説明

熱間割れに耐性のある高強度アルミニウム鋳造合金

熱間割れに耐性のあるアルミニウム鋳造合金である。重量パーセントで、約4.0から約6.9のZn、約2.0から約3.5のMg、約0.6から約1.2のCu、約0.38から約0.57のSc、約0.18から約0.28のZr、並びに残部Al及び不純物を含み、Fe、Mn、及びSiが実質的に除かれ、凝固範囲が約150℃未満、固相線温度が約490℃超過、凝固の後期段階における共晶相分率が約5%超過である。本合金は、結晶粒径が約40から約60μmのfcc結晶粒を接種するL1粒子とη’相析出物との分散が形成されるように処理され、約410MPaから約540MPaの周囲降伏強さが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間割れに耐性のある高強度アルミニウム鋳造合金に関する。
【0002】
政府の関心
本発明の主題の開発に関する活動は、米国政府により少なくとも部分的に資金援助を受けた。このため、米国において実施権又は他の権利が許諾される可能性がある。具体的な契約番号はFA8650−05−C−5800である。
【背景技術】
【0003】
7XXX鍛錬用Al−Zn系合金が、高い特異的強度を要する構造用途に通常使用される。鍛錬用合金と比べると、鋳造は製造コスト及び関連調達所要時間を低減する。鋳造により、ニアネットシェイプ製品が可能となるからである。しかし、周知の7XXX合金は、凝固中に熱間割れを受けやすいので、鋳造に最適とはいえない。熱間割れは、比較的高い熱膨張係数、及び液体固体間の著しい容積差により生じる。
【0004】
特許文献1(本明細書に組み込む)は、公称組成がAl−6.0〜12.0Zn−2.0〜3.5Mg−0.1〜0.5Sc−0.05〜0.20Zr−0.5〜3.0Cu−0.10〜0.45Mg−0.08〜0.35Fe−0.07〜0.20Si(wt%)である高強度アルミニウム合金を開示する。特許文献1の合金は、高い引張強さを示す一方、周囲温度及び極低温度で高い伸びを維持する。特許文献1の合金は、凝固範囲が約164℃から約195℃であり、固相線温度が約422から約466℃であり、共晶相分率が約1.1から約1.5%である。しかしながら、当該合金は鋳造特性が悪い。よって、熱間割れに耐性のある新たな7XXXアルミニウム鋳造合金の必要性が高まっている。かかる合金は、水素ターボポンプハウジング等の航空宇宙材料のような製造物品に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,060,139号明細書
【発明の概要】
【0006】
主要面において、本発明は、熱間割れに耐性のある高強度アルミニウム鋳造合金を含む。当該鋳造合金の降伏強さは、室温で約410MPaから約540MPaの範囲である。本発明に係る合金は、Al−Zn系であり、主要合金化元素としてSc、Zr、Mg、及びCuを含む。Sc及びZrの量が、初析L1相粒子を生成するべく最適化される。当該粒子は、粒径がリファインされて、熱間割れ耐性並びに疲労耐性及び靱性が改善されている。Zn、Mg、及びCuの量が、熱間割れに対する高い耐性及び高強度を目的として最適化される。Fe、Mn、及びSiの量が低く維持されて最小限とされる。これは、かかる元素が強度及び熱間割れ耐性に対して有害な影響を与えるからである。
【0007】
初析L1相粒子を生成するべく、L1相のソルバス温度をfcc相のソルバス温度よりも高くする必要がある。ソルバス温度は、Thermo−Calc Softwareが提供するThermo−Calc(登録商標)ソフトウェアバージョンNのような熱力学データベース・計算パッケージを用いて計算することができる。代替的には、当該合金の組成空間内において、以下の式によりソルバス温度を近似することができる。
L1solvus=87.01×wpSc+157.89×wpZr
243.43×wpSc×wpZr+267.06×wpSc0.14+769.51×wpZr0.05
fcc solvus=−1.76×wpZn−5.14×wpMg
0.005×wpZn×wpMg+139.13×wpZn0.002+792.11×wpMg0.0002
ここで、wpSc、wpZr、wpZn、及びwpMgは、Sc、Zr、Zn、及びMgそれぞれの重量パーセントである。かかる式は、ソルバス温度のベストフィットに基づく。
【0008】
