説明

熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体

【課題】本発明は、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルを提供することを目的とする。また、本発明は、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
シェルが、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)30〜40重量%、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)30〜50重量%、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.1重量%以上、及び、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、
前記重合性モノマー(I)中のアクリロニトリルの含有量が10〜60重量%であり、かつ、前記モノマー組成物は、更に、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に対してイオン結合可能な金属カチオン塩を全モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部を含有する熱膨張性マイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルに関する。また、本発明は、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られており、例えば、特許文献1には、低沸点の脂肪族炭化水素等の揮発性膨張剤をモノマーと混合した油性混合液を、油溶性重合触媒とともに分散剤を含有する水系分散媒体中に攪拌しながら添加し懸濁重合を行うことにより、揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この方法によって得られた熱膨張性マイクロカプセルは、80〜130℃程度の比較的低温で熱膨張させることができるものの、高温又は長時間加熱すると、膨張したマイクロカプセルが破裂又は収縮してしまい発泡倍率が低下するため、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることができないという欠点を有していた。
【0004】
一方、特許文献2には、ニトリル系モノマー80〜97重量%、非ニトリル系モノマー20〜3重量%及び三官能性架橋剤0.1〜1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーをシェルとして用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
また、特許文献3には、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下及び架橋剤0.1〜1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーを用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルにおいて、非ニトリル系モノマーがメタクリル酸エステル類又はアクリル酸エステル類である熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
【0005】
これらの方法によって得られる熱膨張性マイクロカプセルは、従来のマイクロカプセルに比べ耐熱性に優れ、140℃以下では発泡しないとされているが、実際には130〜140℃で1分程度加熱を続けると一部のマイクロカプセルが熱膨張してしまうものであり、最大発泡温度が180℃以上の優れた耐熱性を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることは困難であった。
【0006】
更に、特許文献4には、最大発泡温度が180℃以上、好ましくは190℃以上である熱膨張性マイクロカプセルを得ることを目的として、85重量%以上のニトリル基をもつエチレン性不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体からなるシェルポリマーと50重量%以上のイソオクタンを有する発泡剤からなる熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルでは、最大発泡温度が非常に高い値となっているものの、その後の膨張した状態を維持することができず、高温領域における長時間の使用は困難であった。
【0007】
更に、特許文献5には、熱膨張性マイクロカプセルのシェルを構成するモノマーを規定することで、広範囲な発泡温度領域、特に高温領域(160℃以上)において良好な発泡性能を有し、耐熱性をより向上させた熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。しかしながら、この熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度は高い値を示すものの、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工、特に射出成形に使用した場合、溶融混練工程において、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性や強度の問題から、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象が生じたり、潰れてしまうことがあった。
【0008】
特許文献6には、カルボキシル基を含有するモノマーと、カルボキシル基と反応する基を持つモノマーとを重合することにより得られるポリマーをシェルとして用いた熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。このような熱膨張性マイクロカプセルでは、3次元架橋密度が高まることで、発泡後のシェルが非常に薄い状態でも収縮に対して強い抵抗を示し、耐熱性は飛躍的に向上するとしている。
しかしながら、このような方法を用いた場合であっても、依然として耐熱性や強度には課題があり、射出成形等の成形後の発泡倍率には限界があった。
従って、優れた耐熱性と発泡倍率を有し、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等に使用する場合であっても、へたり等が生じにくく、好適に使用することが可能な熱膨張性マイクロカプセルが必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭42−26524号公報
【特許文献2】特公平5−15499号公報
【特許文献3】特許第2894990号
【特許文献4】欧州特許出願第1149628号公報
【特許文献5】国際公開WO2003/099955号公報
