説明

熱融着性ポリウレタン弾性繊維及びその製造方法並びに該ポリウレタン弾性繊維を用いた織編物

【解決手段】フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸しないポリウレタン弾性繊維であって、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【効果】本発明によれば、熱融着性及び熱セット時の耐熱性に優れ、断糸や劣化が起こりにくいポリウレタン弾性繊維を提供することができる。また、本発明のポリウレタン弾性繊維を用いることで、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カール、スリップイン等が生じにくい織編物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱セット時の耐熱性に優れ、断糸や劣化が起こり難い熱融着性ポリウレタン弾性繊維及びその製造方法並びにこの熱融着性ポリウレタン弾性繊維を用いた織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維を混用した緯編地、経編地、織物等のストレッチ生地を使用した製品は、伸びが大きく、伸長状態からの回復力やフィット性が良いため広く利用されている。
【0003】
しかし、ポリウレタン弾性繊維を混用した生地を裁断、縫製して作られた製品を繰り返し伸張すると、変形して不均一な生地になり「変形、目ずれ、わらい」、糸が抜け出す「ほつれ」、生地の組織にはしご状の傷やずれが発生した「ラン、デンセン」、生地が湾曲した「カール」等の問題が起きやすい。また、繰り返し伸長により縫製部分でポリウレタン弾性繊維が縫目から抜け出す、いわゆる「スリップイン」も起きやすい。このスリップインが発生して弾性繊維が抜け出した生地の部分は、当然のことであるが、収縮力が無くなるので生地に密度斑が発生し、着用できなくなるという問題があった。
【0004】
これらの現象は、ポリウレタン弾性繊維以外の弾性繊維を使用した織編物でも起きるが、伸縮性の強いポリウレタン弾性繊維の場合は特に顕著である。
【0005】
こうした問題点に対処するため、特開2002−339189号公報(特許文献1)には、ウレア化合物を添加したポリウレタンウレア重合体溶液を乾式紡糸することで、繊維の熱融着性を改良する方法が提案されている。しかし、このポリウレタン弾性繊維をナイロン等の他の繊維と共に用いて編物を作成し、これを熱処理した場合、ポリウレタン弾性繊維の熱融着はなお不十分であった。
【0006】
また、溶融紡糸によって得られ、一定の強力保持率と融点を有する熱融着性の改良されたポリウレタン弾性繊維も提案されている(WO2004/053218)が、紡糸した糸を巻き取った巻糸体の糸全体についてみると、断糸特性に問題がある部分もあり、巻糸体全体にわたって断糸し難く、均一な特性を有するポリウレタン弾性繊維は得られていないのが現状であった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−339189号公報
【特許文献2】WO2004/053218
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、充分な熱融着性を有すると共に、熱セット時の耐熱性に優れ、巻糸体の糸全体にわたり、断糸や劣化が起こりにくい熱融着性に優れたポリウレタン弾性繊維及びその製造方法並びにこのポリウレタン弾性繊維を用いて得られる織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸しないポリウレタン弾性繊維であって、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上の熱融着力を有する熱融着性ポリウレタン弾性繊維が上記問題点を解決し得るものであり、このポリウレタン弾性繊維を用いて織成又は編成してなる織編物を上記温度付近で熱処理した場合、ポリウレタン弾性繊維相互及び/又はポリウレタン弾性繊維と他の繊維とが融着して、ほつれ、デンセン等が生じにくい織編物を得ることができることを見出すと共に、所定の条件下で上記特性を有する熱融着性ポリウレタン弾性繊維が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
[1]フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸しないポリウレタン弾性繊維であって、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[2]300%伸長した直後の残留歪みが40%以下であることを特徴とする[1]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[3]鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含有するベース油剤を1〜10質量%含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[4]熱融着性ポリウレタン弾性繊維が、(I)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマー、及び(II)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーを反応させて得られるポリマーを溶融紡糸してなり、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付着又は含有させてなることを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[5]ベース油剤が、更に分子量700以下のモノアミンを含有し、ポリウレタン弾性繊維中の残留イソシアネート基と上記モノアミンとを反応させて、残留イソシアネート基の0.5〜15当量%を消費してなることを特徴とする[4]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[6]ポリウレタン弾性繊維中の有効架橋量が、0.05×10-5mol/g以上10×10-5mol/g未満であることを特徴とする[4]又は[5]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[7]熱融着性ポリウレタン弾性繊維が、ポリオール及びジイソシアネートから得られる両末端イソシアネート基中間重合体と低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体溶液と、低融点化合物とを上記ポリウレタン重合体と低融点化合物との質量比が、40:60〜80:20となるように混合してなる紡糸用溶液を乾式紡糸し、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付着又は含有させてなることを特徴とする[1]又は[2]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[8]熱融着性ポリウレタン弾性繊維を構成する全ポリオール中に、数平均分子量600〜3500のポリエーテルジオールを70モル%以上含有してなると共に、ウレタン結合とウレア結合の全体に占めるウレタン結合の割合が60〜95モル%であることを特徴とする[7]記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、
[9](1)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーを合成する工程、
(2)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて両末端水酸基プレポリマーを合成する工程、
(3)両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとを反応させて紡糸用ポリマーを合成する工程、
(4)紡糸用ポリマーを溶融紡糸する工程、及び
(5)紡糸したポリウレタン弾性繊維に、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付与する工程
を含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法、
[10](1)数平均分子量600〜3500のポリオールとジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する工程、
(2)上記中間重合体と低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとを有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体溶液を得る工程、
(3)上記ポリウレタン重合体溶液と低融点化合物とをポリウレタン重合体と低融点化合物との質量比が40:60〜80:20となるように混合する工程、
(4)ポリウレタン重合体と低融点化合物を含む溶液を乾式紡糸する工程、及び
(5)紡糸したポリウレタン弾性繊維に、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付与する工程
を含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法、
[11][1]乃至[8]のいずれかに記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を製織編してなるポリウレタン弾性繊維混用織編物、
[12][1]乃至[8]のいずれかに記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸とを含み、乾熱又は湿熱セットにより熱融着性ポリウレタン弾性繊維相互及び/又はこれと非弾性糸との交差部を熱融着させてなる[11]記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱融着性及び熱セット時の耐熱性に優れ、断糸や劣化が起こりにくいポリウレタン弾性繊維を提供することができる。また、本発明のポリウレタン弾性繊維を用いることで、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カール、スリップイン等が生じにくい織編物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
熱融着性ポリウレタン弾性繊維
本発明の弾性繊維は、フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸しないポリウレタン弾性繊維であって、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上の熱融着性ポリウレタン弾性繊維である。
【0013】
ここで、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維の融点(フロー温度)は、165〜200℃であることが好ましく、より好ましくは170〜200℃である。融点が低すぎると熱セット率は、極めて高いものとなるが、生地の伸長回復力が低すぎたり、耐熱性が実用的に低すぎるなどの問題があり、融点が高すぎると、高温下でセットしなければならず、共用する繊維の風合いを硬くしたり劣化を引き起こしたり、セット機の能力不足による生産上の制限が発生するなどの問題がある。本発明のポリウレタン弾性繊維は、上記範囲の融点を有することから、寸法安定性や、生地の伸長回復力が好ましく、他の通常の繊維と併用すると、双方の繊維を同様の温度でセットできるため、良好な品位の編地や織物を提供することができ、大きな利点を発揮するものである。
【0014】
本発明のポリウレタン弾性繊維の融点はフロー温度法により測定する。具体的には、フローテスターCFT−500A形((株)島津製作所製)を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmとして30kgの押出荷重を加え、初期設定温度120℃で予熱時間240秒の後、3℃/分の速度で等速昇温した時、描かれるトナープランジャー降下量−温度曲線を求める。等速昇温されるにしたがい、トナーは徐々に加熱され、ポリマーが流出し始める。このときのフロー温度を融点とする。更に昇温すると溶融状態となったトナーは大きく流出し、プランジャー降下が停止し終了する。
【0015】
また、本発明のポリウレタン弾性繊維の熱融着性の指標としての熱流動性は、以下の試験で性能を把握することができる。
【0016】
フローテスターCFT−500A形((株)島津製作所製)を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmとして30kgの押出荷重を加え、初期設定温度で予熱時間240秒の後、一定温度で処理したときダイ(ノズル)からサンプルが出始めるまでの移動時間を測定する。この時間が短ければ、熱流動性が高く、また時間が長ければ熱流動性が低いものと評価できる。
【0017】
例えば、初期設定温度が165℃の場合、好ましい時間は1〜60分である。更に好ましくは5〜50分である。1分未満であると熱流動性は良好であるが耐熱性が低くなるおそれがあり、60分を超えると熱流動性が低いため熱融着性が劣ると考えられる。
【0018】
また、初期設定温度が180℃の場合、好ましい時間は15秒〜20分である。更に好ましくは、30秒〜15分である。15秒未満であると熱流動性は良好であるが耐熱性が低くなるおそれがあり、20分を超えると熱流動性が低いため熱融着性が劣ると考えられる。
【0019】
また、本発明のポリウレタン弾性繊維は、300%伸長した直後の残留歪みが40%以下、特に35%以下であることが好ましい。残留歪みが40%より大きいポリウレタン弾性繊維を使用した製品は、肘抜け、膝抜け、伸びきり等の問題が発生したり、身体の補正効果が充分に発現されないので好ましくない。なお、300%伸長した直後の残留歪みの下限は特に制限されず、0%でもよいが、通常2%以上、特に5%以上である。
【0020】
300%伸長直後の残留歪みとは、把握長4cm、300mm/分で300%までの伸長後直ちに伸長時と同じ速度で元の長さまで回復させ、応力がゼロになった時の残留歪み(%)をいう。
【0021】
更に、本発明のポリウレタン弾性繊維は、紡糸後の繊維をボビンに巻回してなる巻糸体の全領域にわたり、断糸が生じないことを特徴とする。通常、紡糸装置で紡糸された繊維は、冷却後、油剤が付与され、巻き取り機で巻き取られる。巻き取り工程では、ボビン(芯)である筒状の紙管等に繊維を巻回し、繊維層の厚さが径方向に10〜50mm、繊維巻取り幅が30〜100mmの円柱状の巻糸体を得る。この場合、巻糸体の全領域とは、巻糸体の内層と表層を合わせた巻糸体全体をいい、円柱の底面の径方向に中心から外周部へ向かって、紙管に接している層を内層、この内層を取り囲んでいる外側の層を表層とする。
【0022】
なお、巻糸体は、このように内層及び表層を含むが、本発明においては、巻糸体全体において、つまり内層及び表層においていずれもその弾性繊維の融点、熱融着力が上記範囲であることが必要である。
【0023】
即ち、内層とは、巻糸体の紙管に最も近い部分をいい、紙管幅が55〜60mm程度のいわゆるハーフ紙管(外径70〜90mm)であれば、巻糸体の紙管接触部及びそこから30g分表層に戻る領域であり、紙管幅が110〜120mm程度のいわゆるフル紙管(外径70〜90mm)サイズであれば、巻糸体の紙管接触部及びそこから60g分表層に戻る領域をいう。表層とは、巻糸体の内層を除いた部分である。
【0024】
本発明において、巻糸体の全領域にわたり断糸が生じないとは、前述のとおり、巻糸体の内層及び表層の双方で断糸が見出されないことを言うが、その確認は、次のようにして行う。まず、直径が4インチ、針数400本のパンスト編機を使用して、内層及び表層のそれぞれのポリウレタン弾性繊維と、ナイロン仮撚り加工糸33デシテックス26フィラメントを、ドラフト2.4倍でプレーティング編みして得た筒編地を開反する。なお、ここにいう表層のポリウレタン弾性繊維とは、最表面及びそこから巻き取り量全体の10質量%分の領域に存在するポリウレタン弾性繊維を指す。
次に、伸長倍率1.0倍の状態に保ったまま、該開反編地を所定温度で60秒間熱セットして、プレーティング編地中のポリウレタン弾性繊維を熱融着させる。編機の油など介在物が多い場合は、熱処理前に編地を洗浄する。
介在物を除去するための洗浄条件としては、例えば、ソーピング剤(スコアロールTS840(旭電化社製))1mLを水1Lに溶解した洗浄溶液を用いて、染色試験機MINI COLOUR(テクサム技研製)で90℃で10分間処理を実施し、編地を充分に水洗し、介在物及びソーピング剤を除去した後乾燥する。その後熱処理を行う。
続いて、タテ17cmでヨコ30cmの編地を20%塩酸水溶液200mLに浸漬処理してナイロンを除去した後、残ったポリウレタン弾性繊維の試料を目視観察する。
断糸している懸念の部位はマジック等で印をつけ、実体顕微鏡SZ61[オリンパス(株)]を用いて倍率20倍で観察し、ポリウレタン断糸の有無を目視評価する。目視評価の結果、内層・表層それぞれのポリウレタン弾性繊維を用いた編地で断糸が確認されない場合、巻糸体の全領域で断糸が生じていないものとした。
【0025】
また、本発明のポリウレタン弾性繊維の熱融着力は、0.15cN/dtex以上である必要があり、特に好ましくは0.17cN/dtex以上である。熱融着力が0.15cN/dtex未満であると、織編地にした際、充分な熱融着性とその効果が得られず好ましくない。なお、熱融着力の上限は、0.25〜0.30cN/dtexを超えたあたりで、下記に示す「解編不可能」な状態である。
【0026】
ここで、本発明において、熱融着とは、ポリウレタン弾性繊維が外からの熱又は熱と圧力とにより、ポリウレタン弾性繊維相互及び/又はポリウレタン弾性繊維と他の繊維とが融着し、密着している状態や、繊維の少なくとも一部が融着し、密着している状態、或いは融着まで至らなくても繊維同士が接着している状態をいう。
【0027】
熱融着力の測定方法は、プレーティング編地法によるものであり、測定方法は、次の通りである。
直径が4インチ、針数400本のパンスト編機を使用して、ポリウレタン弾性繊維とナイロン仮撚り加工糸33デシテックス26フィラメントをドラフト2.4倍でプレーティング編みして得た筒編地を開反する。
次に、伸長倍率1.0倍の状態に保ったまま、該開反編地を該ポリウレタン弾性繊維のフロー温度法における融点で60秒間熱セットして、プレーティング編地中のポリウレタン弾性繊維を熱融着させる。編機の油など介在物が多い場合は、熱処理前に編地を洗浄する。
介在物を除去するための洗浄条件としては、例えば、ソーピング剤(スコアロールTS840(旭電化社製))1mLを水1Lに溶解した洗浄溶液を用いて、染色試験機MINI COLOUR(テクサム技研製)で90℃で10分間処理を実施し、編地を充分に水洗し、介在物及びソーピング剤を除去した後乾燥する。その後熱処理を行う。
【0028】
熱融着力の算出方法、評価は次の通りである。引張試験機[島津製作所製 精密万能試験機]上部チャックに把持した該編地の端から解編したポリウレタン弾性繊維を0.1cNの荷重下で下部チャックに把持し、つかみ間隔(チャック間隔)100mm、引張速度100mm/分で引張り、ポリウレタン弾性繊維の編地からの解編張力を測定する。
次いで、熱融着部位が解離する度に計測される解編張力のピーク点について、解編応力が安定する伸長量100mmから200mmの間で値が大きい3番目までのピーク点を平均して、ピーク平均解編張力を求める。続いて、ピーク平均解編張力(cN)をポリウレタン弾性繊維の初期繊度(dtex)で除して熱融着力(cN/dtex)とする。
【0029】
ポリウレタン弾性繊維の熱融着が強くなると、編地端よりポリウレタン弾性繊維を解編できない状態になり、その場合は「解編不可能」と評価して、熱融着が最大に達したことを表す。通常、解編不可能な条件より温度を下げると、次第に熱融着力も低くなり、解編可能な程度に熱融着した状態となる。「解編不可能」な状態の熱融着力とは、測定するポリウレタン弾性繊維の種類や使用繊度などにより異なるが、通常熱融着力が0.2cN/dtexを超えたあたりで、「解編不可能」か、あるいは「解編不可能」に近い状態となる。また、熱処理した際にポリウレタン弾性繊維が編地中で断糸した場合、連続したポリウレタン弾性繊維が編地から解編できないので、「測定不可能」となる。
【0030】
ポリウレタン弾性繊維が熱融着していることで編地端より該ポリウレタン弾性繊維が解編できない状態になっている「解編不可能」と、ポリウレタン弾性繊維が編地中で断糸しており編地端より該ポリウレタン弾性繊維が解編できない状態になっている「測定不可能」の違いは、次の通りである。タテ17cmでヨコ30cmの編地を20%塩酸水溶液200mLに浸漬処理してナイロンを除去した後、残ったポリウレタン弾性繊維の試料を目視観察し、該編地にポリウレタン弾性繊維の断糸が認められない場合は、「解編不可能」であり、本発明の良好な結果を示すものである。一方、ポリウレタン弾性繊維の断糸が認められる場合は、「測定不可能」であり、製品として伸度ムラ、伸長回復性のムラ、繰り返し着用時の断糸部分の拡大など問題が発生し、両者を区別することができる。
【0031】
