説明

熱脱離用サンプリングチューブの完全性を検証するための方法

本発明は、サンプル内の分析対象物を分析機器に対して移送するための方法に関するものであって、この方法においては、吸着性材料を収容している第1容器内へと第1所定量の標準材料を導入し;そしてその次に、第1容器内へと所定量のサンプルを導入し;さらにその後に、サンプル内の分析対象物および標準材料内の化合物を、分析機器に対して移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願人は、米国特許法第119条第e項に基づき、2003年5月23日付けで出願された米国特許予備出願シリアル番号第60/472,854号明細書の優先権を主張する。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱脱離用サンプリングチューブの完全性を検証するための方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
米国環境保護局(EPA)は、サンプル中の化合物の相対存在量を比較し得るようなしたがって化合物を決定し得るような規格を確立している。例えば、ブロモフルオロベンゼン(BFB)やデカフルオロフェニルフォスフィン(DFTPP)といったような標準化合物を使用することにより、水中における揮発性のまたは準揮発性の有機化合物を、分析することができる。標準化合物は、標準条件下において、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)システム内へと注入される。得られるスペクトルを検証することにより、GC−MSシステムの性能特性を決定することができる。このような性能特性には、イオン質量解像度や、相対的イオン存在量や、分析されたイオン質量の範囲に関しての質量精度、がある。質量分析計を校正することにより、EPA規格に適合するBFBあるいはDFTPPのスペクトルを得ることができる。市販の質量分析計は、EPA規格に適合し得るように校正し得るものでなければならない。これにより、サンプル中における特定の化合物の存在を正確に決定することができる。
【0004】
エアサンプルおよび他のガスマトリクスの分析においては、サンプル中に存在する揮発性有機化合物(VOC)を収集するための一般的な手法は、適切な吸着材料がパッケージングされたチューブを通して、一定の速度でもって、サンプルを吸引することである。これは、ポンピング式のサンプリングとして公知である。ポンピング式のサンプリングの代替的な手法においては、エア中のVOCを、自然な拡散によってチューブ内へと移動させる。これは、拡散式のサンプリングあるいは受動的サンプリングとして公知である。
【0005】
VOCを収集した後には、それらVOCは、熱脱離装置内においてチューブを加熱することによって、蒸発する。例えばヘリウムや窒素といったような不活性ガスをチューブ内へと流すことによって、VOC蒸気を、ガスクロマトグラフィー(GC)カラムへと案内することができ、分離および分析を行うことができる。通常は、熱脱離装置内においてさらなるトラップを使用することによって、GC内への注入に先立ってのVOC分析対象物の予備濃縮を行う。図1および図2は、この技術を図示している。
【0006】
しかしながら、チューブの取扱いプロセスやサンプリングプロセスや貯蔵プロセスや分析プロセスに関して適切な注意が払われない場合には、チューブからのサンプルの漏洩や貯蔵装置からの化合物の進入のために、分析結果に誤差が生じ得る。うまくないことに、そのような漏洩が生じたかどうかを確認する機構が設けられておらず、そのため、データの有効性を保証することができない。
【0007】
したがって、熱脱離用サンプリングチューブの完全性を検証するための方法および装置が提供されることは、有利なことである。
【特許文献1】米国特許予備出願シリアル番号第60/472,854号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による熱脱離システムには、内部標準ガス(IS)の供給機構が付設されている。この供給機構を使用することにより、所定量(典型的には、0.5mL)の加圧された標準ガスを、サンプリングや脱離や分析に先立って、クリーンな(クリーニングされた)サンプルチューブ内へと供給することができる。標準ガスは、サンプル内に存在していないことが既知であるような1つまたは複数の化合物を含有している。しかしながら、そのような化合物は、サンプル化合物に対して同様の濃度および化学特性を有したものとされる。最終クロマトグラフィーにおいては、これら標準ガス化合物からのピークが認識されて定量化され、このピークを使用することにより、分析対象物をなす化合物に関する定量的結果を比率的に修正することができる。
【0009】
この技術は、分析結果に影響を与え得るような構造的変動を補償する。すなわち、標準ガス化合物と各分析対象物との双方が同じ変動を受けることのために、相対的応答が、分析対象物の存在の量に関するより正確な定量的測定結果をもたらす。
【0010】
