説明

熱転写受像シート

【課題】受容層の表面が適度の凹凸を有して、光を散乱させ、所謂艶消しの表面を有し、かくして、格調の高い熱転写画像を形成することができる熱転写受像シートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、熱転写し得る染料又はインクの層を有する熱転写シートを加熱したとき、その染料又はインクを受容する樹脂からなる受容層を基材シート上に有する熱転写受像シートにおいて、上記受容層が上記樹脂成分を含む粉体塗料組成物の塗膜からなり、その塗膜の表面粗さがJIS B 0601−1994にて規定されている算術平均粗さRaが0.5〜4.0の範囲にあると共に、十点平均粗さRzが3.0〜20.0の範囲にある熱転写受像シートが提供される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、染料やインクによる熱転写受像シートに関し、詳しくは、種々の染料又はインクを用いる種々の印刷又は記録方式において、基材シート上にそのような染料又はインクを受容するための受容層を有する熱転写受像シートに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、文字、画像等の情報を種々の染料又はインクにて記録用受像シートに印刷し、記録するために、種々の熱転写記録方式が知られている。しかし、どのような熱転写記録方式を採用するにせよ、上記記録用受像シートは、一般的には、受像シートに熱転写される染料又はインクの滲みを防止したり、定着させたりする機能を有する物質を適宜の溶剤に溶解又は分散させ、これを適宜の基材シート上に単層又は多層に積層して形成してなるものである。従って、一方においては、このような記録用受像シートは、その製造工程の多さから、高価なものとならざるを得ず、他方においては、それぞれの印刷方式における特性から、それぞれに対応して、特殊な記録用受像シートを用いないときは、高品質の印刷物を得ることができない。
【0003】熱転写記録方式の代表的な一つとして、昇華性染料熱転写型印刷方式が知られている。例えば、電子写真方式による画像の印刷において、露光時に予め定められた基準色に対応する色分解機を用いて、画像に対して感光体を選択的に露光させて、潜像を感光体上に形成し、その潜像に対応する基準色で現像して得られた顕像を記録用受像シート上に次々に重ねて熱転写する多色画像形成方式において、昇華性染料熱転写型印刷方式が用いられている。この方式においては、例えば、イエロー、マゼンタ及びシアンの3色それぞれについて得られた顕像を次々と重ねて熱転写することによって、記録用受像シート上に所謂フルカラー複写を得ることができる。
【0004】この昇華性染料熱転写型印刷方式は、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムのような適宜の支持体上に昇華性の染料の層を形成してなる熱転写シート(インクシートやインクフィルムとも呼ばれる。以後、インクシートという。)を調製し、別に、その表面に上記染料を受容する受容層を備えた熱転写受像シートを調製し、上記インクシートの染料層側の表面を上記熱転写受像シートの受容層側の表面に重ね合わせ、サーマルヘッド等の感熱手段によって、画像情報に応じて、インクシートを加熱して、上記染料を上記画像情報に対応して、熱転写受像シートの受容層に移行させて、インクシートから熱転写受像シートに画像を熱転写する印刷方式をいう。
【0005】このような昇華性染料転写型印刷方式においては、従来、熱転写受像シートは、紙や合成紙や合成樹脂シート等の基材シート上にインクシートの染料が熱によって拡散又は移行することのできる樹脂層からなる受容層と、そのような受容層とインクシートとの加熱時の融着を防止し、離型性をもたせるための樹脂層とからなる複数の樹脂層を湿式塗工法にて順次に積層することによって製造されている。
【0006】即ち、従来の熱転写受像シートは、基材シート上に上述したような受容層を構成する樹脂を含む溶液を塗布し、乾燥させて、受容層を形成し、次いで、その上に離型層を形成するための樹脂層を塗布し、乾燥させて、離型層を形成し、かくして、機能別に複数の樹脂層を分離して積層して、製造されている。必要に応じて、基材シートと受容層との間に、アンダーコート層や中間層が形成されることもある。従って、このような従来の熱転写受像シートは、その製造工程が複雑であり、製造コストが高い。
