説明

熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体

【課題】可視光透過性と熱線遮蔽性に加え耐熱性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体を提供する。
【解決手段】樹脂中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む熱線遮蔽樹脂シート材等であって、上記微粒子が、一般式ZnxMyWOz(Znは亜鉛、Mは、Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOz(M、W、Oは上記同様、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700で、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋根や壁、アーケード、天井ドーム、車両の窓等の開口部に利用され、可視光透過性が良好で熱線遮蔽性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体に係り、特に、上記可視光透過性と熱線遮蔽性に加えて耐熱・耐湿熱性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種建築物や車両の窓等のいわゆる開口部は、太陽光線を取り入れるために透明なガラス板や樹脂板で構成されている。しかし、太陽光線には可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれ、特に赤外線のうち800〜2500nmの近赤外線は熱線と呼ばれ、開口部分から進入することにより室内の温度を上昇させる原因となる。
【0003】
そこで、近年では、各種建築物や車両の窓材等として、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽して、明るさを維持しつつ同時に室内の温度上昇を抑制する熱線遮蔽材が検討され、そのための各種手段が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明樹脂フィルムに金属を蒸着してなる熱線反射フィルムを、ガラス板、アクリル板、ポリカーボネート板等の透明基材に接着した熱線遮蔽板が提案されている。しかし、この熱反射フィルム自体が非常に高価であるばかりでなく、接着工程等の煩雑な工程を要するため、非常に高コストになる欠点があった。また、透明基材と熱線反射フィルムの接着性が良くないので、経時変化により熱線反射フィルムが剥離するといった問題を有していた。
【0005】
また、透明基材表面に金属や金属酸化物を直接蒸着して熱線遮蔽膜を施した熱線遮蔽板も数多く提案されているが、高真空や精度の高い雰囲気制御が必要な蒸着装置を使用しなければならないため、量産性が悪く、汎用性に乏しい上、熱線遮蔽板が非常に高価になるという問題があった。
【0006】
熱線遮蔽の手段として、上述の透明基材上に熱線反射フィルムや熱線遮蔽膜を施す方法以外にも、例えば特許文献2や特許文献3には、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明な樹脂に、熱線反射粒子として酸化チタンで被覆したマイカを練り込で形成した熱線遮蔽板が提案されている。
【0007】
これ等の熱線遮蔽板では、熱線遮蔽性能を高めるために熱線反射粒子を多量に添加する必要があるが、この熱線反射粒子の添加量を増大すると可視光線透過性が低下してしまうという問題があった。逆に、熱線反射粒子の添加量を少なくすると、可視光線透過性は高まるものの熱線遮蔽性が低下するため、熱線遮蔽性と可視光線透過性を同時に満足させることは困難であった。更に、熱線反射粒子を多量に配合すると、基材である透明樹脂の物性、殊に耐衝撃性や靭性が低下するという強度面の欠点も有していた。
【0008】
一方、本出願人は、特許文献4において、熱線遮蔽効果を有する成分として自由電子を多量に保有する六ホウ化物微粒子に着目し、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂中に、六ホウ化物微粒子が分散され、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が分散されている熱線遮蔽樹脂シート材を既に提案している。
【0009】
六ホウ化物微粒子単独、若しくは六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が適用された熱線遮蔽樹脂シート材の光学特性は、可視光領域に可視光透過率の極大を有すると共に、近赤外線領域に強い吸収を発現して日射透過率の極小を有することから、可視光透過率が70%以上で日射透過率が50%台まで改善されている。
【0010】
しかし、更に高い熱線遮蔽特性が求められており、上記熱線遮蔽樹脂シート材においても、未だ改善の余地を残していた。
【0011】
そこで、本出願人は、特許文献5において、熱線遮蔽機能を有する微粒子として、一般式WOx(2.45≦x≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、および/または、一般式MyWOz(0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記されかつ六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を適用することにより、可視光透過率が70%以上で日射透過率が30%台後半から40%台後半まで改善された熱線遮蔽樹脂シート材を提案している。
【0012】
しかし、上記タングステン酸化物微粒子、および/または、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が適用された熱線遮蔽樹脂シート材の耐熱・耐湿熱性については十分満足できない場合があり、未だ改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭61−277437号公報
【特許文献2】特開平5−78544号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開2003−327717号公報
【特許文献5】特許第4182357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、優れた可視光線透過性を維持すると同時に高い熱線遮蔽性を発揮でき、かつ、耐熱・耐湿熱性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究を継続した結果、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物(以下に述べる亜鉛が固溶された複合タングステン酸化物と区別するため複合タングステン酸化物Aと称する)に、炭酸亜鉛等の亜鉛元素を有する化合物を反応させて製造した、一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物(亜鉛が固溶される前の上記複合タングステン酸化物Aと区別するため複合タングステン酸化物Bと称する)が、優れた可視光線透過性と熱線遮蔽性を有しかつ耐熱・耐湿熱性にも優れていることを発見すると共に、この複合タングステン酸化物Bを適用した熱線遮蔽樹脂シート材も優れた可視光線透過性を維持すると同時に高い熱線遮蔽性を発揮しかつ耐熱・耐湿熱性に優れていることを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
【0016】
すなわち、請求項1に係る発明は、
可視光を透過する樹脂基材中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700であり、かつ、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aと、亜鉛元素を有する化合物との混合体を、還元性ガス雰囲気中若しくは不活性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して上記一般式ZnxMyWOzで表記される請求項1に記載の複合タングステン酸化物Bの微粒子が得られていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
熱線遮蔽機能を有する上記微粒子の含有量が、上記熱線遮蔽樹脂シート材1m当たり0.05g〜45gであることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
熱線遮蔽機能を有する上記微粒子が、
一般式ZnxMyWOzで表記される請求項1に記載の複合タングステン酸化物Bの微粒子と、
Sb、V、Nb、Ta、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群より選択される2種以上の元素を含む酸化物微粒子、複合酸化物微粒子、ホウ化物微粒子の内の少なくとも1種の微粒子とで構成されることを特徴とする。
【0018】
次に、請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記樹脂基材がポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂で構成されることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材が、該シート材の一方の表面を構成する表面シート層と、該シート材の他の一方の表面を構成する表面シート層と、前記2層の表面シート層間に形成された中間シート層と、前記各シート層間を接続する接続シート層とを有する中空多層構造に構成されたことを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項6に記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記シート層の全てに、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項6に記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記シート材の一方の表面を構成する表面シート層の1層にのみ、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項6に記載の発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記シート材の表面を構成する表面シート層の2層にのみ、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項10に係る発明は、
請求項1〜9のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜が形成されていることを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項1〜9のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、耐擦傷性ハードコート層が形成されていることを特徴とする。
【0020】
次に、請求項12に係る発明は、
熱線遮蔽樹脂シート材積層体において、
請求項1〜11のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材を、他の樹脂シート材に積層することにより得られることを特徴とし、
請求項13に係る発明は、
建築構造体において、
請求項1〜11のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材または/および請求項12に記載の熱線遮蔽樹脂シート材積層体が用いられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
