説明

熱転写受容シート

【課題】
熱転写受容シートが高温又は高湿度環境に置かれた場合においても、充分なブロッキング防止性とカール防止性を有し、且つ画質低下を起こすことがなく、更に、印画物を重ねて保存しても、裏移りが発生しない、高画質の熱転写受容シートを提供する。
【解決手段】
シート状支持体と、前記支持体の片面に染料を受容する画像受容層と、前記支持体の他面に裏面塗工層とを有する染料熱転写受容シートにおいて、該裏面塗工層が、顔料を含有せず、且つ、スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂、及びガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体を含有する熱転写受容シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱転写受容シート(以下、単に受容シートとも称する。)に関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、受容シートの裏面塗工層(以下、単に裏面層とも称する。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
染料熱転写方式による高画質のカラーハードコピープリントシステムは、プリンターと、熱転写シート(以下、単にインクリボンとも称する。)と、受容シートとから構成される。受容シートにカラー画像を形成する一般的な方法としては、イエロー、マゼンタ、シアン、更に必要に応じてブラックの3色または4色からなる色材層が面順次に設けられたインクリボンと、画像受容層(以下、単に受容層と称する。)が設けられた受容シートを密着させて、一定の圧力で押圧された加熱デバイスとプラテンローラーとの間を通過させる。その時、画像情報に応じて加熱デバイスの発熱部分を選択的に発熱させ、インクリボンの色材層に含まれる染料を受容シートの受容層に移行させて画像を形成する。インクリボンには3色または4色の色材層が面順次に設けられており、受容シートの同一位置に1色ずつ3回または4回に分けて異なる色が順次転写され、各色が重ねられてカラー画像が形成される。
【0003】
一般に受容シートは、シート状支持体と、シート状支持体の一面に形成され、インクリボンから移行する染料の染着性に優れた受容層と、シート状支持体の他の面に形成され、受容層とのブロッキング防止性を備えた裏面層とから形成される。
【0004】
受容シートは製造工程において、受容層塗料、裏面層塗料を塗工・乾燥してロール状に巻き取って保管するなど、受容層面と裏面層面が接触して、高温のまま重ねられ荷重を受けることが通常である。受容層はインクリボンの色材層が転写しやすい熱可塑性樹脂を主成分としている。このため裏面層には、受容層との貼りつき(いわゆるブロッキング)を防止する機能が求められる。ブロッキングが発生すると、受容層表面の光沢度が低下するため受容シートとしての外観を損ない商品価値が低下するのみならず、受容層表面の平滑性が低下するためカラー画像を形成する際に画質が著しく悪化する。
【0005】
更に、染料が画像受容層に転写された印画物を重ねて保存した場合、受容シートの裏面の材質や形状によっては、画像受容層中の染料が受容シートの裏面側に転写するという現象(裏移り)が発生し、印画物の商品価値を損なうという問題もあった。
【0006】
これまでに熱転写受容シートの受容層面と裏面層面とのブロッキングを防止する目的でいくつかの提案がなされている。受容層の表面に「表面層」としてアクリル系樹脂層を設ける方法(例えば、特許文献1参照。)、マイクロシリカ及び酢酸セルロースを含む裏面層(例えば、特許文献2参照。)、研磨剤を含む裏面層(例えば、特許文献3参照。)などが開示されている。
【0007】
しかし、受容層の表面に「表面層」を設けると、インクリボンの色材層から受容シートへの染料の移行が妨げられ、画質や感度が低下する問題がある。裏面層にマイクロシリカや研磨剤を含有すると、受容層と裏面層との接触面積が減ることによりある程度のブロッキング防止効果が期待できるが、マイクロシリカや研磨剤が、裏面層から脱落(いわゆる「粉落ち」)して受容層面上に移り、染料の移行を妨げて画像の白ヌケを発生させる問題がある。また、裏面層のマイクロシリカや研磨剤により形成された凸部が、受容層面に形状転写して受容層表面に凹部を形成し、画像の白ヌケを発生させる問題がある。
【0008】
更に、ナイロンフィラーと固着剤とを有する裏面層(例えば、特許文献4〜7参照)が提案されている。該裏面層はブロッキング防止効果が高く、ナイロンフィラーは、比較的柔らかい為、受容層への形状転写による白ヌケ現象を発生させ難い。
【0009】
しかしながら、近年写真プリントの分野では、枚葉の受容シートを使用した民生用の小型プリンターだけでなく、ロール状の受容シートを装置内に搭載する業務用プリンターが増加している。プリンター内にセットされたロール状の受容シートには、搬送機構による張力が掛かったままの状態に長時間置かれることが多く、該張力は、受容シートの受容層と裏面とを強く押し付ける力を発生させている。