【特許文献6】国際公開WO1999/43758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルを提供することを目的とする。また、本発明は、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、シェルが、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)30〜40重量%、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)30〜50重量%、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.1重量%以上、及び、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、前記重合性モノマー(I)中のアクリロニトリルの含有量が10〜60重量%であり、かつ、前記モノマー組成物は、更に、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に対してイオン結合可能な金属カチオン塩を全モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部を含有する熱膨張性マイクロカプセルである。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
上記モノマー組成物中のアクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)の含有量の下限は30重量%、上限は40重量%である。上記モノマー組成物中のアクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)の含有量が30重量%未満であると、シェルのガスバリア性が低くなるため発泡倍率が低下する。上記モノマー組成物中の重合性モノマー(I)の含有量が40重量%を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルを二酸化炭素等の不活性ガスとの共存下で熱膨張させる場合に、ガスバリア性が高くなりすぎ、発泡倍率が低下する。二酸化炭素等の不活性ガスとの共存下で使用する場合を考慮すると、上記重合性モノマー(I)の含有量の好ましい下限は32重量%、好ましい上限は38重量%である。
【0013】
上記モノマー組成物中のアクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)において、重合性モノマー(I)中のアクリロニトリルの含有量の下限は10重量%、上限は60重量%である。上記アクリロニトリルの含有量が10重量%未満であると、重合速度が低下する。また、上記アクリロニトリルの含有量が60重量%を超えると、アクリロニトリルは極性が高いため、特にカルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と金属カチオン塩とをイオン架橋させる場合に、後工程である脱水工程において、粒子から水を脱離することが困難となり、脱水できなくなる。上記アクリロニトリルの含有量の好ましい下限は20重量%であり、好ましい上限は40重量%である。
【0014】
上記モノマー組成物中における、上記カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)としては、例えば、イオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものを用いることができ、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0015】
上記モノマー組成物中における、上記カルボキシル基を有し、炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量の好ましい下限は15重量%、好ましい上限は40重量%である。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量が15重量%未満であると、最大発泡温度が180℃以下となることがあり、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量が40重量%を超えると、最大発泡温度は向上するものの、発泡倍率が低下する。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)の含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は35重量%である。
【0016】
上記モノマー組成物は、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を含有する。上記重合性モノマー(III)は、架橋剤としての役割を有する。上記重合性モノマー(III)を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。なお、本発明は、上記重合性モノマー(I)の含有量が30〜40重量%と低い濃度であるが、そのような低濃度の場合でも上記分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)を添加することによりガスバリア性の低下を抑制することができる。
【0017】
上記重合性モノマー(III)としては、ラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200〜600であるポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、ポリエチレングリコール等の2官能性のものが、200℃を超える高温領域でも熱膨張したマイクロカプセルが収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいため、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象を抑制することができ、好適に用いられる。これらのなかでは、重量平均分子量が200〜600であるポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート等のアクリレートが特に好ましい。
【0018】
上記モノマー組成物中における、上記重合性モノマー(III)の含有量の下限は0.1重量%、好ましい上限は3重量%である。上記重合性モノマー(III)の含有量が0.1重量%未満であると、架橋剤としての効果が発揮されず、上記重合性モノマー(III)を3重量%を超えて添加した場合、発泡倍率が低下してしまう。上記重合性モノマー(III)の含有量の好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は1重量%である。
【0019】
上記モノマー組成物は、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有する。上記ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下となる重合性モノマー(IV)は極性が高いことから、特にカルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と金属カチオン塩とをイオン架橋させる場合に、後工程である脱水工程において、粒子から水を脱離することが困難となり、脱水できなくなるという不具合を防止することができる。
【0020】
上記重合性モノマー(IV)としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。これらのなかでメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル等が好適に用いられる。
上記重合性モノマー(IV)の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は30重量%である。上記重合性モノマー(IV)の含有量が10重量%未満であると、上述のように脱水できないことがある。30重量%を超えると、セル壁のガスバリア性が低下し、熱膨張性が悪化しやすいため好ましくない。
