説明

熱線高反射塗料組成物、熱線高反射塗料組成物調製用キット、熱線高反射塗装物、および熱線高反射塗装物の製造方法

【課題】マンガン化合物の使用を要さず、かつ熱線反射性能の高い濃色系の塗膜を得えられる、熱線高反射塗料組成物およびその調製用キット、並びに熱線高反射塗装物の製造方法を提供する。
【解決手段】Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料とフッ素樹脂とを含有することを特徴する熱線高反射塗料組成物。さらに、一般式Si(OR)4(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)を含有する前記の熱線高反射塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線高反射塗料組成物、熱線高反射塗料組成物調製用キット、熱線高反射塗装物、および熱線高反射塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に建築物の屋根等においては、黒色系の顔料を含む濃色系塗料が用いられることが多い。しかし、濃色系塗料では一般に太陽エネルギーを吸収しやすく、建築物等の温度上昇を引き起こし、空調のためのエネルギー消費拡大をもたらすという問題があった。
一方、白色系の塗膜は熱線の高反射が期待できるものの、汚染が目立ちやすいという景観状の問題、汚染による熱線反射の低下等の問題を有している。
【0003】
この問題を解決するため特許文献1、特許文献2では、ビヒクルに赤、橙、黄、緑、青、紫系の有彩色の顔料を混合することにより、無彩色である黒色に着色した塗料組成物が提案されている。しかしながら色調の調整が難しく、また紫外線により着色顔料が劣化し、変色し易いという問題を有していた。
また、熱線高反射顔料を使用した例として特許文献3は近赤外域で高い太陽放射反射率を有する黒色焼成顔料の塗料組成物が提案されている。しかし、クロム系顔料を使用しているので、塗装作業中の作業者の健康を損なうと共に環境を汚染するという問題を有していた。
【0004】
また、濃色系の熱線高反射顔料としては、ビスマスマンガンオキサイドを含有する顔料(特許文献4)や、希土類酸化マンガン複合酸化物を含む顔料(特許文献5)も提案されている。さらに、特許文献6には、ビスマスおよび/またはイットリウムの酸化物とマンガンの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、シリケート化合物、および樹脂を含有する熱線高反射塗料組成物が示されている。
特許文献6の熱線高反射塗料組成物により形成される塗膜は、複合金属酸化物顔料により熱線を高い効率で反射し、温度上昇を抑制できる。また、該塗膜はシリケート化合物を含有していることで耐汚染性に優れており、塗膜表面が汚染されて反射率が低下することが抑制されるため、熱線の反射率を長期間維持できる。
【0005】
特許文献4〜6の熱線高反射塗料組成物は、マンガン化合物を必須成分として含むが、マンガン化合物は、化学物質管理促進法(PRTR法)で危険性が危惧される物質とされている問題がある。
また、特許文献6の熱線高反射塗料組成物によれば、高反射率で熱線を反射する塗膜が得られるが、夏場の節電要求は厳しく、さらになる高反射率で熱線を反射する塗膜が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2593968号公報
【特許文献2】特開平5−293434号公報
【特許文献3】特許第3468698号公報
【特許文献4】特表2002−532379号公報
【特許文献5】特開2002−38048号公報
【特許文献6】特開2008−106092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マンガン化合物の使用を要さず、かつ熱線反射性能の高い濃色系の塗膜を得られる、熱線高反射塗料組成物およびその調製用キット、並びに熱線高反射塗装物の製造方法を提供することを目的とする。また、マンガン化合物の使用を要さず、かつ、熱線反射性能が高い濃色系の熱線高反射塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0009】
[1]Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料とフッ素樹脂とを含有することを特徴する熱線高反射塗料組成物。
[2]さらに、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)を含有する[1]に記載の熱線高反射塗料組成物。
[3]さらに、溶剤を含有する[2]に記載の熱線高反射塗料組成物。
[4]さらに、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)を含有する[1]に記載の熱線高反射塗料組成物。
[5]さらに、水を含有する[4]に記載の熱線高反射塗料組成物。
[6]さらに、硬化剤を含有する[1]〜[5]の何れか一項に記載の熱線高反射塗料組成物。
[7]Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)、フッ素樹脂、硬化剤及び溶剤を含有する熱線高反射塗料組成物の調製用キットであって、
前記複合金属酸化物顔料、前記フッ素樹脂、および溶剤の一部を含有する主剤、ならびに前記ケイ素含有化合物(A)、硬化剤、および溶剤の残部を含有する硬化用組成物からなる熱線高反射塗料組成物調製用キット。
[8]Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)、フッ素樹脂、硬化剤及び水を含有する熱線高反射塗料組成物の調製用キットであって、
前記複合金属酸化物顔料、前記フッ素樹脂、および水の一部を含有する主剤、ならびに前記非フッ素系重合体(B)、硬化剤、および水の残部を含有する硬化用組成物からなる熱線高反射塗料組成物調製用キット。
[9][1]〜[6]の何れかに記載の熱線高反射塗料組成物を塗装して形成された塗膜を有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
[10]被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、
前記塗膜層(X)は、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)を含有し、
前記塗膜層(Y)は、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)と、フッ素樹脂(y)とを含有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
[11]被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、
前記塗膜層(X)は、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)を含有し、
前記塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)と、フッ素樹脂(y)とを含有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
[12]前記塗膜層(X)および/または前記塗膜層(Y)が、さらに硬化剤を含有する[10]または[11]に記載の熱線高反射塗装物。
[13]被塗装物上に、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、フッ素樹脂(x)と溶剤を含む組成物(X1)を塗布して塗膜層(X)を形成させ、
つぎに、該塗膜層(X)上に、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)と、フッ素樹脂(y)と溶剤を含む組成物(Y1)を塗布して塗膜層(Y)を形成させることを特徴とする熱線高反射塗装物の製造方法。
[14]被塗装物上に、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、フッ素樹脂(x)と水を含む組成物(X1)を塗布して塗膜層(X)を形成させ、
つぎに、該塗膜層(X)上に、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)と、フッ素樹脂(y)と水を含む組成物(Y1)を塗布して塗膜層(Y)を形成させることを特徴とする熱線高反射塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱線高反射塗料組成物、熱線高反射塗料組成物調製用キット、及び熱線高反射塗装物の製造方法によれば、マンガン化合物を使用することなく、熱線反射性能の高い濃色系の塗膜及び塗装物を得られる。
また、本発明の熱線高反射塗装物は、マンガン化合物の使用を要さず、かつ、濃色系でありながら熱線反射性能が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<塗料組成物(I)>
本発明の熱線高反射塗料組成物(以下「塗料組成物(I)」ともいう。)は、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料(以下「複合顔料M」ともいう。)と、フッ素樹脂とを含有する。
塗料組成物(I)は、後述の塗料組成物(Ia)であること、または、塗料組成物(Ib)であることが好ましい。
【0012】
[複合顔料M]
複合顔料Mは、塗料組成物(I)によって得られる塗膜に熱線反射性能を付与する役割を果たす。複合顔料Mは、Biの酸化物とCuの酸化物とを含有する濃色系の顔料である。複合顔料Mは、塗料組成物(I)中に分散させて配合する。
複合顔料M中のCuの酸化物の含有量は、5〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。Cuの酸化物の含有量が下限値以上であれば、反射性能の良い黒顔料が得られやすい。
複合顔料M中のBiの酸化物の含有量は、5〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。Biの酸化物の含有量が下限値以上であれば、反射性能の良い黒顔料が得られやすい。
また、複合顔料Mは、必要に応じて後述する他の着色顔料を含有していてもよい。
複合顔料Mは、BiとCuの混合物を、700℃以上の焼成温度で焼成して得られる酸化物を使用することが好ましい。なお、複合顔料Mの原料として使用されるBiとCuは、単体に限定されず、酸化物等の化合物であってもよい。
【0013】
複合顔料Mの平均粒子径は、0.1μm〜30μmであることが好ましい。ただし、平均粒子径とは、電子顕微鏡(SEM)にて15000倍の拡大写真観察で任意に選択した100個の粒子の粒子径を数平均した値である。複合顔料Mの平均粒子径が上限値以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。また、複合顔料Mの平均粒子径が下限値以上であれば着色性が良好となる。
平均粒子径0.1μm〜30μmの条件を満たす複合顔料Mの市販品としては、たとえば、大日精化工業社製 ダイピロキサイド ブラック#9581等が挙げられる。
【0014】
顔料として複合顔料Mのみを使用する場合、塗料組成物(I)における複合顔料Mの含有量は、塗料組成物(I)中のフッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂(以下、合わせて「樹脂成分」という。但し、他の樹脂には後述の非フッ素系重合体(B)を含まない。以下同じ。)の合計含有量(本明細書において、各種顔料と樹脂成分の含有量は乾燥固形分による含有量である。)に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。複合顔料Mの前記含有量が下限値以上であれば、充分な熱線反射効果が得られやすい。また、複合顔料Mの前記含有量が上限値以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。
【0015】
[他の着色顔料]
塗料組成物(I)には、用途や目的に応じて色調を調整する目的で、複合顔料Mに加えて他の着色顔料を含有させていてもよい。
他の着色顔料としては、たとえば、酸化チタン、べんがら、黄土、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ホワイトカーボン、微粉ケイ酸等の無機系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ジオキサジン等の有機系顔料が挙げられる。
酸化チタンは、酸化セリウム等で表面被覆した酸化チタンが好ましく、該酸化チタンは、石原産業社製、商品名「PFC−105」;堺化学社製、商品名「D−918」等として入手できる。
ただし、熱線反射性能をより優れたものにするという観点からは、本塗料用組成物を被塗装物表面に塗布して塗膜を形成した際に、得られる塗装物表面が濃色系の色調であることが好ましい。具体的には、塗装物表面のJIS Z 8729に規定された明度Lが5〜80であることが好ましく、10〜60であることがより好ましい。
【0016】
複合顔料Mに加えて他の着色顔料を含有させる場合、塗料組成物(I)中の顔料全体の含有量は、塗料組成物(I)中の顔料全体と樹脂成分の合計含有量に対して、0.001〜80質量%であることが好ましく、0.1〜60質量%であることがより好ましい。顔料全体の前記含有量が下限値以上であれば、複合顔料Mの含有量が少なくなりすぎて熱線反射効果が低下することを抑制しやすい。また、顔料全体の前記含有量が上限値以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。
