説明

熱融着性複合繊維とそれを用いた不織布

【課題】不織布に用いたときに、嵩高性、高い不織布強度、及び、優れた伸縮性が得られる熱融着性複合繊維及び熱融着性複合繊維を用いて得られた不織布の提供。
【解決手段】第1〜第3成分の3種類の樹脂成分を用いて得られた複合繊維であって、第1成分は溶融または軟化によって熱接着性を有する樹脂成分であり、融点または軟化点は、他の2成分の融点または軟化点よりも低く、第2成分は非熱収縮性であるかまたは第3成分よりも熱収縮性が低い樹脂成分であり、第3成分は熱収縮性の樹脂成分であり、各成分が繊維長軸に対して直角な繊維断面においてそれぞれ独立に存在しており、第2成分を中心に第1成分と第3成分が並列に配置されており、少なくとも第1成分が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めており、かつ少なくとも第3成分の一部が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めている熱融着性複合繊維、およびそれを用いた不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱融着性複合繊維とそれを用いた不織布に関する。更に詳しくは、熱融着性潜在捲縮性複合繊維と、これを用いて得られる伸縮性を有する不織布を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
伸縮性を有する不織布を得る手法としては、エラストマー樹脂をメルトブロー法にてコンベアーに積層し、熱ロールにて接着してシートを製造することが一般的である。しかし、得られたシートの嵩高性が非常に低い為、通気性が低く風合いを損なうものであった。また、エラストマー樹脂特有の摩擦により表面平滑性が悪いといった問題もある(特許文献1参照)。
【0003】
そこで、潜在捲縮性を有する繊維をカード法にてウェブとし、ジェット水流にて交絡させた後に熱処理することで捲縮を発現させ(収縮処理)、構造的に伸縮を付与させる方法があるが、交絡による構造のため不織布強度が低いといった問題がある(特許文献2参照)。
【0004】
他の方法として、接着性と潜在捲縮性の両方を与えるため、シース部(繊維外周部)に融点80〜170℃熱可塑性樹脂を用い、コア部に融点が20℃以上高い熱収縮特性の異なる2種の熱可塑性樹脂を用いた熱接着性の潜在捲縮性複合繊維をカード法にてウェブとし、スルーエアー加工を行うことで、低温樹脂による接着性と、潜在捲縮を顕在化させて捲縮を発現させることにより不織布強度と伸縮性の両方を与える方法があるが、捲縮を発現させるコア部を接着成分となるシース部が覆うため、十分な捲縮が発現せず、伸縮性能を損なう問題がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−256856号
【特許文献2】特願平8−268951号
【特許文献3】特願平6−280147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、特に不織布に用いたときに、嵩高性と、高い不織布強度、及び、優れた伸縮性が得られる繊維と、これを用いて得られる不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、繊維長軸方向と直角な繊維断面において、3種の樹脂成分を、それぞれ特定の位置に配した繊維が、前記課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
(1)第1成分、第2成分および第3成分の3種類の樹脂成分を用いて得られた複合繊維であって、第1成分は溶融または軟化によって熱接着性を有する樹脂成分であり、その融点または軟化点は、他の2成分の融点または軟化点よりも低く、第2成分は非熱収縮性であるかまたは第3成分よりも熱収縮性が低い樹脂成分であり、第3成分は熱収縮性の樹脂成分であり、当該各成分が繊維長軸に対して直角な繊維断面(以下、単に繊維断面ともいう)においてそれぞれ独立に存在しており、第2成分を中心に第1成分と第3成分が並列に配置されており、少なくとも第1成分が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めており、かつ少なくとも第3成分の一部が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めている熱融着性複合繊維。
(2)第1成分が低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、及び、熱可塑性エラストマーから選ばれた少なくとも1種を含む樹脂成分であり、第2成分が結晶性ポリプロピレンを含む樹脂成分であり、第3成分がプロピレン系共重合体を含む樹脂成分である、前記(1)項に記載の熱融着性複合繊維。
(3)第1成分が繊維表面の30〜80%を繊維長さ方向に連続して占めている、前記(1)または(2)項に記載の熱融着性複合繊維。