可視光を透過する樹脂基材中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む本発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材によれば、
熱線遮蔽機能を有する上記微粒子が、一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700であり、かつ、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴としている。
【0022】
そして、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物B微粒子は優れた可視光線透過性と熱線遮蔽性を有しかつ耐熱・耐湿熱性にも優れているため、熱線遮蔽機能を有する微粒子として上記複合タングステン酸化物B微粒子を適用することにより、優れた可視光線透過性を維持すると同時に高い熱線遮蔽性を発揮できかつ耐熱・耐湿熱性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体およびこれ等を用いた建築構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図。
【図2】格子定数の比c/aを説明するための六方最密格子の模式図。
【図3】中空3層構造を有する熱線遮蔽樹脂シート材を示す断面図。
【図4】中空7層構造を有する熱線遮蔽樹脂シート材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
〔A〕熱線遮蔽樹脂シート材
可視光を透過する樹脂基材中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む本発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材は、熱線遮蔽機能を有する上記微粒子が、一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700であり、かつ、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0026】
(1)熱線遮蔽機能を有する微粒子
熱線遮蔽機能を有する本発明の微粒子は、上記一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOzで表記される上記複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700であり、かつ、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0027】
まず、一般式ZnxMyWOzと一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物において、タングステン(W)の組成を1としたときの酸素(O)の組成比zは、各一般式のカッコ中に示されているように2.2以上3.0以下であり、光学特性の観点からより好ましくは2.45以上3.0以下である。組成比zがこの範囲の場合、材料としての化学的安定性を得ることができるため、熱線遮蔽機能を有する有効な微粒子として適用できる。
【0028】
また、タングステン(W)の組成を1としたときの元素(M)の組成比yは、各一般式のカッコ中に示されているように、光学特性の観点から0.1以上0.5以下であることを要する。yの値が0.1未満であると、一般式ZnxMyWOzおよび一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物が化合物として不安定になり、WO3やWO2等の異相が析出する。また、yの値が大きいほど熱線遮蔽機能は向上するが、複合タングステン酸化物が化合物として安定に存在する最大の値は0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。
【0029】
また、一般式ZnxMyWOzおよび一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、この微粒子の可視光領域での透過性が向上しかつ近赤外域での吸収性(すなわち、熱線遮蔽機能)が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照して説明する。図1において符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素(M)が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。この六角形の空隙に元素(M)の陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素(M)を添加したとき当該六方晶が形成されるので好ましい。
【0030】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が均一な結晶構造を有するとき、元素(M)の添加量yは、上述したように0.1以上0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。酸素(O)の組成比z=3のとき、yの値が0.33となることで、元素(M)が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0031】
また、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物B微粒子が、上述した六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるときも熱線遮蔽機能を有する微粒子として有効である。上記亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物B微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、更に六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、上記吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。よって、より可視光領域の光を透過し、より近赤外線領域の光を遮蔽する用途には、上述したように六方晶のタングステンブロンズを用いることが必要である。但し、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、これに限定されるわけではない。従って、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物A微粒子と、炭酸亜鉛等の亜鉛元素を有する化合物を反応させて製造した、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物B微粒子に、上述した六方晶以外の、正方晶、立方晶のタングステンブロンズ構造が若干含まれていても熱線遮蔽機能を有する本発明の微粒子として使用することは可能である。
【0032】
次に、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおいて、タングステン(W)の組成を1としたときの亜鉛(Zn)の組成比xは、一般式のカッコ中に示されているように0.001≦x≦2.0である。六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物では、酸素(O)の組成比z=3のとき、上記WO単位にて形成される8面体が6個集合して構成する六角形の空隙以外に、同じくWO単位にて形成される8面体が3個集合して三角形の空隙(トンネル)が構成される。すなわち、M元素とは異なるサイトが存在するが、三角形の空隙中に亜鉛が配置すると考えられる。
【0033】
そして、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおける格子定数の比c/a(図2の模式図で示す六方最密格子の符号a、符号c参照)が、亜鉛元素を有する化合物と反応させる前の一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きいことが確認され、ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおける格子定数の比c/aが大きくなっていることから、亜鉛(Zn)が固溶していると考えられる。具体的に説明すると、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおける格子定数の比c/aは、出発原料である一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aに較べて0.000050以上大きくなる。一方、複合タングステン酸化物Bの格子定数の比c/aと出発原料の複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aとの差の上限は、0.000400以下である。上限が0.000400以下である理由は、複合タングステン酸化物Bの格子定数の比c/aが、出発原料の複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aより0.000400を超えて大きくなると、格子定数の比c/aが過大になり、後述する元素(M)の脱離が発生し易くなって耐熱・耐湿熱性についての改善効果が低下するからである。そして、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bの格子定数の比c/aは、1.027300〜1.027700であることを要する。
【0034】
更に、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおける格子定数のc軸も、亜鉛元素を有する化合物と反応させる前の一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数のc軸より伸びていることが確認されていることからも亜鉛(Zn)が固溶していると考えられる。ここで、上記亜鉛(Zn)が固溶しているとは、亜鉛元素を有する化合物から供給される添加亜鉛の一部若しくは全てが固溶している状態をいう。
【0035】
ところで、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物Bに関し、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aと比較して耐熱・耐湿熱性が改善される理由は現在のところ不明であるが、本発明者等は以下のように推察している。まず、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aの湿熱条件での熱線遮蔽機能の劣化現象には、大気中の水分の存在が深く係わっていることが本発明者等によって確認されている。一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aは、WOと同様に酸性酸化物であり、水分中で不安定となる。WOを水に浸漬するとW成分が溶出し、pHが低下する。一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aを水に浸漬すると、同様にW成分が溶出しpHが低下する。このとき、元素(M)が、Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr等の塩基性元素である場合、酸性水溶液を中和する形で元素(M)の溶出が促進され、上記熱線遮蔽機能が低下するものと考えられる。また、水分が関与しない場合でも、高温下に曝された一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aにおいて元素(M)の脱離が発生することが、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物Aを高温の乾燥空気雰囲気に曝した前後の格子定数の比c/aの変化により確認されている。一方、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bは、複合タングステン酸化物B中に両性元素である亜鉛(Zn)が含まれているため、W(タングステン)成分による酸性を中和するために亜鉛(Zn)が消費され、元素(M)の溶出を抑制しているものと考えられる。このような考えから、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bの亜鉛(Zn)組成比xが0.001未満であると、元素(M)の溶出を抑制するZn量が不十分で、複合タングステン酸化物Bの十分な耐久性(耐熱・耐湿熱性)が得られない。他方、亜鉛(Zn)組成比xが2.0を超えると、複合タングステン酸化物Bの上記耐久性(耐熱・耐湿熱性)は維持されるが、ヘイズが高くなる。ヘイズ上昇の理由は、亜鉛(Zn)の増加に伴って、使用している分散剤とのマッチングの問題によるものと推察している。尚、上記格子定数の比c/aが1.027700を超えて過大になると耐熱・耐湿熱性が低下するが、この理由の詳細は明らかではないものの元素(M)の脱離が容易になるためと推察している。
