説明

熱転写ラミネートフィルム、熱転写シート及び画像形成装置

【課題】非転写性離型層と画像保護層とが容易に剥離する熱転写ラミネートフィルム、熱転写シート及びこれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】熱転写ラミネートフィルム10は、基材フィルム11と、非転写性離型層12と、画像保護層13とを具備する。上記非転写性離型層は、上記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む。上記画像保護層は、上記非転写性離型層に設置され、上記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱転写ラミネートフィルム、熱転写シート及びこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印画紙に形成された画像、例えば、昇華性あるいは熱拡散性染料を使用した昇華型熱転写方式により形成された画像には、その画像保護のために熱可塑性樹脂からなる熱転写性画像保護層をラミネートすることがなされている。
【0003】
熱転写性画像保護層のラミネート方法については、熱ローラを用いてインク画像上に熱圧着する方法が知られている。また、基材フィルムとその基材フィルム上に形成された熱可塑性樹脂からなる熱転写性画像保護層とを有する画像ラミネートフィルムを構成し、サーマルヘッド等を用いて加熱した部分の熱転写性画像保護層のみを画像上に転写することができるようにしたもの、すなわち、熱転写ラミネートフィルムを使用する方法が知られている(例えば特許文献1、2、3参照)。
【0004】
上記のように形成された画像に熱転写性画像保護層をラミネートすることにより、例えば、画像の保存安定性を向上させることが期待できる。
【0005】
さらに、基材フィルムと画像保護層との間に非転写性離型層を設置することがある。非転写性離型層は、基材フィルムと画像保護層との熱転写時の剥離性を高めるために設置される。すなわち隣接する画像保護層を、サーマルヘッドの熱エネルギーによりインク画像上に転写する際に、画像保護層−非転写性離型層の界面にて確実に剥離させ、画像保護層側のみを印画紙上に転写することである。
【0006】
例えば特許文献4では、非転写性離型層にフッ素変性アクリル樹脂のアイオノマーを使用することによって、非転写性離型層と基材フィルムとの接着性を高め、画像保護層の良好な剥離性を得るという試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−147390号公報
【特許文献2】特開昭60−23096号公報
【特許文献3】特開昭60−204397号公報
【特許文献4】特開2000−108526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、非転写性離型層と画像保護層とが容易に剥離し、安定的な熱転写が可能な熱転写ラミネートフィルム、熱転写シート及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る熱転写ラミネートフィルムは、基材フィルムと、非転写性離型層と、画像保護層とを具備する。
上記非転写性離型層は、上記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む。
上記画像保護層は、上記非転写性離型層に設置され、上記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む。
【0010】
上記熱転写ラミネートフィルムにおいては、熱転写方式によって画像を形成する際、画像保護層が熱転写ラミネートフィルムから容易に剥離することができる。これによって、画像保護層が形成された画像上に転写され、例えば、画像の保存性を向上させることができる。
【0011】
上記熱転写ラミネートフィルムは、上記画像保護層に設置された接着層をさらに具備してもよい。
これにより、画像保護層が剥離する際、容易に被記録媒体側に接着できる。
【0012】
上記第1のI/O値と前記第2のI/O値との差の絶対値は、0.75より小さくしてもよい。このような熱転写ラミネートフィルムは、非転写性離型層と画像保護層とが適度な接着性を有するため、取り回し性にも優れている。
【0013】
本技術の一形態に係る熱転写シートは、基材フィルムと、非転写性離型層と、画像保護層と、インク層とを具備する。
上記非転写性離型層は、上記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む。
上記画像保護層は、上記非転写性離型層に設置され、上記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む。