【0007】そこで、インクシート上に樹脂層を予め積層しておき、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック染料を基材シートに順次に転写する前に、先ず、基材シート上に上記樹脂層を熱転写して受容層を形成し、次いで、この受容層の上に上記染料を熱転写する染料転写型フルカラー印刷方式も提案されている。
【0008】しかし、この方式によれば、樹脂層の熱転写に時間を要し、全体として、フルカラー印刷に長時間を要するほか、基材シート上に均一な受容層を形成することが容易でなく、得られる転写画像が品質に劣る問題もある。そのうえ、インクシートの表面に上記受容層のための樹脂層を積層するにも、技術的に種々の問題がある。このように、いずれにしても、従来、昇華性染料転写型印刷方式は、そのための専用シートを必要とする。
【0009】他方、熱溶融性インク転写型印刷方式も知られている。この印刷方式においては、インクシートのインクを加熱溶融させ、これを熱転写受像シートに転写し、定着させるものである。従って、熱溶融性インク転写型印刷方式のための記録用受像シートは、基材シート上に溶融したインクを受け入れるための微細な多孔質の樹脂層が設けられている。このように、熱溶融性インク転写型印刷方式も、そのための専用シートを用いることが必要である。
【0010】以上のように、従来の熱転写型印刷方式においても、高品質の印刷画像を得るためには、その印刷方式に応じて、基材シート上に染料又はインクを受容するための受容層を単層乃至多層に設けた特殊な専用の受像シートを必要としており、一般の紙を用いた場合には、所期の高品質の印刷画像を得ることができない。従って、上述した熱転写印刷方式は、それぞれに要求される所定の専用の記録用受像シートを用いた場合には、高品質の印刷画像を得ることができるものの、印刷費用が高い問題がある。
【0011】このように、従来の熱転写受像シートは、多くの場合、染料又はインクを受容する受容層とインクシートとの離型性を有する離型層とを湿式塗工によって積層して製造されており、このようにして製造された専用シートにおける受容層は、通常、JIS B 0601−1994に規定されている表面粗さRaが0.2〜0.4の範囲であり、十点平均粗さRzが1.5〜2.0の範囲にあって、受容層の表面が平滑であり、光沢を有する。従って、このように平滑な受容層の表面には、鉛筆、ボールペン、万年筆等の通常の筆記具にて筆記することが困難であるうえに、表面が所謂艶消しのような格調高い転写画像を得ることができない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の熱転写受像シートにおける上述したような問題を解決するためになされたものであって、受容層の表面が適度の凹凸を有して、光を散乱させ、所謂艶消しの表面を有し、かくして、格調の高い熱転写画像を形成することができ、しかも、通常の筆記具にて容易に筆記することもできる熱転写受像シートを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、熱転写し得る染料又はインクの層を有する熱転写シートを加熱したとき、その染料又はインクを受容する樹脂からなる受容層を基材シート上に有する熱転写受像シートにおいて、上記受容層が上記樹脂成分を含む粉体塗料組成物の塗膜からなり、その塗膜の表面粗さがJIS B 0601−1994にて規定されている算術平均粗さRaが0.5〜4.0の範囲にあると共に、十点平均粗さRzが3.0〜20.0の範囲にあることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明において、粉体塗料組成物は、樹脂成分を含む。この樹脂成分は、粉体塗料組成物の種々の成分を粉体にまとめる結着樹脂としての役割と共に、基材シート上に塗膜としての受容層を形成して、文字や画像の印刷に際して、それらを形成する染料やインクを受容して、熱転写受像シートへの印刷又は記録を可能とするものである。
【0015】このような樹脂成分としては、例えば、飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン・アクリル共重合体樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、エチル・酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【0016】これらのなかでも、本発明においては、特に、飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂又はスチレン・アクリル共重合体樹脂が好ましく用いられる。
