説明

熱膨張抑制部材および対熱膨張性部材

【課題】負の熱膨張特性を有する熱膨張抑制部材および熱膨張の小さい金属系の対熱膨張性部材を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む熱膨張抑制部材および20℃において正の線膨張係数を有する金属と下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む固形物を接合してなる対熱膨張性部材。一般式(1)(Bi1−x)NiO(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱膨張抑制部材および対熱膨張性部材に関する。特に負の熱膨張特性を有する酸化物を金属と接合した新規な対熱膨張性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部材、光学部材や構造部材は、金属や樹脂、セラミックスやガラスといった素材からなる。これら従来の素材は、正の線膨張特性を有しているために、環境温度の上下に応じて膨張や収縮を生じる。
【0003】
例えば、従来の金属系放熱板(ヒートシンク)には、熱伝導の良いアルミニウムや銅を主体とした金属部材が広く用いられていた。これらの金属部材は冷却の対象となる絶縁体や半導体やはんだ等の部材と熱膨張差が大きいため、熱応力ひずみによる悪影響を生じる問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、負の熱膨張特性を有する金属酸化物の利用が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、線膨張係数が−4.7×10−6/Kから−9.4×10−6/Kの範囲内にあるZrWを用いて熱膨張を抑制した光ファイバ素子の開示がある。しかしながら、このタングステン酸系金属酸化物による負の熱膨張材料には、線膨張係数の絶対値が依然として小さいという課題があった。
【0006】
そこで特許文献2には、マンガン窒化物を主成分とすることで負方向の線膨張係数を最大で−60×10−6/Kまで大きくした材料が開示されている。しかしながら、このマンガン窒化物による負の熱膨張材料には、負の熱膨張特性を示す温度領域が狭く、また線膨張係数の絶対値が大きい材料ほど負の熱膨張特性を示す前記温度領域が実用温度領域より低温側にあるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−096827号公報
【特許文献2】WO06−011590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、負の熱膨張特性を有するBi系の熱膨張抑制部材およびその熱膨張抑制部材と金属を接合してなる対熱膨張性部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する熱膨張抑制部材は、下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含むことを特徴とする。
一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【0010】
上記の課題を解決する対熱膨張性部材は、20℃において正の線膨張係数を有する金属と下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む固形物を接合してなることを特徴とする。
一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、負の熱膨張特性を有する熱膨張抑制部材を提供することができる。
さらに本発明によれば、前記本発明の熱膨張抑制部材と金属を接合することで、熱膨張を極端に小さくした金属系の対熱膨張性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱膨張抑制部材の熱膨張特性の概念を示す模式図である。
【図2】本発明の対熱膨張性部材の実施形態の例を示す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
本発明に係る熱膨張抑制部材は、下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含むことを特徴とする。
一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【0015】
