説明

熱重合型アクリル塗料

【課題】黄変を避けるため低温で焼き付けても重合反応が十分に進行し、光反射率,硬度の高い塗膜を形成できる熱重合型アクリル塗料を提供する。
【解決手段】未重合の(メタ)アクリル系単量体と重量平均分子量:103〜106の(メタ)アクリル系重合体との質量比が10:90〜90:10の範囲にある混合物:100質量部に、熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,ブロック型活性メチレン系イソシアネート架橋剤:0.1〜20質量部,重量平均分子量:500以上の可塑剤:1〜20質量部,酸化チタン顔料:40〜120質量部を配合した塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な外観を呈し反射率の高い白色塗膜の形成に使用される熱重合型アクリル塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイでは、照明光の逃げを防止するため液晶画面の背面に反射板を配置している。照明器具でも、光源からの光を有効利用するためランプシェードを反射板として背面側に配置している。高い光反射率が必要な反射板には、基材表面に堆積した金属蒸着膜を鏡面とする蒸着フィルム等が使用されている。蒸着フィルムは、鏡面反射率が高いものの拡散反射が生じがたく、反射板基材に貼り付けて使用するため作業性にも劣る。また、液晶バックライト用反射板として使用すると、反射光の方向性が高いため却って液晶画面に向かう光量が減少する原因にもなる。
【0003】
蒸着フィルムに代わる反射板には、微細気泡を含む熱可塑性ポリエステル発泡体(特許文献1),シリカエアロゲルを分散させた樹脂塗膜を有する反射板(特許文献2),鏡面反射強度に対して散乱反射強度を大きくした面光源反射板(特許文献3)等がある。
【特許文献1】特許第2925745号公報
【特許文献2】特開平11-29745号公報
【特許文献3】特開平4-296819号公報
【0004】
樹脂の発泡で反射率を高めた反射板や反射フィルムは、屈折率が大きく異なる塗膜樹脂と微細気泡の界面で反射を促進させる高反射率の白色面になっている。しかし、反射率の向上には厚膜化が必要とされ、重ね塗り回数の増加を招き製造コストの上昇,生産性の低下を引き起こす。紫外線の遮蔽に有効な酸化チタン等の顔料添加がないため、紫外線照射によって塗膜が劣化,変色することも発泡樹脂塗膜の欠点である。シリカエアロゲルを分散させた樹脂塗膜でも、反射率の向上には厚膜化が必要であり同様な問題を含んでいる。散乱反射強度を大きくした面光源反射板でも、微細気泡の分散によって反射強度を調整していることから特許文献1の塗膜と同様な欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗装金属板の反射率は、膜厚や塗膜構造に影響を受ける。膜厚,塗膜構造が反射率に及ぼす影響を調査した結果、(メタ)アクリル系重合体,(メタ)アクリル酸イソボルニルを含む(メタ)アクリル系単量体の(メタ)アクリル系混合物に可塑剤を配合し,不純物の少ない酸化チタン顔料を配合した塗料から成膜すると、1コート1ベークでも沸き,肌荒れ等の欠陥がなく厚膜化が容易で耐紫外線性に優れた高反射率の塗膜が形成されることを見出し、その塗膜形成に適した熱重合型アクリル塗料を提案した(特許文献4)。
【特許文献4】特願2005-233619号
【0006】
熱重合型アクリル塗料を用いた塗装ではモノマーのラジカル重合により塗膜が形成されるが、プレコート金属板用の塗料として使用する場合、ラジカル重合による硬化だけでは塗膜の硬度が不足するので、イソシアネート架橋剤を併用して硬度不足を補っている。
イソシアネート架橋剤の配合は塗膜の硬化に有効であるが、熱重合型アクリル塗料を200℃を超える温度で焼き付けると塗膜が黄変しやすく、黄変防止に低温での焼付け硬化が必要になる。また、非ブロック型のイソシアネート架橋剤を使用すると、塗料樹脂と徐々に反応するため貯蔵安定性に劣り、形成された塗膜も熱で軟化しやすくなる。
【0007】