【0017】飽和ポリエステル樹脂は、2価カルボン酸と2価アルコールとの縮合重合によって得られる重合体であって、上記2価カルボン酸としては、限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂肪族二塩基酸、無水フタル酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族二塩基酸等を挙げることができる。必要に応じて、3価以上の多塩基酸を併用してもよい。このような多塩基酸として、例えば、トリメリット酸無水物やピロメリット酸無水物を挙げることができる。
【0018】また、2価アルコールとしても、限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、水添ビスフェノールA等を挙げることができる。必要に応じて、3価以上の多価アルコールを併用してもよい。このような多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等を挙げることができる。
【0019】本発明においては、飽和ポリエステル樹脂として、市販品を好適に用いることができる。そのような市販品として、例えば、バイロン103、200、290、600(東洋紡績(株)製)、KA−1038C(荒川化学(株)製)、TP−220、235(日本合成化学工業(株)製)、ダイヤクロンER−101、ER−501、FC−172、FC−714(三菱レイヨン(株)製)、タフトンNE−382、1110、2155(花王(株)製)等を挙げることができる。
【0020】塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体も、市販品を好適に用いることができる。市販品として、例えば、デンカビニール#1000D、#1000MT2、#1000MT3、#1000LK2、#1000ALK(電気化学工業(株)製)、UCRA−VYHD、UCRA−VYLF(ユニオン・カーバイド製)、エスレックC(積水化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0021】また、スチレン・アクリル共重合体樹脂は、スチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって、具体的には、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0022】このようなスチレン・アクリル共重合体樹脂も、種々の市販品を好適に用いることができる。市販品としては、例えば、ハイマーUNi−3000、TB−1800、TBH−1500(三洋化成工業(株)製)、CPR−100、600B、200、300、XPA4799、4800(三井東圧化学(株)製)等を挙げることができる。
【0023】本発明においては、粉体塗料組成物は、好ましくは、白色の着色剤又は無色の充填剤を含む。このような着色剤又は充填剤としては、例えば、亜鉛華、酸化チタン、酸化スズ、アンチモン白、硫化亜鉛、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナ、バライト等が用いられる。白色着色剤としては、通常、酸化チタンが好ましく用いられて、基材シート、例えば、紙に白色の地色を与える。白色の着色剤又は無色の充填剤は、粉体塗料組成物において、通常、0.5〜15重量%、好ましくは、1〜10重量%の範囲で配合される。
【0024】また、本発明においては、粉体塗料組成物は、これを基材シートの表面に定着させる際に、オフセットを起こさないように、オフセット防止剤を含んでいてもよい。オフセット防止剤としては、通常、融点が50〜150℃の範囲にある種々のワックス類が好ましく用いられる。具体的には、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンワックス、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、高級脂肪酸、高級アルコール等を挙げることができる。このようなオフセット防止剤は、通常、粉体塗料組成物に0.1〜20重量%、好ましくは、0.5〜10重量%の範囲で用いられる。