(4)第1成分の融点が70℃以上125℃以下、第3成分の融点が120℃以上147℃以下である前記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
(5)第1成分が、メタロセン系L−LDPEを含み、第3成分に含まれるプロピレン系共重合体が、エチレン含有量4〜10重量%、プロピレン含有量90〜96重量%からなるエチレン−プロピレン2元共重合体である、前記(2)〜(4)項のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
(6)第3成分に含まれるプロピレン系共重合体が、エチレン含有量1〜7重量%、プロピレン含有量90〜98重量%、1−ブテン含有量1〜5重量%からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合である前記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維を用いて得られた不織布。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱融着性複合繊維は、高い収縮性と接着性を与えることができ、更に不織布加工後には潜在捲縮が顕在化して発現することにより、嵩高性、高い不織布強度、及び、優れた伸縮性を有する不織布となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱融着性複合繊維の好ましい繊維断面の例を示す図(実施例1の態様)。
【図2】本発明の熱融着性複合繊維の好ましい繊維断面の例を示す図(実施例2の態様)。
【図3】本発明の熱融着性複合繊維の好ましい繊維断面の例を示す図(実施例3の態様)。
【図4】本発明の熱融着性複合繊維の好ましい繊維断面の例を示す図。
【図5】本発明の熱融着性複合繊維の好ましい繊維断面の例を示す図。
【図6】本発明に対する比較例の繊維断面の例を示す図(比較例1の態様)。
【図7】本発明に対する比較例の繊維断面の例を示す図(比較例2の態様)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱融着性複合繊維は、非熱収縮性樹脂または熱収縮性の小さい樹脂(第2成分)を中心に低融点(または低軟化点)樹脂(第1成分)と熱収縮挙動の高い樹脂(第3成分)で挟む形で並列に並んだ繊維断面を有する複合繊維である。本発明の原理は、熱収縮性の一番大きい第3成分が、熱処理されたときに収縮して複合繊維に捲縮を発現させ、捲縮の内側となり、第2および第3成分より融点(または軟化点)の低い第1成分が熱接着に関与する成分として機能し、他の2成分が捲縮を発現してもその捲縮の形状を損なうことなく捲縮の外側に溶融(または軟化)した状態を保つので、固化しても捲縮の形状を保持したまま捲縮の外側に接着点(複合繊維の捲縮の外側の接点が互いに熱溶融して接着される)を形成するというものである。
【0012】
本発明の熱融着性複合繊維の第1成分は、他の2成分よりも融点または軟化点が低く、溶融または軟化により接着点を形成する樹脂成分であれば特に限定されない。他の2成分のうち、融点(または軟化点)が低い方との融点(軟化点)差については、樹脂の入手可能性や、熱処理において他の成分を溶融(軟化)させずに第1成分を溶融(軟化)させる時の温度幅を考慮すると、5〜40℃低いものを選ぶのが好ましく、10〜35℃低いものを選んだ場合はさらに好ましい。このような第1成分として、具体的には、LDPE、L−LDPE、及び熱可塑性エラストマーから選ばれた少なくとも1種を含む樹脂成分を挙げることができる。
【0013】
第2成分は、非熱収性であるかまたは第3成分よりも熱収縮性が低い樹脂成分であれば特に限定されないが、具体的には結晶性ポリプロピレンを含む樹脂成分を挙げることができる。
【0014】
第3成分は熱収縮性の樹脂成分であれば特に限定されないが、具体的にはプロピレン系共重合体を含む樹脂成分を挙げることができる。
【0015】
本発明においては、第1成分が熱接着性を有する樹脂成分として接着性に寄与する。第1成分として用いられるLDPEもしくはL−LDPEとして、融点が70℃以上125℃以下の範囲内のものが好ましく、更に好ましくは、95℃以上120℃以下である。第1成分に含まれるLDPEもしくはL−LDPEの融点が125℃以下であれば、第1成分が熱溶融する温度において、プロピレン系共重合体を含む第3成分の溶融による熱接着への関与を抑えることができるので、第3成分の不織布中での接着点の形成を防止することができ、不織布の伸縮性を保つことができる。この場合、不織布の強度は、第1成分の接着で十分に保たれている。第1成分の融点が70℃以上であれば、ウェブを作製するカード工程においてメタリックワイヤーのカーディング摩擦が抑えられ、ネップの発生(繊維融着)などは起こらず、地合いが良好に保たれる。さらに、L−LDPEは、低温加工性や伸び、表面平滑性の点で、メタロセン系触媒を用いて製造されたL−LDPEであることが好ましい。
【0016】