【0014】
本発明の一形態に係る画像形成装置は、搬送機構と、熱転写シートと、走行機構と、熱転写ヘッドとを具備する。
上記搬送機構は、被記録媒体を所定方向に搬送する。
上記熱転写シートは、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む非転写性離型層と、上記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む画像保護層と、前記被記録媒体の表面に熱転写して画像を形成するインク層とを有する。
上記走行機構は、上記熱転写シートを走行させる。
上記熱転写ヘッドは、上記被記録媒体の表面に上記熱転写シートの上記インク層または上記画像保護層及び上記接着層を熱転写させる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本技術によれば、熱転写方式によって画像を形成する際、画像保護層と非転写保護層とが容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本技術の第1の実施形態に係る熱転写ラミネートフィルムの構成を示す部分断面図である。
【図2】本技術の一実施形態に係る熱転写シートの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)における[B]−[B]線方向の断面図である。
【図3】本技術の一実施形態に係る画像形成装置の主要部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る熱転写ラミネートフィルムの一構成例を示す概略断面図である。
【0019】
本実施形態の熱転写ラミネートフィルム10は、基材フィルム11と、非転写性離型層12と、画像保護層13とを有する。基材フィルム11と非転写性離型層12との間には、プライマー層16が設置されており、画像保護層13上には、接着層14が設置されている。すなわち、基材フィルム11上には、プライマー層16、非転写性離型層12、画像保護層13及び接着層14がこの順に積層されている。また、基材フィルム11のこれらが設置された面と反対側の面には、耐熱滑性層15が設置されている。なお、プライマー層16、接着層14及び耐熱滑性層15の設置は、必要に応じて省略されてもよい。
【0020】
(基材フィルム)
基材フィルム11は、例えば透明なプラスチックフィルムで構成される。基材フィルム11は、特に制限されないが、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの汎用プラスチックフィルム、およびポリイミドフィルムのようなスーパーエンジニアリングプラスチックフィルムにより構成されている。このような材料は、積層された各層を保持できるとともに、熱転写時に付加される熱に対しても十分な耐性を持つ。また、基材フィルム11の形成方法として、典型的には、二軸延伸、縦延伸などの延伸処理方法が採用され、厚みは、十分な耐熱性、機械的強度等を有していれば、特に制限されない。
【0021】
(プライマー層)
プライマー層16は、基材フィルム11の表面に形成される。プライマー層16は、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂から構成されるが、特に限定されず、基材フィルム11及び非転写性離型層12のそれぞれの樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。なお、プライマー層16は、基材フィルム11と非転写性離型層12との密着性を高めるためのものであるため、基材フィルム11と非転写性離型層12とが十分な接着性を有する場合には、省略されてもよい。
【0022】
プライマー層16は、典型的には、基材フィルム11の延伸処理前に数μmの厚みで形成される。その後、基材フィルム11を例えば2軸延伸処理することによって、均一な厚みのプライマー層16を形成することができる。プライマー層16の厚みは特に限定されないが、例えば1μm以下で、均一であればよい。
【0023】
(非転写性離型層)
非転写性離型層12は、プライマー層16の上に形成される。非転写性離型層12は、例えば、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、それらの共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、及びセルロース誘導体などの熱可塑性樹脂(第1の熱可塑性樹脂)により構成される。
【0024】