分析を十分に良好に制御し得るよう、チューブを使用してサンプリングを行う前に、標準ガスが導入される。標準ガスの供給機構を修正することによって、熱脱離ステップを行うことなく吸着性チューブをクリーニングするために標準ガスを供給することができる。このようにして、例えば、自動熱脱離(ATD)システムにおける50本のサンプルチューブというフルセットを、ISを使用して迅速に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、チューブにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示す図である。
【0012】
図2は、トラップにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示す図である。
【0013】
図3は、内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図である。
【0014】
図4は、図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、サンプルループの充填のための構成を示している。
【0015】
図5は、図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、チューブに対する導入のための構成を示している。
【0016】
図6は、図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、チューブにおいて脱離を行うための構成を示している。
【0017】
図7は、図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、トラップにおいて脱離を行うための構成を示している。
【0018】
図8は、コンピュータネットワークおよびガスクロマトグラフに対して接続された図3の熱脱離装置を概略的に示す図である。
【0019】
図9は、質量電荷比m/zの関数として、対象をなす分析対象物の存在量の質量分析におけるピークを示すグラフである。
【0020】
図1は、チューブにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示している。図2は、トラップにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示している。
【0021】
熱脱離システムは、図3において、全体的に符号200によって示されている。熱脱離システム200は、第1ロータリーバルブ(RVB)206を備えている。この第1ロータリーバルブ206は、一組をなす複数のポート206a,206b,206c,206dを有している。ポート206a,206b,206c,206dは、流体導入セグメントと流体導出セグメントとを有している。第1ロータリーバルブ206は、ポート206dの導管204を介して標準ガス272に対して流体連通している。導管208は、サンプルループ210を有しているものであって、第1ロータリーバルブ206のポート206dとポート206cとの間の流体連通をもたらしている。ループロードベント216は、例えばチャコールフィルタといったようなフィルタ218とバルブ220(ISV1)と流量調整バルブ222とを有しているものであって、ポート206cを介して第1ロータリーバルブ206からの放出を行う。第1ロータリーバルブ206は、さらに、ポート206bの導管292を介して、キャリアガス274と流体連通している。
【0022】
熱脱離システム200は、さらに、第2ロータリーバルブ(RVA)240を備えている。この第2ロータリーバルブ240は、一組をなす複数のポート240a,240bを有している。ポート240a,240b、流体導入セグメントと流体導出セグメントとを有している。第2ロータリーバルブ240と第1ロータリーバルブ206とは、導管212を介して、それぞれのポート240aおよびポート206aのところにおいて互いに流体連通している。導入側の分岐ライン214は、フィルタ224とバルブ226(SV5)と流量調整バルブ228とを有しているものであって、ポート240aを介して、第2ロータリーバルブ240からの放出を行う。第2ロータリーバルブ240は、ポート240aの導管236およびサンプルチューブ238を介して、キャリアガス274と流体連通している。導管236は、バルブ232(SV1)と圧力センサ234とを有している。チューブロードベント298は、サンプルチューブ238からの放出を行うものであって、バルブ266(ISV2)と流量調整バルブ268を有している。第2ロータリーバルブ240は、さらに、導管260を介して、トラップ258と流体連通している。導管260は、フィルタ262とバルブ264(SV3)と脱離ベント296とを有しているものであって、ポート240aを介して、第2ロータリーバルブ240からの放出を行う。導管260は、さらに、バルブ254(SV2)を介して、導出側分岐ライン244および導管256と流体連通している。バルブ254は、導管252を介して、キャリアガス274と流体連通している。導出側分岐ライン244は、フィルタ246とバルブ248(SV4)と流量調整バルブ250とを有しているものであって、第2ロータリーバルブ240からの放出を行う。移送ライン242は、ポート240bのところにおいて第2ロータリーバルブ240に対して接続されているものであって、ガスクロマトグラフ(図示せず)との流体連通を提供する。