【0025】更に、本発明においては、粉体塗料組成物の流動性を高めるために、疎水性シリカ微粉末やアルミナ微粉末のような流動性改良剤を粉体塗料組成物に配合してもよい。このように、粉体塗料組成物に流動性改良剤を配合することによって、粉体塗料組成物を基材シートに静電スプレー法にて乾式塗工する際の流動性を改善することができる。
【0026】更に、上記疎水性シリカ微粉末やアルミナ微粉末は、インクシートの離型性を高めるのにも役立つ。即ち、疎水性シリカ微粉末やアルミナ微粉末を粉体塗料組成物に配合することによって、記録用受像シートは、特に、インクシートからの画像の熱転写に際して、インクシートと記録用受像シートが融着せず、かくして、記録用受像シートからのインクシートの離型性を高めることができる。このように、記録用受像シートからのインクシートの離型性を高めるための疎水性シリカ微粉末やアルミナ微粉末としては、例えば、RA−200H(疎水性シリカ微粉末)、T−805(アルミナ微粉末)等(いずれも日本アエロジル(株)製)の市販品を好適に用いることができる。本発明においては、このような疎水性シリカ微粉末やアルミナ微粉末は、粉体塗料組成物100重量部に対して、必要に応じて、10重量部以下、好ましくは、0.1〜5重量部、好ましくは、0.2〜2重量部の範囲で配合される。
【0027】本発明においては、特に、インクシートから熱転写受像紙に印刷する際に、インクシートの離型性を確保するために、粉体塗料組成物は、前記樹脂成分と共に、反応性官能基を有する反応性シリコーンオイルから誘導される硬化物を含むことが好ましい。このような反応性シリコーンオイルの硬化物としては、相互に反応し得る官能基を有する少なくとも2種類の反応性シリコーンオイルがその官能基によって相互に反応してなる硬化物であってもよく、また、単一の官能基を有するシリコーンオイルと樹脂成分の有する官能基、例えば、カルボキシル基や水酸基とが反応してなる硬化物であってもよい。
【0028】このような反応性シリコーンオイルは、例えば、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等の官能基をポリシロキサン、通常、ジメチルポリシロキサンの側鎖又は分子末端又は両方に導入したものであって、既に種々のものが市販されており、本発明においても、そのような市販品から官能基の反応性を考慮して、適宜に選択して用いることができる。
【0029】例えば、アミノ変性シリコーンオイルとしては、例えば、KF−393、861、864、X−22−161A(信越化学工業(株)製)、エポキシ変性シリコーンオイルとしては、例えば、KF−101、102、103、105、X−22−163C、X−22−169C(信越化学工業(株)製)、カルボキシル変性シリコーンオイルとしては、例えば、X−22−162A、X−22−3710、X−22−162C、X−22−3701E(信越化学工業(株)製)、カルビノール変性シリコーンオイルとしては、例えば、X−22−162AS、KF−6001(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。このようなシリコーンオイルについては、例えば、「シリコーンハンドブック」(1990年8月31日日刊工業新聞社発行)にその性状や製造方法が詳細に記載されている。
【0030】本発明においては、粉体塗料組成物中に、相互に反応し得る官能基を有する少なくとも2種類の反応性シリコーンオイルがその官能基によって相互に反応してなる硬化物を含有させる場合には、反応性シリコーンオイルの組合わせとして、これらのなかでは、例えば、アミノ基又は水酸基を有する変性シリコーンオイルとエポキシ基、イソシアネート基又はカルボキシル基を有する変性シリコーンオイルとの組合わせが好ましく用いられ、特に、アミノ変性とエポキシ変性シリコーンオイルとの組合わせが好ましく用いられる。このような2種の反応性シリコーンオイルは、相互に反応し得る官能基がほぼ等量となるように用いられる。
【0031】また、粉体塗料組成物中に、単一の官能基を有するシリコーンオイルと樹脂成分の有する官能基、例えば、カルボキシル基や水酸基とが反応してなる硬化物を含有させる場合には、例えば、エポキシ基を有する変性シリコーンオイルが好ましく用いられる。
