説明

熱転写受像シート

【課題】離型性に優れ、にじみのない印画物が得られる熱転写受像シート、及び前記熱転写受像シートの製造方法を提供する。
【解決手段】HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーン、及び酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する染料受容層を有する、熱転写受像シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写受像シート、並びに前記熱転写受像シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華性染料を記録剤とし、これを基材に担持させた熱転写シートを用いて、昇華性染料で染着可能な熱転写受像シート上にカラー画像を形成する方法が提案されている。これは加熱手段としてプリンタのサーマルヘッド等を使用し、加熱によって染料を受像シートに転写させてカラー画像を得るものである。このようにして形成された画像は、染料を用いることから非常に鮮明であり、且つ透明性に優れているため、中間色の再現性や階調性に優れ、高品質の画像が期待できる。そのため、これらの性能を発揮するための熱転写受像シートが開発されており、その染料受容層には樹脂が用いられており、転写シート(インクリボン)との熱融着に伴う離型性が要求されるため、離型剤として、ポリエーテル変性シリコーンが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、染料の染着性、離型性等を向上させることを目的として、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を50モル%以上含有するアルコール成分と、脂環族カルボン酸を50モル%超含有するカルボン酸成分とを縮重合して得られるポリエステルを含む樹脂と、オキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーンとを含有する熱転写受像シート用受容層用組成物が開示されている。
特許文献2には、転写濃度等の向上を目的として、支持体上に、少なくとも2層の断熱層と少なくとも1層の受容層を順次有する感熱転写受像シートであって、該断熱層が中空粒子及び水溶性ポリマーを含有し、支持体から最も近い断熱層における中空粒子と水溶性ポリマーの質量比が特定の関係を満たし、該受容層がポリマーラテックスとポリエーテル変性シリコーンを含有する感熱転写受像シートが開示されている。
特許文献3には、離型性等の向上を目的として、基材シートの少なくとも一方の面に染料受容層を形成してなる熱転写受像シートであって、染料受容層の少なくとも最外表面部分に、特定のポリエーテル変性シリコーンが含有されてなり、前記ポリエーテル変性シリコーンのシロキサン含有量が25〜65重量%である熱転写受像シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−262337号公報
【特許文献2】特開2010−149464号公報
【特許文献3】特開2003−11528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記印刷は、サーマルヘッドからの加熱により、インクリボンから熱転写受像シートへ染料が染着し、これにより着色が行われることから、着色時にインクリボンと熱転写受像シートとの間に融着が生じやすいという離型性に問題があった。特に、高画像濃度領域では、印画時に高いエネルギーが、インクリボンと受像シートに加わり、融着が生じやすい。一方、低画像濃度領域においても、インクリボンからインク部分が剥がれ、全てのインク部分が受像シートへ移行してしまうという問題があった。
【0006】
また、高温高湿下で保存された印画物は、染料の拡散による「にじみ」が見られるという問題も有している。
上述の離型性の向上とにじみの抑制との両立という観点では、特許文献1〜3に記載された熱転写受像シートには、未だ改良の余地がある。
ゆえに、インクリボンとの融着や、インクリボンのインク部分の剥がれを抑制する離型性に優れ、にじみもない印画物が得られる熱転写受像シートが望まれている。
【0007】
本発明は、高画像濃度領域及び低画像濃度領域の双方において離型性に優れ、にじみのない印画物が得られる熱転写受像シート、並びにこの熱転写受像シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、離型性及びにじみに影響する要因は、サーマルヘッドによる加熱時の染料受容層の表面状態と保存時の樹脂の状態にあると考えて検討を行った。その結果、特定のポリエーテル変性シリコーンと特定のポリエステル系樹脂を染料受容層に用いることにより、上記課題が解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供する。
[1]HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーン、及び酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する染料受容層を有する、熱転写受像シート。
[2]下記工程(3)〜(5)を含有する熱転写受像シートの製造方法。
工程(3):酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液に、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーンを添加して染料受容層用塗工液を調製する工程
工程(4):工程(3)で得られた染料受容層用塗工液を用いて染料受容層を設ける工程
工程(5):染料受容層を40〜110℃で1〜10分間乾燥する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱転写受像シートは、高画像濃度領域及び低画像濃度領域の双方において離型性に優れ、にじみのない印画物が得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱転写受像シート(以下、単に「受像シート」ともいう)は、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーン、及び酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する染料受容層を有する。
【0011】
本発明の熱転写受像シートが、離型性に優れ、にじみのない印画物が得られる理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の熱転写受像シートの染料受容層には、特定の酸価であるポリエステル系樹脂と比較的HLBが低く、粘度が高いポリエーテル変性シリコーンを含有する。
ポリエステル系樹脂は、極性基であるエステル結合を多数有し、更に原料のカルボン酸に起因する酸価を有するため、親水性の高い樹脂となっている。一方、本発明に用いられるポリエーテル変性シリコーンは、比較的HLBが低いため、疎水性が高く、比較的粘度が高いため、ポリエステル系樹脂と相溶しにくいと考えられる。そのために、ポリエーテル変性シリコーンは、塗工時には上記ポリエステル系樹脂の分散液中に分散しているが、染料受容層が膜として形成された後には、膜表面に滲み出すことにより、離型剤としての効果を十分に発揮することができるものと考えられる。また、ポリエーテル変性シリコーンは、ポリエステル系樹脂中に溶け込まないために、樹脂の硬さが維持され、印画された後の染料が当該樹脂中で拡散しにくく、印画物を長期間保存しても、にじみが見られないと考えられる。
【0012】
[染料受容層]
本発明の熱転写受像シートにおける染料受容層は、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーン及び酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する。
【0013】
〔ポリエーテル変性シリコーン〕
本発明に用いられるポリエーテル変性シリコーンは、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sである。
ポリエーテル変性シリコーンのHLBは、受像シートの離型性を向上させ、にじみを抑制し、染着性を向上させる観点から、4〜9であるが、好ましくは4.5〜8.5、より好ましくは4.8〜8.2、更に好ましくは6〜7.8である。HLBが4未満であると、ポリエーテル変性シリコーンが樹脂の分散液中で分散せず、HLBが9を超えると、ポリエーテル変性シリコーンが受容層表面に滲み出す効率が劣り、受像シートの離型性が低下するため好ましくない。
【0014】
なお、本発明において、HLB値は、界面活性剤便覧(西一郎ら編集、産業図書株式会社、昭和35年発行)の324ページに記載されている下記の方法により測定した曇数Aから下記の式(1)より算出する。
HLB値=0.89×A+1.11 式(1)
<曇数Aの測定方法>
評価試料(ポリエーテル変性シリコーン)0.5gを98%エチルアルコール5mlに溶解し、25℃に保ちながらかき混ぜながら2%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁を呈する時を終点とする。この滴定に要した2%のフェノール水溶液のml数を曇数Aとする。