図1は、本発明の熱膨張抑制部材の熱膨張特性を概念的に示した図である。図中の符号1は本発明の熱膨張抑制部材である。熱膨張抑制部材1は、基準状態で負の熱膨張特性を有しており、昇温に伴なって体積収縮し、冷却に伴なって膨張する。IEC60068−1規格(JIS C60068−1規格)「環境試験方法−電気・電子−通則」によると電気製品および工業製品の試験における基準状態は温度20℃(293K)、気圧101.3kPaである。図中では、便宜のため熱膨張抑制部材1を直方体状として表したが、熱膨張抑制部材1の形状は制限されない。例えば、熱膨張抑制部材1の形状は用途に応じて、板状、粉末状や不定形の塊状をとってもよい。本発明の熱膨張抑制部材1は、独立物であれば図1のように負の熱膨張挙動を示す。その際の20℃における線膨張係数は組成や結晶粒径、密度によって多少変わるが、概ね−20×10−6/Kから−85×10−6/K程度である。結晶粒径が小さく、密度が高いほど熱膨張抑制部材の線膨張係数は負の方向に大きくなる傾向がある。一方、本発明の熱膨張抑制部材1を他の部材と接合したり、他の部材に分散させて用いると、前記他の部材との界面で発生する熱応力によって部材全体の熱膨張をゼロに近づけたり、必要に応じて負にする働きをする。
【0016】
前記一般式(1)で表される酸化物は、BiとMとNiの複合金属酸化物を意味している。換言すると、一般式BiNiOで示されるニッケル酸ビスマスのビスマスサイトの一部がMで置換されている。
【0017】
なお前記一般式(1)においては、理想の組成として各サイトの原子比が1:1:3となるように酸化物の化学式を表記したが、実際には各サイトの原子比に10%以内の過剰や不足があっても同様の物性を有する。
【0018】
前記一般式(1)で表される酸化物は、環境温度や外圧の変化に対して結晶相転移をする性質がある。説明の便宜上、相転移点より低温または低圧の結晶相を第一相、相転移点より高温または高圧の結晶相を第二相と呼称する。
【0019】
第一相は、√2a×√2a×2aのユニットセルを持つ三斜晶のペロブスカイト構造を有した反強磁性絶縁体である。このユニットセルにおいてBiイオンは半数ずつが3価と5価に電荷不均化している。ニッケルは2価のイオンとなっており、Mによる置換を省略したニッケル酸ビスマスの化学式はBi3+0.5Bi5+0.5Ni2+で表現できる。
【0020】
この第一相に圧力エネルギーや熱エネルギーを加えると、Bi5+とNi2+の間で電荷移動が起こり、Bi3+Ni3+で表現される第二相への相転移が起こる。第二相は、GdFeO型と慣用的に言われる斜方晶のペロブスカイト構造を有した導電体である。なお、相転移は第一相と第二相の混合領域を経る。
【0021】
前記第二相のユニットセル体積は、第一相のユニットセル体積より2.6%ほど小さい。これはNi−O結合の格子長が2価と3価で異なるためである。この事が、前記一般式(1)で表される酸化物が負の熱膨張特性を示す要因であると考えられる。
【0022】
前記一般式(1)におけるMは、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属から選ばれる。これらの元素はいずれも3価のイオンが安定でBiサイトを置換しうる。Biサイトを3価のMで一部置換することで、前記第二相の熱的安定性が増す。その結果、前記一般式(1)で表される酸化物が負の熱膨張特性を示す下限温度を低温側に拡張することができる。また、M3+のイオン半径が小さいほど、20℃における線膨張係数は負方向に大きくなる傾向がある。
【0023】
ただし、Mの置換原子比を示すパラメータxは、0.02≦x≦0.15の範囲とする。前記xが0.02より小さいと、前記第二相への相転移が起きる温度以下で酸化物の熱分解が起こりやすくなる。一方、前記xが0.15より大きいと、前記第二相の安定性が大きくなりすぎて相転移に伴なう体積収縮度、すなわち負の線膨張係数が小さくなってしまう。
【0024】
Mi3+Ni3+の斜方晶歪み(b/a)がBi3+Ni3+より小さいと前記第二相の安定性はより増して高温域(例えば250℃程度)での熱分解を抑制する効果がある。この観点で、より好ましいMは、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdのうちの少なくとも1種の金属から選ばれる。
【0025】