第1の熱可塑性樹脂は、第1のI/O値を示す。ここで、熱可塑性樹脂が示すI/O値については、「有機概念図−基礎と応用(甲田善生著、三共出版(株)、昭和59年発行)」などに詳細な説明がある。熱可塑性樹脂を構成する単量体の分子構造を考え、各単量体が有する官能基の性質を、イオン結合性を表す無機性度(I値)と、共有結合性を表す有機性度(O値)とに分け、さらに、それらの比を取ることで、熱可塑性樹脂が示すI/O値を算出する。
【0025】
前記無機性度(I値)とは、有機化合物が有している種々の置換基や結合などの沸点への影響力の大小を、水酸基を基準に数値化したものである。具体的には、直鎖アルコールの沸点曲線と直鎖パラフィンの沸点曲線との距離を炭素数5の付近で取ると約100℃となるので、水酸基1個の影響力を数値で100と定め、この数値に基づいて各種置換基あるいは各種結合などの沸点への影響力を数値化したものが、有機化合物が有している置換基の無機性度(I値)となる。例えば、−COOH基の無機性度は150であり、二重結合の無機性度は2である。従って、ある種類の有機化合物が示すI値とは、化合物が有している各種置換基や結合などの無機性度(I値)の総和を意味している。
【0026】
また、前記有機性度(O値)とは、分子内のメチレン基を単位とし、そのメチレン基を代表する炭素原子の沸点への影響力を基準にして定めたものである。すなわち、直鎖飽和炭化水素化合物の炭素数5〜10付近で炭素1個が加わることによる沸点上昇の平均値は20℃であるから、これを基準に炭素原子1個の有機性度(O値)を20と定め、これを基礎として各種置換基や結合などの沸点への影響力を数値化したものが有機性度(O値)となる。例えば、ニトロ基(−NO2)の有機性度(O値)は70である。I/O値は、0に近いほど極性が小さい(疎水性、有機性が高い)化合物であることを示し、値が大きくなるほど極性が大きい(親水性、無機性が高い)化合物であることを示している。
【0027】
非転写性離型層12を形成する方法としては、グラビアコーティング、グラビアリバースコーティング、ロールコーティングなど、その他様々な形成方法で上記樹脂を含む塗工液を塗工および乾燥する方法が挙げられる。また、非転写性離型層12の厚みは特に限定されず、例えば乾燥膜厚が1.0μmであれば十分な耐熱性が得られ、その機能も損なわれない。
【0028】
(画像保護層)
画像保護層13は、非転写性離型層12の表面に形成され、熱転写方式によって画像を形成する際、非転写性離型層12から剥離し、形成された画像上に転写される。画像保護層13は、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂(第2の熱可塑性樹脂)により構成される。
【0029】
第2の熱可塑性樹脂は、第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きい第2のI/O値を示せば、特に限定されない。第1のI/O値と第2のI/O値との差が大きいほど、非転写性離型層12と画像保護層13との親和性が低くなり、これら各層の層間での剥離が容易となる。これによって、画像保護層13と非転写性離型層12とが熱転写時に優れた剥離性を有し、形成された画像表面の品位を損なうことなく画像保護層を熱転写することができる。
【0030】
さらに本実施形態では、第1のI/O値と第2のI/O値の差の絶対値が0.75より小さくなるように第1及び第2の熱可塑性樹脂が選定される。このような熱可塑性樹脂の組み合わせであれば、熱転写ラミネートフィルム10の表層に対して外的な力が加わった場合であっても、非転写性離型層12と画像保護層13との間で容易に剥離することがなく、取り回し上の不具合の発生を防ぐことができる。
【0031】
また、画像保護層13は、紫外線吸収剤を含んでもよい。使用できる紫外線吸収剤として、例えば、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、シュウ酸アニリド誘導体などが挙げられる。これによって耐光性を向上させることができる。
【0032】
画像保護層13は、形成された画像上に熱転写され、例えば、画像の保存性を向上させる。その他にも、第2の熱可塑性樹脂によっては、形成された画像に対して様々な機能を付与できる。例えば、耐ガス性、耐光堅牢性、耐可塑剤性、耐摩耗性、耐皮脂性及び筆記・捺印性の付与、並びに印刷物表面へのマット調などの機能を付与できる。また、熱転写時のエネルギーを不均一に変化させることにより絹目調等の所望の表面形態の形成が可能である。
【0033】
画像保護層13を形成する方法としては、グラビアコーティング、グラビアリバースコーティング、ロールコーティングなど、その他様々な形成方法で上記樹脂を含む塗工液を塗工および乾燥する方法が挙げられる。本技術においては、画像保護層にまた、画像保護層13の厚みは特に限定されず、例えば乾燥膜厚が1.0μmであれば十分な耐熱性が得られ、その機能も損なわれない。