【0015】
ポリエーテル変性シリコーンの25℃における粘度は、受像シートの離型性を向上させ、にじみを抑制し、染着性を向上させる観点から、1000〜5000mPa・sであるが、好ましくは1200〜4600mPa・s、より好ましくは1400〜4200mPa・s、更に好ましくは1800〜3600mPa・s、より更に好ましくは2000〜3300mPa・sである。これは、インクリボン樹脂との付着が効率的に抑制されるためと考えられる。1000mPa・s未満であると、ポリエーテル変性シリコーンが受容層表面に滲み出す効率は高くなるが、印画時におけるインクリボンへの付着量が増加してイエロー、マゼンタ、シアンと重ね印画するまでに受容層表面に存在するポリエーテル変性シリコーン量が低下するため好ましくなく、5000mPa・sを超えると、ポリエーテル変性シリコーンが受容層表面に滲み出す効率が極端に低下するため好ましくない。
なお、本発明において、25℃における粘度は、JIS K6503−2001に基づいて測定した値である。
【0016】
本発明で用いるポリエーテル変性シリコーンは、ポリジメチルシロキサン構造の主鎖に対し、側鎖にポリエーテル基を有するものであるか、主鎖の両末端にポリエーテル基を有し、側鎖にポリエーテル基を有するものが好ましい。
ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体からなる基が挙げられる。これらの中でも、受像シートの離型性を向上させ、にじみを抑制する観点から、ポリエチレンオキシド基、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体からなる基が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体からなる基がより好ましい。
本発明で用いるポリエーテル変性シリコーンとして好適な市販品としては、信越化学工業株式会社製のKF−6012(HLB:7、25℃における粘度:1500mPa・s(以下同じ))、X−22−4515(5、4000)、東レダウコーニング株式会社製のSF8410(7、2900)、L−7002(7、1300)、FZ2164(8、3500)等が挙げられる。
これらのポリエーテル変性シリコーンは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
染料受容層中のポリエーテル変性シリコーンの含有量は、受像シートの離型性を向上させ、にじみを抑制する観点から、染料受容層中に含まれるポリエステル系樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2.5〜9.5重量部、更に好ましくは5.0〜9.0重量部である。
【0018】
〔ポリエステル系樹脂〕
本発明で用いられるポリエステル系樹脂の酸価は、乳化性及び乳化粒子の分散安定性の観点から、10〜40mgKOH/gであるが、好ましくは11〜30mgKOH/g、より好ましくは12〜25mgKOH/g、更に好ましくは13〜21mgKOH/g、より更に好ましくは15〜18mgKOH/gである。10mgKOH/g未満であると、均一に分散することが困難となり、形成される染料受容層の表面が平滑にならず、熱転写受像シートの染着性及び離型性が劣る。一方、40mgKOH/gを超えると、親水性が高くなり耐湿性が低下するため好ましくない。
なお、本発明における酸価の値は、実施例に示された方法により測定した値である(以下同じ)。
【0019】
ポリエステル系樹脂のガラス転移点は、受像シートの離型性及び染着性の向上の観点から、好ましくは45〜100℃、より好ましくは50〜90℃、更に好ましくは55〜80℃、より更に好ましくは60〜75℃である。
なお、本発明におけるガラス転移点の値は、実施例に示された方法により測定した値である(以下同じ)。
【0020】
なお、本発明において染料受容層中には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述のポリエステル系樹脂以外の塩化ビニル系重合体等の他の樹脂を含んでもよいが、樹脂としては、ポリエステル系樹脂のみを含むことが好ましい。染料受容層中のポリエステル系樹脂の含有量は、全樹脂成分に対して、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは実質100重量%である。
【0021】
本発明で用いるポリエステル系樹脂は、ポリエステル構造のみからなる樹脂であってもよいが、離型性の観点から、ポリエステルからなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)から構成されるグラフトポリマーであることが好ましい。また、このグラフトポリマーは、構成するセグメント(A1)及びセグメント(A2)のどちらが主鎖であってもよいが、セグメント(A1)が主鎖であり、セグメント(A2)が側鎖であるグラフトポリマーであることが好ましい。
【0022】
グラフトポリマーを構成するセグメント(A1)とセグメント(A2)との重量比[セグメント(A1)/セグメント(A2)]は、受像シートの染着性向上の観点から、好ましくは60/40〜90/10、より好ましくは70/30〜87/13、更に好ましくは75/25〜85/15である。
セグメント(A1)がセグメント(A2)より多く存在することで、微細な相分離構造を形成しながらも、セグメント(A1)の分子構造に由来する染着性を十分に発揮させることができるものと考えられる。
【0023】
セグメント(A2)と、セグメント(A1)の原料モノマーのうち不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸及び不飽和脂肪族アルコールの合計量との重量比[セグメント(A2)/セグメント(A1)の不飽和基を有する前記成分の合計]は、受像シートの染着性及び離型性の観点から、好ましくは1/1〜15/1、より好ましくは2/1〜12/1が、更に好ましくは5/1〜10/1である。
【0024】
本発明で用いるポリエステル系樹脂における上記グラフトポリマーの含有量は、受像シートの染着性向上の観点から、好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%以上、更に好ましくは実質的に100重量%である。
以下、ポリエステルからなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)から構成されるグラフトポリマーについて詳述する。
【0025】
(ポリエステルからなるセグメント(A1))
上記グラフトポリマーを構成するセグメント(A1)は、ポリエステルからなり、該グラフトポリマーにおける主鎖であることが好ましい。セグメント(A1)はポリエステルからなるため、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合して得ることができる。以下、セグメント(A1)の構成単位の由来する原料モノマー(以下、単に「セグメント(A1)の原料モノマー」ともいう)として用いられる、アルコール成分及びカルボン酸成分について詳述する。
【0026】
本発明において、セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分として、受像シートの離型性及び染着性の観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物は、具体的には下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
一般式(I)において、R1O、R2Oはいずれもアルキレンオキシ基であり、好ましくはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレンオキシ基であり、より好ましくはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基である。
x及びyは、アルキレンオキサイドの付加モル数に相当し、それぞれ正の数である。更に、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyとの和の平均値は、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜5、更に好ましくは2〜3である。
また、x個のR1O又はy個のR2Oは、各々同一であっても異なっていてもよいが、熱転写受像シートの染着性及び熱転写受像シートにおける断熱層と染料受容層との密着性の観点から、同一であることが好ましく、プロピレンオキシ基であることがより好ましい。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
受像シートの離型性、特に高画像濃度領域での離型性、及び染着性の観点から、前記プロピレンオキシ基の含有量が、前記アルキレンオキシ基中、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは60〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは85〜100モル%、より更に好ましくは実質的に100モル%である。