前記一般式(1)で表される酸化物の製造方法は特に制限されない。各金属元素が均一に固溶した複合金属酸化物を合成して任意の形状に成形できる方法であると好ましい。例えば、Bi、M、Niの各酸化物を目的物と同じモル比で混合して高圧(例えば4GPa以上)を付与しながら焼結すると、各金属元素が均一に固溶した複合金属酸化物を得られる。得られた酸化物を粉砕してから、成形して前記焼結の温度以下で焼き固めると、本発明の熱膨張抑制部材を得られる。酸化物の成形方法は特に限定されず、セラミックスの成形における一般的な手法を用いることができる。前記一般式(1)で表される酸化物を成形する方法の例としては、一軸加圧成形(金型成形)、冷間静水圧成形(CIP)、熱間静水圧成形(HIP)、ホットプレス、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形(スリップキャスト)、ドクターブレード法、エアロゾルデポジション法が挙げられる。
【0026】
本発明の熱膨張抑制部材1は、前記一般式(1)で表される酸化物以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。前記その他の成分は、熱膨張抑制部材1の内部に分散していてもよいし、表面に被覆されていてもよい。その他の成分の例としては、他の部材との接着成分や染料や顔料などの着色成分、電気特性をモニタリングするための電極、その他特性調整成分が挙げられる。
【0027】
本発明に係る対熱膨張性部材は、20℃において正の線膨張係数を有する金属と下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む固形物を接合してなることを特徴とする。一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【0028】
本発明において対熱膨張性部材とは、熱に対する体積変化を抑えた部材を意図している。素材の選択にもよるが、例えば、基準状態(20℃、101.3kPa)での線膨張係数が−5×10−6/K〜+5×10−6/Kの範囲である部材は対熱膨張性部材として使用できる。あるいは、部材の実用温度領域における線膨張係数が−10×10−6/K〜+10×10−6/Kの範囲である部材は対熱膨張性部材として使用できる。
【0029】
図2は、本発明の対熱膨張性部材の実施形態の例を示す縦断面模式図である。図中の符号2は本発明の対熱膨張性部材を示している。
【0030】
図2(A)の構成を例にとると、対熱膨張性部材2は固形物201と金属202を接合してなる。
【0031】
固形物201は、上記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む固形物であり、前記本発明の熱膨張抑制部材を使用することができる。固形物201は基準状態(20℃、101.3kPa)で負の熱膨張特性を有する。
【0032】
金属202は基準状態で正の熱膨張特性を有する。金属202は純金属であっても合金であっても良く、特性調整や酸化防止などのために金属元素以外の成分が含まれていても良い。一部のインバー合金が極めてゼロに近い熱膨張特性を有しているが、通常市販されている殆どの金属材料は20℃で正の熱膨張特性を有している。
【0033】
ただし、固形物201が対熱膨張性部材2の熱膨張を抑制する効果を十分に発揮するためには、金属202の20℃における線膨張係数αは、10×10−6/K以上30×10−6/K以下であることが好ましい。
【0034】
20℃における線膨張係数αが前記範囲にある汎用の金属の例としては、鉄(11.8×10−6/K)、パラジウム(11.8×10−6/K)、コバルト(13.0×10−6/K)、ニッケル(13.4×10−6/K)、金(14.2×10−6/K)、ステンレス鋼(14.7×10−6/K)、銅(16.5×10−6/K)、りん青銅(17.0×10−6/K)や真鍮(17.5×10−6/K)等の銅合金全般、銀(18.9×10−6/K)、ジュラルミン(21.6×10−6/K)等のアルミニウム合金全般、アルミニウム(23.1×10−6/K)、マグネシウム合金(27.4×10−6/K)が挙げられる。括弧内は各金属の20℃における線膨張係数の代表値であり、微量の成分添加や線膨張係数の測定方法により若干の誤差がある。例えば、ステンレス鋼は組成比によって線膨張係数の違いが生じるが、汎用のステンレス鋼の20℃における線膨張係数αは概ね10×10−6/K以上30×10−6/K以下の範囲にある。なお線膨張係数の値は、主に理科年表平成19年(丸善)を参照した。
