説明

熱線遮蔽膜とその製造方法、および熱線遮蔽合わせ透明基材

【課題】優れた貫通耐性を有し、高い可視光透過率と高い熱線遮蔽機能と低いヘイズ値であり、耐候性にも優れた熱線遮蔽用合わせ透明基材と、当該熱線遮蔽用合わせ透明基材に用いる熱線遮蔽およびその製造方法を提供する。
【解決手段】熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜であって、前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である熱線遮蔽膜およびその製造方法、当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽用合わせ透明基材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好でかつ優れた熱線遮蔽機能を有する熱線遮蔽膜とその製造方法、および当該熱線遮蔽膜が適用された熱線遮蔽合わせ透明基材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用などに用いられる安全ガラスとして、対向する複数枚(例えば2枚)の板ガラス間にポリビニルアセタール樹脂等を含む中間層を挟み込んで合わせガラスを構成したものが用いられている。さらに、当該合わせガラスの中間層に熱線遮蔽機能を持たせることにより、入射する太陽エネルギーを遮断して、冷房負荷や人の熱暑感の軽減を目的としたものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2枚の対向する板ガラス間に0.1μm以下の微細な粒径の酸化錫あるいは酸化インジウムから成る熱線遮蔽性金属酸化物を含有した軟質樹脂層を中間層として挟んだ合わせガラスが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、少なくとも2枚の対向する板ガラスの間にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moという金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物を分散させた中間層を挟んだ合わせガラスが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、TiO、ZrO、SnO、Inから成る微粒子と、有機ケイ素または有機ケイ素化合物から成るガラス成分とを、対向する透明板状部材の間に中間層として挟んだ自動車用窓ガラスが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、少なくとも2枚の対向する透明ガラス板状体の間に3層から成る中間層を設け、当該中間層の第2層にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物を分散させ、第1層および第3層の中間層を樹脂層とした合わせガラスが開示されている。
【0007】
しかし、本発明者らの検討よると、これら特許文献1〜4に開示されている従来の技術に係る合わせガラスは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でない。即ち、高い可視光透過率と、高い熱線遮蔽機能との両立が困難であるという問題点が存在していた。
【0008】
一方、出願人は、六ホウ化物微粒子単独、または、六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子を含有するビニル系樹脂を熱線遮蔽膜とし、当該熱線遮蔽膜を中間膜として2枚の板ガラス間に存在させた熱線遮蔽用合わせガラス、または、前記中間層が、少なくとも一方の板ガラスの内側に面する面上に形成された上記微粒子が含まれる熱線遮蔽膜と、上記2枚の板ガラス間に介在されるビニル系樹脂を含有する熱線遮蔽膜とで構成された熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献5として開示している。
【0009】
特許文献5に記載したように、六ホウ化物微粒子単独、または、六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が適用された熱線遮蔽用合わせガラスの光学特性は、可視光領域に透過率の極大を持つと共に、近赤外領域に強い吸収を発現して透過率の極小を持つ。この結果、当該熱線遮蔽用合わせガラスは、特許文献1〜4に記載された従来の合わせガラスに比べて、可視光透過率70%以上のときの日射遮蔽率が50%台となる迄、改善された。
【0010】
一方、近赤外線領域の遮蔽機能を有する微粒子として、上述したITO微粒子、ATO微粒子、六ホウ化物微粒子の他に、複合タングステン酸化物微粒子が知られている。出願人は、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、当該紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を中間層とした熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献6に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−217500号公報
【特許文献2】特開平8−259279号公報
【特許文献3】特開平4−160041号公報
【特許文献4】特開平10−297945号公報
【特許文献5】特開2001−89202号公報
【特許文献6】特開2010−202495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した熱線遮蔽用合わせガラスは、その特質から基本的には屋外で使用され、高い耐候性が要求される場合が多い。
しかしながら、本発明者らが更なる検討をおこなった結果、以下の課題が見出された。
第1の課題は、上述したように、特許文献1〜4に記載された従来の技術に係る合わせガラスでは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でないことである。さらに透明基材の曇り具合を示すヘイズ値は、車両用窓材で1%以下、建築用窓材で3%以下であることが求められるのに対し、当該要求を満足出来るものではなかった。
一方、特許文献5に記載された熱線遮蔽用合わせガラスにおいても、高い可視光透過率と高い熱線遮蔽機能との両立の点で、未だ改善の余地を有していた。
【0013】
第2の課題は、各種窓材に用いられる熱線遮蔽用合わせガラス等には、光学的特性に加えて機械的特性も求められることである。
具体的には、安全ガラス等の合わせガラス等には、貫通への耐性が求められることである。
上述したように、特許文献5に記載された熱線遮蔽用合わせガラスにおいても、高い可視光透過率と、高い熱線遮蔽機能との両立に課題が残ったことから、本発明者らは、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、当該紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を中間層とした熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献6に開示した。
ここで、従来、中間層用の樹脂としては、合わせガラスに貫通耐性を付与する為、ポリビニルアセタール樹脂が用いられてきた。ところが、ポリビニルアセタール樹脂へ複合タングステン酸化物微粒子を含有させた中間層は、太陽光を受けた際に発生する熱や空気中の水分、酸素の影響を受け、当該合わせガラスの周辺部分より色抜けが発生し、当該熱線遮蔽膜の光学特性が低下することが知見された。
そこで、本発明者らは次善の策として、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を発明し、特許文献6として開示した。
しかし、市場では安全ガラス等の機械的強度充足の観点から、中間層用の樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を要望する声が高い。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、予め、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を、ポリビニルアセタール樹脂へ添加される可塑剤の一部と混合して混合物を得、さらに、当該混合物へ分散剤、色抜け防止剤を混合して分散させ、熱線遮蔽微粒子含可塑剤分散液とした後に、当該熱線遮蔽微粒子含可塑剤分散液と、前記可塑剤の残部とをポリビニルアセタール樹脂へ添加する方法に想到した。