【0034】
(接着層)
接着層14は、画像保護層13の表面に形成される。接着層14は、例えば、ポリエステル系、アクリル系、セルロース系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ウレタン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂などから形成されるが、画像保護層13を容易に被記録媒体側に接着させることができれば特に制限されない。
【0035】
画像保護層13上に接着層14を形成する方法としては、グラビアコーティング、グラビアリバースコーティング、ロールコーティングなど、その他様々な形成方法で上記樹脂を含む塗工液を塗工および乾燥する方法が挙げられる。また、厚みは特に限定されず、例えば、塗工膜厚が0.1〜10μmの範囲で任意に設定可能である。
【0036】
(耐熱滑性層)
耐熱滑性層15は、基材フィルム11の裏面に形成される。耐熱滑性層15は、熱転写ヘッド(図示せず)と基材フィルム11がスティッキングあるいは融着することなく、走行可能とするために設置する。なお、基材フィルム11の耐熱性やスリップ性が良好である場合には、特に設けなくてもよい。また、耐熱滑性層15を構成する材料としては、耐熱性が高く、熱転写ヘッドとの間の摩擦係数が加熱時、非加熱時とに依らず、ほとんど一定に保つことができるような材料であれば特に限定されず、例えば、酢酸セルロース、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などを用いることができる。
【0037】
以上のように構成される本実施形態の熱転写ラミネートフィルム10においては、非転写性離型層12、画像保護層13それぞれを構成する熱可塑性樹脂のI/O値の差の絶対値が0.40より大きい。よって、熱転写によって画像を形成する際に、画像保護層13が非転写性離型層12から容易に剥離することができる。加えて、これらのI/O値の差の絶対値が0.75より小さければ、外的な力に対して画像保護層13の剥離に対して十分な耐性を有し、取り回し性を向上させることができる。
【0038】
<第2の実施形態>
以上のように構成される熱転写ラミネートフィルムは、例えばインクリボン等の熱転写シートに使用することができる。以下、上述した熱転写ラミネートフィルム10の構成を有する熱転写シートについて説明する。
【0039】
[熱転写シート]
図2は、本技術の一実施形態に係る熱転写シートを示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は(a)における[B]−[B]線方向の断面図である。熱転写シート30は、基材フィルム11と、基材フィルム11上に設置された非転写性離型層12と、画像保護層13と、インク層31とを有する。
【0040】
熱転写シート30は、基材フィルム11の第1面S1側に、プライマー層16を介し、その搬送方向に沿ってイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各インク層31(31Y、31M、31C)が形成されている。また、上記基材フィルム11の第1面S1側に、プライマー層16を介して、非転写性離型層12と、画像保護層13と、接着層14とがこの順に積層されている。基材フィルム11の裏面(第2面S2)側には、熱転写ヘッドとインクリボンとの摩擦を下げ、熱転写シート30の安定した走行をさせるために、耐熱滑性層15が形成されている。なお、非転写性離型層12、画像保護層13及び接着層14と、これらが設置された基材フィルム11、プライマー層16及び耐熱滑性層15の一部は、図1を参照して説明した熱転写ラミネートフィルム10を形成する。
【0041】
なお、基材フィルム11と非転写性離型層12とが十分な接着性を有する場合には、プライマー層16を設置しなくてもよく、画像保護層13が形成された画像上へ容易に転写できる場合には、接着層14を設置しなくてもよい。また、基材フィルム11の耐熱性やスリップ性が良好である場合には、耐熱滑性層15を設置しなくてもよい。
【0042】
上記インク層31(31Y、31M、31C)、熱転写ラミネートフィルム10は、順次周期的に形成された構成となっており、上記熱転写ラミネートフィルム10は、上記インク層31(31Y、31M、31C)に続いて配置されている。また熱転写シート30では、各インク層31(31Y、31M、31C)の各端部と熱転写ラミネートフィルム10の近傍にセンサーマーク35が形成されている。
【0043】