他のアルキレンオキシ基としては、受像シートの染着性の観点から、エチレンオキシ基、トリメチレンオキシ基が好ましく、エチレンオキシ基がより好ましい。
【0030】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、受像シートの離型性及び染着性の観点から、アルコール成分中に、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは実質100モル%である。当該含有量が60モル%以上であれば、染料との親和性が優れ、受像シートの染着性が向上すると共に、樹脂が適度の硬さを有し、受像シートの高画像濃度領域での離型性が向上する。
なお、本発明において、アルキレンオキサイド付加物とは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンにアルキレンオキシ基を付加した構造全体を意味するものである。
【0031】
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物と共に、これ以外のアルコール成分を含有することもできる。
具体的なセグメント(A1)の原料モノマーとしては、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するアルコールが好ましい。非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するアルコールとしては、受像シートの染着性及び離型性の向上の観点から、不飽和脂肪族アルコールが好ましい。不飽和脂肪族アルコール中の炭素−炭素不飽和結合の部分は、前記グラフトポリマー中では、セグメント(A2)との結合部分となることができ、その場合、該不飽和結合は、飽和結合となる。不飽和脂肪族アルコールとしては、アリルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール等が挙げられる。
その他のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2〜4)オキサイド付加物(平均付加モル数1〜16)等が挙げられる。
これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
セグメント(A1)の原料モノマーであるカルボン酸成分としては、受像シートの染着性及び離型性の向上の観点から、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸を含むことが好ましく、不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸を含むことがより好ましい。該炭素−炭素不飽和結合の部分は、グラフトポリマー中では、セグメント(A2)との結合部分となることが好ましく、その場合、該不飽和結合は、飽和結合となる。
【0033】
非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸(不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸)としては、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;テトラヒドロフタル酸等の不飽和脂環式カルボン酸等、及びこれら酸の無水物等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。
【0034】
セグメント(A1)の構成単位の由来する原料モノマーとして、不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸の含有量は、受像シートの染着性及び離型性の向上の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは5〜30モル%、より好ましくは7〜25モル%、更に好ましくは10〜20モル%である。
【0035】
その他のカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、コハク酸、アルキル基及び/又はアルケニル基を有するコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸類、デカリンジカルボン酸類等の脂環族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸の無水物及びそれらのアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。熱転写受像シートの染着性の観点から、芳香族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸が好ましく、シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸がより好ましい。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸がより好ましい。前記カルボン酸成分は、単独で又は2種以上が含まれていてもよい。
【0036】
なお、受像シートの染着性及び離型性の向上の観点から、セグメント(A1)の原料モノマーのうち、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有する原料モノマーとして、不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸、不飽和脂肪族アルコールから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、反応性の観点から、不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸を含むことが好ましく、不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸のみを含むことがより好ましい。
【0037】
本発明において、セグメント(A1)に含有される酸基としては、カルボキシ基を含有することが好ましい。カルボキシ基の含有量は、セグメント(A1)中の酸基のうち、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは実質的に100モル%である。
また、セグメント(A1)に含有される酸基としてスルホン酸を含む場合、スルホン酸基の含有量は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは実質的に含まない(0モル%)。スルホン酸基を多く含むと、水溶性が高くなりすぎて、側鎖セグメント(A2)のモノマーとの反応性が乏しくなる。また、染料との相互作用が弱くなり、本発明の効果である染着性や離型性に劣るものとなる。
【0038】
セグメント(A1)の酸価は、受像シートの離型性及び保存安定性の観点から、10〜40mgKOH/gであり、好ましくは12〜30mgKOH/g、より好ましくは15〜25mgKOH/g、更に好ましくは18〜21mgKOH/gである。
また、セグメント(A1)の数平均分子量は、染料受容層に用いた場合の造膜性の観点から、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜8,000、更に好ましくは2,500〜6,000、更に好ましくは3,000〜4,000である。なお、本発明における数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定された値である(以下同じ)。
【0039】
なお、本発明において、セグメント(A1)は、前記範囲内において、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。
本発明において、セグメント(A1)中におけるポリエステル部分の含有量は、受像シートの離型性、高温高湿度での離型性及び染着性の観点から、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは85〜100重量%、より更に好ましくは実質的に100重量%である。
【0040】
(付加重合系樹脂からなるセグメント(A2))
上記グラフトポリマーを構成するセグメント(A2)は、付加重合性モノマー(a2)(以下、「モノマー(a2)」ともいう)に由来する構成単位からなる付加重合系樹脂からなるセグメントであり、該グラフトポリマーにおける側鎖であることが好ましい。
付加重合性モノマー(a2)としては、スチレン、メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸又はその塩等のスチレン類;(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜18)、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物等が挙げられる。これらの中でも、スチレン類及び(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、芳香族基を有する付加重合性モノマーがより好ましい。芳香族基を有する付加重合性モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、ベンジルメタクリレート及びベンジルアクリレートが好ましく、モノマーの原料価格、受像シートの離型性及び保存安定性の観点から、スチレンがより好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及びアクリル酸の双方を示すものである。