【0036】
ところで、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物Bで構成された熱線遮蔽機能を有する本発明の微粒子は、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するためその透過色調は青色系となるものが多い。また、本発明に係る微粒子の分散粒子径については、その使用目的によって適宜選定することができる。まず、透明性を保持した目的に使用する場合は500nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。500nmよりも小さい分散粒子径は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に、可視光領域の透明性を重視する場合は、粒子による散乱を更に考慮することが好ましい。
【0037】
この粒子による散乱の低減を重視するときは、分散粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱による400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、熱線遮蔽樹脂シート材が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなる弊害を回避できるからである。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱若しくはミー散乱が低減しレイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴って散乱が低減し透明性が向上するからである。更に、分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは分散粒子径が小さい方が好ましく、粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は可能である。
【0038】
ところで、熱線遮蔽樹脂シート材の熱線遮蔽性能は、複合タングステン酸化物Bで構成される熱線遮蔽機能を有する上記微粒子(熱線遮蔽成分)のシート単位面積当たりの含有量で決まってくるため、シート単位面積当たりに熱線遮蔽成分の所定量が分散されていれば、シートの厚さに関係なく熱線遮蔽成分の含有量に見合った所望の熱線遮蔽性能を示す。そこで、熱線遮蔽成分の樹脂基材に対する含有量は、求められる光学特性や熱線遮蔽樹脂シート材の機械特性等に応じて定めることが好ましい。熱線遮蔽特性を満足する単位面積当りの熱線遮蔽成分含有量であっても、上記樹脂シート材が薄くなってくると単位体積当りの含有量が多くなり、樹脂シートの摩耗強度や耐衝撃性が低下する。また、熱線遮蔽樹脂シート材表面に熱線遮蔽成分の浮き出しが生じ、外観を損ねる可能性がある。従って、熱線遮蔽樹脂シート材が薄い場合、具体的には厚さ20〜30μm程度であっても、上述した不都合が生じないように、複合タングステン酸化物Bで構成される熱線遮蔽機能を有する微粒子(熱線遮蔽成分)の含有量は、熱線遮蔽樹脂シート材1m当たり45g以下であることが好ましい。一方、上記熱線遮蔽成分の1m当たりの含有量が少なくなると熱線遮蔽特性が低下してくるため、実用的な熱線遮蔽特性を発揮させる含有量としては、熱線遮蔽樹脂シート材1m当たり0.05g以上であることが好ましい。
【0039】
尚、上記複合タングステン酸化物Bで構成される熱線遮蔽機能を有する本発明の微粒子表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることは、微粒子の耐候性を向上させる観点から好ましい。
【0040】
また、熱線遮蔽機能を有する本発明の微粒子については、一般式ZnxMyWOzで表記される上記複合タングステン酸化物Bの微粒子に加えて、更に、Sb、V、Nb、Ta、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群から選択される2種以上の元素を含む酸化物微粒子、複合酸化物微粒子、ホウ化物微粒子の内の少なくとも1種の微粒子とで構成してもよい。
【0041】
(2)複合タングステン酸化物Bで構成される熱線遮蔽機能を有する微粒子の製造
(2−1)一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物B微粒子を製造するには、まず、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aを合成し、得られた複合タングステン酸化物A微粒子に亜鉛元素を有する化合物を添加し、この混合物を、還元性ガス雰囲気中若しくは不活性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼成(熱処理)して製造することができる。上記複合タングステン酸化物A微粒子と亜鉛元素を有する化合物との混合物を、還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼成(熱処理)する場合、不活性ガス中における還元性ガスの濃度については、焼成(熱処理)温度に応じて適宜選定すれば特に限定されないが、好ましくは20vol %以下、より好ましくは10vol %以下、更に好ましくは7〜0.01vol %である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol %以下であると、複合タングステン酸化物A微粒子の急速な還元を回避することができるからである。
【0042】
また、上記亜鉛元素を有する化合物としては、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、または、塩基性炭酸亜鉛を適用することができ、これ等の中で、特に炭酸亜鉛(ZnCO)または塩基性炭酸亜鉛[2ZnCO・3Zn(OH)]の適用が望ましい。これ等炭酸亜鉛や塩基性炭酸亜鉛の適用が望ましいのは、上述した還元性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、または、還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気下で焼成(熱処理)することで、上記複合タングステン酸化物Aに亜鉛が固溶した複合タングステン酸化物Bの微粒子を製造し易いからである。尚、工業的には炭酸亜鉛と水酸化亜鉛で構成される塩基性炭酸亜鉛の組成は不定で、上記[2ZnCO・3Zn(OH)]の組成は塩基性炭酸亜鉛の代表組成を示しているに過ぎないため、塩基性炭酸亜鉛の組成が[2ZnCO・3Zn(OH)]に限定されるものではない。
【0043】
次に、上記焼成(熱処理)温度は雰囲気に応じて適宜選定すればよいが、雰囲気が不活性ガス単独中の場合は、製造時間の短縮と単相性の観点から、200℃を超え600℃未満、好ましくは300℃を超え500℃未満、より好ましくは350℃を超え450℃未満である。焼成(熱処理)温度が低すぎると亜鉛原子の拡散に時間を要するため生産的ではない。反対に焼成(熱処理)温度が高すぎると異相が生成してしまう。一方、上記雰囲気が不活性ガスと還元性ガスの混合雰囲気中の場合は、還元性ガス濃度に応じてWOが生成しない温度を適宜選定すればよい。このときの焼成(熱処理)時間は温度に応じて適宜選択すればよい。但し、処理時間が長時間に及ぶと、一般式ZnxMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bの格子定数の比c/aが、上限である1.027700を超えることがあるので留意する必要がある。例えば、処理温度が350℃を超え450℃未満であれば、処理時間は10時間以下である。
【0044】
(2−2)次に、上記一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bを得るための原料、すなわち、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの製造方法について説明する。
【0045】
タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、M元素(Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg)を有する化合物として、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物とを乾式混合し、得られた混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記混合粉体を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成しかつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。尚、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。
【0046】
また、上記方法とは異なる製造方法として以下の方法が例示される。
【0047】
すなわち、タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、上記M元素の塩を含む水溶液とを湿式混合して調製された混合液を乾燥して乾燥粉を得、得られた乾燥粉を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記乾燥粉を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成しかつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。尚、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。また、上記M元素の塩としては特に限定されるものでなく、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩等が挙がられる。また、湿式混合して調製された上記混合液を乾燥させる際の乾燥温度や時間は、特に限定されるものでない。
【0048】
そして、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成する場合、不活性ガス中における還元性ガスの濃度については、焼成温度に応じて適宜選定すれば特に限定されないが、好ましくは20vol %以下、より好ましくは10vol %以下、更に好ましくは7〜0.01vol %である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol %以下であると、上記混合粉体または乾燥粉の急速な還元を回避することができるからである。