なお、熱融着力の測定方法は、プレーティング編地法の他、原糸交差法や特開2002−339189号公報に記載の熱融着力測定法によっても測定、評価することができる。
原糸交差法の測定方法は次の通りである。ポリウレタン系弾性繊維15cmを2本採取し、図11に示した通り、ポリウレタン弾性繊維の原糸11のループに同じポリウレタン弾性繊維の原糸12を交差し、0.1cNの荷重を掛け、つかみ間隔80mmの中央付近(中央から±5mm)に該交差箇所を配置しつつ2本のポリウレタン弾性繊維を把持する。
続いて、該試料を[(3℃/分フローの融点)−20]℃に保った乾燥機中で45秒間熱処理する。なお、処理温度の最低温度は160℃とする。
【0032】
次に、該試料について、図11のX−X’より上部、Y−Y’より下部を切り離した状態で、引張試験機の上下のチャックに把持する。この時、つかみ間隔は40mm、交差箇所はつかみ間隔の中央付近(中央から±5mm)になるように調整する。引張速度100mm/分で引張り、当該交差箇所が剥離する時の最大応力を測定する。続いて、最大応力(cN)をウレタン弾性繊維の初期繊度(dtex)で除して熱融着力(cN/dtex)とする。交差箇所が剥離せず融着した状態のまま、ポリウレタン弾性繊維の他の伸長箇所が断糸した場合は、「完全融着」と評価して、強く熱融着したことを表す。熱融着力の評価については、上記プレーティング編地法と同じ傾向となる。
【0033】
特開2002−339189号公報に記載の熱融着力の測定(PU100%使用編地試験)は以下の通りである。
【0034】
ポリウレタン弾性繊維を、針本数370本の直径3ヶ3/42.54cmの一口編み機にてドラフト2.5倍で編み立て、弾性繊維の筒編地を得る。得られた弾性繊維の筒編地を100%伸長下で設定プレセット温度下でピンテンターで通過時間60秒で通過させ、その後、引張試験機(オリエンテック(株)製UTM−III−100型(商標))の上部チャックと下部チャック間の間隔(試料長)を10cmになるように調節し、上部チャックに筒編地をセットし筒編地の端から糸を試料長10cmまで抜き出して下部チャックにセットし、50cm/分の速度で引っ張り、筒編地の一端から糸を抜き出す際の抜き出し応力P1(cN)を測定する。
【0035】
ポリウレタン弾性繊維のデシテックス測定方法は、以下の通りである。ポリウレタン弾性繊維に1/30g/dtex(dtexは公称デシテックス)の初荷重をかけ、100.0cmの長さに切断する。100.0cmの長さに切断された弾性繊維10本、すなわち、1000.0cm長さ分の質量を小数点以下4桁gの電子天秤にて測定し、更に、それらの質量を1000倍、すなわち、10000mの質量に換算したグラム数をデシテックスとする。熱融着力を下記式により求める。
熱融着力(cN/dtex)=抜き出し応力P1/デシテックス
【0036】
熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法
本発明のポリウレタン弾性繊維の製造方法は、上記特性を備えたポリウレタン弾性繊維が得られる限り、特に制限されるものではなく、溶融紡糸方法及び乾式紡糸法のいずれを採用してもよい。
【0037】
例えば、ポリオールと過剰モル量のジイソシアネートを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタン中間重合体を製造し、該中間重合体のイソシアネート基と容易に反応し得る活性水素を有する低分子量ジアミンや低分子量ジオールを不活性な有機溶剤中で反応させてポリウレタン溶液(ポリマー溶液)を製造した後、溶剤を除去し、糸条に成形する方法や、ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジアミン又は低分子量ジオールとを反応させたポリマーを固化し、溶剤に溶解させた後、溶剤を除去し、糸条に成形する方法、前記固化したポリマーを溶剤に溶解させることなく加熱により糸条に成形する方法、前記ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させてポリマーを得、該ポリマーを固化することなく糸条に成形する方法、更には、上記のそれぞれの方法で得られたポリマー又はポリマー溶液を混合した後、混合ポリマー溶液から溶剤を除去し、糸条に成形する方法等がある。
【0038】
[溶融紡糸法]
まず、溶融紡糸法による製造方法について説明する。溶融紡糸法にて本発明のポリウレタン弾性繊維を得る方法は、特に制限されるものではないが、例えば以下の3つの方法が知られている。
(1)ポリウレタン弾性体チップを溶融紡糸する方法。
(2)ポリウレタン弾性体チップを溶融した後、ポリイソシアネート化合物を混合して紡糸する方法。
(3)ポリオールとジイソシアネートを反応させたプレポリマーと低分子量ジオールとを反応させた紡糸用ポリマーを合成した後、固化させることなく紡糸する反応紡糸方法。
【0039】
(3)の方法は、(1)、(2)の方法に比べ、ポリウレタン弾性体チップを取り扱う工程が無いため簡略であり、また、プレポリマーの反応機への注入割合を調節して、紡糸後のポリウレタン弾性繊維中の残留イソシアネート基の量を調整でき、この残留イソシアネート基による鎖延長反応で耐熱性の向上を得ることもできるため、好適な方法である。更に、(3)の方法では、国際公開第99/39030号パンフレットに開示されているように、低分子量ジオールをプレポリマーの一部と事前に反応させ、水酸基過剰のプレポリマーとして反応機に注入する方法も行うことができる。
【0040】
より具体的には、(I)第一ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマー(以下「両末端イソシアネート基プレポリマー」とする)、及び(II)第二ポリオールと、ジイソシアネートと、低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマー(以下「両末端水酸基プレポリマー」とする)を反応させて得られるポリマーを固化することなく溶融紡糸する方法を好適に採用することができる。
【0041】
この場合、紡糸用ポリマーの合成は、(I)数平均分子量800〜3500の第一ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーの合成、(II)数平均分子量600〜3,000の第二ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーの合成、及び(III)これら二つのプレポリマーを反応機に導き、連続的に反応させる紡糸用ポリマーの合成の3つの反応で構成される。
【0042】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を溶融紡糸法で製造する場合、第一ポリオールの数平均分子量は、800〜3,500程度のポリマージオールを用いることが好ましく、第二ポリオールの数平均分子量は、600〜3,000程度のポリマージオールを用いることが好ましい。
【0043】
第一ポリオールの数平均分子量がこの範囲より小さいと、得られるポリウレタン弾性繊維の破断伸度や弾性回復性が低下する場合があり、大きいと破断強度や耐熱性、耐寒性などが低下したり、紡糸時の押出性、例えば溶融紡糸の場合では紡糸性が低下する場合がある。従って、より好ましくは、第一ポリオールの数平均分子量は、1,000〜3,000程度である。
【0044】
一方、第二ポリオールの数平均分子量がこの範囲より小さいと、糸が硬くなったり、均質性に欠ける場合があり、大きいと耐熱性や強度の改善効果が期待できないおそれがある。より好ましくは、第二ポリオールの数平均分子量は、800〜2500程度である。
【0045】
第一ポリオールの分子量に比べて第二ポリオールはより低分子量とすると、糸の強度が上がるなど物性上好ましい。
なお、ポリオールの数平均分子量の測定方法は、JIS K1557に従い、水酸基価より算出できる。
【0046】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維に使用できるポリオールとしては、ポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール等を用いることができる。
【0047】
ポリエーテルグリコールとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン(THF)等の環状エーテルの開環重合により得られるポリエーテルジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコールの重縮合により得られるポリエーテルグリコール、THF及び3−メチルTHFの共重合体である変性PTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、THF及び2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG等が例示できる。
【0048】
ポリエステルグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類から選ばれる少なくとも1種と、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の二塩基酸類から選ばれる少なくとも1種との重縮合によって得られるポリエステルグリコール;ε−カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類の開環重合により得られるポリエステルグリコール等が例示される。
【0049】
ポリカーボネートグリコールとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート等から選ばれる少なくとも1種の有機カーボネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジオールとのエステル交換反応によって得られるカーボネートグリコール等が例示される。
【0050】
上記例示したポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコールは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、良好な融着性を得るためにはポリエーテルジオール成分を60〜100質量%、特に70〜100質量%含むことが望ましく、ポリエーテルジオール成分が100質量%であってもよい。また、溶融紡糸法の場合は、第一ポリオールと第二ポリオールは、同一成分である程、熱融着性が好ましく、ポリエステルジオールよりもポリエーテルジオールの方が好ましい。
【0051】
ポリエーテルジオール成分としては、特にポリテトラメチレンエーテルグリコール、THF及び3−メチルTHFの共重合体である変性PTMG、THF及び2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMGが好適に使用される。エステル基に比べエーテル基は、一般的に回転性が大きく柔軟性があり、熱により変動しやすいため熱融着性が優れるものと考えられる。
【0052】
なお、第二ポリオールとしてポリエーテルジオールを使用すると、熱融着性の向上及び融点近傍で糸切れを避けるのに有効となる。その詳細は不明であるが、例えば、第二ポリオールとしてポリエーテルジオールを使用することで、エーテル結合の自由回転のため、ポリマー骨格が柔軟になり、加熱時も分子運動が活発になり、ポリマー表面の軟化を助けると共に、ポリマーの塑性変形を高め、熱融着性の向上及び糸切れ防止に寄与していると推測できる。
【0053】
更に、後述するように、分子架橋を伴った糸条の場合、第二ポリオールが何等かの形で架橋結合の耐熱性向上に寄与し、融点近傍の比較的厳しい条件で糸条が断糸するのを防止している可能性もある。
【0054】
次に、本発明の溶融紡糸法による熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造に使用できるジイソシアネートとしては、ポリウレタンの製造に際して通常使用されている脂肪族系、脂環式系、芳香族系、芳香脂肪族系等の任意のジイソシアネートを使用することができる。
【0055】
このようなジイソシアネートとしては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メタ−テトラメチルキシレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらの中でも4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0056】
鎖長延長剤である低分子量ジオールや低分子量ジアミンとしては、反応速度が適当であり、適度な耐熱性を与えるものが好ましく、分子中にイソシアネートと反応し得る少なくとも2個の活性水素原子を有し、一般に分子量が500以下の低分子量化合物が使用される。
【0057】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維に使用できる低分子量ジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類を用いることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、作業性や得られる繊維に適度な物性を与える点からエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましく使用される。反応性、物性の面から、1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールは、単独使用よりも併用して使用する方が好ましい。
【0058】
1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールを併用する際は、低分子量ジオールの全体の質量に対して5〜50%使用することが好ましい。更に好ましくは10〜30%である。併用量が5%未満では、ポリウレタン弾性繊維の柔軟性、紡糸性に寄与しない場合があり、併用量が50%を超えると反応性が遅く、繊維の弾性回復率、圧縮永久歪みが悪くなる場合がある。
【0059】
また、低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ブタンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジン等を用いることができる。
【0060】
低分子量ジオールと低分子量ジアミンを併用することもできるが、本発明の溶融紡糸法による熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法においては、鎖長延長剤として低分子量ジオールをより好ましく使用することができる。
【0061】
なお、反応調整剤又は重合度調整剤として、ブタノール等の1官能性のモノオールやジエチルアミンやジブチルアミン等の1官能性のモノアミンを混合して用いることもできる。
【0062】
更に、紡糸性を阻害しない範囲内で、水酸基及び/又はアミノ基などの官能基を有する平均官能基数(分子中の活性水素原子の数)が3〜6、特に3又は4である活性水素化合物を使用することができる。このような化合物としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール(4価)、ソルボース(5価)、ソルビトール(6価)、1,3,5−トリアミノベンゼン等などが挙げられる。
【0063】
この場合、官能基数が6を超えると、最終的に得られるポリウレタンの弾性(柔軟性)を付与することができないため好ましくない。好ましくは3官能性化合物が使用され、特に、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンが好ましく使用される。
【0064】
上記活性水素化合物の使用量は、鎖長延長剤と活性水素化合物を合わせた全部に対して、3官能化合物が6当量%以内であることが好ましい。6当量%を超えると、柔軟性を付与できず、紡糸性が安定しないおそれがある。特に好ましくは、4当量%以下である。
【0065】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維には、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性改善のために、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の任意成分を添加することができる。安定剤を使用する場合は、安定剤の種類、配合量により耐熱性、耐黄変性が大きく異なるため、ポリウレタン重合体に対して効果を発揮する安定剤の種類を選択し、それぞれに効果のある安定剤の配合量を組み合わせて使用することが好ましい。適した安定性を使用することにより黄変しにくく、耐熱性の優れたポリウレタン弾性繊維を得ることができる。
【0066】
紫外線吸収剤としては、例えば2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビスフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、ペンタエリスルチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0068】
光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル) −4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン縮合物等ヒンダードアミン系光安定剤を挙げることができる。
【0069】
その他必要に応じて、セミカルバジド系化合物等の安定剤、ビスフェノールSなどの有機硫黄系二次酸化防止剤、ホスファイト系二次酸化防止剤、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、酸化チタン、ジルコニウム含有化合物等のような無機微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、オルガノシロキサン等の粘着防止剤、フッ素系又はシロキサン系などの帯電防止剤、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナなどの無機質コロイドゾル、シランカップリング剤、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ピロリン酸エステルなどの熱融着向上剤、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチルなどの防腐剤、その他着色剤、防カビ剤、消泡剤、可塑剤、ワックス類、軟化剤、離型剤、発泡剤、増量剤、増核剤、抗菌剤、消臭剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、上記プレポリマー(I)、(II)のいずれに配合しても双方に配合してもよい。
【0070】
ここで、(I)のプレポリマーを得る場合、ポリオールとジイソシアネートとの反応割合は、ポリオール1.0モルに対し、ジイソシアネート2.0〜4.0モルが好ましい。
(II)のプレポリマーを得る場合、ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとの反応割合は、ポリオールと低分子量ジオールの合計1.0モルに対し、ジイソシアネート0.20〜0.35モルが好ましい。また、ポリオールと低分子量ジオールの反応割合は、ポリオールと低分子量ジオールの合計に対して、低分子量ジオールを70〜90モル%とするのが好ましい。
なお、更に、低分子量ジアミンを反応させることもできるが、この場合、低分子量ジアミンの使用量は、低分子量ジオールと低分子量ジアミンの合計に対して5モル%以下とするのが好ましい。
【0071】
原料の組成比は上記3つの反応を通算して、全ジイソシアネートのモル量と、全ポリオール及び全低分子量ジオールの合計モル量とのモル比が0.95〜1.25が好ましく、更に好ましくは1.005〜1.205である。
【0072】
また、全ジイソシアネートとポリオール(第一ポリオールと第二ポリオールの合計)のモル比は2.4〜3.8が好ましく、更に好ましくは、2.5〜3.5である。モル比が2.4より低いと得られるポリウレタン弾性繊維の伸度が高くなるが、耐熱性が不足し、モル比が3.8より高いと耐熱性は良いが、糸が硬く伸度も低く好ましくない。
【0073】
また、得られるポリウレタン弾性繊維の窒素含有率は、2.5〜4.0質量%が好ましい。窒素含有率が2.5質量%未満では、イソシアネートとの反応に関わる結合の濃度が低下し、耐熱性や耐摩耗性が劣るため好ましくなく、窒素含有率が4.0質量%を超えると、イソシアネート化合物に起因するポリウレタン中のハードセグメントの凝集力が強くなり、弾性回復率が劣るため好ましくない。
【0074】
溶融紡糸方法についてより具体的に説明すると、(I)の両末端イソシアネート基プレポリマーは、例えば温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリオールを注入し、60〜130℃で30〜100分、更に好ましくは80〜120℃で50〜70分窒素パージ下で撹拌することにより得ることができる。
【0075】
