説明

熱転写用塗装金属板及びそれを用いた印刷塗装金属板

【課題】 高い転写温度でもプレッシャーマークが発生しないため昇華転写を短時間で終了でき、加工性,耐疵付き性,作業性にも優れた熱転写用塗装金属板を提供する。
【解決手段】 熱機械分析法で測定される軟化開始温度が150℃以上の上塗り塗膜を、昇華転写法で印刷模様が付与される塗膜に使用している。シリコーン変性率:1〜50%,数平均分子量:5000〜50000,メラミン含有量:5〜50質量部,OH価:50〜150の熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂をベースとする塗料から成膜された上塗り塗膜が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広告看板,装飾内装材,装飾床材,エレベータ扉材,電化製品や什器の表装材,外板等として広範な分野で使用され、各種のフルカラー印刷模様がつけられる小ロット多品種用途に適した熱転写用塗装金属板及び印刷塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華性染料を使用して印刷塗装金属板を製造する場合、オフセット,シルク,グラビア,転写等の印刷法で昇華性染料を塗装金属板の上塗り塗膜に塗布し加熱浸透させることにより印刷模様を付与している。なかでも、所定パターンで昇華性染料を塗布した転写シートを塗装金属板に重ね合わせて加圧・加熱する昇華転写法(特許文献1)は、印刷模様の選択自由度が極めて高く高価な製版工程を必要としない長所がある。
【特許文献1】特開昭51-24313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
昇華転写用塗装金属板の上塗り塗膜は、ポリエステル系,アクリル系,ウレタン系等の有機樹脂をベースとする塗料から成膜されており、一般的にはポリエステル系塗料が多用されている。ポリエステル系を初めとする従来の上塗り塗膜に転写シートを重ね合わせて加圧・加熱により上塗り塗膜を染着する場合、加熱温度が180℃近傍の高温になると転写シートに起因するプレッシャーマークが上塗り塗膜に発生しやすい。プレッシャーマークの発生は転写時の加熱温度を下げることにより防止できるが、加熱温度の低下に伴い昇華性染料の昇華,ひいては上塗り塗膜への浸透が遅延する。その結果、転写時間を長く設定することが必要になり生産性が低下する。
【0004】
本発明は、軟化開始温度の高い熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂で上塗り塗膜を成膜することにより、高温で昇華転写した場合にも転写シートに起因するプレッシャーマークの発生を防止し、短時間の昇華転写を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の熱転写用塗装金属板は、熱硬化型樹脂をベースとする下塗り塗膜,熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂をベースとする上塗り塗膜が金属板表面に順次積層されいる。上塗り塗膜は、熱機械分析法(TMA)で測定した塗膜軟化開始温度が150℃以上のシリコーン変性アクリル樹脂をベースとする上塗り塗料から成膜されている。熱機械分析法は、塗膜に荷重を加えた状態で温度を上げて塗膜の軟化開始温度を測定する方法であり、昇華転写時に塗装金属板が受ける状態の的確な把握に適した試験法である。
【0006】
上塗り塗料は、具体的には熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂のシリコーン変性率が1〜50%,数平均分子量が5000〜50000,OH価が50〜150,樹脂固形分100質量部に対するメラミンの割合が5〜50質量部であり、好ましくはガラス転移温度(Tg)が150℃以上である。
上塗り塗膜は、更にトリアジン系及び/又はベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含んでも良い。
所定パターンで昇華性染料が塗布された転写シートを熱転写用塗装金属板に重ね合わせて加圧・加熱することにより、転写シートから塗装金属板の上塗り塗膜に昇華性染料が移行し、着色模様が上塗り塗膜に付与された印刷塗装金属板が得られる。
【発明の効果及び実施の形態】
【0007】
本発明に従った熱転写用塗装金属板は、めっき鋼板,ステンレス鋼板,冷延鋼板,アルミニウム板等を下地金属板1とし、下地金属板1の表面に下塗り塗膜2を設けている(図1)。