各インク層31(31Y、31M、31C)は、典型的には昇華性染料からなる。また、バインダー樹脂として、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酪酸酢酸セルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンなどのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、または各種樹脂を含有することができる。
【0044】
各インク層31(31Y、31M、31C)の色素染料は、バインダー樹脂中に分散または溶解した状態で存在している。色素染料の材料は、特に限定されないが、具体的には以下のような材料が使用される。すなわち、イエロー染料として、例えば、アゾ系、ジスアゾ系、メチン系、スチリル系、ピリドン・アゾ系またはそれらの混合系が使用される。マゼンタ系染料として、例えば、アゾ系、アントラキノン系、スチリル系、複素環系アゾ染料またはそれらの混合系が使用される。シアン系染料として、例えば、アントラキノン系、ナフトキノン系、複素環アゾ染料、インドアニリン系またはそれらの混合系が使用される。なお典型的には、これらの色素染料は、複数種類混合して使用されることが多い。
【0045】
色素染料は、典型的には、各インク層31中より色素染料分子単位で熱拡散するような熱移行性を有するものが用いられる。色素染料に要求される特性としては、例えば、熱転写ヘッドの熱エネルギー範囲で、熱分解しないこと、合成が容易であること、画像保存性に優れていること(熱、光、温度、薬品に対して安定であること)、好ましい吸収波長帯を有すること、インク層31中にて再結晶化しにくいこと等が挙げられる。
【0046】
上記熱転写シート30を用いて画像形成装置(例えば熱転写プリンター)により熱転写印刷を行う場合には、プリンターの熱転写ヘッドにより、上記熱転写ラミネートフィルム10のうち、画像保護層13及び接着層14の部分をインク画像上に熱転写することにより所望の画像を得ることできる。すなわち、熱転写シート30上のインク層31が熱転写されて画像が形成された後に、熱転写シート30上の一部に形成された熱転写ラミネートフィルム10のうち、非転写性離型層12と画像保護層13との界面で剥離が起こり、画像保護層13およびその上に設けられた接着層14がインク画像上に熱転写される。
【0047】
本実施形態の熱転写シート30においては、非転写性離型層12、画像保護層13それぞれを構成する熱可塑性樹脂のI/O値の差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい。よって、熱転写によって画像を形成する際に、画像保護層13が非転写性離型層12から容易に剥離することができる。さらに、外的な力に対しては十分な耐性を有し、例えば、インクリボンの取り扱いの際に、熱転写ラミネートフィルム表面を誤って爪で引っかく等した際にも容易に剥離することがなく、取り回し上の不具合が発生するのを防ぐことができる。
【0048】
<第3の実施形態>
以上のように構成された熱転写シート30は、例えばプリンター等の画像形成装置に使用することができる。
[画像形成装置]
【0049】
図3は、本技術の一実施形態に係る画像形成装置50の主要部の概略構成図である。画像形成装置50は、搬送機構としてプラテン65と、熱転写シート30と、走行機構として供給リール61及び巻き取りリール62と、熱転写ヘッド51とを有する。供給リール61は熱転写シート30を供給し、巻き取りリール62は熱転写シート30を巻き取る。それとともに、ガイドローラ63、64は熱転写シート30を印刷位置に案内する。熱転写ヘッド51はガイドローラ63、64の間に設定される。また、プラテン65は、被記録媒体71(以下、受像シート71として説明する。)を回転させることで、熱転写ヘッド51に対応する印刷位置に搬送する。この受像シート71には、熱転写による印刷が可能な用紙、例えば印画紙が用いられる。
【0050】
上記構成の主要部の一例を、以下に説明する。
【0051】
供給リール61に巻かれた熱転写シート30は、ガイドローラ63、64によって支持された状態で、駆動モータ(図示せず)により回転駆動される巻き取りリール62に巻き取られる。供給リール61には、例えば、図示しないトルクリミッタが配置され、一定のトルクで熱転写シート30にバックテンションを与えている。また、巻き取りリール62には、例えば、図示しない光学センサにより構成される巻き取り検出用エンコーダが配置されている。
【0052】
