説明

熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法

【課題】 劇物や危険物等の危険度の高い薬品を使用せず、高価な白金器具類や専用の前処理装置が不要であって、測定試料を得る前処理操作を短時間で簡単に行うことができる、熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法を提供する。
【解決手段】 所定量のホウ酸アルカリを入れたガラス容器に所定量の熱線遮蔽用インクを加え、突沸しないように加熱して熱線遮蔽用インクの有機溶剤を揮発させ、無機成分が残留したホウ酸アルカリの粉体試料を得る。この粉体試料を均一に混合・粉砕し、加圧成型して作製したディスク状の成型体試料を蛍光X線分析装置により測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線遮蔽用インク中に含有される無機成分の定量方法に関し、更に詳しくは、熱線遮蔽用インク試料中の無機元素や製造時に不純物として混入する無機元素を蛍光X線分析により定量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物や自動車の窓等に使用する熱線遮蔽材料の需要が高まっている。熱線遮蔽材料の熱線遮蔽効果を向上させる重要な特性としては、紫外線の吸収率及び可視光の透過率が挙げられる。これらの特性に影響して熱線遮蔽効果を向上させる成分として、例えば六ホウ化ランタンやタングステン酸セシウム等の無機成分が知られている。
【0003】
このような熱線遮蔽材料の作製方法の一つとして、基材上に塗布液又はインクを塗布して熱線遮蔽膜を形成する方法がある(特許文献1参照)。この熱線遮蔽膜の形成に用いる熱線遮蔽用インクでは、上記した六ホウ化ランタンやタングステン酸セシウム等の熱線遮蔽効果を向上させる無機成分の含有量を正確に把握することが重要である。
【0004】
また、熱線遮蔽用インクの製造時には、製造装置等から不純物が混入することが避けられない。例えば、原料の粉砕工程で酸化ジルコニウム製のボールミルや粉砕ボール等の粉砕装置を使用した場合、ジルコニウムが不純物として混入しやすい。従って、熱線遮蔽用インクに混入している不純物元素の含有量についても、正確に把握することが工程管理上重要である。
【0005】
一般的に、各種元素の定量分析には発光分光分析法や原子吸光分析法が広く使用されている。しかしながら、熱線遮蔽用インクの大部分を占める主成分は、トルエンや4−メチル−2−ペンタノン等の有機溶剤であるため、熱線遮蔽用インクを単純に希釈して測定試料を調製するだけでは、誘導結合プラズマ発光分光分析装置やフレーム原子吸光分析装置を用いて無機成分の測定を行うことは不可能である。
【0006】
このような有機溶剤が多いインク試料中の無機成分の分析方法として、以下の方法がある。まず、インク試料中の有機成分を分解するために、硝酸と硫酸で加熱分解するか、あるいは過酸化ナトリウム等の無機過酸化物で加熱融解する。次に、残った無機成分を適当な無機酸に溶解して一定量に定容した後、適宜希釈して分析用の試料溶液を調製する。そして、この試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析装置やフレーム原子吸光分析装置で分析し、インク試料中の無機成分を定量する(非特許文献1参照)。
【0007】
このような分析方法は一般に湿式分析法と言われているが、劇物である硝酸や硫酸、あるいは危険物である無機過酸化物を大量に使用するため、試料の前処理操作には常に安全対策などの注意を要する。また、硝酸や硫酸を大量に使用して加熱分解することにより白煙が多量に発生するので、試料の前処理操作を行なう作業環境も好ましくない。更に、有機成分の種類によっては分解に長時間を要するため、試料の前処理操作に時間がかかり効率が悪いなどの問題がある。
【0008】
上記の問題を解決する方法として、蛍光X線分析装置を用いたガラスビード法が挙げられる(非特許文献2参照)。この方法では、インク試料を白金坩堝に量り取り、有機成分を加熱して揮発させる。そこに四ホウ酸リチウムや四ホウ酸ナトリウム等の融剤(フラックス)を一定量加えて加熱融解し、得られた融体を白金皿に鋳込むことで急冷してガラス化し、ガラスビード(円形状の試料)を作製する。このガラスビード中の無機成分を蛍光X線分析装置で測定し、インク試料中の無機成分を定量分析する方法である。
【0009】