第1成分として、熱可塑性エラストマーを使用してもよい。熱可塑性エラストマーを使用する場合、それが熱によって軟化することにより熱接着が行われる。熱可塑性エラストマーとしては、加工性の点で軟化点が70〜110℃であるものが好ましく、80〜100℃の範囲であるものが尚好ましい。そのような熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレン系エラストマー(SEBS)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)が例示できる。また、相溶性の点で、オレフィン系エラストマーも好ましい例として挙げられる。オレフィン系エラストマーとしては、エチレン−オクテン−1共重合体(ダウケミカル社製 Engage8402)を例示できる。
【0017】
第1成分として熱可塑性エラストマーを使用すると、繊維間の接点が、このエラストマー成分を介して熱接着されることとなるため、その接着点自体が弾性を帯び、不織布に加えられる張力等に伴う変形に対する緩衝効果を有する結果、不織布に柔軟性・伸縮性が与えられると共に、エラストマー成分の持つ粘着性によって接着点の接着強度が補強される結果、接着点の接着強度も高いものとなる。
【0018】
第1成分として、熱可塑性エラストマーの1種または2種以上の混合物を使用でき、また、これらを、LDPEもしくはL−LDPEと混合して使用することもできる。第1成分には、溶融または軟化による熱接着効果を阻害しない範囲で、さらに他の樹脂や、滑剤や顔料、あるいは炭酸カルシウムや酸化チタンなどの無機物などの添加剤を含ませてもよい。
【0019】
第3成分として例示されるプロピレン系共重合体は、プロピレンを主成分とするオレフィン共重合体である。このようなプロピレン系共重合体は、プロピレンとエチレン、もしくはプロピレンとエチレンおよびα−オレフィンとを共重合させることにより得ることができる。プロピレン系共重合体に使用するα−オレフィンとしては、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1等が例示でき、またこれらのα−オレフィンのうち2種以上を併用することもできる。
【0020】
このようなプロピレン系共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレン二元共重合体、プロピレン−ブテン−1二元共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体、プロピレン−ヘキセン−1二元共重合体、プロピレン−オクテン−1二元共重合体等およびこれらの混合物等を例示することができる。これらの共重合体はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0021】
このようなプロピレン系共重合体として、さらに好ましい具体例は、低温熱収縮性の点でエチレン−プロピレン二元共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体を挙げることができ、さらに、低温熱収縮性、コストの点で、エチレン含有量4〜10重量%、プロピレン含有量90〜96重量%からなるエチレン−プロピレン2元共重合体、エチレン含有量1〜7重量%、プロピレン含有量90〜98重量%、1−ブテン含有量1〜5重量%からなるエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合を挙げることができる。
【0022】
第3成分のプロピレン系共重合体の融点としては、第1成分より高い融点であることを条件として、120℃以上147℃以下が好ましく、より好ましくは125℃以上140℃以下の範囲である。融点が120℃以上であれば、先に述べた第1成分との融点差を十分に取ることができ、第1成分の溶融または軟化と同時に第3成分が溶融することを抑えることができる。第3成分の溶融を抑えることができれば、接着点は熱処理によって発現する捲縮の外側(第1成分側)に形成されることになるので、不織布が柔らかくなり、第3成分自体の熱収縮も接着によって阻害されずに効率的に発現させることができるので、伸縮性に富んだ不織布を製造することができる。また、融点が147℃以下であれば、後に述べる第2成分に用いる結晶性ポリプロピレンとの融点差を大きく取ることができるため、効率的に捲縮を発現させることができ、好ましい。
【0023】
第3成分の融点は、不織布加工性の点から第1成分より高いことが好ましく、第3成分と第1成分の融点差(第3成分の融点−第1成の分融点)が10〜70℃の範囲であるのが更に好ましく、20〜40℃の範囲であるのが尚好ましい。
【0024】
第3成分のメルトマスフローレートとしては、紡糸性、加工性の点から、JIS−K7210の条件14で、0.1〜80g/10minが好ましく、3〜40g/10minが更に好ましい。
第3成分は、これらの効果を阻害しない範囲で、他の樹脂、滑剤や顔料、あるいは炭酸カルシウムや酸化チタンなどの無機物などの添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
