説明

熱量測定方法

【課題】原料の天然ガス(NG)の受け入れが変更されても、連続した都市ガス製造の中でより精確に熱量が測定できるようにする。
【解決手段】天然ガス導入ライン101に導入されている天然ガスの熱伝導率を熱伝導率測定部108により測定し、測定した熱伝導率をもとに天然ガスの発熱量を求め、これら測定された熱伝導率と求められた発熱量とにより、熱量測定制御部109が、熱量測定部106における発熱量算出の式の定数2を変更することで、熱量測定部106における発熱量の算出を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスを主原料とする都市ガスなどの発熱量を測定する熱量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガスは、天然ガス(NG:Natural Gas)を原料としてこれに石油ガス(PG:Petroleum Gas)を混ぜて所定の熱量(発熱量)に調整して供給されている。熱量計は、上述した都市ガスの発熱量を測定するために用いられ、ガスを燃焼させて発熱量を計測する最も基本的な方法と、ガス密度と発熱量の関係を利用して発熱量を計測する方式がある。また、熱伝導率を測定することで、測定対象のガス発熱量を求める方法も提案されている。
【0003】
まず、ガスを燃焼させて発熱量を計測する熱量計は、高圧酸素を封入したボンブの中で試料ガスを完全燃焼させ、このとき発生する熱を一定量の水に伝えて、燃焼前後の水温上昇を測定することにより、試料ガスの燃焼熱を得るようにしたものである。一方、ガス密度式の熱量測定方式は、発熱量とガスの密度の関係が一次式で近似できることを利用しており、測定対象のガスの密度を求め、予め用意されている変換式もしくは検量線などにより、発熱量を求めるようにしている。
【0004】
また、熱伝導率式の熱量測定では、上述のガス密度式と同様に、測定対象ガスの熱伝導率と熱量との関係が1次式で近似できることを利用しており、測定対象のガスの熱伝導率を求め、予め用意されている変換式もしくは検量線などにより、発熱量を求めるようにしている(特許文献1参照)。この方式では、大気程度の圧力範囲では熱伝導率の値はほとんど変化せず、通常では、この測定を恒温槽の中で使用しているので、温度などの周囲環境やガスの変動の影響を受け難く、連続的にガスの発熱量を測定できる。また、以上の測定方法以外にも、発熱量を求めるガスの組成成分の濃度をガスクロマトグラフを用いて各々測定し、測定で得られた濃度の各々に発熱量を乗じて発熱量を算出する方法もある。
【0005】
しかしながら、まず、燃焼式熱量計では、ガスを燃焼させる必要があるので応答が遅く、また、周囲の環境変化による温度変化の影響が大きいという問題がある。また、ガスクロマトグラフを用いる方法では、測定が間欠的となり、連続分析ができず、応答が遅いという問題がある。このため、通常では、応答性が早く連続的に測定が可能な、ガス密度式の熱量測定もしくは熱伝導率式の熱量測定が用いられるようになっている。特に、熱伝導率式の熱量測定方法は、検出が電気的な信号により行えて測定が簡便なため、より多く利用されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3138978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した、都市ガス製造の原料となる天然ガスは、受け入れ毎に発熱量が微小な範囲で異なっているため、製造される都市ガスの発熱量の測定値が高い精度で得られないという問題があった。例えば、3.349MJ/N・m3程度の範囲で、受け入れ毎に発熱量が異なっている。熱伝導率式の熱量測定では、測定対象の都市ガスの熱伝導率と、対応する熱量との関係(検量線)を用意しておき、この検量線を用いて熱伝導率を求めている。ところが、前述したように原料の天然ガスの状態が異なると、用意されている検量線では、精確な熱量の測定ができない。ここで、天然ガスを新たに受け入れる毎に、上記検量線を作成することで、受け入れた天然ガスの状態(発熱量)が変化していても、精確な熱量の測定が可能となる。しかしながら、連続して都市ガスを製造している環境では、天然ガスを新たに受け入れる毎に、上記検量線を作成して対応することは現実的ではない。