尚、色抜け防止剤とは、上述したポリビニルアセタール樹脂へ複合タングステン酸化物微粒子を含有させた中間層が、太陽光を受けた際に発生する熱等の影響で、合わせガラスの周辺部分より色抜けが発生し光学特性が低下することを抑止する効果を発揮する物質である。
【0015】
そして、当該熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液をポリビニルアセタール樹脂と混練し、押出成形法、カレンダー成形法等公知の方法により、フィルム状に成形することによって、貫通への耐性を発揮し、可視光領域に透過率の極大を持つと共に、近赤外域に強い吸収をもつ熱線遮蔽膜の作製が可能となることに想到した。さらに、当該熱線遮蔽膜は、外界にて使用されても色抜けがおこらず、優れた耐候性を有することにも想到した。
本発明は、当該技術的発見に基づき完成されたものである。
【0016】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜であって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする熱線遮蔽膜である。
【0017】
第2の発明は、
前記色抜け防止剤が、以下の構造式(1)で示される亜リン酸エステル化合物であることを特徴とする第1の発明に記載の熱線遮蔽膜である。

但し、構造式(1)において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基のいずれかであり、
は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基のいずれかであり、
Xは、単結合、硫黄原子または以下の構造式(1−1)で示される2価の残基のいずれかであり、
Aは、炭素数2〜8のアルキレン基または構造式(1−2)で示される2価の残基のいずれかであり、
Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基のいずれかであり、他の一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基のいずれかである。

但し、構造式(1−1)において、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基のいずれかである。

但し、構造式(1−2)において、Rは、単結合または炭素数1〜8のアルキレン基のいずれかであり、*は当該端末が、構造式(1)で示される亜リン酸エステル化合物の酸素原子側に結合していることを示す。
【0018】
第3の発明は、
前記色抜け防止剤が、第2の発明に記載の亜リン酸エステル化合物と、
ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド系安定剤及びリン酸系安定剤から選ばれる1種類以上の安定剤との、混合物であることを特徴とする第2の発明に記載の熱線遮蔽膜である。
【0019】
第4の発明は、
前記色抜け防止剤の添加量が、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、3重量部〜500重量部であることを特徴とする第1〜第3の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽膜である。
【0020】
第5の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、平均粒径40nm以下の微粒子であることを特徴とする第1〜第4の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽膜である。
【0021】
第6の発明は、
第1〜第5の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽膜が、複数枚の透明基材間に存在していることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材である。
【0022】
第7の発明は、
前記透明基材の内、少なくとも1枚が無機ガラスであることを特徴とする第6の発明に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材である。
【0023】
第8の発明は、
熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜の製造方法であって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子である一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を、前記可塑剤へ分散させ、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液を製造する第1の工程と、
前記ポリビニルアセタール樹脂へ、第1の工程で製造された熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液を添加して混練した後、成形し、熱線遮蔽膜を製造する第2の工程とを有し、
前記第1工程の分散工程または第2工程の混練工程の少なくともいずれかにおいて、第2の発明に記載の亜リン酸エステル化合物、または、第3の発明に記載の亜リン酸エステル化合物と、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド系安定剤及びリン酸系安定剤から選ばれる1種類以上の安定剤との混合物を添加することを特徴とする熱線遮蔽膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた機械的特性と光学的特性、および高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽膜を得ることが出来た。そして当該熱線遮蔽膜を中間層とし、当該中間層を複数枚の透明基材で挟み込むことによって、優れた機械的特性と光学的特性、および高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽合わせ透明基材を得ることが出来た。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液とその製造方法、熱線遮蔽膜とその製造方法、当該熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材の順に詳細に説明する。
【0026】
[1]熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液とその製造方法
本発明に係る熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液は、熱線遮蔽機能を有する微粒子、分散剤、色抜け防止剤、可塑剤を含有している。そこで、まず、熱線遮蔽機能を有する微粒子、分散剤、色抜け防止剤、可塑剤について説明し、次に、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液の製造方法について説明する。
【0027】
(1)熱線遮蔽機能を有する微粒子
本発明に係る熱線遮蔽機能を有する微粒子は、複合タングステン酸化物微粒子である。当該複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm以上の光を大きく吸収するため、その透過色調はブルー系の色調となるものが多い。
複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MyWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を有しているものであることが好ましい。
【0028】
当該複合タングステン酸化物微粒子の粒子径は、熱線遮蔽膜の使用目的によって適宜選定することができる。例えば、熱線遮蔽膜を透明性が求められる用途に使用する場合は、当該複合タングステン酸化物微粒子が40nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。当該複合タングステン酸化物微粒子が40nmよりも小さい分散粒子径を有していれば、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することが出来るからである。
【0029】