複合顔料Mに加えて他の着色顔料を含有させる場合の複合顔料Mの顔料全体に対する割合は、0.1〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましい。複合顔料Mの顔料全体に対する割合が好ましい下限値以上であれば、得られる塗膜において、複合顔料Mの優れた熱線反射特性が発揮されやすい。複合顔料Mとその他の顔料を使用することにより、任意の色に調整が可能となる。
【0017】
[フッ素樹脂]
フッ素樹脂は、フッ素原子を有する繰り返し単位(β1)を有する重合体であり、明確な融点を有する樹脂、融点を示さない樹脂、ゴム弾性を示すエラストマー性の重合体、熱可塑性エラストマー性の重合体が含まれる。
フッ素樹脂は架橋性基を有することが好ましい。すなわち、架橋性基を有する繰り返し単位(β2)を有することが好ましい。前記架橋性基とは、互いに、もしくは硬化剤と反応して化学結合(架橋)を形成する官能基である。
フッ素樹脂としては、フッ素原子を有する繰り返し単位(β1)と、架橋性基を有する繰り返し単位(β2)を有する共重合体が好ましい。
【0018】
(繰り返し単位(β1))
繰り返し単位(β1)は、フッ素原子を有する単量体(以下、「単量体(b1)」という。)を重合することで形成される。
単量体(b1)としては、フッ素樹脂の原料として通常使用されるフッ素原子を有する単量体が使用できる。具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン(VdF)、フッ化ビニル(VF)等のフルオロオレフィン類;フルオロアルキル基を有するオレフィン類、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)等フルオロビニルエーテル類等が挙げられる。なかでも、フルオロオレフィン類が好ましく、TFE、HFP、CTFE、VdF、VFがより好ましく、TFE、CTFE、VdFがさらに好ましく、TFE、CTFEが特に好ましく、硬化塗膜の耐候性、耐薬品性、透湿性の点から、CTFEが最も好ましい。
単量体(b1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(繰り返し単位(β2))
繰り返し単位(β2)は、架橋性基を有する単量体(以下、「単量体(b2)」という。)を重合することにより形成できる。単量体(b2)は、架橋性基を有し、前記単量体(b1)と共重合可能な重合性不飽和基を有する単量体であればよい。単量体(b2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
単量体(b2)における架橋性基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、加水分解性シリル基等が挙げられる。なかでも、架橋反応性、入手容易性、共重合体への導入容易性の点から、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0020】
水酸基を有する単量体(以下、「単量体(b21)」という。)は、水酸基と重合性不飽和基を有する単量体である。
単量体(b21)としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基を有するビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基を有するアリルエーテル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。なかでも、入手容易性、重合反応性、水酸基の架橋性が優れる点から、水酸基を有するビニルエーテル類が好ましく、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルがより好ましい。
単量体(b21)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
カルボキシ基を有する単量体(以下、「単量体(b22)」という。)は、カルボキシ基と重合性不飽和基を有する単量体であり、容易にカルボキシ基を有する単量体に変換される不飽和ジカルボン酸の酸無水物も含む。
単量体(b22)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、ウンデシレン酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、フタル酸ビニル等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;イタコン酸モノエステル、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル等の不飽和ジカルボン酸モノエステル類;マレイン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸の無水物等が挙げられる。これらの他にもピロメリット酸ビニル等の多価カルボン酸のビニルエーテルまたはアリルエーテル等が挙げられる。なかでも、入手容易性、重合反応性、架橋性が優れる点から、クロトン酸、ウンデシレン酸、マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
単量体(b22)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
エポキシ基を有する単量体(以下、「単量体(b23)」という。)は、エポキシ基と重合性不飽和基を有する単量体である。単量体(b23)におけるエポキシ基は、グリシジル基となっていることが好ましい。
単量体(b23)としては、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
単量体(b23)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
繰り返し単位(β2)としては、単量体(b2)を重合することで形成された繰り返し単位が好ましい。
ただし、繰り返し単位(β2)は、単量体(b2)を重合することで形成された繰り返し単位には限定されない。例えば、繰り返し単位(β2)の架橋性基としてカルボキシ基を導入する場合、前記単量体(b21)を共重合させ、得られた共重合体に導入された水酸基に、酸無水物を反応させる方法によりカルボキシ基を導入できる。
前記酸無水物としては、無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
上記では、フッ素原子を含有しない繰り返し単位(β2)について例示したが、繰り返し単位(β2)は架橋性基を有していればよく、フッ素原子は含有していてもいなくてもよい。
【0024】
フッ素樹脂は、必要に応じて、前記繰り返し単位(β1)および繰り返し単位(β2)に加え、単量体(b1)および単量体(b2)以外の他の単量体(以下、「単量体(b3)」という。)に基づく繰り返し単位(β3)を有してもよい。
単量体(b3)としては、オレフィン類、アルキル基と重合性不飽和基とがエーテル結合で連結されたアルキルビニルエーテル類、またはアルキル基と重合性不飽和基とがエステル結合で連結されたカルボン酸ビニルエステル類が好ましい。
【0025】
オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン等が挙げられる。
アルキルビニルエーテル類としては、エチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
カルボン酸ビニルエステル類としては、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
フッ素樹脂の全繰り返し単位(100モル%)に対する繰り返し単位(β1)の割合は、35〜65モル%が好ましく、40〜60モル%がより好ましい。繰り返し単位(β1)の割合が前記範囲内であれば、形成される硬化塗膜の耐候性と、溶剤への溶解性を両立しやすい。
フッ素樹脂の全繰り返し単位(100モル%)に対する繰り返し単位(β2)の割合は、6〜50モル%が好ましく、7〜40モル%がより好ましい。繰り返し単位(β2)の割合が前記範囲の下限値以上であれば、形成される硬化塗膜の架橋度が高くなり硬度等が向上する。
繰り返し単位(β2)の割合が前記範囲の上限値以下であれば、本発明の塗料組成物にゲル化が起こりにくい。
フッ素樹脂の全繰り返し単位(100モル%)に対する繰り返し単位(β3)の割合は、45モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
フッ素樹脂の製造は、公知の重合方法を採用でき、具体的には、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の重合方法を採用できる。
【0027】
フッ素樹脂の数平均分子量(Mn)は、5,000〜20,000が好ましい。フッ素樹脂のMnが下限値以上であれば、形成される硬化塗膜の耐候性が向上する。また、フッ素樹脂のMnが上限値以下であれば、塗料組成物の粘度が適度となり取扱い性が向上する。フッ素樹脂のMnは、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される値である。
【0028】
フッ素樹脂のフッ素含有量は、耐候性が向上する点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。一方、フッ素樹脂の溶剤への溶解性の点からフッ素樹脂のフッ素含有量は、35質量%以下が好ましい。フッ素樹脂のフッ素含有量とは、フッ素樹脂の質量に対する、フッ素樹脂が有するフッ素原子の合計の質量割合である。
【0029】
塗料組成物(I)(溶剤も含めて100質量%とする。)中のフッ素樹脂の含有量は、5〜60質量%が好ましく、10〜45質量%がより好ましい。フッ素樹脂が前記範囲の下限値以上であれば、耐候性が向上する。フッ素樹脂が前記範囲の上限値以下であれば、塗装作業性が向上する。
【0030】
[その他の樹脂]
また、塗料組成物(I)は、フッ素樹脂以外の他の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂としては、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂が好ましい。
また、他の樹脂は、前記架橋性基を有していることが好ましく、水酸基を有していることがより好ましく、耐候性の観点から、水酸基を有するアクリル樹脂が特に好ましい。
塗料組成物(I)の樹脂成分はフッ素樹脂のみからなることが特に好ましい。また、樹脂成分として他の樹脂が含まれる場合、フッ素樹脂は樹脂成分全体に対して5〜98質量%であることが好ましく、30〜98質量%であることがより好ましい。
塗料組成物(I)(溶剤も含めて100質量%とする。)中の樹脂成分の含有量は、5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。樹脂成分が前記範囲の下限値以上であれば、塗装塗膜の膜厚が確保可能である。樹脂成分が前記範囲の上限値以下であれば、塗装作業性が向上する。
また、樹脂成分中のフッ素樹脂の含有量は、5〜100質量%であることが好ましく、30〜100質量%であることがより好ましい。樹脂成分中のフッ素樹脂の含有量が高い程耐候性が高くなる。
【0031】
[硬化剤]
塗料組成物(I)には硬化剤を含有させることができる。硬化剤は、樹脂成分と反応して架橋構造を形成する。硬化剤は、塗料組成物(I)中に含有される樹脂成分が有する架橋性基の種類に応じて適宜選定する。塗料組成物(I)においては、フッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂が有する架橋性基が水酸基で、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)であることが好ましい。
【0032】
ポリイソシアネート系硬化剤(C)としては、溶剤への溶解性が優れる点から、下記硬化剤(C1)が好ましい。ただし、ポリイソシアネート系硬化剤は下記硬化剤(C1)には限定されず、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の一般的なポリイソシアネート系硬化剤を使用してもよい。
硬化剤(C1):脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートからなる群から選ばれる1種以上のジイソシアネートと、炭素数1〜20のモノアルコールとを反応させて得られる、アロファネート基(All)とイソシアヌレート基(Iso)のモル比(All/Iso)が81/19〜90/10のポリイソシアネート系硬化剤。
脂肪族ジイソシアネートとは、分子中に脂肪族基を有するジイソシアネート化合物である。一方、脂環式ジイソシアネートとは、分子中に環状脂肪族基を有するジイソシアネート化合物である。
【0033】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−ジイソシアナトブタン、1,5−ジイソシアナトペンタン、1,6−ジイソシアナトヘキサン(HDI)、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネート)等が挙げられる。なかでも、工業的に入手し易い点から、HDIが好ましい。
