説明

熱重量測定装置

【課題】測定器を熱や腐食性ガスに晒すことなく、熱処理中の被処理物の重量を直接測定できるようにし、熱処理中の被処理物の重量変化を正確に測定する。
【解決手段】熱処理炉装置10は、測定器室2、装入室3及び処理管4を、測定用ワイヤ12及び装着用ワイヤ14を中心として上から下にこの順に配置し、さらに、測定器1、不活性ガス供給源21、反応ガス供給源41、加熱室5、遮熱板9A,9Bを備えた。測定器1は、測定用ワイヤ14に作用する被処理物20の重量を測定する。測定器室2は、測定器1を収納し、測定用ワイヤ12が下面を貫通する。不活性ガス供給源21は、測定器室2内に不活性ガスを導入する。装入室3は、開閉扉3Aを備え、測定用ワイヤ12が上面を貫通し、フック13を収納する。処理管4は、上端が装入室の内部に連通し、被処理物20を収納する。反応ガス供給源41は、処理管4内に反応ガスを導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱処理中の被処理物の重量を測定器によって測定する熱重量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物に対する熱処理の影響を決定するために、熱処理中の被処理物の重量が実験的に測定される。この実験には、熱重量測定装置が用いられる。被処理物に対する熱処理として、化学的に活性なガスである反応ガスを炉内に導入して被処理物を加熱する浸炭、浸炭窒化、窒化等の処理がある。
【0003】
反応ガス中での熱処理時に被処理物の重量を測定する場合、測定器が熱及び反応ガスに晒されると、故障や腐食を生じる。
【0004】
そこで、従来の熱重量測定装置では、被処理物を収納するとともに反応ガスが導入される容器の重量を測定器で測定するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。この装置では、容器自体で容器と測定器とが隔絶され、測定器は熱及び反応ガスに晒されることはない。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−54944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示した従来の熱重量測定装置では、測定器の故障や腐食を防止することはできるが、測定器は被処理物、反応ガス及び容器の重量を合せて測定する。このため、熱処理中の被処理物の重量を直接測定することはできず、熱処理中の被処理物の重量変化を正確に測定することができない問題がある。
【0007】
この発明の目的は、測定器を熱や反応ガスに晒すことなく、熱処理中の被処理物の重量を実時間で直接測定することができ、熱処理中の被処理物の重量変化を実時間で正確に測定することができる熱重量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の熱処理炉装置は、測定器、測定器室、測定器室用ガス導入手段、装入室、処理室、処理室用ガス導入手段、加熱室、第1の遮熱板及び第2の遮熱板を備えている。測定器は、本体、測定用ワイヤ、フック、装着用ワイヤを含み、測定用ワイヤに作用する被処理物の重量を測定する。測定器室は、測定器を収納するとともに測定用ワイヤが下面を貫通する。測定器室用ガス導入手段は、測定器室に不活性ガスを導入する。装入室は、開閉扉を備え、フックを収納するとともに測定用ワイヤが上面を貫通する。処理室は、被処理物を収納するとともに上端が装入室の内部に連通する。処理室用ガス導入手段は、処理室内に反応ガスを導入する。加熱室は、処理室の中間部分に対向したヒータを周囲に断熱層を配置して収納する。第1及び第2の遮熱板は、測定器室の下面と装入室の上面との間、及び、装入室の下面からヒータの上端までの範囲における処理室の内部に配置されている。測定器室、装入室及び処理室は、測定用ワイヤ及び装着用ワイヤを中心として上から下にこの順に配置される。
【0009】