反応温度が60℃未満では、反応時間が大幅に長くなり、場合によってはプレポリマーが析出してくるおそれがある。また、反応温度が130℃を超えると、イソシアネート基のダイマー及びトリマー化反応等の副反応が顕著になるおそれがある。
【0076】
この反応で得られた両末端イソシアネート基プレポリマーは、ジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業(株)製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。
【0077】
(II)の両末端水酸基プレポリマーは、温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリオールを注入し、60〜130℃で30〜100分、好ましくは80〜120℃で50〜70分窒素パージ下で撹拌して前駆体を得、次いで、低分子量ジオールを注入し、撹拌して前駆体と反応させることで得ることができる。反応温度が80℃以下では、反応時間が大幅に長くなり、場合によってはプレポリマーが析出してくる。また、反応温度が130℃以上では、イソシアナート基のダイマー及びトリマー化反応等の副反応が顕著になるおそれがある。
【0078】
得られた両末端水酸基プレポリマーはジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業(株)製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。なお、この(I)、(II)の両プレポリマー合成時あるいは合成後に、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性等を改善するための上記各種薬品類を添加することができる。
【0079】
(III)の紡糸用ポリマーの合成は、一定比率で送り込まれた(I)、(II)のプレポリマーを、連続反応させて得ることができる。この場合、反応機としては、通常のポリウレタン弾性繊維の溶融紡糸法に用いられるものでよく、紡糸用ポリマーを加熱、溶融状態で撹拌、反応させ、更に紡糸ヘッドに移送する機構を備えた反応機が好ましい。
【0080】
反応条件は、160〜220℃で1〜90分、好ましくは180〜210℃で3〜80分である。反応温度が160℃未満では、(I)、(II)のプレポリマーが高粘度状態であるため均一に混合反応できず、また反応温度が220℃以上では、紡糸用ポリマーが熱により黄変したり劣化したりするおそれがある。
【0081】
原料を直接反応機に投入して連続的に製造する場合、スクリュウやバレル、ポリマーの流路で局部反応がおこるため、ビス(ヒドロキシフェニル)類を上述プレポリマーに添加することができる。このビス(ヒドロキシフェニル)類は、特開平8−176254号公報の「ポリウレタン組成物」記載の通り、局部反応せず、均一混練下で重合することができるため、スケールが発生し難く、工程安定性の高いポリウレタンを供給することができる。
【0082】
このビス(ヒドロキシフェニル)類を1種単独で又は2種類以上混合して使用することにより、透明性に優れ、しかも強伸度、耐熱性等の物性も良好な実用性に富んだポリウレタン弾性繊維が得られる。好ましいビス(ヒドロキシフェニル)類は、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビスフェノールA、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフォン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0083】
本発明の溶融紡糸法による熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、合成された紡糸用ポリマーを固化させることなく紡糸ヘッドに移送し、ノズルから吐出、紡糸して得ることができるが、紡糸用ポリマーの反応機内での平均滞留時間は反応機の種類によって異なり、下式により計算される。
反応機内での平均滞留時間=
(反応機容積/紡糸用ポリマー吐出量)×紡糸用ポリマーの比重
【0084】
紡糸用ポリマーの反応機内での平均滞留時間は、一般的に円筒形反応機を用いる場合は約20〜180分であり、約30〜120分がより好ましく、2軸押出し機を用いる場合は30秒〜30分であり、1〜20分がより好ましい。紡糸温度は160〜230℃が好ましく、更に好ましくは180〜220℃であり、ノズルより連続的に押出した後、冷却し、紡糸油剤を付着して巻取ることによって得ることができる。
【0085】
紡糸温度が160℃未満では、紡糸用ポリマーがノズルより吐出不良を起こすため好ましくなく、また230℃以上の高温では、紡糸用ポリマーの分解反応が起こるため好ましくない。
【0086】
ここで、両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとの比率は、紡糸した直後の糸中の残留イソシアネート基濃度(残留NCO%)が0.2〜1.0質量%、より好ましくは0.25〜0.90質量%となるように注入ギアポンプの回転比率を適宜調整することが好ましい。例えば、残留NCO%を高くする場合、両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとの比率において、両末端イソシアネート基プレポリマーの計量比率を上げていくと残留NCO%は高くなる。目標の残留NCO%に調整する場合は、該注入比率を調整し紡糸した繊維中の残留イソシアネート基濃度を下記の通り実測し、その結果を基に両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとの注入比率を微調整するフィードバック方式により条件設定することができる。残留イソシアネート基が0.2質量%以上過剰に含まれていると、紡糸後の鎖延長反応により強伸度、耐熱性等の物性を向上させることもできる。しかし、残留イソシアネート基が0.2質量%より少ないと、得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱性が低下するおそれがあり、また、1.0質量%を超えると紡糸用ポリマーの粘度が低くなり、紡糸が困難になる場合が生じる。また、紡糸した糸の融点が高くなりすぎるなどの欠点が生じるおそれがある。
【0087】
なお、紡糸した繊維中の残留イソシアネート基濃度(NCO%)は以下のように測定する。
紡糸した繊維(約1g)をジブチルアミン/ジメチルホルムアミド/トルエン溶液で溶解した後、過剰のジブチルアミンと試料中の残留イソシアネート基を反応させ、残ったジブチルアミンを塩酸で滴定し、残留イソシアネート基の含有量を算出する。
【0088】
残留イソシアネート基を残したまま、紡糸するためには紡糸時に油剤を付与しなければならない。油剤を付与しないままで紡糸すると、紡糸後に残留イソシアネート基が反応して糸同士が接着したり、解舒性が悪くなるため好ましくない。
【0089】
本発明で使用されるベース油剤の成分としては、鉱物油、シリコーンオイルなどが挙げられる。鉱物油としては、流動パラフィン系鉱物油とナフテン系鉱物油とがあり、中でも流動パラフィンが有利に使用できる。本発明に用いる鉱物油は、25℃における粘度が2×10-6〜40×10-62/sのものが好ましく、更に好ましくは、3×10-6〜20×10-62/sのものが好ましい。粘度が小さすぎると、揮発性が高く、紡糸後に糸表面から揮散消費し、糸の平滑性低下、膠着紡糸性を低下させるため好ましくない。また粘度が大きすぎると、紡糸給油時の糸抵抗増大又は給油斑が起き、糸斑が生じるなどのため好ましくない。なお、この粘度値は、細管式動粘度計(キャノンフェンスケSO、柴田科学(株)製)による測定値である。
【0090】
シリコーンオイルとは一般的にポリオルガノシロキサンと称されるものであり、直鎖状ポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等を挙げることができる。本発明に使用されるシリコーンオイルは、実質的に変性されていないポリオルガノシロキサンを意味し、ポリジメチルシロキサンが好ましく使用できる。
【0091】
本発明に使用されるシリコーンオイルの粘度は、任意に選択できるが、粘度抵抗を考慮すると25℃における粘度が2×10-6〜40×10-62/sのものが好ましく、更に好ましくは3×10-6〜20×10-62/sのものが好ましい。粘度が小さすぎると、低沸点分が多く含まれ、蒸散、気化による損失が多いため好ましくない。また、粘度が大きすぎると、解舒時に抵抗により延伸デニール斑が生じる場合があるため好ましくない。この粘度値も、上記鉱物油の粘度値と同様の測定値に基づくものである。
【0092】
本発明において好ましく使用されるベース油剤は、鉱物油を25〜75質量%、シリコーンオイルを75〜25質量%、合計100質量%の油分を含有するものである。即ち、従来、鉱物油を使用するとポリウレタン弾性繊維へ油剤のしみ込みが早く、内層の解舒性等の点で好都合であるが、繊維表面を溶融させ、かつ繊維の断糸を防ぐことが要求される熱融着用途においては、特に巻糸体内層部のポリウレタン弾性繊維は膨潤しやすいためか断糸しやすくなったり、あるいは紫外線吸収剤等の添加剤が溶出しやすく物性の低下が認められたりするため、巻糸体の全領域にわたって全ての糸を使用に供することはできないものであった。一方、シリコーンオイルを使用すると、内層の膠着が強くなりすぎ、巻糸体から糸を解舒する為に糸切れしたり、融着斑が生じるなどの問題が残っていた。しかし、本発明においては、上述したように、紡糸後の繊維に付与する油剤として、上記所定量の鉱物油と共にシリコーンオイルを含む油剤を使用することで、巻糸体のどの部分を使用しても断糸することがなく、巻糸体の全領域で均一な特性を有する熱融着性のポリウレタン弾性繊維を得ることができるものである。なお、鉱物油とシリコーンオイルとの好ましい割合は、鉱物油を30〜70質量%、シリコーンオイルを70〜30質量%である。シリコーンオイルと鉱物油からなる油分以外のベース油剤に添加する成分としては、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、変性シリコーンレジン等の各種変性シリコーン、鉱物性微粒子(例えば、シリカ、コロイダルアルミナ、タルク等)、高級脂肪酸金属塩粉末(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等)、高級脂肪酸カルボン酸、高級脂肪酸アルコール、パラフィン、モノアミン類、ポリエチレン等の常温で固形状のワックス等の油剤を単独又は必要に応じて任意に組み合わせて用いてもよい。中でも粘着防止効果を極く短時間の内に発揮させ、フィラメント表面に分散拡散すると共に、表面の残留イソシアネート基と素早く反応する成分として、モノアミン類を添加することが有用である。
【0093】
本発明で使用されるベース油剤に添加されるモノアミン類としては、分子量700以下のものが好ましく、例えば、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、ジ−iso−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、モノベンジルアミン、ジステアリルアミン、ラウリルアミンのエチレンオキシド付加物、ステアリルアミンのエチエレンオキシド付加物、オレイルアミンのエチレンオキシド付加物、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。なお、エチレンオキシド付加物を有するモノアミン類の分子量は、数平均分子量である。これらのモノアミン類は、ベース油剤中に1種又は2種以上含ませて用いてもよい。分子量が700を超えると、融点が高くなりベース油剤中で固形のままであったり、ベース油剤に溶けたとしても、油剤粘度が高くなりすぎ油剤抵抗により紡糸中の繊維が糸切れしたり、反応性が低くなる結果、繊維中の残留イソシアネート基と定量的に反応せず糸の品質が不安定になるなどの問題が生じる。
【0094】
また、ベース油剤中にモノアミン類が多量に含まれていると、熱処理した際、ポリウレタン弾性繊維が糸切れする可能性があるため、モノアミンの添加量は、ポリウレタン弾性繊維中の残留イソシアネート基のうち0.5〜15eq(当量)%、好ましくは0.7〜14eq%、更に好ましくは0.9〜12eq%消費させる量とする。モノアミン類の添加量は、例えば、残留イソシアネート基の中のモノアミン消費割合を決め、次いで油剤の付着量を定めると、必要なモノアミン類の量(アミノ基の当量)が当量計算から求まる。モノアミンの添加量が、0.5eq%未満の残留イソシアネート基消費相当分であると、表面の残留イソシアネート基との反応性が少なく膠着防止に効果を発揮できず、また、15eq%を超える量であるとべース油剤への溶解性に欠け、糸表面への均一付着性が悪くなり、更に残留イソシアネート基からなる有効架橋量が低下し、ポリウレタン弾性繊維の耐熱性が低くなり好ましくない。油剤に適当量のモノアミンを含有させ、紡糸後のポリウレタン弾性繊維中に残留する未反応の残留イソシアネート基とモノアミンとを反応させることで、巻糸体の解舒性などの特性を良好にし、後述する有効架橋量の制御も実施できる。
【0095】
本発明に用いる油剤の粘度としては、25℃における粘度が50×10-62/s未満、特に30×10-62/s以下であることが好ましく、より好ましくは20×10-62/s以下であり、更に好ましい範囲は3×10-62/s〜15×10-62/sである。油剤の粘度が50×10-62/s以上では、紡糸原糸を延伸する際に抵抗が大きくなり、延伸斑が発生したりローラーやガイド類に原糸が取られ、伸長斑を生じた状態でボビンに捲き取られたり、ローラーに捲き付いて断糸したりする場合があるため好ましくない。また、織編等の工程においての油剤の粘度による摩擦で伸長斑を生じたりするトラブルが発生するため好ましくない。
【0096】
もちろん必要に応じて減粘剤(希釈剤)、例えば低粘度のポリジメチルシロキサンを併用し、粘度調整することも可能である。
粘度の測定方法は、各温度における動的粘度を、ウベローデ粘度計により測定した極限粘度を密度で除して算出することができる。
【0097】
油剤は、ポリウレタン弾性繊維中に油剤が1〜10質量%、特に2〜8質量%含まれるように付与することが好ましい。上記値をポリウレタン弾性繊維に付与されている油剤の割合、即ち付与率といい、これは含有率(含有されている割合)と付着率(付着されている割合)の両者を合わせた率である。
【0098】
油剤がポリウレタン弾性繊維に対して1質量%未満であると、解舒性が悪く、編み針等の金属による摩耗を引き起こしやすいので好ましくなく、また10質量%を超えて付着していると、紙管に巻かれた糸の内層部に油剤が多く付着し、内層ポリマーが油剤により劣化したり、ノズルカスを発生させたり、非弾性繊維と編地を作成した際に非弾性繊維のオリゴマーを析出するなどの悪影響を与えるため、好ましくない。
【0099】
付与率の測定は、重量法又は石油エーテル抽出法によって行うことができる。重量法による測定方法は、事前に空紙管の質量、紡糸ノズルからのポリマーの単位時間当たりの吐出量、紙管への糸の巻取時間、巻糸体の質量を計量し、巻糸体の質量からポリマーの総吐出量及び空紙管の質量を差し引いた残りの質量が油剤の付与量であり、計算で求めた油剤の付与量からポリマーの総吐出量を除した割合が油剤の付与率である。
【0100】
石油エーテル抽出法による測定方法は、
(1)巻取糸サンプル(A)を約2g精秤した後、石油エーテル50mlで1分間洗浄する。
(2)この洗浄を3回繰り返した後、巻糸サンプルをろ紙で挟んで充分乾燥させる。
(3)室温にて風乾後、巻取り糸サンプルの重量(B)を測定する。下記式に従いOPUを算出する。
OPU(油剤付与量)%={(A−B)/(B)}×100
簡易的には重量法で、確認検査として石油エーテル抽出法のいずれの方法でもOPU%を求めることができる。
【0101】
ポリウレタン弾性繊維へ油剤を付与する方法としては、紡糸後にポリウレタン弾性繊維に付着させてもよく、油剤を紡糸ドープに予め含有させて紡糸してもよく、そのいずれを行ってもよい。油剤を付着させる場合の工程は、紡糸ドープが紡糸され、繊維が形成された後であれば特に限定されないが、巻き取り機に巻き取られる直前が好ましい。
【0102】
油剤を繊維に付与する方法として、より具体的には、油剤浴中に、回転させた金属円筒の表面上に作った油膜に紡糸直後の糸を接触させる方法、ガイド付きのノズル先端から定量吐出した油剤を糸へ付着させる方法、噴霧法等、公知の方法を用いることができる。油剤を紡糸ドープに含有させる場合、紡糸ドープを製造するどの時点で油剤を紡糸ドープに添加してもよく、紡糸ドープに溶解又は分散させてもよい。
【0103】
油剤を付与して巻取られた糸は、上述したように糸中に残留イソシアネート基が0.2〜1質量%存在しており、この残留イソシアネート基は、水と反応するとアミンとなり、更に他の残留イソシアネート基と反応してウレア結合を生成し、イソシアネート基とウレタン結合やウレア結合との反応によりアロハネート結合、ビュレット結合などの架橋を生成することになる。糸中の残留イソシアネート基の量が多いほど糸表面の化学反応は進みやすく、多くの架橋が生成する。糸中の残留イソシアネート基をそのままにしておくと、糸表面で膠着が起こるため、紡糸後、固相重合を行い、反応を完結させることが必要である。更に、この固相重合により、ハードセグメントの結晶化が進行し、高次構造を形成するので繊維の弾性回復率や耐熱性向上に寄与するものと思われる。本発明においては、上記架橋反応に関与する残留イソシアネート基の量を有効架橋量という。
【0104】
固相重合は100℃以下、特に90℃以下、10℃以上、特に20℃以上の高湿度下で処理すると、定量的に架橋が形成され、紙管に巻き取った糸の表層と内層が同等の物性をもつようになるので好ましい。具体的には、20〜90℃で相対湿度が30〜90%RHであることが好ましい。相対湿度が30%RH未満であると、同一巻糸体内の各層において反応が不均一となり、完成した糸の物性が変化するので好ましくなく、また相対湿度が90%RHを超えると、糸状に水分が結露しやすい状態となり、次いで水分接触箇所とそれ以外の箇所で異なる反応が進行し、ひいては異なる物性を持つおそれが生じる。
【0105】
なお、固相重合の際、100℃を超えて乾熱処理する場合、油剤とポリマーの親和性が強くなり、ポリマーが劣化したり黄変したりするおそれがあるため、100℃より低い湿熱処理の方が好ましい。但し、低湿度であると糸状同士が膠着したり、紙管に巻き取った糸の表層と内層部の反応状況が異なり、同じ紙管に巻き取った糸であっても物性が大きく変化するおそれがある。また、100℃より低い温水で処理することは可能であるが、紙管が濡れることで傷みやすくなる場合がある。
【0106】
巻糸体に湿熱処理を施すと、まず巻糸体の最表面において固相重合及びハードセグメントの結晶化が進行し、次いで温度上昇とともに巻糸体の表層から内層へと同反応が進行することになる。更に巻糸体の内層部の温度は、表層部に比べて温度が低くなりやすいため、巻糸体における繊維層の厚さ(芯体表面から巻糸体最外層表面までの距離)や繊維巻きとり幅、芯体の形状などを制御する必要がある。
【0107】
巻き取り機で繊維を巻き取る場合、繊維を均一に巻取ることができる点から、巻糸体の形状は、円柱状(管状)、特に中空の円柱状(管状)であるのが好ましく、横断面積は真円であるのがより好ましい。巻取効率、湿熱処理(固相反応)の効率等の点から繊維層の厚さは径方向に10〜50mm、繊維巻取り幅は30〜110mmとするのが好ましい。繊維層の厚さ及び巻取り幅が上記範囲外であると、巻糸体の内層部と表層部のハードセグメントの凝集進行が異なり、巻糸体内層部においては表層部ほど耐熱性が向上せず、巻糸体全体としての性能が低く、更に均質性が不十分となるおそれがある。
【0108】
上記記載の固相反応後、残留イソシアネート基の有効架橋量は、0.05×10-5mol/g以上10×10-5mol/g未満であることが好ましい。すなわち、上記有効架橋量が0.05×10-5mol/g未満であると、耐熱性の向上が得られない場合があり、また10×10-5mol/g以上であると、ノズル詰まりがおこり、紡糸工程での安定性が悪くなったり、糸の熱融着性が低下する場合がある。
【0109】
なお、有効架橋量は、ポリウレタン弾性繊維とモノアミン化合物とを反応させ、塩酸を滴定液とする電位差滴定により残余のアミン量を求め、この残余アミン量を仕込みアミン量から減ずることにより、架橋結合と反応したアミン量で計算することができる。詳細には次の通りである。
【0110】
(1)ポリウレタン弾性繊維(約5g)を3,000ppmのnブチルアミン(nBA)/ジメチルホルムアミド溶液95mLに浸漬し、試験瓶中で40℃×4時間の条件で分解させ試験液とする。
(2)次いで、0.1Nの塩酸で電位差滴定(例えば、平沼自動滴定装置COMTITE−500)を行い残余アミン量を求める。
(3)更に繊維を入れないで同様にして処理したnBA/ジメチルホルムアミドを塩酸で電位差滴定して得られたアミン量をレファレンスとする。
(4)そして、レファレンスと残余アミン量の差を架橋結合と反応した(架橋結合の分解に消費した)アミン量と定義し、下記式を用いて有効架橋量(mol/g)を計算する。
有効架橋量の計算式
架橋結合と反応したnBA量(ppm)=(仕込みnBA量−実測nBA量)
有効架橋量(mol/g)=