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、5−イソシアナト−1−イソシアナトメチル−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(別名:イソホロンジイソシアネート)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(別名:水添キシリレンジイソシアネート)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(別名:水添ジフェニルメタンジイソシアネート)、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン等が挙げられる。なかでも、工業的に入手し易い点から、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
ジイソシアネートとしては、硬化剤(C1)が低粘度となる点から、脂環式ジイソシアネートよりも脂肪族ジイソシアネートの方が好ましく、形成される硬化塗膜の耐候性、柔軟性の点から、HDIが特に好ましい。
【0034】
前記炭素数1〜20のモノアルコールの炭素数の下限は、溶剤への溶解性の点から、1であり、2が好ましく、3がより好ましく、4がさらに好ましく、6が特に好ましい。前記モノアルコールの炭素数の上限は、形成される硬化塗膜の硬度の点から、20であり、16が好ましく、12がより好ましく、9がさらに好ましい。
【0035】
モノアルコールは、飽和炭化水素基と水酸基だけからなることが好ましい。また、モノアルコールは、分岐を有していることが好ましい。
モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノール、トリデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
【0036】
モノアルコールは、溶剤への溶解性の点では、イソブタノール、1−ブタノール、イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−へプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、トリデカノール、ペンタデカノール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、1,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノールが好ましく、イソブタノール、2−ヘキサノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノールがより好ましい。
また、モノアルコールは、粘度がより低くなる点では、1−プロパノール、イソブタノール、1−ブタノール、イソアミルアルコール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノールが好ましい。
モノアルコールは、前記したものには限定されず、分子内にエーテル基や、エステル基、カルボニル基を有するモノアルコールでもよい。
モノアルコールは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
硬化剤(C1)におけるアロファネート基(All)とイソシアヌレート基(Iso)のモル比(All/Iso)は、81/19〜90/10が好ましい。モル比(All/Iso)が前記範囲内であれば、硬化性と溶剤への溶解性が優れる。前記モル比(All/Iso)の下限は、83/17がより好ましい。前記モル比(All/Iso)の上限は、88/12が好ましく、86/14がより好ましい。
前記モル比(All/Iso)は、国際公開第2008/047761号パンフレットに記載したH−NMR法により求められる。
【0038】
硬化剤(C1)(100質量%)中のイソシアネート基の含有量(以下、「NCO含有量」という。)は、溶剤に対する溶解性と、架橋性の点から、10〜22質量%が好ましく、13〜21質量%がより好ましく、16〜20質量%がさらに好ましい。
【0039】
硬化剤(C1)の粘度の下限は、架橋性の点から、50mPa・sが好ましく、75mPa・sがより好ましく、100mPa・sがさらに好ましく、120mPa.sが特に好ましい。硬化剤(C1)の粘度の上限は、揮発性有機化合物(VOC)を低減する点から、500mPa・sが好ましく、450mPa・sがより好ましく、400mPa・sがさらに好ましく、350mPa・sが特に好ましく、300mPa・sが最も好ましい。
【0040】
硬化剤(C1)におけるイソシアネート基の平均数は、硬化性と、溶剤への溶解性の点から、2.10〜2.50が好ましく、2.15〜2.40がより好ましく、2.20〜2.35がさらに好ましい。
前記イソシアネート基の平均数は、国際公開第2008/047761号に記載のように下式で求められる。
(イソシアネート基の平均数)=(数平均分子量)×(NCO含有量)/4200
硬化剤(C1)の数平均分子量は、GPCにより測定できる。
【0041】
硬化剤としてポリイソシアネート系硬化剤(C)を使用する場合、イソシアネート基が保護されたブロック化ポリイソシアネート系硬化剤であってもよく、イソシアネート基が保護されていない非ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤であってもよい。硬化剤として、非ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤を使用する場合、該硬化剤の配合は、塗料組成物を塗布する直前に行う。一方、硬化剤として、ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤を使用する場合、硬化剤の配合時期は特に限定されない。
ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物中のイソシアネート基がメチルエチルケトンオキシム等によりブロック化された硬化剤等が好ましい。
【0042】
樹脂成分が有する架橋性基が水酸基で、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)である場合、本塗料組成物中に含有される樹脂成分が有する水酸基、すなわちフッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂が有する水酸基の合計と、硬化剤のイソシアネート基のモル比(OH/NCO)は、0.3〜2.0が好ましく、0.7〜1.3がより好ましい。前記モル比(OH/NCO)が前記下限値以上であれば、耐溶剤性が向上する。前記モル比(OH/NCO)が前記上限値以下であれば、耐候性が向上し、また硬化不良(タック残存)が生じることを抑制しやすい。
ポリイソシアネート系硬化剤(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
塗料組成物(I)中に含有される樹脂成分が有する架橋性基が水酸基以外の場合の硬化剤は、該架橋性基の種類に応じて適宜選定すればよい。
塗料組成物(I)中に含有される樹脂成分が有する架橋性基がカルボキシ基の場合、硬化剤としては、公知のアミノ系硬化剤、エポキシ系硬化剤等が挙げられる。
塗料組成物(I)中に含有される樹脂成分脂が有する架橋性基がアミノ基の場合、硬化剤としては、公知のカルボニル基を有する硬化剤、エポキシ系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられる。
塗料組成物(I)中に含有されるフッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂が有する架橋性基がエポキシ基の場合、硬化剤としては、公知のカルボキシ基を有する硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミノ系硬化剤等が挙げられる。
硬化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
[その他の成分]
塗料組成物(I)Iは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、分散剤等の他の成分を含んでもよい。
硬化触媒としては、例えば、硬化剤としてポリイソシアネート系硬化剤(C)を使用する場合、ジブチル錫ジラウレート等が挙げられる。
【0045】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、アデカアーガス化学社製の商品名「MARX LA62」、「MARX LA67」;BASFジャパン社製の商品名「チヌビン292」、「チヌビン144」、「チヌビン123」、「チヌビン440」等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物等が挙げられる。具体的には、「Viosorb130」、「Viosorb582」、「Viosorb583」「Viosorb910」(以上、共同製薬社製、商品名)、「ユビナール 3039」「チヌビン320」、「チヌビン384−2」、「チヌビン982」、「チヌビン1130」、「チヌビン400」、「チヌビン379」(以上、BASFジャパン社製、商品名)等が挙げられる。 つや消し剤としては、超微粉合成シリカ等が挙げられる。つや消し剤を使用した場合、優雅な半光沢、つや消し仕上げの硬化塗膜を形成できる。
【0046】
界面活性剤としては、ノニオン型、カチオン型、アニオン型のいずれでもよく、レオレックスASE(第一工業社製、商品名)、フッ素系界面活性剤の「サーフロン」(旭硝子社製、商品名)、アクリル系界面活性剤の「モダフロー」(モンサント社製、商品名)、「レオファット」シリーズ(花王社製、商品名)等が挙げられる。
レベリング剤を配合すれば、形成する硬化塗膜の厚さの均一性が向上する。レベリング剤としては、BYK−300(BYK−Chemie社製、商品名)、フローレンNo.3(共栄社化学社製、商品名)、ディスパロンLF1985(楠本化成社製、商品名)等が挙げられる。
【0047】
<塗料組成物(Ia)>
塗料組成物(Ia)は、塗料組成物(I)であって、さらに、ケイ素含有化合物(A)を含有する組成物である。
【0048】
[ケイ素含有化合物(A)]
ケイ素含有化合物(A)は、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物である
ケイ素含有化合物(A)は、塗料組成物(Ia)によって得られる塗膜表面の汚染を防ぎ、複合顔料Mの熱線反射性能の安定した維持に寄与する成分である。
【0049】
一般式中のRの炭素数が5を超えると、熱線反射性能を維持する効果が低下する傾向があることからRの炭素数は1〜5である。特に優れた熱線反射性能の維持効果が得られることから、Rは、炭素数1または2のアルキル基であることが好ましい。特に好ましいケイ素含有化合物(A)は、テトラメトキシシラン、若しくはテトラエトキシシラン、またはそれらの部分縮合物である。
ケイ素含有化合物(A)は、SiO分が20〜60質量%であることが好ましい。SiO分が20質量%以上であると熱線反射性能を維持する効果が優れ、60質量%以下であると貯蔵安定性に優れる。
なお、「SiO分」とは、本塗料組成物中で、アルコキシ基の加水分解反応および縮合反応が生じる以前における(本塗料組成物の他の成分と混合する以前における)ケイ素含有化合物(A)の総質量を100質量%としたときの、SiO換算としてのシリカの含有量を示す値である。
【0050】
ケイ素含有化合物(A)の樹脂成分に対する含有量は、0.5〜60質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましい。ケイ素含有化合物(A)の含有量が少なすぎると熱線反射性能を維持する効果が低下し、多すぎると泡、タレ、レベリングなどが発生して塗装性が劣る場合がある。
また、ケイ素含有化合物(A)の脱アルコキシ基反応ならびに分子の網状化を進めるための親水化促進剤を含有させるのが好ましい。親水化促進剤としては、従来から知られている塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸性触媒またはアルミニウムキレートなどの金属キレート化合物が挙げられる。
ケイ素含有化合物(A)の親水化促進剤の含有量は、ケイ素含有化合物(A)の固形分に対して、0.1〜50質量%であることが好ましい。
【0051】
ケイ素含有化合物(A)は、塗料組成物(Ia)によって得られる塗膜表面に親水性を付与することにより、塗膜の耐汚染性を向上させる。そして耐汚染性の向上が、塗料組成物(Ia)に含有される複合顔料Mの熱線反射性能の低下を防止すると考えられる。
【0052】
[溶媒]
塗料組成物(Ia)は液状組成物であるのが好ましく、非水溶剤型塗料、水性塗料、または非水エマルジョン型塗料などが挙げられ、溶剤を含有する非水溶剤型塗料であることが好ましい。
塗料組成物(1a)が非水溶剤型塗料である場合の溶剤としては、一般に塗料用の溶剤として使用できるものが挙げられ、トルエン、キシレン、エクソンモービル社製ソルベッソ100、エクソンモービル社製ソルベッソ150などの石油系混合溶剤;ミネラルスピリットなどの芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