【0010】
業務用プリンターは、様々な気候の地域で使用されており、プリンターに装填されたロール状の受容シートが、高温環境に長時間置かれた場合、裏面層上にとび出したナイロンフィラーの凸部により、受容層が熱可塑変形して凹部を発生させ、写真画像に白ヌケ現象を発生させる問題がある。或いは、基材にパルプを主成分とする紙を用いた受容シートである場合、高湿度環境に長時間置かれると、基材が吸湿して軟化し、ナイロンフィラーの凸部が基材に埋没してしまい、スペーサー効果が失われてブロッキングが発生する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−94843号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平8−230337号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平5−116472号公報(第2頁)
【特許文献4】特開平7−101163号公報(第2頁)
【特許文献5】特開平8−118822号公報(第2頁)
【特許文献6】特開2000−335120号公報(第2頁)
【特許文献7】特開2006−21431号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明は、受容シートを表裏が接触する状態で高温又は高湿度環境に置いた場合においても、受容シートの裏面塗工層が、画像受容層との充分なブロッキング防止性とカール防止性を有し、且つ画質低下を起すことがなく、更に、印画物を表裏が接触する状態で保存した場合においても、画像の染料が画像受容層から裏面層へ転写すること(裏移り)がない、高画質の熱転写受容シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)シート状支持体と、前記支持体の片面に染料を受容する画像受容層と、前記支持体の他面に裏面塗工層とを有する染料熱転写受容シートにおいて、該裏面塗工層が、スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂、及びガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体を含有する熱転写受容シート。
(2)前記スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂と前記ガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体の固形分比率が9:1〜1:1の範囲内である(1)記載の熱転写受容シート。
(3)前記裏面塗工層の平滑度が50〜800秒の範囲(1)〜(2)記載の熱転写受容シート。
(4)前記裏面塗工層の固形分塗工量が1〜10g/mである(1)〜(3)記載の熱転写受容シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高温又は高湿度環境に置かれた場合においても、熱転写受容シートの裏面塗工層が、画像受容層との接触において充分なブロッキング防止性とカール防止性を有し、且つ画質低下を起こすことがなく、更に、印画物を重ねて保存しても、画像の染料が画像受容層から裏面層へ転写すること(裏移り)がない、高画質の受容シートを提供しようとするものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
(熱転写受容シートの構成)
本発明の受容シートは、シート状支持体と、前記支持体の片面に染料を受容する画像受容層と、前記支持体の他面に裏面塗工層とを有する。
【0016】
(シート状支持体)
本発明の受容シートに用いられるシート状支持体としては、ポリエチレンテレフタレートやポリオレフィンからなるフィルム基材、合成繊維や天然繊維からなる不織布基材、パルプを主成分として抄造される紙機材等やこれら基材を貼り合せた積層基材が使用される。
【0017】
例えば、パルプを主成分とする基材としては上質紙(酸性紙、中性紙)、中質紙、コート紙、アート紙、グラシン紙が挙げられる。更に、パルプを主成分とした基紙の画像受像層面側を樹脂ラミネートしたシート状支持体や、合成樹脂を主成分としたシート類を積層貼合したシート状支持体を使用しても良い。
【0018】
合成樹脂を主成分としたシート類としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。多孔質延伸シート類としては、ポリオレフィン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を主成分とした例えば、合成紙、多孔質ポリエステルシート等が挙げられる。
【0019】