{(架橋結合と反応したnBA量[ppm]/106)
×(試験液糸量[g]/73)}/糸量[g]
【0111】
本発明の熱融着ポリウレタン弾性繊維の繊度は、弾性繊維構造体の形状保持性能と製造コストの両面から適宜選択することができ、製造の容易さやコスト面から11〜800dtexであることが好ましく、更に好ましくは、17〜622dtexである。得られる熱融着性ポリウレタン弾性繊維は、単糸当たりのdtexが大きい方が熱セット性の向上には有利である。
【0112】
繊度の測定方法は、巻糸体から糸を解舒し、24時間放置して収縮させた後、張力なしの状態で糸を繊度測定板に引いた直線に沿って置き、100cmの長さに50本切り、合計50本分の質量を測定する。
繊度(dtex)=測定質量(mg)/50×10
【0113】
溶融紡糸法で得られる熱融着性ポリウレタン弾性繊維が糸切れや断糸をおこさず融着する理由は、以下のように考えられる。第一には、ポリウレタン弾性繊維を構成する第一ポリオールと第二ポリオールの成分による効果であり、第二には、ポリウレタン弾性繊維の融点(フロー温度)との影響であり、第三には、ポリウレタン弾性繊維のもつ耐熱性の効果であると考えられる。更に、これらの効果が本発明の油剤を付与することにより、巻糸体の全領域にわたって発揮されるためと考えられる。
【0114】
即ち、特に第一の要因であるポリオール成分については、エステル基よりもエーテル基による影響が大きく、エーテル基自身、熱による熱収縮応力が高く、回転性が大きく変動しやすいために融着に寄与していると考えられる。第二の要因であるポリウレタン弾性繊維の融点(フロー温度)は、織編地の加工温度付近である程融着力が高いため、加工温度付近の融点(フロー温度)をもつポリウレタン弾性繊維を選択することが融着に効果を与えると考えられる。第三の要因であるポリウレタン弾性繊維のもつ耐熱性は、ポリウレタン弾性繊維の融点(フロー温度)が織編地の加工温度付近と同じであっても、一定温度下における耐熱性が巻糸体の一部でも低ければ融着してもポリウレタン弾性繊維の糸切れが激しく、非弾性糸との混用織編物を製造することができないおそれがある。そのため、ポリウレタン弾性繊維のもつ融点(フロー温度)で耐熱性があることが織編地の加工温度付近での断糸や糸切れを防ぐことができると同時に融着に効果を与えると考えられる。
【0115】
溶融紡糸によって得られるポリウレタン弾性繊維のもつ耐熱性は、両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとの反応後、糸中に残留する残留イソシアネート基の含有量に大きく影響され、紡糸後の固相重合で架橋結合を形成させることにより耐熱性をコントロールできると考えられる。上述したように紡糸した直後の糸中の残留イソシアネート基が0.2〜1.0質量%であることが好ましいが、残留イソシアネート基が0.2質量%未満では架橋結合の生成量が少ないために耐熱性が低く、糸切れしやすい。また残留イソシアネート基が1.0質量%を超えると架橋結合の生成量が多く、耐熱性が高くなるため溶融するまでに時間がかかり、熱融着性を得られにくいため好ましくない。
【0116】
また、固相反応後の残留イソシアネート基の有効架橋量は、上記したように0.05×10-5mol/g以上10×10-5mol/g未満であることが望ましい。耐熱性のコントロールは、有効架橋量によって調整することができ、該有効架橋量は残留イソシアネート基濃度と油剤中のモノアミン濃度や固相重合の条件によって調整することができる。
【0117】
本発明では、本発明の油剤を付与することにより、巻糸体の全領域にわたって、これら制御を良好に行うことができる。
【0118】
[乾式紡糸法]
次に、乾式紡糸法による製造方法について説明する。
本発明のポリウレタン弾性繊維を得るための乾式紡糸方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。
(1)ポリオールに過剰モル量のジイソシアネートを有機溶剤中で反応させて両末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成する溶液合成法。
(2)ポリオールとジイソシアネートの両成分を溶媒不在下の溶融状態で反応させて溶融状プレポリマーを合成した後、有機溶剤に溶解させてプレポリマーを得る溶融合成法。
(1)、(2)のように合成したプレポリマーに当量あるいは過剰量の鎖長延長剤を反応させて得ることができる。
【0119】
本発明においては、特に、ポリオールと過剰モルのジイソシアネートを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタン中間重合体を製造し、この中間重合体のイソシアネート基と容易に反応し得る活性水素を有する低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとを不活性な有機溶剤中で反応させてポリウレタン溶液(ポリマー溶液)を製造した後、この重合体溶液に低融点化合物を混合して紡糸原液とし、この原液を乾式紡糸機で紡糸して熱融着ポリウレタン弾性繊維を得る方法が好ましい。ここで、低分子量ジアミン、又は低分子量ジアミンと低分子量ジオールとの併用が特に好ましい。
【0120】
本発明の乾式紡糸法によるポリウレタン弾性繊維の製造方法は、まず、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて、両末端イソシアネート基中間重合体を合成する。乾式紡糸法で用いられるポリオール(ポリマージオール)及びジイソシアネートとしては、溶融紡糸法において説明したものと同様のものを使用することができるが、ポリオールの数平均分子量としては、600〜3500程度、特に800〜3,000程度が好ましく、小さすぎると破断伸度や弾性回復性が低下するおそれがあり、大きすぎると破断強度や耐熱性、耐寒性などが低下したりするおそれがあるため好ましくない。
【0121】
ポリオールとしては、上記例示したなかでもポリエーテルジオールを原料の全ポリオール中、60質量%以上、特に70〜100質量%用いるのが、製品を後加工する際に、耐薬品性に優れるため加工が容易となる点や、或いは耐カビ性に優れる等の点から好ましい。
【0122】
ジイソシアネートは、ポリオールに対してモル量で1.2〜3.0倍程度過剰に用いることが好ましく、より好ましくは1.4〜2.2倍程度過剰とする。
【0123】
ポリオールとジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する場合、反応方式は、合成釜を使用したバッチ方式でも、静的ミキサーや二軸混練機等を用いた連続方式であってもよく、所定モル比で各成分を仕込んだ後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、60〜150℃、特に65〜130℃で、30〜180分、特に40〜120分の条件下で反応させることが好ましい。反応温度が60℃未満では、反応時間が大幅に長くなり、場合によってはプレポリマーが析出してくるおそれがある。また、反応温度が150℃を超えるとイソシアネート基のダイマー及びトリマー化反応等の副反応が顕著になるおそれがある。
【0124】
次に、得られた中間重合体と鎖延長剤である低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールと必要に応じて末端封止剤としてのモノアミンとを極性溶媒中で反応させてポリウレタン重合体を合成する。
【0125】
低分子量ジアミンとしては、下記式
2NR1NH2
で表されるものが好ましく、R1は単結合又は炭素数1〜13、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6のアルキレン基、アリーレン基、若しくはこれらが結合した基であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、フェニレン基、キシリレン基、シクロへキシレン基等が挙げられる。
【0126】
具体的には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジンの如きジアミンを挙げることができる。
【0127】
低分子量ジオールとしては、溶融紡糸法で説明したものと同様のものを使用できるが、好ましくは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの如きジオール類を挙げることができる。
【0128】
末端封止剤としてのモノアミンとしては、下記式
NHR23
で表されるものが好ましく、R2,R3はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは1〜6のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
【0129】
具体的には、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−イソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン等のジアルキルアミン等を例示することができる。
【0130】
上記アミンの使用量は、当量比で低分子量ジアミン/モノアミン=99.5/0.5〜90/10、好ましくは99/1〜93/7の範囲となるように用いる。アミン化合物の当量比が99.5/0.5を超えると、ポリウレタン重合体中のハードセグメントが多くなるので、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性が低下したり、重合中に局部反応が生じやすくなる結果、ポリウレタン重合体溶液中にゲル物が増加する傾向になり、紡糸の際にノズルからゲル物が通過することで断糸したり、溶液のろ過性により操業安定性を低下させる場合がある。逆に、90/10より低くなると、ポリウレタン重合体溶液の粘度安定性は良いが、ポリウレタン重合体の重合度が低下し、耐熱性、糸物性が悪化する場合がある。
【0131】
また、アミンの総添加量については、上記中間重合体中に含まれる残留イソシアネート基に対して当量以上が好ましく、より好ましくは当量比で1.0以上1.2未満である。アミンの総添加量が当量より低くなると、系内に残る残留イソシアネート基が経時的に反応することになり、分子量の増大や溶液粘度の著しい上昇を招く場合があり、多すぎると、過剰なアミンによりポリウレタン重合体溶液の黄変が生じたり、溶液粘度の経時的低下が起こる場合がある。
【0132】
上記アミンは、有機溶剤中でアミンの混合物とすることが、中間重合体と反応させやすいので好ましい。アミンを中間重合体と反応させる際は、通常、有機溶剤に溶解した溶液として中間重合体の溶液に滴下して反応させるが、中間重合体溶液に残る残留イソシアネート基濃度を事前に測定してアミンの滴下量を決定する方法や、アミンが添加され中間重合体溶液の粘度が上昇する状態から、残留イソシアネート基が無くなり、実質反応が終了し、溶液粘度の上昇がなくなる状態への変化をモニタリングすることで滴下量を制御することが可能である。
【0133】
なお、鎖延長剤としては、必要に応じて、水、ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、β−アミノプロピオン酸ヒドラジドの如きヒドロキシド類等の多官能性活性水素化合物を併用してもよい。また、末端封止剤としては、必要に応じてモノアミン以外に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルキルアルコール等を使用してもよい。
【0134】
また、乾式紡糸法で用いられる有機溶剤としては、不活性な有機溶剤が使用され、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド等、ポリウレタン重合体の溶解度が高く、かつイソシアネート基やイソシアネート基と反応する活性水素化合物と反応せず、更にポリウレタン重合体溶液中への添加物に対して反応しない有機溶剤が好ましい。これらの中でも、ポリウレタン重合体との相溶性、紡糸性、溶剤回収性の点からN,N−ジメチルアセトアミド又はN,N−ジメチルフォルムアミドが好ましく使用される。
【0135】
有機溶剤の使用量は、ポリウレタン重合体の固形分が全体の10〜60質量%、特に20〜40質量%となるように調整して使用することが好ましく、10質量%未満又は60質量%を超えると紡糸性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0136】
また、上記重合反応には、必要に応じ、反応を促進するための触媒を用いてもよく、イソシアネートとポリオールやジアミン、ジオールとの反応を活性化させる傾向の強いものや、イソシアネートと水等の鎖延長剤との反応を活性化させる傾向の強いもの、及び両方の性質を有するもの等、適宜使用することができる。このような触媒の代表的なものとして、第3級アミン化合物及び有機金属化合物が挙げられる。
【0137】
第3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン類、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン等のジアミン類、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン等のトリアミン類、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、N−メチルモルホリン等の環状アミン、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール等のアルコールアミン類、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−ジメチル)−アミノプロピルエーテル等のエーテルアミン類が挙げられる。
【0138】
有機金属化合物としては、酢酸錫、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリン酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、オクタン酸コバルト等が挙げられる。
【0139】
これらの触媒は単独使用してもよく、例えば第3級アミン化合物と有機金属化合物の組み合せ等、2種類以上を併用することもできる。触媒の濃度は、ポリウレタン重合体に対して0.0001〜10質量%、好ましくは0.0005〜5質量%で通常使用するが、反応挙動をみながら適宜添加量を調整すればよい。
【0140】
両末端イソシアネート基中間重合体と鎖延長剤である低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとの反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、0〜80℃、特に10〜60℃で、0.1〜5時間、特に0.5〜3.5時間の反応条件とすることが好ましく、反応方式は合成釜を使用したバッチ方式でも、二軸混練機や静的ミキサーを用いた連続方式であっても構わない。
【0141】
このようにして得られるポリウレタン重合体の重量平均分子量は、塩化リチウムを溶解したN,N−ジメチルフォルムアミド溶液に完全溶解した可溶分を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて測定することができる。ポリウレタン重合体の重量平均分子量は、25万〜45万が好ましく、より好ましくは25万〜35万である(ポリスチレン換算)。
【0142】
ポリウレタン重合体の分子量が小さすぎると、耐熱性等の糸物性が低下したり紡糸の曳糸性が乏しく糸切れが多くなったりする場合があり、高すぎると粘度が高くポリウレタン重合体の保存安定性が乏しくなったり、使用する溶剤量を増やす必要が生じ、結果として経済的な生産方法とは言えない場合がある。
【0143】
こうして得られたポリウレタン重合体溶液は、これを紡糸原液として乾式紡糸することもできるが、この重合体溶液に低融点化合物を混合して紡糸原液とし、この原液を乾式紡糸機で紡糸することが好ましい。
【0144】
低融点化合物としては、フロー温度法での融点が200℃以下であり、特に好ましくは、60〜195℃の熱可塑性重合体であって、ポリウレタン重合体溶液の溶媒として用いられるジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどに溶解した状態で上記ポリウレタンウレア重合体溶液と混合して用いることができるものが好ましい。なお、この熱可塑性重合体の重量平均分子量は、2万〜100万、特に5万〜80万が好ましい。
【0145】
このような低融点化合物としては、具体的に、ポリアクリロニトリルのホモポリマーやアクリロニトリルとα,β−不飽和モノカルボン酸エステルとの共重合体(α,β−不飽和モノカルボン酸エステルの例としては、アクリル酸フェニル,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸プロピル,アクリル酸ブチル,アクリル酸シクロヘキシル,メタクリル酸メチルが挙げられる)やアクリロニトリルとアクリルアミドとの共重合体等のアクリロニトリル系ポリマー;スチレン−無水マレイン酸系共重合体、具体的には構成する共重合体がスチレン−無水マレイン酸共重合体、更に無水マレイン酸と共重合されるスチレンとしてp−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ジメチルアミノスチレン等の芳香環の置換されたスチレン、α−メチルスチレン、α,β−ジメチルスチレン等のビニル基が置換されたスチレンを用いた無水マレイン酸との共重合体;N−イソプロぺニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−メチル−2−ピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロタクタム、N−ビニルエナントラクタム、N−ビニルバレロラクタム、N−ブテニル−2,4−ジ(1−ブテニル)−2−ピロリドンビニルアセテート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルエステルなどから合成されるポリビニルピロリドン共重合体、ポリウレタン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ABS樹脂、SAN樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、親水性アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、親水性セルロース樹脂などが挙げられる。
【0146】
これらの中でも特に、溶媒に対する溶解性、ポリウレタン重合体への相溶性の点からポリアクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン共重合体、ポリウレタン重合体、ポリエステル、ポリエステルエーテル、エポキシ樹脂などが好ましい。更に、上述したように、ポリウレタン弾性繊維の良好な伸縮特性を得るために、300%伸長直後の残留歪みは40%以下が好ましいが、このように残留歪みを低くするには、伸長回復性が高く、かつポリウレタン重合体との相溶性が高い低融点化合物の添加が有利であり、ポリウレタン重合体の添加が一層好ましい。
【0147】
低融点化合物の融点は、ポリウレタン弾性繊維の融点測定方法と同様の方法で初期設定温度を30℃として測定することができる。
【0148】
ポリウレタン重合体に対する低融点化合物の混合割合は、質量比(固形分)で、ポリウレタン重合体/低融点化合物=80/20〜40/60であり、好ましくは70/30〜50/50である。低融点化合物の混合量が少なすぎると熱融着強度が不足する場合があり、多すぎると耐熱性が低下し、染色、熱セットなどの加工時に編地中のポリウレタン弾性繊維が断糸する等のおそれがある。また、300%伸長直後の残留歪みも大きくなるおそれがある。
【0149】
ポリウレタン重合体と低融点化合物の混合は、両者が十分に混合されれば特に限定されるものではなく、ポリウレタン重合体に低融点化合物を混合しても、低融点化合物にポリウレタン重合体を混合しても良い。前者の場合、ポリウレタン重合体の反応が進行してイソシアネート基が実質的に認められなくなった後に、低融点化合物を混合することが好ましく、低融点化合物は、塊状物を粉砕したもの、或いは粉砕後更に再溶融してペレット化したものを、ポリウレタン重合体の溶液に直接添加してもよい。また、低融点化合物をポリウレタン重合体の合成に使用する溶剤と同じ溶剤に溶解させて混合してもよい。
【0150】
ポリウレタン重合体と低融点化合物を含む溶液が、ポリウレタン重合体のみを紡糸して得られる従来のポリウレタン繊維よりも熱融着性に優れる理由は、繊維中の低融点化合物がポリウレタン重合体より、低い温度で融解をはじめ、繊維の強度を保持した状態で周囲のポリマーと接着するためと思われるが詳細は不明である。
【0151】
低融点化合物を溶剤に溶解させて用いる場合、溶液濃度は特に制限されず、紡糸用溶液の粘度上昇や、紡糸した糸の物性が変化する等の点から、10〜60質量%程度とすることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%程度である。
【0152】