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、原料の天然ガス(NG)の受け入れが変更されても、連続した都市ガス製造の中でより精確に熱量が測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱量測定方法は、天然ガスに石油ガスを添加して製造する都市ガスの発熱量を、設定されている第1定数に測定された都市ガスの熱伝導率を乗じ、この乗じた値に第2定数を加算する熱量算出式により算出する熱量測定方法において、天然ガスの熱伝導率を測定し、測定した天然ガスの熱伝導率より、設定されている天然ガスの熱伝導率と熱量との関係を示す所定の関係より天然ガスの発熱量を求め、測定した天然ガスの熱伝導率に第1定数を乗じた値を、求めた天然ガスの発熱量から差し引くことで第2定数を算出し、算出した第2定数を用いた熱量算出式により、測定された都市ガスの熱伝導率より都市ガスの発熱量を算出するようにしたものである。なお、所定の関係は、組成が異なる複数の天然ガスの発熱量と熱伝導率との関係より設定されるものである。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、測定した原料となる天然ガスの熱伝導率と所定の関係とにより天然ガスの発熱量を算出することで、熱量算出式の第2定数を決定し、決定された第2定数を用いた熱量算出式により、都市ガスの発熱量を算出するようにしたので、原料の天然ガスの受け入れが変更されても、連続した都市ガス製造の中でより精確に熱量が測定できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における熱量測定方法が適用される都市ガス製造プロセスの概要を示す構成図である。図1に示す都市ガス製造プロセスについて説明すると、まず、図示しない液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)貯蔵タンクより原料となる天然ガスが、天然ガス導入ライン101により混合部103に導入される。また、図示しない液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)貯蔵タンクより、石油ガスが、PG供給部102を介して供給され、混合部103において、天然ガス導入ライン101に導入されている天然ガスに混合される。このようにして混合されて製造された都市ガスが、都市ガス供給ライン104に供給される。なお、都市ガス供給ライン104には、クッションタンク105が設けられ、供給される都市ガスの供給量の変動などを抑制している。
【0012】
このようにして都市ガスが製造されている中で、都市ガス供給ライン104に供給されている都市ガスの熱量が、熱量測定部106により測定される。
ここで、熱量測定部106における熱量の測定について簡単に説明する。熱量測定部106は、図2に示すように、測定対象となる気体に曝される測温抵抗体(TCD)201と、抵抗R1,R2,R3と、比較器203と、熱伝導率算出部204と、熱量算出部205とを備え、TCD201と抵抗R1,R2,R3とはブリッジを構成している。このように構成された熱量測定部106では、まず、次に示すことにより、測定対象のガスの熱伝導率を測定する。
【0013】
まず、測定対象ガス(都市ガス)にTCD201が暴露されると、給送されたガスの熱伝導率に比例した熱が、TCD201より奪われる。これにより、TCD201の発熱温度TRhが変化し、抵抗値Rhが変化する。このとき、抵抗R1とTCD201との接続点に生ずる電圧が、出力電圧Vとして比較器203の反転入力へ与えられる。また、抵抗R3と抵抗R2との接続点に生ずる電圧が、比較器203の反転入力へ与えられる。
【0014】
これらが入力された比較器203において、TCD201の温度変化が出力電圧Vの変化ΔVとして検出される。比較器203は、検出した出力電圧Vの変化ΔVに基づいて、上記ブリッジの平衡状態を維持するようにTCD201へ流れる電流iを制御し、TCD201の発熱温度TRhを一定にし、この抵抗値Rhを一定(Rh=(R1×R2)/R3)に保つ。
【0015】