下塗り塗膜2は、下地金属板1に対する密着性の良好なポリエステル系,エポキシ系等の熱硬化型樹脂をベースにした塗料から成膜される。下地金属板1の色調を隠す場合、有色の色調をつけた下塗り塗膜2を膜厚:10〜20μmで形成する。下地金属板1の色調を十分隠蔽する上で10μm以上の膜厚が必要であるが、20μmを超える厚膜では焼付け時に塗膜に残留している溶剤が急激に気化し"ワキ"と称されるピンホール状の塗膜欠陥の発生傾向が強くなる。
【0008】
下塗り塗膜2に重ねられる上塗り塗膜3は、鮮明な印刷模様の発現に必要な昇華性染料染着層4を形成する上で6μm以上の膜厚が好ましい。焼付け時にワキ等の表面欠陥が生じない限り、膜厚の上限は特に規制されない。上塗り塗膜3は、顔料無添加のクリア塗膜,シリカ等の骨材配合で艶消し調の外観を呈する塗膜,昇華転写法による印刷模様を損なわない程度に着色された塗膜の何れであっても良い。
上塗り塗膜3のベース樹脂として、塗膜に荷重を加えた状態で昇温して塗膜の軟化開始温度を測定する熱機械分析法(TMA)で得られる軟化開始温度が150℃以上の熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂を使用する。軟化開始温度は、昇華転写時に加圧・加熱される塗膜の挙動を的確に表す指標であり、加圧・加熱に起因する欠陥を持ち込ませないため150℃以上の軟化開始温度が必要である。150℃を下回る軟化開始温度では、昇華性染料が塗布された転写シートを熱転写用塗装金属板に重ねて昇華温度に加熱圧着した後で転写シートを塗装金属板から剥がすと、転写シートの跡がプレッシャーマークとして塗膜に残りやすくなる。
【0009】
上塗り塗料は、シリコーン変性率:1〜50%,数平均分子量:5000〜50000,樹脂のOH価:50〜150,樹脂固形分100質量部に対するメラミン含有量:5〜50質量部の熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂をベースにしている。
シリコーン変性は塗膜の耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性,耐汚染性を改善し、変性率:5%以上で改善効果がみられるが、50%を超える過剰変性は塗膜の加工性に悪影響を及ぼす。
耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性,耐水性等の物性は、樹脂の分子量によっても影響を受け数平均分子量:5000未満では不十分になる。低すぎる分子量は、硬化収縮を大きくし、硬化した塗膜にクラック等が発生する原因でもある。しかし、50000を超える数平均分子量では、粘性が高くなり過ぎ塗料化適性に欠ける。
【0010】
適正な架橋密度で塗膜を硬化させるため、樹脂のOH価を50〜150の範囲に、樹脂固形分100質量部に対するメラミンの割合を5〜50質量部の範囲に調整している。低すぎるOH価やメラミン含有量では架橋が疎になりすぎ、耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性,耐汚染性が低下する。逆に高すぎるOH価やメラミン含有量では、架橋反応が過度に進行し加工性が低下する。
更に、高温での転写時にプレッシャーマークの発生を抑える上で、樹脂のガラス転移温度(Tg)を150℃以上に調整することが好ましい。150℃を下回るガラス転移温度(Tg)では、塗膜に転写シートが押し付けられた高温状態で転写シートの凹凸表面が塗膜に転写されプレッシャーマークが発生しやすくなる。
【0011】
屋外に放置される用途向けには、太陽光線に含まれている紫外線の透過による昇華性染料の褪色や塗膜の光沢低下を防止するため、トリアジン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を添加することが好ましい。中でも、空気雰囲気中、昇温速度:5℃/分の加熱条件下300℃での重量減少が10質量%以下の紫外線吸収剤が好適である。