ポリウレタン重合体溶液に対して低融点化合物を添加・混合する方法は、特に制限されないが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、混合温度、時間等の条件を適宜選定して均一に混合することが好ましい。混合する温度は、10〜120℃が好ましく、特に40〜80℃で混合することが好ましい。10℃より低いと混合時の副反応は何等問題ないが、溶解に時間を要したり、冷却コストが高くなるので経済的ではない。120℃より高温で処理すると、液の粘度が低下するので混合速度は早くなるが、ポリウレタン分子の切断が生じ、品質問題が生じるおそれがあるので好ましくない。なお、均一に混合するために少なくとも30分以上撹拌することが好ましい。
【0153】
なお、乾式紡糸法においても、溶融紡糸法で使用される活性水素化合物、紫外線吸収剤等の任意成分と同様のものを用いることができ、これらは紡糸工程の前までの任意の段階で添加して使用することができる。
【0154】
ポリウレタン重合体及び低融点化合物を含む溶液(紡糸用溶液)を、乾式紡糸する際に使用する紡糸装置や紡糸条件は、特に限定されるものではなく、ポリウレタンの組成、目的とする繊維の太さ、糸物性等によって、公知の任意の方法を選択して紡糸することができる。紡糸温度は、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは190℃以上であり、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下で紡糸し、フィラメントを集束し、合着させて繊維を得ることができ、これによって繊度が細い糸や均整度の高い糸が得られ、紡速を上げることができ、高い生産性を得ることができる等の利点が得られる。
【0155】
乾式紡糸法により紡糸されたポリウレタン弾性繊維は、溶融紡糸法の場合と同様に巻き取り機で巻き取り、巻糸体を得ることができる。そして、溶融紡糸法の場合と同様に、油剤は、ポリウレタン弾性繊維中に油剤が1〜10質量%、特に2〜8質量%含まれるように付与することが好ましい。紡糸後、溶剤を完全に除去する目的で、巻糸体を一日室温下で静置保存することが望ましい。また通常、イソシアネート基は全て活性水素と反応しており、その場合は固相重合を行う必要はない。
【0156】
乾式紡糸法によって得られる本発明のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタンを構成する全ポリオール成分中の70モル%以上、特に85モル%以上が数平均分子量600〜3500のポリエーテルジオールであることが耐薬品性の向上や耐熱性を保持しつつ熱融着性を発現するなどの点から好ましく、上限は特に制限されず、ポリエーテルジオールが100%であっても都合よく使用できる。上記範囲の分子量のポリエーテルジオールが少なすぎると、耐薬品性や耐熱性が低下する場合がある。
【0157】
また、ポリウレタン弾性繊維を構成するウレタン結合とウレア結合の全体に占めるウレタン結合の割合は60〜95モル%、特に65〜90モル%であることが好ましい。ウレタン結合の割合が60%より少ないと、耐熱性はあるが融点が高くなり、熱流動性も低下し、熱融着性が乏しくなる場合がある。95モル%を超えると、融点は低下し、熱流動性も高くなるが、ポリウレタン弾性繊維として耐熱性や伸長回復性が乏しくなる場合があり好ましくない。
【0158】
上記範囲とすることで、ポリウレタン弾性繊維として必要な耐熱性や耐薬品性を保ちつつ、良好な熱融着性の効果を得ることができる。
【0159】
本発明の乾式紡糸によって得られるポリウレタン弾性繊維のもつ耐熱性は、ウレア基によるハードセグメントの性質、生成量が影響しており、上記記載の低融点化合物を配合することによりハードセグメントの凝集性を抑えることができるため融点及び耐熱性をコントロールしたものができると考えられる。
【0160】
上記製法によって得られるポリウレタン弾性繊維は、フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸せず、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上であるため、これを織編物に用いることで、ほつれ、デンセン、カール等の発生を抑えた織編物を得ることができる。
【0161】
ポリウレタン弾性繊維混用織編物
次に、本発明のポリウレタン弾性繊維混用織編物は、上記熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を用い、更に、例えば200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維も混用した以下の構造を有するものとすることができる。
【0162】
(1)熱融着性ポリウレタン弾性繊維と少なくとも1種類の非弾性糸とを含む複合糸を経糸及び/又は緯糸に使用した織物。組織は平織、綾織、朱子織等のいずれでもよく、織機についてもシャトル式織機、レピア式織機、エアージェット式織機等を使用することができる。更に、経糸及び緯糸は全部該複合糸であっても良いし、複合糸と非弾性糸とを1:1、1:2又は1:3等の打ち込み比率で混合使用しても良い。
【0163】
(2)編機の同じコースに熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び少なくとも1種類以上の非弾性糸を混用した緯編地。熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を編み込んだ緯編地の編組織は平編、ゴム編、パール編、両面編、及びこれらを組み合わせたり、変化させたりした組織等のいずれの組織でも編成することができ、編機についても丸編機、横編機、フルファッション編機、靴下編機等の全ての編機を使用することができる。熱融着性ポリウレタン弾性繊維は挿入又は編み込みのどちらでも良い。また、熱融着性ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸のプレーティング編でも良いし、熱融着性ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸の複合糸を使用しても良い。(1)と同様に全コースに熱融着性ポリウレタン弾性繊維を編み込んでも良いし、1コース以上おきに編み込んでも良い。熱融着性ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸を交互、又は適当な間隔おきに編み込んでも良い。更に熱融着性ポリウレタン弾性繊維を混用してもよい。以下に例を示すがこれに限定されるものではない。
【0164】
(2)−1 全コースの例:
1口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
3口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
(2)−2 1コースおきの例:
1口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 非弾性糸
3口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 非弾性糸
(2)−3 熱融着性糸と高融点糸を1コースおきに使用した例:
1口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 高融点糸及び非弾性糸、又は複合糸
3口目 熱融着性糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 高融点糸及び非弾性糸、又は複合糸
(2)−4 交互の例:
1口目 熱融着性糸
2口目 非弾性糸、又は熱融着性糸及び非弾性糸
3口目 熱融着性糸
4口目 非弾性糸、又は熱融着性糸及び非弾性糸
【0165】
(3)熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び少なくとも1種類以上の非弾性糸を混用した経編地。熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を編み込んだ経編地の編組織はクサリ編、デンビ編、コード編、アトラス編、及びこれらを組み合わせたり、変化させたりした組織等のいずれの組織でも編成することができ、編機についてもトリコット編機、ラッシェル編機、ミラニーズ編機等の全ての編機を使用することができる。(1)と同様に全面に熱融着性ポリウレタン弾性繊維を編み込んでも良いし、適当な間隔おきに編み込んでも良い。また、熱融着性ポリウレタン弾性繊維は挿入又は編込みのどちらでもよい。更に、高融点ポリウレタン弾性繊維を混用してもよい。以下に例を示すがこれに限定されるものではない。
【0166】
(3)−1 クサリ組織の編地
図1及び図2はレース地等に多く用いられるクサリ組織を示す。このクサリ組織は切り口縫製後にラン、ほどけ等の欠点がおきやすい。対策としてラン止め組織が提案されているが、ラン止め組織の跡が生地に汚く残り、高級感を阻害する問題が残る。そこで、図1及び図2において、aを非弾性糸として、bを本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維、又は熱融着性ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維の引き揃えとして編み込み熱セットすると、図1に示すX部において、熱融着性ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸、及び熱融着性ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維とが接触して熱融着し、伸長回復性が良く、且つラン・ほどけ等の欠点を防止し、また審美性も何等損なうことのない編地を得ることが可能となる。
【0167】
(3)−2 クサリ組織以外の編地
クサリ組織以外で一般に使用されている組織でも、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を挿入又は編み込み使用すると、非弾性糸との融着、更にはポリウレタン弾性繊維相互の融着により、わらい(弾性繊維のずれ、抜け、飛び出し)等が起こり難くなり、実質的に生地の耐久性を格段に向上することができる。また、生地がより安定し、カールが起き難くなり、縫製時のコストダウンも見込むことができる。
【0168】
例えば、図3〜8に示した組織図において、熱融着性ポリウレタン弾性繊維を適宜使用することによって、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カールやスリップインが生じにくい編地を得ることが可能となる。
【0169】
図3において、L1及びL2は全面挿入(All−in)、図4中のL1とL2、L3とL4は1本おきに挿入(1in−1out)、図5〜8中のL1、L2、L3は全面挿入(All−in)である。また、図3〜8のaは非弾性糸、bは本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を単独で又は高融点ポリウレタン弾性繊維との引き揃えで使用し、図5及び図6のcは本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を2本使用するか、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維とを各1本ずつ使用することができる。
【0170】
更に、使用用途によって、断ち切り口を無縫製でそのまま使用する場合、従来は洗濯や着用時等のすれにより、ほつれ等の耐久性に問題があったが、これも大きく改善することができる。
【0171】
ここで、本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維(フィラメント糸)の形態は、原糸(未加工糸)、仮撚加工糸、先染糸等のいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。これらは、いずれも撚糸加工のしやすい、安定した糸状が好ましい。
【0172】
一方、熱融着性ポリウレタン弾性繊維と混用される非弾性糸としては、特に制限は無く、例えば木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル等の化学合成繊維等の繊維を使用することができるが、ポリウレタン弾性繊維の混用割合は、1〜60質量%程度、特に2〜50質量%程度が好ましい。
【0173】
また、本発明のポリウレタン弾性繊維混用織編物においては、ジアミンで鎖延長反応を行った乾式紡糸法による耐熱性、弾性回復性に優れた200℃以上、好ましくは210℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を混合使用することにより、融着性を保ちながら良好な弾性性能を有する織編物を得ることも可能である。この場合、この高融点ポリウレタン弾性繊維の使用量は、熱融着性ポリウレタン繊維に対して10〜90質量%の割合であることが好ましい。
【0174】
なお、高融点ポリウレタン弾性繊維の融点の測定方法は、上述したフロー温度法と同様である。
【0175】
本発明の熱融着性ポリウレタン弾性繊維混用織編物の製造方法は、上記構造を有する織物又は編物を常法により製織又は製編した後、乾熱又は湿熱セットすることにより得ることができる。
【0176】
乾熱セットの方法は、ピンテンターのようなセット機を使い、熱風による熱固定することにより行うことができる。この場合、セット温度は130〜210、特に160〜200℃であり、セット時間は10〜180秒、特に15〜120秒とすることができる。
【0177】
一方、湿熱セットの方法は、織編地を型板に入れた状態で所定圧力の飽和蒸気により熱固定することにより行うことができる。この場合、セット温度は80〜140℃、特に90〜135℃であり、セット時間は10〜180秒、特に15〜120秒とすることができる。
【0178】
熱セット温度が低すぎる場合はセット効果が不足したり、編地の寸法安定性、収縮特性が劣るため好ましくなく、高すぎる場合は、非弾性糸の強力低下や熱変色、風合いが硬くなるなどの弊害が生じてくるので好ましくない。
【0179】
乾熱160〜200℃程度の高温緊張下での熱セットは、製織編されてなる布帛製品を定長、定幅の所定寸法に仕上げるために好ましく採用される。これに対し、無緊張セットでは、熱セット時の自由収縮のために熱セット後の製品の寸法を制御することができず、工業的実施には不適当である。
【0180】
その際の緊張条件は、布帛の幅の仕上げ目標値により任意に設定すればよいが、熱処理装置への送り込み速度と横方向の引張りとによって制御すればよい。
【0181】
このような熱融着性ポリウレタン弾性繊維を使用した混用織編物は、主としてブリーフ、パンティ、ショーツ、アンダーシャツ、キャミソール、ガードル、ブラジャー、スパッツ、ボディスーツ、生理用ショーツ等の下着類、水着、レオタード、リゾートウエア、ホームウエア、アンダーウエア、スポーツ用タイツ、シャツ、上着材、手袋、靴下、腕カバー、医療用衣料、手術衣、半導体工場でのクリーンルーム作業用衣料、防塵衣料、サポーター、アイマスク等の衣料製品、使い捨ておむつ、失禁パット、ガーゼ、包帯、貼布材、包装材、マスク、シーツ、タオル、ハンカチ等の衛生用品、衣料芯地、精密濾過用フィルター、工業用ワイパー、保護カバー等の産業用資材のように高度の伸長性と伸長回復性とを必要とする分野への適用が好適である。
【0182】
本発明によれば、熱セット時の耐熱性に優れ、断糸や劣化が起こりにくい熱融着性ポリウレタン弾性繊維及び目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カール、スリップインや目ずれが生じにくいポリウレタン弾性繊維混用織編物を得ることができる。
【実施例】
【0183】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、部は質量部を示す。また、融点及び熱流動性の測定はフロー温度法により、有効架橋量は電位差滴定法により、残留イソシアネート基濃度(残留NCO%)は塩酸による滴定法により、油剤の付与量は石油エーテル抽出法により測定した値である。数平均分子量の測定方法は、JIS K1557に準拠して行い、重量平均分子量の測定方法は、GPCによるポリスチレン換算の値である。
【0184】
[実施例1]溶融紡糸法によるポリウレタン弾性繊維の製造
両末端水酸基プレポリマーの合成
ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を22.7部、窒素ガスでシールされた80℃の温水ジャケット付き反応釜に仕込み、ここにポリマージオールとして数平均分子量1,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)46.5部を撹拌しながら注入した。1時間反応後、低分子量ジオールとして1,4−ブタンジオール25.0部を更に注入し、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン(BHPS)4.1部を添加して15分撹拌して両末端水酸基プレポリマーを合成した。
【0185】
両末端イソシアネート基プレポリマーの合成
これと並行して、窒素ガスでシールした80℃の反応釜にジイソシアネートとしてMDIを29.1部仕込み、紫外線吸収剤(2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2Hベンゾトリアゾール(TIN234):20%)、酸化防止剤(3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン:50%)、光安定剤(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:30%)の混合物1.2部を添加し、撹拌しながら数平均分子量2,000のPTMGを68部注入し、40分間撹拌を継続して、両末端イソシアネート基プレポリマーを得た。
【0186】
ポリウレタン弾性繊維の溶融紡糸
得られた両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.302の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給した。供給速度は、両末端イソシアネート基プレポリマー32.8g/分、両末端水酸基プレポリマー9.9g/分であった。反応機内での平均滞留時間は約1時間、反応温度は約210℃であった。
【0187】
得られた紡糸用ポリマーを固化することなく、208℃の温度に保った8ノズルの紡糸ヘッド2台に導入した。紡糸用ポリマーをヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.7mm、1ホールのノズルから2.67g/分の速度で、長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:42.67g/分)、表1に記載の成分を含む油剤を付与しながら600m/分の速度で紙管幅57.5mmの紙管に巻き取り、44dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は5質量%であった。
【0188】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンによりポリウレタン弾性繊維中に残留するイソシアネート基のうちの9.4eq%を消費させた。なお、ポリウレタン弾性繊維を巻き取った巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.42質量%であった。
【0189】
得られた巻糸体を直ちに温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0190】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で1.00×10-5mol/g、巻糸体の内層で0.90×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、表層、内層でともに191℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の糸の熱流動性を求めたところ20分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0191】
また、1ホールのノズルの吐出速度を2.33g/分(ノズル全体の総吐出速度は37.33g/分)とし、44dtexの繊維と同様の特性を有する156dtex,4フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0192】
[実施例2]
実施例1で合成した両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.279の質量比で撹拌翼を有する容量2200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給する以外は、実施例1と同様な方法で44dtexのポリウレタン弾性繊維を製造した。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は7質量%であった。