また、シート状支持体の画像受像層面側には、画像鮮明性や画像均一性を向上するために、断熱性とクッション性を付与する目的から内部に空隙を有する低密度のフィルムや、中空粒子を含有する塗工層を積層することもできる。
【0020】
(裏面塗工層)
本発明の裏面塗工層は、スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂、及びガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体を含有する塗工液を塗工することによって形成されるものである。
【0021】
ここでいうガラス転移温度とは、JIS K 7121に基づくガラス転移温度のことである。示差走査熱量形(DSC)にて、試験片を一定速度で昇温したときの吸熱量を測定することで得られ、JIS C 6481で規定されている。
【0022】
本発明で使用するスチレン・アクリル酸共重合体は、重合用モノマーとして少なくとも1種のスチレン含有モノマーと、前記スチレン含有モノマーと共重合可能な少なくとも1種のアクリル酸系モノマーとを共重合して製造される樹脂である。
【0023】
前記スチレン含有モノマーとしては、スチレン及び、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン誘導体等が挙げられる。
【0024】
前記アクリル系モノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸、及びメタクリル酸のエステル等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用するスチレン・マレイン酸共重合体は、重合用モノマーとして少なくとも1種のスチレン含有モノマーと、マレイン酸若しくはマレイン酸含有モノマー、又は、無水マレイン酸若しくは無水マレイン酸含有モノマーとを共重合して製造される樹脂である。
【0026】
尚、本発明の効果を損なわない範囲で、重合用モノマーとして上述のモノマー以外のモノマーを共重合したスチレン・アクリル酸共重合体又はスチレン・マレイン酸共重合体も使用可能である。
【0027】
本発明で使用されるスチレン・アクリル酸共重合体又はスチレン・マレイン酸共重合体は、酸価が150以上であることが好ましい。酸価が150以上となるように合成された共重合体を使用することにより、水溶性となり、水を主成分とした溶媒を用いて安定した裏面層の塗工液を得ることができる。その結果、均一な裏面塗工層を形成し、良好なカール防止効果を得ることができる。
【0028】
本発明で使用するスチレン・アクリル酸共重合体又はスチレン・マレイン酸共重合体は、ガラス転移温度(以下、Tgとも称する。)が20〜80℃である接着性樹脂であり、更に好ましくは、Tg30〜70℃である。20℃未満では、受容層面とのブロッキングや裏移りが発生しやすくなり、80℃を超えると製膜性、接着性が悪化して裏面塗工層が剥がれ易くなる、更にカールも発生し易くなり、プリンタートラブルが発生し易くなる。
【0029】
本発明で使用するスチレン・アクリル酸共重合体又はスチレン・マレイン酸共重合体は、ポリマロン326、ポリマロン1318(荒川化学社製)等の市販品として使用可能である
【0030】
本発明で使用するスチレン・ブタジエン共重合体は、ガラス転移温度が0〜30℃の範囲である。ガラス転移温度が0℃未満では、受容層面とのブロッキングが発生しやすくなり、ガラス転移温度が30℃を超えると、裏面塗工層の製膜性が悪化し、粉落ちによる画質不良が発生する。
【0031】
前記接着性樹脂と前記スチレン・ブタジエン共重合体との固形分比率が9:1〜1:1の範囲内であることが好ましい。
【0032】
前記接着性樹脂の前記スチレン・ブタジエン共重合体に対する最大比率を9とすることにより、裏面塗工層のシート状支持体に対する接着性を上げ、裏面塗工層の一部が転移して、白抜け等の画像欠陥が発生することを防ぐことができる。
【0033】
前記接着性樹脂の前記スチレン・ブタジエン共重合体に対する最小比率を1とすることにより、環境変化による受容シートのカールを防止する効果を高めることができる。
【0034】
前記裏面塗工層の平滑度は、50〜800秒の範囲であることが好ましく、120〜80秒の範囲であることがより好ましい。50秒以上とすることにより、画像欠陥の防止効果を更に高めることができる。800秒以下とすることで受容層とのブロッキング防止効果を更に高めることができる。
前記裏面塗工層の塗工乾燥後の平滑度が、所望の範囲に入らない場合は、カレンダー処理等の各種公知の平滑化処理や、粗面ロールとの接触による粗面化処理等により平滑度を調整することも可能である。
【0035】
尚、ここで言う平滑度は、JIS P 8119に基づいて測定される平滑度である。
【0036】
本発明の裏面塗工層には、本発明の効果を損なわない程度の範囲で顔料を添加することもできるが、裏面塗工層上に突起を形成するような顔料を裏面塗工層に含有しないことが好ましい。具体的には、裏面塗工層の平滑度が、前記好ましい平滑度の範囲に調整されるような範囲で裏面塗工層が顔料を含有することが好ましい。