【0012】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、オクチル-3-[-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)]-4-ヒドロキシフェニル]プロピネート(チバガイギー製:TINUVIN384),2-]2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α'-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(チバガイギー製:TINUVIN900),メチル-3-[3-t-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)]-4-ヒドロキシフェニル]プロピネートとポリエチレングリコール(分子量約300)の縮合物(チバガイギー製:TINUVIN1130),2-[2'-ヒドロキシ-3'-(3",4",5",6"-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5'-メチルフェニル]-ベンゾトリアゾール(共同薬品製:Viosorb 590)等が挙げられる。
【0013】
トリアジン系紫外線吸収剤には、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ジデシルオキジプロピル)-オキシ]-2-ヒドロキジフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキジプロピル)-オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンの混合物(チバガイギー製:TINUVIN400)が挙げられる。
これらの紫外線吸収剤は、単独でも、2種以上を混合しても使用できる。紫外線吸収剤の配合量は、塗料の不揮発成分:100質量部に対して3〜22質量部に調整することが好ましい。3質量部未満の配合量では、上塗り塗膜に浸透した昇華性染料の耐光性が不十分になりやすい。逆に22質量部を超えて過剰配合すると、塗膜の耐汚染性,加工性,外観等が劣化しやすく、塗膜が着色する原因にもなる。
【0014】
上塗り塗膜の耐光性を更に向上させるため、必要に応じてヒンダートアミン系の光安定剤を塗料の不揮発成分:100質量部に対して3質量部以下の割合で配合することが好ましい。
ヒンダートアミン系光安定剤には、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(三共製:SANOL LS770),ビス(1,2,2,6,6-ペンダメチル-4-ピペリジル)セバケート(三共製:SANOL LS765),1-{2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(三共製:SANOL LS2626),4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(三共製:SANOL LS744),8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン(三共製:SANOL LS440),2-(3,5-ジ-t-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(チバガイギー製:TINUVIN 144),コハク酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)エステル(チバガイギー製:TINUVIN 780FF)、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの重縮合物(チバガイギー製:TINUVIN 622LD),ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]}(チバガイギー製:CHIMASSORB 944LD),N,N'-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジンの重縮合物(チバガイギー製:CHIMASSORB 119FL),ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート(チバガイギー製:TINUVIN 292)、ビス(1-オクタオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(チバガイギー製:TINUVIN 123),HA-70G(三共製),アデカスタブ LA-52,アデカスタブ LA-57,アデカスタブ LA-62,アデカスタブ LA-63,アデカスタブ LA-67,アデカスタブ LA-68,アデカスタブ LA-82,アデカスタブ LA-87(以上、旭電化工業製)等が挙げられる。
【0015】
各種光安定剤は、単独でも、2種以上を混合しても使用できる。光安定剤を3.0質量部より多量に添加しても樹脂塗膜に浸透した昇華性染料の耐光性を向上させる効果は飽和して増量に見合った改善がみられず、却って外観が低下する傾向がみられる。特に好ましくは0.5〜2.0質量部の範囲で光安定剤を添加する。