【0193】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの4.9eq%を消費させた。なお、巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度(残留NCO%)は0.95%であった。
【0194】
得られた巻糸体を直ちに温度50℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。
【0195】
完成した糸の有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で3.3×10-5mol/g、内層で3.2×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに195℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の糸の熱流動性を求めたところ33分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0196】
[実施例3]
実施例1で合成した両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.3268の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給する以外は、実施例1と同様な方法で44dtexのポリウレタン弾性繊維を製造した。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は3.5質量%であった。
【0197】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの0.9eq%を消費させた。なお、巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.27%であった。得られた巻糸体を直ちに実施例1の条件で固相反応させた。
【0198】
完成した糸の有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で0.08×10-5mol/g、内層で0.07×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに177℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の糸の熱流動性を求めたところ1.2分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0199】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6.5質量%であった。
【0200】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの12eq%を消費させた。なお、巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.42質量%であった。得られた巻糸体を直ちに実施例1の条件で固相反応させた。
【0201】
完成した糸の有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で1.00×10-5mol/g、内層で0.90×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに183℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ15分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0202】
[実施例5]乾式紡糸法によるポリウレタン弾性繊維の製造
(1)ポリウレタン重合体の合成
数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)19.91部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)4.55部を窒素ガス雰囲気下で65℃にて100分間撹拌しつつ反応させて、両末端イソシアネート基プレポリマーを合成した。得られた両末端イソシアネート基プレポリマーにジメチルアセトアミド(DMAC)57.07部を加えて溶解し、プレポリマー溶液を調製した。
【0203】
次に、鎖延長剤としてエチレンジアミン(EDA)0.49部と末端封鎖剤としてジ−n−ブチルアミン0.05部をDMAC17.93部に溶解したアミン混合溶液を、前記プレポリマー溶液に滴下しながら加え、撹拌して重量平均分子量300,000、窒素含有率2.99%のポリウレタン重合体を含む溶液(紡糸原液;濃度25質量%)を得た。
【0204】
(2)低融点化合物(ポリウレタン化合物)の合成
数平均分子量2,000のPTMG70.81部とMDI24.11部を窒素ガス雰囲気下で130℃にて60分撹拌しつつ反応させ、両末端イソシアネート基プレポリマーを合成した。その後、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール5.08部を加え、撹拌して重量平均分子量350,000、窒素含有率2.7%のポリウレタン化合物を得た。
【0205】
得られたポリウレタン化合物を100℃で24時間熱処理した後、粉砕し、210℃で再溶融していすず化工機械(株)SV−65−32によりペレット化した。このポリウレタン化合物のペレットをDMACに溶解して濃度25質量%の溶液を調製した。このポリウレタン化合物の融点は、165℃であった。
【0206】
紡糸用溶液の調整
(1)で得られたポリウレタン重合体溶液24kg(固形分換算で6kg)と、(2)で得られたポリウレタン化合物の溶液16kg(固形分換算で4kg)を窒素ガス雰囲気下で60℃にて2時間かけて充分に混合し、混合溶液を得た。
更に、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレンジ−1,4−フェニレン)ジセミカルバジド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジルイソシアヌール酸、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(2’−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを上記混合溶液の固形分に対して、それぞれ0.27質量%、0.13質量%、0.13質量%、0.08質量%となるように添加して紡糸用溶液を得た。
【0207】
ポリウレタン弾性繊維の乾式紡糸
紡糸用溶液を紡糸ヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、4ホール又は14ホールのノズルを通じて200℃の不活性ガス中に吐出して、脱溶剤、合着後、油剤を付与しながら500m/分の速度で紙管幅55.0mmの紙管に巻取り、44dtex(4f)と156dtex(14f)の各ポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6質量%であった。なお、巻糸体の全質量は450gであった。
【0208】
得られたポリウレタン弾性繊維は残留イソシアネート基をもたないが、溶剤を完全に除去する目的で巻糸体を一日室温下で静置保存した。糸の有効架橋量は、いずれも巻糸体の全領域でゼロであった。
【0209】
44dtex及び156dtexのポリウレタン弾性繊維の融点を測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに196℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ50分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0210】
[実施例6]
油剤中に含まれるモノアミンをラウリルアミンとして、該ラウリルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの8.9eq%を消費させた以外は実施例1と同様の方法で、44dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6.5質量%であった。
【0211】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で1.00×10-5mol/g、巻糸体の内層で0.90×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、表層、内層でともに189℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の糸の熱流動性を求めたところ20分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0212】
[実施例7]
実施例1で合成した両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.250の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給し、油剤中に含まれるモノアミンをラウリルアミンとして、該ラウリルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの12eq%を消費させ、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度が1.3%であった以外は実施例1と同様の方法で、44dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6.5質量%であった。
【0213】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で9.30×10-5mol/g、巻糸体の内層で9.20×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、表層、内層でともに193℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の糸の熱流動性を求めたところ32分であり、熱流動性は良好であった。この結果からも熱融着性が優れていることが確認できた。
【0214】
但し、紡糸中にノズルが昇圧しやすく、ノズル交換周期が早くなる結果、生産効率は他の実施例に比べ低下する結果であった。
【0215】
[比較例1]
実施例1で合成した両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.3463の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給する以外は、実施例1と同様な方法で表2に記載の成分を含む油剤を使用して44dtex(1f)、156dtex(4f)のポリウレタン弾性繊維を製造した。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率はいずれも6質量%であった。
【0216】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの17.0eq%を消費させた。なお、巻糸体の質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.10質量%であった。得られた巻糸体を直ちに実施例1の条件で固相反応させた。
【0217】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層と内層でともに0mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに160℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ、測定直後から流動が始まるので、計測できないが数秒以内であった。この結果からも耐熱性が低く、熱融着力試験の測定温度に耐えられないことが確認できた。
【0218】
[比較例2]
ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)25部を窒素ガスでシールされた80℃の温水ジャケット付き反応釜に仕込み、ここにポリマージオールとして数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)100部を撹拌しながら注入した。1時間反応後、低分子量ジオールとして1,4−ブタンジオール27.6部を更に注入し、15分撹拌して両末端水酸基プレポリマーを合成した。
【0219】
これと並行して、窒素ガスでシールした80℃の反応釜にジイソシアネートとしてMDIを47.4部仕込み、紫外線吸収剤(2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール:20%)、酸化防止剤(3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン:50%)、光安定剤(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:30%)の混合物2.2部を添加し、撹拌しながら数平均分子量2,000のPTMG100部を注入し、1時間撹拌を継続して、両末端イソシアネート基プレポリマーを得た。
【0220】
得られた両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.475の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給した。供給速度は、両末端イソシアネート基プレポリマー28.93g/分、両末端水酸基プレポリマー13.74g/分であった。反応機内での平均滞留時間は約1時間、反応温度は約190℃であった。
【0221】
得られたポリマーを固化することなく、192℃の温度に保った8ノズルの紡糸ヘッド2台に導入した。紡糸用ポリマーをヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.6mm、1ホールのノズルから2.67g/分の速度で、長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:42.67g/分)、鉱物油100%の油剤を付与しながら600m/分の速度で紙管に巻き取り、44dtexのポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する鉱物油の付与率は7質量%であった。
【0222】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの17.0eq%を消費させた。なお、巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.42質量%であった。
【0223】
得られた巻糸体を直ちに、温度40℃で相対湿度80%の部屋の中で5日間固相反応させた。完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で1.1×10-5mol/g、巻糸体の内層で0.03×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出して融点を測定したところ、巻糸体の表層で186℃、内層で164℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ、測定直後から流動が始まるので、計測できないが数秒以内であった。この結果からも耐熱性が低く、熱融着力試験の測定温度に耐えられないことが確認できた。
【0224】
[比較例3]
実施例1で合成した両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーを1:0.3433の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mLのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給する以外は、実施例1と同様な方法で44dtexのポリウレタン弾性繊維を製造した。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は3.5質量%であった。
【0225】
油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留するイソシアネート基のうちの0.9eq%を消費させた。なお、巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は0.15%であった。得られた巻糸体を直ちに、実施例1の条件で固相反応させた。
【0226】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で0.02×10-5mol/g、内層で0.01×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、融点を測定したところ、巻糸体の表層で162℃、内層で160℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ、測定直後から流動が始まるので、計測できないが数秒以内であった。この結果からも耐熱性が低く、熱融着力試験の測定温度に耐えられないことが確認できた。
【0227】
[比較例4]
実施例1と同様な方法で44dtexのポリウレタン弾性繊維を製造した。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6質量%であった。油剤中に含まれるn−ブチルアミンにより残留NCO%を15eq%消費させた。巻糸体の全質量は450gであり、吐出直後のポリウレタン弾性繊維の残留イソシアネート基濃度は、0.42%であった。得られた巻糸体を直ちに、常圧105℃の条件下で5日間固相反応させた。
【0228】
完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し、有効架橋量を測定したところ、巻糸体の表層で0.80×10-5mol/g、内層で0.04×10-5mol/gであった。次いで、完成した糸を巻糸体の表層及び内層からそれぞれ任意に取り出し融点を測定したところ、巻糸体の表層で181℃、内層で161℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ、測定直後から流動が始まるので、計測できないが数秒以内であった。この結果からも耐熱性が低く、熱融着力試験の測定温度に耐えられないことが確認できた。
【0229】
[比較例5]
実施例5のポリウレタン重合体の合成液の固形分に対して、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレンジ−1,4−フェニレン)ジセミカルバジド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジルイソシアヌール酸、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(2’−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールをそれぞれ0.27質量%、0.13質量%、0.13質量%、0.08質量%となるように添加して紡糸用溶液を得た。得られた紡糸用溶液を実施例5と同様に紡糸して、44dtex(4f)、156dtex(14f)の各ポリウレタン弾性繊維を得た。ポリウレタン弾性繊維に対する油剤の付与率は6質量%であった。
【0230】
このポリウレタン弾性繊維は残留イソシアネート基をもたないが、溶剤を完全に除去する目的で巻糸体を一日室温下で静置保存した。糸の有効架橋量は巻糸体の全領域でゼロであった。糸の融点を測定したところ、巻糸体の表層、内層でともに215℃であった。また、165℃一定温度下における巻糸体の内層部の熱流動性を求めたところ200分であり、熱流動性は悪く熱融着性は劣ることが確認できた。
【0231】
実施例1〜7で得られた44dtexポリウレタン弾性繊維の物性を表1,2に、比較例1〜5の44dtexポリウレタン弾性繊維の物性を表3にまとめた。
【0232】
比較例1,3は、有効架橋量が少なく、融点近傍での耐熱性が乏しく断糸した。比較例5は他と比べると熱融着性に乏しかった。比較例2,4は、表層では断糸も無く良好であったが、内層にて断糸が認められた。
実施例1〜7の繊維は、巻糸体の全領域で熱融着に優れており、断糸もなく良好であった。
【0233】
なお、原糸交差法試験において、実施例1〜4の糸を用いて、それぞれ160、165、150、153℃で処理したところ、順に0.23、0.19、0.17、0.16cN/dtexとなり、プレーティング法試験と同様、温度を下げても優れた熱融着性を示すことがわかった。
また、特開2002−339189号公報記載の方法に従ったポリウレタン弾性繊維(PU)100%編地を用いた試験結果でも、プレーティング法試験や原糸交差法試験と同等の結果を得ており、実施例1〜7は優れた熱融着性を示すものであった。
【0234】
【表1】

