説明

熱転写シート

【課題】 熱転写シートから転写して形成される受像シートで、ニオイ発生の持続時間を延ばし、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更できる熱転写シートを提供することを目的とする。
【解決手段】 基材2の少なくとも一方の面に、離型層3、剥離層4、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子を含有した転写層5を順に設け、前記剥離層4が親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有したことを特徴とする熱転写シートの構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関し、特に基材上に、少なくとも離型層、剥離層、転写層を順に設けた熱転写シートで、その熱転写シートを用いて転写された印画物(受像シート)が、臭気を発生するものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニオイ(香り)は、大別すると、2種類に分類でき、一つは心地良いと感じられるニオイで、例えば花や香水のようなニオイであり、もう一つは不快と感じるニオイ(香り)である。また、そのニオイ(香り)を感じる対象が、人間だけではなく、動物も対象となるものである。
【0003】
このように私たちの周りには、香りが多く存在している。例えば、特許文献1には、視覚的に表現された触感を有する印刷物を、使用者が指で触れることにより、自発的に香りを発する印刷物として、香料マイクロカプセルを練り込んだインキを用いた層を表面に露出させたものが開示されている。この印刷物は、木材柄の絵柄上にヒノキの香りを発生させたり、畳柄の絵柄上にイグサの香りを発生させたり、皮革柄の絵柄上にレザーの香りを発生させた化粧材などが例示されている。
【0004】
また、特許文献2には、昇華型熱転写受像シートにおいて、受容層上に、マイクロカプセル化した香料の芳香成分を含有する印刷層を設けることが記載されている。この熱転写受像シートは、転写圧により、また手で圧力を加えることにより、マイクロカプセルから花や果物などの芳香が発散することが示されている。
【0005】
また、特許文献3には、カプサイシンのような動物用忌避剤をマイクロカプセルに内包したものを、配合した液体を粉体に吸油させた忌避粉剤として散粉したり、そのマイクロカプセルを混合した乳剤や塗料を噴霧、塗布したり、また、そのマイクロカプセルを配合した乳化液を不織布テープに浸漬塗布させて、忌避テープとして利用することが開示されている。
【0006】
しかし、上記のいずれにおいても、ニオイを発する臭気発生物質が表面に存在し、ニオイを発生しやすい状態にはあるが、マイクロカプセル化した香料が破壊されて、瞬く間にニオイが発生し、そのニオイの持続する時間が短い問題がある。また、臭気発生する部分、あるいは臭気発生の強度を適宜変更させるような使用時の選択性を高くすることが困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開2005−186389号公報
【特許文献2】特開2002−187368号公報
【特許文献3】特開平7−76502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は上記のような問題点を解決し、熱転写シートから転写して形成される受像シートで、ニオイ発生の持続時間を延ばし、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更できる熱転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の状況を鑑み、鋭意研究開発を進め、本発明の請求項1は、基材の少なくとも一方の面に、離型層、剥離層、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子を含有した転写層を順に設け、前記剥離層が親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有したことを特徴とする熱転写シートの構成である。これにより、上記課題を解決することができた。
【0009】
本発明の請求項2の熱転写シートは、請求項1に記載する剥離層の親水性樹脂が、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする構成である。これにより、熱転写シートから熱転写された受像シートにおいて、転写部に水分を供給し、擦るなどして、そのマイクロカプセルの殻又は多孔質微粒子の被覆物質を破壊しやすく、簡単に臭気を発生させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成の熱転写シートは、その熱転写シートから剥離層、転写層が転写された受像シートで、ニオイ発生の持続時間が従来よりも延び、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更でき、非常に実用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の熱転写シートの一つの実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の熱転写シートの転写部が転写して得られた受像シートの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態について、詳述する。