【0016】
所定パターンで昇華性染料を塗布した転写シートを下地金属板に重ねて加熱すると、昇華した染料が上塗り塗膜に浸透し、厚み方向に染着した模様が形成される。転写シートは、グラビア印刷,オフセット印刷,スクリーン印刷等で作製されるが、小ロット印刷用には製版工程を必要としないコンピュータグラフィックスを用いた電子写真法,静電記録法,インクジェット法,感熱転写法等を採用できる。
【0017】
昇華性染料は、加熱された際に昇華又は揮発し上塗り塗膜に転移し得る染料であり、キノフタロン誘導体,アントラキノン誘導体,アゾ系色素等の分散染料が好適に用いられる。本件明細書では、溶融して上塗り塗膜に移行する染料も、昇華性染料に含めている。また、従来から昇華熱転写,昇華転写捺染等に使用されている染料は、特に制約なく使用できる。イエロー系,マゼンタ系,シアン系等、各色調の昇華性染料を適宜組み合わせることにより、必要とするフルカラーの着色模様が得られる。
【0018】
イエロー系昇華性染料には、Kayaset Yellow AG,Kayaset Yellow TDN(日本化薬製),RTY 52,Dianix Yellow 5R-E,Dianix Yellow F3G-E,Dianix Brilliant Yellow 5G-E(三菱化学製),ブラストYellow 8040,DY108(有本化学製),Sumikaron Yellow EFG,Sumikaron Yellow E-4GL(住友化学製),FORON Brilliant Yellow SGGLPI(Sand社製)、PSイエローGG(三井東圧染料株式会社製)等がある。
マゼンタ系の昇華性染料には、Kayaset Red 026,Kayaset Red 130,Kayaset Red B(日本化薬製),Oil Red DR-99,Oil Red DK-99(有本化学製)、Diacelliton Pink B(三菱化学製),Sumikaron Red E-FBL(住友化学製),Latyl Red B(Du Pont社製),Sudan Red 7b(BASF社製),Resolin Red FB,Ceres Red 7B(Bayer社製)等がある。
【0019】
シアン系の昇華性染料には、Kayalon Fast Blue FG,Kayalon Blue FR,Kayaset Blue 136,Kayaset Blue 906(日本化薬製),Oil Blue 63(有本化学製),HSB9,RTB31(三菱化学製),Disperse Blue #1(住友化学製),MS Blue 50(三井東圧染料製),Ceres Blue GN(Bayer社製),Duanol Brilliant Blue 2G(ICI社製)等がある。
【0020】
各色用の昇華性染料は、単独で使用しても2種以上を併用して使用しても良い。黒色は、イエロー,マゼンタ,シアン系の昇華性染料を適宜配合することにより得られる。イエロー,マゼンタ,シアン以外の色調をもつ昇華性染料としては、昇華温度(液状状態から揮発する場合も含む)が60℃以上の染料が好ましい。昇華性染料を選択する際には、昇華温度の高い染料ほど、比較的分子量が大きく、優れた耐光性,耐熱性を塗膜に付与するので好ましい。
【0021】
下地金属板1と接触した状態で転写シートが加熱されると、転写シートに含まれている昇華性染料が昇華して上塗り塗膜3を厚み方向に浸透し、染料染着層4が形成される(図1)。そのため、厚み方向にほぼ均一に染着された上塗り塗膜3で立体的な印刷模様が発現される。得られた印刷模様は、上塗り塗膜3の表層のみに昇華性染料が濃化したものでないため、擦れ等によって印刷薄れが生じることなく、また熱転写で意匠を付与した後の転写印刷層を透明樹脂によって保護する後工程も省略される。しかも、厚み方向にほぼ均一に染着された上塗り塗膜3で印刷模様が発現されるため、深み感,立体感,光沢度及び鮮映度に優れた印刷模様が得られる。
このようにして、必要な模様を必要な時に簡便に付与できるため、各種模様付けが要求される意匠鋼板の小ロット生産が容易になる。しかも、所定の模様を付けた意匠鋼板として在庫する必要がなくなり、ニーズに応じた模様付けが可能になる。また、上塗り塗膜3と下地金属板1との間に染料層が単独で存在していないので、従来のラミネート鋼板にみられた層間剥離が生じない。
【実施例1】
【0022】
〔転写原板に用いる塗装鋼板の製造〕
板厚:0.5mmの亜鉛めっき鋼板を脱脂,表面調整後に塗布型クロメート処理した。