【0037】
本発明の裏面塗工層は、接着性樹脂の組成、配合比、及び組合せを特定範囲とすることによりブロッキングや裏移りを防止するものである。その為、顔料による粗面化の必要がなく、ロール状に巻き取られたときに、裏面の凹凸による受容層表面の凹みや粗面化の発生が無く、画質低下が発生しない。
【0038】
前記裏面塗工層の塗工量は、1〜10g/mの範囲であることが好ましい、1g/m以上とすることにより、ブロッキング防止効果を高めることができる。また、カール防止及びブロッキング防止効果は、10g/mで略飽和に達する。
【0039】
(画像受容層)
受容層は、インクリボンから移行する染料に対する親和性が高く、染料染着性の良好な樹脂を主成分として含有するものである。染料染着性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、セルロースアセテートブチレート等のセルロース誘導体系樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂、活性エネルギー線硬化樹脂等が挙げられる。
【0040】
また、プリントの際にサーマルヘッドでの加熱によって、受容層とインクリボンとが融着することを防止するために、受容層中に架橋剤、離型剤、滑剤等の1種類以上が添加剤として配合されている事が好ましい。さらに必要に応じて、上記の受容層中に蛍光染料、可塑剤、酸化防止剤、顔料、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤等の1種類以上を添加しても良い。これらの添加剤は塗工前に受容層の形成成分と混合されていても良いし、また受容層とは別の塗被層として受容層の上および/または下に塗工されていても良い。
【0041】
受容層の形成は、染料染着性樹脂および架橋剤、離型剤等の必要な添加剤等を適宜、有機溶剤あるいは水等に溶解もしくは分散して受容層用塗工液を調整し、公知のコーターを使用して、シート状支持体上に塗工乾燥し、さらに必要に応じて加熱キュアーして形成することができる。また、前記染料染着性樹脂および架橋剤、離型剤等の必要な添加剤等を、無溶剤の受容層用塗料として調製し、塗工、あるいは熱溶融して塗工することも可能である。
【0042】
受容層の固形分塗工量は0.1〜12g/mが好ましく、1〜10g/mが、より好ましい。受容層の固形分塗工量が0.1g/m未満では、受容層が下塗層表面を完全に覆うことができない場合があり、画質の低下や、サーマルヘッドでの加熱により、受容層とインクリボンとが接着してしまう融着トラブルを発生することがある。一方、固形分塗工量が12g/mを超えると、塗工効果が飽和して不経済であるばかりでなく、受容層の塗膜強度が低下して画像のドット抜けが発生する場合がある。或いは、塗膜厚さが過大になることにより下塗層の断熱効果が十分に発揮されず、画像濃度の低下を招くことがある。
【0043】
(下塗層)
本発明において、シート状支持体の画像受像層面側には、画像鮮明性や画像均一性を向上するために、断熱性とクッション性を付与する目的から中空粒子を含有する下塗層を設けることができる。
下塗層で使用される中空粒子の壁を形成する材料としてアクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリル酸エステルの重合体などが挙げられる。それら中空粒子の製造方法としては、樹脂粒子中にブタンガスを封入したマイクロカプセルを、加熱発泡させる方式やエマルジョン重合方式などが挙げられる。
中空粒子の粒径は、0.1〜10μmが好ましい。中空粒子の粒径が0.1μm未満では、中空粒子の壁が薄くなって耐熱性が不足し、塗工乾燥工程で壊れやすい。また、10μmを超えると、得られた受容シートの表面凹凸が大きくなり画像均一性が劣る場合がある。
【0044】
中空粒子の体積中空率は、50〜90%が好ましい。中空粒子の体積中空率が50%未満では断熱性とクッション性を付与する効果が不十分な場合がある。90%を超えると、中空粒子の壁が薄くなり、耐久性が低下することがある。
下塗層の塗工量は、1〜30g/mが好ましい。下塗層の塗工量が、1g/m未満では、充分な断熱性とクッション性が期待できず、30g/mを超えると、コストが増大する割には得られる効果が小さい。
【0045】
(バリア層)
本発明において、下塗層と受容層の間にバリア層(中間層)を設ける事ができる。
バリア層の目的は、受容層を所定の厚さで形成するための障壁、また画像のニジミ防止の障壁として有効である。バリア層には、その目的に応じて、樹脂、顔料等を含有する。
【0046】
前記各層は、有機溶剤及び/又は水を分散媒とした塗工液を各種公知の塗工設備を使用して、塗工乾燥して得ることができる。前記塗工層には、一般の塗被紙製造において使用される濡れ剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜添加することができる。
【0047】