図1は、本発明の熱転写シート1の一つの実施形態を示す概略図であり、基材2上に、離型層3、剥離層4、転写層5を設けた構成である。この熱転写シート1は、加熱及び加圧されて、剥離層4及び転写層5の転写部6が、離型層3から剥離して、被転写体上に、転写する。転写層5は、臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した層であり、剥離層4は親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有したものである。
【0013】
図1に図示したものに限らず、熱転写シートの転写層の上に、接着層を設けて、被転写体上に転写される転写部と、被転写体との接着性を高めることができる。また、熱転写シートの形態で、臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した転写層が表面に露出せずに、接着層で被覆しておくことにより、転写して使用する前までは、ニオイを発生せずに、保管取扱いしやすいものである。また使用する直前まで密閉する必要が無く、作業性が良好である。また図示したものに限らずに、他の層を適宜加えることも可能である。
【0014】
図2は、図1に示した熱転写シートを使用して、その転写部6が被転写体7に転写されて得られた受像シート8を示す概略図である。被転写体7へ転写した転写層5は、臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した層であり、剥離層4と被転写体7との間に挟まれた形態である。剥離層4が親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有しているので、転写部に水分が供給されると、剥離層の親水性樹脂が溶解して、疎水性樹脂が疎らな状態で、残存し、転写層に含有する臭気成分を内包したマイクロカプセルが水により破壊して、上記の疎水性樹脂の隙間(親水性樹脂の溶解した部分)を通過して、臭気が少しずつ発生する。
【0015】
以下に、本発明の熱転写シートを構成する各層について、詳細に説明する。
(基材)
本発明の熱転写シートで用いられる基材2としては、離型層、剥離層、転写層を積層させ、保持できるものであれば、特に制限されない。好ましい基材の具体例としては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、セロハン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等のプラスチックフィルム、あるいはポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の生分解性プラスチックフィルム等があり、又、これらのいずれかを複合したものであってもよい。この基材の厚さは、その強度及び柔軟性が適切になるように材料に応じて適宜変更することが出来るが、10〜200μm程度が好ましい。
【0016】
(離型層)
基材上に設ける離型層3は、例えば、シリコーンワックス等の各種ワックス類もしくはシリコーンオイル、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル系樹脂(アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂の両者を含む意味で使用している)、水溶性樹脂、セルロース誘導体樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸系ビニル樹脂、アクリルビニルエーテル系樹脂、無水マレイン酸樹脂等の各種樹脂等やこれらの混合物から形成することができる。
【0017】
上記のような離型層を構成する成分の塗布液を、従来公知のグラビアコート、グラビアリバースコート等の方法で塗布、乾燥することにより形成でき、塗膜の厚さは乾燥固形分で0.01〜2g/m2程度で充分である。
【0018】
(剥離層)
剥離層4は、親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有した層である。すなわち、親水性樹脂と疎水性樹脂を混合し、その相溶性を調整して、親水性樹脂と疎水性樹脂が海島構造を形成する。その親水性樹脂は、本発明では水が供給されれば、吸水して溶解する樹脂であり、水溶性の材料が挙げられる。この親水性樹脂の領域が、水により溶解し、外に流れ出る、あるいは擦られて分離して、剥離層に空隙が生じ、転写層に含有する臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子からのニオイ発生をスムーズに起こすことができる。
【0019】
上記親水性樹脂としては、例えば、寒天やアルギン酸ソーダ等の海草抽出物、アラビアゴムやトロロアオイ等の植物粘物質、カゼインやゼラチン等の動物性蛋白、プルランやデキストラン等の発酵粘物質、デンプン及びデンプン質、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、ポリビニルピロリドンやアルキルビニルエーテル,ポリマレイン酸共重合体,水溶性ポリエステル,ポリビニルアルコール等の合成高分子、ポリリン酸ソーダ等の無機高分子等が挙げられる。特に、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリエステル、ポリビニルアルコールが剥離性及び水溶解性が高く好ましい。疎水性樹脂と混合し、海島構造の膜を形成させるため、上記親水性樹脂は、水に分散させたエマルジョン、ラテックス、あるいは水溶液として、同じくエマルジョン、ラテックス等の疎水性樹脂と、混合させた塗工液を印刷して、剥離層を形成することが好ましい。
【0020】