本発明は、塗料や塗膜の性状に影響を及ぼすイソシアネート架橋剤に関する調査・研究の結果から得られた知見をベースとし、常温ではポリオールと反応しないブロック型のイソシアネート架橋剤を配合することにより、貯蔵安定性に優れ、低温での焼付け硬化を可能とし、光反射率の高い白色塗膜を形成できる熱重合型アクリル塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱重合型アクリル塗料は、未重合の(メタ)アクリル系単量体と重量平均分子量:103〜106の(メタ)アクリル系重合体との質量比が10:90〜90:10の範囲にある(メタ)アクリル系混合物:100質量部に、熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,ブロック型の活性メチレン系イソシアネート架橋剤:0.1〜20質量部,重量平均分子量:500以上の可塑剤:1〜20質量部,酸化チタン顔料:40〜120質量部が配合され、粘度が1〜100Pa・sに調整されていることを特徴とする。
顔料としては、不純物として含まれる金属,金属酸化物が0.1質量%以下に規制された酸化チタン顔料が好ましい。
【発明の効果及び実施の形態】
【0009】
イソシアネート架橋剤を配合した熱重合型アクリル塗料を高温で焼き付けると塗膜が黄変しやすくなるので、焼付け温度を200℃以下に設定するが、低温焼付け条件下でのラジカル重合反応を阻害しないブロック型のイソシアネート架橋剤が必要になる。
たとえば、オキシムブロック型イソシアネートにメチルケトオキシムを用いた系では、イソシアネートとメチルケトオキシムとの間に式(1)のブロック化反応が生じ、オキシムでイソシアネートがブロックされる。
【0010】

【0011】
ブロックされたイソシアネートは塗料樹脂の主成分であるポリオールと式(2)のように反応し、塗膜成分であるポリウレタンと共にラジカル重合を阻害する官能基を有するメチルエチルケトオキシムをも生成する。その結果、未反応のモノマーが焼付け硬化後の塗膜に残る。未反応モノマーの残留は、ガラス転移温度Tgの低い樹脂成分が塗膜表面に滲出したことを示す塗膜表面のベタツキからも推測される。
【0012】

【0013】
ラジカル重合を阻害しないブロック剤としてフェノール系,アルコール系,活性メチレン系が挙げられるが、フェノール系,アルコール系のブロック剤はイソシアネートの解離温度との関係から不適当である。すなわち、イソシアネートの解離温度は約160℃と高く、ラジカル重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度となるので、樹脂の重合反応が先行する。イソシアネートのブロック剤が解離してイソシアネートと水酸基との間で架橋反応が生じる際には、樹脂の重合が進行しているのでイソシアネートの架橋効果を十分発現できず、結果として塗膜の耐ベタツキ性が低下する。
【0014】
これに対しブロック型の活性メチレン系イソシアネート架橋剤を用いた系では、反応式(3)のようにイソシアネートがブロックされる。ブロックされたイソシアネートとポリオールとの反応では、反応式(4)のようにアルコールが生成されるのみで重合反応は阻害されない。そのため、良好な外観をもち光反射率の高い塗膜が形成される。
【0015】

【0016】

【0017】
ブロック型活性メチレン系イソシアネート架橋剤としては、イソシアネートとブロック剤との反応により得られる。
イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート,クロルフェニレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,テトラメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ジフェニルメタンジイソシアネート,水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネートモノマーがある。イソシアネートモノマーをトリメチロールプロパン等と付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化合物,ビュウレット型化合物や、ポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオール,アクリルポリオール,ポリブタンジエンポリオール,ポリイソプロピレンポリオール等を付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートも使用できる。なかでも、塗膜が黄変しがたいヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート等の使用が好ましい。
【0018】
活性メチレン系のブロック剤には、マロン酸ジエステル系,アセト酢酸エステル系がある。