上記のガラスビード方法によれば、劇物や危険物等の危険度の高い試薬類を使用する必要はないが、有機溶媒成分によっては加熱による揮発に長時間を要する場合があるなど作業性に問題がある。また、高価な白金器具類を使用するうえ、白金器具類は加熱時に有機成分と高温で接触すると還元反応が起きてが損傷しやすく、最終的には白金器具類に穴が開いて使用不可能な状態となり、その補修費用も高額になるなどコストの高い分析方法である。
【0010】
更に、精度良く分析するためには、均質なガラスビードを作製することが必要であるが、そのためには温度や時間等の加熱融解条件を一定に制御しなければならない。ブンゼンバーナー等で加熱融解を行なうことも可能であるが、加熱融解条件の制御が困難である。また、ビードサンプラー(専用の前処理装置)を使用すれば加熱融解条件の制御が容易であるが、ビードサンプラーは高価な装置であるためコストの高い分析方法となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−072484号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本分析化学会編,「ICP発光分析法 4」,初版第2刷,共立出版株式会社,1991年10月20日,p.74−81
【非特許文献2】中井泉編集,「蛍光X線分析の実際」,初版第2刷,朝倉書店,2006年2月25日,p.70−71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、劇物や危険物等の危険度の高い薬品を使用することなく、また高価な白金器具類や専用の前処理装置が不要であって、熱線遮蔽用インクの測定試料を得る前処理操作を短時間で簡単に行うことができ、熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量分析を安全且つ簡便に、またスト的にも安価に実施する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明が提供する熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法は、所定量のホウ酸アルカリを入れたガラス容器に所定量の熱線遮蔽用インクを加え、突沸しないように加熱して前記熱線遮蔽用インクの有機溶剤を揮発させ、無機成分が残留したホウ酸アルカリの粉体試料を得た後、該粉体試料を均一に混合・粉砕し、加圧成型して成型体試料を作製し、得られた成型体試料中の無機成分を蛍光X線分析装置により測定することを特徴とする。
【0015】
上記本発明による熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法においては、前記ホウ酸アルカリと熱線遮蔽用インクの重量比を、ホウ酸アルカリが1に対して熱線遮蔽用インクが0.8〜1.2の範囲とすることが好ましい。
【0016】
上記本発明による熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法においては、前記有機溶剤を揮発させる際に、最初に熱線遮蔽用インク中の有機溶剤の沸点よりも20〜50℃低い温度で加熱し、徐々に又は段階的に温度を上げていき、最終的に有機溶剤の沸点よりも20〜50℃高い温度で保持することが好ましい。また、前記加圧成型時の成型圧力は、100〜300kNの範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のガラスビード法のように高価な白金器具類や専用の前処理装置を使用したり、ホウ酸アルカリの融点以上まで加熱して融解したりする必要がなく、蛍光X線分析装置での測定試料を得るための前処理操作を極めて簡単に且つ短時間で行うことが可能となり、熱線遮蔽用インク中の無機成分を短時間で正確に定量することができる。しかも、劇物や危険物等の危険度の高い薬品を使用する必要がなく、高価な白金器具類や専用の前処理装置が不要であるから、簡便に且つ低コストで実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による熱線遮蔽用インク中に含有される無機成分の定量分析方法では、ガラス容器内の熱線遮蔽用インクに粉体試薬であるホウ酸アルカリを加え、加熱して有機溶剤成分を揮発除去させ、熱線遮蔽用インク中の無機成分を全量残留させる。次に、ガラス容器内に残った粉体試料を混合粉砕し、ホウ酸アルカリと熱線遮蔽用インクの無機成分とを均一に分散させた後、加圧成型して得た成型体試料を蛍光X線分析装置で測定する。
【0019】
