説明

熱間押出性に優れたNi基合金管及びNi基合金管の製造方法

【課題】熱間押出加工に起因した横切れの発生を抑制するNi基合金管を提供する。
【解決手段】本発明によるNi基合金管は、質量%で、C:0.040%以下、Cr:14〜17%、Fe:6〜10%、Nb:1〜3%、Al:0.50%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下及びTi:0.30%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、不純物としてのP、S、O及びNの含有量はそれぞれ、P:0.030%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.0040%以下に制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金管及びNi基合金管の製造方法に関し、さらに詳しくは、熱間押出加工により製造されるNi基合金管及びNi基合金管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル(Ni)基合金管は、優れた強度及び靭性を有し、耐食性及び耐熱性にも優れる。そのため、Ni基合金管は、化学プラントや、原子炉のスチームジェネレーター等の高温及び高圧な環境に多く利用される。
【0003】
Ni基合金の機械的特性を改善する提案は、たとえば、特開2002−173720号公報(特許文献1)及び特開昭60−131958号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されたNi基合金は、C:0.045%以下、Cr:14〜26%、Fe:3〜25%、Nb:4%以下、N:0.005〜0.04%、Al:0.2%以下、Si:1.0%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、さらに、S含有量を150ppm以下とし、かつ、酸素含有量を、100−S/3.75%以下にする。この場合、S及び酸素の粒界偏析による粒界脆化が抑制され、Ni基合金の熱間加工性が高まる、と記載されている。
【0005】
特許文献2では、C:0.05%以下、Si:0.50%以下、Mn:1.0%以下、Fe:5.0〜10.0%、Cr:18〜30%、Ti:0.50%以下、Nb:2.0〜5.0%、Al:0.40%以下、P:0.015%以下、S:0.005%以下、N:0.03%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなる素材を、所定の熱間加工条件及び熱処理条件に基づいてNi基合金管を製造する。この場合、高温高圧水環境下で耐応力腐食割れ性に優れる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−173720号公報
【特許文献2】特開昭60−131958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ni基合金は熱間加工性が低い。そのため、Ni基合金管は一般的に、ユジーン・セジュルネ法に代表される熱間押出加工により製造される。しかしながら、熱間押出加工によりNi基合金管を製造する場合であっても、熱間押出加工時に受けるせん断歪みに起因して、Ni基合金管の軸方向に垂直な方向に(円周方向に)に沿って延びる割れが発生する場合がある。このような割れを「横割れ」という。横割れが発生すれば、歩留まりが低下する。したがって、熱間押出加工による横割れの発生を抑制できる方が好ましい。特許文献1及び特許文献2に開示されたNi基合金を熱間押出加工してNi基合金管を製造する場合、横割れが発生する場合がある。
【0008】
本発明の目的は、熱間押出加工に起因した横割れの発生を抑制できるNi基合金管及びNi基合金管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるNi基合金管は、質量%で、C:0.040%以下、Cr:14〜17%、Fe:6〜10%、Nb:1〜3%、Al:0.50%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下及びTi:0.30%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、不純物としてのP、S、O及びNの含有量はそれぞれ、P:0.030%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.0040%以下に制限される。
【0010】
本発明によるNi基合金管は、熱間押出加工に起因した横割れの発生を抑制できる。
【0011】
本発明によるNi基合金管の製造方法は、質量%で、C:0.040%以下、Cr:14〜17%、Fe:6〜10%、Nb:1〜3%、Al:0.50%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下及びTi:0.30%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、不純物としてのP、S、O及びNの含有量はそれぞれ、P:0.030%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.0040%以下に制限される素材を準備する工程と、素材に対して熱間押出加工を実施してNi基合金管を製造する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。元素の含有量の「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0013】