【0023】
図3〜図7においては、第1ロータリーバルブ206と第2ロータリーバルブ240とは、それぞれの回転によって、様々な上記ダクトすなわち流体導管を、ポート206a,206b,206c,206d,240a,240b,240c,240dのいずれかの流体導入セグメントまたは流体導出セグメントに対して接続させるものである。これにより、バルブ220,226,248,264,266,254,232と関連させつつ、熱脱離システム200を通しての、標準ガス272の流れやサンプルガスの流れやキャリアガス274の流れを、制御したり案内したりすることができる。
【0024】
図4においては、窒素やヘリウムといったような標準ガス272が、導管204を介して第1ロータリーバルブ206内へと導入されており、その後、導管208およびサンプルループ210を通して前方向きに流通し、さらにその後、第1ロータリーバルブ206へと戻されており、さらにその後、ループロードベント216を介して大気圧下へと放出される。この流れは、流量調整バルブ222によって制御され、これにより、サンプルループ210内へと流入する標準ガス272内に含有された既知標準化合物の所定量を収集することができる、あるいは、サンプルループ210を通しての標準ガス272の質量流量を一定に維持することができる。キャリアガス274は、待機モードにおいて、導管252,256,242を通して熱脱離システム200内へと導入される。熱脱離システム200内における標準ガス272の流れおよびキャリアガス274の流れは、図4において、それぞれ、矢印276,278によっておよび矢印280によって、示されている。
【0025】
図5においては、第1ロータリーバルブ206の回転に基づき、キャリアガス274が、導管292を介して第1ロータリーバルブ206内へと流入することができる。キャリアガス274は、サンプルループ210内へと既に導入されている所定量の標準ガス272と混合される。そして、この混合物は、導管208を介してサンプルループ210を通して逆向きに案内され、第1ロータリーバルブ206へと戻り、その後、導管212を介して第2ロータリーバルブ240へと案内される。標準ガスとキャリアガスとの混合物は、第2ロータリーバルブ240から、吸着性材料を収容したサンプルチューブ238へと案内される。その後、キャリアガスは、バルブ266および流量調整バルブ268を介して、サンプルチューブ238からチューブロードベント298へと案内される。標準ガスとキャリアガスとの混合物の流れ、および、キャリアガスの流れは、図5において、それぞれ、矢印282,284によっておよび矢印286によって、示されている。
【0026】
上述したようなガス流通の結果、標準化合物の所定量を、例えばTENAX TA(登録商標)や TENAX GR(登録商標)や Chromosorb 102(登録商標)や Chromosorb 106(登録商標)や Spherocarb(登録商標)や炭素モレキュラーシーブやチャコールや Carbotrap(登録商標)や Carbopack C(登録商標)や Carbopack Y(登録商標)や Carbopack B(登録商標)や Poropak Q(登録商標)や Poropak N(登録商標)といったような吸着剤を収容したサンプルチューブ238内への吸着によって、収集することができる。これに代えて、標準化合物を含有しているガスの計量された流量を、脱離システム200内にわたって、したがってサンプルチューブ238を通して、流通させることができる。
【0027】
図6においては、第1ロータリーバルブ206および第2ロータリーバルブ240の回転に基づき、サンプルループ210と導管208と導管212とを含めて第1ロータリーバルブ206が、第2ロータリーバルブ240から、分離されている、あるいは、分離させることができる。この分離により、既知量の標準化合物を含有しているサンプルチューブ238を、取り外すことができ、おそらく分析対象物を含有しているガス状サンプルを、この場合には、別の位置で、サンプルチューブ238内に収集することができる。サンプルチューブ238は、その後、熱脱離システム200へと戻され、キャリアガス274を、導管230を介して熱脱離システム200内へと流入させることができる。キャリアガス274は、サンプルチューブ238と第2ロータリーバルブ240とを通して案内され、トラップ258を通過する。その後、脱離ベント260を通って、フィルタ262とバルブ264と流量調整バルブ296とを通過する。この流れは、矢印288によって示されている。操作者は、さらに、キャリアガス274の一部を、導入側分岐ライン214に対して案内することができ、その後、フィルタ224とバルブ226と流量調整バルブ228とを通過させることができる。この流れは、矢印288aによって示されている。キャリアガスをサンプルチューブ238を通して流す際には、サンプルチューブ238に対して、熱290を印加することができる。
【0028】