本発明に係る熱線遮蔽膜や熱線遮蔽合わせ透明基材を、例えば自動車のフロントガラスのように、特に可視光領域の透明性を重視する用途に適用する場合は、さらに複合タングステン酸化物微粒子による散乱低減を考慮することが好ましい。当該散乱低減を重視するときには、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は30nm以下、好ましくは25nm以下とするのが良い。
【0030】
この理由は、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱またはミー散乱による、波長400nm〜780nmの可視光線領域における光の散乱が低減されるからである。当該光の散乱が低減することで、強い光が照射されたときに熱線遮蔽膜が曇りガラスのように外観になり、鮮明な透明性が失われる事態を回避できるからである。
これは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が40nm以下になると、上記幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる為である。レイリー散乱領域では、散乱光が粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が25nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。
【0031】
以上、説明したように、光の散乱を回避する観点からは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は小さい方が好ましい。一方、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造は容易である。
また、熱線遮蔽膜に含まれる複合タングステン微粒子の量は、単位面積あたり0.2g/m〜2.5g/mが望ましい。
上述した複合タングステン酸化物微粒子の成分と製造方法とについて、以下、さらに説明する。
【0032】
(a)複合タングステン酸化物微粒子
好ましい複合タングステン酸化物微粒子の例としては、Cs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることが出来る。尤も、y、zの値が上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。添加元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。また、Zの範囲については、2.2≦z≦3.0が好ましい。これは、MyWOで表記される複合タングステン酸化物材料においても、上述したWOで表記されるタングステン酸化物材料と同様の機構が働くのに加え、z≦3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給があるためである。尤も、光学特性の観点から、より好ましくは2.45≦z≦3.00である。
【0033】
(b)複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
一般式MWO表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
タングステン化合物出発原料は、三酸化タングステン粉末、ニ酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であって、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形態で含有するタングステン化合物を出発原料とすることが好ましい。
【0034】
ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには、各原料を溶液の形で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0035】
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。
まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な近赤外線吸収力を有し熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることがよい。
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を、まず還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中にて650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。Hが体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
水素で還元された出発原料粉末は、マグネリ相を含み、良好な熱線遮蔽特性を示す。従って、この状態でも熱線遮蔽微粒子として使用可能である。
【0036】
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子が表面処理され、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する化合物、好ましくは酸化物で被覆されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。当該表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する有機化合物を用いて、公知の表面処理を行えばよい。例えば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを混合し、加水分解処理を行えばよい。
【0037】
また、後述する熱線遮蔽膜の光学的特性を向上させる観点から、複合タングステン酸化物微粒子の粉体色が、国際照明委員会(CIE)が推奨しているL表色系(JISZ8729−2004)における粉体色において、Lが25〜80、aが−10〜10、bが−15〜15である条件を満たすことが望ましい。当該粉体色を有する複合タングステン酸化物微粒子を用いることで、優れた光学特性を有する熱線遮蔽膜を得ることが出来る。
【0038】
(2)可塑剤
本発明に係る熱線遮蔽膜に用いられるポリビニルアセタール樹脂の可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0039】
多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。
また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、上述した一塩基性有機酸とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−オクタネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルは、ポリビニルアセタールとの相溶性や耐寒性など様々な性質をバランスよく備えており、加工性、経済性にも優れている。
可塑剤の選択にあたっては、加水分解し難い可塑剤であることが望ましい。当該観点からは、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネートが好ましい。
【0040】
(3)色抜け防止剤
本発明者らは、熱線遮蔽機能を有する微粒子(複合タングステン酸化物微粒子)がポリビニルアセタール樹脂に分散された熱線遮蔽膜を挟み込んだ合わせガラスを、外界にて長期間使用した際、太陽光を受けた際に発生する熱や、空気中の水分や酸素の影響により、当該合わせガラスの周辺部分より色抜けすることを知見した。そして、当該合わせガラス周辺部分の色抜けが、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の劣化発生に起因することに想到した。
【0041】
ここで発明者らは、本発明に係る熱線遮蔽膜が、外界にて長期間使用された際、太陽光を受けた際に発生する熱等の影響で、合わせガラスの周辺部分より色抜けが発生することを防止し、当該熱線遮蔽膜の耐候性を向上させる目的で添加する色抜け防止剤に想到した。
当該色抜け防止剤の具体例としては、亜リン酸エステル化合物を挙げることが出来る。また、適宜、当該亜リン酸エステル化合物と、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド化合物系安定剤、リン酸系安定剤から選ばれる1種類以上とを併用しても良い。
【0042】