【0035】
金属202の20℃における線膨張係数αが10×10−6/Kより小さいと、固形物201の負の熱膨張効果が大きくなりすぎて、対熱膨張性部材2が負の体積変化を生じるおそれがある。
【0036】
一方、金属202の20℃における線膨張係数αが30×10−6/Kより大きいと、対熱膨張性部材2の正の熱膨張性を十分に抑制できないおそれがある。
【0037】
本発明の対熱膨張性部材をヒートシンク(放熱板、放熱ケース)として用いるためには、前記正の熱膨張係数を有する金属の0℃における熱伝導率κが、100W/mK以上410W/mK以下であることが好ましい。0℃における線膨張係数αが前記範囲にある汎用の金属の例としては、コバルト(100W/mK)、亜鉛(117W/mK)、イリジウム(147W/mK)、タングステン(177W/mK)、アルミニウム(236W/mK)、ジュラルミン(134W/mK)等のアルミニウム合金全般、金(319W/mK)、銅(403W/mK)、りん青銅(133W/mK)や真鍮(106W/mK)等の銅合金全般などが挙げられる。
【0038】
金属202の0℃における熱伝導率κが100W/mKより小さいと、対熱膨張性部材2のヒートシンクとしての放熱性が十分でないおそれがある。
【0039】
一方、0℃における熱伝導率κが410W/mKより大きい金属202は、放熱性が特に大きいために対熱膨張性部材2の温度上昇が少なくなる。そのため、固形物201を接合していても熱膨張抑制についての効果幅は小さい。
【0040】
固形物201と接合した時の熱膨張の相殺の程度やヒートシンクとしての放熱性を考慮すると、金属202はアルミニウムおよび銅の少なくとも一方を成分として含んでいることが好ましい。加えて、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金は、入手が容易で加工性、接合性にも優れている。
固形物201と金属202の界面は図示していないが互いに接合されている。
【0041】
前記界面は固形物201および金属202に生じた熱応力を伝播できる程度の強度で接合されていることが好ましいが、接合方法は限定されない。
例えば、一般的に金属材料とセラミックス材料の接合に用いられる固相インサート材や液相ろう材や有機系接着剤を介して固形物201と金属202の界面が接合されていても良いし、摩擦圧接やレーザによる表面への金属析出や高温・高圧を利用して直接的に界面が接合されていても良い。
【0042】
図2(B)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。固形物201と金属202の接合界面は複雑形状であってもよく、界面の表面積を大きくすることで、対熱膨張性部材2における熱膨張特性の均一性や固形物201と金属202の接合性の向上が見込める。
【0043】
図2(C)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。図中の符号203は第一の金属、204は第二の金属を示している。本発明の対熱膨張性部材2は、固形物201が第一の金属203と第二の金属204に挟まれたサンドイッチ構造であっても良い。対熱膨張性部材2の表面に金属を配置することで、対熱膨張性部材2の放熱性を高める効果が期待できる。なお、第一の金属203と第二の金属204は同じ組成であっても異なる組成であっても構わない。例えば、第一の金属203にパターニングされた銅箔を用いて第二の金属204にアルミブロックを用いると、放熱性を有しながら熱膨張の影響を軽減したメタルベース基板を作製できる。
【0044】
図2(D)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。図中の符号205は第一の固形物、206は第二の固形物、207は絶縁体を示している。本発明の対熱膨張性部材の固形物部分(本発明の熱膨張抑制部材)は前記の第二相(高温相)に相転移すると導電体になる。そこで、絶縁体207を構成に加えることで第一の金属203と第二の金属204を電気的に独立させることができる。絶縁体207の素材は固形物と接合できるものであれば限定されない。例えば、いずれも絶縁性のセラミックス、ガラス、有機ポリマーなどを用いることができる。
【0045】
