説明

熱膨張、収縮による内圧により電気抵抗に影響を与え、超伝導発現に寄与する事を特徴とする線材。

【課題】電気抵抗に影響を与え、超伝導現象発現に寄与する線材に於いて、芯線の熱膨張を抑えられる程の厚みをもった被覆する物質を低温状態で被覆することにより、電気抵抗への影響及び及び超電導を発現する方法、装置及びそれを用いた線材を提供する。
【解決手段】芯線(MgB2)を冷却14し、420℃以上の融点を持つ被覆する物質(Fe)を溶融状態で偏心無きように被覆8し、芯線の内部まで温度上昇する前に急冷9し、芯線の温度上昇に伴う膨張と、被覆材の冷却による収縮とにより内圧力を生じさせ、また伸線方向にも圧力をかけることが出来る。用いる芯線を作る方法として、フィルムに散布し丸める手段4、また静電付着させる手段7、そのまま被覆材に押し出す手段が可能で、また線材に高周波、レーザーによる熱処理、表面処理を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗に影響を与え、超伝導現象発現に寄与する線材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気抵抗が圧力に影響を受けることは、金クロム線の電気抵抗が圧力によって変化することが知られ、その原理を利用した圧力計が使用されている。(例えば非特許文献4)また、多くの物質が圧力をかけることによって超伝導が発現することは知られていた。(例えば非特許文献2、3)
従来、酸化物系超伝導体や2ホウ化マグネシウム等超伝導物質の線材を引くために金属管に原料粉体を詰め、延伸する方法が知られていた。(例えば特許文献1、非特許文献1)この方法では延伸する為、伸線方向に圧力をかけることは出来なかった。また、この工程は連続生産が困難であり、製造コストが割高となっていた。
また、溶融金属を回転する冷却ロールに吹きつけ、毎秒約100万度の冷却速度でアモルファス合金を製造する技術も知られていた。(例えば非特許文献5)
また、超伝導線材においても冷却用金属材への接触による冷却処理は知られていた。(例えば特許文献2)
しかし、あらかじめ芯となる芯線を0℃以下に冷却する本発明方法は知られていなかった。
【特許文献1】特許公開2004−296156(第1頁 図1)
【特許文献2】特許公開2004−207179(請求項1)
【非特許文献1】「超伝導材料」、萩原宏康著」
【非特許文献2】「ホームページ 新しい高圧力の科学」、埼玉大学理学部物理学科」
【非特許文献3】「ホームページ 報道発表一覧 固体の酸素に超伝導現象」、日本原子力研究所 科学技術振興事業団」平成10年6月25日」
【非特許文献4】「理化学辞典」、岩波書店」
【非特許文献5】「ホームページ 東芝の磁性材料部品 アモルファス合金とは」、東芝マテリアル株式会社」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
【0004】
芯線に圧力をかける方法として、焼きはめの様に芯線を常温以下に冷却しておき、加熱した被覆材に押し込むことによって熱膨張を抑えつけることが考えられる。
しかし、焼きはめを行っても線材に延伸するため、伸線方向への圧力はかけられなかった。また、焼きはめを行う為には高度の加工精度が求められ、コストアップが懸念された。焼きはめ以外の方法で芯線の熱膨張を抑えられる程の厚みをもった被覆する物質を低温状態で被覆することは困難であった。メッキ法、ゾルゲル法、スパッタリング法、化学および物理蒸着法、エピタキシャル成長法等、いずれも強度を満たす厚みが出せないか低温では実施は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
0℃以下に冷却した芯となる例えば2ホウ化マグネシウム芯線に、被覆する融点420℃以上の物質例えば鉄を溶融状態で被覆し、芯線の内部まで温度上昇する前に例えば冷却金属による接触によって急冷し、芯線の温度上昇に伴う膨張と、凝固した被覆材の冷却による収縮とにより内圧力を生じさせる線材を作成する。このようにすれば、被覆物質が凝固する際に伸線方向にも圧力をかけることが出来る。
その線材を作成する為に、芯線を0℃以下に冷却する装置と、冷却された芯線を押し出しまたは引っ張る装置と、被覆する融点420℃以上の物質例えば鉄を溶融し圧力と弁により出湯する量を制御する炉と、溶融した物質のスラグを除去する装置と、溶融した物質の供給口と、前記芯線を被覆するため円周方向に溝を刻んだ溶融物質を急冷するホイールと、芯線を被覆の中心に保持する装置と、ホイール及び被覆された線材を冷却する装置と、被覆され冷却された線材を巻き取る装置とから構成される線材を製造する装置を用いる。
また、芯線を製造する為にフィルムに芯線材料の粉体を散布し、そのフィルムを丸めることにより芯線となすことを特徴とする芯線を製造する装置を用いる。内圧が高くなりすぎる場合にはフィルムに発泡性のものを使用してもかまわない。
また、フィルムに粘着性があってもかまわない。
必要に応じて、0℃以下に冷却した芯線に高周波およびレーザーで表面のみを溶融させ、急冷する方法を用いる。
線材を焼き入れ、焼きなまし、焼き戻し等の熱処理、および浸炭処理、窒化処理、ボロナイジング、シェラダイジング、アルミナイジング、サルファライジング、シリコナイジング、クロマイジング等の表面処理を行う。
また、芯線に電圧をかけ、静電力を生じさせ、原料となる粉体を吸着せしめ、かつまたは芯線に粘着接着性物質を塗布したものに原料となる粉体を粘着接着せしめた芯線を冷却し溶融した被覆物で被覆し急冷する。
芯線となる粉体を溶融状態の被覆する物質に押し出し、急冷する方法も用いる。
必要に応じて、芯線の冷却温度と被覆材の凝固温度の差を段階的に小さくしながら複数回本発明の線材の製造法をくりかえしてもかまわない。
【発明の効果】
【0006】
冷却した芯線の熱膨張による内圧および、溶融した被覆材が凝固後の冷却によって収縮することにより発生する内圧が発生する。
その内圧を被覆材によって押さえられるか推算によって検討する。
アモルファス合金リボンをホイールで製造する際には、約1×10℃/秒の冷却速度が技術的に可能であり、被覆物質を被覆し急冷する際の芯線の温度上昇は無視する。
芯線、被覆する物質共に材質の
ヤング率Eを200GPaと仮定する。
線膨張係数を1.2×10−5であると仮定する。
ポアソン比νを0.3と仮定する。
これらは鉄の一般的な値である。
いずれの値も温度にかかわらず一定であると仮定する。
被覆材の凝固温度を1200℃とする。
芯線の冷却温度を−200℃とする。
室温を25℃とする。
芯線の外径を0.3mm。被覆を含めた外径を1.0mmとする。
1.ヤング率とポアソン比から体積弾性係数Kを求める。
【数1】