※1:
表1中の鉱物油は、粘度6.5×10-62/s(25℃)の流動パラフィン系鉱物油を使用し、DMPS(ジメチルポリシロキサン)は、粘度7.5×10-62/s(25℃)を使用した。また、モノアミンの添加量は、鉱物油とDMPSとからなる油分に対する割合である。
プレーティング法試験、原糸交差法試験、PU100%使用編地試験は、全て前述の方法で実施した。
なお、プレーティング法試験結果について、(1)、(2)は内層、(3)、(4)は表層の2箇所を測定した結果である。
【0235】
【表2】

【0236】
【表3】

※2:
表3中の鉱物油は、粘度6.5×10-62/s(25℃)の流動パラフィン系鉱物油を使用し、DMPS(ジメチルポリシロキサン)は、粘度7.5×10-62/s(25℃)を使用した。
【0237】
[実施例8〜12,比較例6〜10]
丸編地の作製
丸編機(釜径:38インチ、ゲージ:28、給糸口:100口)を用いて、綿100%の紡績糸60番手とポリウレタン弾性繊維をプレーティング編にて編み込み、シリンダー針で全針ニット編を行い、ベア天竺編地を得た。ポリウレタン弾性繊維としては、実施例1〜7及び比較例1〜5で得られた巻糸体の表層、内層の繊維を使用した。
【0238】
綿糸の編込糸長は25.6cm、ポリウレタン弾性繊維の編込糸長は14.3cmに設定した。次いで、得られた編地を下記条件にて染色加工した。
1)プレセット工程として、乾熱で50秒間処理した。処理温度としては、使用したポリウレタン弾性繊維の融点(表3に記載の編地プレセット温度)で処理した。
2)精練工程として、精練剤を2mL/L、苛性ソーダを2.2g/L使用して90℃で20分間処理した。
3)漂白工程として、30%過酸化水素を15mL/L、珪酸ナトリウムを5mL/L、苛性ソーダを1.1g/L使用して90℃で30分間処理した。
4)染色工程として、反応染料を30owf%、無水芒哨を90g/L、ソーダ灰を16g/L使用して90℃で30分間処理した。
5)フィックス工程として、フィックス剤を3.0owf%使用して50℃で20分間処理した。
6)ソーピング工程として、ソーピング剤1mL/L使用して90℃で10分間処理を実施した。
7)ファイナルセット工程として、乾熱150℃で30秒間処理した。
なお、上記工程で使用した薬剤は以下の通りである。
精練剤:商品名 SSK−15A(松本油脂社製)
反応染料:商品名 KPZOL BLACK KMN(紀和化学社製)
フィックス剤:商品名 ダンフィックスRE(日東紡社製)
ソーピング剤:商品名 スコアロールTS840(旭電化社製)
【0239】
加工上がりの編地について、ポリウレタン弾性繊維糸切れ状況の評価、熱融着度の評価、洗濯試験傷み評価を、下記の通り実施し、結果を表4に示す。
【0240】
ポリウレタン弾性繊維糸切れ状況
タテ17cm,ヨコ30cmの編地を、照明拡大鏡ENV−CL[(株)オーツカ光学製]に置いて下から光を当て、断糸の有無を調査する。断糸している懸念の部位はマジック等で印をつけ、実体顕微鏡SZ61[オリンパス(株)]を用いて倍率20倍で観察し、ポリウレタン断糸の有無を目視評価する。
熱融着度の評価
編地をコース方向にカットし、カット部のポリウレタン弾性繊維が解編できるかどうか手作業で調べ、解編が困難な編地は熱融着良好として、解編が可能な編地については、プレーティング編地法と同じ方法で解編張力を測定し、その値の大きさで熱融着の程度差を定量判定した。
【0241】
洗濯試験傷み評価
タテ5cm×ヨコ40cmの編地サンプルを取り、筒状に縫製した後、家庭用2槽式洗濯機(TOSHIBA(株)製 商品名:GINGA4.5)を使用して下記条件にて洗濯を行った。
洗濯(300分)→遠心脱水(5分)→注水すすぎ(10分)
→遠心脱水(5分)
液温:常温(25℃),水流:強水流
洗剤:ライオン(株)製、商品名:トップ,水量:30リットル
洗濯水1リットルに対して洗剤1.3g使用
負荷布:綿とポリウレタン弾性繊維混用ベア天竺編地1.0kg分
【0242】
次に、編地のコース方向カット部の編地端のほつれ程度を観察し、下記の4段階で評価した。なお、△と×は衣料として着用をためらう程度の傷みであり、◎又は○が洗濯耐久性の点で好ましい。
〈評価基準〉
◎:傷みが認められない
○:やや傷みが認められる
△:傷みが認められる
×:傷みが激しい
【0243】
【表4】

【0244】
実施例8〜12で使用したポリウレタン弾性繊維は、巻糸体の全領域で編地の解編ができないほど強く熱融着しており、該カット部のカール抑制効果、ほつれ抑制効果、スリップイン防止、目ずれ抑制効果が認められた。一方、比較例6,8は、有効架橋量が少なく、融点近傍での耐熱性が乏しく、断糸しており、編地端のほつれ抑制効果も認められなかった。比較例10は、他と比べると殆ど熱融着しておらず、カット部のポリウレタンは容易に解編できた。洗濯によるカット部の傷みも激しく、カット部のカールも強いものであった。比較例7,9は、表層では断糸も無く良好であったが、内層にて断糸が発生し、編地端のほつれ抑制効果も認められなかった。
【0245】
[実施例13,14、比較例11,12]
編地の作成
ラッシェル編機(カールマイヤ社製、28ゲージ)を使用し、図9のL1のa及びL3のcに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbにポリウレタン弾性繊維を使用し、経編地を作成した。
ポリウレタン弾性繊維は、実施例1、実施例5、比較例1、比較例5の繊度156dtexのものを用い、巻糸体の表層、内層のものを使用した。次いで、得られた編地を下記条件にて染色加工した。
【0246】
染色加工
まず、アニオン系界面活性剤2g/Lの浴中で60℃×5分の処理条件で精練・リラックスを実施した後に、ピンテンターを用い乾熱で50秒、表5に記載の温度でプレセットを実施した。
次に、液流染色機(CircularNX)にて、Kayanol Milling Red BW 2%owf(酸性染料:日本化薬社製)、Newbon TS400 1%owf(均染剤:日本化薬社製)、酢酸0.5g/L、酢酸アンモニウム 0.15g/Lを用い、浴比=1:30の染色条件にて40℃から95℃まで30分で昇温、95℃で40分間染色した。
その後、50℃×10分で2回湯水洗、サンライフTN−8 3g/L(合成フィックス剤:日華化学社製)、シュウ酸 1g/L、70℃×20分にてフィックスを行い、ピンテンターを用いて170℃×40〜50秒でファイナルセットを実施した。
【0247】
染色加工上がりの編地について、ポリウレタン弾性繊維糸切れ状況の評価、熱融着程度の評価を下記の通り実施し、結果を表5に示す。なお、以下に記載するポリウレタン弾性繊維糸切れ状況、及び熱融着程度の評価は、実施例15、比較例13以降の評価についても、適用した。
【0248】
ポリウレタン弾性繊維糸切れ状況の評価
プレーティング編地法と同様に、タテ17cmでヨコ30cmの編地を20%塩酸水溶液200mLに浸漬処理してナイロンを除去した後、残ったポリウレタン弾性繊維の試料を目視観察し、該編地にポリウレタン弾性繊維の断糸が認められない場合は、「断糸認めず」で、断糸が認められる場合は、その状況を記録する。
熱融着程度の評価
引き抜き抵抗値を測定することで、熱融着程度の評価とした。
具体的には、上記編地から、図10に示した通り緯方向(幅)25mm×経方向(長さ)100mmの試験片を採取した。この時、ポリウレタン弾性繊維の引き抜き方向が編み始め及び編み終わり方向となるように、試験片は各5枚ずつ合計10枚採取した。
続いて、試験片下端(D−D’)より40mmの位置(B−B’)で、経方向に挿入したポリウレタン弾性繊維1を1本残した状態で試験片を切り取った。次いで、残した当該ポリウレタン弾性繊維を、上部つかみ2の方向に向かって5mm分(E−F)試験片から取り出した。更に、当該ポリウレタン弾性繊維の延長線上で、且つ試験片上端より30mmの位置で緯方向に幅3mmの切り込み3を入れた。
引き抜き抵抗値を引張試験機で測定する場合、引張試験機のつかみ間隔を40mmに調整し、次いで、試験片の2の上部つかみ代25mm(A−A’より上部)で試験片上部を把握し、ポリウレタン弾性繊維に0.1cN初荷重をかけ、4の下部つかみ代35mm(C−C’より下部)でポリウレタン弾性繊維を把握し、引張速度100mm/minで引張り、ポリウレタン弾性繊維が引き抜かれるまでの最大引き抜き荷重を測定した。これを編み始め及び編み終わり方向とも各5回、合計10回実施して、その平均値を計算し引き抜き抵抗値を求めた。
【0249】
【表5】