第2成分に用いられる結晶性ポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体もしくはプロピレンと少量の、通常は2重量%以下のエチレンまたはα−オレフィンとの共重合体である。このような結晶性ポリプロピレンとしては、汎用のチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒から得られる結晶性ポリプロピレンを例示することができる。第2成分の融点としては、第3成分の融点よりも高いことが収縮加工性の点で好ましく、それらの融点差は、好ましくは15〜45℃の範囲であり、更に好ましいのは20〜30℃の範囲である。
第2成分のメルトマスフローレートとしては、紡糸性、加工性の点から、JIS−K7210の条件14で0.1〜80g/10minが好ましく、3〜40g/10minが更に好ましい。
【0026】
本発明の熱融着性複合繊維の繊維断面(繊維長軸に対して直角な断面)においては、各成分が繊維断面においてそれぞれ独立に存在しており、第2成分を中心に第1成分と第3成分が並列に配置されており、少なくとも第1成分が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めており、かつ少なくとも第3成分の一部が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めている。このような態様の具体例は、図1〜図5に示すような繊維断面を挙げることができる。これらの各図に示したように、繊維断面においては、各成分はそれぞれ独立に存在しており、各図では第2成分を中心として左側に第1成分、右側に第3成分が配置されている。
【0027】
接着成分となる第1成分が繊維長さ方向に連続し表面にあること、特に、繊維表面の30〜80%を繊維長さ方向に連続して占めていることで、繊維同士の自己接着性および他素材との適度な接着性を示し、第2成分と第3成分の並列により高い潜在捲縮性を持つ繊維が得られる。特に、第1成分が繊維表面の30〜80%を繊維長さ方向に連続して占めていることが、接着性の点で尚好ましい。
【0028】
繊維長軸と直角する繊維断面において、並列に配置されてなる3成分間の各境界線は、それぞれ独立して直線であっても曲線であっても構わない。特に、図1〜3に示すように、少なくとも、第2成分と第3成分の境界線が第3成分側(図1〜3において右側)に向かい凹状の弧を描く(図1〜3において左側に張り出すように弧を描く)ように配列している場合や繊維長軸と直角する繊維断面において、3成分の各境界線が、第1成分が露出していない繊維表面側(図1〜3において右側)に向かい、それぞれ凹状の弧(同様に図1〜3において左側に張り出す)を描くように配置されてなる並列構造を形成しているのも、本発明の繊維の好ましい形態の一つである。このような並列構造をとることによって、繊維間が、熱接着性を有する第1成分を介して接触する機会が多くなり、効率的に熱接着が達成できるために不織布加工後の不織布強力の点で好ましい。また、本発明は、図4や図5に示す繊維断面の態様も含む。
【0029】
第1成分、第2成分および、第3成分の断面積比としては、第2成分と第3成分の面積比率を40:60〜60:40の範囲とし、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/3〜1の範囲であるのが尚好ましい。接着成分となる第1成分の第2成分と第3成分の合計面積に対する面積比が1/3以上であれば、第1成分による接着力が十分に保持され、また、同面積比が1以下であれば、第1成分の量が第3成分の熱収縮を妨げる可能性を完全に排除できる範囲に保たれるので、捲縮発現性が良好である。
【0030】
このような繊維長軸と直角する繊維断面を得るには、特願平2−172718に示す三成分並列型複合紡糸口金を用いることにより得ることができる。この文献に記載されたものと同じ金型を用いて、例えば樹脂の流動性をコントロール(溶融温度、MFR)することにより、成分間の境界線が第3成分側に凹状に弧を描く断面形状の繊維を効率的に製造することができる。例えば、流動性の同じ樹脂の場合、得られる断面は半月状となるが、一方の樹脂の流動性を上げていくと流動性の低い樹脂を覆うような断面へと変化していく。このことを利用することで、三成分間の断面形状を変化させることができる。
【0031】
本発明の熱融着性複合繊維の繊度は、特に限定されないが、1.0dtex〜20dtexの範囲が好ましく、より好ましくは1.5dtex〜10dtex、更に好ましくは、2.2dtex〜6.6dtexである。繊度が1.0dtex以上であれば、カード工程においてネップの発生などを完全に防止することができるので、不織布の地合いは良好となる。20dtex以下であれば、捲縮を十分に発現させることができる。
【0032】
本発明の熱融着性複合繊維は、目付100g/m程度のウェブとし、これを、125℃オーブン内で5分間の熱放置をしたときに、容易に50%以上の収縮率を発現することができ、さらには、好適に、60%以上の収縮率を発現することもできる。
収縮率が50%以上であれば、不織布に十分な伸縮性を与えることができ、柔らかい不織布となる。