上記のポリビニルピロリドンとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等のビニルピロリドンの単独重合体(ホモポリマー)またはこれらの共重合体が挙げられる。本発明で使用するビニルピロリドン樹脂は、フィッケンチャーの公式におけるK値が、15以上のものが、水溶解性が高く、水供給による剥離層の空隙を作りやすく、好ましい。特にK値が15〜120のグレードが好ましく使用できる。K値の好ましい範囲を重量平均分子量に換算すると、10,000〜280,000程度である。
【0021】
上記疎水性樹脂は、例えば、ビニルポリマー系ラテックス、共役ジエンポリマー系ラテックス、アクリル系ラテックス、水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散エポキシ樹脂等が挙げられる。
本発明では疎水性樹脂として市販の材料を使用することが出来るが、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス150、スーパーフレックス210、スーパーフレックス870を好ましく用いる事ができる。
上記の親水性樹脂の水溶液等と、疎水性樹脂のエマルジョン、ラテックス等を混合した塗工液を、従来公知のグラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により、塗布し、乾燥して、形成することができる。剥離層の厚みは、乾燥状態で0.01〜5g/m2程度である。
【0022】
上記の海島構造は、上述した方法以外にも従来公知の手法によって形成できるが、例えば、以下の方法で形成することができる。
まず、親水性樹脂溶液を海(又は島)に相当するパターン状に塗布形成し、乾燥する。次に、疎水性樹脂溶液を島(又は海)に相当するパターン状に塗布形成し、乾燥する。これによって、疎水性樹脂と親水性樹脂からなる海島構造を形成できる。
なお本発明においては、剥離層を親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有するものにできれば、いずれの方法で形成してもよく、上述した方法に限定されるものではない。
【0023】
また、本発明においては、親水性樹脂部分(例えば、海部分)と疎水性樹脂部分(例えば、島部分)の面積の割合を調整することによって、被転写体に転写された後に転写層から放出される臭いの強さを調整する事ができる。
例えば、親水性樹脂部分の面積の割合を多くすると、転写層から放出される臭いを強める事ができる。逆に、疎水性樹脂部分の面積の割合を多くすると、転写層から放出される臭いを弱める事ができる。
【0024】
(転写層)
本発明の熱転写シートにおける転写層5は、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子を含有した層であり、被転写体に熱転写シートから転写部を転写させた箇所を識別しやすくするために、着色剤を添加させることが好ましい。臭気成分(香料)を内包したマイクロカプセルは、揮散して臭気を発する化合物である香料を、従来公知のマイクロカプセル製造方法を適宜選択して、マイクロカプセル化して製造することができる。例えば、芯物質(香料)及び水に不溶性の高分子膜を界面重合法により、マイクロカプセル化することができる。また、マイクロカプセルの殻を形成する溶質を溶解した溶液に芯物質(香料)を懸濁し、次いで噴霧乾燥させるスプレードライ法により、マイクロカプセル化した香料を製造することができる。
【0025】
また、臭気成分を内包した多孔質微粒子は、臭気成分(香料など)を無機物質または有機物質からなる多孔質微粒子内に内包させたものが挙げられる。多孔質微粒子が無機物質の場合は、例えば炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、アパタイトなどのリン酸塩、金属酸化物として二酸化ケイ素、アルミナなどを、使用することができる。また多孔質微粒子が有機物質の場合は、例えばポリエチレン、ポリウレタン、セルロース、ポリアミド、ポリビニルホルマール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂および天然繊維物質などを使用することができる
【0026】
上記の臭気成分を内包した多孔質微粒子は、該微粒子の表面を硬化性化合物又は高分子化合物で被覆することで、臭気成分を保持させる。その多孔質微粒子を被覆する物質は、臭気成分を相溶させる物質であり、臭気成分の保護と拡散防止の効果をもち、加圧力や加水等の外部要因を受けると、破壊して臭気成分の放出を行なう物質である。上記の硬化性化合物又は高分子化合物として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、有機珪素化合物、天然有機高分子化合物などが挙げることができる。上記の天然有機高分子化合物は、例えばセルロースおよびセルロース誘導体、タンパク質、などであって、ゼラチン、アラビアゴム、シェラック、蝋、パラフィンワックス、セレシンワックスなどを挙げることができる。
【0027】
また、臭気成分は、その種類は特に限定されるものではない。例えば、人に快感を与えるものを香料として用いることができる。この香料の場合は、動物性香料、あるいは植物性香料の天然香料や、合成香料が挙げられる。合成香料としては、例えば、アルコール類、フェノール類の水酸化合物及びそれらの誘導体、アルデヒド類、ケトン類のカルボニル化合物などが挙げられる。これらの香料を単独で用いる、あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