これは、高分子バインダーにポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド化合物系安定剤、リン酸系安定剤のみでは、本発明に係る熱線遮蔽膜が熱や空気中の水分や酸素の影響で、合わせガラスの周辺部分より色抜けを防止する十分な効果を期待でない場合がある為である。そこで本発明においては、亜リン酸エステル化合物の使用、または、当該亜リン酸エステル化合物と、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド化合物系安定剤、リン酸系安定剤から選ばれる1種類以上との併用使用により、合わせガラスの色抜け防止を実現したものである。
亜リン酸エステル化合物と、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド化合物系安定剤、リン酸系安定剤から選ばれる1種類以上との併用使用は、亜リン酸エステル化合物の効果を持続させる効果があり好ましい構成である。
【0043】
以下、色抜け防止剤の具体例である亜リン酸エステル化合物、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド化合物系安定剤、およびリン酸系安定剤について説明する。
(a)亜リン酸エステル化合物
本発明に用いる亜リン酸エステル化合物は、構造式(1)で示される化合物である。
当該構造式(1)で示される化合物において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜12の脂環族基、炭素数7〜12のアラルキル基または芳香族基を示す。
【0044】
炭素数1〜8のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、i−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
炭素数5〜12の脂環族基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1−メチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチル−4−i−プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0045】
炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えばベンジル基、α−メチルベンジル基、α、α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。
炭素数7〜12のフェニル基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基等が挙げられる。
【0046】
、R、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜12の脂環族基等であることが好ましい。
、Rは、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−オクチル基などのt−アルキル基、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基等であることがさらに好ましい。
【0047】
は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等がさらに好ましい。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。
【0048】
は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。そして、当該炭素数1〜8のアルキル基としては、R、R、R、Rにおいて説明したのと同様の、炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。Rは、水素原子またはRにおいて説明したのと同様の炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基等がさらに好ましい。
【0049】
Xは、単結合、硫黄原子または後述する構造式(1−1)で示される2価の残基を示す。なかでも、単結合、構造式(1−1)で示される2価の残基であることが好ましく、単結合がさらに好ましい。
【0050】
Aは、炭素数2〜8のアルキレン基または後述する構造式(1−2)で示される2価の残基を示すが、炭素数2〜8のアルキレン基であることが好ましい。係るアルキレン基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基等が挙げられ、プロピレン基がさらに好ましい。
【0051】
Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を示し、他の一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。ここで、炭素数1〜8のアルキル基としては、R、R、RおよびRとして説明したのと同様のアルキル基が挙げられる。炭素数1〜8のアルコキシル基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、t−ペントキシ基、i−オクトキシ基、t−オクトキシ基、2−エチルヘキトキシ基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキルオキシ基としては、例えばベンジルオキシ基、α−メチルベンジルオキシ基、α、α−ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0052】
構造式(1−1)で示される2価の残基において、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜12の脂環族基を示す。ここで炭素数1〜8のアルキル基および炭素数5〜12の脂環族基としては、R、R、RおよびRにおいて説明したのと同様のアルキル基及び脂環族基がそれぞれ例示される。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が好ましく例示される。
【0053】
構造式(1−2)で示される2価の残基は、酸素原子とベンゼン核とに結合している。そして、*は、当該端末が、構造式(1)で示される亜リン酸エステル化合物の酸素原子と結合していることを示している。
一方、Rは、単結合または炭素数1〜8のアルキレン基を示す。ここで炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基等が挙げられるが、単結合、エチレン基等がさらに好ましい。
【0054】
以上、説明した構造式(1)で示される亜リン酸エステル類において、RおよびRが、t−アルキル基、シクロヘキシルまたは1−メチルシクロヘキシル基であり、Rが、炭素数1〜5のアルキル基であり、Rが水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、Rが、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、Xが、単結合であり、Aが、炭素数2〜8のアルキレン基であるものが特に好ましい。
【0055】
係る、特に好ましい亜リン酸エステル類の具体例としては、例えば、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン〔「スミライザーGP」(住友化学株式会社製)として市販されている。〕、2,10−ジメチル−4,8−ジ−t−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、2,4,8,10−テトラ−t−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10−ジメチル−4,8−ジ−t−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、2,10−ジメチル−4,8−ジ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10−ジメチル−4,8−ジ−t−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,10−ジエチル−4,8−ジ−t−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
係る亜リン酸エステル類は、市販品を使用することも出来、例えば上述した、商品名スミライザーGP(住友化学株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
(b)ヒンダードフェノール系安定剤