[製造方法]
塗料組成物(Ia)は、上記各成分を混合することにより得られる。混合の順番に特に限定はないが、予め樹脂成分の溶剤溶液に複合顔料M等の顔料を混合し、これにケイ素含有化合物(A)またはケイ素含有化合物(A)及び硬化剤の溶剤溶液を添加する方法が好ましい。
ケイ素含有化合物(A)の親水化促進剤は、ケイ素含有化合物(A)に予め添加しておくことが好ましい。ただし、ケイ素含有化合物(A)を樹脂溶液及び顔料に混合してから塗装するまでの時間が長い場合は、ケイ素含有化合物(A)の網状化を進めるための親水化促進剤は塗料組成物を塗装する直前に配合することが好ましい。
艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の添加剤は、顔料と共に、樹脂溶液に混合することが好ましい。
塗料組成物(Ia)は、後述の熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)を用い、その主剤と硬化用組成物とを混合することにより、容易に調製できる。
【0054】
<塗料組成物(Ib)>
塗料組成物(Ib)は、塗料組成物(I)であって、さらに、非フッ素系重合体(B)を含有する組成物である。
【0055】
[非フッ素系重合体(B)]
非フッ素系重合体(B)は、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(α1)」という。)を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体である。非フッ素系重合体とは、フッ素原子を有さない重合体である。
非フッ素系重合体(B)は、形成される塗膜に耐汚染性を付与する役割を果たす。
非フッ素系重合体(B)は、繰り返し単位(α1)を有し、また必要に応じて繰り返し単位(α1)以外の繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(α2)」という。)を有していてもよい。
繰り返し単位(α1)は、たとえば、2個以上のヒドロキシ基を有する重合性単量体(以下、「単量体(a1)」という。)を重合させることにより重合体に導入できる。また、反応部位を有する重合体に2個以上のヒドロキシ基を導入する等の各種変性方法によっても、繰り返し単位(α1)を重合体に導入できる。以下、単量体(a1)を典型例として挙げて説明する。
【0056】
また、本明細書の具体的化合物名において(メタ)アクリレートと記載されたものは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。同様に、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。
【0057】
単量体(a1)としては、たとえば、CH=CHCOOR、CH=C(CH)COOR、CH=CHOCOR、CH=C(CH)OCOR、CH=CHOR、CH=C(CH)OR、CH=CHCHOR、CH=CHCHOCOR、CH=CHCONHR、CH=C(CH)CONHR、CH=CHCON(R、CH=C(CH)CON(R、CH=CHNHCOR、CH=C(CH)NHCORが挙げられる。ただし、Rは2個以上のヒドロキシ基を有する有機基である。
は、耐汚染性に優れる点から、炭素数1〜100の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の有機基であることがより好ましい。Rが2個以上含まれる場合は同一であっても異なっていてもよい。さらに、Rには、ヒドロキシ基以外の官能基や、窒素原子、塩素原子等の他の原子が含まれていてもよい。
【0058】
単量体(a1)の具体例としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(a1−1):3官能以上のポリオール化合物または糖類と(メタ)アクリル酸等とのエステル。
単量体(a1−2):アミノ基を有する2官能以上のポリオール化合物またはアミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸等とのアミド。
【0059】
3官能以上のポリオール化合物としては、たとえば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、2−ヒドロキシメチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
糖類としては、たとえば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D−リボース等の単糖類、該単糖類から誘導されるグルコシド類、ガラクトシド類もしくはフルクトシド類、さらにはそれらの二量体、三量体が挙げられる。
アミノ基を有する2官能以上のポリオール化合物としては、たとえば、3−アミノ−1,2−プロパンジオールが挙げられる。
アミノ基を有する糖類としては、たとえば、D−グルコサミンが挙げられる。
【0060】
非フッ素系重合体(B)に含まれる繰り返し単位(α1)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
非フッ素系重合体(B)における繰り返し単位(α1)の含有量は、全繰り返し単位に対して10〜100質量%であり、30〜100質量%であることが好ましい。繰り返し単位(α1)の含有量が下限値以上であれば、優れた耐汚染性を有する塗膜が形成される。
【0061】
繰り返し単位(α2)は、繰り返し単位(α1)以外の繰り返し単位、すなわち1個のヒドロキシ基を有するか、ヒドロキシ基を有していない繰り返し単位である。
繰り返し単位(α2)の少なくとも1種は、2個以上のヒドロキシ基を除く、架橋性官能基を有する繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(α21)」という。)であることが好ましい。また、繰り返し単位(α2)における繰り返し単位(α21)以外の繰り返し単位としては、繰り返し単位(α1)以外でかつ繰り返し単位(α21)以外の繰り返し単位、すなわちヒドロキシ基や架橋性官能基を有さない繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(α22)」という。)が挙げられる。繰り返し単位(α2)としては、繰り返し単位(α21)または繰り返し単位(α22)のいずれか1つであってもよく、繰り返し単位(α21)と繰り返し単位(α22)の併用であってもよい。
【0062】
繰り返し単位(α21)が有する架橋性官能基としては、架橋反応に一般的に用いられる架橋性官能基が挙げられ、具体的には、アルデヒド性カルボニル基、ケトン性カルボニル基、1個のヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸残基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン残基、アミド基、アルコキシ基、加水分解性シリル基が挙げられる。
繰り返し単位(α21)を与える重合性単量体(以下、「単量体(a21)」という。)としては、架橋性官能基を有する単量体が挙げられる。単量体(a21)の具体例としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(a21−1):アルデヒド性カルボニル基を有する単量体。
単量体(a21−2):ケトン性カルボニル基を有する単量体。
単量体(a21−3):1個のヒドロキシ基を有する単量体。
単量体(a21−4):カルボキシ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(a21−5):スルホ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(a21−6):リン酸残基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(a21−7):エポキシ基を有する単量体。
単量体(a21−8):アミノ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(a21−9):オキサゾリン残基を有する単量体。
単量体(a21−10):アミド基を有する単量体。
単量体(a21−11):アルコキシ基を有する単量体。
単量体(a21−12):加水分解性シリル基を有する単量体。
ただし、単量体(a21−1)および単量体(a21−2)におけるカルボニルとは、それぞれアルデヒドおよびケトンを表し、エステル、アミド、カルボキシは除く。
【0063】
単量体(a21−1)としては、たとえば、(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド、β−ホルミルスチレン、β−ホルミル−α−メチルスチレン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジアルキルプロパナール類が挙げられる。
β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジアルキルプロパナール類としては、たとえば、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジメチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジエチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジプロピルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α−メチル−α−ブチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α,β−トリメチルプロパナールが挙げられる。
【0064】
単量体(a21−2)としては、たとえば、ジアセトンアクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルプロピルケトン、ビニルイソプロピルケトン、ビニルブチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ビニルtert−ブチルケトン、ビニルフェニルケトン、ビニルベンジルケトン、ジビニルケトン、(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルレートが挙げられる。
さらに、単量体(a21−2)は活性メチレン部位を有する単量体であってもよい。該単量体としては、たとえば、アリルアセトアセテート、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、3−(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、3−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、4−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0065】
単量体(a21−3)としては、たとえば、ビニルフェノール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニル等のヒドロキシ基含有カルボン酸のビニルエステルまたはアリルエステルが挙げられる。
【0066】
また、単量体(a21−3)はポリオキシアルキレン鎖(以下、「POA鎖」という。)を有し、かつ、末端がヒドロキシ基である単量体であってもよく、たとえば、CH=CHOCH10CHO(CO)H(kは1〜100の整数である。以下同じ。)、CH=CHOCO(CO)H、CH=CHCOOCO(CO)H、CH=C(CH)COOCO(CO)H、CH=CHCOOCO(CO)(CO)H(mは0または1〜100の整数であり、nは1〜100の整数であり、m+nは1〜100である。以下同じ。)、CH=C(CH)COOCO(CO)(CO)Hが挙げられる。
POA鎖を有し、かつ、末端がヒドロキシ基である単量体(a21−3)の市販品としては、たとえば、PE−90、PE−200、PE−350、AE−400、PP−500、PP−800、PP−1000、AP−400、50PEP−300、70PEP−350B(以上、日本油脂社製)が挙げられる。
【0067】
単量体(a21−4)としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、ケイ皮酸、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(a21−5)としては、たとえば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−ヒドロキシアリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、スルホエトキシアクリレート、スルホエトキシメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(a21−6)としては、たとえば、リン酸2−アクリロイルオキシエチルエステル、リン酸2−メタクリロイルオキシエチルエステル、もしくはそれらの塩が挙げられる。
【0068】
単量体(a21−7)としては、たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルシンナメート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテンが挙げられる。