この構成では、最上部に位置する測定器室に収納された測定器の本体から垂下した測定用ワイヤに、フック及び装着用ワイヤを介して被処理物が吊り下げられる。被処理物は、装入室を経由して処理室内に非接触状態で配置され、加熱室のヒータによって加熱される。測定器室の下面と装入室の上面との間、及び、装入室の下面からヒータの上端までの範囲における処理室の内部には第1及び第2の遮熱板が配置されており、測定器はヒータの熱に晒されない。また、測定器室には不活性ガスが導入され、測定器は処理室に導入された反応ガス自体や反応ガスから生成される煤に晒されない。測定器は、フック及び装着用ワイヤを介して測定用ワイヤに作用する被処理物のみの重量を、熱処理の開始から終了までの間に測定できる。
【0010】
また、装入室の内部に反応ガスを導入する装入室用ガス導入手段と、装入室の内部の気体を排出する装入室用排出手段と、処理室の内部の気体を下端から排出する処理室用排出手段と、をさらに備え、処理室用ガス導入手段は処理室の内部に下端から反応ガスを導入する手段であり、処理室用ガス導入手段と装入室用排出手段との組み合わせ、又は、処理室用排出手段と装入室用ガス導入手段との組み合わせのいずれかを選択して動作させることができる。
【0011】
この構成では、処理室用ガス導入手段と装入室用排出手段とを同時的に動作させて処理室の下端から内部に反応ガスを導入するか、処理室用排出手段と装入室用ガス導入手段とを同時的に動作させて処理室の上端から内部に反応ガスを導入するかを選択できる。
【0012】
さらに、加熱室に不活性ガスを導入する加熱室用ガス導入手段をさらに備えにることができる。
【0013】
この構成では、処理室の損傷時に漏出した反応ガスによってヒータが受ける影響が少なくなる。また、反応ガスと空気との接触が断たれ、反応ガスが可燃性である場合にも爆発の危険性が回避される。
【発明の効果】
【0014】
この発明の熱重量測定装置によれば、測定器がヒータの熱や処理室に導入された反応ガスに晒されることがないようにすることができる。また、測定器が反応ガスから生成する煤の付着等によって故障することを防止できる。測定器は、フック及び装着用ワイヤを介して測定用ワイヤに作用する被処理物のみの重量を、熱処理の開始から終了までの間に正確に測定することができる。さらに、装入室が設けられていることにより、被処理物の装着が容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、この発明の実施形態に係る熱重量測定装置10の構成を示す概略の断面図である。熱重量測定装置10は、測定器1、測定器室2、装入室3、処理管4、加熱管5、取出室6、フレーム7を備えている。
【0016】
フレーム7の上面に測定器室2が支持、固定されており、フレーム7の下面に取出室6が固定されている。フレーム7の内側で測定器室2の下面に装入室3の上面が気密状態で固定されている。装入室3の下面には処理管4の上端が気密状態で固定されている。処理管4の下端は、取出室6の上面に気密状態で固定されている。加熱室5は、断熱層5Aの内周表面にヒータ8が設けられており、処理管4の周面の中間部に対向する位置でフレーム7に固定されている。
フレーム7によって、測定器室2、装入室3、処理管4、取出室6が、上下方向にこの順に配置されている。
【0017】
熱重量測定装置10は、また、測定器室用ガス導入手段である不活性ガス供給源21及びバルブ22、装入室用ガス導入手段である反応ガス供給源31及びバルブ32、装入室用排出手段である真空ポンプ34及びバルブ33、処理管用ガス導入手段である反応ガス供給源41及びバルブ42、処理管用排出手段である真空ポンプ44及びバルブ43、加熱室用ガス導入手段である不活性ガス供給源51及びバルブ52を備えている。
【0018】
熱重量測定装置10は、さらに、第1の遮熱板9A及び第2の遮熱板9Bを備えている。
【0019】
測定器1は、本体11、測定用ワイヤ12、フック13、装着用ワイヤ14を含む。測定用ワイヤ12は、本体11から垂下している。フック13は、測定用ワイヤ12の下端に取り付けられている。装着用ワイヤ14は、上端がフック13に着脱自在に係止されて下端に被処理物20が装着される。本体11には、測定用ワイヤ12に作用する被処理物20の重量を測定する機器が収納されている。
【0020】
測定器室2は、水冷ジャケット構造とされ、測定器1の本体11を収納するとともに測定用ワイヤ12が下面を貫通する。不活性ガス供給源21は、バルブ22を介して測定器室2内に不活性ガスを導入する。
【0021】