ヒンダードフェノール系安定剤としては、フェノール性OH基の一位に第三ブチル基等の大きな基が導入された化合物がある。ヒンダードフェノール系安定剤は、主として連鎖禁止機能(すなわち、フェノール性OH基がラジカルを捕捉して、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられる。
【0057】
低分子型のヒンダードフェノール系安定剤の好適な具体例として、2,6−第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第3ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’ −ブチリデンビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0058】
また、高分子型のヒンダードフェノール系安定剤の好適な例としては、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
【0059】
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、後述するリン酸系安定剤と同様である。
但し、上述した各種の着色防止剤の有害ラジカル補足過程は、未解明な点も多く、上述以外の作用が働いている可能性もあり、上述した作用に限定されるわけではない。
【0060】
(c)スルフィド化合物系安定剤
スルフィド化合物は、分子内に2価の硫黄が2個の有機基で置換された化合物であり、チオエーテルとも言われている。そのうちスルフィド化合物系安定剤は、主として過酸化物分解機能(すなわち、S原子が自ら酸化することによって過酸化物を安定な化合物に分解する機能)を有していると考えられる。
低分子型のスルフィド化合物系安定剤の好適な具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1225)、ジステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)、ラウリルステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)(CHCHCOOC1225))、ジミリスチルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1429)、ジステアリルβ、β’−チオジブチレート(S(CH(CH)CHCOOC1839)、2−メルカプトベンゾイミダゾール(CNHNCSH)、ジラウリルサルファイド(S(C1225)等が挙げられる。
【0061】
(d)リン酸系安定剤
リン酸系安定剤は3価のリン原子を含むものであることが望ましく、その構造を構造式(2)に示す。
構造式(2)において、x、y、zは、それぞれ0または1の値をとる。また、R、RおよびRは、一般式CmHnで表される直鎖、環状、もしくは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、または、水素原子である。さらに、yまたはzが1の場合には、RまたはRは、金属原子でもよい。

【0062】
尚、本発明においてリン酸系安定剤とは、構造式(1)以外の構造をとる亜リン酸エステルである。
さらに、本発明においてリン酸系安定剤とは、構造式(2)において、Rを除いた部分(すなわち、一般式:−Ox−P(OyR)(OzR)が挙げられる。
(4)分散剤
分散剤は、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液へ均一に分散させる為に用いられる。
本発明に係る分散剤は、示差熱熱重量同時測定装置(以下、TG−DTAと記載する場合がある。)で測定される熱分解温度が200℃以上あって、ウレタン、アクリル、スチレン主鎖を有する分散剤であることが好ましい。ここで、熱分解温度とはTG−DTA測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。
熱分解温度が200℃以上であれば、ポリビニルアセタール樹脂との混練時に当該分散剤が分解することがないからである。これによって、分散剤の分解に起因した熱線遮蔽合わせガラス用熱線遮蔽膜の褐色着色、可視光透過率の低下、本来の光学特性が得られない事態を回避出来る。
【0063】
また、当該分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有する分散剤であることが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物微粒子の凝集を防ぎ、熱線遮蔽膜中でも当該微粒子を均一に分散させる効果を持つ。
具体的には、カルボキシル基を官能基として有するアクリル−スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000〜200000、アミン価5〜100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000〜200000、酸価1〜50mgKOH/gのものが好ましい。
【0064】
当該分散剤の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対し10重量部〜1000重量部の範囲であることが望ましく、より好ましくは30重量部〜400重量部の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子が、ポリビニルアセタール樹脂中で均一に分散すると伴に、得られる熱線遮蔽膜の物性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0065】
(5)熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液の製造方法(第1の工程)
本発明に係る熱線遮蔽膜を製造する際、最終的に、ポリビニルアセタール樹脂へ添加される可塑剤の全量または一部分へ、複合タングステン酸化物微粒子を分散させ熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液を製造する。そして、当該熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液とポリビニルアセタール樹脂とを混合することで、本発明に係る熱線遮蔽膜中において、複合タングステン酸化物微粒子を略均一に分散させることが可能となる。熱線遮蔽膜中に複合タングステン酸化物微粒子を略均一に分散することで、熱線遮蔽膜のヘイズ等の光学特性を満足できることとなる。
【0066】
具体的には、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の濃度を50質量%以下とすることが望ましい。複合タングステン酸化物微粒子の濃度が50質量%以下であれば、微粒子の凝集が起こり難く、分散が容易で、粘性の急増も回避出来、取り扱いが容易だからである。一方、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液中の複合タングステン酸化物微粒子の濃度を5質量%以上とすれば、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液の製造効率と複合タングステン酸化物微粒子の分散の両立が可能である。
当該可塑剤と、複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤との混合物において 複合タングステン酸化物微粒子を均一に可塑剤へ分散させる方法は、一般的な方法から任意に選択出来る。具体例としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることが出来る。
【0067】
複合タングステン酸化物微粒子の可塑剤への分散の際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する低沸点有機溶剤を添加しても良い。具体的には、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられるが、沸点が120℃以下で熱線遮蔽機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。但し、当該有機溶剤を添加した場合は、分散完了後に乾燥工程を実施し、残留する低沸点有機溶剤を5質量%以下とすることが必要である。熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液に残留する低沸点有機溶媒が5質量%以下であれば、後述する熱線遮蔽膜おいて気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。なお、後述する熱線遮蔽膜に残留する低沸点有機溶媒は0.06質量%以下である。残留する低沸点有機溶媒は0.06質量%以下であれば、熱線遮蔽膜に気泡が発生しない。