(カレンダー処理)
受容シートにカレンダー処理を施しても良い。カレンダー処理により、得られる受容シート表面の凹凸を減少させ、均一な画像を得る事ができる。カレンダー処理はいずれの段階で行っても良い。カレンダー処理に使用されるカレンダー装置は、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、グロスカレンダー、クリアランスカレンダー等の一般に製紙業界で使用されているカレンダー装置を適宜使用できる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。また、例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示し、固形分量である。
【0049】
(実施例1)
(熱転写受容シートの作成)
シート状支持体として、厚さ150μmの上質紙を使用した。該シート状支持体の片面に下記組成の下塗層用塗工液を固形分塗工量が12g/mとなるように塗工、乾燥して下塗層を形成し、該下塗り層上に下記組成の画像受容層用塗工液を固形分塗工量が2g/mとなるように塗工、乾燥して画像受容層を形成した。更に、画像受容層が設けられたシート状支持体の反対面に、下記組成の裏面層用塗工液を固形分塗工量が2g/mとなるように塗工、乾燥して裏面層を形成して熱転写受容シートを得た。
【0050】
(下塗層塗工液の調整)
下記組成の材料を攪拌して下塗層用塗工液を調整した。
アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルを主成分とする共重合体からなる
既発泡中空粒子(平均粒子径3.2μm、体積中空率85%) 35部
ポリビニルアルコール(商品名:PVA205、クラレ社製) 10部
アクリル系樹脂(商品名:FK−Y0692、中央理化工業社製) 30部
水 200部
(画像受容層塗工液の調製)
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体エマルジョン 90部
(商品名:ビニブラン603、日信化学製、Tg:60℃)
カルボジイミド系架橋剤 8部
(商品名:カルボジライトE−02、日清紡社製)
ポリシロキサングラフトアクリル樹脂 2部
(商品名:US450、東亞合成製)
水 300部
(裏面層用塗工液−1)
スチレン・マレイン酸共重合体 60質量部
(荒川化工業社製、商品名:ポリマロン1318、Tg=68℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 40質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0051】
(実施例2)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−2を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−2)
スチレン・アクリル酸共重合体 85質量部
(荒川化工業社製、商品名:ポリマロン326、Tg=59℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0052】
(実施例3)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−3を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−3)
スチレン・アクリル酸共重合体 85質量部
(荒川化工業社製、商品名:ポリマロン326、Tg=59℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水酸化アルミニウム顔料(日本軽金属社製、B703) 10質量部
水 500質量部
【0053】
(実施例4)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−4を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−4)
スチレン・アクリル酸共重合体 55質量部
(ジョンソンポリマー社製、商品名:537、Tg=49℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 45質量部
(JSR日本ゼオン社製、商品名:LX415M、Tg=27℃)
水 500質量部
【0054】
(実施例5)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−5を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−5)
スチレン・アクリル酸共重合体 55質量部
(DIC社製、商品名:CG−8400、Tg=25℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 45質量部