【0041】
芳香族基を有する付加重合性モノマーを由来とする構成単位の含有量は、熱転写受像シートの離型性、特に高画像濃度における離型性、及び染着性の観点から、セグメント(A2)中、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、より更に好ましくは実質的に100重量%である。
【0042】
[グラフトポリマーの製造方法]
本発明のグラフトポリマーの製造方法としては、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合して、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエステル樹脂(a1)(以下、樹脂(a1)ともいう)を調製し、該ポリエステル樹脂(a1)の存在下、付加重合性モノマー(a2)を付加重合する方法が好ましい。
【0043】
(ポリエステル樹脂(a1))
樹脂(a1)は、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合して得られる、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエステル樹脂であり、前記ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)を構成するのに好ましいものである。
なお、「非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合」は、原料モノマーとして用いる、前述の不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸及び不飽和脂肪族アルコールから選ばれる1種以上に由来するものである。
【0044】
樹脂(a1)の原料成分であるアルコール成分として、前記アルコール成分を使用することができ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。また、樹脂(a1)は、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するものであり、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するアルコールを用いることができる。非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するアルコールとしては、アリルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール等が挙げられる。その他のアルコールとしては、前記セグメント(A1)の場合と同様である。これらのアルコールは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらのアルコール成分の好適な構造、及び含有量は、前述のセグメント(A1)と同様である。
【0045】
樹脂(a1)は、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するものであり、ポリエステルの原料成分としてのカルボン酸成分として、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸を用いることが好ましい。
非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸としては、前記セグメント(A1)の場合と同様であり、好適な構造及び好適な含有量も同じであり、フマル酸がより好ましい。
カルボン酸成分中、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸の含有量は、好ましくは5〜30モル%、より好ましくは7〜25モル%、更に好ましくは10〜20モル%である。
その他のカルボン酸としては、前記セグメント(A1)の場合と同様であり、シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸が好ましく、イソフタル酸がより好ましい。カルボン酸は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、これらのカルボン酸成分の好適な構造、及び含有量は、前述のセグメント(A1)と同様である。
【0046】
ポリエステル樹脂(a1)は、例えば、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じエステル化触媒を用いて、180〜250℃の温度で縮重合することにより製造することができる。
熱転写受像シートの離型性の観点から、ポリエステルはシャープな分子量分布を有することが好ましく、エステル化触媒を用いて縮重合をすることが好ましい。エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物等が挙げられる。ポリエステルの合成におけるエステル化反応の反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ等が好ましく用いられる。
また、本発明においては、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸を用いるため、ラジカル重合禁止剤を用いることが好ましい。ラジカル重合禁止剤としては、4−t−ブチルカテコール等が好ましい。
【0047】
樹脂(a1)の軟化点は、受像シートの離型性及び保存安定性の観点から、好ましくは80〜165℃、より好ましくは85〜130℃、更に好ましくは95〜120℃である。なお、本発明における軟化点は、実施例に記載の方法により測定された値である(以下同じ)。
樹脂(a1)のガラス転移点は、受像シートの離型性及び染着性の向上の観点から、好ましくは45〜100℃、より好ましくは50〜90℃、更に好ましくは52〜80℃、より更に好ましくは54〜70℃である。
樹脂(a1)の酸価は、受像シートの離型性及び保存安定性の観点から、10〜40mgKOH/gであり、好ましくは12〜30mgKOH/g、より好ましくは15〜25mgKOH/g、より好ましくは18〜21mgKOH/gである。
ガラス転移点、軟化点及び酸価はいずれも用いるモノマーの種類、配合比率、縮重合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
また、樹脂(a1)の数平均分子量は、染料受容層に用いた場合の造膜性の観点から、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜8,000、更に好ましくは2,500〜6,000、更に好ましくは3,000〜4,000である。
【0048】
なお、本発明において、樹脂(a1)は、前記範囲内において、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。
本発明において、樹脂(a1)におけるポリエステル部分の含有量は、熱転写受像シートの染着性及び離型性の観点から、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、更に好ましくは85〜100重量%、より更に好ましくは実質的に100重量%である。
【0049】
(付加重合性モノマー(a2))
本発明に用いられる付加重合性モノマー(a2)は、前記の付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)の原料モノマーとして記載したものと同じであり、芳香族基を有する付加重合性モノマーを用いることが好ましい。芳香族基を有する付加重合性モノマーの含有量としては、付加重合性モノマー(a2)のうち、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、より更に好ましくは実質的に100重量%である。
芳香族基を有する付加重合性モノマーとしては、スチレン、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレートが好ましく、モノマーの原料価格、受像シートの離型性及び保存安定性の観点から、スチレンがより好ましい。
【0050】
(グラフトポリマーの製造)
前記グラフトポリマーは、前記樹脂(a1)の存在下、前記付加重合性モノマー(a2)を重合する方法によって得ることができる。その重合方法に制限はなく、樹脂(a1)とモノマー(a2)とを直接混合して重合する方法、樹脂(a1)とモノマー(a2)とを有機溶媒に溶解して重合する方法等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の熱転写受像シートに用いられるグラフトポリマーである酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂は、下記工程(1)及び(2)を有する方法によって得ることが好ましい。