【0032】本発明によれば、粉体塗料組成物は、このような反応性シリコーンオイルから誘導される硬化物をシリコーンオイル換算で0.5〜12重量%の範囲で含むことが好ましく、特に、0.5〜10重量%の範囲で含むことが好ましい。粉体塗料組成物における上記反応性シリコーンオイルの硬化物の量が0.5重量%よりも少ないときは、例えば、得られる受像シートが離型性において十分でなく、熱転写に際して、インクシートと受像シート紙とが融着し、高品質の画像を得ることができない。他方、粉体塗料組成物におけるシリコーンオイルの硬化物の量が12重量%よりも多いときは、得られる受像シートにおける硬化物の量が多すぎて、得られる転写画像が濃度に劣る。
【0033】しかし、本発明においては、反応性シリコーンオイルでアクリル樹脂を変性した粉末状のシリコーン変性アクリル樹脂を上記反応性シリコーンオイルの硬化物に代えて用いることができる。このようなシリコーン変性アクリル樹脂としては、例えば、X−22−8004、X−22−2110等(信越化学工業(株)製)の市販品を好適に用いることができる。
【0034】本発明において用いる粉体塗料組成物は、前記樹脂成分のほか、必要に応じて、上述したような着色剤、充填剤、反応性シリコーンオイル、シリコーン変性アクリル樹脂、オフセット防止剤等を混合し、この混合物を、通常、100〜200℃程度、好ましくは、130〜180℃程度の温度で数分、通常、3〜5分程度、溶融混練すれば、反応性シリコーンオイルを配合した場合にも、この間にこれら反応性シリコーンオイルが相互に反応し、又は樹脂成分と反応して、硬化物を形成する。しかし、上記加熱温度及び時間は、特に、限定されるものではなく、前記樹脂成分や反応性シリコーンオイルのほか、着色剤、充填剤やオフセット防止剤等の各成分が均一に混合されると共に、反応性シリコーンオイルが相互に又は樹脂成分と反応して、硬化物を形成する条件であればよい。このように、混合物を溶融混練し、冷却した後、粉砕し、適当な平均粒子径を有するように分級すれば、インクや染料のための受容層を形成するための粉体塗料組成物を得ることができる。粉体塗料組成物の平均粒径は、通常、1〜30μmの範囲であり、好ましくは、5〜20μmの範囲である。
【0035】本発明によれば、適宜の基材シート上に上述したような粉体塗料組成物を乾式塗工し、これを加熱溶融し、定着させて、上記基紙上に粉体塗料組成物からなる樹脂塗膜を染料又はインク受容層として形成すれば、その表面粗さがJIS B0601−1994にて規定されている算術平均粗さRaが0.5〜4.0の範囲にあると共に、十点平均粗さRzが3.0〜20.0の範囲にあり、かくして、表面に適度の凹凸を有する受容層を備えた熱転写受像シートを得ることができる。
【0036】受容層の表面粗さが上記よりも小さいときは、従来の表面が平滑な熱転写受像シートに近く、表面が光沢を有する。他方、表面粗さが上記よりも大きいときは、表面が過度に凹凸を有し、インクシートを受像シートに重ね合わせ、インクシートを加熱して、染料又はインクを受像シートに移行させる際に、インクシートと受像シートとの接触状態が一様でなく、転写不良が起こりやすい。
【0037】本発明において、受容層は、基材シートの全面に形成されてもよく、また、必要に応じて、所定の箇所に部分的に形成されてもよい。受容層の厚みは、通常、1〜100μm、好ましくは、5〜50μmの範囲である。
【0038】本発明において、基材シートとしては、特に、限定されるものではないが、通常、紙、合成紙、合成樹脂シート等が好ましく用いられる。紙は、通常のセルロース繊維からなるものであれば、特に、限定されるものではなく、普通紙のほか、上質紙、コート紙等を含む。普通紙としては、通常のPPCコピー用紙や、このPPCコピー用紙の表面の平滑性を高めるためにカレンダー処理したものや、更には、既に表面処理されている熱転写用ワード・プロセッサ用紙やコート紙等を挙げることができる。合成樹脂シートとしては、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等からなるシートを挙げることができる。合成紙としては、例えば、ポリオレフィン樹脂やその他の合成樹脂を樹脂成分とし、これに所要の無機質充填剤等を混合し、押出によって得られるものを挙げることができる。
【0039】本発明において、粉体塗料組成物を基材シート上に乾式塗工するには、例えば、静電スプレー法、静電浸漬法等の静電塗装、溶射法、吹き付け塗装法、ディスパージョン法、粉末溶融積層法等の粉体塗装、散粉法、カスケード法、磁気ブラシ現像法、パウダークラウド法、オープンチャンバー法、液体現像法、毛皮現像法、印写現像法、静電誘導による現像法等の電子写真方式等によることができる。