(JSR日本ゼオン社製、商品名:LX415M、Tg=27℃)
水 500質量部
【0055】
(実施例6)
実施例1において、裏面層の塗工量を固形分塗工量が0.5g/mとなるように塗工、乾燥して裏面層を形成した以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
【0056】
(実施例7)
実施例1において、裏面層の塗工量を固形分塗工量が11g/mとなるように塗工、乾燥して裏面層を形成した以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
【0057】
(比較例1)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−6を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−6)
スチレン・アクリル酸共重合体 85質量部
(ジョンソンポリマー社製、商品名:631、Tg=87℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0058】
(比較例2)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−7を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−7)
スチレン・マレイン酸共重合体 85質量部
(荒川化学社製、商品名:KS1570S、Tg=114℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0059】
(比較例3)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−8を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−8)
スチレン・アクリル酸共重合体 85質量部
(DIC社製、商品名:EC−740EF、Tg=18℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0060】
(比較例4)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−9を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−9)
アクリル樹脂 85質量部
(DIC社製、商品名:CP−6190、Tg=43℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 15質量部
(JSR社製、商品名:JSR0850Z、Tg=8℃)
水 500質量部
【0061】
(比較例5)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−10を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−10)
スチレン・アクリル酸共重合体 60質量部
(荒川化工業社製、商品名:ポリマロン1318、Tg=68℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 40質量部
(日本ゼオン社製、商品名:LX433C、Tg=50℃)
【0062】
(比較例6)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−11を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−11)
スチレン・アクリル酸共重合体 55質量部
(荒川化工業社製、商品名:ポリマロン326、Tg=59℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 45質量部
(日本ゼオン社製、商品名:LX435、Tg=−14℃)
水 500質量部
【0063】
(比較例7)
実施例1の裏面層用塗工液−1の代わりに、下記組成の裏面層用塗工液−12を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受容シートを得た。
(裏面層用塗工液−12)
スチレン・マレイン酸共重合体 60質量部
(荒川化学社製、商品名:KS1570S、Tg=114℃)
スチレン・ブタジエン共重合体 40質量部
(日本ゼオン社製、商品名:LX435、Tg=−14℃)
ナイロンフィラー 3質量部
(商品名:2001EXDNAT1、エルファルトケム社製、平均粒径10μm)
水 500質量部
【0064】
(品質評価)
上記の実施例1〜7及び比較例1〜7で得られた裏面塗工層用塗工液及び受容シートについて、下記項目の品質評価を行い、評価結果を表1及び表2に示した。
【0065】
〔裏面平滑度〕
受容シートの裏面層が設けられた面の平滑度をJIS P 8119に基づいて測定した。
【0066】
〔裏移り性試験〕