マロン酸ジエステル系化合物としては、マロン酸ジメチル,マロン酸ジエチル,マロン酸ジイソプロピル,マロン酸ジn-プロピル,マロン酸ジn-ブチル,マロン酸エチルn-ブチル,マロン酸メチルn-ブチル,マロン酸エチルt-ブチル,メチルマロン酸ジエチル,マロン酸ジベンゼン,マロン酸ジフェニル,マロン酸ベンジルメチル,マロン酸エチルフェニル,マロン酸t-ブチルフェニル,イソプロプリデンマロネート等が挙げられ、複数種の併用も可能である。
【0019】
アセト酢酸エステル系化合物には、アセト酢酸メチル,アセト酢酸エチル,アセト酢酸イソプロピル,アセト酢酸n-プロピル,アセト酢酸t-ブチル,アセト酢酸n-ブチル,アセト酢酸ジベンジル,アセト酢酸フェニル等があり、複数種の併用も可能である。
マロン酸ジエステル系化合物とアセト酢酸エステル系化合物とを併用しても良い。
柔軟性を損なわずに必要強度を塗膜に付与するためには、0.1〜20質量部(好ましくは、0.5〜10質量部)の範囲でイソシアネート架橋剤の配合量を選定する。
【0020】
イソシアネート架橋剤以外の塗料成分には、未重合の(メタ)アクリル系単量体,(メタ)アクリル系重合体,熱ラジカル重合開始剤,可塑剤,酸化チタン顔料等があり、(メタ)アクリル系単量体と(メタ)アクリル系重合体とを混合した(メタ)アクリル系混合物をベース樹脂としている。(メタ)アクリル系単量体と(メタ)アクリル系重合体との配合比率は、質量比10:90〜90:10の範囲で選定される。(メタ)アクリル系重合体の配合量が少なすぎると硬化時に揮発量が過剰になって塗膜の平滑性が損なわれやすく、逆に多すぎる配合量では塗料粘度が上昇して塗工時に不具合が生じやすくなる。
【0021】
(メタ)アクリル系単量体は、分子内にアクリロイル基,メタクリロイル基の何れか1個以上を有する化合物であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル,脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル,アクリル酸アリールエステル,(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル,官能基含有単量体等が1種又は2種以上を組み合わせて使用される。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0022】
脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステルには(メタ)アクリル酸シクロヘキシル,アクリル酸アリールエステルには(メタ)アクリル酸フェニル,(メタ)アクリル酸イソボルニル,(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルには、(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキジエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル,(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸等の官能基含有単量体も使用できる。
【0023】
(メタ)アクリル系単量体は、塗膜のベタツキを解消して塗装作業性を向上させるため30質量%以上の(メタ)アクリル酸イソボルニルを含むことができるが、97質量%(好ましくは、85質量%)を超える過剰量の(メタ)アクリル酸イソボルニルが含まれると塗膜のガラス転移温度Tgが上昇し加工性,耐衝撃性の低下が懸念される。
【0024】
(メタ)アクリル系混合物には、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な他の重合性不飽和基を有する化合物を混合しても良い。
共重合可能な他の重合性不飽和基を有する化合物には、イタコン酸,クロトン酸,マレイン酸,フマル酸等の不飽和カルボン酸、(メタ)アクリルアミド,N-メチロール(メタ)アクリルアミド,N-メトキシ(メタ)アクリルアミド,N-ブトキシ(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル単量体、ビニルトリメトキシシラン,γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機ケイ素基含有ビニル単量体、スチレン,メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリロニトリル等がある。
【0025】