【0049】
焼成温度については雰囲気に応じて適宜選定すればよいが、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガス単独の雰囲気下で焼成する場合は、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物A微粒子としての結晶性や着色力の観点から500℃を超え1200℃以下、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下である。一方、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する場合は、還元性ガス濃度に応じてWOが生成しない温度を適宜選定すればよい。更に、2段焼成して複合タングステン酸化物A微粒子を製造する場合は、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において100℃以上650℃以下で焼成し、2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において500℃を超え1200℃以下で焼成する条件が、近赤外線遮蔽特性の観点から好ましい条件として例示される。このときの焼成処理時間は、焼成温度に応じて適宜選択すればよいが、5分以上10時間以下で十分である。
【0050】
ここで、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、および、タングステン酸化物微粒子から選ばれる1種以上のタングステン化合物に対し、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物を上述した乾式混合法を用いて添加するとき、M元素を有する化合物としては酸化物、水酸化物が好ましい。
【0051】
また、上記乾式混合は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等で行えばよい。
【0052】
〔B〕熱線遮蔽樹脂シート材の製造
可視光を透過する樹脂基材中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む本発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材の製造方法は、熱線遮蔽機能を有する微粒子(熱線遮蔽成分)を樹脂基材中に均一に分散できる方法であれば任意に選択できる。例えば、上記微粒子を樹脂に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることができる。特に、溶剤中に上記微粒子を分散させた添加液を調製し、この添加液を樹脂または樹脂原料と混合した成形用組成物を用いて樹脂シートを成形する方法が簡単であり好ましい。
【0053】
熱線遮蔽成分(熱線遮蔽機能を有する微粒子)の樹脂への分散方法は、微粒子を均一に樹脂に分散できる方法であれば特に限定されないが、上述の如く微粒子を任意の溶剤に分散した添加液を用いる方法が好ましい。例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散等の方法を用い、上記微粒子を任意の溶剤に分散して熱線遮蔽樹脂シート材製造用の添加液とする。
【0054】
熱線遮蔽樹脂シート材製造用の添加液に用いる分散溶剤としては、特に限定されるものではなく、配合する樹脂、樹脂シート材を形成する条件等に合わせて選択可能であり、一般的な有機溶剤が使用可能である。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。更に、樹脂中の微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を分散剤として添加することも可能である。
【0055】
上記添加液を用いて熱線遮蔽樹脂シート材を製造するには、一般的には、添加液を基材となる樹脂に添加し、リボンブレンダーで混合し、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、およびバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸押出機、二軸押出機等の混練機で均一に溶融混合する方法を用いて、樹脂中に微粒子が均一に分散した混合物を調製する。
【0056】
基材となる樹脂としては各種の透明樹脂が使用可能であるが、光学的特性、機械的特性、原料コスト等の観点からポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂を好適に使用することができる。そして、基材となる樹脂がポリカーボネート樹脂の場合には、樹脂の原料となる2価フェノール類に上記添加液を添加し、公知の方法で均一に混合し、ホスゲンで例示されるカーボネート前駆体と反応させることによっても、樹脂に微粒子(熱線遮蔽成分)が均一に分散した混合物を調製することができる。また、アクリル樹脂の場合は、アクリル樹脂の原料となるメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等に添加液を添加し、同様に公知の方法で均一に混合し、懸濁重合や塊状重合等公知の方法で重合させることによって、アクリル樹脂に微粒子(熱線遮蔽成分)が均一に分散した混合物を調製することができる。また、基材となる樹脂中には、必要に応じて有機系の紫外線吸収剤やその他の着色用色素が含有していてもよい。
【0057】
更に、添加液の溶剤を公知の方法で除去し、得られた粉末を樹脂に添加して、均一に溶融混合する方法によっても、樹脂に微粒子(熱線遮蔽成分)が均一に分散した混合物を調製することができる。
【0058】
そして、本発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材は、上述した微粒子(熱線遮蔽成分)を樹脂に均一に分散させた混合物を、射出成形、押出成形、圧縮成形等の公知の成形方法によって、平面状や曲面状に成形することにより作製することができる。更に、樹脂に微粒子を均一に分散させた混合物を造粒装置により一旦ペレット化した後、同様の方法で熱線遮蔽樹脂シート材を作製することもできる。
【0059】
尚、熱線遮蔽樹脂シート材の厚さは、厚い板状から薄いフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整することが可能である。
【0060】
また、上記熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜を形成してもよい。例えば、上記熱線遮蔽樹脂シート材上に、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤を各種バインダーに溶解させた塗布液を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させて紫外線吸収膜を形成することができる。この紫外線吸収膜の形成により、熱線遮蔽樹脂シート材の耐侯性を向上させることが可能となり、当該熱線遮蔽樹脂シート材に紫外線遮蔽効果も持たせることもできる。
【0061】
更に、上記熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、耐擦傷性ハードコート層を形成してもよい。例えば、上記熱線遮蔽樹脂シート材上に、シリケート系、アクリル系等の耐擦傷性ハードコート層を形成することができる。このハードコート層の形成により、熱線遮蔽樹脂シート材の耐擦傷性を向上させることが可能となり、当該熱線遮蔽樹脂シート材を車両、自動車の窓等に使用することができる。
【0062】
尚、上記熱線遮蔽樹脂シート材の樹脂基材となるポリカーボネート樹脂は、2価フェノール類とカーボネート系前駆体とを、溶液法または熔融法で反応させることによって得られるものである。2価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が代表例として挙げられる。また、好ましい2価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールAを主成分とするものが好ましい。
【0063】
また、アクリル樹脂としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートを主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として用いた重合体または共重合体が用いられる。また、更に多段で重合したアクリル樹脂を用いることもできる。
【0064】
以上のように、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bにより構成される微粒子を上記樹脂材料中に均一に分散させ、シート状に形成することで、高コストの物理成膜法や複雑な接着工程を用いることなく、優れた可視光線透過性を維持すると同時に高い熱線遮蔽性を発揮できかつ耐熱・耐湿熱性にも優れた熱線遮蔽樹脂シート材を提供することが可能となる。
【0065】
〔C〕中空多層構造に構成された熱線遮蔽樹脂シート材
次に、上記熱線遮蔽樹脂シート材の好ましい形態としては、該シート材の一方の表面を構成する表面シート層と、該シート材の他の一方の表面を構成する表面シート層と、前記2層の表面シート層間に形成された中間シート層と、前記各シート層間を接続する接続シート層とを有してなる中空多層構造に構成された熱線遮蔽樹脂シート材が好ましい。
【0066】
このような熱線遮蔽樹脂シート材として、図3に示す中空3層構造の熱線遮蔽樹脂シート材10と、図4に示す中空7層構造の熱線遮蔽樹脂シート材20を例として説明する。熱線遮蔽樹脂シート材10(図3)は、対向する表面シート層11と表面シート層12との間に中間シート層13が、表面シート層11および12にほぼ平行して設けられ、これ等の表面シート層11、12および中間シート層13に対しほぼ直交する接続シート層14が、これ等の表面シート層11、12および中間シート層13を接続して一体化したものである。表面シート層11、12および中間シート層13により3層構造が構成され、また、表面シート層11、12、中間シート層13および接続シート層14に囲まれて中空部15が形成される。
【0067】
また、上記熱線遮蔽樹脂シート材20(図4)は、対向する表面シート層21と表面シート層22との間に、4枚の中間シート層23、24、25、および26がほぼ平行でほぼ等ピッチに設けられ、これ等の表面シート層21、22、中間シート層23、24、25および26と直交する接続シート層27が、これ等の表面シート層21、22、中間シート層23、24、25および26を接続して一体化すると共に、接続シート層27の配列ピッチで蛇行するほぼ正弦波形状の接続シート層28が表面シート層21および22に接し、且つ中間シート層23、24、25および26に交差して、これ等の表面シート層21、22、23、24、25および26を接続して一体化したものである。表面シート層21、22、中間シート層23、24、25、26および接続シート層28により7層構造が構成され、また、表面シート層21、22、中間シート層23、24、25、26、接続シート層27および28に囲まれて中空部29が形成される。
【0068】
上述したような中空多層構造の熱線遮蔽樹脂シート材においては、シート層の全てに熱線遮蔽機能を有する微粒子(すなわち、一般式ZnxMyWOzで表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子、あるいは、この複合タングステン酸化物B微粒子に追加された、Sb、V、Nb、Ta、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群より選択される2種以上の元素を含む酸化物微粒子、複合酸化物微粒子、ホウ化物微粒子の内の少なくとも1種の微粒子)が含まれていてもよいし、該シート材の一方の表面を構成する表面シート層の1層にのみ上記熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていてもよいし、該シート材の表面を構成する表面シート層の2層にのみ上記熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていてもよい。