【0021】
上記モノマー組成物は、更にカルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)とイオン結合する金属カチオン塩を含有する。
上記金属カチオン塩を含有することで、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)のカルボキシル基との間でイオン架橋が起こることから、架橋効率が上がり、耐熱性を高くすることが可能となる。その結果、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
【0022】
上記金属カチオン塩の金属カチオンとしては、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と反応してイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらは水酸化物として添加されることが好ましい。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。これらの金属カチオン塩は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0023】
なお、上記金属カチオン塩を2種以上用いる場合の組み合わせとしては特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンと、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンを有することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンと上記カルボキシル基等との反応を促進させることができる。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられ、なかでも塩基性の強いNa、K等を用いることが好ましい。
【0024】
上記金属カチオン塩の添加量の好ましい下限は、全モノマー成分100重量部に対して0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記金属カチオン塩の含有量が0.1重量部未満であると、耐熱性に効果が得られないことがあり、上記金属カチオン塩の含有量が10重量部を超えると、発泡倍率が著しく悪くなることがある。上記金属カチオン塩の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0025】
上記モノマー組成物中には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を含有させる。
上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル、イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のパーオキシエステル、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0026】
上記シェルを構成する重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。重量平均分子量が10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、重量平均分子量が200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0027】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0028】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテル、及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0030】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルにおいて、コア剤として用いる揮発性膨張剤の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は25重量%である。
上記シェルの厚みはコア剤の含有量によって変化するが、コア剤の含有量を減らして、シェルが厚くなり過ぎると発泡性能が低下し、コア剤の含有量を多くすると、シェルの強度が低下する。上記コア剤の含有量を10〜25重量%とした場合、熱膨張性マイクロカプセルのへたり防止と発泡性能向上とを両立させることが可能となる。
【0031】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は10μm、好ましい上限は50μmである。5μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、成形体の軽量化が不充分となることがあり、50μmを超えると、得られる成形体の気泡が大きくなりすぎるため、強度等の面で問題となることがある。より好ましい下限は15μm、より好ましい上限は40μmである。
【0032】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が200℃である。200℃未満であると、耐熱性が低くなることから、高温領域や成形加工時において、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮することがある。また、マスターバッチペレット等として使用する場合、ペレット製造時に剪断により発泡していまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができない。より好ましい下限は210℃である。なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときにおける温度を意味する。
【0033】
また、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限は180℃である。180℃を超えると特に射出成形の場合、金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック発泡成形においては、コアバック発泡過程で樹脂温度が冷えてしまい発泡倍率が上がらないことがある。より好ましい下限は130℃、好ましい上限は160℃である。
【0034】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、発泡前の平均粒子径が15〜40μm、シェルの厚みが1〜8μmである熱膨張性マイクロカプセルを大気圧、200℃で連続的に加熱した場合、最大発泡倍率が5倍以上であり、かつ、発泡倍率5倍以上である状態の保持時間が10分以上であることが好ましい。このような条件を満たすことにより、加熱時における発泡性に優れ、かつ、発泡後もその粒子径が維持されることから、高い発泡倍率を実現できる。
上記最大発泡倍率が5倍未満であると、発泡性能が劣り、例えば、得られる成形品の発泡倍率が2倍以上の所望の値にならない等の不具合が生じることがある。上記発泡倍率5倍以上の保持時間が10分未満であると、発泡後にへたりやすくなるため、結果として得られる成形品の発泡倍率が2倍以上の所望の値にならない等の不具合が生じることがある。
なお、上記最大発泡倍率、及び、上記発泡倍率5倍以上である状態の保持時間は、例えば、図3及び図4に示す装置、機器を用いることにより測定することができる。