上述したようなガス流通の結果、サンプルチューブ238内において、脱離プロセスが起こる。これにより、標準化合物とサンプル分析対象物とが、キャリアガス274によってトラップ258に対して運ばれる。脱離は、熱脱離とすることができる。サンプルガス内に含有されている分析対象物、および、標準ガス中の標準化合物は、吸着剤を備え得るようなあるいは冷却され得るようなあるいはそれら双方とされ得るようなトラップ258内へと、収集される。
【0029】
図7においては、第2ロータリーバルブ240の回転に基づいてかつバルブ254の操作に基づいて、キャリアガス274を、導管252を介して熱脱離システム200内へと導入することができる。キャリアガス274は、さらに、導管276,260を通して案内され、その後、トラップ258を逆向きに通過し、その後、第2ロータリーバルブ240を通過する。第2ロータリーバルブ240においては、キャリアガスは、移行ライン242に沿ってガスクロマトグラフに対して案内される、および/または、導出側分岐ライン244に対して案内されて、フィルタ246とバルブ248と流量調整バルブ250とを通過する。この流れパターンは、矢印294,296によって示されている。
【0030】
上述したようなガス流通の結果、トラップ258内において、脱離プロセスが起こる。このような脱離プロセスは、熱脱離とすることができ、例えば、キャリアガスがトラップ258を逆向きに通過する際に、初期的には非常に低温(例えば、−25℃)とされたトラップ258に対して大量の熱を急激に印加することによって、引き起こすことができる。これにより、サンプル分析対象物および標準化合物は、ガスクロマトグラフに向けて流れる際には、物理的に互いに接近する。したがって、サンプルガスからの分析対象物、および、標準ガスからの標準化合物が、トラップ258内に収容されている吸着剤から放出される。このようにして放出された分析対象物および標準化合物は、キャリアガス274の流れによって、ガスクロマトグラフへと運ばれ、分析に供される。
【0031】
サンプルチューブを使用してサンプルガスを収集する前にサンプルチューブに対して標準ガスを加えることにより、操作者は、サンプルガスの分析システム全体にわたっての完全性を評価することができる。しかしながら、この手法では、サンプルガスのサンプリングや取扱いや貯蔵に基づく誤差と、装置の変動に由来する誤差と、を区別することができない。そのような区別は、サンプルガスを導入する前にまず最初に標準ガスを加えることにより、さらにその次に、サンプリング後にかつチューブからの脱離前に、先とは異なる第2の標準ガスを加えることにより、行うことができる。各標準ガスからのクロマトグラフィーのピークの面積の比率が、サンプルの完全性に関する真の指標である。第2標準ガスの追加を行うことによって、構造的な変動を修正することができる。第2の標準ガスは、質量分析計を校正し得るような、例えばブロモフルオロベンゼン(BFB)といったような化合物とすることができる。複数の標準ガスを使用する場合には、揮発性のより小さな標準ガスは、より強く保持され、チューブに漏れがある場合にはチューブからより速く失われるような揮発性標準ガスに対する参照として使用することができる。したがって、揮発性のより大きなガスと揮発性のより小さなガスとの間のクロマトグラフィーピークの面積の比は、サンプルの完全性に関しての指標をもたらす。図9は、質量電荷比m/zの関数として、分析対象物の存在量の質量分析におけるピーク178を示すグラフである。このグラフは、データの連続性を示しており、質量中心176と、最大値の半分の値のところにおける全幅(FWHM)180と、を有している。
【0032】
標準ガス中の化合物は、サンプルガス中の化合物から良好に分離されるものとして選択されるべきである。これにより、標準ガスは、サンプルガスをなす化合物を妨害することがなく、また、サンプルガスをなす化合物と同時に溶出することがない。例えば、ベンゼンやトルエンやキシレンが分析対象物である場合には、重水素を含んだトルエン(トルエン−D8)を、標準ガスとして使用することができる。トルエン−D8は、化学的にはトルエンとほぼ同じ化合物であるけれども、水素原子が重水素原子へと置き換えられている点において相違している。この相違点により、分子の合計質量に対して8つの原子量が加えられる。このため、標準ガスとして使用することができて、GC−MSシステムを使用してクロマトグラムを測定することにより、容易に識別することができる。トルエン−D8は、自然界には存在しない。したがって、自然的に発生する化合物によって妨害を受けることがない。
【0033】
本発明による方法においては、サンプルガス中の分析対象物および標準ガス中の化合物は、GC−MSへと案内され、そこで、ガスクロマトグラフによって分離され、質量分析計によってマススペクトルが決定される。標準ガス中の化合物(標準化合物)のマススペクトルは、標準ガスの化合物の既知のマススペクトルと比較される。標準化合物のマススペクトルが標準化合物の以前の既知のマススペクトルとは異なる場合、分析者は、サンプリングプロセスが妥協的なものであったかどうかを決定することができ、また、吸着性材料を収容した第1容器内へと第1所定量の標準ガスを導入しその後に第1容器内へと所定量のサンプルの量を導入しさらにその後にサンプルからなる分析対象物と標準ガスからなる化合物とを分析装置に対して移送するというプロセスを繰り返すかどうかを決定することができる。標準化合物のマススペクトルの決定に際しては、標準ガスからなる化合物の個々のマススペクトルの強度と、標準ガスからなる化合物の標準的なマススペクトルの強度と、を比較する。