また農作物を食い荒らすネズミ、ノウサギやイノシシなどの有害動物の忌避剤を、本発明の香料として利用することができる。例えば、不飽和アルコール及びアルデヒド、グアサジン、カプサイシンなどが、有害動物の忌避剤として、使用することができる。
【0029】
上記の臭気成分を内包したマイクロカプセルの場合は、臭気成分をマイクロカプセルの殻内に封じ込めて、マイクロカプセル化したもので、その臭気成分を内包したマイクロカプセル又は、上記に説明した臭気成分を内包した多孔質微粒子とバインダー及び、必要に応じて着色剤等の添加剤を加えて、転写層を形成する。そのバインダー(結合剤)は、マイクロカプセルまたは多孔質微粒子を均一に分散し、保持するもので、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。本発明の熱転写シートの転写部が転写されて形成された受像シートの表面の剥離層は、親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造で構成されているので、その剥離層が水と接触することで、親水性樹脂が溶解して、転写層の臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子が露出し、表面が擦られる等して、そのマイクロカプセルの殻又は多孔質微粒子の被覆物質が破壊され、ニオイが発生する。その際にマイクロカプセル又は多孔質微粒子を転写層で保持するバインダーは耐水性を有することが好ましく、つまり疎水性を有する熱可塑性樹脂をバインダーとして用いることが望ましい。
【0030】
その熱可塑性樹脂として、例えば、ウレタン樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル− 酢酸ビニル系共重合体、エチレン− 酢酸ビニル共重合体もしくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂など、又は、これらをディスパージョン化、若しくはエマルジョン化した樹脂、が挙げられる。本発明では、転写層のバインダーとして、ウレタン樹脂が好ましく用いる。それは、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子がウレタン樹脂のバインダー中に、均一に分散して、より耐水性が高く、ニオイ発生の機能をより持続的に発揮することができるからである。
【0031】
上記のウレタン樹脂は、ポリオール成分として、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールとイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート等の脂肪族ないし脂環式イソシアネート等のイソシアネートとを反応させてなるウレタン樹脂(線状に架橋したもの、あるいは、網目状に架橋したもののいずれであってもよい)を挙げることができる。
【0032】
転写層の形成は、上記のような臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子と、熱可塑性樹脂などのバインダー成分と、さらに、これに有機溶剤等の溶媒成分を配合調整した転写層形成用塗工液を、従来公知のグラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ナイフコート、エアコート、ロールコート等の方法により、基材上に、乾燥状態で塗布量が2〜20g/m2程度で、形成することができる。
【0033】
(接着層)
本発明の熱転写シートの転写層の上に、接着層を設けることで、被転写体上に、転写される転写部と被転写体との密着性を向上させることができる。また、接着層は熱転写シートの最表面層に位置し、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子を含有した転写層が露出しないように、保護しているので、熱転写シートの保管や取扱いで、ニオイ発生を防止するための包装する手間もなく、好ましい。接着層は、接着性を有する材料から形成することが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、アイオノマー樹脂等を主成分とする従来既知の接着剤が広く使用できる。接着層は、上記の転写層の形成方法と同様の方法により形成でき、乾燥状態で塗布量が1〜20g/m2程度で、形成することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、部または%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
(実施例1)
基材2して、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製、ルミラー)の一方の面に、下記組成の離型層塗工液をグラビア印刷により、乾燥時の塗布量が1.0g/m2になるように塗布し、乾燥して離型層3を形成し、その離型層の上に、下記組成の剥離層塗工液1をグラビア印刷により、海に相当するパターン状に、乾燥時の塗布量が2.0g/m2になるように塗布し、乾燥し、さらに、下記組成の剥離層塗工液2をグラビア印刷により、島に相当するパターン状に、乾燥時の塗布量が2.0g/m2になるように塗布、乾燥して剥離層4を形成した。
ここで、『海に相当するパターン』とは、剥離層の塗布領域の50%に相当する面積を占めるランダムパターンである。また、『島に相当するパターン』とは、剥離層の塗布領域のうち、『海に相当するパターン』以外の領域を占めるパターンである。
【0035】
(離型層塗工液の組成)
シリコーン変性アクリル系樹脂(セルトップ226、ダイセル化学工業(株)製、固形分50%) 93部