装入室3は、開閉扉3Aを備え、測定用ワイヤ12が上面を貫通し、フック13を非接触状態にして収納する。この構造により、被処理物20の装着が容易に行える。反応ガス供給源31は、バルブ32を介して装入室3内に反応ガスを導入する。真空ポンプ34は、バルブ33を介して装入室3内の気体を排出する。
【0022】
処理管4は、この発明の処理室に相当するものであり、一例として、上下端が開放した石英管又は耐熱鋼管である。処理管4の上端は、装入室3内に連通している。処理管4の下端は、取出室6内に連通している。処理管4内には、上端から装着用ワイヤ14が挿入されており、中間部に被処理物20を非接触状態にして収納する。なお、この発明の処理室は、管状に限定されるものではなく、被処理物20を非接触状態にして収納できるものであれば形状を問わない。
【0023】
反応ガス供給源41は、バルブ42を介して処理管4の下端から処理管4内に反応ガスを導入する。真空ポンプ44は、バルブ43を介して処理管4の下端から処理管4内の気体を排出する。反応ガス供給源41によって処理管4内に導入される反応ガス、及び、真空ポンプ44によって処理管4内から排出される気体は、取出室6内を経由する。
【0024】
加熱室5は、断熱層5Aによって断熱構造とされ、処理管4の周面の中間部分に対向したヒータ8を収納する。不活性ガス供給源51は、バルブ52を介して加熱室5に不活性ガスを導入する。
【0025】
不活性ガス供給源21及び不活性ガス供給源51が導入する不活性ガスは、一例として、窒素ガスである。反応ガス供給源31及び反応ガス供給源41が導入する反応ガスは、一例として、被処理物20の浸炭や窒化に使用される炭化水素ガス、RXガス、アルコール蒸気、アンモニアガス等、又はこれらを任意に組み合わせたガスである。
【0026】
取出室6は、上面において処理管4の下端に連通しており、内部に焼入油を貯留している。取出室6の上部には、遮熱シャッタ6Aが設けられている。遮熱シャッタ6Aは、処理管4の下端部を閉鎖する位置と開放する位置(図1中に符号6a′で示す。)との間に移動自在にされている。
【0027】
測定器室2、装入室3、処理管4、取出室6は、測定用ワイヤ12及び装着用ワイヤ14を中心にして上下方向に配置されている。被処理物20が処理管4内の中間部分に配置された状態で、測定用ワイヤ12、フック13、装着用ワイヤ14及び被処理物20は、測定器室2、装入室3及び処理管4のいずれにも接触しない。
【0028】
第1の遮熱板9Aは、測定器室2の下面と装入室3の上面との間に配置されている。第2の遮熱板9Bは、装入室3の下面からヒータ5の上端までの範囲における処理管4の内部の全体に配置されている。但し、必ずしもこの範囲の全体に配置する必要はなく、少なくともこの範囲の一部に配置されていればよい。処理管4は、加熱室5内で断熱層5Aを貫通しており、少なくとも加熱室5の内部で処理管4が上部の断熱層5Aを貫通している部分には、第2の遮熱板9Bを配置してもよい。
【0029】
なお、これらの遮蔽板は、使用個所の温度条件により、ステンレス板、耐熱鋼板、インコネル板等の材料が適宜選択して用いられる。
【0030】
不活性ガス供給源21は、バルブ22を介して測定器室1の内部に連通している。反応ガス供給源31は、バルブ32を介して、装入室3の内部に連通している。真空ポンプ34は、バルブ33を介して装入室3の内部に連通している。反応ガス供給源41は、バルブ42及び取出室6を介して処理管4の内部に連通している。真空ポンプ44は、バルブ43及び取出室6を介して処理管4の内部に連通している。不活性ガス供給源51は、バルブ52を介して加熱室5内のヒータ8と処理管4との間の空間に連通している。
【0031】
図2及び図3は、熱重量測定装置10のガス浸炭処理時の使用状態の一例を示す図である。ガス浸炭処理では、キャリアガスであるRXガスに少量の炭化水素ガスをエンリッチガスとして添加したガスを反応ガスとして用いる。この処理は、略大気圧で行われるため、真空ポンプ34,44は使用しない。排気系ダクト(常時負圧を供給する。)がこれに代わる。
【0032】
この処理において、不活性ガスとしての窒素ガスは、反応ガスの測定器室2への流入を防止するとともに測定器1を補助的に冷却する第1の目的、昇温時に被処理物20を保護する第2の目的、及び、反応ガスをパージ(掃出)する第3の目的を有する。
【0033】