単量体(a21−8)としては、たとえば、2−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアミン、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(a21−9)としては、たとえば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
単量体(a21−10)としては、たとえば、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドが挙げられる。
【0069】
単量体(a21−11)としては、たとえば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0070】
また、単量体(a21−11)は、POA鎖を有し、かつ末端がアルコキシ基である単量体であってもよい。たとえば、CH=CHOCH10CHO(CO)CH(kは1〜100の整数である。以下同じ。)、CH=CHOCO(CO)CH、CH=CHCOOCO(CO)CH、CH=C(CH)COOCO(CO)CH、CH=CHCOOCO(CO)(CO)CH(mは0または1〜100の整数であり、nは1〜100の整数であり、m+nは1〜100である。以下同じ。)、CH=C(CH)COOCO(CO)(CO)CHが挙げられる。
POA鎖を有し、かつ末端がアルコキシ基である単量体(β1−11)の市販品としては、たとえば、M−20G、M−40G、M−90G、M−230G、AM−90G(以上、新中村化学工業社製)、PME−100、PME−200、PME−400(以上、日本油脂社製)が挙げられる。
【0071】
単量体(a21−12)としては、たとえば、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、3−メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテルが挙げられる。
【0072】
繰り返し単位(α21)としては、単量体(a21−1)、単量体(a21−2)および単量体(a21−9)からなる群より選ばれる少なくとも一つの単量体から得られる繰り返し単位であることが好ましい。
非フッ素系重合体(B)が有する繰り返し単位(α21)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0073】
非フッ素系重合体(B)における繰り返し単位(α21)の含有量は、0.01質量%以上かつ90質量%未満であることが好ましく、1〜50質量%であることが特に好ましい。前記含有量が下限値以上であれば、形成される塗膜の耐汚染性およびその持続性がより良好である。前記含有量が上限値未満であれば、塗料組成物の貯蔵安定性がより良好である。
【0074】
繰り返し単位(α22)を与える重合性単量体(a22)としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(a22−1):炭化水素系オレフィン類。
単量体(a22−2):ビニルエーテル類。
単量体(a22−3):イソプロペニルエーテル類。
単量体(a22−4):アリルエーテル類。
単量体(a22−5):ビニルエステル類。
単量体(a22−6):アリルエステル類。
単量体(a22−7):アルキル(メタ)アクリル酸エステル類。
単量体(a22−8):芳香族ビニル化合物。
単量体(a22−9):クロロオレフィン類。
単量体(a22−10):共役ジエン類。
単量体(a22−11):多官能重合性二重結合を有する化合物。
【0075】
単量体(a22−1)としては、たとえば、エチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。
単量体(a22−2)としては、たとえば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、イソヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、4−メチルー1−ペンチルビニルエーテル等の鎖状アルキルビニルエーテル類、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等の脂環状アルキルビニルエーテル類、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等の芳香族基含有ビニルエーテル類が挙げられる。
【0076】
単量体(a22−3)としては、たとえば、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、n−プロピルイソプロペニルエーテル、n−ブチルイソプロペニルエーテルが挙げられる。
単量体(a22−4)としては、たとえば、エチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルが挙げられる。
単量体(a22−5)としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクタン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、オクタデカン酸ビニルが挙げられる。
【0077】
単量体(a22−6)としては、たとえば、酢酸アリル、プロピオン酸アリルが挙げられる。
単量体(a22−7)としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチル−n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0078】
単量体(a22−8)としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが挙げられる。
単量体(a22−9)としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化イソプロペニル、塩化アリルが挙げられる。
【0079】
単量体(a22−10)としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが挙げられる。
単量体(a22−11)としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、アリル(メタ)アクリレート、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、トリアリルトリメリテート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコール(メタ)ジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
繰り返し繰り返し単位(α22)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0080】
非フッ素系重合体(B)における繰り返し単位(α22)の含有量は、形成される塗膜の耐汚染性およびその持続性の点から、89.99質量%未満であることが好ましく、0〜30質量%であることが特に好ましい。
【0081】
非フッ素系重合体(B)の分子量は、数平均分子量で160〜1,000,000であることが好ましく、320〜100,000であることがより好ましい。数平均分子量がこの範囲内であれば、形成される塗膜の耐汚染性がより良好である。
【0082】
非フッ素系重合体(B)は、たとえば、単量体(a1)を、必要に応じて単量体(a2)とともに溶媒に溶解して加熱し、重合開始剤を加えて反応させる方法により合成できる。
前記合成における溶媒としては、水または水溶性の溶媒が好ましい。たとえば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセロール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−エトキシエチルアセテート、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、メチルアセテート、エチルアセテート、2,2−ジクロロジエチルエーテル、クロロプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、アセトニトリルが挙げられる。
該溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒は、重合安定性、溶媒置換の容易性の点から、メタノールまたはアセトンが好ましい。
【0083】
重合開始剤としては、公知の有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。有機過酸化物、無機過酸化物は、還元剤と組み合わせて、レドックス系触媒として使用してもよい。該重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、tert−ブチル−α−クミルパーオキシドが挙げられる。
無機過酸化物としては、たとえば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、過炭酸塩が挙げられる。
アゾ化合物としては、たとえば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩が挙げられる。
【0085】
さらに、非フッ素系重合体(B)の分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤としてメルカプタン類、ハロゲン化アルキル類等を用いることができる。
メルカプタン類としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸2−エチルヘキシルが挙げられる。
ハロゲン化アルキル類としては、たとえば、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素が挙げられる。
該連鎖移動剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
塗料組成物(Ib)における非フッ素系重合体(B)の含有量は、樹脂成分に対して0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることがさらに好ましい。前記含有量が下限値以上であれば、優れた耐汚染性を有する塗膜が形成されやすい。また、前記含有量が上限値以下であれば、形成される塗膜の耐候性を向上させやすい。
【0087】
[溶媒]
塗料組成物(Ib)は、水を含有する水性塗料組成物であることが好ましい。ただし、形成される塗膜の熱線反射性能およびその維持効果、ならびに塗装時の作業環境等を悪化させすぎない範囲内であれば、溶剤が含まれていてもよい。
水とともに使用する溶剤としては、一般に塗料用の溶剤として使用できるものが挙げられ、トルエン、キシレン、エクソンモービル社製ソルベッソ100、エクソンモービル社製ソルベッソ150などの石油系混合溶剤;ミネラルスピリットなどの芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類を挙げることができる。これらは、単独で水と併用してもよく、2種以上を水と併用してもよい。
【0088】
[製造方法]
塗料組成物(Ib)は、上記各成分を混合することにより得られる。混合の順番に特に限定はないが、予めフッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂の水性溶液に複合顔料M等の顔料を混合し、これに非フッ素系重合体(B)または非フッ素系重合体(B)及び硬化剤の水性溶液を添加する方法が好ましい。
艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の添加剤は、顔料と共に、樹脂溶液に混合することが好ましい。
塗料組成物(Ib)は、後述の熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)を用い、その主剤と硬化用組成物とを混合することにより、容易に調製できる。
【0089】
<熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)>
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)は、前述した塗料組成物(Ia)を調製するための二液硬化型のキットである。本発明の熱線高反射塗料組成物調製用キットは、前記複合顔料Mと、前記フッ素樹脂、および溶剤の一部を含有する主剤、ならびにケイ素含有化合物(A)、硬化剤、および溶剤の残部を含有する硬化用組成物を備えている。
本発明の熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)により、塗料組成物(Ia)を調製する場合、硬化剤としては、保護基で保護されていない非ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤が好ましい。
フッ素樹脂以外の他の樹脂を使用する場合、該他の樹脂は、前記主剤に含有させることが好ましい。。複合顔料M以外の顔料を使用する場合、該他の顔料も、前記主剤に含有させることが好ましい。ケイ素含有化合物(A)の親水化促進剤は、硬化用組成物に添加しておくことが好ましい。艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の添加剤は、複合顔料Mと共に、主剤に含有させることが好ましい。