【0068】
当該乾燥工程は、得られた混合物を減圧乾燥する方法が好ましい。具体的には、減圧乾燥法では、上記混合物を攪拌しながら減圧乾燥して、熱線遮蔽微粒子含有組成物と有機溶剤成分とを分離する。減圧乾燥に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機があげられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の圧力は適宜選択される。
【0069】
以上により得られた分散液へ、さらに前記可塑剤の残部を加え、色抜け防止剤を添加する。そして、一般的な攪拌混合装置を用いて混合することで、本発明に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液が得られる。
尤も、色抜け防止剤は、当該熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液の製造時点で添加しても良いが、後述するポリビニルアセタール樹脂と前記熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液とを混合して熱線遮蔽膜を製造する時点で添加しても良く、さらに両製造時点で添加しても良く、適宜選択可能である。
【0070】
[2]熱線遮蔽膜とその製造方法
本発明に係る熱線遮蔽膜は、熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜である。また、本発明に係る熱線遮蔽膜は、さらに接着力調整剤やその他の添加剤を含む場合もある。
以下、本発明に係る熱線遮蔽膜に含まれるポリビニルアセタール樹脂、接着力調整剤、その他の添加剤について説明する。
【0071】
(1)ポリビニルアセタール樹脂
本発明に係る熱線遮蔽膜に用いるポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。また、熱線遮蔽膜の物性を考慮した上で、アセタール化度が異なる複数種のポリビニルアセタール樹脂を併用してもよい。さらに、アセタール化時に複数種類のアルデヒドを組み合わせて反応させた共ポリビニルアセタール樹脂も、好ましく用いることが出来る。
ここで、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は60%、上限は75%である。
【0072】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られ、一般的には、ケン化度80〜99.8モル%のポリビニルアルコールが用いられる。
また、上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、上限は3000である。重合度が200以上であると、製造される熱線遮蔽合わせ透明基材の貫通への耐性が保持され、安全性が保たれる。一方、3000以下であれば、樹脂膜の成形性が保たれ、樹脂膜の剛性も好ましい範囲に保たれ、加工性が保たれる。
【0073】
上記アルデヒドは特に限定されず、一般的には、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アセトアルデヒド等、炭素数が1〜10のアルデヒドが用いられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドが好ましく、より好ましくは炭素数が4のブチルアルデヒドである。
【0074】
熱線遮蔽膜の物性を考慮し、上記熱線遮蔽膜用可塑剤分散液に用いた以外の可塑剤を、本発明に係る熱線遮蔽膜へさらに添加しても良い。例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性カルボン酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物や、リン酸系可塑剤を添加してもよい。
熱線遮蔽膜へのこれら可塑剤の全添加量は、熱線遮蔽膜の物性を考慮して添加量を定めればよい。望ましい全添加量は10質量%〜70質量%である。
【0075】
(2)接着力調整剤
本発明に係る熱線遮蔽膜へ、さらに接着力調整剤を含有させることも好ましい。
当該接着力調整剤は、特に限定されないが、アルカリ金属塩および/又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。当該金属塩を構成する酸は、特に限定されず、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。アルカリ金属塩および/又はアルカリ土類金属塩の中でも、炭素数2〜16のカルボン酸マグネシウム塩、炭素数2〜16のカルボン酸カリウム塩が好ましい。
当該炭素数2〜16の有機酸のカルボン酸マグネシウム塩、カリウム塩としては、特に限定されないが、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が好適に用いられる。
これらの接着力調整剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(3)その他の添加剤
本発明に係る熱線遮蔽膜へは、さらに所望により、一般的な添加剤を配合することも可能である。例えば、所望により任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料、顔料を添加しても良い。
また、紫外線吸収剤としてヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の有機紫外線、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤を添加しても良い。
さらに、添加剤としてカップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等を使用することが出来る。
【0077】
(4)熱線遮蔽膜の製造方法(第2の工程)
本発明に係る熱線遮蔽膜は、上述した熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液と、ポリビニルアセタール樹脂と、「残部の」可塑剤と、所望により接着力調整剤やその他の添加剤とを混合し、混練した後、押出成形法、カレンダー成形法等の公知の方法により、例えば、フィルム状に成形することによって得られる。
尚、上述したように、当該混合工程において前記色抜け防止剤を加えることも好ましい構成である。
【0078】
[3]熱線遮蔽合わせ透明基材
本発明に係る熱線遮蔽膜を用いた熱線遮蔽合わせ透明基材には、様々な形態がある。
例えば、透明基材として無機ガラスを用いた熱線遮蔽合わせ無機ガラスは、熱線遮蔽膜を挟み込んで存在させた対向する複数枚の無機ガラスを、公知の方法で張り合わせ一体化するよって得られる。得られた熱線遮蔽合わせ無機ガラスは、主に自動車のフロント無機ガラスや建物の窓として使用することが出来る。
【0079】
透明基材として、透明樹脂を用い上記無機ガラスと同様に、または、上記無機ガラスと併用し、対向する透明基材の間に熱線遮蔽膜を挟み込んで存在させることで、熱線遮蔽合わせ透明基材を得ることが出来る。用途は、熱線遮蔽合わせ無機ガラスと同様である。
用途によっては、熱線遮蔽膜単体として使用すること、無機ガラスや透明樹脂等の透明基材の片面または両面に熱線遮蔽膜を存在させて使用することも、勿論可能である。
【0080】
[4]まとめ
以上、詳細に説明したように、複合タングステン酸化物微粒子と、分散剤とを可塑剤に分散させて熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液とした後、当該分散液に色抜け防止剤を添加し混合することで、熱線遮蔽膜用可塑剤分散液を得ることが出来た。
そして、当該熱線遮蔽膜用可塑剤分散液と、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤とを混練し、さらに、公知の方法により、フィルム状に成形することによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収を有する、熱線遮蔽膜の作製が可能となった。そして、当該熱線遮膜を、対向する複数枚の透明基材の間に挟み込むように存在させることによって、可視光領域に透過率の極大を持つと共に近赤外域に強い吸収をもち、耐候性に優れた熱線遮蔽合わせ透明基材の作製が可能となった。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、各実施例における複合タングステン酸化物微粒子の粉体色(10°視野、光源D65)、および、熱線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。尚、当該日射透過率は、熱線遮蔽合わせ透明基材の熱線遮蔽性能を示す指標である。