【0034】
しかしながら、また、標準ガス内に第2所定量の化合物を、第1容器内へと導入することができる。その場合、第2標準ガスの組成は、第1標準ガスの組成とは、異なるものとされる。標準ガス中の第2化合物を第1容器内へと導入するに際しては、所定量のサンプルガスを第1容器内へと導入した後に、なおかつ、サンプルガス中の化合物と複数の標準ガス中の化合物とを分析装置へと移送する前に、第1容器内へと、標準ガス中の第2所定量の第2化合物を導入する。
【0035】
したがって、上述のようにして、熱脱離用サンプルチューブの完全性を検証する方法が、達成される。この方法においては、正確な量の既知標準ガスを導入し、疑わしい分析対象物に対して化学的特性が類似しているまたは分子構造が類似している化合物を、容器またはコンテナー内へと導入する。既知吸着性材料を収容しているサンプルチューブは、このチューブの加熱を行いつつ、例えば窒素やヘリウムといったような不活性ガスを流すことによって、クリーニングされる。この方法においては、さらに、ループ内へとキャリアガスを導入する。キャリアガスは、サンプルチューブに対する流れの中へと、標準ガス中の化合物を乗せる。標準ガス中の化合物は、吸着性材料に対して付着する。吸着性材料は、キャリアガスがサンプルチューブを通して放出される際には、雰囲気温度とすることができる。ここで、標準ガス中の既知化合物の正確な量は、吸着性材料上においてサンプルチューブ内に存在する。分析者は、この時点で、フィールドへとサンプルチューブを取り、疑わしい分析対象物を含有しているかもしれない所定量のサンプルガスを収集することができる。その場合、サンプルチューブは、標準ガスに由来する既知量の既知化合物と、未知量の未知サンプルと、未知量の分析対象物と、既知吸着性材料と、から構成される。チューブは、熱脱離装置内へと再設置され、キャリアガス流が、雰囲気温度でもってサンプルチューブを逆向きに流される。キャリアガスと標準化合物とサンプルとは、既知吸着性材料を収容している低温トラップを通して順方向に流れる。キャリアガスは、トラップを通って流れて放出される。一方、サンプルおよび標準化合物は、トラップ内に保持される。トラップに対して熱を急速に印加しながらキャリアガスを逆向きに流すことができる。これにより、トラップのクリーニングを補助することができる。トラップに対して熱を印加した場合、トラップ内部の吸着性材料は、サンプルガス内に分析対象物の分子を放出し、キャリアガスは、トラップから、標準化合物とサンプル分子(すべての分析対象物も含んでいる)とを、追い出す。その後、標準化合物と、分析対象物を含有したサンプルと、を付帯したキャリアガスの流れは、ガスクロマトグラフへと案内され、分析に供される。ここで、ループに対してのガス内に正確な量の第2の既知標準化合物を分析者が追加し
得るという点を除いては、上記方法を繰り返すことができる。その場合、関連するクロマトグラフィーピークの面積の比によって、サンプルチューブの完全性を検証することができる。
【0036】
したがって、上述したようにして、分析のためのガスクロマトグラフィー装置に対して、所定量のサンプルを移送するという方法、あるいは、おそらくサンプルの疑わしい分析対象物を移送するという方法を、実施することができる。この方法においては、吸着性材料を収容している第1容器内へと所定量の標準材料を導入し、第1容器内へと所定量のサンプルを導入し、サンプルおよび標準材料を分析装置に対して移送する。
【0037】
図8に示すように、上述した方法は、コンピュータ300の管理下とされた熱脱離システム200として、実施することができる。コンピュータ300は、また、イントラネットまたはインターネットといったようなコンピュータネットワークまたは通信ネットワーク500を使用して、遠隔したコンピュータに対して接続することができ、さらに、サンプルの分析のためのガスクロマトグラフ(GC)400に対して接続することができる。コンピュータは、サンプル内の化合物や元素の濃度を代理する信号を、送信したり受信したり格納したりあるいは処理したりし得るように、構成される。したがって、熱脱離方法におけるサンプルチューブの真の完全性を検証することができる。
【0038】
本発明においては、記憶媒体は、熱脱離用サンプリングチューブの完全性を検証する方法を実施し得るよう、機械読取可能なプログラムコードによって符号化される。プログラムコードは、吸着性材料を収容した第1容器内へと第1所定量の標準材料をまず最初に導入しその次に第1容器内へと所定量のサンプルを導入しさらにその後にサンプルの分析対象物および標準材料の化合物を分析機器に対して移送することによって、熱脱離システムを使用してサンプルの分析対象物を分析機器に対して移送するための命令を備えている。
【0039】