2.線膨張係数から体膨張係数を求める。
等方物質と仮定した場合、
【数2】

となる。
3.体膨張係数から体積ひずみεvを求める。
【数3】

4.
【数1】
の体積弾性係数Kと
【数4】
の体積弾性係数の定義から温度上昇に伴う内圧Pを求める。
【数4】

これが温度上昇に伴う内圧となる。
5.被覆の凝固後の冷却に伴う内圧(焼きはめの内圧)として、以下の式がある。
【数5】

Pm:両円筒の接触面に生ずる圧力(MPa),r:内側円筒の内半径(m),r:内側円筒の外半径(m),r:外側円筒の外半径(m),δ:焼きはめしろ(m),E:縦弾性係数(Mpa)
仮に1200℃で凝固するものを、室温25℃に冷却し、被覆の内径半径rも同じ割合で収縮したとすると、焼きはめしろは、
【数6】

となる。
この値を
【数5】
に代入すると、被覆材の収縮により発生する内圧は1.92GPaとなる。
冷却した芯線の膨張による内圧と、被覆材が凝固後冷却、収縮により発生する内圧の合計が、芯線にかかる内圧となる。すなわち、1.35+1.92=3.27GPaとなる。
この内圧を被覆材が抑えられるか検討を行う。
パイプ及び圧力容器の強度計算にフープ応力の式がある。
【数7】