【0040】これらの乾式塗工のなかでも、本発明においては、例えば、静電スプレー法を好ましく用いることができる。この静電スプレー法は、粉体塗装の一種であるが、具体的には、スプレーガンの先端に微粒子化した粉体塗料組成物を空気にて搬送すると共に、このスプレーガンの先端に組み込んだ針電極に負の高電圧(例えば、−50〜−90kV)を印加し、上記微粒化した粉体塗料組成物を負に帯電させ、他方、基材シートの裏面に接地した電極を沿わせ、かくして、スプレーガンと接地した電極との間に存在する電界によって、上記負に帯電した微粒子状の粉体塗料組成物を上記基材シートまで運んで静電的に付着させるのである。
【0041】図1は、このような静電スプレー法を用いる本発明の方法の好ましい態様を示す。即ち、ロール1から巻き戻した連続した長尺の基材シート2は、搬送ベルト3によってブース4内に案内され、ここで、後述するように、静電スプレー法にて粉体塗料組成物が乾式塗工された後、定着ロール5を経て、再度、ロールに巻かれるか、又は適宜に裁断される。上記搬送ベルト3は、それが搬送する基材シートに沿って、裏側に接地された(即ち、正極の)電極6を有する。微粒子化した粉体塗料組成物は、貯蔵槽7から圧縮空気にてスプレーガン8に搬送され、他方、このスプレーガンの先端に組み込んだ針電極(図示せず)には、直流電源9によって負の高電圧が印加され、上記微粒化した粉体塗料組成物は負に帯電する。かくして、粉体塗料組成物は、上記スプレーガンと搬送ベルト上の基材シートに沿った前記電極との間に存在する電界によって、基材シートまで運ばれて、これに静電的に付着する。このようにして、粉体塗料組成物が乾式塗工された基材シートは、定着ロール5に導かれ、ここで、粉体塗料組成物は加熱溶融されて、基材シート上に定着されて、染料又はインク受容層としての樹脂塗膜が形成される。
【0042】従って、このような静電スプレー法によれば、基材シートの全面に受容層を形成することのみならず、必要に応じて、基材シートの一部、所要の箇所にのみ、容易に受容層を形成することができる。
【0043】
【発明の効果】以上のように、本発明の方法によれば、基材シート上に粉体塗料組成物を乾式塗工して、均一に付着させ、これを加熱溶融させ、定着させて、樹脂塗膜からなる染料又はインク受容層を形成することによって、表面粗さがJIS B 0601−1994にて規定されている算術平均粗さRaが0.5〜4.0の範囲にあると共に、十点平均粗さRzが3.0〜20.0の範囲にあり、かくして、適度の凹凸によって、所謂艶消しの表面を有し、格調の高い熱転写画像を形成することができ、しかも、鉛筆、ボールペン、万年筆等の通常の筆記具を用いて筆記することもできる。
【0044】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
実施例1(粉体塗料組成物の製造)
飽和ポリエステル樹脂(花王(株)製タフトンNE−38 2、酸価8.9mgKOH/g) 44 重量% スチレン・アクリル共重合体樹脂(三洋化成工業(株)製 TB−1804) 44 重量% オフセット防止剤(三洋化成工業(株)製ワックス、ビス コール550P) 4 重量% 酸化チタン 5 重量% エポキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製K F−102) 3 重量%
【0046】上記の組成を有する原料をミキサーを用いて混合した後、二軸溶融混練機にて150〜160℃で3〜5分間、溶融混練した。冷却した後、得られた混練物を粉砕し、分級して、平均粒径10μmの白色粉体塗料組成物を得た。この粉体塗料組成物100重量部に流動化付与剤として疎水性シリカ(日本アエロジル(株)製H−2000/4)2重量部を混合して、静電スプレー法にて乾式塗工するための白色粉体塗料組成物とした。
【0047】(熱転写受像紙の製造)市販の静電スプレー装置にて、市販の普通紙の全面に上記白色粉体塗料組成物を均一に付着させた後、加熱し、溶融し、定着させて、厚み20μmの受容層を有する白色の熱転写受像紙を得た。このようにして得られた熱転写受像シートの表面の光沢の有無を目視にて調べた。また、Mitutoyo製表面粗さ測定器Surftest−50にてJIS B 0601−1994に記載の手順に従って、基準長さを2.5mmとして、受容層の表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRaは0.6、十点平均粗さRzは10であった。