本発明者らは、Ni基合金管の横割れの発生原因及び改善策について調査及び検討した。その結果、本発明者らは以下の知見を得た。
【0014】
(a)Ni基合金は変形抵抗が高く、熱間押出性が低い。特に、熱間押出加工時における粒界強度が低下すれば、横割れが発生する可能性が高くなる。
【0015】
(b)窒素(N)は高温域において、鋼中の粒内に固溶して粒界の強度を低下する。したがって、熱間押出加工により製造されるNi基合金管において、N含有量をできるだけ低く制限する。Ni基合金管において、N含有量を0.0040%以下に制限すれば、熱間押出加工時における粒界強度の低下を抑制でき、横割れの発生を抑制できる。
【0016】
以上の知見に基づいて本実施形態によるNi基合金管は完成した。以下、本実施形態によるNi基合金管について説明する。
【0017】
[化学組成]
本実施形態によるNi基合金管は、以下の化学組成を有する。
【0018】
C:0.040%以下
炭素(C)は、合金の強度を高める。一方、C含有量が高すぎれば、耐応力腐食割れ性が低下する。したがって、C含有量は0.040%以下である。鋼の強度を高める場合、好ましいC含有量は0.005%以上である。C含有量のさらに好ましい下限は0.005%よりも高く、C含有量の好ましい上限は0.040%未満である。
【0019】
Cr:14〜17%
クロム(Cr)は、合金の耐食性を高める。一方、Cr含有量が高すぎれば、相対的にNi含有量が低下する。そのため、合金の耐食性及び熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は14〜17%である。Cr含有量の好ましい下限は14%よりも高く、Cr含有量の好ましい上限は、17%未満である。
【0020】
Fe:6〜10%
鉄(Fe)は、Niに固溶するため、高価なNiの代替として含有される。しかしながら、Fe含有量が高すぎれば、合金の耐食性が低下する。したがって、Fe含有量は6〜10%である。Fe含有量の好ましい下限は6%よりも高く、好ましい上限は10%未満である。
【0021】
Nb:1〜3%
ニオブ(Nb)は、Cと結合してNb炭化物を形成し、結晶粒界でCr炭化物が生成するのを抑制する。そのため、Nbは合金の耐応力腐食割れ性を高める。Nbはさらに、Nb炭化物として結晶粒内に分散して合金の強度を高める。したがって、Nb含有量は1〜3%である。Nb含有量の好ましい下限は1%よりも高く、Nb含有量の好ましい上限は3%未満である。
【0022】
Al:0.50%以下
アルミニウム(Al)は、合金を脱酸する。Alはさらに、合金表面にAlを形成し、合金表面の耐食性を高める。一方、Al含有量が高すぎれば、Alは、合金中で酸化物系介在物を形成し、合金の清浄度を下げる。合金の清浄度が下がれば、合金の耐食性及び機械的特性が低下する。したがって、Al含有量は0.50%以下である。Alの形成により合金表面の耐食性をより高める場合、好ましいAl含有量は0.25%以上であり、さらに好ましくは、0.25%よりも高い。好ましいAl含有量の上限は、0.45%である。
【0023】
Si:0.5%以下
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。一方、Si含有量が高すぎれば、合金の清浄度が下がる。したがって、Si含有量は0.5%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.15%である。Si含有量の好ましい上限は、0.5%未満である。
【0024】
Mn:1.0%以下
マンガン(Mn)は、熱間割れの原因となるSと結合してMnSを形成し、Sを固定する。そのため、Mnは熱間押出性を高め、横割れ(熱間割れ)の発生を抑制する。Mnはさらに、合金を脱酸する。一方、Mn含有量が高すぎれば、合金の清浄度が低下する。したがって、Mn含有量は1.0%以下である。Mn含有量の好ましい下限は0.20%である。Mn含有量の好ましい上限は0.7%である。
【0025】
Ti:0.30%以下
チタン(Ti)は、炭窒化物を形成して合金の強度を高め、熱間押出性も高める。一方、Ti含有量が高すぎれば、合金の清浄度を低下する。したがって、Ti含有量は0.30%以下である。Ti含有量の好ましい下限は、0.05%である。Ti含有量の好ましい上限は、0.25%である。

【0026】
本実施の形態によるNi基合金管の残部は、ニッケル(Ni)及び不純物である。不純物は、合金の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素であって、本実施形態のNi基合金に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0027】
不純物のうち、特に、P、S、O及びNの含有量は、次のとおり制限される。
【0028】