p1:内圧(MPa),r:円筒の中心から肉厚板の内部の点までの距離(m),r:内壁の半径(m),r:外壁の半径(m)。
より計算すると、
【非特許文献5】「機械工学必携 第8版」馬場秋次郎 吉田嘉太郎偏 三省堂 104〜105ページ」
【数7】
式に代入すると、被覆材に芯線近傍では3917MPaの応力を受けるが、外表面では647MPaの応力となる。
既存の材質においても引張強度が700MPaを超えるものもあるため、外表面まで破壊することはないと考えられる。
また、芯線を粉体で作成する場合、粉体間には空隙があるため、これらの計算値よりは低い値になると考えられる。
また、本発明は材質、被覆の厚さ、芯線の外径、冷却温度、フィルムの発泡性等によって多様な設計の選択肢があるため、実用可能と考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
アモルファス合金リボンを製造する際には、冷却したホイールで毎秒約100万度で急冷するが、冷却した芯となる芯線に、芯線が偏心しないように被覆する物質を溶融状態で被覆し急冷し、凝固した被覆が芯線の温度上昇に伴う膨張を抑えることにより、また、被覆する物質が凝固後の収縮によって内圧および線方向の圧縮力を生じさせ、その圧力により電気抵抗に影響を与え、および超伝導発現に寄与する
【実施例】
【0008】
例えば、図1において冷却する装置14により液体ヘリウムおよび液体窒素等冷却気体で冷却された容器18内に芯材または芯材を包むフィルムを巻いておくボビン1を入れ、押し出しまたは引っ張るローラー2によってボビン1より芯材または芯材を包むフィルムを押し出し、フィルムの場合、芯材の原料となる物質を散布する装置3にて物質を散布し、フィルムを丸める装置4により丸めた芯材を、押し出しまたは引っ張るローラー5で被覆する物質を冷却する装置6で再冷却して芯材を粉体電着する際には電着機7を通し、このようにして得られ冷却された芯線に、圧力により注湯量を制御する装置15と、スラグを除去する装置16と、注湯量を制御する弁19が装備された被覆材を溶融する炉13から二股に分かれた注湯口8より左右均等に芯線に注湯し被覆し、円周方向に溝を設けた相対するホイール9、11で急冷し、ボビン12に巻き取る。
もちろん、この出願の発明は、以上の実施形態によって限定されるものではない。
フィルムを必要としない場合には装置3、4は必要ない。また、芯線に芯材粉体を電着させる必要の無いときには電着機7は不要となる。
【産業上の利用可能性】
【0009】
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】正面図
【図2】側面図
【図3】芯線材料をフィルムに散布し丸める機構の図
【図4】二股に分かれた溶融物質を注湯する注湯口の正面拡大図
【符号の説明】
【0011】
1 芯線または芯線の材料であるフィルムのボビン
2 芯線を押し出しまたは引っ張るローラー
3 芯線材料を散布する装置
4 芯線材料を丸める装置
5 芯線を押し出すローラー
6 芯線を再冷却する装置
7 芯線に芯線材料を電着する装置
8 溶融した被覆材の注湯口
9 溶融した被覆材を冷却するホイール
10 芯線の偏心を防ぐ微調整装置
11 線材を引っ張るローラー
12 線材を巻き取るボビン
13 被覆する物質を溶融する炉
14 ホイールおよび被覆された線材およびを冷却する装置
15 溶融した被覆材の出湯量を調整する圧力装置
16 溶融した被覆材のスラグを除去する装置
17 装置の容器
18 溶融した被覆材の出湯量を調整する弁
19 芯線
20 芯材の粉体
21 芯材を丸める装置
22 フィルム
23 丸められた芯線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃以下に冷却した芯となる例えば2ホウ化マグネシウム芯線に、420℃以上の融点を持つ被覆する物質例えば鉄を溶融状態で被覆し、例えば冷却用金属材への接触で急冷し、凝固した被覆材が芯線の温度上昇に伴う膨張を抑えることにより、また、被覆する物質が凝固後の収縮により内圧および線方向の圧縮力を生じさせ、その圧力により電気抵抗に影響を与え、および超伝導現象発現に寄与する事を特徴とする線材。
【請求項2】
芯線を0℃以下に冷却する装置と、冷却された芯線を押し出しまたは引っ張る装置と、被覆する物質を420℃以上で溶融し圧力、弁等で出湯する量を制御する炉と、溶融した被覆する物質のスラグを除去する装置と、溶融した物質の供給口と、前記芯線を被覆するため円周方向に溝を設けた溶融被覆物質を急冷する1または複数のホイールと、芯線の偏心を防止するための調整装置と、ホイール及び被覆された線材を冷却する装置と、被覆され冷却された線材を巻き取る装置とから構成される請求項1の線材を製造する装置。
【請求項3】
発泡性または無発泡性、粘着性または非粘着性フィルムに芯線材料の粉体を散布し、そのフィルムを丸めることにより請求項1の芯線となすことを特徴とする、請求項1の線材。
【請求項4】
請求項1の冷却した芯線に高周波およびレーザーで表面のみを溶融させ、急冷することを特徴とする請求項1の線材。
【請求項5】
請求項1の線材を焼き入れ、焼きなまし、焼き戻し等の熱処理、および浸炭処理、窒化処理、ボロナイジング、シェラダイジング、アルミナイジング、サルファライジング、シリコナイジング、クロマイジング等の表面処理を行うことを特徴とする請求項1の線材。
【請求項6】
請求項1の芯線に電圧をかけ、静電力を生じさせ、原料となる粉体を吸着せしめ、かつまたは芯線に粘着接着性物質を塗布したものに原料となる粉体を粘着接着せしめた芯線を冷却し溶融した被覆物で被覆し急冷することを特徴とする請求項1の線材。
【請求項7】
冷却した芯線の原料となる粉体を溶融状態の被覆する物質に押し出し、急冷することにより得る請求項1の線材。
【請求項8】
請求項1の線材を製造する工程を冷却と被覆材を変えて凝固温度との温度差を段階的に小さくしながら複数回繰り返すことを特徴とする請求項1の線材の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−228695(P2006−228695A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75899(P2005−75899)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(501266350)
【Fターム(参考)】