【0033】
本発明の熱融着性複合繊維に、例えば、別の潜在捲縮複合繊維等、他の繊維を混綿しても構わない。別の潜在捲縮複合繊維とは、本発明の第2成分と第3成分のみからなる並列もしくは偏心の断面を有する繊維などが挙げられる。
【0034】
本発明の熱融着性複合繊維を用い不織布を製造する方法を以下に述べる。
本発明の繊維は、繊維の熱融着による不織布化と、同繊維の潜在捲捲縮の発現とを一工程で行うこともできるし、先に不織布化工程を実施した後に、潜在捲縮の発現工程を実施することもできる。特に、後者の方法で実施すれば、不織布加工後、無張力化で熱を与えることのできるシュリンクドライヤーなどを使用することが可能となり、より均一に高い収縮を与えることが可能となる。
【0035】
前者の場合の製造例としては、本発明の熱融着性複合繊維をカード法により処理してウェブとし、第1成分の融点以上で、かつ繊維に収縮が発生する加工温度にて熱風循環式熱処理機(スルーエアー機)を通し、接着と収縮を同時に行う方法を挙げることができる。後者の場合の製造例は、本発明の熱融着性複合繊維をカード法を用いてウェブとし、第1成分の融点以上、かつ繊維の収縮開始温度以下の加工温度で熱風循環式熱処理機(スルーエアー機)を通し不織布とした後、収縮開始温度以上、第3成分融点以下の加工温度でシュリンクドライヤーにて熱処理する方法を挙げることができる。
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではない。
【0037】
<繊維>
第1成分に融点98℃、MI30g/10minのエラストマー樹脂(品名:Engage8402 ダウケミカル社製)、第2成分に融点160℃、MFR16g/10minのホモポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ社製、SA2E)、第3成分に融点130℃エチレン含量4重量%、ブテン−1含量2.7重量%、MFR16g/10minのプロピレン共重合体(日本ポリプロ社製、SG02)を使用し、第2成分を中心とし、第1成分と第3成分が挟む形で吐出する230ホールの口金を用い任意の加工温度で押出すことにより断面積比を変更し繊維を得た。
この繊維を、90℃の延伸ローラーにて2.5倍に延伸し、2.2dtex、カット長51mmの原綿を得た。
【0038】
<収縮率測定法>
複合繊維を下記の各実施例で示す方法により不織布に加工し、熱処理前のサンプルをMD方向(不織布製造の機械の流れ方向)の各中央とその両端3ヶ所の長さを測定しその平均を(A)値とする。次いで、熱処理後についても同様に測定しその平均を(B)値とし、以下の式により収縮率とした。熱処理は温度100℃、および125℃のオーブンで行い、その結果を測定した。
収縮率(%)=((A)−(B))/(A)×100
【0039】
実施例1
繊維断面における第2成分と第3成分の面積比率が50:50、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/2の繊維を用いた。繊維は図1のような断面を有しており、第1成分が、繊維長軸を直角する方向の断面において、繊維表面の33%を繊維長さ方向に連続して占めていた。オーブン100℃での収縮率測定において3%、オーブン125℃での収縮率測定で70%の収縮率であった。
この繊維をミニチュアカード機で、目付30g/mのウェブを作製し、加工温度100℃のエアスルー機にて不織布とした。次に加工温度125℃にてエアスルー加工をし、熱収縮処理を行った。
得られた不織布は、柔軟で高い強度と伸縮性を示した。
【0040】
実施例2
繊維断面における第2成分と第3成分の面積比率が40:60、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/3の繊維を用いた。繊維は図2のような断面を有しており、第1成分が、繊維長軸を直角する方向の断面において、繊維表面の20%を繊維長さ方向に連続して占めていた。オーブン100℃での収縮率測定において7%、オーブン125℃での収縮率測定で78%の収縮率であった。
この繊維をミニチュアカード機で、目付30g/mのウェブを作製し、加工温度100℃のエアスルー機にて不織布とした。次に加工温度125℃にてエアスルー加工をし、熱収縮処理を行った。
得られた不織布は、柔軟で高い伸縮性を示した。
【0041】
実施例3
繊維断面における第2成分と第3成分の面積比率が60:40、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/2の繊維を用いた。繊維は図3のような断面を有しており、第1成分が、繊維長軸を直角する方向の断面において、繊維表面の48%を繊維長さ方向に連続して占めていた。オーブン100℃での収縮率測定において1%、オーブン125℃での収縮率測定で68%の収縮率であった。
この繊維をミニチュアカード機で、目付30g/mのウェブを作製し、加工温度100℃のエアスルー機にて不織布とした。次に加工温度125℃にてエアスルー加工をし、熱収縮処理を行った。
得られた不織布は、柔軟で伸縮性を示した。