【0090】
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)における主剤および硬化用組成物の組成は、それらを混合したときに、前述した塗料組成物(Ia)となる組成であればよい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)における主剤中の複合顔料Mの含有量は、複合顔料Mと樹脂成分との合計含有量に対して0.1質量%以上であることが好ましい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)における主剤中の溶剤は、樹脂成分100質量部に対して、10〜90質量部が好ましい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIa)における硬化用組成物中の溶剤は、ケイ素含有化合物(A)の100質量部に対して、10〜90質量部が好ましい。
【0091】
<熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)>
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)は、前述した塗料組成物(Ib)を調製するための二液硬化型のキットである。本発明の熱線高反射塗料組成物調製用キットは、前記複合顔料Mと、前記フッ素樹脂、および水の一部を含有する主剤、ならびに非フッ素系重合体(B)、硬化剤、および水の残部を含有する硬化用組成物を備えている。
本発明の熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)により、塗料組成物(Ib)を調製する場合、硬化剤としては、保護基で保護されていない非ブロック化ポリイソシアネート系硬化剤が好ましい。
フッ素樹脂以外の他の樹脂を使用する場合、該他の樹脂は、前記主剤に含有させることが好ましい。複合顔料M以外の顔料を使用する場合、該他の顔料も、前記主剤に含有させることが好ましい。艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の添加剤は、複合顔料Mと共に、主剤に含有させることが好ましい。
【0092】
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)における主剤および硬化用組成物の組成は、それらを混合したときに、前述した塗料組成物(Ib)となる組成であればよい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)における主剤中の複合顔料Mの含有量は、複合顔料Mと樹脂成分との合計含有量に対して0.1質量%以上であることが好ましい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)における主剤中の溶剤は、樹脂成分100質量部に対して、10〜90質量部が好ましい。
熱線高反射塗料組成物調製用キット(IIb)における硬化用組成物中の溶剤は、非フッ素系重合体(B)の100質量部に対して、10〜90質量部が好ましい。
【0093】
<熱線高反射塗装物>
本発明の熱線高反射塗装物は、被塗装物品に塗料組成物(I)により得られた塗膜を有するもの(熱線高反射塗装物IIIs)、または被塗装物品に、複合顔料Mおよび樹脂成分(xt)(但し、樹脂成分(xt)には非フッ素系重合体(B)を含まない。以下同じ。)を含有する塗膜層(X)と、ケイ素含有化合物(A)ないし非フッ素系重合体(B)、およびフッ素樹脂(y)を含有する塗膜層(Y)とが順次設けられたもの(熱線高反射塗装物IIIa、熱線高反射塗装物IIIb)である。
【0094】
[被塗装物品]
被塗装物品の材質に特に限定はなく。たとえばコンクリート、自然石、ガラスなど無機物、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタンなどの金属または木材などがある。また有機無機複合材である繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリートなどでもよい。
また、表面に、既に形成された他の塗膜や接着剤層や、プラスチック、ゴムなどの層を有する物品でもよい。
【0095】
被塗装物品としては、自動車、電車、航空機などの輸送用機器、橋梁部材、鉄塔などの土木部材、シ−トやアスファルト等の防水材、タンク、パイプなどの産業機材、ビル外装、ドア、窓門部材、モニュメント、ポールなどの建築部材、道路の中央分離帯、ガードレールなどの道路部材、通信機材、電気及び電子部品などが挙げられる。
【0096】
[熱線高反射塗装物(IIIs)]
熱線高反射塗装物(IIIs)は、被塗装物品に塗料組成物(I)を塗装して形成された塗膜を有する物品である。塗膜の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。膜厚が薄くなると隠蔽性や耐候性が低下する傾向にあり、厚くなるとタレなどの施工上の弊害が発生する傾向にある。
塗料組成物(I)を被塗装物品に塗装する方法は、種々の方法で行うことができる。例えば刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬法による塗装、ロールコーターやフローコーターによる塗装などが適用できる。
【0097】
塗料組成物(I)を被塗装物品に塗装するに際しては、事前に表面の研磨、サンダー処理、封孔処理、プライマー処理、下塗り剤の塗布など、通常塗料を塗布する際に使用する前処理を行うことが好ましい。ここで使用する封孔処理剤、プライマー、下塗り剤としては特に限定なく、有機溶剤溶液、非水分散液、水性溶液又は水性分散液などがある。
【0098】
また、プライマー又は下塗り剤としては、エポキシ樹脂系、変性エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、エポキシ変性ポリエステル樹脂系、ビニル樹脂系、塩化ゴム系等の塗料などが挙げられ、必要によりリン酸亜鉛、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛、鉛酸カルシウム、シアナミド鉛、塩基性クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛等の防錆顔料、酸化鉄、雲母、アルミニウム、ガラスフレーク等の鱗片状顔料等を含んでもよい。また、防錆力を高めるため、JIS K5552に記載されるジンクリッチプライマーを用いてもよく、前記した溶剤系下塗り材を2種類以上塗り重ねることもできる。
塗料組成物(I)の硬化の方式に限定はなく、熱硬化型、熱可塑型、常温乾燥型、常温硬化型など種々の硬化方式を用いることができる。
【0099】
[熱線高反射塗装物(IIIa)]
熱線高反射塗装物(IIIa)は、被塗装物品に、塗膜層(X)と塗膜層(Y)とが順次設けられた物品である。熱線高反射塗装物(IIIa)の塗膜層(Y)は、ケイ素含有化合物(A)が含まれる塗膜層(Ya)である。
【0100】
塗膜層(X)は、複合顔料Mおよび樹脂成分(xt)を含有する。複合顔料Mは、塗料組成物(I)における複合顔料Mと同等のものであり、塗料組成物(I)と同様に他の顔料を含有してもよい。また、樹脂成分(xt)は、塗料組成物(I)におけるフッ素樹脂と同等のフッ素樹脂(x)および/または塗料組成物(I)と同様の他の樹脂を含有することができる。
塗膜層(X)は、塗料組成物(I)における硬化剤と同等の硬化剤を含有することができる。また、塗料組成物(I)と同様に、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、分散剤等の他の成分を含んでもよい。
【0101】
塗膜層(X)における各成分の好ましい割合は、ケイ素含有化合物(A)を含有しない点、フッ素樹脂を含むことが必須でない点、および溶剤を含有しない点を除き、塗料組成物(Ia)と同様である。
例えば、塗膜層(X)中における複合顔料Mの含有量は、複合顔料Mと樹脂成分(xt)の合計含有量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。
また、塗膜層(X)中における顔料全体の含有量は、顔料全体と樹脂成分(xt)の合計含有量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0102】
また、塗膜層(X)(100質量%)中の樹脂成分(xt)の含有量は、30〜99質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
また、樹脂成分(xt)中のフッ素樹脂(x)の含有量は、0〜100質量%であることが好ましく、30〜100質量%であることがより好ましい。樹脂成分(xt)中のフッ素樹脂(x)の含有量が高い程耐候性が高くなるが、塗膜層(X)は塗膜層(Y)で覆われているため、フッ素樹脂(x)の含有量は低くてもよく、ゼロでもよい。
また、樹脂成分(xt)が有する水酸基の合計と、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)である場合の硬化剤のイソシアネート基のモル比(OH/NCO)は、0.3〜2.0が好ましく、0.7〜1.3がより好ましい。
塗膜層(X)の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。膜厚が薄くなると隠蔽性や耐候性が低下する傾向にあり、厚くなるとタレなどの施工上の弊害が発生する傾向にある。
【0103】
塗膜層(Ya)は、ケイ素含有化合物(A)およびフッ素樹脂(y)を含有する。
ケイ素含有化合物(A)は、塗料組成物(Ia)におけるケイ素含有化合物(A)と同等のものである。また、フッ素樹脂(y)は、塗料組成物(I)におけるフッ素樹脂と同等のものであり、塗料組成物(I)と同様に他の樹脂を含有してもよい。
塗膜層(Ya)は、塗料組成物(I)における硬化剤と同等の硬化剤を含有することができる。また、塗料組成物(I)と同様に、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、分散剤等の他の成分を含んでもよい。
【0104】
塗膜層(Ya)における各成分の好ましい割合は、複合顔料Mを含有しない点、および溶剤を含有しない点を除き、塗料組成物(Ia)と同様である。
例えば、塗膜層(Ya)中におけるケイ素含有化合物(A)の含有量は、フッ素樹脂、および必要に応じて使用する他の樹脂(以下、合わせて「樹脂成分(yt)」という。但し、他の樹脂には非フッ素系重合体(B)を含まない。以下同じ。)の合計含有量と硬化剤の合計含有量100質量部に対して、1.5〜90質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましい。
【0105】
塗膜層(Ya)(100質量%)中の樹脂成分(yt)の含有量は、30〜99質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
また、塗膜層(Ya)(100質量%)中のフッ素樹脂(y)の含有量は、5〜100質量%が好ましく、30〜100質量%がより好ましい。
また、樹脂成分(yt)が有する水酸基の合計と、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)である場合の硬化剤のイソシアネート基のモル比(OH/NCO)は、0.3〜2.0が好ましく、0.7〜1.3がより好ましい。
塗膜層(Ya)の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。膜厚が薄くなると隠蔽性や耐候性が低下する傾向にあり、厚くなるとタレなどの施工上の弊害が発生する傾向にある。
【0106】
熱線高反射塗装物(IIIa)は、塗膜層(X)と塗膜層(Ya)との間に、熱線高反射塗装物(IIIa)の反射性能および該反射性能を維持する効果、ならびに美観を維持する効果を妨げない範囲内において別の中間層が設けられていてもよい。しかし、塗膜層(Ya)は塗膜層(X)の表面に形成され、中間層は設けないことが好ましい。
【0107】
熱線高反射塗装物(IIIa)は、複合顔料Mを含有する塗膜層(X)と、ケイ素含有化合物(A)を含有する塗膜層(Ya)とを有することにより、汚染が目立ちにくく、熱線の反射性能を安定して維持できる。
また、複合顔料Mを塗膜層(X)に、ケイ素含有化合物(A)を塗膜層(Ya)に、各々分けて含有させ、塗膜層(Ya)を塗膜層(X)上に備える。そのため、ケイ素含有化合物(A)による表面の汚染防止効果がより向上し、複合顔料Mの劣化もより抑えられる。また、熱線高反射塗装物(IIIa)は、塗膜層(Y)を最上層として設けることにより、表面の汚染防止により美観を維持する効果、および熱線の反射性能を維持する効果が特に高くなる。
【0108】
[熱線高反射塗装物(IIIb)]
熱線高反射塗装物(IIIb)は、被塗装物品に、塗膜層(X)と塗膜層(Y)とが順次設けられた物品である。熱線高反射塗装物(IIIb)の塗膜層(Y)は、非フッ素系重合体(B)が含まれる塗膜層(Yb)である。
【0109】
塗膜層(X)は、複合顔料Mおよび樹脂成分(xt)を含有する。複合顔料Mは、塗料組成物(I)における複合顔料Mと同等のものであり、塗料組成物(I)と同様に他の顔料を含有してもよい。また、樹脂成分(xt)は、塗料組成物(I)におけるフッ素樹脂と同等のフッ素樹脂(x)および/または塗料組成物(I)と同様の他の樹脂を含有することができる。