【0069】
例えば、図3に示す熱線遮蔽樹脂シート材10にあっては、既存の複層中空シート製造装置等を用いて、表面シート層11、12、中間シート層13および接続シート層14の全てのシート層に上記熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有させてもよく、または、表面シート層11のみ若しくは表面シート層11および12にのみ上記熱線遮蔽機能を有する微粒子酸化物微粒子を含有させてもよい。また、図4に示す熱線遮蔽樹脂シート材20にあっては、同様に、既存の複層中空シート製造装置等を用いて、表面シート層21、22、中間シート層23、24、25、26、接続シート層27および28の全てのシート層に上記熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有させてもよく、または、表面シート層21若しくは22にのみ、または表面シート層21および22にのみ上記熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有させてもよい。
【0070】
熱線遮蔽樹脂シート材を上述のような中空多層構造とすることによって、表面シートと中間シートとの間に断熱効果のある空気層を設けることができ、例えば、室外側の表面シートが吸収した太陽エネルギーを室内側に放出することを抑制し、当該太陽エネルギーを効率よく室外側へ放出するので、熱線遮蔽効果が向上する。
【0071】
また、中空多層構造の表面シート層の1層のみまたは2層のみに上述した熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有させることによって、例えば、室外側の表面シートに、より多くの熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有させるといった構成が可能となる。そして、当該構成を採ることで、熱線遮蔽樹脂シート材の単位面積当たりの微粒子を一定にしながら、例えば、上述した太陽エネルギーの室内側への放出抑制を更に向上させることができる。
【0072】
〔D〕熱線遮蔽樹脂シート材積層体と建築構造体
上述したいずれかの熱線遮蔽樹脂シート材を、用途に合わせて、他の樹脂シート材に積層することにより熱線遮蔽樹脂シート材積層体とすることも好ましい構成である。熱線遮蔽樹脂シート材を熱線遮蔽樹脂シート材積層体とすることで、多様な力学的特性を示す積層体を得ることができると共に、当該積層体の全部または一部に熱線遮蔽樹脂シート材を用いることで、所望の光学的特性を有する積層体を得ることができる。
【0073】
そして、上記熱線遮蔽樹脂シート材および熱線遮蔽樹脂シート材積層体を、それぞれ単独または両者を混合使用して建築構造体を構成することも好ましい。例えば、熱線遮蔽樹脂シート材をアルミニウム製の骨格にボルトで固定し、より広い範囲の太陽エネルギーを効率よく遮蔽することができる。また、熱線遮蔽樹脂シート材を任意の形状に加工し、自動車用のリアウィンドウ、サンルーフとして使用することで車内の温度上昇を効率よく抑制することができる。更に、熱線遮蔽樹脂シート材とガラスとをラミネートした熱線遮蔽樹脂シート材積層体を作製し、外界側に熱線遮蔽樹脂シート材を向けて車両の窓枠に直接はめ込むことで、入射してくる太陽エネルギーを遮蔽してエアコンの負荷を軽減すると同時に飛び石等によるガラスの飛散を防止する等の機能を持たせることができる。
【0074】
このように、上述の熱線遮蔽樹脂シート材または/および熱線遮蔽樹脂シート材積層体が用いられる建築構造体は、建築物の屋根、ドーム、スカイライト、アーケード、カーポート、グリーンハウス、建築物の窓、建築物の壁、車両用窓、自動車用窓等に幅広く利用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
ここで、各実施例と比較例に係る熱線遮蔽樹脂シート材の可視光(波長域380nm〜780nm)透過率および日射(波長域200nm〜2600nm)透過率は、日立製作所(株)製の「分光光度計U−4000」を用いて測定した。尚、上記日射透過率は熱線遮蔽性能を示す指標である。
【0077】
また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製の「HR−200」を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。更に、平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置[大塚電子株式会社製 ELS−800]により測定した平均値とした。
【0078】
[実施例1]
タングステン酸(HWO)34.57kgに対し、炭酸セシウム7.43kgを水6.70kgに溶解させた水溶液を添加し、混合した後、100℃で攪拌しながら水分を除去して乾燥粉を得た。
【0079】
次に、Nガスをキャリアーとした5%のHガスを供給しながら(すなわち、不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において)上記乾燥粉を加熱し、800℃の温度条件で5.5時間焼成して、Cs0.33WO微粒子(すなわち、複合タングステン酸化物A微粒子)を得た。尚、焼成処理して得られた焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WO単相であり、格子定数の比c/aは1.027547であった。
【0080】
次に、上記Cs0.33WO微粒子10gと、塩基性炭酸亜鉛4.05gを、擂潰機で十分混合し、Nガス雰囲気下において400℃の条件で1時間熱処理することによって、Zn1.0Cs0.33WO微粒子(すなわち、複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。尚、上記焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するメインピークとZnOに帰属する微弱なピ−クが認められた。また、CsO等のセシウム化合物やCs金属のピークは認められないので、CsとZnの置換やCs原子の遊離は発生していない。また、Zn1.0Cs0.33WO微粒子の格子定数c/aは1.027678で、亜鉛を含まないCs0.33WO微粒子の格子定数の比c/a(1.027547)に比べて大きくなっており、添加した亜鉛の一部が固溶していることが確認された。更に、化学分析でも、Zn1.0Cs0.33WOの構成比であることが確認された。
【0081】
次に、上記Zn1.0Cs0.33WO微粒子10.37重量%(Cs0.33WO換算で8重量%)、高分子系分散剤(固型分40%)8重量%、トルエン81.63重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで9時間粉砕・分散処理して、Zn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が分散された熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を得た。
【0082】
次に、ポリカーボネート樹脂に、得られた熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、Zn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.065重量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形し、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0083】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.56gであった。但し、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の比重を1.2g/cmとして計算した(以下、同様)。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は65nmであった。
【0084】
そして、実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率69.5%のときの日射透過率は34.3%で、ヘイズ値は1.3%であった。
【0085】
次に、実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の耐熱性および耐湿熱性を調べるために加速劣化試験を行った。
【0086】
すなわち、実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を、120℃の大気雰囲気下に暴露し、暴露前後の可視光透過率の変化率(以下、ΔVLTと記す)と日射透過率の変化率(以下、ΔSTと記す)を調べた。以下、120℃の大気雰囲気下に暴露した加速劣化試験を耐熱試験と略称し、かつ、表1において「耐熱」と表記する。
【0087】
その結果、耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.60%で、72時間後のΔSTは0.11%であり、以下に記載する比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。
【0088】
更に、上述の耐熱試験と同様に作製したポリカーボネートシート材を80℃95%HR雰囲気下に暴露して72時間後の△VTLと△STを測定した。以下、80℃95%HR雰囲気下に暴露した加速劣化試験を耐湿熱試験と略称し、かつ、表1において「耐湿熱」と表記する。
【0089】
その結果、耐湿熱試験における72時間後のΔVLTは1.19%で、72時間後のΔSTは0.49%であり、以下に記載する比較例1と較べて耐湿熱の向上が確認された。
【0090】
[実施例2]
Cs0.33WO微粒子10gに対し、塩基性炭酸亜鉛を4.05g添加した実施例1の条件に代えて、塩基性炭酸亜鉛を2.43g添加したことを除いて実施例1と同様にして、実施例2に係るZn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。
【0091】
尚、実施例2に係る焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するメインピークとZnOに帰属する微弱なピ−クが認められた。また、CsO等のセシウム化合物やCs金属のピークは認められないので、CsとZnの置換やCs原子の遊離は発生していない。また、Zn0.6Cs0.33WO微粒子の格子定数c/aは、1.027663であり、亜鉛を含まないCs0.33WO微粒子の格子定数の比c/a(1.027547)に比べて大きくなっており、添加した亜鉛の一部が固溶していることが確認された。更に、化学分析でも、Zn0.6Cs0.33WOの構成比であることが確認された。
【0092】
次に、Zn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)がCs0.33WO換算で8重量%になるよう実施例1と同様にして熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を調製し、かつ、この熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に、Zn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.059重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した実施例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0093】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.42gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は64nmであった。