更に、エチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,プロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル等の多価(メタ)アクリル酸エステル,ジビニルベンゼン等のジビニル単量体等、分子内に重合性不飽和基を2個以上有する単量体を混合しても良い。分子内に重合性不飽和基を2個以上有する単量体は、後述する架橋剤と同様の効果を有する。
【0026】
(メタ)アクリル系重合体は、塊状重合,溶液重合,乳化重合,懸濁重合等の重合法で調製できるが、(メタ)アクリル系単量体混合物成分との混合を考慮すると、塊状重合法,溶液重合法が好ましく、なかでも溶剤の揮散を必要としない塊状重合法が好適である。
(メタ)アクリル系重合体成分を構成する単量体の主成分が(メタ)アクリル系単量体と同一の場合、塊状重合法で部分重合させることが好ましい。部分重合には、特許文献5記載の方法を採用できる。部分重合を利用すると、部分重合物に重合開始剤成分,架橋剤成分等を混合する。この(メタ)アクリル系単量体は、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体を重合させた化合物であり、ゲルパーミューエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した重量平均分子量が103〜106の範囲にある重合体が好ましい。
【特許文献5】特開2000-313704号公報
【0027】
(メタ)アクリル系単量体の重合には、過酸化物系,アゾ系等の熱ラジカル重合開始剤が使用可能であるが、過酸化物系熱重合開始剤の使用が好ましい。熱重合開始剤は単独で或いは2種類以上を併用しても良く、ナフテン酸コバルト,ジメチルアニリン等の分解促進剤の併用も可能である。重合開始剤は、(メタ)アクリル系混合物100質量部に対して0.1〜5質量部(好ましくは、0.3〜3質量部)の割合で配合される。重合開始剤の配合量が少ないと硬化に時間がかかり、揮発分が多くなり効果的でない。逆に過剰量の重合開始剤を配合すると、反応時に多量の気泡が発生し、ワキ,肌荒れ等の塗膜欠陥が生じやすくなる。
【0028】
過酸化物系熱重合開始剤には、イソブチルパーオキサイド,クミルパーオキシネオデカネート,ジイソプロピルパーオキシジカーボネート,ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート,ターシャリーブチルパーオキシネオデカネート,3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキサイド,ラウリルパーオキサイド,1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート,t-へキシルパーオキシ-2-エチルヘキサネート,ベンゾイルパーオキサイド,t-ブチルパーオキシマレイン酸,t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。なかでも、10時間半減期温度が35〜100℃の熱重合開始剤が好ましい。
【0029】
更に、加工時の衝撃付加で塗膜に生じる割れを防止するため重量平均分子量:500以上の可塑剤を配合している。(メタ)アクリル系単量体,(メタ)アクリル系重合体の(メタ)アクリル系混合物に熱ラジカル重合開始剤,架橋剤を配合した熱重合型アクリル塗料(特許文献6)を使用すると、塩化ビニル・ゾル塗料を用いた場合と同程度の膜厚で気泡のない塗膜が形成されるが、得られた塗装金属板を加工速度の大きなプレス成形等で製品形状に加工する際に塗膜割れが散見される。衝撃による塗膜割れの発生は、重量平均分子量:500以上の可塑剤を1〜20質量部の割合で配合することにより抑制される。可塑剤の配合により塗膜の耐ベタツキ性,加工性が損なわれることはない。
【特許文献6】特開2003-171579号公報
【0030】
可塑剤配合が塗膜の衝撃割れ抑制に及ぼす作用は次のように推察される。
可塑剤を添加しない場合、塗膜のガラス転移温度Tgが加工温度より低い場合であっても、加工速度が大きなプレス成形等ではアクリル樹脂の変形に限界があり、変形に追従できない部分に塗膜割れが発生する。他方、可塑剤を配合した系では、(メタ)アクリル系重合体の分子間に可塑剤が入り込み、(メタ)アクリル系重合体の分子間で辷りが生じやすくなると共に、相溶していない可塑剤層の部分でも変形が生じる。その結果、加工時に衝撃が加わっても、塗膜が割れることなく基材の変形に十分追従する。
【0031】