塗膜層(X)は、塗料組成物(I)における硬化剤と同等の硬化剤を含有することができる。また、塗料組成物(I)と同様に、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、分散剤等の他の成分を含んでもよい。
【0110】
塗膜層(X)における各成分の好ましい割合は、非フッ素系重合体(B)を含有しない点、フッ素樹脂を含むことが必須でない点、および溶剤を含有しない点を除き、塗料組成物(Ib)と同様である。
例えば、塗膜層(X)中における複合顔料Mの含有量は、複合顔料Mと樹脂成分(xt)の合計含有量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。
また、塗膜層(X)中における顔料全体の含有量は、顔料全体と樹脂成分(xt)の合計含有量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0111】
また、塗膜層(X)(100質量%)中の樹脂成分(xt)の含有量は、30〜99質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
また、樹脂成分(xt)中のフッ素樹脂(x)の含有量は、30〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましい樹脂成分(xt)中のフッ素樹脂(x)の含有量が高い程耐候性が高くなるが、塗膜層(X)は塗膜層(Y)で覆われているため、フッ素樹脂(x)の含有量は低くてもよく、ゼロでもよい。
また、樹脂成分(xt)が有する水酸基の合計と、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)である場合の硬化剤のイソシアネート基のモル比(OH/NCO)は、0.3〜2.0が好ましく、0.7〜1.3がより好ましい。
塗膜層(X)の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。膜厚が薄くなると隠蔽性や耐候性が低下する傾向にあり、厚くなるとタレなどの施工上の弊害が発生する傾向にある。
【0112】
塗膜層(Yb)は、非フッ素系重合体(B)およびフッ素樹脂(y)を含有する。
非フッ素系重合体(B)は、塗料組成物(Ib)における非フッ素系重合体(B)と同等のものである。また、フッ素樹脂(y)は、塗料組成物(I)におけるフッ素樹脂と同等のものであり、塗料組成物(I)と同様に他の樹脂を含有してもよい。
塗膜層(Yb)は、塗料組成物(I)における硬化剤と同等の硬化剤を含有することができる。また、塗料組成物(I)と同様に、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、分散剤等の他の成分を含んでもよい。
【0113】
塗膜層(Yb)における各成分の好ましい割合は、複合顔料Mを含有しない点、および溶剤を含有しない点を除き、塗料組成物(Ib)と同様である。
例えば、塗膜層(Yb)中における非フッ素系重合体(B)の含有量は、樹脂成分(yt)に対して0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0114】
また、塗膜層(Yb)(100質量%)中の樹脂成分(yt)の含有量は、30〜99質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
また、塗膜層(Yb)(100質量%)中のフッ素樹脂(y)の含有量は、5〜100質量%が好ましく、30〜100質量%がより好ましい。
また、塗膜層(Yb)は、非フッ素系重合体(B)が硬化剤としても作用するので、他の硬化剤を含まなくともよい。すなわち、樹脂成分(yt)が有する水酸基の合計と、硬化剤がポリイソシアネート系硬化剤(C)である場合の硬化剤のイソシアネート基のモル比(OH/NCO)は、0.0〜2.0が好ましく、0.0〜1.3がより好ましい。
塗膜層(Yb)の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。膜厚が薄くなると隠蔽性や耐候性が低下する傾向にあり、厚くなるとタレなどの施工上の弊害が発生する傾向にある。
【0115】
熱線高反射塗装物(IIIb)は、塗膜層(X)と塗膜層(Yb)との間に、熱線高反射塗装物(IIIb)の反射性能および該反射性能を維持する効果、ならびに美観を維持する効果を妨げない範囲内において別の中間層が設けられていてもよい。しかし、塗膜層(Yb)は塗膜層(X)の表面に形成され、中間層は設けないことが好ましい。
【0116】
熱線高反射塗装物(IIIb)は、複合顔料Mを含有する塗膜層(X)と、非フッ素系重合体(B)を含有する塗膜層(Yb)とを有することにより、汚染が目立ちにくく、熱線の反射性能を安定して維持できる。
また、複合顔料Mを塗膜層(X)に、非フッ素系重合体(B)を塗膜層(Yb)に、各々分けて含有させ、塗膜層(Yb)を塗膜層(X)上に備える。そのため、非フッ素系重合体(B)による表面の汚染防止効果がより向上し、複合顔料Mの劣化もより抑えられる。また、熱線高反射塗装物(IIIb)は、塗膜層(Y)を最上層として設けることにより、表面の汚染防止により美観を維持する効果、および熱線の反射性能を維持する効果が特に高くなる。
【0117】
<熱線高反射塗装物の製造方法>
本発明の熱線高反射塗装物の製造方法は、熱線高反射塗装物(IIIa)または熱線高反射塗装物(IIIb)の製造方法であり、組成物(X1)を被塗装物上に塗布して塗膜層(X)を形成させ、つぎに、組成物(Y1)を塗膜層(X)上に塗布して塗膜層(Y)を形成させることを特徴とする製造方法である。
【0118】
[熱線高反射塗装物の製造方法(IVa)]
熱線高反射塗装物の製造方法(IVa)は、熱線高反射塗装物(IIIa)の製造方法である。熱線高反射塗装物の製造方法(IIIa)における組成物(X1)は溶剤を含む組成物(X1a)であり、組成物(Y1)はケイ素含有化合物(A)と溶剤を含む組成物(Y1a)であり、塗膜層(Y)はケイ素含有化合物(A)が含まれる塗膜層(Ya)である。
【0119】
組成物(X1a)は、塗膜層(X)を形成させる塗料組成物、組成物(Y1a)は、塗膜層(Ya)を形成させる塗料組成物であり、それぞれ、塗膜層(X)または塗膜層(Ya)に含有させる各必須成分、任意成分、及び溶剤を含む塗布用組成物である。
すなわち、組成物(X1a)は複合顔料M、フッ素樹脂(x)及び溶剤を必須成分とし、塗膜層(X)における任意成分を含んでもよい。また、組成物(Y1a)はケイ素含有化合物(A)、フッ素樹脂(y)及び溶剤を必須成分とし、塗膜層(Ya)の任意成分を含んでもよい。
組成物(X1a)および組成物(Y1a)における溶剤としては塗料組成物(Ia)における溶剤と同様のものを用いる。組成物(X1a)および組成物(Y1a)は、各々塗膜層(X)または塗膜層(Ya)に含有させる各必須成分及び任意成分を溶剤に溶解または分散させた溶剤組成物とする。
【0120】
組成物(X1a)の各成分の配合順序に限定はないが、硬化剤を添加する場合は、予め樹脂成分(xt)の溶剤溶液に複合顔料M等の顔料を混合し、これに硬化剤を添加する方法が好ましい。また、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、光安定剤、硬化触媒などの添加剤を添加する場合は、顔料と共に、樹脂成分(xt)の溶剤溶液に混合することが好ましい。
【0121】
組成物(Y1a)の各成分の配合順序に限定はないが、ケイ素含有化合物(A)の親水化促進剤を添加する場合は、前記親水化促進剤を予めケイ素含有化合物(A)に添加しておくことが好ましい。また、組成物(Y1a)を溶剤組成物に配合してから塗布するまでの時間が長い場合は、組成物(Y1a)を塗布する直前に親水化促進剤を配合することが好ましい。
【0122】
組成物(X1a)および組成物(Y1a)の硬化の方式に限定はなく、熱硬化型、熱可塑型、常温乾燥型、常温硬化型など種々の硬化方式を用いることができる。
【0123】
組成物(X1a)を被塗装物に塗装するに際しては、事前に表面の研磨、サンダー処理、封孔処理、プライマー処理、下塗り剤の塗布など、通常塗料を塗布する際に使用する前処理を行うことが好ましい。前処理の種類は1種であっても2種以上であってもよく、各処理の回数も1回であっても2回以上であってもよい。ここで使用する封孔処理剤、プライマー、下塗り剤としては特に限定はなく、有機溶剤溶液、非水分散液、水性溶液又は水性分散液などがある。
【0124】
また、プライマーまたは下塗り剤としては、たとえば、エポキシ樹脂系、変性エポキシエステル樹脂系、ビニル樹脂系、塩化ゴム系などの塗料が挙げられ、必要によりリン酸亜鉛、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛、鉛酸カルシウム、シアナミド鉛、塩基性クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛などの防錆顔料、酸化鉄、雲母、アルミニウム、ガラスフレークなどの鱗片状顔料などを含んでもよい。また、防錆力を高めるため、ジンクリッチプライマーを用いてもよく、前記した下塗り材を2種類以上塗り重ねることもできる。
【0125】
組成物(X1a)および組成物(Y1a)を塗布する方法は、種々の方法を適用できる。たとえば、刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬法による塗装、ロールコーターやフローコーターによる塗装などが適用できる。組成物(X1a)および組成物(Y1a)の塗布は、組成物(X1a)が塗布され、乾燥して塗膜層(X)が形成された後に、組成物(Y1a)を塗布することにより行うことが好ましい。また中間層を形成させる場合には、組成物(Y1a)の塗布前に必要に応じて塗布などの方法で中間層の形成を行う。
【0126】
組成物(Y1a)の塗布は組成物(X1a)(及び中間層)が完全に乾燥する前に行ってもよい。組成物(X1a)および組成物(Y1a)の塗布は、1回以上行ってもよい。塗布を複数回行う方法は、タレを発生させずに膜厚を厚くする方法として好ましい。
【0127】
[熱線高反射塗装物の製造方法(IVb)]
熱線高反射塗装物の製造方法(IVb)は、熱線高反射塗装物(IIIb)の製造方法である。熱線高反射塗装物の製造方法(IIIb)における組成物(X1)は水を含む組成物(X1b)であり、組成物(Y1)は非フッ素系重合体(B)と水を含む組成物(Y1b)であり、塗膜層(Y)は非フッ素系重合体(B)が含まれる塗膜層(Yb)である。
【0128】
組成物(X1b)は、塗膜層(X)を形成させる塗料組成物、組成物(Y1b)は、塗膜層(Yb)を形成させる塗料組成物であり、それぞれ、塗膜層(X)または塗膜層(Yb)に含有させる各必須成分、任意成分、及び水を含む塗布用組成物である。
すなわち、組成物(X1b)は複合顔料M、フッ素樹脂(x)及び水を必須成分とし、塗膜層(X)における任意成分を含んでもよい。また、組成物(Y1b)は非フッ素系重合体(B)、フッ素樹脂(y)及び水を必須成分とし、塗膜層(Yb)の任意成分を含んでもよい。
組成物(X1b)および組成物(Y1b)における溶媒としては水以外に塗料組成物(Ib)における溶剤と同様のものを併用することができる。組成物(X1b)および組成物(Y1b)は、各々塗膜層(X)または塗膜層(Yb)に含有させる各必須成分及び任意成分を水を含む溶媒に溶解または分散させた水系組成物とする。
【0129】
組成物(X1b)の各成分の配合順序に限定はないが、硬化剤を添加する場合は、予め樹脂成分(xt)の水溶液に複合顔料M等の顔料を混合し、これに硬化剤を添加する方法が好ましい。また、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、たれ防止剤、表面調整剤、粘性調整剤、分散剤、光安定剤、硬化触媒などの添加剤を添加する場合は、顔料と共に、樹脂成分(xt)の水溶液に混合することが好ましい。
【0130】
組成物(X1b)および組成物(Y1b)の硬化の方式に限定はなく、熱硬化型、熱可塑型、常温乾燥型、常温硬化型など種々の硬化方式を用いることができる。
【0131】
組成物(X1b)を被塗装物に塗装するに際しては、熱線高反射塗装物の製造方法(IIIb)における組成物(X1a)の塗装の際と同様の前処理を行うことが好ましい。
また、組成物(X1b)および組成物(Y1b)を塗布する方法は、組成物(X1a)および組成物(Y1a)を塗布するのと同様の方法を採用できる。また中間層を形成させる場合には、組成物(Y1b)の塗布前に必要に応じて塗布などの方法で中間層の形成を行う。
組成物(Y1b)の塗布は組成物(X1b)(及び中間層)が完全に乾燥する前に行ってもよい。組成物(X1b)および組成物(Y1b)の塗布は、1回以上行ってもよい。塗布を複数回行う方法は、タレを発生させずに膜厚を厚くする方法として好ましい。
【実施例】
【0132】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例および比較例において用いた基材、主剤、及び硬化剤組成物は、下記のとおりである。また、顔料を含有する主剤をエナメル主剤、含有しない主剤をクリヤー主剤という。
【0133】
[処方]
(基材)
基材としては、140mm×240mm×0.5mmのクロメート処理されたアルミ板に、下塗り剤と中塗り剤とを順次塗布したものを用いた。