さらに、Zrの量は、D023結晶構造を有するAlZrの形成を最小限にするべく約0.3重量パーセントよりも低く維持される。HydeがAl−0.5Sc−0.4Zr(wt%)に示すように、D023粒子は急速に過大に成長し[Hyde,K.2001.The Addition of Scandium to Aerospace Casting Alloys.Ph.D.diss.,University of Manchester(本明細書に組み込む)]、fcc結晶粒径をリファインするにはそれほど有効ではない。発見された合金においては、その代わりに、溶融物冷却中に小さなfcc結晶粒を接種するL1結晶構造を有する小さなAl(Sc,Zr)粒子が用いられる。ZrはL1におけるScの安価な代用品なので、本発明の合金はできる限り多くのZrすなわち約0.25±0.05wt%を用いる。しかしながら、コストが制限因子とならない場合は、大量のScと組み合わせて0.15wt%もの少ないZrを用いることができる。
【0009】
本鋳造合金におけるSc及びZrの量は、毎秒約100℃までの冷却速度に最適化される。L1−Al(Sc,Zr)の粒径分布は溶融物冷却速度に依存する。砂型モールド内に鋳造する結果、毎秒約0.5℃の冷却速度となる。凝固中にビレットが、例えば水で冷却される直冷鋳造によれば、高い冷却速度が利用可能である。連続レオコンバージョンプロセス(CRP)のような鋳造方法によれば、毎秒約100℃を超える冷却速度も利用可能である。
【0010】
図1に示すように、大きな初析L1粒子が直径200μm超過のfcc結晶粒になる。毎秒約100℃までの冷却速度において約40から約60μmのfcc結晶粒径を達成するべく、初析L1粒子の平均半径は約2μmよりも小さくする必要がある。また、その相分率を重量で1%よりも小さくする必要がある。図1Aは、必要なL1粒径を可能とするSc及びZrの量を示す。Zrの量が約0.3wt%よりも小さく維持されるので、Scの量は約0.4wt%よりも大きく約0.6wt%までに維持される。
【0011】
熱間割れは凝固中の熱収縮に実質的に起因するので、熱間割れに対する耐性は、凝固範囲を低減し、かつ、固相線温度、すなわちこれより低いとアルミニウム合金が完全な固体となる温度、を増大することによって改善することができる。凝固の後期段階で形成される共晶相分率を増大することも有用である。これは、共晶相が一の温度で完全に凝固して、凝固範囲にわたる溶融収縮量を低減させるからである。
【0012】
凝固範囲のような凝固パラメータ、固相線温度、及び共晶相分率は、Thermo−Calcソフトウェアのような熱力学データベース・計算パッケージにより計算することができる。複合合金系の凝固パラメータをThermo−Calcソフトウェアにより計算するべく、CALPHAD(CALculation of PHAse Diagrams)アプローチに従って関連相のギブス自由エネルギーを評価する必要がある。一のかかる関連相は準安定η’相である。これは、7XXX鍛錬用合金が強化を目的としてη’相析出を用いるからである。強化を有効とするべく、η’析出物の平均半径は約5nmよりも小さくする必要がある。
【0013】
η’相析出速度は、熱力学的記載の評価後に、QuesTek Innovations LLCが提供するPrecipiCalc(登録商標)バージョン0.9を用いてシミュレーションすることができる。予測される粒子径分布は、降伏強さの機構モデルへの入力として用いることができる。当該モデルは、析出強化、結晶粒径強化、固溶強化、及び転位強化からの寄与を含む。合金のZn、Mg、及びCuの量が選択されて様々な降伏強さでの凝固パラメータが最適化される。
【0014】
Fe、Mn、及びSiの量が可能な限り低く維持される。これは、そうしなければ、かかる元素がAl13Fe、AlCuFe、MgSi、及びAlMnの大きな不溶成分粒子を形成するからである。これらの粒子は、靱性、疲労、及びSCC耐性に悪影響を与える。Feの量は約0.0075wt%未満が、Mnの量は約0.2wt%未満が、及びSiの量は約0.03wt%が好ましい。
【0015】
均質化又は溶体化処理中の初期溶融を回避するべく、当該均質化又は溶体化処理温度は、最終凝固温度よりも低くする必要がある。約10から30℃の安全マージンがあるのが好ましい。図3に示すような均質化処理と溶体化処理とを区別する2段処理は、初期溶融を回避する追加安全因子を導入することができる。計算された最終凝固温度は約493℃である。したがって、一実施例では、均質化及び溶体化処理は約460から480℃においてである必要がある。かかる処理の時間は、鋳放し偏析の大半を除去できる程度に十分長くする必要がある。図4に示すように、均質化シミュレーションは、480℃における1時間の溶体化処理の後の460℃における2時間の均質化が、鋳放し元素偏析の大半を除去するのに十分であることを示す。このシミュレーションは、Thermo−Calc Softwareが提供するDICTRA(商標)(DIffusion Controlled TRAnsformations)バージョン24により行われた。
【0016】