窒素ガスは測定器室2から供給し、反応ガスは処理管4の下端から供給する。窒素ガスの第2及び第3の目的を達成するためには、窒素ガスを測定器室2から供給する必要はなく、処理管4内に他の位置から別途供給することもできる。
【0034】
窒素ガスを処理管4内に流入させる際には、処理管4の下方から排気する。反応ガスを処理管4内に流入させる際には、処理管4の上方から排気する。
【0035】
具体的には、先ず、常温で、装入室3の開閉扉3Aを開いて下端に被処理物20を装着した装着用ワイヤ14の上端をフック13に係止し、開閉扉3Aを閉じる。次いで、図2に示すように、測定器室2に不活性ガス供給源21からバルブ22を介して窒素ガスを供給するとともに、処理管4内の気体をバルブ43を介して排出する。また、加熱室5内に、不活性ガス供給源51からバルブ52を介して窒素ガスを導入する。
【0036】
この状態で、ヒータ8をオンし、処理管4内を800℃まで昇温する。この後、図3に示すように、反応ガス供給源41からバルブ42を介して処理管4内にRXガスを供給するとともに、処理管4内の気体をバルブ33を介して排出する。
【0037】
この状態で、ヒータ8によって処理管4内を930℃まで昇温し、第1の所定時間にわたって炭化水素ガスをRXガスに添加して反応ガス供給源41からバルブ42を介して処理管4内に供給する(浸炭工程)。第1の所定時間が経過すると、炭化水素ガスの添加を停止して第2の所定時間にわたって保持した後(拡散工程)、焼入温度である850℃まで降温して第3の所定時間にわたって保持する(均熱工程)。
【0038】
第3の所定時間が経過すると、遮熱シャッタ6Aを開いて被処理物20を取出室6内の焼入油内に落下させる(焼入工程)。ここで、RXガスの供給を停止してヒータ8をオフし、バルブ43を介して処理管4内を排気する。所定の冷却時間が経過した後、取出室6から被処理物20を取り出す。
【0039】
取出室6から供給された反応ガスが処理管4内を経由して装入室3から排気される間に、測定器室2には不活性ガスが導入されているため、反応ガスが測定器室2内に流入することはない。測定器室2内に収納された測定器1は、反応ガスに晒されて腐食することがなく、反応ガスから生成する煤によって汚損することもない。また、ヒータ8によって加熱された処理管4の熱は、遮熱板9A,9Bによって遮蔽され、上方の測定器室2に伝導及び輻射することがない。このため、測定器室2内に収納された測定器1は、高温に晒されて故障することがない。
【0040】
図4〜図7は、熱重量測定装置10の真空浸炭処理時の使用状態の一例を示す図である。真空浸炭処理時には、一般に、反応ガスとして炭化水素ガスのみを用い、キャリアガスとしてのRXガスを使用しない。この処理では、真空ポンプ34,44を使用する。第2の使用状態では、処理管4内に下端から反応ガスを導入する。
【0041】
この処理において、不活性ガスとしての窒素ガスは、反応ガスの測定器室2への流入を防止するとともに測定器1を補助的に冷却する第1の目的、被処理物20を急冷する第2の目的、及び、処理管4内の圧力を復元する第3の目的を有する。
【0042】
窒素ガスは測定器室2から供給し、反応ガスは処理管4の下端から供給する。窒素ガスの第2及び第3の目的を達成するためには、窒素ガスを測定器室2から供給する必要はなく、処理管4内に他の位置から別途供給することもできる。
【0043】
反応ガスの供給中は処理管4の上方から排気し、急冷時にのみ処理管4の下方から排気する。
【0044】
具体的には、先ず、常温で、装入室3の開閉扉3Aを開いて下端に被処理物20を装着した装着用ワイヤ14の上端をフック13に係止し、開閉扉3Aを閉じる。次いで、図4に示すように、測定器室2に不活性ガス供給源21からバルブ22を介して少量の窒素ガスを供給しつつ、バルブ43を介して真空ポンプ44によって排気し、処理管4内を所定圧力に減圧する。少量の窒素ガスの供給は省略することもできる。また、加熱室5内に、不活性ガス供給源51からバルブ52を介して窒素ガスを導入する。
【0045】
この状態で、ヒータ8をオンし、処理管4内を1000℃まで昇温する。次に、バルブ33を介して真空ポンプによって排気し、さらにバルブ43を閉じて真空排気系の切換を行う。この後、図5に示すように、第1の所定時間にわたって処理管4内に反応ガス供給源41からバルブ42を介して炭化水素ガスを供給しつつ、バルブ33を介して真空ポンプ34によって排気し、処理管4内を第2の所定圧力にする(浸炭工程)。炭化水素ガスは、連続して又は間欠的に供給することができる。