上記説明においては、第1や第2や前や後などといったような、他の部材やデバイスに対してのある部材やデバイスの位置を示すような表現または用語は、本発明を例示するためのものであって、本発明を何ら限定するものではないことは、理解されるであろう。さらに、本発明がその好ましい実施形態を参照して説明されているけれども、当業者であれば、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行い得ること、および、各構成部材を様々な均等物によって置換し得ることは、理解されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲を逸脱することなく、本発明に基づいて、特定の状況や特定の材料に適応させるための様々な変形を行うことができる。したがって、本発明は、上述した特定の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明は、特許請求の範囲に属するすべての実施態様を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】チューブにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示す図である。
【図2】トラップにおいて脱離を行うような熱脱離装置を概略的に示す図である。
【図3】内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図である。
【図4】図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、サンプルループの充填のための構成を示している。
【図5】図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、チューブに対する導入のための構成を示している。
【図6】図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、チューブにおいて脱離を行うための構成を示している。
【図7】図3の内部標準を備えた熱脱離装置を概略的に示す図であって、トラップにおいて脱離を行うための構成を示している。
【図8】コンピュータネットワークおよびガスクロマトグラフに対して接続された図3の熱脱離装置を概略的に示す図である。
【図9】質量電荷比m/zの関数として、対象をなす分析対象物の存在量の質量分析におけるピークを示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
200 熱脱離システム
258 トラップ
272 標準ガス
274 キャリアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル内の分析対象物を分析機器に対して移送するための方法であって、
吸着性材料を収容している第1容器内へと第1所定量の標準材料を導入し;
その次に、前記第1容器内へと所定量のサンプルを導入し;
さらにその後、前記サンプル内の分析対象物および前記標準材料内の化合物を、分析機器に対して移送する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記標準材料を、既知量のかつ既知組成の標準ガスとすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、
前記サンプルを、ガスとすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送するに際しては、キャリアガスの流れに乗せて、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法において、
前記吸着性材料に前記標準ガス内の前記化合物を吸着させることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、
前記第1容器から前記キャリアガスを放出することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送するに際しては、前記第1容器から、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を脱離させることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を脱離させるに際しては、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を、熱的に脱離させることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項3記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を、前記第1容器から、吸着材料を収容した第2容器へと、移送することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記第1容器から前記第2容器への前記移送を、キャリアガスの流れに乗せて行うことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記第1容器から前記第2容器への前記移送をキャリアガスの流れに乗せて行うに際しては、前記第2容器内の前記吸着性材料に、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を吸着させることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、