本発明の主題は、特にアルミニウム7XXX合金に適用可能であるが、これに限られるわけではない。したがって、本発明の一の利点は、鋳造アルミニウム合金の熱間割れを除去又は実質的に除去することにある。
【0017】
本発明のさらなる利点、利益、及び特徴が本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
下記の詳細な説明では、以下の図を含む図面を参照する。
【0019】
【図1】図1A及び1Bはそれぞれ、シミュレーションされた初析L1粒子半径及びシミュレーションされた結晶粒径をSc及びZrの合金の関数として示すグラフである。
【図2】図2A、2B、及び2Cはそれぞれ、強度及び凝固パラメータの概略をZn、Mg、及びCu含有量の関数として示すグラフである。ここで、以下の凡例が使用される。
【数1】

【図3】本発明に係る合金の一実施例を処理する処理ステップを示す時間−温度図である。
【図4】本発明に係る実施例の均質化シミュレーションである。
【図5】本発明の合金Aの顕微鏡写真である。本顕微鏡写真は、本発明の実施例の典型である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の具体例を以下に示す。
【実施例1】
【0021】
実施例1は合金Aである。
【0022】
Al−6.3Zn−3.2Mg−1.1Cu−0.52Sc−0.20Zr(wt%)を含む溶融物が用意された。例示の合金は、成分に平均値プラス又はマイナス10パーセントの範囲のばらつきを含むのが好ましい。本合金は、CRP炉を介して50〜100℃/秒の測定冷却速度で砂型鋳造モールド内に鋳造された。図3に示すように、最適処理条件は、熱間静水圧プレスの適用、460℃において2時間及び480℃において1時間の均質化及び溶体化、水による急冷、室温において24時間維持、及び120±10℃において20時間の時効であった。本条件における周囲降伏強さは521±12MPaであった。結晶粒径は約50μm、又は約5.7のASTM(アメリカ材料試験協会)粒度番号であった。計算された凝固範囲は136℃、固相線温度は493℃、凝固の後期段階に形成された共晶相分率は10%である。
【0023】
合金Aの矩形パネルが、熱間割れなしで鋳造に成功した。溶融物は、700〜720℃において45分間アルゴンによる脱ガス後、モールド鋳込みの直前に740℃まで再加熱された。モールドは深さが約1cmと測定された。モールドを充填する鋳込み時間は約20秒であった。モールドは充填が成功し、特性決定に適したパネルが作られた。パネルは、モールドから取り出され、すべてのゲートが取り外され、及び清浄された後に、特性決定するべくWright Patterson空軍基地にあるUES社まで輸送された。図5は、合金Aの微細構造を示す。鋳造による細孔、例示のL1粒子、及び共晶相をそれぞれa、b、及びcとして標識する。
【実施例2】
【0024】
実施例2は合金Bである。
【0025】
Al−5.3Zn−3.0Mg−1.1Cu−0.55Sc−0.25Zr(wt%)を含む溶融物が用意された。例示の合金は、成分に平均値プラス又はマイナス10パーセントの範囲のばらつきを含むのが好ましい。本合金は、CRP炉を介して約100℃/秒の測定冷却速度で砂型鋳造モールド内に鋳造された。図3に示すように、最適処理条件は、熱間静水圧プレスの適用、460℃において2時間及び480℃において1時間の均質化及び溶体化、水による急冷、室温において24時間維持、及び120±10℃において20時間の時効であった。本条件における周囲降伏強さは482±6MPaであった。結晶粒径は約54μm、又は約5.5のASTM粒度番号であった。計算された凝固範囲は139℃、固相線温度は494℃、凝固の後期段階に形成された共晶相分率は9%である。合金Bの矩形パネルが、熱間割れなしで鋳造に成功した。合金Aのプロトコルにほぼ従ったものもあればそうでないものもある。
【実施例3】
【0026】
実施例3は合金Cである。
【0027】
Al−4.5Zn−2.3Mg−0.62Cu−0.42Sc−0.25Zr(wt%)を含む溶融物が用意された。例示の合金は、成分に平均値プラス又はマイナス10パーセントの範囲のばらつきを含むのが好ましい。本合金は、CRP炉を介して砂型鋳造モールド内に鋳造された。図3に示すように、最適処理条件は、熱間静水圧プレスの適用、460℃において2時間及び480℃において1時間の均質化及び溶体化、水による急冷、室温において24時間維持、及び120±10℃において15時間の時効であった。本条件における計算された周囲降伏強さは410±40MPaであった。計算された結晶粒径は約50μm、又は約5.7のASTM粒度番号であった。計算された凝固範囲は145℃、固相線温度は494℃、凝固の後期段階に形成された共晶相分率は6%である。2つのパネルが、熱間割れなしで合金Cの一のヒートからの鋳造に成功した。その他は合金Aで使用されたプロトコルにほぼ従うものであった。