硬化剤(セルトップCAT−A、ダイセル化学工業(株)製、固形分10%)3.5部
シリコーンオイル(KF−355A、信越化学工業(株)製) 3部
メチルエチルケトン 75部
トルエン 75部
【0036】
(剥離層塗工液1の組成)
ポリビニルピロリドン(PVP−K15、ISPジャパン(株)製、K値=15)
50部
水 100部
イソプロピルアルコール 100部
【0037】
(剥離層塗工液2の組成)
水分散ポリウレタン(スーパーフレックス150、第一工業製薬(株)製) 50部
水 100部
【0038】
上記の剥離層の上に、転写層用塗工液1をグラビア印刷により、乾燥時の塗布量が7.0g/m2になるように塗布し、乾燥して転写層5を形成して、実施例1の熱転写シートを作製した。
(転写層用塗工液1の組成)
ウレタン樹脂(N−5199、日本ポリウレタン工業(株)製) 25部
カプサイシンの香料をマイクロカプセル化したもの 25部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
【0039】
(実施例2)
実施例1で作製した熱転写シートの作製条件で、転写層用塗工液1を下記組成のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の熱転写シートを作製した。
(転写層用塗工液2の組成)
ウレタン樹脂(N−5199、日本ポリウレタン工業(株)製) 25部
臭気成分を内包した多孔質微粒子*1 25部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
*1;平均粒径4μm、比表面積300m2/gの多孔質シリカに、食品香料(バニラエッセンス)のアルコール溶液を、真空チャンバー内で、充分に浸透させ、アルコールを蒸発させた後に、ガラス転移温度(Tg)100℃のアクリル樹脂30部をメチルエチルケトン100部に溶解した液を真空チャンバーに投入し、減圧下で攪拌しながら浸透させた。次に、再び真空チャンバー内を加熱しながら減圧し、メチルエチルケトンを蒸発分離させてアクリル樹脂を被覆物質とする臭気成分(バニラエッセンス)を内包した多孔質微粒子を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例2で作製した熱転写シートで、転写層の上に、下記組成の接着層塗工液を用いて、グラビア印刷により、乾燥時の塗布量が1.5g/m2になるように塗布し、乾燥して接着層を形成して、実施例3の熱転写シートを作製した。
(接着層用塗工液の組成)
ポリエステル樹脂(バイロン700、数平均分子量9000) 50部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
【0041】
(比較例1)
実施例1で作製した熱転写シートの作製条件で、剥離層を設けない条件にして、その他は、実施例1と同様にして、比較例1の熱転写シートを作製した。
【0042】
上記の実施例及び比較例で得られた熱転写シートを用いて、下記転写条件にて被転写体上に転写部を転写した。
<転写条件>
プリンタ;テストプリンタ
TPH;京セラ(株)製 KEE−5712GAN2−STA
印画条件;3.0msec/line,18.5V
被転写体;PVCカード
印画パターン;階調パターン(255/225/200/175/150)
【0043】
以下に示す方法により、ニオイ発生状況の評価を行なった。
(浸水後のニオイ発生状況の評価)
実施例1〜3及び比較例1で作製した熱転写シートの転写部を転写して得られた受像シートを水中に1分間、受像シート全部が水中に入るように、浸して、その後自然乾燥をさせて、乾燥後、その受像シートの剥離層側を、爪で数回引っ掻き、臭気の発生の程度を評価した。
【0044】
上記の臭気の発生の評価の基準は以下の通りである。
○:臭気の発生の持続時間が長く、また転写部の大きさや位置を適宜調整でき、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更でき、非常に実用的であった。
×:臭気の発生の持続時間が短く、瞬く間にニオイの発生がなくなってしまい、実用上問題であった。
【0045】
また、実施例3で作製した熱転写シートは、実施例1、2及び比較例1の熱転写シートと比べ、表面層として接着層を有しているので、熱転写シートの保管や取扱い中に、ニオイ発生を感じるレベルではなく、取扱い性に優れたものであった。
上記の実施例1〜3及び比較例1のニオイ発生状況の評価結果を、表1に示す。
【表1】

【符号の説明】
【0046】
1 熱転写シート
2 基材
3 離型層
4 剥離層
5 転写層
6 転写部
7 被転写体
8 受像シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に、離型層、剥離層、臭気成分を内包したマイクロカプセル又は多孔質微粒子を含有した転写層を順に設け、前記剥離層が親水性樹脂と疎水性樹脂からなる海島構造を有したことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記の剥離層の親水性樹脂が、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1に記載する熱転写シート。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75386(P2013−75386A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215620(P2011−215620)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】