3>
実施例3において、アンチモン酸亜鉛の分散液(b1)に粉砕処理を実施しなかったこと以外は実施例2と同様にして成形体を作製した。アンチモン酸亜鉛の分散液(b1)中の分散粒子径は83nmであった。得られたメタクリル系樹脂成形体について評価した結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す結果から、本発明のメタクリル系樹脂組成物(実施例1〜2)は、高い可視光透過率を保持しながら、日射透過率を低く抑え、かつヘイズがほとんどなく、高い透明性と熱線遮蔽性を兼ね備えていることがわかる。一方、比較例1のようにアンチモン酸亜鉛を含まない場合には、得られたメタクリル系樹脂組成物は日射透過率が高く、熱線遮蔽性能が十分ではない。比較例2のように、表面改質剤を添加しない場合は、アンチモン酸亜鉛の微粒子が凝集し、透明性、可視光透過率ともに十分ではない。比較例3のように、アンチモン酸亜鉛を含む分散液を粉砕処理しない場合、透明性が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル系樹脂100質量部およびアンチモン酸亜鉛0.02〜10質量部を含有するメタクリル系樹脂組成物であって、アンチモン酸亜鉛がメタクリル系樹脂中に平均粒子径60nm以下で分散していることを特徴とするメタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
波長領域380〜780nmでの可視光透過率が70%以上、波長領域300〜2500nmでの日射透過率が70%以下であり、かつ、ヘイズが3.0%以下である請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
アンチモン酸亜鉛の分散液に湿式粉砕処理を施した後、メタクリル系樹脂と複合する請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
アンチモン酸亜鉛とメタクリル系樹脂との複合が溶融混練である請求項3に記載のメタクリル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のメタクリル系樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2011−1425(P2011−1425A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144249(P2009−144249)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】