【0042】
比較例1
第2成分と第3成分がサイド・バイ・サイド(並列)に配置され、繊維断面におけるそれらの面積比率が50:50、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/3で外周を取り巻く図6に示す繊維を用いた。オーブン100℃での収縮率測定において0%、オーブン125℃での収縮率測定で40%の収縮率であった。
この繊維をミニチュアカード機で、目付30g/mのウェブを作製し、加工温度100℃のエアスルー機にて不織布とし、次に加工温度125℃にてエアスルー加工をし、熱収縮処理を行ったが、収縮が小さく得られた不織布の伸縮性が低いものとなった。
【0043】
比較例2
第2成分と第3成分がサイド・バイ・サイドに配置され、繊維断面におけるそれらの面積比率が50:50、第2成分と第3成分の合計面積に対する第1成分の面積の割合が1/3で外周を取り巻く偏心構造(図7)の繊維を用いた。オーブン100℃での収縮率測定において30%、オーブン125℃での収縮率測定で50%の収縮率であった。
この繊維をミニチュアカード機で、目付30g/mのウェブを作製し、加工温度100℃のエアスルー機にて不織布としたところ、不織布に収縮による地合不良が目立った。次に加工温度125℃にてエアスルー加工をし、熱収縮処理を行ったが先の地合不良のため均一に収縮されず不織布に粗密が見られた。その為、得られた不織布は伸縮性が低いものであった。
【0044】
以上の実施例および比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の効果は、高い収縮性と接着性を与えることができ、更に不織布加工後には潜在捲縮の発現により、嵩高性、高い不織布強度、及び、優れた伸縮性を有する不織布が得られることから、例えば、ハップ剤基布、オムツの伸縮素材、シュリンク不織布などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分、第2成分および第3成分の3種類の樹脂成分を用いて得られた複合繊維であって、第1成分は溶融または軟化によって熱接着性を有する樹脂成分であり、その融点または軟化点は、他の2成分の融点または軟化点よりも低く、第2成分は非熱収縮性であるかまたは第3成分よりも熱収縮性が低い樹脂成分であり、第3成分は熱収縮性の樹脂成分であり、当該各成分が繊維長軸に対して直角な繊維断面においてそれぞれ独立に存在しており、第2成分を中心に第1成分と第3成分が並列に配置されており、少なくとも第1成分が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めており、かつ少なくとも第3成分の一部が繊維表面の一部を繊維長さ方向に連続して占めている熱融着性複合繊維。
【請求項2】
第1成分が低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、及び、熱可塑性エラストマーから選ばれた少なくとも1種を含む樹脂成分であり、第2成分が結晶性ポリプロピレンを含む樹脂成分であり、第3成分がプロピレン系共重合体を含む樹脂成分である、請求項1に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項3】
第1成分が繊維表面の30〜80%を繊維長さ方向に連続して占めている、請求項1または2記載の熱融着性複合繊維。
【請求項4】
第1成分の融点が70℃以上125℃以下、第3成分の融点が120℃以上147℃以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱融着性複合繊維。
【請求項5】
第1成分が、メタロセン系触媒により重合されたL−LDPEを含み、第3成分に含まれるプロピレン系共重合体が、エチレン含有量4〜10重量%、プロピレン含有量90〜96重量%のエチレン−プロピレン2元共重合体である、請求項2〜4のいずれか1項記載の熱融着性複合繊維。
【請求項6】
第3成分に含まれるプロピレン系共重合体が、エチレン含有量1〜7重量%、プロピレン含有量90〜98重量%、1−ブテン含有量1〜5重量%のエチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合である請求項2〜4のいずれか1項記載の熱融着性複合繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の熱融着性複合繊維を用いて得られた不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251254(P2012−251254A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123684(P2011−123684)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(399120660)JNCファイバーズ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】