工程(1):非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエステル樹脂(a1)を水性媒体と混合して、前記ポリエステル樹脂(a1)の水性分散液を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた水性分散液に前記付加重合性モノマー(a2)を添加し、重合して、グラフトポリマーである酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液を得る工程
【0051】
<工程(1)>
工程(1)は、ポリエステル樹脂(a1)を水性媒体と混合して、前記ポリエステル樹脂(a1)の水性分散液を得る工程である。
ポリエステル樹脂(a1)を分散させる水性媒体とは、水を主成分とするもの、すなわち、水の含有量が50重量%以上の媒体である。水性媒体中の水の含有量は、環境安全性の観点から、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは実質的に100重量%である。
水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等の、水に溶解する有機溶媒が挙げられる。
【0052】
水性媒体中にポリエステル樹脂(a1)を分散させる方法としては、前記ポリエステル樹脂(a1)をケトン系溶媒に溶解させ、後述する中和剤を加えてポリエステル樹脂(a1)のカルボキシル基をイオン化し、次いで水を加えて水相に転相する方法、好ましくは水を加えた後にケトン系溶媒を留去して水相に転相する方法が好ましく挙げられる。
より具体的には、例えば、撹拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えた反応器を準備し、有機溶媒に溶解したポリエステル樹脂(a1)に、中和剤等を加え、カルボキシル基をイオン化し(すでにイオン化されている場合は不要)、次いで水を加えて水相に転相する方法が挙げられ、水を加えた後に有機溶媒を留去して水相に転相することが好ましい。
ポリエステル樹脂(a1)の有機溶媒への溶解操作、及びその後の中和剤の添加は、使用する有機溶媒の沸点以下の温度で行うことが好ましい。また、使用する水としては、例えば脱イオン水等が挙げられる。
【0053】
有機溶媒としては、前述のものを用いることができ、ポリエステル樹脂(a1)の溶解性及び溶媒の留去の容易性の観点から、ケトン系溶媒が好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0054】
また、中和剤としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、トリ−n−オクチルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、n−プロパノールアミン、ブタノールアミン、5−アミノ−4−オクタノール、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ネオペンタノールアミン、ジグリコールアミン、エチレンジアミン、ピペラジン等のアミン類等が挙げられる。中和剤の使用量は、少なくともポリエステル樹脂(a1)の酸価を中和できる量であればよい。
【0055】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた水性分散液に前記付加重合性モノマー(a2)を添加し、重合して、グラフトポリマーである酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液(以下、「水性分散液(A)」ともいう)を得る工程である。
まず、付加重合性モノマー(a2)をポリエステル樹脂(a1)の水性分散液に添加する。添加量は、ポリエステル樹脂(a1)と付加重合性モノマー(a2)の重量比[ポリエステル樹脂(a1)/付加重合性モノマー(a2)]で、好ましくは60/40〜90/10、より好ましくは70/30〜87/13、更に好ましくは75/25〜85/15である。
また、撹拌の効率の点から、水等を更に加えてもよい。
【0056】
次に、ポリエステル樹脂(a1)の存在下、付加重合性モノマー(a2)を重合する。
重合には、任意のラジカル重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて添加することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、過硫酸塩を用いることがより好ましい。
ポリエステル樹脂(a1)と付加重合性モノマー(a2)とを含有する混合液を加熱することで重合反応を進行させることができる。重合温度は、用いられる重合開始剤の種類にもよるが、例えば、過硫酸ナトリウムを用いる場合には、重合反応を効率的に行う観点から、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。
【0057】
以上のようにして得られた水性分散液(A)中のグラフトポリマーのガラス転移点は、その保存安定性、並びに受像シートの離型性及び染着性の観点から、好ましくは45〜100℃、より好ましくは50〜90℃、更に好ましくは55〜80℃、より更に好ましくは60〜75℃である。
また、該グラフトポリマーの酸価は、上述のとおり、乳化性及び乳化粒子の分散安定性の観点から、10〜40mgKOH/gであるが、好ましくは11〜30mgKOH/g、より好ましくは12〜25mgKOH/g、更に好ましくは13〜21mgKOH/g、より更に好ましくは15〜18mgKOH/gである。
【0058】
水性分散液(A)の固形分濃度は、樹脂粒子の分散性及び生産性の観点から、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%、更に好ましくは30〜40重量%である。
また、水性分散液(A)の25℃におけるpHは、水性分散液(A)の保存安定性の観点から、好ましくは5〜10、より好ましくは5.3〜9、更に好ましくは5.5〜8である。
【0059】
水性分散液(A)中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、熱転写受像シートを得る際の造膜性の観点から、好ましくは20〜1000nm、より好ましくは50〜800nm、更に好ましくは80〜500nm、更に好ましくは90〜150nmである。なお、本発明において「体積中位粒径(D50)」とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。その測定方法は実施例に記載のとおりである。
【0060】
(染料受容層の形成方法)
染料受容層は、樹脂を有機溶媒に溶解して得られた塗工液形態、又は樹脂の各々を有機溶媒や水に分散させて得られた樹脂分散液を含む塗工液形態で用いて形成することができるが、環境安全性等の観点から、後者が好ましく、下記の工程(3)〜(5)を行うことによって形成することがより好ましい。
工程(3):酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液に、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーンを添加して染料受容層用塗工液を調製する工程
工程(4):工程(3)で得られた染料受容層用塗工液を用いて染料受容層を設ける工程
工程(5):染料受容層を40〜110℃で1〜10分間乾燥する工程
【0061】
<工程(3)>
工程(3)は、酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液に、前記HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーンを添加して染料受容層用塗工液を調製する工程である。ポリエステル系樹脂の水性分散液としては、工程(2)で得られたグラフトポリマーの水性分散液を用いることが好ましい。
染料受容層用塗工液には、ポリエーテル変性シリコーンが受容層表面に滲み出す効率が高くなるためであると考えられるが、受像シートの離型性を向上させる観点から、離型剤として、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーンを含有する。
【0062】
染料受容層中のポリエーテル変性シリコーンの含有量は、受像シートの離型性を向上させ、にじみの抑制の観点から、染料受容層中に含まれるポリエステル系樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2.5〜9.5重量部、更に好ましくは5.0〜9.0重量部である。
前記ポリエーテル変性シリコーンを均一に分散又は溶解するために、攪拌を行うことが好ましく、攪拌には容器を回転させて行うことが好ましく、ボールミル等の撹拌機を用いることが好ましい。分散又は溶解する温度は、好ましくは10〜50℃であるが、20〜30℃で攪拌した後に、35〜50℃で保持することがより好ましい。