【0035】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、発泡前の平均粒子径が15〜40μm、シェルの厚みが1〜8μmである熱膨張性マイクロカプセルを不活性ガス雰囲気で6MPa、200℃で加熱した場合、最大発泡倍率が6倍以上であり、かつ、圧力を0.1〜0.3MPa/秒で減圧して大気圧に戻した場合の発泡倍率が5倍以上であり、発泡倍率が5倍以上である状態の保持時間が10分以上であることが好ましい。このような条件を満たすことにより、二酸化炭素等の不活性ガスの存在下においても大気圧以上に発泡し、かつ、発泡後もその粒子径が維持されることから、二酸化炭素等の不活性ガスを成形時に添加する場合であっても、高い発泡倍率を実現できる。
特に、二酸化炭素等の不活性ガスとの共存下の場合においては、上記最大発泡倍率が6倍未満であると、発泡性能が劣り、例えば、得られる成形品の発泡倍率が6倍以上の熱膨張性マイクロカプセルに比べ、顕著に上がらない等の不具合が生じる。また、上記圧力を0.1〜0.3MPa/秒で減圧して大気圧に戻した場合の発泡倍率が5倍未満、又は、5倍以上である状態の保持時間が10分未満であると、発泡後にへたりやすくなるため、結果として、得られる成形品の発泡倍率が6倍以上の熱膨張性マイクロカプセルに比べ、顕著に上がってこない等の不具合が生じる。なお、上記最大発泡倍率、上記圧力を0.1〜0.3MPa/秒で減圧して大気圧に戻した場合の発泡倍率、及び、上記発泡倍率5倍以上の保持時間は、例えば、図3に示す装置を用い、図4に示す機器を用いることにより測定することができる。
【0036】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、水性媒体を調製する工程、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)30〜40重量%、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)30〜50重量%、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.1重量%以上、及び、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有し、更に、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に対してイオン結合可能な金属カチオン塩を全モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部を含有するモノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、及び、上記モノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
【0037】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0038】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0039】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0040】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0041】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0042】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0043】
上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、ビニル系モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0044】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、モノマー100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0045】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0046】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)30〜40重量%、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)30〜50重量%、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.1重量%以上、及び、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有し、更に、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に対してイオン結合可能な金属カチオン塩を全モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部を含有するモノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0047】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と油性混合液を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、例えば、加熱することによりモノマーを重合させる工程、脱水する工程、及び、乾燥する工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。
【0049】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えた樹脂組成物又はマスターバッチペレットを、射出成形や押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、上記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。このような発泡成形体もまた本発明の1つである。
このような方法で得られる本発明の発泡成形体は、高外観品質が得られ、独立気泡が均一に形成されており、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れるものとなり、住宅用建材、自動車用部材、靴底等の用途に好適に用いることができる。
【0050】
上記熱可塑性樹脂としては、特に射出成形、押出成形の成形材料として用いられる熱可塑性樹脂が好適であり、具体的には例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、天然ゴム系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、トランス−ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーが用いられる。なお、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記熱可塑性樹脂100重量部に熱膨張性マイクロカプセルの添加量は0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部が適量である。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やADCA(アゾ系)等の化学発泡剤と併用することもでき、上記化学発泡剤を単独で使用するよりも高い発泡倍率を得ることができる。