塗膜の耐衝撃性は、塩化ビニル・ゾル塗料やアクリル・ゾル塗料で一般的に使用されている分子量:500未満のジオクチルフタレート(DOP)等の可塑剤を使用した場合でもある程度向上するが、分子量の小さな可塑剤は(メタ)アクリル系重合体に対する結合力が弱く、塗膜内で比較的自由に移動するため、ブリードアウトして塗膜表面がべたつきやすい。可塑剤の分子量が大きくなるほど(メタ)アクリル系重合体に対する相溶性が低下するものの、分子量増加に伴って塗膜内で移動しがたく、大きなベタツキ抑制効果が得られる。
【0032】
重量平均分子量:500以上の可塑剤を1〜20質量部添加した場合、耐ベタツキ性,加工性,耐衝撃性等の塗膜特性をバランスさせる上で、塗膜のガラス転移温度Tgが-20〜60℃(好ましくは、0〜40℃)の範囲になるように調整する。塗膜のガラス転移温度Tgが-20℃を下回ると塗膜の耐ベタツキ性が低下し、逆に60℃を超えるガラス転移温度Tgでは塗膜の加工性,耐衝撃性が劣化しやすい。
【0033】
可塑剤としては、一分子中に3個以上のエステル結合をもつ可塑剤が好適である。具体的には、トリメリット酸誘導体,ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等の脂肪酸誘導体,リン酸誘導体,ポリエステル系可塑剤,(メタ)アクリル系単量体を主成分とする(メタ)アクリル系低分子単量体等が挙げられる。可塑剤は1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて配合しても良い。(メタ)アクリル系混合物に対する可塑剤の配合割合は、(メタ)アクリル系混合物:100質量部に対し1〜20質量部の範囲で選定される。塗膜の柔軟性に及ぼす可塑剤の影響は1質量部以上の配合量でみられるが、過剰量の可塑剤を配合すると塗膜にベタツキが発生しやすくなる。
【0034】
(メタ)アクリル系混合物には、反射率の向上に有効な酸化チタン顔料を配合する。酸化チタン顔料は製法により白色度が異なるので、反射率向上のため白色度の高い酸化チタンの選定が必要になる。酸化チタンの精製途中で混入する重金属、金属酸化物等の不純物が白色度に悪影響を及ぼし、なかでもFe,Cr,Cu,Mn,V,Nb等による着色は有害である。そのため、不純物としての重金属,金属酸化物等を0.1質量%以下に規制することが好ましい。
【0035】
不純物:0.1質量%以下の酸化チタン顔料は、好ましくは塩素法で作られたルチル型酸化チタンをアルミナ,シリカ,ジルコニア,チタニア,有機物等で表面処理することにより用意できる。反射率向上に有効な酸化チタン顔料の粒径は、好ましくは0.2〜0.3μm(更に好ましくは、0.25〜0.3μm)の範囲にある。塩素法酸化チタン顔料としては、タイピュアーR900,R920(デュポン社製),タイペークCR50,CR58,CR67(石原産業製)等が市販されている。
【0036】
(メタ)アクリル系混合物に対する酸化チタン顔料の配合割合は、(メタ)アクリル系混合物:100質量部に対し40〜120質量部の範囲で選定される。全反射率:94%以上,拡散反射率:91%以上は40質量部以上の酸化チタン配合で達成されるが,酸化チタンの過剰配合は塗料粘度を上昇させ美麗な表面の塗膜が得られ難くなり加工性を低下させる原因でもある。
【0037】
他の顔料として、反射率,加工性等の塗膜物性を低下させない限り、炭酸カルシウム,クレー,タルク,硫酸バリウム,酸化アルミニウム,酸化マグネシウム等の体質顔料も添加できる。充填材,酸化防止剤,難燃剤,紫外線吸収剤等の添加剤も、必要に応じて熱重合型アクリル塗料に配合される。
各成分を配合した熱重合型アクリル塗料は、1〜100Pa・s(好ましくは、2〜50Pa・s)の範囲に粘度が調整される。粘度が低すぎる塗料では塗布後硬化までに流動して均一な塗膜が得られず、粘度が高すぎる塗料では塗布時に塗りすじ等が生じ、塗膜から気泡が抜け難くなる。
【0038】
〔下塗り塗料の調整〕
熱重合型アクリル塗料を塗布して白色塗膜(上塗り塗膜)を形成する前に、反射率や塗膜密着性を向上させるために下塗り塗膜を形成する。下塗り用の塗料樹脂にはアクリル系,ポリエステル系,フッ素系,ポリウレタン系又はこれらの変性樹脂等が挙げられるが、上塗り塗膜との関係からアクリル変性エポキシ樹脂又はアクリル変性ポリエステル樹脂をベースとする塗料が好ましい。
【0039】
下塗り塗料にも酸化チタン顔料を配合して反射率を高めることができる。酸化チタン顔料は、上塗り塗膜用と同様に塩素法で精製されたルチル型酸化チタンをアルミナ,シリカ,ジルコニア,チタニア,有機物等で表面処理した顔料が好ましく、配合量は樹脂:100質量部に対し10〜100質量部の範囲で選定される。反射率,加工性等の塗膜物性を低下させない程度であれば、ストロンチウムクロメート等の防錆顔料やクロムフリー防錆顔料を下塗り塗料に配合しても良い。