前記第2容器から前記キャリアガスを放出することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送するに際しては、前記第2容器から、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を脱離させることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記第2容器から脱離させるに際しては、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を、熱的に脱離させることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、
ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送するに際しては、キャリアガスの流れに乗せて、ガスとされた前記サンプル内の分析対象物および標準ガスとされた前記標準材料内の化合物を前記分析機器に対して移送することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項3記載の方法において、
前記標準ガス内の前記化合物を、ガスとされた前記サンプル内の前記分析対象物の中に存在しない1つまたは複数の化合物とし、さらに、この化合物を、ガスとされた前記サンプル内の前記分析対象物に対して同様の特性および組成を有したものとすることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項13記載の方法において、
前記標準ガス内の前記化合物を、ブロモフルオロベンゼンとすることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項4記載の方法において、
前記キャリアガスを、ヘリウム、または、窒素、または、水素とすることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項3記載の方法において、
さらに、
標準ガスとされた前記標準材料内の前記化合物からガスとされた前記サンプル内の分析対象物を分離し;
前記標準ガス内の前記化合物のマススペクトルを決定し;
前記標準ガス内の前記化合物の前記マススペクトルを、前記標準ガス内の前記化合物の既知のマススペクトルと比較し;
前記標準ガス内の前記化合物の前記マススペクトルが、前記標準ガス内の前記化合物の既知のマススペクトルと異なっている場合には、請求項1に記載された方法を繰り返すことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、
前記標準ガス内の前記化合物の前記マススペクトルの前記決定に際しては、前記標準ガス内の前記化合物の個々のマススペクトルの強度を、前記標準ガス内の前記化合物の標準的なマススペクトルの強度と比較することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項3記載の方法において、
前記第1容器内へと第2所定量の標準ガスを導入し、この際、この標準ガスを、前記第1所定量の前記標準ガスとは異なるものとすることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、
前記第1容器内への前記第2所定量の前記標準ガスの導入に際しては、前記所定量の前記サンプルガスを前記第1容器内へと導入した後に、なおかつ、前記サンプルガス内の前記分析対象物と前記標準ガス内の前記化合物とを前記分析機器へと移送する前に、前記第1容器内へと前記第2所定量の前記標準ガスを導入することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、
前記第2所定量の前記標準ガスのマススペクトルが標準値となるように、前記分析機器の校正を行うことを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項19記載の方法において、
前記サンプルガス内の前記分析対象物のマススペクトルを決定し;
前記サンプルガス内の前記分析対象物の前記マススペクトルを、前記サンプルガス内の前記分析対象物の既知のマススペクトルと比較する;
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−526154(P2006−526154A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514970(P2006−514970)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/016555
【国際公開番号】WO2005/015165
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505359506)パーキンエルマー・エルエーエス・インコーポレーテッド (28)
【Fターム(参考)】