以上のようにして、TCD201の発熱温度TRhが一定とされる中で出力される出力電圧Vにより、熱伝導率算出部204は、測定対象ガスの熱伝導率λmを算出する。また、算出(測定)された熱伝導率λmを用い、熱量算出部205が、測定対象ガスの発熱量を算出する(特許文献1参照)。熱量算出部205は、「発熱量(kJ/N・m3)=定数1×熱伝導率(mW/m・K)+定数2」よりなる熱量算出式により、測定された熱伝導率から発熱量を算出している。
【0016】
この熱量算出式は、天然ガス及び天然ガスに石油ガスを混合して製造される都市ガスの発熱量が、ガスの熱伝導率の一次式で近似的に求められることを示している。このとき、測定対象ガスの熱伝導率λmに対する比例定数「定数1」は、原料となる天然ガスの状態(発熱量)には依存しないことが知られている。従って、受け入れ毎の天然ガスの状態の変化は、上記熱量算出式の定数2(切片)に反映されていることになる。
【0017】
以上のことにより、図1に示す都市ガス製造プロセスでは、天然ガス導入ライン101に導入されている天然ガスの熱伝導率を熱伝導率測定部108により測定し、測定した熱伝導率をもとに、熱量測定制御部109が、熱量測定部106(熱量算出部205)における上述した発熱量算出の式の定数2を変更することで、熱量測定部106における発熱量の算出を制御する。この熱量測定制御部109により定数2を変更させる仕組みについては、後述する。
【0018】
このように、受け入れる天然ガスの熱伝導率に基づいて熱量測定部106における都市ガスの熱量算出式の定数2を調整しながら都市ガスの発熱量を算出するので、上述した本実施の形態における熱量測定方法によれば、原料の天然ガスの受け入れが変更されても、連続した都市ガス製造の中でより精確に熱量が測定できるようになる。
本実施の形態にかかる都市ガス製造プロセスでは、以上のようにして、算出された発熱量が所定の値(例えば46MJ/N・m3)となるように、混合量制御部107が混合部103における石油ガスの混合量を制御する。
【0019】
次に、上述した天然ガスの熱伝導率により都市ガスの熱量測定を制御する熱量測定方法について、より詳細に説明する。まず、上述した熱量算出式における定数1について説明する。天然ガスおよびこれに石油ガスが添加されて製造される都市ガスは、メタンを主成分とする炭化水素の混合物であり、これらの組成,濃度,発熱量,及び熱伝導率は、以下の表1に示すとおりである。なお、表1中で、熱伝導率はガス温度114℃での測定におけるものである。
【0020】
【表1】

【0021】
ここで、上述した成分より構成される天然ガスベースの都市ガスの目標とする発熱量は約46MJ/N・m3であり、この値の近傍では、その都市ガスの発熱量と熱伝導率の関係は、メタンガスの熱伝導率及び発熱量の点と、エタンガスの熱伝導率及び発熱量の点とを通る直線で近似される。前述した熱量測定部106の熱量算出部205で用いられる熱量算出式が、これら2つの点を通る直線を示すものとなる(特許文献1参照)。従って、熱伝導率を横軸とし、発熱量を縦軸とした直交座標のグラフにおいて、上記直線は、傾きを定数1、縦軸の切片を定数2とする一次式で表される。言い換えると、この近似直線を示す一次式を、熱量算出式として用いればよい。なお、上記熱量算出式は、納入される複数の天然ガスの熱伝導率と発熱量との測定結果より近似される直線の関係より求めるようにしてもよい。例えば、納入される複数の天然ガスの熱伝導率と発熱量とをおのおの測定し、各測定結果をもとに最小2乗法により上熱量算出式を求めるようにしてもよい。
【0022】
このような直線で近似できる熱伝導率と発熱量との関係(熱量算出式)において、納入毎に異なる天然ガスの発熱量の変化が、4.181MJ/N・m3程度の範囲であれば、傾きを表す定数1は変化せず、定数2が変化する。従って、次に示すようにすることで、定数2を補正し、補正した定数2による熱量算出式を用いれば、より精確な都市ガスの発熱量が算出できるようになる。まず、納入される天然ガスの発熱量と熱伝導率との関係(所定の関係)をあらかじめ求めておく。この所定の関係をもとに、熱伝導率測定部108が測定した天然ガス導入ライン101に導入されている天然ガスの熱伝導率(測定値)より、当該天然ガスの発熱量(算出値)を算出する。
【0023】