【0048】(昇華性染料の熱転写)昇華型熱転写方式高速プリンタを用いて、下記の印画条件にて、インクシートと熱転写受像紙とを染料層側の表面と受容層とが接触するように重ね合わせ、インクシートをサーマルヘッドで加熱して、受像紙の受容層に染料を転写した。この転写画像において、印画濃度(イエロー、マゼンタ、シアン)とインクシートとの離型性の評価を行なった。結果を表1中、性能評価の欄に示す。
【0049】昇華型熱転写方式高速プリンタの転写条件サーマルヘッド:KGT−219−12MPL2(京セラ(株)製)
駆動電圧: 17Vライン速度: 4ms
【0050】インクシートの昇華性染料昇華性染料イエロー:スチリル系イエロー色素昇華性染料マゼンタ:アントラキノン系マゼンタ色素昇華性染料シアン: インドアニリン系シアン色素
【0051】試験方法印画濃度は、デンシトメータ(コニカ製PDA−60)を用いて反射濃度を測定した。インクシートとの離型性を調べるために、高速印画性、印画画像の受容層からの剥離により生ずる白抜けの状況の有無、受容層へのインクシートの付着の有無、更に、印画時にインクシートと受像紙とを剥離する際に発生する異音の大小を総合的に検討し、下記のように3段階評価した。
【0052】
○:受容層の剥離及びインクシートの付着なく、印画時の発生異音も小さい。
△:受容層の剥離及びインクシートの付着が少しあり、印画時の発生異音が大きい。
×:高速印画ができないか、又は受容層の剥離若しくはインクシートの付着が著しい。
【0053】(熱溶融性インクの熱転写)市販の溶融型熱転写方式プリンタ(三菱電機(株)製G370−70)を用いて、下記の印画条件にて、インクシートと実施例1で得た熱転写受像紙とを染料層側の表面と受容層とが接触するように重ね合わせ、インクシートをサーマルヘッドで加熱して、受像紙の受容層に染料を転写した。この転写画像において、印画濃度(イエロー、マゼンタ、シアン)とインクシートとの離型性の評価を行なった。結果を表1中、性能評価の欄に示す。
【0054】試験方法印画濃度は、デンシトメータ(コニカ製PDA−60)を用いて反射濃度を測定した。インクシートとの離型性を調べるために、印画性、印画画像の受容層からの剥離により生ずる白抜けの状況の有無、受容層へのインクシートの付着の有無、更に、印画時にインクシートと受像紙とを剥離する際に発生する異音の大小を総合的に検討し、下記のように3段階評価した。
【0055】
○:受容層の剥離及びインクシートの付着なく、印画時の発生異音も小さい。
△:受容層の剥離及びインクシートの付着が少しあり、印画時の発生異音が大きい。
×:印画ができないか、又は受容層の剥離若しくはインクシートの付着が著しい。
【0056】比較例1受容層の表面粗さ(JIS B 0601−1994)、算術平均粗さRaが0.3、十点平均粗さRzが1.5である昇華性染料熱転写受像シートの市販品に実施例1と同様にして昇華性染料を熱転写し、印画濃度とインクシートとの離型性を調べた。また、熱転写受像シートの表面光沢の有無を目視にて調べた。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の方法の好ましい態様を実施するための装置構成図である。
【符号の説明】
1…ロール、2…基材シート、3…搬送ベルト、4…ブース、5…定着ロール、6…電極、7…粉体塗料組成物貯蔵槽、8…スプレーガン、9…直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】熱転写し得る染料又はインクの層を有する熱転写シートを加熱したとき、その染料又はインクを受容する樹脂からなる受容層を基材シート上に有する熱転写受像シートにおいて、上記受容層が上記樹脂成分を含む粉体塗料組成物の塗膜からなり、その塗膜の表面粗さがJIS B 0601−1994にて規定されている算術平均粗さRaが0.5〜4.0の範囲にあると共に、十点平均粗さRzが3.0〜20.0の範囲にあることを特徴とする熱転写受像シート。

【図1】
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【公開番号】特開平10−278442
【公開日】平成10年(1998)10月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−89682
【出願日】平成9年(1997)4月8日
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)