上記成型体試料を得るため、本発明では粉体試薬としてホウ酸アルカリを使用する。蛍光X線分析においては、粉体試薬由来の元素が測定元素に対して波長の重なり等の妨害を与えないことが重要であるが、この点でホウ酸アルカリは好ましい粉体試薬である。また、好ましいホウ酸アルカリとしては四ホウ酸リチウムや四ホウ酸ナトリウムが挙げられるが、特に前者は原子量が8以下の軽元素のみで構成されているため、X線による測定において波長の重なり等の妨害が少なく、蛍光X線による測定においてより望ましい。
【0020】
本発明では、まず、所定量のホウ酸アルカリの粉末を秤量してガラス容器に入れ、これに所定量の熱線遮蔽用インクを加える。その際、ホウ酸アルカリの粉末全量が浸漬するように、液体の熱線遮蔽用インクを加えることが好ましい。そのためには、ホウ酸アルカリと熱線遮蔽用インクの重量比が、ホウ酸アルカリが1に対して熱線遮蔽用インクが0.8〜1.2の範囲とすることが好ましい。
【0021】
熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比が0.8より小さいと、ホウ酸アルカリの粉末全体に熱線遮蔽用インクが行き渡り難く、ホウ酸アルカリ粉末の一部に無機成分が付着していない部分が残りやすい。また、熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比が1.2を超えると、熱線遮蔽用インク中の有機溶剤が揮発する際に、ホウ酸アルカリ粉末の上部に無機成分が多く残留しやすくなる。従って、いずれの場合も、最終的な成型体試料中の無機成分にばらつきが生じる可能性があるため好ましくない。
【0022】
次に、ガラス容器内の熱線遮蔽用インクとホウ酸アルカリを、突沸しないように加熱して熱線遮蔽用インク中の有機溶剤を揮発させ、熱線遮蔽用インク中の無機成分の全量が残留したホウ酸アルカリの粉体試料を得る。加熱にはホットプレート等の加熱装置を使用するが、最初から有機溶剤の沸点以上の温度で加熱すると、有機溶剤が完全に揮発する前に突沸しやすい。突沸が起こるとガラス容器から試料が飛散し、分析対象の無機成分が減失するため、誤差が増大する可能性がある。
【0023】
そのため、突沸しないように緩やかに加熱するか、又は温度を段階的に上げて加熱することが望ましい。例えば、最初は熱線遮蔽用インク中の有機溶剤の沸点よりも20〜50℃低い温度で加熱を開始し、徐々に若しくは段階的に温度を上げて有機溶媒を揮発させていき、最終的に有機溶剤の沸点よりも20〜50℃高い温度で保持して有機溶剤を完全に揮発させる。このようにして、分析対象の無機成分がホウ酸アルカリに全量残留した状態の粉体試料を得る。
【0024】
尚、上記加熱の際の最終的に有機溶剤成分を完全に揮発させる温度について、有機溶剤の沸点よりも50℃を超えて高い温度で加熱しても、有機溶剤の揮発時間は大幅に短縮されず、加熱装置の電力消費量が多くなり不経済である。従って、有機溶剤成分の沸点の温度よりも20℃から50℃だけ高い温度範囲内の温度となるように、好ましくは30℃から40℃だけ高い温度範囲内の温度となるように、加熱装置の温度を調整する。
【0025】
その後、ガラス容器内に残った粉体試料を取り出し、均一に混合粉砕する。即ち、この粉体試料は熱線遮蔽用インク中の有機溶剤が揮発除去されて残った無機成分と粉末状のホウ酸アルカリとからなるので、混合粉砕によりホウ酸アルカリと無機成分とを均一に混合させる。粉体試料の混合・粉砕には公知の粉砕方法を適用でき、例えば遊星ボールミルや振動ミル等の一般的な粉砕装置を使用して、短時間で均一に混合・粉砕を行うことができる。
【0026】
得られた混合・粉砕後の粉体試料は、加圧成型してディスク状の成型体試料を作製する。加圧成型方法や加圧容器については特に限定されず、一般的な試料成型機を使用し、例えば材質が鉄又はアルミニウムのカップ、あるいは塩化ビニル若しくはアルミニウムのリングを型容器として、プレス成型により作製することができる。
【0027】
加圧成型時の圧力は、100〜300kNの範囲であることが望ましい。成型圧力が100kN未満の場合は、圧力が不充分なため粉体試料を十分に押し固めることができず、蛍光X線分析装置で正確な測定が行えない可能性がある。反対に成型圧力が300kNを超える場合には、圧力が大きすぎるため成型体試料にひび割れや剥離が発生しやすくなり、やはり蛍光X線分析装置で正確な測定が行えなくなる。
【0028】
最後に、上記成型体試料中の無機成分を蛍光X線分析装置で測定することによって、熱線遮蔽用インク中に含有される無機成分を定量分析する。作製した成型体試料中には、蛍光X線分析装置で測定する際に、測定対象の元素の波長に重なる波長の妨害元素が含まれないため、精度の良い測定を行うことができる。
【0029】