熱転写シート30には、前述したように、例えば、一頁分の染料としてイエロー、マゼンタおよびシアンの色染料がそれぞれ所定の長さで塗布されている。また、熱転写シート30は各頁分の色染料の先頭位置に頁先頭マークおよび巻き径マークが塗布されているとともに、各色染料の先頭位置に各色を識別する色識別マークが塗布されている。上記各マークは、前述したセンサーマーク35(図2参照)に対応する。
【0053】
これにより画像形成装置50では、熱転写シート30の走行経路に設けられた光学センサ52がそれぞれ頁先頭マークおよび色識別マークを検出し、この検出結果に基づいて熱転写シート30の各染料の先頭部分の位置決めを行う。
【0054】
図示はしないが、上記熱転写ヘッド51は、回転軸によって回転自在に保持された加圧レバー53の一端に着脱自在に取り付けられている。加圧レバー53の他端はリンクを介してカム板に揺動自在に取り付けられている。これにより、熱転写ヘッド51は、ヘッド駆動モータによって上記カム板が回転駆動されることにより昇降され、上下方向に移動可能な中間位置、この中間位置から上昇してリボンから離間する初期位置、中間位置から下降して受像シート71に当接する最下位置に位置決めされている。これによって、熱転写ヘッド51は熱転写シート30を装填する際等には初期位置に移動し、プラテン65上に受像シート71が載置された際には最下位置に移動する。
【0055】
熱転写ヘッド51の昇降状態は、例えば、カム板の切り欠き部の近傍に設けられた光学センサによって検出される。熱転写ヘッド51は端面型で構成され、受像シート71の幅方向全体にわたって熱転写シート30を介して受像シート71に当接する。これにより受像シート71が矢印の方向に移動されると受像シート71の全面にわたって所望の画像が印刷されるようになっている。
【0056】
上記のような主要部を有する画像形成装置50を用いて、受像シート71に所望の画像を印刷する。
【0057】
次に、印画紙上への画像形成方法について説明する。
【0058】
画像形成装置50で使用される熱転写シート30には、巻き取り側(巻き取りリール62)から供給側(供給リール61)に向かって、例えば、図2によって説明したように、イエローインクのインク層31Y、マゼンタインクのインク層31M、シアンインクのインク層31Cおよび画像保護層13が順番で繰り返し配列された熱転写シート30を用いる。
【0059】
そして上記画像形成装置50を用いることによって、イエロー、マゼンタ、シアンの順で各色成分の画像を、受像シート71の表面に設けられた受像層(印刷面)側に昇華熱転写した後、画像保護層13を印画面の全面に昇華熱転写する。このように、この画像形成装置50では、画像保護層13によるラミネート工程は他の色情報の画像形成と同一の工程で行われる。
【0060】
上記カラープリントでは、耐光性、耐皮脂性等を上げるために、印刷した後、その表面に画像保護層13を形成することから、印刷された画像の退色を抑制し、保存性を高めることができる。さらに、非転写性離型層12、画像保護層13それぞれを構成する熱可塑性樹脂のI/O値の差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい。これよって、熱転写により画像を形成する際に、画像保護層13が非転写性離型層12から容易に剥離することができ、印刷されたカラープリント表面の品位を損なうことがない。さらに、外的な力に対しても十分な耐性を有し、取り回し上の不具合が発生するのを防ぐことができる。
【0061】
以下、本技術の熱転写ラミネートフィルムに係る一実験例について説明する。
【0062】
[実験例]
[熱転写ラミネートフィルムの製造]
4.5μm厚の基材フィルム(ポリエステル、三菱樹脂製「K604E4.5W」)上に、表1に示す非転写性離型層の組成物1〜5を、乾燥厚でおよそ1.0μmとなるように塗工し、乾燥(90℃、1分)させ、非転写性離型層を形成した。
【0063】
また、非転写性離型層に含まれる熱可塑性樹脂それぞれについて、以下の方法でI値、O値及び、これらの値の比であるI/O値(以下、a値とも称する)を算出した。この結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
ここで、I値、O値を算出する方法の例として、表3に示す組成物8に使用しているポリスチレン(東洋スチレン製G100C)の例を表2に示す。
ポリマーのI/O値を算出する際には、まずポリマーの構成単位であるモノマーの構造式を考え、そのモノマーが有している官能基などの各要素を「新版 有機概念図 基礎と応用(甲田善生、佐藤四郎、本間善夫 三共出版(2008))」に基づいて、数値化していく。その際、本来、スチレンが有する二重結合のようにモノマーが有している官能基であっても、重合反応により消滅する官能基があることに注意する。
【0066】
【表2】

【0067】