次いで、測定した熱伝導率と算出した発熱量とを、上記熱量算出式に代入し、あらかじめ決定されている定数1をもとに、定数2を算出する。言い換えると、算出した天然ガスの発熱量から、測定した天然ガスの熱伝導率に定数1を乗じた値で差し引くことで定数2を算出する。定数1は、例えば、−2298.60055とすればよい。このようにして算出した定数2と、あらかじめ決定されている定数1とによる上記熱量算出式により、都市ガス供給ライン104に供給される都市ガスの熱伝導率から、当該都市ガスの発熱量を算出する。このように、本実施の形態における熱量測定方法によれば、納入される天然ガスの熱伝導率を測定することで、精確な都市ガスの発熱量が算出できるように、上記熱量算出式を補正することができる。
【0024】
なお、納入される天然ガスの発熱量と熱伝導率との関係(所定の関係)は、次に示すことにより求めておくことができる。例えば、天然ガスA、天然ガスB、天然ガスC、及び天然ガスDの4種類が納入される場合を考える。各天然ガスの発熱量をあらかじめ求めておき、また、各天然ガスの熱伝導率を求めておく。これらのことにより、図3に示すように、天然ガスAの熱伝導率と発熱量とによる点(a)、天然ガスBの熱伝導率と発熱量とによる点(b)、天然ガスCの熱伝導率と発熱量とによる点(c)、及び天然ガスDの熱伝導率と発熱量とによる点(d)を、熱伝導率と発熱量との座標系にプロットする。このようにしてプロットした点を通る、点線で示す折れ線301が、天然ガスの熱伝導率と発熱量との関係を示す所定の関係となる。
【0025】
前述したように、各点は納入した天然ガスの測定結果であるため、各天然ガスA、天然ガスB、天然ガスC、及び天然ガスDを各々原料として製造される都市ガスA、都市ガスB、都市ガスC、及び都市ガスDの熱伝導率と発熱量との関係を示す(近似する)直線(a’),(b’),(c’),及び(d’)は、図3に示すように、上述した点(a)、点(b)、(c)、点(d)を通る。
【0026】
このように、天然ガスの熱伝導率と発熱量との所定の関係と、都市ガスの熱伝導率と発熱量との関係を示す熱量算出式(一次近似式)の傾きをあらかじめ求めておくことにより、熱量算出式の定数2を決定(補正)し、測定された都市ガスの熱伝導率からその発熱量を精確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態における熱量測定方法が適用される都市ガス製造プロセスの概要を示す構成図である
【図2】熱量測定部106の構成例を示す構成図である。
【図3】天然ガスの熱伝導率と発熱量との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0028】
101…天然ガス導入ライン、102…PG供給部、103…混合部、104…都市ガス供給ライン、105…クッションタンク、106…熱量測定部、107…混合量制御部、108…熱伝導率測定部、109…熱量測定制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスに石油ガスを添加して製造する都市ガスの発熱量を、設定されている第1定数に測定された前記都市ガスの熱伝導率を乗じ、この乗じた値に第2定数を加算する熱量算出式により算出する熱量測定方法において、
前記天然ガスの熱伝導率を測定し、
測定した前記天然ガスの熱伝導率より、設定されている天然ガスの熱伝導率と熱量との関係を示す所定の関係より前記天然ガスの発熱量を求め、
測定した前記天然ガスの熱伝導率に前記第1定数を乗じた値を、求めた前記天然ガスの発熱量から差し引くことで前記第2定数を算出し、
算出した前記第2定数を用いた前記熱量算出式により、測定された前記都市ガスの熱伝導率より前記都市ガスの発熱量を算出する
ことを特徴とする熱量測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱量測定方法において、
前記所定の関係は、組成が異なる複数の天然ガスの発熱量と熱伝導率との関係より設定されるものである
ことを特徴とする熱量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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