図2(E)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。図中の符号3は対熱膨張性部材2の上面から下面へ貫通するスルーホールを示している。便宜上のため、模式図では対熱膨張性部材2が左右に分割しているように表されているが、実際は一体の部材である。スルーホールの内壁を介して第一の金属203は電気的に等価な状態になっている。第一の金属203は設置の利便性のためにスルーホール内壁部で別の金属素材を使っても良い。一方、固形物201と第二の金属204は、第一の金属203に内包されている。例えば、第一の金属203にパターニングされた銅箔を用いて第二の金属204にアルミブロックを用いると、放熱性を有しながら熱膨張の影響を軽減したアルミコア基板を作製できる。
【0046】
図2(F)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。絶縁体207を構成に加えることで第一の金属203と第二の金属204を電気的に独立させることができる。
【0047】
図2(G)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。例えば、金属202の表層部をパターニングされた銅箔で構成し、コア部を銅板で構成すると、放熱性を有しながら熱膨張の影響を軽減した銅コア基板を作製できる。
【0048】
図2(H)は本発明の対熱膨張性部材の別の実施形態の例を示す縦断面模式図である。図中の符号208は第三の固形物、209は第四の固形物、210は第一の絶縁体、211は第二の絶縁体を示している。
【0049】
本発明の対熱膨張性部材は、前記のような放熱性のプリント基板の他にも、LED素子などに用いる放熱基板、精密アクチュエータの構造材、有機感光体の基材、光学スペーサ部材、電極、バネといった温度変化のある環境下で用いるデバイスや製品に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
モル比で98/2/100の酸化ビスマス(Bi)と酸化ランタン(La)と金属ニッケル(Ni)を、最小限の硝酸に溶解させて、良く撹拌した。この溶液を蒸発乾固した固形物を空気雰囲気750℃の電気炉で12時間仮焼することで酸化物粉末を得た。この酸化物粉末に対して重量比で20%の過塩素酸カリウム(KClO)を混合したものを金製のカプセルに封入した。そのカプセルを立方体アンビル型高圧発生装置により6GPaまで加圧した。加圧状態のままカプセルを1000℃で加熱し、この温度で30分間保持した。その後、カプセルを急冷し、圧力を取り除き、試料を取り出した。取り出した試料を粉砕して、水洗することにより塩化カリウム(KCl)成分を除去した。残った粉砕試料を乾燥させることで、粉末状の本発明の熱膨張抑制部材を得た。
【0052】
X線回折測定によると、この粉末状の熱膨張抑制部材は室温(20℃)で三斜晶のペロブスカイト構造を有しており、180℃近辺で斜方晶のペロブスカイト構造に相転移した。加えて蛍光X線分析によってビスマスとランタンとニッケルの原子比が仕込み比とほぼ同等であることが分かったので、本発明の熱膨張抑制部材の組成式はBi0.98La0.02NiOで表現できることが分かった。
【0053】
次に粉末の熱膨張抑制部材を固形物にする目的で、再び金製のカプセルに封入した。このカプセルを6GPaまで加圧して、800℃で30分加熱した。カプセルを急冷し、圧力を取り除いて取り出した試料はペレット状の固形物であった。このペレットの表面を研磨して、2.5mm径、0.5mm厚のディスク状である本発明の熱膨張抑制部材を得た。
このディスク状の熱膨張抑制部材にひずみゲージ(共和電業社製)を接着剤(共和電業、PC−6)を用いて貼り付けて、0℃から130℃におけるひずみから線膨張係数を計測した。
その結果、本部材は全温度領域で昇温に対して線形の体積収縮を示し、20℃で接線を取った代表的な線膨張係数αの値は−21×10−6/Kであった。
【0054】
(実施例2〜46)
表1に示す目的組成と同じモル比になるように、酸化ビスマス(Bi)と金属ニッケル(Ni)と金属Mの酸化物(M)を、最小限の硝酸に溶解させて、以後は実施例1と同様にして、粉末状及びディスク状の本発明の熱膨張抑制部材を得た。
【0055】
粉末状試料のX線回折測定により、実施例2〜46の熱膨張抑制部材が実施例1と同様の結晶構造を有していることを確認した。また、実施例2〜46のいずれの試料も斜方晶への相転移挙動を示したが、転移温度はそれぞれ異なった。その転移温度は金属Mの置換量が多いほど低温側へシフトして、金属Mのイオン半径が大きいほどシフト幅が大きくなる傾向があった。