なお、水性分散液(A)と離型剤であるポリエーテル変性シリコーンを染料受容層に用いられる比率で混合して水分が1%以下になるまで凍結乾燥させた乾燥物のガラス転移点は、熱転写受像シートのにじみを抑制する観点から、好ましくは50〜70℃、より好ましくは52〜68℃、更に好ましくは55〜65℃である。前記乾燥物のガラス転移点がこの範囲であると、高い染着性を維持しつつ、印画後の染料が樹脂中を拡散しにくいために、にじみを抑制することができるものと考えられる。
【0063】
また、染料受容層用塗工液は、造膜剤を含有することが好ましい。造膜剤としては、ブチルカルビトールアセテート、ジエチルカルビトール、ゼラチン等が挙げられ、染料受容層の強度及び離型性の観点から、ゼラチンが好ましい。
造膜剤の粘度としては、受像シートの離型性及び造膜性の観点から、JIS K6503−2001で測定した粘度(60℃)が、好ましくは2.5〜6.0mPa・s、より好ましくは3.0〜5.5mPa・sである。
造膜剤の含有量は、染料受容層中に含まれるポリエステル系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜8重量部、更に好ましくは1〜6重量部である。
【0064】
また、造膜剤を均一に溶解させる観点から、予め造膜剤を水に溶解しておくことが好ましく、前記熱転写受像シート用樹脂組成物の水性分散液と造膜剤の水溶液とを混合し、撹拌して塗工液を得ることが好ましい。この際の攪拌温度は、造膜剤を溶解状態で均一に混合する観点から、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜50℃である。
【0065】
染料受容層用塗工液は、更に、染料受容層の白色度を向上させて転写画像の鮮明度を高める観点から、酸化チタン等の顔料や充填剤を含有することができる。また、染料受容相溶塗り公益には、更に必要に応じて、例えば、触媒、硬化剤等の他の添加剤を含有することもできる。
更に、染料受容層用塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル系樹脂以外の塩化ビニル系重合体等の他の樹脂を含むことができるが、樹脂としては、ポリエステル系樹脂のみを含むことが好ましい。他の樹脂を含む場合、これは、樹脂の製造過程で、ポリエステル系樹脂と共に有機溶媒に溶解させることにより染料受容層用塗工液に含有させてもよい。
【0066】
<工程(4)>
工程(4)は、工程(3)で得られた染料受容層用塗工液を用いて染料受容層を設ける工程である。
本発明の熱転写受像シートにおける染料受容層は、基材の一方の面に塗工液を塗布及び乾燥して形成することによって得られ、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等により塗布する方法が挙げられる。また、後述するように基材と染料受容層との間に断熱層を有する場合は、基材の一方の面に断熱層用塗工液及び染料受容層用塗工液を重層塗布して断熱層及び染料受容層をそれぞれ設けることが好ましい。
【0067】
<工程(5)>
工程(5)は、工程(4)で得られた染料受容層を40〜110℃で1〜10分間乾燥する工程である。
乾燥する温度は、造膜性を向上させ、ひび割れのない表面を得る観点から、好ましくは40〜110℃、より好ましくは42〜80℃、更に好ましくは45〜60℃である。
また、乾燥する時間は、造膜性を向上させ、ひび割れのない表面を得る観点から、好ましくは1〜10分間、より好ましくは1.5〜7.5分間、更に好ましくは1.8〜5分間である。
【0068】
形成される染料受容層の厚さは、特に制限はないが、画質及び生産性の観点から、好ましくは1〜50μm、より好ましくは3〜15μmである。
また、乾燥後の固形分量としては、染料受容層1m2当たり、好ましくは3〜15g/m2、より好ましくは4〜10g/m2である。
【0069】
[基材]
本発明の熱転写受像シートは、基材上に、前記染料受容層を有するものである。
基材としては、例えば合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系等)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙等、セルロース繊維紙、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリカーボネート等の各種の樹脂のフィルム又はシート等が使用でき、また、これらの樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムあるいは発泡させた発泡シート等も使用できる。また、前記基材を組み合わせた積層体も使用できる。
これらの基材の厚みは、特に制限はないが、例えば10〜300μmのものが好ましい。前記の如き基材には、染料受容層との密着力を向上させる観点から、その表面にプライマー処理やコロナ放電処理を施すことが好ましい。
【0070】
[断熱層]
本発明の熱転写受像シートは、基材上に、前記染料受容層を有するものであるが、染着性の観点から、基材上に、断熱層、染料受容層が当該順序で構成される受像シートであることが好ましい。
上記断熱層には、水溶性高分子及び中空粒子を含有することが好ましい。
【0071】
<水溶性高分子>
水溶性高分子は、中空粒子を固定するバインダーとして用いられるものであり、例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらの中でも、10〜40℃の室温付近に水溶液のゲル化温度を有するという熱特性の観点から、ゼラチンが好ましい。
水溶性高分子の粘度としては、受像シートの離型性及び造膜性の観点から、JIS K6503−2001で測定した粘度(60℃)が、好ましくは2.5〜6.0mPa・s、より好ましくは3.0〜5.5mPa・sである。
断熱層における水溶性高分子の含有量は、当該断熱層全体に対して、好ましくは1〜75重量%、より好ましくは1〜50重量%である。
【0072】
<中空粒子>
断熱層に含有される中空粒子としては、少なくとも一部に空孔を有するポリマー粒子であれば、特に制限はない。
中空粒子を構成する材料としては、特に制限はないが、受像シートの染着性、及び受像シートにおける断熱層と染料受容層との密着性の観点から、スチレン−アクリル共重合体、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体等が好ましい。
中空粒子の形状としては、特に限定されず、球状はもちろん球状以外のいかなる形状のものであってもよいが、受像シートにおける断熱層と染料受容層の密着性の観点から、実質球状のものが好ましい。
また、中空粒子の体積中位粒径(D50)は、熱転写受像シートにおける断熱層と染料受容層との密着性の観点から、好ましくは0.1〜5μmである。この値は、電界放射型走査電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、商品名:S−4800型)により測定することができる。
【0073】
中空粒子の固形分濃度としては、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは15〜35重量%である。
また、中空粒子は、受像シートの染着性、及び受像シートにおける中間層と染料受容層との密着性の観点から、そのメチルエチルケトン不溶分が、好ましくは70重量%以下、より好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは30〜70重量%である。本発明における「中空粒子のメチルエチルケトン不溶分」とは、25℃のメチルエチルケトン95重量部に対して、中空粒子2.0重量部を溶解させた場合の、中空粒子が有する不溶な中空粒子成分の重量割合で定義されるものである。
また、中空粒子の中空率は、好ましくは40〜60%、より好ましくは45〜55%である。
【0074】
本発明において、中空粒子は、水性媒体中の分散液として使用することが好ましく、好ましく使用できる市販の中空粒子として、例えば、日本ゼオン株式会社製の「Nipol MH8101」、ロームアンドハースジャパン株式会社製「HP−1055」、JSR株式会社製の「SX8782(D)」等が挙げられる(いずれも商品名)。
断熱層における中空粒子と水溶性高分子との重量比(中空粒子/水溶性高分子)は、受像シートの染着性、及び受像シートにおける断熱層と染料受容層との密着性の観点から、好ましくは30/70〜90/10、より好ましくは40/60〜80/20、更に好ましくは50/50〜75/25である。
【0075】
なお、断熱層には、その白色度を向上させて転写画像の鮮明度を高める観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリンクレー、炭酸カルシウム、微粉末シリカ等の顔料や充填剤を含有することができる。これらの顔料や充填剤の含有量は、熱転写受像シートの白色度の観点から、断熱層中の水溶性高分子に対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
また、断熱層には、更に必要に応じて、グリコールエーテル類等の造膜助剤、離型剤、硬化剤、触媒等の添加剤を含有することもできる。
【0076】