【0052】
上記マスターバッチペレットを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、本発明の熱膨張マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチペレットとする方法等が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂や熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチペレットを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0053】
本発明の発泡成形体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。射出成形の場合、工法は特に限定されず、金型に樹脂材料を一部入れて発泡させるショートショート法や金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック法等が挙げられる。
【0054】
また、上記発泡成形体の成形方法としては、例えば、射出成形機内又は押出機内において、加圧下で熱可塑性樹脂と熱膨張性マイクロカプセルとを混合し、発泡性樹脂組成物を調製する工程、上記発泡性樹脂組成物に高圧状態や超臨界状態にある不活性ガスを含浸させる工程、及び、該熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度以上の温度で溶融させた発泡性樹脂組成物を射出又は押出することにより、該熱膨張性マイクロカプセルを発泡させる工程を有する方法を用いることができる。
【0055】
上記不活性ガスを含浸させる工程における圧力は、不活性ガスの熱可塑性樹脂や熱膨脹性マイクロカプセルへの含浸速度を上げるため、1MPa以上の高圧状態、更には超臨界状態とすることが好ましい。但し、不活性ガスが二酸化炭素である場合、60MPa以上で含浸させると、含浸圧力を少し変化させるだけでセル径、セル密度が大きく変わるため、セル径及びセル密度の制御が困難になりやすい。
上記不活性ガスを含浸させる工程における温度は、例えば、10〜350℃程度が好ましい。
【0056】
上記不活性ガスを含浸させる工程において、使用する不活性ガスとしては、上記熱可塑性樹脂に対して不活性なものであれば特に限定されず、例えば、二酸化炭素、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0057】
上記不活性ガスを含浸させる工程における不活性ガスの供給位置は、特に限定されず、例えば、成形機の加熱バレルに設けられたガス注入口、成形機のホッパ等であってよい。
上記発泡成形体の成形方法において用いられる射出成形機の一例を示す断面図を図1及び図2に図示する。図1及び図2において、4はシリンダ、5はスクリュー、6はシャットオフノズル、9は金型を示し、金型7は、固定型8及び可動型9から構成されている。
上記不活性ガスの供給位置は、図1に示す射出成形機の加熱バレル1に設けられたガス注入口2であってもよく、図2に示す射出成形機の加熱バレル1におけるにおけるホッパ3の部分であってもよい。
【0058】
上記発泡性樹脂組成物を射出成形又は押出成形する工程において、射出成形を行う場合、上記発泡性樹脂組成物を金型キャビティ内へ超高速で一挙に吐出充填し、次いで、金型キャビティ内の圧力を急速に低下させることが好ましい。上記圧力を低下させる方法としては、例えば、金型を構成する可動型やスライド駒をキャビティ拡大方向へ移動(後退)させる方法を用いることができる。
【0059】
上記不活性ガスを含浸させる工程を行うことにより、成形する方法は、バッチ方式でもよく、連続方式でもよいが、連続方式が好ましい。上記連続方式によれば、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用して上記熱可塑性樹脂と熱膨脹性マイクロカプセルとを所定温度以上で加圧下に溶融混合し、ここへ高圧の不活性ガスを注入し、充分にガスを熱可塑性樹脂中に含浸させた後、発泡性樹脂組成物を熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度以上の温度で金型キャビティ内に向けて射出し、または金型を経て押出したあと、急激に圧力を低下させることにより発泡成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の発泡成形体の成形方法において用いられる成形機の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の発泡成形体の成形方法において用いられる成形機の一例を示す断面図である。
【図3】性能評価(1−3)で用いる装置の概略を説明する模式図である。
【図4】性能評価(1−3)で用いる装置の概略を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1〜10、比較例1〜8)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
重合反応容器に、水300重量部と、調整剤として塩化ナトリウム89重量部、水溶性重合禁止剤として亜硝酸ナトリウム0.07重量部、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)8重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部を投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合量のモノマーからなる油性混合液を上記水性分散媒体に添加することにより、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、遠心分離機にて脱水と水洗を繰り返した後、乾燥して熱膨張性マイクロカプセルNo.(1)〜(12)を得た。なお、熱膨張性マイクロカプセルNo.(13)、(14)は脱水ができなかった。
【0064】
(マスターバッチペレットの作製)
粉体状及びペレット状の低密度ポリエチレン100重量部と、滑剤としてエチレンビスステアリン酸アマイド0.2重量部とをバンバリーミキサーで混練し、約140℃になったところで表1に示すそれぞれの熱膨張性マイクロカプセル50重量部を添加し、更に30秒間混練して押し出すと同時にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。
【0065】
(成形体の作製)
表2に示す添加量のマスターバッチペレット又は化学発泡剤と、ポリプロピレン樹脂100重量部とを混合し、得られた混合ペレットを、図1に示すようなアキュムレーターを備えたスクリュー式の射出成形機のホッパに供給して溶融混練し、射出成形を行い、板状の成形体を得た。
成形条件は、シリンダ温度:250℃、射出速度:60mm/sec、型開遅延時間:0秒、金型温度:60℃とした。
【0066】
なお、実施例10及び比較例7では、不活性ガスとしてCOガスを射出成形機に直接注入した。COガスとしては、超臨界状態にある二酸化炭素(ポリプロピレン100重量部当たり二酸化炭素0.3重量部)を用い、図1に示す加熱バレル1の途中に設けられたガス注入口2から加熱バレル1内に注入し、樹脂組成物に含浸させるとともに、同組成物を該熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度以上の温度で加圧下に溶融させた。得られた発泡性樹脂組成物を金型7のキャビティ内に向けて射出した後、金型7の可動型9をキャビティ拡大方向へ1.5mm移動(後退)させることにより圧力を低下させることで、発泡体を得た。なお、金型7のキャビティの初期厚みは1.5mm、金型7の可動型9をキャビティ拡大方向へ移動(後退)させる量を1.5mmとした。