【0094】
そして、実施例1と同様、実施例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は34.8%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0095】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.69%、72時間後のΔSTは0.16%であり、以下に記載する比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例2において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0096】
[実施例3]
真空乾燥機を使用して、実施例1で調製されたZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が分散された熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)から有機溶剤(トルエン)を除去し、熱線遮蔽樹脂シート材製造用粉末(A粉)を製造した。
【0097】
次に、得られた熱線遮蔽樹脂シート材製造用粉末(A粉)を、ポリカーボネート樹脂に対して、Zn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.065重量%となるように添加し、かつ、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形して、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した実施例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0098】
ところで、実施例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中に分散された実施例1に係るZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)は、実施例1において記載したように、Cs0.33WOに帰属するピークのみが認められ、格子定数の比c/aは1.027678である。
【0099】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は0.85gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は44nmであった。
【0100】
そして、実施例1と同様、実施例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は34.5%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0101】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.68%、72時間後のΔSTは0.15%であり、以下に記載する比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例3において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0102】
[実施例4]
Cs0.33WO微粒子10gに対し塩基性炭酸亜鉛を4.05g添加した実施例1の条件に代えて、塩基性炭酸亜鉛を6.08×10-2g添加し、擂潰機で十分混合し、かつ、Nガス雰囲気下において400℃の条件で3時間熱処理したことを除いて実施例1と同様にして、実施例4に係るZn0.015Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。
【0103】
尚、実施例4に係る焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するメインピークのみが認められた。また、CsO等のセシウム化合物やCs金属のピークは認められないので、CsとZnの置換やCs原子の遊離は発生していない。また、Zn0.015Cs0.33WO微粒子の格子定数c/aは、1.027630であり、亜鉛を含まないCs0.33WO微粒子の格子定数の比c/a(1.027547)に比べて大きくなっており、添加した亜鉛の全てが固溶していることが確認された。更に、化学分析でも、Zn0.015Cs0.33WOの構成比であることが確認され
次に、Zn0.015Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)がCs0.33WO換算で8重量%になるよう実施例1と同様にして熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を調製し、かつ、この熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に、Zn0.015Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.05重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した実施例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0104】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn0.015Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.20gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は64nmであった。
【0105】
そして、実施例1と同様、実施例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.5%のときの日射透過率は35.5%で、ヘイズ値は1.1%であった。
【0106】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.90%、72時間後のΔSTは0.25%であり、以下に記載する比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例4において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0107】
[比較例1]
熱線遮蔽機能を有する微粒子として実施例1において製造したCs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)を適用し、かつ、Cs0.33WO微粒子が8重量%となるよう実施例1と同様にして熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を調製すると共に、この熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に、Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)の濃度が0.05重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を製造した。
【0108】
尚、比較例1に係るCs0.33WO微粒子は、実施例1と同様、Cs0.33WO単相であり、格子定数の比c/aは1.027547であった。
【0109】
そして、得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのCs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)の含有量は1.2gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物A微粒子の分散粒子径は70nmであった。
【0110】
そして、実施例1と同様、比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は35.3%で、ヘイズ値は1.1%であった。
【0111】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは1.30%、72時間後のΔSTは0.86%でありであり、また、上記耐湿熱試験における72時間後のΔVLTは1.99%、72時間後のΔSTは1.12%であり、実施例1〜4と較べて耐熱性に劣り、かつ、実施例1と較べて耐湿熱性にも劣ることが確認された。
【0112】
[比較例2]
Cs0.33WO微粒子10gに対し、塩基性炭酸亜鉛を4.05g添加した実施例1の条件に代えて塩基性炭酸亜鉛を8.10×10-2g添加し、かつ、Nガス雰囲気下において400℃の条件で1時間熱処理した実施例1の条件に代えてNガス雰囲気下において400℃の条件で12時間熱処理したことを除いて実施例1と同様にして、比較例2に係るZn0.02Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。
【0113】
尚、比較例2に係る焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するメインピークとZnOに帰属する微弱なピ−クが認められた。また、CsO等のセシウム化合物やCs金属のピークは認められないので、CsとZnの置換やCs原子の遊離は発生していない。また、Zn0.02Cs0.33WO微粒子の格子定数c/aは、1.027706(すなわち、本発明の上記「1.027300〜1.027700」範囲外)であり、亜鉛を含まないCs0.33WO微粒子の格子定数の比c/a(1.027547)に比べて大きくなっており、添加した亜鉛の一部が固溶していることが確認された。更に、化学分析でも、Zn0.02Cs0.33WOの構成比であることが確認された。
【0114】
次に、Zn0.02Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)がCs0.33WO換算で8重量%になるよう実施例1と同様にして熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を調製し、かつ、この熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に、Zn0.02Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.065重量%となるように添加すると共に、実施例1と同様にして、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した比較例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0115】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn0.02Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.2gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物A微粒子の分散粒子径は70nmであった。
【0116】
そして、実施例1と同様、比較例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は35.4%で、ヘイズ値は1.1%であった。