尚、上記蛍光X線分析装置での測定において、測定波長、測定時間、X線照射径等の測定条件は特に限定されない。また、使用する蛍光X線分析装置は、波長分散型若しくはエネルギー分散型のいずれであってもよい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
熱線遮蔽効果を有する成分の六ホウ化ランタン(LaB)と、有機溶剤のトルエン(沸点111℃)とを含み、六ホウ化ランタンの含有量が異なる試料1及び試料2の2種類の熱線遮蔽用インクAを用意した。これら2種類の熱線遮蔽用インクAについて、以下のごとく無機成分の定量を実施した。
【0031】
即ち、まず四ホウ酸リチウム粉末5.0gを正確に量り取り、200mlのガラスビーカー2個にそれぞれ入れた。次に、上記試料1及び試料2の2種類の熱線遮蔽用インクAをそれぞれ5.0g正確に量り取り、上記各ガラスビーカーに注ぎいれ、熱線遮蔽用インクA中に四ホウ酸リチウム粉末の全量を浸漬させた。このときの熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比は1.0である。
【0032】
これらのガラスビーカーを、80℃に加温したホットプレート上に乗せて加熱し、5分後に110℃に昇温して加熱し、更に5分後に140℃に昇温して、その温度で30分間保持した。この段階的な加熱により、それぞれ有機溶剤を完全に揮発させた残留物として、試料1及び試料2の2種類の熱線遮蔽用インクAごとに粉体試料を得た。
【0033】
各ガラスビーカー内に残った粉体試料(残留物)を、それぞれ容量250mlのメノウ製粉砕容器に移し入れ、直径10mmのメノウ製粉砕ボールを50個入れ、遊星ボールミルで混合・粉砕した。尚、使用した遊星ボールミルはフリッチュ社製のP5であり、混合・粉砕時の遊星ボールミルの回転数は350rpm、時間は5分間とした。
【0034】
混合・粉砕した試料1及び試料2の各粉体試料を、内径約21mm、深さ約6mmのアルミニウム製キャップ内に圧密充填し、電動式試料成型機を用いて成型圧力200kNで加圧成型することにより、それぞれディスク状の成型体試料を作製した。尚、使用した電動式試料成型機は、前川試験機製作所製のC/N 9302/30である。
【0035】
得られた試料1及び試料2の2種類の成型体試料について、熱線遮蔽効果を有する無機元素であるランタン(La)の濃度と、製造時に使用した酸化ジルコニウム製の粉砕装置から混入した不純物の無機元素であるジルコニウム(Zr)の濃度とを、蛍光X線分析装置で測定した。尚、測定に使用した蛍光X線分析装置は、スペクトリス社製のAxiosである。
【0036】
ランタン及びジルコニウムの定量結果を、六ホウ化ランタンの含有量が異なる2種類の熱線遮蔽用インクAごとに試料1及び試料2として下記表1に示した。また、分析精度を比較するため、従来の湿式分析法及びガラスビード法による定量結果も併せて示した。この結果から、本発明の分析方法によって、従来法と同等の精度でありながら、より簡単且つ安全に無機成分の測定が可能であることが分かった。
【0037】
【表1】

【0038】
尚、上記実施例において、加熱による有機溶剤(トルエン、沸点111℃)の揮発操作の際に、段階的な加熱を行わずに、初めから140℃に一気に加温したところ、有機溶剤の揮発が完了するまでに試料が突沸してビーカー外に飛散し、蛍光X線分析装置による正確な分析が困難となった。
【0039】
また、上記実施例において、混合・粉砕した粉体試料を加圧成型する際に、成型圧力を50kNとしたところ、得られた成型体試料は充分に加圧成型されていなかった。更に、成型圧力を400kNとしたところ、得られた成型体試料にひび割れが発生していた。
【0040】
[実施例2]
上記四ホウ酸リチウム5.0gに対して、上記熱線遮蔽用インクAの正確な量り取り量を6.0g(熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比=1.2)、及び4.0g(熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比=0.8)とした以外は、それぞれ上記実施例1と同様に操作して、2種類の熱線遮蔽用インクA中の無機成分を定量した。
【0041】
得られた結果を、六ホウ化ランタンの含有量が異なる2種類の熱線遮蔽用インクAごとに試料1及び試料2として下記表2に示した。この結果から、ホウ酸アルカリと熱線遮蔽用インク試料の重量比が0.8から1.2の範囲内であれば、四ホウ酸リチウム粉末の全量が熱線遮蔽用インク中に浸漬し、高い精度で無機成分の測定が可能であることが分かった。
【0042】