【0250】
実施例13の結果から、実施例1の糸を使用すると熱融着により引き抜き困難であり、実施例14の結果から、実施例5の糸を使用すると、熱融着により、比較例5の糸に比べ、引き抜き抵抗値が格段に向上したことがわかる。比較例11に示されるように、比較例1の糸は熱融着性によらず、編地中で断糸しているので実質的に使用不可能な編地であった。比較例11,12を除くと、カール、目ずれ、わらいの生じにくい編地であった。
【0251】
[実施例15]
テストA
実施例13と同様の編機を使用し、図3のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例1及び5で得られた156dtexポリウレタン弾性繊維をそれぞれ使用して経編地を作成し、実施例13と同様の試験を行った。結果を表6に示す。
なお、156dtexポリウレタン弾性繊維は、実施例1及び5の44dtexポリウレタン弾性繊維と同等の有効架橋度、融点、耐熱性、熱融着力を有していた。
【0252】
テストB
実施例13と同様の編機を使用し、図3のL1のaに56デシテックス72フィラメントのポリエステル糸を、L2のbに実施例5の156dtexポリウレタン弾性繊維を使用し、経編地を作成した。編地の伸びを大きくするために、ポリエステル糸の糸量を多くして編地を粗にした。次いで、195℃で90秒間熱セットした後に実施例13と同様に染色を実施した。加工上がりのポリエステル糸の糸長は表7に示す通りであった。また、下記方法により、定荷重経伸度及び伸縮疲労性等について評価した。結果を併せて表7に示す。
【0253】
〈22N定荷重経伸度〉
ポリウレタン弾性繊維の入った方向が16.0cm、その直角方向が2.5cmの長方形の試験片を採取した。次いで、上部つかみ2.5cm、下部つかみ3.5cm、把握長10.0cmとして引張試験機に取り付け、300mm/分の速度で伸長し、荷重9.8N、14.7N、22Nの伸度を測定する。試料2回の平均値をデータとして採用する。
〈伸縮疲労性試験〉
ポリウレタン弾性繊維の入った方向が17.0cm、その直角方向が9.0cmの長方形の試験片を採取した。試験伸度については、22N定荷重経伸度試験における結果をもとに決定した。14.7N伸度が100%未満のときは14.7Nのときの伸度で実施した。14.7N伸度が100%以上のときは、9.8N伸度と14.7N伸度を足した値を2で割った値を試験伸度とした。但し、150%を上限とする。
伸縮疲労性としては、伸縮疲労性試験機の引張間隔(把握長)7.0cmとして、試験片をつかみ具にセットした。上記設定伸度で、200回/分の回転速度で往復7500回水平運動させ伸縮を繰り返した。
判定は、ポリウレタン弾性繊維の糸切れの有無で行った。
【0254】
[比較例13]
テストA
比較例1及び5で得られた156dtexポリウレタン弾性繊維を使用した以外は実施例15と同様の試験を行った。結果を表6に示す。
なお、156dtexポリウレタン弾性繊維は、比較例1及び5の44dtexポリウレタン弾性繊維と同等の有効架橋度、融点、耐熱性、熱融着力を有していた。
【0255】
テストB
実施例5のポリウレタン弾性繊維の代わりに比較例5で得られた通常の乾式ポリウレタン弾性繊維を使用した以外は実施例15と同様の試験を行った。結果を表7に示す。
加工上がりのポリエステル糸の糸長が25.6cm/50コースであった以外は比較例5と同様の加工上がりの経編地を得た。結果を表7に示す。
【0256】
【表6】

【0257】
【表7】

【0258】
[実施例16]
実施例13と同様の編機を使用し、図4のL1及びL2のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L3及びL4のbに実施例15のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を作成し、実施例15テストAと同様の試験を行った。結果を表8に示す。
【0259】
[比較例14]
比較例13の弾性繊維を図4のL3及びL4のbに使用した以外は実施例16と同様に経編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表8に示す。
【0260】
【表8】

【0261】
実施例16の結果に示されるように、実施例1の糸を使用すると熱融着により引き抜き困難であり、実施例5の糸を使用すると熱融着により、比較例5の糸に比べ引き抜き抵抗値が格段に向上した。実施例1及び5の糸を使用した編地は、熱融着により、カール、目ずれ、わらいの生じにくい編地であった。
【0262】
[実施例17]
下記の方法にて編地を作成し、熱セット及び染色加工後、編地の解編張力の測定とポリウレタン弾性繊維相互の融着状況の確認、並びに洗濯試験により編地の傷み(洗濯耐久性)を目視評価した。結果を表9に示す。
【0263】
編地の作成
ラッシェル編機(カールマイヤ社製、28ゲージ)を使用し、図5に示した組織図の編地を作成した。図5において、L1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のcに実施例1又は5の弾性繊維を、L3のcに実施例1又は5のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を編成し主編地とした。更に、主編地の間に抜き糸として、ナイロンフィラメント糸110デシテックス24フィラメントを使用して経編地を作成した。
【0264】
熱セット及び染色加工
熱セットの処理温度としては、実施例1のポリウレタン弾性繊維の融点と同じ温度で50秒間処理した。その他は実施例13と同様に処理した。
解編張力の測定
抜き糸のナイロン糸の解編張力を測定した。解編速度は100mm/分とし、1分間の解編張力を測定し、ピーク点5箇所の平均値を計算した。
融着状況の確認
主編地のナイロン糸を20%希塩酸にて溶解し、ポリウレタン弾性繊維相互の接触部の融着状況を観察した。
編地の傷み評価における試料の作成
熱セットした編地の編方向に対してタテ3.3cm、ヨコ24.0cmの短冊状試料を切り取り、ヨコ方向の裁断面より編方向に対して40度の角度に切れ目を入れ、「編み始め側」と「編み終わり側」に分け、タテ方向の裁断部を合わせてオーバーロックミシンで縫製し環状の試料を作成した。
【0265】
[比較例15]
比較例1又は5の弾性繊維を図5のL2、L3のcに使用し、熱セットの処理温度は、ポリウレタン弾性繊維の融点と同じ温度で50秒間処理した。その他は実施例17と同様の試験を行った。結果を表9に示す。
【0266】
【表9】

【0267】
図5の組織ではポリウレタン弾性繊維は、解編による熱融着力を測定することはできないが、実施例17において、実施例1,5のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中では、ポリウレタン弾性繊維相互は剥離できない程度に強く熱融着しており、洗濯による編地の傷み具合についても良好であった。一方、比較例15の結果に示されるように、比較例1のポリウレタン弾性繊維を使用すると、編地中でポリウレタン弾性繊維がいたるところで断糸が発生していた。比較例5の糸を使用した場合は断糸はないが、ポリウレタン弾性繊維相互の接触箇所は容易に剥離でき、洗濯による編地の傷みは激しいものであった。
【0268】
[実施例18]
実施例17と同様の編機を使用し、図6のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のcに実施例1又は5のポリウレタン弾性繊維を、L3のcに実施例1又は5のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を作成し、実施例17と同様の試験を行った。結果を表10に示す。
【0269】
[比較例16]
比較例1又は5の弾性繊維を図6のL2,L3のcに使用した以外は実施例18と同様に経編地を作成し、比較例15と同様の試験を行った。結果を表10に示す。
【0270】
【表10】

【0271】
図6の組織ではポリウレタン弾性繊維は、解編による熱融着力を測定することはできないが、実施例1,5のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中(実施例18)では、ポリウレタン弾性繊維相互は剥離できない程度に強く熱融着しており、洗濯による編地の傷み具合についても良好であった。一方、比較例1のポリウレタン弾性繊維を使用すると、編地中のポリウレタン弾性繊維がいたるところで断糸が発生していた。比較例5の糸は断糸はないが、ポリウレタン弾性繊維相互の接触箇所は容易に剥離でき、洗濯による編地の傷みは激しいものであった(比較例16)。
【0272】
[実施例19]
実施例17と同様の編機を使用し、図7のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例2のポリウレタン弾性繊維を使用し、実施例17と同様の方法で抜き糸は使用せず経編地を作成し、実施例17と同様の試験を行った。結果を表11に示す。
【0273】
[比較例17]
比較例2の弾性繊維を図7のL2のbに使用した以外は実施例19と同様に経編地を作成し、比較例15と同様の試験を行った。結果を表11に示す。
【0274】
【表11】

【0275】
図7の組織ではポリウレタン弾性繊維は閉じ目を形成しており、解編による熱融着力を測定することはできないが、実施例2のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中では、ポリウレタン弾性繊維相互は剥離できない程度に強く熱融着しており、洗濯による編地の傷み具合についても良好であった(実施例19)。一方、比較例2のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中では、巻糸体の表層を使用したものは、実施例2のポリウレタン弾性繊維の結果と同等であったが、内層部では、編地中でポリウレタン弾性繊維がいたるところで断糸が発生していた(比較例17)。
【0276】
[実施例20]
実施例17と同様の編機を使用し、図8のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例3のポリウレタン弾性繊維を使用し、実施例17と同様の方法で抜き糸は使用せず経編地を作成し、実施例17と同様の試験を行った。結果を表12に示す。
【0277】
[比較例18]
比較例3の弾性繊維を図8のL2のbに使用した以外は実施例20と同様に経編地を作成し、比較例15と同様の試験を行った。結果を表12に示す。
【0278】
【表12】

【0279】
図8の組織ではポリウレタン弾性繊維は閉じ目を形成しており、解編による熱融着力を測定することはできないが、実施例3のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中(実施例20)では、ポリウレタン弾性繊維相互は剥離できない程度に強く熱融着しており、洗濯による編地の傷み具合についても良好であった。一方、比較例3のポリウレタン弾性繊維を使用した編地中(比較例18)では、ポリウレタン弾性繊維相互が接触している箇所の剥離は容易であり、洗濯による傷みも激しいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0280】
【図1】クサリ編地の組織図の一例である。
【図2】クサリ編地の組織図の他の例である。
【図3】経編地の組織図の一例である。
【図4】経編地の組織図の他の例である。
【図5】経編地の組織図の更に他の例である。
【図6】経編地の組織図の別の例である。
【図7】経編地の組織図の更に別の例である。
【図8】経編地の組織図の更に他の例である。
【図9】経編地の組織図の更に別の例である。
【図10】経編地の引張り試験用試験片である。
【図11】原糸交差法試験方法の例である。
【符号の説明】
【0281】
1 ポリウレタン弾性繊維
2 上部つかみ
3 切り込み
4 下部つかみ
11 ポリウレタン原糸
12 ポリウレタン原糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー温度法により測定した融点が165〜200℃であり、巻糸体の全領域にわたって断糸しないポリウレタン弾性繊維であって、プレーティング編地法において上記温度範囲で熱処理したときの熱融着力が0.15cN/dtex以上であることを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
300%伸長した直後の残留歪みが40%以下であることを特徴とする請求項1記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含有するベース油剤を1〜10質量%含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
熱融着性ポリウレタン弾性繊維が、(I)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマー、及び(II)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーを反応させて得られるポリマーを溶融紡糸してなり、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付着又は含有させてなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
ベース油剤が、更に分子量700以下のモノアミンを含有し、ポリウレタン弾性繊維中の残留イソシアネート基と上記モノアミンとを反応させて、残留イソシアネート基の0.5〜15当量%を消費してなることを特徴とする請求項4記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項6】
ポリウレタン弾性繊維中の有効架橋量が、0.05×10-5mol/g以上10×10-5mol/g未満であることを特徴とする請求項4又は5記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項7】
熱融着性ポリウレタン弾性繊維が、ポリオール及びジイソシアネートから得られる両末端イソシアネート基中間重合体と低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとを有機溶剤中で反応させて得られるポリウレタン重合体溶液と、低融点化合物とを上記ポリウレタン重合体と低融点化合物との質量比が、40:60〜80:20となるように混合してなる紡糸用溶液を乾式紡糸し、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付着又は含有させてなることを特徴とする請求項1又は2記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項8】
熱融着性ポリウレタン弾性繊維を構成する全ポリオール中に、数平均分子量600〜3500のポリエーテルジオールを70モル%以上含有してなると共に、ウレタン結合とウレア結合の全体に占めるウレタン結合の割合が60〜95モル%であることを特徴とする請求項7記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維。
【請求項9】
(1)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基プレポリマーを合成する工程、
(2)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて両末端水酸基プレポリマーを合成する工程、
(3)両末端イソシアネート基プレポリマーと両末端水酸基プレポリマーとを反応させて紡糸用ポリマーを合成する工程、
(4)紡糸用ポリマーを溶融紡糸する工程、及び
(5)紡糸したポリウレタン弾性繊維に、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付与する工程
を含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項10】
(1)数平均分子量600〜3500のポリオールとジイソシアネートとを反応させて両末端イソシアネート基中間重合体を合成する工程、
(2)上記中間重合体と低分子量ジアミン及び/又は低分子量ジオールとを有機溶剤中で反応させてポリウレタン重合体溶液を得る工程、
(3)上記ポリウレタン重合体溶液と低融点化合物とをポリウレタン重合体と低融点化合物との質量比が40:60〜80:20となるように混合する工程、
(4)ポリウレタン重合体と低融点化合物を含む溶液を乾式紡糸する工程、及び
(5)紡糸したポリウレタン弾性繊維に、鉱物油25〜75質量%及びシリコーンオイル75〜25質量%からなる油分を含むベース油剤を付与する工程
を含むことを特徴とする熱融着性ポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維を製織編してなるポリウレタン弾性繊維混用織編物。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の熱融着性ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸とを含み、乾熱又は湿熱セットにより熱融着性ポリウレタン弾性繊維相互及び/又はこれと非弾性糸との交差部を熱融着させてなる請求項11記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物。

【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−307409(P2006−307409A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90337(P2006−90337)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】