【0040】
〔塗装原板,塗装前処理,下塗り塗装〕
塗装原板には、Znめっき鋼板,Zn-Alめっき鋼板,Zn-Al-Mgめっき鋼板,Alめっき鋼板,Al-Siめっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,銅板,銅合金板等を使用できる。塗装原板は、下地金属に対する防食作用や塗膜密着性を向上させるため、適宜化成処理される。
ロールコート,カーテンコート,ダイコート,ナイフコート等で下塗り塗料を塗装原板に塗布し、乾燥・焼付けによって下塗り塗膜を形成する。下塗り塗料は乾燥膜厚:3〜7μmの下塗り塗膜が形成される塗布量に調節され、加熱温度:120〜250℃,加熱時間:30〜600秒の範囲で焼付け条件が設定される。
【0041】
〔上塗り塗膜の塗装条件〕
下塗り塗装した金属板に熱重合型アクリル塗料を塗布し、乾燥・焼付けすることにより熱重合型アクリル樹脂塗膜(上塗り塗膜)が形成される。
塗料塗布には、ロールコート,カーテンコート,ダイコート,ナイフコート等を採用でき、塩化ビニル塗膜の作製と同様な条件下で厚膜塗装が可能である。このため、プレコート金属板の製造ラインで新たな設備を必要とせず、経済的である。金属板に対する塗布量は、好ましくは乾燥膜厚:100μm以上の塗膜が形成されるように設定される。100μm未満の膜厚では、重合開始剤の分解により発生したラジカルが空気中の酸素と結合して消失し、重合硬化不足になりやすい。反射率を高める上でも、100μm以上の膜厚が望まれる。
【0042】
焼付け処理条件は、加熱温度:120〜200℃,加熱時間:30〜600秒の範囲で選定されるが、加熱温度,焼付け時間共に塩化ビニル樹脂塗膜の成膜条件とほぼ同等であり、塗装条件の大幅な変更を必要としない。架橋剤にブロック型活性メチレン系イソシアネートを使用しているので、90℃程度の低温でブロック剤が解離し、熱重合型アクリル塗料中の水酸基(-OH)と反応する。一方、重合開始剤からラジカルが盛んに発生する温度がブロック剤の解離温度より高いので、硬化反応の順序としてはアクリルモノマ,アクリルポリマーの水酸基とイソシアネートが架橋した後で重合が開始され、塗膜が形成される。すなわち、イソシアネートの架橋反応が十分に進行するので、ベタツキ感のない表面を有する塗膜を成膜できる。
【実施例】
【0043】
上塗り塗膜用塗料組成物の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA):95質量部とアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4-HBA):5質量部からなる重量平均分子量:5×105のコポリマーをアクリル系重合体Aとした。
アクリル系重合体A:12質量部,2-EHA:26.6質量部,4-HBA:1.4質量部,アクリル酸イソボルニル(大阪有機化学工業製):60質量部を配合し、更に有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂製):1.0質量部,可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業製):5質量部に加えヘキサメチレンジイソシアネート系ブロック型イソシアネート架橋剤,酸化チタン顔料を種々の配合量で添加することにより、複数の塗料組成物(表1)を用意した。
【0044】
試験No.1〜7,11の架橋剤にはブロック型活性メチレン系ヘキサメチレンジイソシアネート(MF-K60X:旭化成ケミカルズ製)を使用した。試験No.1でNCO/OH=0.8当量,試験No.7でNCO/OH=1.2当量とした以外は、イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)が当量となる値に架橋剤添加量を設定した。
試験No.8の架橋剤にはオキシム系ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネート(TPA-B80E:旭化成ケミカルズ製),試験No.9の架橋剤にはオキシム系ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネート(MF-B60X:旭化成ケミカルズ製),試験No.10の架橋剤には非ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネート(TPA-100:旭化成ケミカルズ製)を使用した。