実施例2の熱膨張抑制部材のX線回折測定の結果をリートベルト精密化処理することで算出した0℃〜100℃の範囲における線膨張係数αの値は、−137×10−6/Kであった。この線膨張係数は本発明の熱膨張抑制部材に含まれうる空隙やミクロ欠陥の影響を取り除いた材料固有の理論値である。
蛍光X線分析により、実施例2〜46の熱膨張抑制部材が表1に示した目的組成となっていることを確認した。
【0056】
次いで、ディスク状試料の線膨張係数を実施例1と同様にして測定したところ、全ての試料は0℃から130℃の全領域において線形かつ負の熱膨張特性を示した。なお、金属Mの3価のイオン半径が小さいものほど、昇温時と降温時のひずみの大きさが一致する傾向があった。
実施例2〜46の熱膨張抑制部材の20℃における代表的な線膨張係数αは、−19×10−6/K〜−28×10−6/Kであった。各試料の20℃における線膨張係数αの具体的な値は表1の通りである。
【0057】
(比較例1)
Biサイトに対するLaの置換を行わなかった他は、実施例1と同様にして、比較用の金属酸化物粉末と金属酸化物ディスクを合成した。
【0058】
X線回折測定によると、この金属酸化物は室温(20℃)で三斜晶のペロブスカイト結晶を有しており、230℃近辺で斜方晶のペロブスカイト構造に相転移した。ただし、相転移と同時に酸化物の熱分解が発生したので、降温時には三斜晶のペロブスカイト構造に戻らなかった。
【0059】
次いで、ディスク状試料の線膨張係数を実施例1と同様にして測定したところ、0℃から30℃の領域において正の熱膨張特性を示した。30℃以上の領域では、一部負の熱膨張特性が観測されたが、繰り返し測定において可逆的ではなかった。20℃における代表的な線膨張係数αは、+3×10−6/Kであった。
【0060】
(比較例2)
Biサイトに対するLaの置換比率を20%とした他は、実施例1と同様にして、比較用の金属酸化物粉末と金属酸化物ディスクを合成した。
X線回折測定によると、この金属酸化物は室温(20℃)で斜方晶または菱面体晶のペロブスカイト結晶であったが、300℃までの温度スキャンでは結晶相転移の現象を確認できなかった。
【0061】
次いで、ディスク状試料の線膨張係数を実施例1と同様にして測定したところ、0℃から130℃の全領域において正の熱膨張特性を示した。20℃における代表的な線膨張係数αは、+2×10−6/Kであった。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例47)
焼結プロセス中の水分量が少なくなるように制御した以外は実施例2と同様にして本発明の熱膨張抑制部材を作成した。高圧合成用のカプセルに水分が含まれていると、焼結プロセス中に水熱反応がおこりやすくなるために、結晶粒が大きくなる傾向がある。
モル比で95/5/100の酸化ビスマス(Bi)と酸化ランタン(La)と金属ニッケル(Ni)を、最小限の硝酸に溶解させて、良く撹拌した。この溶液を蒸発乾固した固形物を空気雰囲気750℃の電気炉で12時間仮焼することで酸化物粉末を得た。この酸化物粉末に対して事前に150℃の乾燥処理を施した過塩素酸カリウム(KClO)を重量比で20%加えて、混合したものを金製のカプセルに封入した。そのカプセルを立方体アンビル型高圧発生装置により6GPaまで加圧した。加圧状態のままカプセルを1000℃で加熱し、この温度で30分間保持した。その後、カプセルを急冷し、圧力を取り除き、試料を取り出した。取り出した試料を粉砕して、水洗することにより塩化カリウム(KCl)成分を除去した。残った粉砕試料を150℃で加熱乾燥させることで、粉末状の本発明の熱膨張抑制部材を得た。実施例1と同様にしてディスク状の本発明の熱膨張抑制部材も得た。
【0064】
粉末状試料のX線回折測定により、実施例47の熱膨張抑制部材が実施例1〜46と同様の結晶構造を有していることを確認した。X線回折測定の結果をリートベルト精密化処理することで算出した0℃〜100℃の範囲における線膨張係数αの値は、実施例2と同じく、−137×10−6/Kであった。
蛍光X線分析によってビスマスとランタンとニッケルの原子比が仕込み比とほぼ同等であることが分かったので、本発明の熱膨張抑制部材の組成式はBi0.95La0.05NiOで表現できることが分かった。