【0117】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは2.16%、72時間後のΔSTは1.53%であり、上述した実施例1〜4と較べて耐熱性に劣るものであることが確認された。尚、比較例2において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0118】
[実施例5]
実施例1で調製されたZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が分散された熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に対して、Zn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.065重量%となるように添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、厚さ2mmのポリカーボネートシート上に厚さ50μmの厚さで共押出成形して、厚さ2mmのポリカーボネートシートと、このシート上に積層された熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した厚さ50μmの熱線遮蔽樹脂シート材とで構成される実施例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(熱線遮蔽樹脂シート材積層体)を作製した。
【0119】
得られた熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(熱線遮蔽樹脂シート材積層体)における上記熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.56gであった。また、上記熱線遮蔽樹脂シート材中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は55nmであった。
【0120】
そして、実施例1と同様、実施例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(熱線遮蔽樹脂シート材積層体)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.2%のときの日射透過率は34.6%で、ヘイズ値は1.1%であった。
【0121】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.61%、72時間後のΔSTは0.12%であり、上記比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例5において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0122】
[実施例6]
比表面積43.7m2/gのアンチモンドープ酸化錫(ATO)微粒子30重量%、メチルイソブチルケトン65重量%、分散剤5重量を混合し、0.15mmφのガラスビーズと共に容器に充填した後、1.5時間のビーズミル分散処理を施してATO微粒子の分散液(B液)を調製した。
【0123】
次に、実施例1で調製されたZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が分散された熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)と上記ATO微粒子の分散液(B液)とを、Zn1.0Cs0.33WO微粒子の濃度が0.024重量%、上記ATO微粒子の濃度が0.015重量%となるようにポリカーボネート樹脂に添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形し、熱線遮蔽機能を有する微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子とATO微粒子)が全体に均一に分散した実施例6に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0124】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりの上記微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子とATO微粒子)の含有量は0.94gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の上記微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子)の分散粒子径は55nmであった。
【0125】
そして、実施例1と同様、実施例6に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率71.2%のときの日射透過率は35.5%であり、ヘイズ値は1.2%であった。
【0126】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.61%、72時間後のΔSTは0.12%であり、上記比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例6において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0127】
[実施例7]
平均粒径約1μmの六ホウ化ランタン(LaB)粒子20重量%、高分子系分散剤5重量%、トルエン75重量%を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーで24時間分散処理することにより、平均分散粒子径86nmのLaB粒子の分散液(C液)を調製した。
【0128】
次に、実施例1で調製されたZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が分散された熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)と上記LaB粒子の分散液(C液)とを、Zn1.0Cs0.33WO微粒子の濃度が0.022重量%、上記LaB粒子の濃度が0.001重量%となるようにポリカーボネート樹脂に添加し、ブレンダーで混合し、二軸押出機で均一に溶融混練した後、Tダイを用いて厚さ2mmに押出成形し、熱線遮蔽機能を有する微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子とLaB粒子)が全体に均一に分散した実施例7に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0129】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりの上記微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子とLaB粒子)の含有量は0.55gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の上記微粒子(Zn1.0Cs0.33WO微粒子)の分散粒子径は60nmであった。
【0130】
そして、実施例1と同様、実施例7に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.5%のときの日射透過率は30.9%であり、ヘイズ値は1.3%であった。
【0131】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.66%、72時間後のΔSTは0.15%であり、上記比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例7において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0132】
[比較例3]
Cs0.33WO微粒子10gに対し、塩基性炭酸亜鉛を4.05g添加した実施例1の条件に代えて塩基性炭酸亜鉛を2.43g添加し、かつ、Nガス雰囲気下において400℃の条件で1時間熱処理した実施例1の条件に代えてNガス雰囲気下において400℃の条件で24時間熱処理したことを除いて実施例1と同様にして、比較例3に係るZn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。
【0133】
尚、比較例3に係る焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するメインピークとZnOに帰属する微弱なピ−クが認められた。また、CsO等のセシウム化合物やCs金属のピークは認められないので、CsとZnの置換やCs原子の遊離は発生していない。また、Zn0.6Cs0.33WO微粒子の格子定数c/aは、1.027712(すなわち、本発明の上記「1.027300〜1.027700」範囲外)であり、亜鉛を含まないCs0.33WO微粒子の格子定数の比c/a(1.027547)に比べて大きくなっており、添加した亜鉛の一部が固溶していることが確認された。更に、化学分析でも、Zn0.6Cs0.33WOの構成比であることが確認された。
【0134】
次に、Zn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)がCs0.33WO換算で8重量%になるよう実施例1と同様にして熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を調製し、かつ、この熱線遮蔽樹脂シート材製造用分散液(A液)を、ポリカーボネート樹脂に、Zn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の濃度が0.059重量%となるように添加すると共に、実施例1と同様にして、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)が全体に均一に分散した比較例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0135】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn0.6Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.42gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物A微粒子の分散粒子径は64nmであった。
【0136】
そして、実施例1と同様、比較例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は35.3%で、ヘイズ値は1.2%であった。
【0137】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは2.71%、72時間後のΔSTは1.80%であり、上述した実施例1〜7と較べて耐熱性に劣るものであることが確認された。尚、比較例3において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0138】
[実施例8]
Zn1.0Cs0.33WO微粒子10.37重量%(Cs0.33WO換算で8重量%)、高分子系分散剤(固型分40%)8重量%、トルエン81.63重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで9時間粉砕・分散処理した実施例1の条件に代えて、ペイントシェーカーでの分散時間を6.5時間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0139】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.55gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は110nmであった。
【0140】