【0046】
第1の所定時間が経過すると、炭化水素ガスの供給を停止し、第2の所定時間にわたって保持する(拡散工程)。第2の所定時間が経過すると、バルブ43を介して真空ポンプ44によって処理管4内を排気し、さらにバルブ33を閉じて真空排気系の切換を行う。次いで、ヒータ8をオフし、図6に示すように、不活性ガス供給源21からバルブ22を介して多量の窒素ガスを供給し、被処理物20を急冷する(ガス冷却工程)。
【0047】
さらに、図7に示すように、不活性ガス供給源21からの窒素ガスの供給量を元の状態に戻し、上記と同様に真空排気系の切換を行って、バルブ33を介して真空ポンプ34によって処理管4内を排気する。この後、再度ヒータ8をオンして処理管4内を所定の焼入温度(850度)まで昇温し、第3の所定時間にわたって保持する(均熱工程)。
【0048】
第3の所定時間が経過すると、遮熱シャッタ6Aを開き、被処理物20を取出室6内の焼入油内に落下させる(焼入工程)。ここで、ヒータ8をオフして充分に降温させた後、真空ポンプ34による真空排気を停止し、大気圧まで復圧した後に不活性ガス供給源21からの窒素ガスの供給も停止する。所定の冷却時間が経過した後、取出室6から被処理物20を取り出す。
【0049】
取出室6から供給された反応ガスが処理管4内を経由して装入室3から排気される間に、測定器室2には不活性ガスが導入されているため、反応ガスが測定器室2内に流入することはない。測定器室2内に収納された測定器1は、反応ガスに晒されて腐食することがなく、反応ガスから生成する煤によって汚損することもない。また、ヒータ8によって加熱された処理管4の熱は、遮熱板9A,9Bによって遮蔽され、上方の測定器室2に伝導及び輻射することがない。このため、測定器室2内に収納された測定器1は、高温に晒されて故障することがない。
【0050】
上記ガス浸炭処理及び真空浸炭処理の何れにおいても、最上部に位置する測定器室2に収納された測定器1の本体11から垂下した測定用ワイヤ12に、フック13及び装着用ワイヤ14を介して吊り下げられた被処理物20に対する浸炭処理が施される。この浸炭処理中に、測定用ワイヤ12、フック13、装着用ワイヤ14及び被処理物20は、測定器室2、装入室3及び処理管4のいずれにも被触しない。測定器1は、浸炭処理の開始から終了までの間に測定用ワイヤ12に作用する被処理物20の重量の変化を正確に測定できる。
【0051】
処理管4の周面の中間部分に対向するヒータ8を収納する加熱室5内には不活性ガスが導入されるため、処理管4が被損した場合でもヒータ8の損傷を最小限に抑えることができる。また、処理管4内に導入される可燃性ガスと空気との接触による爆発の危険性を回避できる。
【0052】
なお、測定器室2と装入室3との間、装入室3と処理管4との間、処理管4と取出室6との間は、気密状態にされている。このため、処理管4内に反応ガスを導入して所要の雰囲気とすることができ、大気圧浸炭処理や真空浸炭処理等の表面硬化熱処理を行うこともできる。
【0053】
図8は、装入室3の内部の構成を示す断面図である。挿入室3の内部には、測定器1の本体11から垂下した測定用ワイヤ12の下端部が位置している。この測定用ワイヤ12の下端部には、装入室3に取り付けられたピン15に対してフック13が揺動自在に取り付けられている。フック13の下端部には、切欠き13Aが形成されている。切欠き13Aには、装着用ワイヤ14の上端が掛止されている。
【0054】
挿入室3には、操作部材3Bが備えられている。操作部材3Bは、一例としてエアシリンダーであり、アクチュエータ3Cがフック13の中間部分に水平方向に対向している。操作部材3Bを駆動すると、アクチュエータ3Cがフック13の中間部に水平方向に当接し、フック13が図8中二点鎖線で示すようにピン15を中心として揺動する。これによって、切欠き13Aから装着用ワイヤ14の上端が外れ、装着用ワイヤ14は被処理物20とともに下方に落下する。
【0055】
被処理物20が収納されている処理管4の下端は取出室6に連通しており、取出室6には焼入用の液体が貯留されている。装着用ワイヤ14の上端が切欠き13Aから外れることにより、被処理物20は取出室6内の液体内に浸漬され、急冷によって焼入処理される。