断熱層は、熱転写受像シートの基材の少なくとも一方の面に、水溶性高分子、中空粒子、及び必要に応じて用いられる各種添加剤を有機溶媒や水に分散あるいは溶解して、塗布し乾燥して形成することができる。
断熱層の厚みは、クッション性、断熱性の観点から、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μmである。また、乾燥後の固形分量としては、断熱層1m2当たり、好ましくは7〜70g/m2、より好ましくは10〜50g/m2ある。
断熱層は、例えば、熱転写受像シートの基材の少なくとも一方の面に、ゼラチンを含む水溶性高分子、中空粒子及び必要に応じて用いられる添加剤等を水に溶解して、あるいは水に分散して得られた塗工液を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等により塗布し乾燥して形成することができる。
【0077】
[転写シート]
本発明の熱転写受像シートを使用して熱転写を行う際に使用する転写シート(インクリボン)は、通常、紙やポリエステルフイルム上に昇華性染料を含む染料層、及び染料を受像して得られた画像上に転写される保護層等からなるラミネート層を設けたものであり、任意の転写シートをいずれも使用することができる。
本発明の熱転写受像シートに好適な昇華性染料としては、例えば、イエロー染料では、ピリドンアゾ系、ジシアノスチリル系、キノフタロン系、メロシアニン系;マゼンタ染料では、ベンゼンアゾ系、ピラゾロンアゾメチン系、イソチアゾール系、ピラゾロトリアゾール系;シアン染料では、アントラキノン系、シアノメチレン系、インドフェノール系、インドナフトール系が挙げられる。
【0078】
熱転写時の熱エネルギーの付与手段としては、任意の付与手段がいずれも使用でき、例えば、サーマルプリンター等の記録装置によって、記録時間をコントロールすることにより、5〜100mJ/mm2程度の熱エネルギーを付与することによって行うことができる。
【実施例】
【0079】
以下に示す各物性の測定方法は、下記のとおりである。
<物性の測定>
[樹脂の軟化点]
フローテスター(株式会社島津製作所製、商品名:CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのブランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0080】
[樹脂のガラス転移点]
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製、商品名:Pyris 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0081】
[水性分散液とポリエーテル変性シリコーンの乾燥物のガラス転移点]
水性分散液とポリエーテル変性シリコーンを染料受容層に用いられる比率で混合し、凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製、商品名:FDU−2100)を用いて−10℃で9時間凍結乾燥させ、乾燥物を得た(含まれる水分が1重量%以下であることを確認した)。そして、当該乾燥物について、上述の樹脂のガラス転移点の測定方法と同様にして測定した値を、当該乾燥物のガラス転移点とした。
【0082】
[樹脂の酸価]
測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更したこと以外は、JIS K0070に従って測定した。
【0083】
[樹脂の数平均分子量]
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量分布を測定し、数平均分子量を算出した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、樹脂をクロロホルムに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業株式会社製、商品名:FP−200)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
溶解液としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行った。試料の数平均分子量は、予め作製した検量線に基づき算出した。検量線は、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン;2.63×103、2.06×104、1.02×105(重量平均分子量)、ジーエルサイエンス株式会社製の単分散ポリスチレン;2.10×103、7.00×103、5.04×104(重量平均分子量))を標準試料として用いて作成した。
測定装置:CO−8010(商品名、東ソー株式会社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(いずれも商品名、東ソー株式会社製)
【0084】
[水性分散液中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)]
レーザー回折型粒径測定機(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−920)を用いて、測定用セルに各樹脂の水性分散液及び蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で、体積中位粒径(D50)を測定した。
【0085】
[水性分散液の固形分濃度]
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、商品名:FD−230)を用いて、水性分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液の水分(重量%)を測定した。固形分濃度は下記の式に従って算出した。
固形分濃度(重量%)=100−M
M:水性分散液の水分(重量%)=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料重量(初期試料重量)
0:測定後の試料重量(絶対乾燥重量)
【0086】
[水性分散液のpH]
pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製、商品名:HM−20P)により、25℃で測定した。
【0087】
[ポリエーテル変性シリコーンの粘度]
JIS K6503−2001に基づいて、25℃における粘度を測定した。
【0088】
製造例1、2
(ポリエステル樹脂a、bの製造)
表1に示すフマル酸を除くポリエステル樹脂の原料モノマー及びジ(2−エチルヘキサン酸)スズを、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した内容積10リットルの四つ口フラスコに入れ、マントルヒーター中で、窒素雰囲気下、235℃で5時間反応させ、更に減圧し、8.3kPaの圧力下で1時間反応した。次いで、210℃でフマル酸及び4−t−ブチルカテコールを加え、5時間反応させた後、減圧し、20kPaの圧力下にて、ASTM D36−86に従って測定した軟化点が表1に示す温度に達するまで反応させて、ポリエステル樹脂a、bを得た。
得られたポリエステル樹脂a、bのそれぞれの物性について、測定した結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
製造例3〜5
(ポリエステル樹脂の水性分散液(i)〜(iii)の製造:工程(1))
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表2に示す種類及び配合量のポリエステル樹脂a、bを入れ、25℃でメチルエチルケトンに溶解させた。次いで、25%アンモニア水を添加して、撹拌下で脱イオン水を加えた後、減圧下60℃でメチルエチルケトンを留去した。室温まで冷却後、200メッシュの金網で濾過し、ポリエステル樹脂の水性分散液(i)〜(iii)を得た。
得られた水性分散液(i)〜(iii)の物性について、測定した結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
製造例6〜8
(熱転写受像シート用樹脂の水性分散液(I)〜(III)の製造:工程(2))
窒素導入管、還流冷却管、滴下ロート、撹拌器及び熱電対を装備した内容積2リットルの四つ口フラスコに、表3に示す種類及び配合量のポリエステル樹脂の水性分散液(i)、脱イオン水、付加重合性モノマー(a2)であるスチレンを仕込み、30分間撹拌を行った。次に、窒素気流下、過硫酸ナトリウムを加え、80℃で6時間反応させた。その後、室温まで冷却し、200メッシュの金網で濾過し、グラフトポリマーを含有する熱転写受像シート用樹脂の水性分散液(I)〜(III)を得た。なお、各材料の配合量は、得られる水性分散液中の熱転写受像シート用樹脂におけるポリエステル樹脂セグメント(A1)と付加重合系樹脂セグメント(A2)との重量比が表3に示すようになるようにして決定された。
得られた熱転写受像シート用樹脂の水性分散液(I)〜(III)のそれぞれの物性について、測定した結果を表3に示す。また、水性分散液(I)〜(III)中に含まれるポリエステル樹脂a,bを主鎖とするグラフトポリマーP,Q,Rの物性値を表4に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