【0067】
(評価)
実施例1〜10、比較例1〜8で得られた熱膨張性マイクロカプセル、及び、成形体について、下記性能を評価した。結果を表1及び2に示した。
【0068】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1−1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA−910、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0069】
(1−2)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位量
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0070】
(1−3)大気圧下、6MPa(CO雰囲気)での発泡後粒子径、発泡倍率
図3に示す耐圧容器中にサンプルを設置した後、耐圧容器中の温度を200℃とし、大気圧下の場合と、圧力6MPa(CO雰囲気)とした場合について、図4に示すように、サファイアガラス製の窓から顕微鏡付きカメラを用いて発泡粒子の挙動を観察した。観察は200℃に達してから30分間行い、圧力6MPa(CO雰囲気)の場合は200℃で10分間加圧し、粒子径を観察した後、密閉容器の圧力を0.3MPa/秒で減圧して大気圧になったことを確認し、更に20分間粒子径を観察した。表1に測定項目及び測定結果を示した。
【0071】
【表1】

【0072】
(2)成形体の評価
(2−1)発泡倍率
発泡後の成形体の板厚を発泡前の成形体の板厚で除した値を算出し、発泡倍率とした。そして成形品10枚の発泡倍率の平均値と標準偏差を求めた。
【0073】
(2−2)外観(成形品表面、断面)
成形品表面のシルバーストリークの有無を目視にて観察した。また、断面の気泡状態をSEM装置を用いて観察した。
【0074】
(2−3)密度の測定
得られた成形体の密度をJIS K−7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した。
【0075】
【表2】

【0076】
表1及び2に示すように、熱膨張性マイクロカプセルNo.(1)〜(7)は、最大発泡温度が200℃以上という高い耐熱性を示す。また、熱膨張性マイクロカプセルNo.(1)〜(7)は、大気圧下で加熱した場合の発泡後粒子径が何れも100μmを超え、6MPa(CO雰囲気)での最大発泡後粒子径130μmも超え、最終粒子径も100μm未満にならないことから、良好な発泡性能を有し、このような熱膨張性マイクロカプセルNo.(1)〜(7)を用いた成形体(実施例1〜7)は、密度が低く軽量性に優れる成形品が得られた。また、COが発生する化学発泡剤との併用系やCOガス化での成形においても、実施例8〜10から分かるように熱膨張性マイクロカプセルを添加しない場合(比較例6、8)に比べ高い発泡倍率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルを提供できる。また、本発明によれば、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供できる。
【符号の説明】
【0078】
1 加熱バレル
2 ガス注入口
3 ホッパ
4 シリンダ
5 スクリュー
6 シャットオフノズル
7 金型
8 固定型
9 可動型
11 サンプル
12 ヒーター
13 熱電対
14 スペーサー
15 サファイアガラス
16 Oリング
17 顕微鏡付きカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
シェルが、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)30〜40重量%、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)30〜50重量%、分子内に二重結合を2つ以上有する重合性モノマー(III)0.1重量%以上、及び、ホモポリマーの溶解度パラメーターが10以下である重合性モノマー(IV)を含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、
前記重合性モノマー(I)中のアクリロニトリルの含有量が10〜60重量%であり、かつ、
前記モノマー組成物は、更に、カルボキシル基を有する炭素数3〜8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に対してイオン結合可能な金属カチオン塩を全モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部を含有する
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
発泡前の平均粒子径が15〜40μm、シェルの厚みが1〜8μmである熱膨張性マイクロカプセルを大気圧、200℃で連続的に加熱した場合、最大発泡倍率が5倍以上であり、かつ、発泡倍率が5倍以上である状態の保持時間が10分以上であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
発泡前の平均粒子径が15〜40μm、シェルの厚みが1〜8μmである熱膨張性マイクロカプセルを不活性ガス雰囲気で6MPa、200℃で加熱した場合、最大発泡倍率が6倍以上であり、かつ、
圧力を0.1〜0.3MPa/秒で減圧して大気圧に戻した場合の発泡倍率が5倍以上であり、発泡倍率が5倍以上である状態の保持時間が10分以上であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
最大発泡温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の熱膨張性マイクロカプセルを用いてなることを特徴とする発泡成形体。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の熱膨張性マイクロカプセルと化学発泡剤とを併用することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
射出成形機内又は押出機内において、加圧下で熱可塑性樹脂と請求項1、2、3又は4記載の熱膨張性マイクロカプセルとを混合し、発泡性樹脂組成物を調製する工程、前記発泡性樹脂組成物に不活性ガスを含浸させる工程、及び、該熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度以上の温度で溶融させた発泡性樹脂組成物を射出成形又は押出成形することにより、該熱膨張性マイクロカプセルを発泡させる工程を有することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の発泡成形体の製造方法により得られることを特徴とする発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−222407(P2010−222407A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68694(P2009−68694)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】