また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
【0082】
[実施例1]
WO50gとCs(OH)18.7g(Cs/W(モル比)=0.33相当)とをメノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給下で加熱し600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下において800℃で30分間焼成して微粒子(以下、微粒子aと略称する。)を得た。
微粒子aの組成式は、Cs0.33WOであり、粉体色はLが35.2845、aが1.4873、bが−5.2114であった。
【0083】
微粒子a20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤(以下、分散剤aと略称する。))10質量%、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノネート(以下可塑剤aと略称する。)70質量%を秤量した。これらを0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、さらに、スミライザーGP(構造式(3))を、微粒子a100重量部に対して30重量部添加し、撹拌混合することで熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Aと略称する。)を調製した。
ここで、分散液A内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を、日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ20nmであった。

【0084】
可塑剤a30質量%、ポリビニルブチラール樹脂70質量%を混合した組成物へ、所定量の分散液Aを添加し、当該組成物中における微粒子aの濃度を0.15質量%とした。この組成物を二軸押出機を用いて200℃で混練、Tダイより押出しカレンダーロール法により0.7mm厚のシートとして実施例1に係る熱線遮蔽膜(以下、熱線遮蔽膜Aと略称する。)を得た。
【0085】
得られた熱線遮蔽膜Aを2枚の対向する無機ガラスで挟み込み、公知の方法で張り合わせ一体化して、実施例1に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材と省略する。)を得た。
【0086】
合わせ透明基材Aの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.9%のときの日射透過率は39.2%で、ヘイズ値は0.5%であった。
続けて、合わせ透明基材Aを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.5%であった。この結果を表1に示した。
【0087】
[実施例2]
スミライザーGPを、微粒子a100重量部に対して3重量部添加する以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Bと略称する。)を調製した。
ここで、分散液B内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ24nmであった。
【0088】
分散液Aを分散液Bへ代替した以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Bと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Bの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.4%のときの日射透過率は38.5%で、ヘイズ値は0.6%であった。
続けて、合わせ透明基材Bを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.6%であった。この結果を表1に示した。
【0089】
[実施例3]
スミライザーGPを、微粒子a100重量部に対して500重量部添加する以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Cと略称する。)を調製した。
ここで、分散液C内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ23nmであった。
【0090】
分散液Aを分散液Cへ代替した以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Cと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Cの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率73.5%のときの日射透過率は40.0%で、ヘイズ値は0.4%であった。
続けて、合わせ透明基材Cを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.6%であった。この結果を表1に示した。
【0091】
[実施例4]
色抜け防止剤として、スミライザーGPとともにヒンダードフェノール系安定剤のイルガノックス1010構造式(4)を添加し、微粒子a100重量部に対するそれぞれの添加量を15重量部とする以外は、実施例1と同様にして実施例7に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Dと略称する。)を調製した。

ここで、分散液D内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ22nmであった。
【0092】
分散液Aを分散液Dへ代替した以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Dと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Dの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.3%のときの日射透過率は38.4%で、ヘイズ値は0.6%であった。
続けて、合わせ透明基材Dを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.8%であった。この結果を表1に示した。
【0093】
[実施例5]
色抜け防止剤として、スミライザーGPとともにスルフィド化合物系安定剤のスミライザーTPM構造式(5)を添加し、微粒子a100重量部に対するそれぞれの添加量を15重量部とする以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Eと略称する。)を調製した。

ここで、分散液E内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ20nmであった。
【0094】
分散液Aを分散液Eへ代替した以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Eと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Eの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.8%のときの日射透過率は39.0%で、ヘイズ値は0.4%であった。
続けて、合わせ透明基材Eを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.9%であった。この結果を表1に示した。
【0095】
[実施例6]
色抜け防止剤として、スミライザーGPとともにリン酸系安定剤のアデカスタブA2112構造式(6)を添加し、微粒子a100重量部に対するそれぞれの添加量を15重量部とする以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Fと略称する。)を調製した。

ここで、分散液F内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ22nmであった。