この例では、I値は15、O値は160、I/O値は0.09とそれぞれ算出される。表1及び表3に示す組成物1〜7についても上述と同様な方法でI値、O値及びI/O値をそれぞれ算出した。
【0068】
続いて、上記の非転写性離型層の上に、表3に示した画像保護層形成用組成物6〜8をそれぞれ乾燥厚で0.8μmとなるように塗工し、乾燥(90℃、1分)し、画像保護層を形成した。また、画像保護層に用いた熱可塑性樹脂それぞれについても、同様の方法でI値、O値をそれぞれ算出し、これらの値の比であるI/O値(以下、b値とも称する)を算出した。この結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
続いて、上記の画像保護層の上に、表4に示す接着層の形成用組成物を乾燥厚で0.8μmとなるように塗工し、乾燥(100℃、1分)させ接着層を形成した。
【0071】
【表4】

【0072】
続いて、上記基材フィルムの、非転写性離型層、画像保護層、接着層が形成された面とは反対側の面上に、表5に示す耐熱滑性層形成用組成物を乾燥厚で0.4μmとなるように塗布し、乾燥(100℃、1分)させ耐熱滑性層を形成した。
【0073】
【表5】

【0074】
以上のように、熱転写ラミネートフィルムを製造し、それぞれ実験例1〜15とした。表6は、各実験例の組成物並びにa値、b値及びa値とb値の差の絶対値をそれぞれ示したものである。実験例1〜15は、組成物1〜5からなる非転写性離型層と、組成物6〜8からなる画像保護層とを組み合わせたものとした。具体的に、実験例1〜3は、組成物1の上に組成物6〜8をそれぞれ積層塗布したものとし、実験例4〜6は、組成物2の上に組成物6〜8をそれぞれ積層塗布したものとし、実験例7〜9は、組成物3の上に組成物6〜8をそれぞれ積層塗布したものとし、実験例10〜12は、組成物4の上に組成物6〜8をそれぞれ積層塗布したものとし、実験例13〜15は、組成物5の上に組成物6〜8をそれぞれ積層塗布したものとする。
【0075】
【表6】

【0076】
[熱転写ラミネートフィルムの評価]
【0077】
次に、製造された各熱転写ラミネートフィルムの評価を行うために、剥離性評価試験及びセロハンテープ剥離試験を行った。
【0078】
剥離性評価試験では、ソニー株式会社製「UP−DR150」プリンターにて、ソニー株式会社製「UP−DR150」用純正印画紙(2UPC−R154)に白ベタを印刷し、それによって、基材フィルム上に形成された非転写性離型層と画像保護層との間で剥離が容易に起こり、印画紙側に転写されるか否かについての評価を行った。
【0079】
剥離性試験の評価基準に関しては、形成された画像の表面の品位が損なわれておらず、剥離が容易に起こったと判断された場合は「○」評価とし、印刷中にインクリボンが印画紙側に貼り付くなど、うまく剥離していないと判断された場合は「×」評価とした。
【0080】
セロハンテープ剥離試験は、セロハンテープを熱転写ラミネートフィルムの表層、すなわち接着層表面に均一に密着するように貼り付けた後、1分程保持し、その後、セロハンテープを勢いよく剥がすことによって行った。これにより、熱転写ラミネートフィルムの表層、すなわち接着層の表面に対して外的な力が加わった場合に、非転写性離型層と転写性保護層との間で剥離することがないかを評価した。
【0081】
セロハンテープ剥離試験の評価基準に関しては、以下の通りである。
◎:画像保護層が全く剥がれない。
○:画像保護層のごく一部が剥がれている。
△:剥離時の抵抗はあるものの、画像保護層が剥がれている。
×:剥離時の抵抗がほとんどなく、画像保護層が全面的に剥がれる。
【0082】
表7は、剥離性試験の結果を示している。a値とb値の差の絶対値が0.40より大きい実験例1〜6、9、12、15では剥離が容易に起こり、かつ得られた画像の表面の品位が損なわれることもないことが確認でき、「○」評価となった。一方、a値とb値の差の絶対値が0.40より小さい実験例7、8、10、11、13、14では、うまく剥離することができず、プリンターの印刷プロセス中にインクリボンが印画紙側に貼り付いてしまう結果となり、「×」評価となった。
【0083】
【表7】

【0084】
表8は、セロハンテープ剥離試験の結果を示している。a値とb値の差の絶対値が0.40より小さい実験例7、8、10、11、13、14では、画像保護層は全く剥離することがなく、テープ剥離試験結果は「◎」評価となった。a値とb値の差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい実験例4、5、9、12、15では、画像保護層のごく一部が剥離することがある程度であり、「○」評価となった。すなわち、a値とb値の差の絶対値が0.75より小さい場合は、テープ剥離により両者の界面で容易に剥離することがなく、取り回し性にも優れていることが確認された。