【0056】
なお、上記の構成において、反応ガス供給源31及びバルブ32、真空ポンプ34及びバルブ33、反応ガス供給源41及びバルブ42、真空ポンプ44及びバルブ43の全てが必須である訳ではない。切換弁及び接続管を備えることで、真空ポンプ34と真空ポンプ44とを共用することもできる。給排気位置も、同じ目的を達成しうる範囲で変更できる。また、加熱室5内に不活性ガスを導入する必要がない場合には、不活性ガス供給源51及びバルブ52を省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の実施形態に係る熱重量測定装置10の構成を示す概略の断面図である。
【図2】熱重量測定装置10のガス浸炭処理時の使用状態の一例を示す図である。
【図3】同ガス浸炭処理時の使用状態を示す図である。
【図4】熱重量測定装置10の真空浸炭処理時の使用状態の一例を示す図である。
【図5】同真空浸炭処理時の使用状態を示す図である。
【図6】同真空浸炭処理時の使用状態を示す図である。
【図7】同真空浸炭処理時の使用状態を示す図である。
【図8】装入室3の内部の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 測定器
2 測定器室
3 装入室
4 処理管(処理室)
5 加熱室
10 熱重量測定装置
11 本体
12 測定用ワイヤ
13 フック
14 装着用ワイヤ
21 不活性ガス供給源(測定器室用ガス導入手段)
31 反応ガス供給源(装入室用ガス導入手段)
34 真空ポンプ(装入室用排出手段)
41 反応ガス供給源(処理管用ガス導入手段)
44 真空ポンプ(処理管用排出手段)
51 不活性ガス供給源(加熱室用ガス導入手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体、前記本体から垂下した測定用ワイヤ、前記測定用ワイヤの下端に取り付けられたフック、上端が前記フックに着脱自在に係止されて下端に被処理物が装着される装着用ワイヤを含み、前記測定用ワイヤに作用する前記被処理物の重量を測定する測定器と、
前記測定器を収納するとともに、前記測定用ワイヤが下面を貫通する測定器室と、
前記測定器室に不活性ガスを導入する測定器室用ガス導入手段と、
開閉扉を備えており、前記測定用ワイヤが上面を貫通するとともに前記装着用ワイヤが下面を貫通し、内部に前記フックが非接触状態で位置する装入室と、
前記装入室の内部に連通した上端を前記装着用ワイヤが貫通するとともに、内部の中間部分に前記被処理物が非接触状態で位置する処理室と、
前記処理室内に反応ガスを導入する処理室用ガス導入手段と、
前記処理室の外周部の中間部分に対向するヒータを周囲に断熱層を配置して収納した加熱室と、
前記測定器室の下面と前記装入室の上面との間に配置された第1の遮熱板と、
前記装入室の下面から前記ヒータの上端までの範囲における前記処理室の内部に配置された第2の遮熱板と、を備え、
前記測定器室、前記装入室及び前記処理室を、前記測定用ワイヤ及び前記装着用ワイヤを中心として、上から下にこの順に配置したことを特徴とする熱重量測定装置。
【請求項2】
前記装入室の内部に反応ガスを導入する装入室用ガス導入手段と、前記装入室の内部の気体を排出する装入室用排出手段と、前記処理室の内部の気体を下端から排出する処理室用排出手段と、をさらに備え、前記処理室用ガス導入手段は前記処理室の内部に下端から反応ガスを導入する手段であり、前記処理室用ガス導入手段と前記装入室用排出手段とを同時的に動作させるか、又は、前記処理室用排出手段と前記装入室用ガス導入手段とを同時的に動作させることを特徴とする請求項1に記載の熱重量測定装置。
【請求項3】
前記加熱室に不活性ガスを導入する加熱室用ガス導入手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱重量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−285821(P2007−285821A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112450(P2006−112450)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】