【0096】
分散液Aを分散液Fへ代替した以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Fと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Fの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率73.5%のときの日射透過率は40.0%で、ヘイズ値は0.6%であった。
続けて、合わせ透明基材Fを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+0.9%であった。この結果を表1に示した。
【0097】
[比較例1]
スミライザーGPを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Gと略称する。)を調製した。
ここで、分散液G内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ28nmであった。
【0098】
分散液Aを分散液Gへ代替した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Gと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Gの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.5%のときの日射透過率は38.6%で、ヘイズ値は0.5%であった。
続けて、合わせ透明基材Gを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+5.0%であった。この結果を表1に示した。
【0099】
[比較例2]
色抜け防止剤として、スミライザーGPをイルガノックス1010に代替した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Hと略称する。)を調製した。
ここで、分散液H内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ26nmであった。
【0100】
分散液Aを分散液Hへ代替した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Hと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Hの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.3%のときの日射透過率は38.4%で、ヘイズ値は0.5%であった。
続けて、合わせ透明基材Hを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+4.2%であった。この結果を表1に示した。
【0101】
[比較例3]
色抜け防止剤として、スミライザーGPをスミライザーTPMに代替した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る熱線遮蔽膜用可塑剤分散液(以下、分散液Iと略称する。)を調製した。
ここで、分散液I内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を日機装製マイクロトラック粒度分布計で測定したところ27nmであった。
【0102】
分散液Aを分散液Iへ代替した以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る熱線遮蔽合わせ無機ガラス(以下、合わせ透明基材Iと略称する。)を得た。
合わせ透明基材Mの光学特性は、表1に示すように、可視光透過率72.8%のときの日射透過率は39.0%で、ヘイズ値は0.5%であった。
続けて、合わせ透明基材Iを120℃空気浴中に30日間保持した後の可視光透過率変化を測定した。可視光透過率変化は+4.4%であった。この結果を表1に示した。
【0103】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜であって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする熱線遮蔽膜。
【請求項2】
前記色抜け防止剤が、以下の構造式(1)で示される亜リン酸エステル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽膜。

但し、構造式(1)において、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基のいずれかであり、
は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基のいずれかであり、
Xは、単結合、硫黄原子または以下の構造式(1−1)で示される2価の残基のいずれかであり、
Aは、炭素数2〜8のアルキレン基または構造式(1−2)で示される2価の残基のいずれかであり、
Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基のいずれかであり、他の一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基のいずれかである。

但し、構造式(1−1)において、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基のいずれかである。

但し、構造式(1−2)において、Rは、単結合または炭素数1〜8のアルキレン基のいずれかであり、*は当該端末が、構造式(1)で示される亜リン酸エステル化合物の酸素原子側に結合していることを示す。
【請求項3】
前記色抜け防止剤が、請求項2に記載の亜リン酸エステル化合物と、
ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド系安定剤及びリン酸系安定剤から選ばれる1種類以上の安定剤との、混合物であることを特徴とする請求項2に記載の熱線遮蔽膜。
【請求項4】
前記色抜け防止剤の添加量が、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、3重量部〜500重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、平均粒径40nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱線遮蔽膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱線遮蔽膜が、複数枚の透明基材間に存在していることを特徴とする熱線遮蔽合わせ透明基材。
【請求項7】
前記透明基材の内、少なくとも1枚が無機ガラスであることを特徴とする請求項6に記載の熱線遮蔽合わせ透明基材。
【請求項8】
熱線遮蔽機能を有する微粒子と、可塑剤と、色抜け防止剤とを含有するポリビニルアセタール樹脂を含む熱線遮蔽膜の製造方法であって、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子である一般式MWO(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cuから選択される1種類以上の元素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で示され、かつ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を、前記可塑剤へ分散させ、熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液を製造する第1の工程と、
前記ポリビニルアセタール樹脂へ、第1の工程で製造された熱線遮蔽微粒子含有可塑剤分散液を添加して混練した後、成形し、熱線遮蔽膜を製造する第2の工程とを有し、
前記第1工程の分散工程または第2工程の混練工程の少なくともいずれかにおいて、請求項2に記載の亜リン酸エステル化合物、または、請求項3に記載の亜リン酸エステル化合物と、ヒンダードフェノール系安定剤、スルフィド系安定剤及びリン酸系安定剤から選ばれる1種類以上の安定剤との混合物を添加することを特徴とする熱線遮蔽膜の製造方法。

【公開番号】特開2013−64042(P2013−64042A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202348(P2011−202348)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】