【0028】
表1は、上記実施例の組成のまとめである。本発明の実施のための成分の一般的範囲を重量パーセントで記載する。
【表1】

【0029】
表2は、上述されて本発明の実施における成分の範囲に関連すると考えられる実施例の微細構造元素に関する情報のまとめである。
【表2】

【0030】
本発明に係る実施例が記載されたが、本発明の範囲はそれに制限されない。本発明は以下の請求項及びその均等によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐割れ特性を有するアルミニウム鋳造合金であって、
重量パーセントで、約4.0から約6.9のZn、約2.0から約3.5のMg、約0.6から約1.2のCu、約0.38から約0.57のSc、約0.18から約0.28のZr、並びに残部Al及び不純物を含み、
Fe、Mn、及びSiが実質的に除かれ、
fcc結晶粒を接種するL1粒子とη’相析出物とが分散された合金。
【請求項2】
前記fcc結晶粒の平均結晶粒径は約40から60μmである、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記η’相析出物は約5nm未満の平均半径を有する、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
約0.0075重量パーセント未満のFe、約0.2重量パーセント未満のMn、及び約0.03重量パーセント未満のSiを有する、請求項1に記載の合金。
【請求項5】
重量パーセントで、約5.8−6.8のZn、2.9−3.5のMg、1.0−1.2のCu、0.52のSc、及び0.20のZrを成分として有する、請求項1に記載の合金。
【請求項6】
重量パーセントで、約4.8−5.8のZn、2.7−3.3のMg、1.0−1.2のCu、0.55のSc、及び0.25のZrを成分として有する、請求項1に記載の合金。
【請求項7】
重量パーセントで、約4.0−5.0のZn、2.0−2.6のMg、0.52−0.72のCu、0.42のSc、及び0.25のZrを成分として有する、請求項1に記載の合金。
【請求項8】
耐割れ特性を有するアルミニウム鋳造合金であって、
重量パーセントで、約4.0から約6.9のZn、約2.0から約3.5のMg、約0.6から約1.2のCu、約0.38から約0.57のSc、約0.18から約0.28のZr、並びに残部Al及び不純物を含み、
Fe、Mn、及びSiが実質的に除かれ、
凝固範囲が約150℃未満、固相線温度が約490℃超過、凝固の後期段階における共晶相分率が約5%超過である合金。
【請求項9】
耐割れ特性を有するアルミニウム鋳造合金であって、
重量パーセントで、約4.0から約6.9のZn、約2.0から約3.5のMg、約0.6から約1.2のCu、約0.38から約0.57のSc、約0.18から約0.28のZr、並びに残部Al及び不純物を含み、
Fe、Mn、及びSiが実質的に除かれ、
凝固範囲が約150℃未満、固相線温度が約490℃超過、凝固の後期段階における共晶相分率が約5%超過であり、
fcc結晶粒を接種するL1粒子とη’相析出物とが分散された合金。
【請求項10】
耐割れ特性を有するアルミニウム鋳造合金であって、
重量パーセントで、約4.0から約6.9のZn、約2.0から約3.5のMg、約0.6から約1.2のCu、約0.38から約0.57のSc、約0.18から約0.28のZr、並びに残部Al及び不純物を含み、
Fe、Mn、及びSiが実質的に除かれ、
凝固範囲が約150℃未満、固相線温度が約490℃超過、凝固の後期段階における共晶相分率が約5%超過であり、
結晶粒径が約40から約60μmのfcc結晶粒を接種するL1粒子とη’相析出物とが分散され、
周囲降伏強さが約410MPaから約540MPaである合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−510174(P2011−510174A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543275(P2010−543275)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/031251
【国際公開番号】WO2009/126347
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(503287823)ケステック イノベーションズ エルエルシー (6)