実施例1〜7、及び比較例1〜6
(熱転写受像シートの製造)
まず、表5に示す組成及び配合量の水溶性高分子と水(脱イオン水)を25℃で30分間撹拌した後、50℃で加熱混合し均一に溶解させた。その後、表5に示した組成及び配合量の中空粒子を50℃で混合し、断熱層用塗工液を作製した。
この断熱層用塗工液を、合成紙(ユポ・コーポレーション社製、商品名:YUPO FGS−250、厚さ250μm、坪量200g/m2)にワイヤーバーにより乾燥後に20.0g/m2になるように塗布し、25℃で5分間乾燥させて、断熱層塗工シートを得た。
なお、断熱層用塗工液の調製には、中空粒子として以下のスチレンアクリル共重合体、水溶性高分子として以下のゼラチンを用いた。
・中空粒子:スチレンアクリル共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名:Nipol MH8101、中空率=50%、固形分濃度=26重量%、メチルエチルケトン不溶分=50%、体積中位粒径(D50)=420nm)
・水溶性高分子:ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、商品名:G0886K、粘度4.4mPa・s(JIS K6503−2001で測定した粘度(60℃)))
【0096】
次に、表5に示した組成及び配合量の造膜剤とイオン交換水を25℃で30分間撹拌した後、均一に溶解するまで60℃で加熱混合させ、その後40℃で保温した。そして、表5に示した組成及び配合量の熱転写受像シート用樹脂の水性分散液とポリエーテル変性シリコーンを25℃で30分間卓上型ボールミルを用いて撹拌した後、40℃で保温した。両者を40℃で混合させ染料受容層用塗工液A〜Mを作製した。それぞれの塗工液は40℃で保温した。なお、染料受容層用塗工液の作製に用いたポリエステル系樹脂の水性分散液は、固形分濃度を30重量%に調整し、25%アンモニア水溶液でpHを9.0に調整した。また、染料受容層の調製には、造膜剤として以下のゼラチン、離型剤として以下のポリエーテル変性シリコーンを用いた。
・造膜剤:ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製、商品名:G0886K、粘度4.4mPa・s(JIS K6503−2001で測定した粘度(60℃)))
・ポリエーテル変性シリコーン:商品名:KF−615A、KF−6012、X−22−4515、KF−355A、KF−354L(以上、信越化学工業株式会社製)、商品名:SF8410、SH8400、L−7002、FZ2164(以上、東レダウコーニング株式会社製)
【0097】
この40℃で保温した染料受容層用塗工液の各々を、上述の断熱層塗工シートにワイヤーバーにより、乾燥後に3.5g/m2になるように塗布し、5℃で1分間冷却した後、50℃で2分間乾燥させて、熱転写受像シートを得た。
【0098】
<熱転写受像シートの評価>
得られた熱転写受像シートについて、以下の方法により評価を行った。結果を表5に示す。
(離型性−低濃度領域での離型性)
作製した熱転写受像シートに5×5cmの低画像濃度でのベタ画像(前記最高濃度を18階調目とした場合の6階調目(L=75))を印画し、熱転写受像シート上に付着した転写シート(インクリボン)成分の付着量を下記基準で離型性(熱融着性)を評価した。
A:受像シート上にインクリボン成分は全く付着していない。
B:受像シート上にわずかにインクリボン成分が付着している。
C:受像シート全面にインクリボン成分が付着している。
D:熱融着しており、剥離できない。
【0099】
(離型性−高濃度領域での離型性)
作製した熱転写受像シートに5×5cmの高画像濃度でのベタ画像(18階調目(L=0:最高濃度))を印画し、黒ベタ画像印画時のインクリボンと熱転写受像シートとの剥離音から、下記基準で離型性(熱融着性)を評価した。
A:異音はなく、融着も見られず、剥離できる。
B:わずかに異音があるが、融着は見られず、剥離できる。
C:明らかな異音があり、わずかに融着が見られるが、剥離できる。
D:熱融着しており、剥離できない。
【0100】
(画像保存性−にじみ)
幅1mm、長さ5cmの細線を印画し、60℃、85%に設定した恒温恒湿器(エスペック株式会社製、商品名:PR−1KT)内で168時間放置した後、顕微鏡を用いて目視にて細線の太さを10ヶ所測定し、画像のにじみを評価した。
A:にじみがない。
B:にじみがわずかにあり、幅1mmの細線の太さがが1.0倍を超えて1.2倍未満である。
C:にじみがあり、幅1mmの細線が1.2倍以上1.5倍未満である。
D:にじみがあり、幅1mmの細線が1.5倍以上である。
【0101】
(染着性)
作製した熱転写受像シートに、市販の昇華型プリンタ(アルテック株式会社製、商品名:MEGAPIXEL III)を用いて黒(K)の階調パターンを印画し、高濃度印画(18階調目(L=0:最高濃度))での転写色濃度をグレタグ濃度計(GRETAG−MACBETH社製)で画像濃度を測定し、染着性を評価した。画像濃度の値が大きいほど、染着性が優れる。
【0102】
【表5】

【0103】
表5から明らかなように、比較例1〜6の熱転写受像シートに比べて、実施例1〜7の熱転写受像シートはいずれも、低画像濃度のベタ画像、及び高画像濃度のベタ画像印画時においてインクリボンと受像シートとが熱融着することなく離型性に優れ、にじみのない印画物が得られることがわかる。更に実施例の熱転写受像シートは高濃度印画時の最高濃度が高く染着性にも優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の熱転写受像シートは、高画像濃度領域及び低画像濃度領域の双方において離型性に優れ、にじみのない印画物が得られ鮮明な画像を形成することができる。そのため、昇華性染料を用いた熱転写印画用の熱転写受像シートとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーン、及び酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する染料受容層を有する、熱転写受像シート。
【請求項2】
前記染料受容層中の前記ポリエーテル変性シリコーンの含有量が、染料受容層中に含まれる前記ポリエステル系樹脂に対して、1〜10重量%である、請求項1に記載の熱転写受像シート。
【請求項3】
基材上に、断熱層、染料受容層が当該順序で構成される、請求項1又は2に記載の熱転写受像シート。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂のガラス転移点が45〜100℃である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱転写受像シート。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエステルからなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)から構成されるグラフトポリマーである、請求項1〜4のいずれかに記載の熱転写受像シート。
【請求項6】
前記グラフトポリマーを構成するセグメント(A1)とセグメント(A2)との重量比[セグメント(A1)/セグメント(A2)]が60/40〜90/10である、請求項5のいずれかに記載の熱転写受像シート。
【請求項7】
前記グラフトポリマーが、セグメント(A1)が主鎖であり、セグメント(A2)が側鎖であるグラフトポリマーである、請求項5又は6に記載の熱転写受像シート。
【請求項8】
セグメント(A1)が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物を50モル%以上含むアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合して得られるポリエステルである、請求項5〜7のいずれかに記載の熱転写受像シート。
【請求項9】
下記工程(3)〜(5)を有する熱転写受像シートの製造方法。
工程(3):酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液に、HLBが4〜9であり、25℃における粘度が1000〜5000mPa・sであるポリエーテル変性シリコーンを添加して染料受容層用塗工液を調製する工程
工程(4):工程(3)で得られた染料受容層用塗工液を用いて染料受容層を設ける工程
工程(5):染料受容層を40〜110℃で1〜10分間乾燥する工程
【請求項10】
前記ポリエステル系樹脂の水性分散液を調製する方法が、下記工程(1)及び(2)を有する、請求項9に記載の熱転写受像シートの製造方法。
工程(1):非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエステル樹脂(a1)を水性媒体と混合して、前記ポリエステル樹脂(a1)の水性分散液を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた水性分散液に、前記付加重合性モノマー(a2)を添加し、重合して、グラフトポリマーである酸価が10〜40mgKOH/gであるポリエステル系樹脂の水性分散液を得る工程