そして、実施例1と同様、実施例8に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は34.3%で、ヘイズ値は1.4%であった。
【0141】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.59%、72時間後のΔSTは0.07%であり、上記比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例8において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0142】
[実施例9]
Zn1.0Cs0.33WO微粒子10.37重量%(Cs0.33WO換算で8重量%)、高分子系分散剤(固型分40%)8重量%、トルエン81.63重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーで9時間粉砕・分散処理した実施例1の条件に代えて、ペイントシェーカーでの分散時間を4.5時間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)を作製した。
【0143】
得られた熱線遮蔽樹脂シート材1m当たりのZn1.0Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)の含有量は1.47gであった。また、熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)中の複合タングステン酸化物B微粒子の分散粒子径は190nmであった。
【0144】
そして、実施例1と同様、実施例9に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)の光学特性を測定したところ、表1に示すように、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は36.1%で、ヘイズ値は1.8%であった。
【0145】
また、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTは0.50%、72時間後のΔSTは0.02%であり、上記比較例1と較べて耐熱性の向上が確認された。尚、実施例9において上記耐湿熱試験は実施しなかった。
【0146】
【表1】

[評 価]
(1)Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)の格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027700以下である亜鉛が固溶した「複合タングステン酸化物B微粒子」を、熱線遮蔽機能を有する微粒子として適用した実施例1〜9に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)と熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(熱線遮蔽樹脂シート材積層体)は、可視光透過率71.2%以下のときの日射透過率が全て37%未満で、かつ、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTが全て1.0%未満、72時間後のΔSTも全て0.5%未満であり、しかも、実施例1の上記耐湿熱試験における72時間後のΔVLTは1.19%で、72時間後のΔSTは0.49%である。
【0147】
従って、実施例1〜9に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)と熱線遮蔽ポリカーボネート積層体(熱線遮蔽樹脂シート材積層体)は、優れた可視光透過性と良好な熱線遮蔽性を備えているため、建築物の屋根、ドーム、スカイライト、アーケード、カーポート、グリーンハウス、建築物の窓、建築物の壁、車両用窓、自動車用窓等に幅広く利用できることが確認され、かつ、可視光透過性と熱線遮蔽性能の耐熱・耐湿熱性に優れていることが確認される。
【0148】
(2)他方、Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)を、熱線遮蔽機能を有する微粒子として適用した比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)は、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は36%未満であるが、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTが1.30%と1.0%を超え、かつ、72時間後のΔSTも0.86%と0.5%を超えるため各実施例より劣っており、また、上記耐湿熱試験における72時間後のΔVLTは1.99%で、72時間後のΔSTは1.12%であり、可視光透過性と熱線遮蔽性能の耐熱・耐湿熱性に問題があることが確認される。
【0149】
(3)また、製造された複合タングステン酸化物B微粒子の格子定数c/aが、本発明の「1.027300〜1.027700」範囲外である比較例2〜3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシート材(熱線遮蔽樹脂シート材)は、可視光透過率70.0%のときの日射透過率は36%未満であるが、上記耐熱試験における72時間後のΔVLTがそれぞれ2.16%と2.71%で1.0%を超え、かつ、72時間後のΔSTもそれぞれ1.53%と1.80%で0.5%を超えるため各実施例より劣っており、比較例1と同様、可視光透過性と熱線遮蔽性能の耐熱・耐湿熱性に問題があることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係る熱線遮蔽樹脂シート材と熱線遮蔽樹脂シート材積層体は、可視光透過性と熱線遮蔽性に加えて耐熱性にも優れているため、建築物の屋根、ドーム、スカイライト、アーケード、カーポート、グリーンハウス、建築物の窓、建築物の壁、車両用窓、自動車用窓等に幅広く利用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0151】
1 WO単位
2 元素(M)
10 熱線遮蔽樹脂シート材
11 表面シート層
12 表面シート層
13 中間シート層
14 接続シート層
20 熱線遮蔽樹脂シート材
21 表面シート層
22 表面シート層
23 中間シート層
24 中間シート層
25 中間シート層
26 中間シート層
27 接続シート層
28 接続シート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を透過する樹脂基材中に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む熱線遮蔽樹脂シート材において、
上記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式ZnxMyWOz(但し、Znは亜鉛、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x≦2.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される亜鉛が固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成され、その格子定数の比c/aが、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの格子定数の比c/aよりも大きく、その数値が1.027300〜1.027700であり、かつ、分散粒子径が1nm以上500nm以下であることを特徴とする熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項2】
一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aと、亜鉛元素を有する化合物との混合体を、還元性ガス雰囲気中若しくは不活性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して上記一般式ZnxMyWOzで表記される請求項1に記載の複合タングステン酸化物Bの微粒子が得られていることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項3】
熱線遮蔽機能を有する上記微粒子の含有量が、上記熱線遮蔽樹脂シート材1m当たり0.05g〜45gであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項4】
熱線遮蔽機能を有する上記微粒子が、
一般式ZnxMyWOzで表記される請求項1に記載の複合タングステン酸化物Bの微粒子と、
Sb、V、Nb、Ta、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群より選択される2種以上の元素を含む酸化物微粒子、複合酸化物微粒子、ホウ化物微粒子の内の少なくとも1種の微粒子とで構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項5】
上記樹脂基材が、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂で構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材が、該シート材の一方の表面を構成する表面シート層と、該シート材の他の一方の表面を構成する表面シート層と、前記2層の表面シート層間に形成された中間シート層と、前記各シート層間を接続する接続シート層とを有する中空多層構造に構成されたことを特徴とする熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項7】
上記シート層の全てに、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とする請求項7記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項8】
上記シート材の一方の表面を構成する表面シート層の1層にのみ、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とする請求項7記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項9】
上記シート材の表面を構成する表面シート層の2層にのみ、請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽機能を有する微粒子が含まれていることを特徴とする請求項7記載の熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、紫外線吸収剤を含む樹脂被膜が形成されていることを特徴とする熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材の少なくとも一つのシート表面に、耐擦傷性ハードコート層が形成されていることを特徴とする熱線遮蔽樹脂シート材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材を、他の樹脂シート材に積層することにより得られることを特徴とする熱線遮蔽樹脂シート材積層体。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の熱線遮蔽樹脂シート材、または/および、請求項12に記載の熱線遮蔽樹脂シート材積層体が用いられていることを特徴とする建築構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63740(P2011−63740A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216675(P2009−216675)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】