塗装前処理した鋼板に白色塗料を塗装し、板温220℃で1分間焼き付けることにより乾燥膜厚:15μmの白色下塗り塗膜を形成した。白色塗料としては、数平均分子量:5000のポリエステル樹脂をベースとし、樹脂固形分:100質量部に対し30質量部の割合でヘキサメチレンジイソシアネート(硬化剤)を配合したポリエステル系樹脂塗料を用いた。
【0023】
次いで、上塗り塗料を塗布し、板温230℃で1分間焼き付けることにより乾燥膜厚:18μmの上塗り塗膜を形成した。
上塗り塗料には、シリコーン変性率:20%,数平均分子量:20000,OH価:100,樹脂固形分100質量部に対するメラミン含有量:30質量部の熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂をベースにした塗料(本発明例)と、数平均分子量:3000,樹脂固形分100質量部に対するメラミン含有量:60質量部の熱硬化型ポリエステル樹脂をベースにした塗料(比較例)の二種を用意した。何れの塗料にも、トリアジン系紫外線吸収剤(チバガイギー社製 TINUVIN 400):ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバガイギー社製 TINUVIN 384)=1:1の混合物を塗料不揮発成分基準で8質量部添加した。更に、ヒンダートアミン系光安定剤(チバガイギー社製 TINUVIN 123)を塗料不揮発成分基準で1.5質量部添加した。
【0024】
〔熱分析〕
熱機械分析計(TAS200システムTMA:リガク製)を用い、−50〜250℃の温度範囲において荷重:98N,昇温速度:10℃/分で各塗装鋼板の押込み深さを測定した。先端径:1mm(先端面積:0.785mm2)の円柱型測定子を使用したので、測定時に98÷(0.785÷106)=0.1248mPaの圧力が加えられたことになる。
図2の測定結果にみられるように、熱硬化型ポリエステル樹脂塗料から成膜された塗膜は、軟化開始温度:軟化が約−20℃で始まり約80℃で終了していた。これに対し、熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂塗料から成膜された塗膜は、軟化開始温度:約180℃,軟化終了温度:約200℃とポリエステル塗膜に比較して大幅に高い軟化抵抗を示した。
【0025】
〔転写印刷〕
シアンの昇華性染料から作製したインクを用い、インクジェットプリンタで出力用紙にシアンのベタ模様を出力した。得られた転写シートを熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂塗料,熱硬化型ポリエステル樹脂塗料それぞれから塗装原板上に形成された上塗り塗膜に重ね合わせ、温度:170℃,圧力:0.5kg/cm2で100秒間加熱圧着した。圧着完了後、塗装鋼板から転写シートを剥離した。
【0026】
〔印刷塗装金属板の性能〕
シアンのベタ模様が転写印刷された塗装金属板の塗膜を目視観察し、プレッシャーマークの発生有無を調査した。ポリエステル塗膜を設けた比較例の塗装金属板では、転写印刷後の塗膜全域にプレッシャーマークが付けられていた。他方、本発明例の印刷塗装金属板ではプレッシャーマークが検出されず、シリコーン変性アクリル塗膜の優れた耐プレッシャーマーク性が確認された。
【実施例2】
【0027】
〔転写原板に用いる塗装鋼板の製造〕
実施例1と同じ塗装原板,白色塗料を用いて乾燥膜厚:15μmの白色下塗り塗膜を形成した後、表1の組成をもつ上塗り塗料を塗布し、板温230℃で1分間焼き付けることにより乾燥膜厚:18μmの上塗り塗膜を形成した。なお、表1以外に、上塗り塗料は、実施例1と同様に紫外線吸収剤の光安定剤を含んでいる。
【0028】

【0029】
〔転写印刷〕
シアンの昇華性染料から作製したインクを用い、インクジェットプリンタで出力用紙にシアンのベタ模様を出力した。得られた転写シートを各塗装金属板の上塗り塗膜に重ね合わせ、温度:170℃,圧力:0.5kg/cm2で100秒間加熱圧着した。圧着完了後、塗装鋼板から転写シートを剥離した。
【0030】
〔印刷塗装金属板の性能〕
シアンのベタ模様が転写印刷された塗装金属板から試験片を切り出し、以下の試験で耐プレッシャーマーク性,加工性,耐疵付き性を調査した。
・耐プレッシャーマーク性
シアンのベタ模様が印刷された塗装金属板の表面を観察し、プレッシャーマークが全く発生していない塗膜を○,プレッシャーマークが発生した塗膜を×として耐プレッシャーマーク性を評価した。
【0031】
・加工性