【0045】
酸化チタン顔料には、硫酸法で製造した不純物:約0.15質量%の酸化チタンを用いた試験No.11を除き、塩素法で製造した不純物:約0.001質量%以下の酸化チタン顔料(CR58:石原産業製)を用いた。
【0046】

【0047】
塗布・焼付け
片面当りめっき付着量:45g/m2,板厚:0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板を塗装原板とし、Ni置換処理後にクロムフリーの化成皮膜を設けた。化成処理後の塗装原板に2コート2ベーク方式で下塗り塗膜,上塗り塗膜を設けた。下塗り塗装では、アクリル変性エポキシ樹脂を塗布し、230℃×40秒の加熱で乾燥膜厚:5μmの下塗り塗膜を形成した。上塗り塗装では、表1の塗料組成物を塗布した後、150℃×90秒の加熱で乾燥膜厚:160μmの上塗り塗膜を形成した。
【0048】
塗装鋼板の性能評価
各塗装鋼板から試験片を切り出し、反射率を測定すると共に塗膜密着性,塗膜のベタツキ性,耐熱性を調査した。
〔反射率の測定〕
JIS Z8722に準拠した物体色の測定に使用されている分光測色計(CM3700d,光源C)を用い、650nmの反射率を全反射率として測定した。また、正反射光を除去した波長:650nmでの反射率を拡散反射率として測定した。
【0049】
〔塗膜密着性試験〕
JIS K5600-5-6に規定されている碁盤目試験を実施し、セロハンテープの引き剥がし後にも剥離していない塗膜を○,剥離した塗膜を×として塗膜密着性を評価した。
〔塗膜のベタツキ性試験〕
塗膜表面を指で触り、タックのある塗膜を×,タックのない塗膜を○として耐ベタツキ性を評価した。
〔耐熱性試験〕
120℃に設定した密閉式加熱炉内で100時間加熱した後、加熱炉から取り出した試験片の塗膜表面を観察し、外観に変化のない塗膜を○,外観が変化した塗膜を×として耐熱性を評価した。
【0050】
表2の調査結果にみられるように、架橋剤にブロック型活性メチレン系イソシアネートを用いた熱重合型アクリル塗料から成膜された塗膜は、ベタツキもなく塗膜密着性,耐熱性に優れ、全反射率:95%以上,拡散反射率:93%以上の値を示した。
他方、架橋剤にブロック型のオキシム系イソシアネートを用いると、ラジカル重合が阻害されて塗膜の硬化が十分でなく、塗膜表面にベタツキ感がでていた(試験No.8,9)。非ブロック型のイソシアネートを使用すると、耐熱試験で塗膜表面が軟化し外観不良となった(試験No.10)。更に、硫酸法で調製された酸化チタン顔料を用いた試験No.11では、全反射率が94%,拡散反射率が91%に届かなかった。
【0051】

【産業上の利用可能性】
【0052】
以上に説明したように、硬化剤にブロック型の活性メチレン系イソシアネート架橋剤を使用しているので、黄変を避けるために比較的低温で焼付け硬化しても重合反応が十分に進行し、必要な硬度を有し白色度,光反射率の高い塗膜が形成される。得られた塗装金属板を液晶ディスプレイ用反射板,ランプシェード,照明器具,内部証明方式の広告看板,店舗のディスプレイ用内装照明,自動販売機に組み込まれる反射板等に使用すると、照射光を効率よく利用でき、液晶ディスプレイにあっては少ない光量で鮮明な画像表示が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未重合の(メタ)アクリル系単量体と重量平均分子量:103〜106の(メタ)アクリル系重合体との質量比が10:90〜90:10の範囲にある(メタ)アクリル系混合物:100質量部に、熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,ブロック型の活性メチレン系イソシアネート架橋剤:0.1〜20質量部,重量平均分子量:500以上の可塑剤:1〜20質量部,酸化チタン顔料:40〜120質量部が配合され、粘度が1〜100Pa・sの範囲に調整されていることを特徴とする熱重合型アクリル塗料。
【請求項2】
酸化チタン顔料に不純物として含まれる金属又は金属酸化物が0.1質量%以下に規制されている請求項1記載の熱重合型アクリル塗料。

【公開番号】特開2007−217561(P2007−217561A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39578(P2006−39578)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】