次いで、ディスク状試料の線膨張係数を実施例1と同様にして測定したところ、ディスク状試料は0℃から130℃の全領域において線形かつ負の熱膨張特性を示し、20℃における線膨張係数αは、−82×10−6/Kであった。この線膨張係数は実施例2の−23×10−6/Kより大きく、同じ組成であっても製造条件によって線膨張係数を制御できることが分かる。
【0065】
(実施例48)
実施例2で作成した2.5mm径、0.5mm厚のディスク状の熱膨張抑制部材に同じ形状のアルミニウム板を貼り付けて本発明の対熱膨張性部材とした。貼り付けには熱硬化型のエポキシ系接着剤を用いた。
【0066】
この対熱膨張性部材の両面にひずみゲージを貼り付けて、20℃〜100℃におけるひずみから線膨張係数を計測した。その結果、本部材は全領域において体積変化が殆ど無く、20℃で接線を取った代表的な線膨張係数は±0.5×10−6/K以内であった。ひずみの測定精度を考慮すると、この対熱膨張性部材は、ほぼゼロ熱膨張であると言える。これは、アルミニウムの線膨張係数(20℃で23×10−6/K)と実施例2の熱膨張抑制部材の線膨張係数(20℃で−23×10−6/K)がちょうど相殺したためと考えられる。
【0067】
(実施例49)
実施例48で用いたアルミニウム板の代わりに銅板を用いて本発明の対熱膨張性部材を作成した。金属部とセラミックス部の体積比を調整することで、20℃〜100℃における熱膨張をほぼゼロにすることができた。
【0068】
その他、実施例1および実施例3〜47の熱膨張抑制部材とアルミニウム板、銅板など各種の金属部材を接合して得られた対熱膨張性部材においても、外熱による体積変化の程度を軽減する効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、負の熱膨張特性を有する熱膨張抑制部材を提供することができる。
さらに本発明によれば、前記本発明の熱膨張抑制部材と金属を接合することで、熱膨張を極端に小さくした金属系の対熱膨張性部材を提供することができる。
本発明の金属系の対熱膨張性部材は、放熱性のプリント基板、LED素子などに用いる放熱基板、精密アクチュエータの構造材、有機感光体の基材、光学スペーサ部材、電極、バネといった温度変化のある環境下で用いるデバイスや製品に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 熱膨張抑制部材
2 対熱膨張性部材
201 固形物
202 金属
203 第一の金属
204 第二の金属
205 第一の固形物
206 第二の固形物
207 絶縁体
208 第三の固形物
209 第四の固形物
210 第一の絶縁体
211 第二の絶縁体
3 スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含むことを特徴とする熱膨張抑制部材。
一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【請求項2】
20℃において正の線膨張係数を有する金属と下記一般式(1)で表される酸化物を少なくとも含む固形物を接合してなることを特徴とする対熱膨張性部材。
一般式(1)
(Bi1−x)NiO
(MはLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Inのうちの少なくとも1種の金属である。xは0.02≦x≦0.15の数値を表す。)
【請求項3】
前記正の線膨張係数を有する金属の20℃における線膨張係数αが、10×10−6/K以上30×10−6/K以下であることを特徴とする請求項2に記載の対熱膨張性部材。
【請求項4】
前記正の熱膨張係数を有する金属の0℃における熱伝導率κが、100W/mK以上410W/mK以下であることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の対熱膨張性部材。
【請求項5】
前記正の熱膨張係数を有する金属が、アルミニウムおよび銅の少なくとも一方を成分として含んでいることを特徴とする請求項4に記載の対熱膨張性部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56830(P2012−56830A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97851(P2011−97851)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】