20℃の室内で5tの180度折曲げ試験(試験片と同じ厚みの板を挟んで曲げる場合が1t)により試験片を折曲げ加工し、曲げ部外側に位置する塗膜を観察しクラックの発生状況を調査した。5t曲げでクラックが発生しなかった塗膜を○,クラックが発生した塗膜を×として加工性を評価した。
・耐疵付き性
JIS K5400 6-8.4に準拠し、鉛筆(三菱ユニ)を用いて塗膜に疵をつけ、疵が付かない限界の鉛筆硬度で耐疵付き性を評価した。なお、疵が付かない限界の鉛筆硬度がF以上であれば実用に供し得る。
【0032】
表2の調査結果にみられるように、本発明例の塗装金属板は、耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性,耐汚染性の何れにおいても十分満足できる特性を備えていた。
これに対し、比較例では、耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性,耐汚染性の何れか一つ又は複数が劣っていた。すなわち、シリコーン成分の変性率が低い試料No.9は耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性に劣り、逆にシリコーン成分の変性率が高すぎる試料No.10は加工性に劣っていた。
【0033】
また、シリコーン変性アクリル樹脂の数平均分子量が比較的小さい試料No.11は耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性に劣り,逆に数平均分子量が高い試料No.12は塗料粘度が高くなりすぎたため均一な膜厚の塗膜に成膜できなかった。
更に、OH価の低い試料No.13は耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性に劣り、逆にOH価の高い試料No.14は加工性に劣っていた。
また、メラミン配合量の少ない試料No.15は耐プレッシャーマーク性,耐疵付き性に劣り、逆にメラミン配合量が多すぎる試料No.16は加工性に劣っていた。
【0034】

【産業上の利用可能性】
【0035】
以上に説明したように、本発明の熱転写用塗装金属板は、軟化開始温度:150℃以上の上塗り塗膜を印刷模様が付与される対象としている。塗膜の軟化抵抗が高いため、転写シートを重ねて加圧・加熱する昇華転写後に転写シートの跡(プレッシャーマーク)が塗膜表面に残らず、美麗で鮮明な印刷模様が付与される。高い転写温度でもプレッシャーマークの発生を抑制できるので、迅速な昇華転写が可能になる。しかも、加工性,耐疵付き性にも優れているので、フルカラー広告看板,装飾内装材,装飾外装材,電気・電子機器や什器の表装材等、意匠性に優れた印刷塗装金属板として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に従った印刷塗装金属板の表層部断面を示す模式図
【図2】実施例で作製したシリコーン変性アクリル塗膜,ポリエステル塗膜の熱分析(TMA)による押込み深さ線図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機械分析法(TMA)で測定した塗膜軟化開始温度が150℃以上のシリコーン変性アクリル樹脂をベースとする上塗り塗膜を備えていることを特徴とする熱転写用塗装金属板。
【請求項2】
熱硬化型樹脂をベースとする下塗り塗膜,熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂をベースとする上塗り塗膜が金属板表面に順次積層されており、熱硬化型シリコーン変性アクリル樹脂のシリコーン変性率が1〜50%,数平均分子量が5000〜50000,OH価が50〜150,樹脂固形分100質量部に対するメラミンの割合が5〜50質量部であることを特徴とする請求項1記載の熱転写用塗装金属板。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱転写用塗装金属板の上塗り塗膜に浸透した昇華性染料で染料染着層が形成されており、該染料染着層で着色模様が付与されていることを特徴とする印刷塗装金属板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−248012(P2006−248012A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66924(P2005−66924)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】