【表2】

【0043】
一方、四ホウ酸リチウム5.0gに対して、熱線遮蔽用インク試料Aの量り取り量を2.5g(熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比=0.5)とした場合は、熱線遮蔽用インク中に四ホウ酸リチウム粉末の全量が浸漬せず、ホウ酸アルカリ粉末の上部に熱線遮蔽用インクの無機成分が付着していない部分が残った。
【0044】
また、四ホウ酸リチウム5.0gに対して、熱線遮蔽用インク試料Aの量り取り量を10.0g(熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比=2.0)とした場合には、熱線遮蔽用インクが四ホウ酸リチウム粉末を完全に浸漬して更に上方にまで達したため、加熱して有機溶剤を揮発する際にホウ酸アルカリ粉末の上部に無機成分が多く残留しやすくなった。
【0045】
その結果、上記熱線遮蔽用インク/ホウ酸アルカリの重量比が0.5及び2.0のいずれの場合にも、最終的に作製した成型体試料中の無機成分の分布に比較的大きなばらつきが生じやすく、本発明の分析方法による高い精度での無機成分の測定は難しかった。
【0046】
[実施例3]
上記ホウ酸アルカリとして上記四ホウ酸リチウムの代わりに四ホウ酸ナトリウムを用いた以外は上記実施例1と同様に操作して、2種類の熱線遮蔽用インクA中の無機成分を定量した。
【0047】
得られた結果を、六ホウ化ランタンの含有量が異なる2種類の熱線遮蔽用インクAごとに試料1及び試料2として下記表3に示した。この結果から分るように、原子量が8よりも大きな元素であるナトリウムで構成されているホウ酸アルカリを使用しても、上記実施例1と同等の定量値が得られた。
【0048】
【表3】

【0049】
[実施例4]
熱線遮蔽効果を有する成分のタングステン酸セシウム(Cs0.33WO)と、有機溶剤の4−メチル−2−ペンタノン(沸点117℃)とを含み、タングステン酸セシウムの含有量が異なる試料3及び試料4の2種類の熱線遮蔽用インクBを用意した。
【0050】
これら2種類の熱線遮蔽用インクBについて、上記実施例1と同様に操作して無機成分の定量を実施した。得られた結果を、タングステン酸セシウムの含有量が異なる2種類の熱線遮蔽用インクBごとに試料3及び試料4として下記表4に示した。
【0051】
また、分析精度の比較のため、従来の湿式分析法及びガラスビード法による定量結果も併せて示した。この表4の結果から、タングステン酸セシウムを含有する熱線遮蔽用インクであっても、本発明の分析方法によって、従来法と同等の精度で、より簡単且つ安全に無機成分の測定が可能であることが分った。
【0052】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽用インクに含有される無機成分の定量方法であって、所定量のホウ酸アルカリを入れたガラス容器に所定量の熱線遮蔽用インクを加え、突沸しないように加熱して前記熱線遮蔽用インク中の有機溶剤を揮発させ、無機成分が残留したホウ酸アルカリの粉体試料を得た後、該粉体試料を均一に混合・粉砕し、加圧成型して成型体試料を作製し、得られた成型体試料中の無機成分を蛍光X線分析装置により測定することを特徴とする熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法。
【請求項2】
前記ホウ酸アルカリと熱線遮蔽用インクの重量比が、ホウ酸アルカリが1に対して熱線遮蔽用インクが0.8〜1.2の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法。
【請求項3】
前記有機溶剤を揮発させる際に、最初に熱線遮蔽用インク中の有機溶剤の沸点よりも20〜50℃低い温度で加熱し、徐々に又は段階的に温度を上げていき、最終的に有機溶剤の沸点よりも20〜50℃高い温度で保持することを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法。
【請求項4】
前記加圧成型時の成型圧力が100〜300kNの範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の熱線遮蔽用インク中の無機成分の定量方法。

【公開番号】特開2010−210540(P2010−210540A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58884(P2009−58884)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】