下塗り剤としては、ボンエポコート55MP、白色(AGCコーテック社製、エポキシ塗料)を用いた。中塗り剤としては、ボンフロン#1000白色(AGCコーテック社製、フッ素塗料)を用いた。
【0134】
(エナメル主剤1)
フッ素樹脂ルミフロンLF−200の69.0gにキシレン18.0gを加えた。次に、ダイピロキサイド ブラック#9581(大日精化工業社製 Cu、Bi複合酸化物顔料)の13.0gを加えてサンドミルで分散を行った。さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものをエナメル主剤1とした。
【0135】
(エナメル主剤2)
フッ素樹脂ルミフロンLF−200の69.0gにキシレン18.0gを加えた。次に、ブラック6301(アサヒ化成工業社製、Mn、Bi複合酸化物顔料、マンガン含有量29質量%)を13.0g加えてサンドミルで分散を行った。さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものをエナメル主剤2とした。
【0136】
(エナメル主剤3)
フッ素樹脂ルミフロンLF−200の69.0gにキシレン28.0gを加えた。次に、三菱カーボンブラックMA−11(三菱化学社製)を3.0g加えてサンドミルで分散を行った。さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものをエナメル主剤3とした。
【0137】
(エナメル主剤4)
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体である弱溶剤溶解型フッ素樹脂ルミフロンLF−800S[旭硝子社製、水酸基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:52mgKOH/g)60質量%を含む有機溶剤溶液]の64.28gにミネラルスピリットA(新日本石油化学社製)の22.72gを加えた。
次に、ダイピロキサイド ブラック#9581(大日精化工業社製 Cu、Bi複合酸化物顔料)の13.0gを加えてサンドミルで分散を行った。さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものをエナメル主剤4とした。
【0138】
(クリヤー主剤1)
フッ素樹脂ルミフロンLF−200の69.00gに、紫外線吸収剤(共同製薬社製:Viosorb910)の3.0g、キシレンの28.00gを加え、さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものをクリヤー主剤1とした。
【0139】
(硬化剤組成物1)
デュラネートA2400−100(旭化成ケミカルズ社製 弱溶剤可溶型無黄変タイプイソシアネート系硬化剤)の20.9gに、エチルシリケート48(コルコート社製 SiO分48重量%のエチルシリケート縮合物)の10.8gとミネラルスピリットA(新日本石油化学社製)の18.3gを加えて混合したものを、硬化剤組成物1とした。
【0140】
(硬化剤組成物2)
デュラネートA2400−100(旭化成ケミカルズ社製 弱溶剤可溶型無黄変タイプイソシアネート系硬化剤)の20.9gに、ミネラルスピリットA(新日本石油化学社製)の29.1gを加えて混合したものを、硬化剤組成物2とした。
【0141】
(硬化剤組成物3)
コロネートHX(日本ポリウレタン製、無黄変タイプイソシアネート系硬化剤)の30.8gにアルミキレートD(川研ファインケミカル社製、アルミニウムキレート化合物)の1.8g加え混合し、さらに、MKCシリケートMS56S〔三菱化学社製、SiO分56重量%のメチルシリケート縮合物〕の17.4g加えて混合したものを硬化剤組成物3とした。
【0142】
(硬化剤組成物4)
コロネートHXの30.8gにキシレン19.2gを加え混合したものを硬化剤組成物4とした。
【0143】
(実施例1)
エナメル主剤1の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物3を12g(乾燥固形分として9.7g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、実施例1の試験体を得た。
【0144】
(実施例2)
エナメル主剤1の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物4を12g(乾燥固形分として7.4g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布し、気温23℃相対湿度60%下にて24時間養生して、塗膜層(X)を形成した。
次に、クリヤー主剤1の100g(乾燥固形分として45g)に、硬化剤組成物3を12g(乾燥固形分として9.7g)混合して得た塗料組成物を、塗膜層(X)の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布し、塗膜層(Y)を形成した。
その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、実施例2の試験体を得た。
【0145】
(実施例3)
エナメル主剤1の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物4を12g(乾燥固形分として7.4g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、実施例3の試験体を得た。
【0146】
(実施例4)
エナメル主剤1の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物4を12g(乾燥固形分として7.4g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布し、気温23℃相対湿度60%下にて24時間養生して、塗膜層(X)を形成した。
次に、クリヤー主剤1の100g(乾燥固形分として45g)に、硬化剤組成物4を12g(乾燥固形分として7.4g)混合して得た塗料組成物を、塗膜層(X)の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布し、塗膜層(Y)を形成した。
その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、実施例4の試験体を得た。
【0147】
(実施例5)
エナメル主剤4の100g(乾燥固形分として52g)に、硬化剤組成物2を15g(乾燥固形分として6.3g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、実施例5の試験体を得た。
【0148】
(比較例1)
エナメル主剤2の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物3を12g(乾燥固形分として9.7g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、比較例1の試験体を得た。
【0149】
(比較例2)
エナメル主剤2の100g(乾燥固形分として54g)に、硬化剤組成物4を12g(乾燥固形分として7.4g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、比較例2の試験体を得た。
【0150】
(比較例3)
エナメル主剤3の100g(乾燥固形分として44g)に、硬化剤組成物3を12g(乾燥固形分として9.7g)混合して得た塗料組成物を、基材の上にバーコーターにて、膜厚30μmとなるように塗布した。その後、気温23℃相対湿度60%下にて7日間養生を行い、比較例3の試験体を得た。
【0151】
[評価]
(初期付着性試験)
各試験体について、JIS K5600−5−6(付着性:クロスカット法)に準じて、塗膜の付着性を評価した。結果を表1に示す。
【0152】
(初期日射反射率測定)
各試験体について、紫外可視近赤外分光光度計 V−670(日本分光社製)にて分光反射率を測定し、JIS K5602(塗膜の日射反射率の求め方)に準じて、近赤外域の日射反射率を算出した。結果を表1に示す。
【0153】
(塗膜の水接触角測定)
各試験体の養生後、イオン交換水に浸漬1日後における表面静水接触角を接触角測定機DropMaster(協和界面科学製)にて、測定し、親水性を評価した。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
表1に示すように、複合顔料Mを含有する実施例1〜5では、複合顔料M以外の顔料を用いた比較例1〜3より、近赤外域の日射反射率が高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料とフッ素樹脂とを含有することを特徴する熱線高反射塗料組成物。
【請求項2】
さらに、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)を含有する請求項1に記載の熱線高反射塗料組成物。
【請求項3】
さらに、溶剤を含有する請求項2に記載の熱線高反射塗料組成物。
【請求項4】
さらに、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)を含有する請求項1に記載の熱線高反射塗料組成物。
【請求項5】
さらに、水を含有する請求項4に記載の熱線高反射塗料組成物。
【請求項6】
さらに、硬化剤を含有する請求項1〜5の何れか一項に記載の熱線高反射塗料組成物。
【請求項7】
Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)、フッ素樹脂、硬化剤及び溶剤を含有する熱線高反射塗料組成物の調製用キットであって、
前記複合金属酸化物顔料、前記フッ素樹脂、および溶剤の一部を含有する主剤、ならびに前記ケイ素含有化合物(A)、硬化剤、および溶剤の残部を含有する硬化用組成物からなる熱線高反射塗料組成物調製用キット。
【請求項8】
Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)、フッ素樹脂、硬化剤及び水を含有する熱線高反射塗料組成物の調製用キットであって、
前記複合金属酸化物顔料、前記フッ素樹脂、および水の一部を含有する主剤、ならびに前記非フッ素系重合体(B)、硬化剤、および水の残部を含有する硬化用組成物からなる熱線高反射塗料組成物調製用キット。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載の熱線高反射塗料組成物を塗装して形成された塗膜を有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
【請求項10】
被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、
前記塗膜層(X)は、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)を含有し、
前記塗膜層(Y)は、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)と、フッ素樹脂(y)とを含有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
【請求項11】
被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、
前記塗膜層(X)は、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)を含有し、
前記塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)と、フッ素樹脂(y)とを含有することを特徴とする熱線高反射塗装物。
【請求項12】
前記塗膜層(X)および/または前記塗膜層(Y)が、さらに硬化剤を含有する請求項10または11に記載の熱線高反射塗装物。
【請求項13】
被塗装物上に、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)と溶剤を含む組成物(X1)を塗布して塗膜層(X)を形成させ、
つぎに、該塗膜層(X)上に、一般式Si(OR)(式中、Rは互いに同一でも異なってもよく、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表される化合物および/またはその部分縮合物からなるケイ素含有化合物(A)と、フッ素樹脂(y)と溶剤を含む組成物(Y1)を塗布して塗膜層(Y)を形成させることを特徴とする熱線高反射塗装物の製造方法。
【請求項14】
被塗装物上に、Biの酸化物とCuの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料と、樹脂成分(xt)と水を含む組成物(X1)を塗布して塗膜層(X)を形成させ、
つぎに、該塗膜層(X)上に、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を全繰り返し単位に対して10質量%以上含む非フッ素系重合体(B)と、フッ素樹脂(y)と水を含む組成物(Y1)を塗布して塗膜層(Y)を形成させることを特徴とする熱線高反射塗装物の製造方法。

【公開番号】特開2013−6898(P2013−6898A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138454(P2011−138454)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】