受容シートを昇華熱転写プリンター(商標:DR−100、ソニー社製)にセットし、黒ベタ画像を印画した。受容シートの印画された画像受容層面と裏面塗工層面を接触させて重ね合わせ、200g/cmの圧力をかけた状態で、60℃環境下、48時間保管した。保管後、印画された画像受容層面と接触していた裏面塗工層面の光学濃度をマクベス濃度計(商標:RD−914)により測定し、以下の基準で裏移り性を評価した。なお、裏移り試験前の裏面塗工層面の(黒)の光学濃度は0.05であった。
○:裏面塗工層面の光学濃度が0.10未満であり、優秀である。
×:裏面塗工層面の光学濃度が0.10以上であり、実用とならない。
【0067】
〔ブロッキング試験〕
受容シートを裏面と未印画の受容層面を重ね合わせ接触させ、200g/cmの圧力をかけた状態で、40℃、75%RHの環境に24時間保管した。保管後、以下の基準でブロッキング性を評価した。
○:裏面塗工層と受容層面の貼りつきがなく、問題なく剥がすことができる。
△:裏面塗工層と受容層面が貼りつき剥がすときに剥離音が僅かに発生するが、破れや光沢低下などはなく、実用上は問題ない。
×:裏面塗工層と受容層面が貼りつき剥がすときに破れが発生すし、実用とならない。
【0068】
〔画質(白抜け)〕
前記ブロッキング試験の評価を終えた受容シートを昇華熱転写プリンター(商標:DR−100、ソニー社製)にセットし、20℃、65%RHの環境下で、中間調パターンの画像を印画後、印画物の画質を以下の基準で評価した。
○:白抜けが全く見られず優秀である。
△:白抜けが僅かに見られるが、実用上問題はない。
×:白抜けが目立ち、実用とならない。
【0069】
〔印画後の受容シートの反り(プリントカール)〕
受容シートを昇華熱転写プリンター(商標:DR−100、ソニー社製)にセットし、20℃、45%RHの環境下で、2Lサイズ(印画方向長さ180mm×幅方向長さ127mm)の大きさで黒ベタの3色重ね合わせ画像、及びオーバーラミネート印画直後、受容シート四隅の反りの高さを測定し、以下の基準で評価した。
○:四隅の反りの高さが、いずれも20mm未満で優秀である。
△:四隅の内、1箇所以上の反りの高さが、20mm以上であるが、四隅の反りの高さが、いずれも25mm未満であり、実用上問題はない。
×:四隅の内、1箇所以上の反りの高さが、25mm以上であり、実用とならない。
【0070】
〔裏面塗工層の塗膜強度〕
受容シートの裏面塗工層表面に、粘着テープを貼り付け、一定のスピードで剥がしたときの裏面塗工層の剥がれについて評価を行った。
○:粘着テープに裏面塗工層がとられること無く、塗膜強度に問題なし。
△:粘着テープに裏面塗工層の僅かな樹脂分が付着するが、実用上は問題ない塗膜強度である。
×:粘着テープに、紙層から剥がれた裏面塗工層が付着する。粉落ちを発生させる可能性が非常に高く、実用とならないレベルである。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1及び表2から明らかのように、実施例1〜7の熱転写受容シートは、裏面塗工層が、画像受容層との接触において充分なブロッキング防止性とカール防止性を有し、且つ画質低下を起こすことがなく、更に、印画物を重ねて保存しても、画像の染料が画像受容層から裏面層へ転写すること(裏移り)がない、極めて優れた熱転写受容シートである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明により、受容シートを表裏が接触する状態で高温又は高湿度環境に置いた場合においても、受容シートの裏面塗工層が、画像受容層との充分なブロッキング防止性とカール防止性を有し、且つ画質低下を起すことがなく、更に、印画物を表裏が接触する状態で保存した場合においても、画像の染料が画像受容層から裏面層へ転写すること(裏移り)がない、高画質の熱転写受容シートを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状支持体と、前記支持体の片面に染料を受容する画像受容層と、前記支持体の他面に裏面塗工層とを有する染料熱転写受容シートにおいて、該裏面塗工層が、スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂、及びガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体を含有する熱転写受容シート。
【請求項2】
前記スチレン・アクリル酸共重合体及びスチレン・マレイン酸共重合体から選ばれ、ガラス転移温度20〜80℃である少なくとも1種の接着性樹脂と、前記ガラス転移温度0〜30℃であるスチレン・ブタジエン共重合体との固形分比率が9:1〜1:1の範囲内である請求項1記載の熱転写受容シート。
【請求項3】
前記裏面塗工層の平滑度が50〜800秒である請求項1又は2記載の熱転写受容シート。
【請求項4】
前記裏面塗工層の固形分塗工量が1〜10g/mである請求項1〜3記載の熱転写受容シート。