【0085】
【表8】

【0086】
一方、a値とb値の差の絶対値が0.75よりも大きい実験例1〜3、6では、非転写性離型層と画像保護層の間の接着力が弱く、セロハンテープ剥離試験において剥離する結果となり、「×」評価とした。
【0087】
以上の結果より、a値とb値の差の絶対値が0.40より大きい場合には、熱転写時における非転写性離型層と画像保護層との剥離性が高く、得られた画像の品位も損なわれることがないということが示された。さらに、a値とb値の差の絶対値が0.40より大きく、0.75より小さい場合は、非転写性離型層と画像保護層との剥離性が高く、かつ、取り扱い時に発生し得る外的な力に対して十分な耐性を持ち、取り回し性にも優れていることが確認された。このことから、本技術で説明した熱転写ラミネートフィルムを用いて熱転写を行った場合には、非転写性離型層と画像保護層とが高い剥離性を有するため、その画像の品位を損ねることがなく、さらに取り回し性にも優れていることが確認された。
【0088】
以上、本技術の実施形態について説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0089】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)基材フィルムと、
前記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む非転写性離型層と、
前記非転写性離型層に設置され、前記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む画像保護層と、
を具備する熱転写ラミネートフィルム。
(2)(1)に記載の熱転写ラミネートフィルムであって、
前記画像保護層に設置された接着層をさらに具備する熱転写ラミネートフィルム。
(3)(1)または(2)に記載の熱転写ラミネートフィルムであって、
前記第1のI/O値と前記第2のI/O値との差の絶対値が0.75より小さい熱転写ラミネートフィルム。
【符号の説明】
【0090】
10…熱転写ラミネートフィルム
11…基材フィルム
12…非転写性離型層
13…画像保護層
14…接着層
30…熱転写シート
50…画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、
前記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む非転写性離型層と、
前記非転写性離型層に設置され、前記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む画像保護層と
を具備する熱転写ラミネートフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱転写ラミネートフィルムであって、
前記画像保護層に設置された接着層をさらに具備する
熱転写ラミネートフィルム。
【請求項3】
請求項1に記載の熱転写ラミネートフィルムであって、
前記第1のI/O値と前記第2のI/O値との差の絶対値が0.75より小さい熱転写ラミネートフィルム。
【請求項4】
基材フィルムと、
前記基材フィルムに設置され、第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む非転写性離型層と、
前記非転写性離型層に設置され、前記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む画像保護層と
前記基材フィルムに設置されたインク層と
を具備する熱転写シート。
【請求項5】
被記録媒体を所定方向に搬送する搬送機構と、
第1のI/O値を有する第1の熱可塑性樹脂を含む非転写性離型層と、前記第1のI/O値との差の絶対値が0.40より大きく0.75より小さい第2のI/O値を有する第2の熱可塑性樹脂を含む画像保護層と、前記被記録媒体の表面に熱転写して画像を形成するインク層とを有する熱転写シートと、
前記熱転写シートを走行させる走行機構と、
前記被記録媒体の表面に前記熱転写シートの前記インク層または前記画像保護層及び前記接着層を熱転写させる熱転写ヘッドと
を具備する画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201013(P2012−201013A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68387(P2011−68387)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】