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。Pは合金の耐食性を低下する。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.030%以下である。
【0029】
S:0.015%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは合金の耐食性及び熱間押出性を低下する。したがって、S含有量はなるべく低い方が好ましい。S含有量は0.015%以下である。
【0030】
O:0.010%以下
酸素(O)は不純物である。Oは粒界に析出し、熱間押出性を低下する。したがって、O含有量はなるべく低い方が好ましい。O含有量は0.010%以下である。
【0031】
N:0.0040%以下
窒素(N)は不純物である。Nは高温域において、粒内に固溶して粒界の強度を相対的に低下する。そのため、Nは熱間押出性を低下し、横割れの発生を促進する。したがって、N含有量はなるべく低い方が好ましい。N含有量は、0.0040%以下である。好ましいN含有量は0.0040%未満であり、さらに好ましくは0.0035%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
【0032】
[製造方法]
本実施形態によるNi基合金管は、熱間押出加工により製造される。以下、Ni基合金管の製造方法について説明する。
【0033】
初めに、上記化学組成を有する素材を準備する。素材は中空ビレットである。中空ビレットはたとえば、機械加工又は竪型穿孔により製造される。中空ビレットに対して熱間押出加工を実施する。
【0034】
熱間押出加工の一例として、ユジーン・セジュルネ法による熱間押出加工について説明する。初めに、中空ビレットを加熱する。加熱された中空ビレットを熱間押出装置のコンテナ内に収容する。コンテナに収容された中空ビレットの心孔にマンドレルを挿入し、中空ビレットをステムにより前方に押し出す。コンテナの前方にはダイが配置される。ステムにより前方に押し出された中空ビレットは、ダイとマンドレルとの間から管状に押し出される。以上の熱間押出加工により、Ni基合金管が製造される。
【0035】
中空ビレットの加熱温度は1100〜1250℃とするのが好ましい。加熱温度が低すぎると、表面温度が高温延性の良好な温度に到達することなく、変形能が低下し、表面疵が発生し易い。また、加熱温度の低下に伴って変形抵抗が高くなり、押出加工時に製管設備への負荷が増大する。一方、加熱温度が高すぎると熱間押出時の加工発熱により粒界溶融に起因する割れ疵が発生し易い。
【0036】
熱間押出加工における押出比は、次の式(1)で定義される。
押出比=素材(中空ビレット)の断面積/熱間押出加工後のNi基合金管の断面積 (1)
ここで、素材及びNi基合金管の断面積とは、素材及びNi基合金管の軸方向に垂直な断面積(横断面積)である。
【0037】
好ましい押出比は4以上である。この場合、熱間押出加工により合金に十分な歪みが付与され、均一な再結晶が起こり、細粒化するためである。一方、押出比が過剰に大きければ、熱間押出時に横切れが発生しやすくなる。したがって、好ましい押出比の上限は30である。
【0038】
熱間押出加工後のNi基合金管に対してさらに、冷間圧延及び/又は冷間抽伸といった冷間加工を実施してもよい。熱間押出加工の押出比を大きくすれば、混粒発生の防止に必要な冷間加工度を下げることができる。そのため、冷間加工具の寿命が向上する。混粒発生抑制のため、押出比が4以上の場合の好ましい冷間加工度は13%以上である。押出比が4未満の場合の好ましい冷間加工度は20%以上である。ここで、冷間加工度(%)は次の式(2)で定義される。
冷間加工度(%)=(冷間加工前のNi基合金管の断面積−冷間加工後のNi基合金管の断面積)/冷間加工前のNi基合金管の断面積×100 (2)
【実施例】
【0039】
種々の化学組成を有する複数のNi基合金管を熱間押出加工により製造し、各Ni基合金の横割れの発生の有無を調査した。
【0040】
[調査方法]
表1に示す化学組成を有する試験番号1〜6のNi基合金の素材(中空ビレット)を準備した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1を参照して、試験番号1〜3の化学組成は、本発明の化学組成の範囲内であった。一方、試験番号4〜6のN含有量は、本発明のN含有量の上限を超えた。各試験番号の素材の寸法は、表2中の「押出前寸法」欄に記載のとおりであった。
【0043】
【表2】

【0044】
試験番号1〜6の素材を、表2に示す加熱温度で加熱した。加熱された各素材に対して、ユジーン・セジュルネ法による熱間押出加工を実施し、Ni基合金管を製造した。各試験番号のNi基合金管の寸法は、表2中の「押出後寸法」欄に記載のとおりであった。各試験番号における押出比は、表2中の「押出比」欄に記載のとおりであった。押出比は式(1)に基づいて算出した。製造された各Ni基合金の外面を目視観察し、横割れの有無を調査した。
【0045】
[調査結果]
調査結果を表2に示す。表2の「横割れ」欄中の「無し」は、横割れが目視で観察されなかったことを示す。「有り」は横割れが観察されたことを示す。
【0046】
試験番号1〜3の化学組成は、本発明の範囲内であった。そのため、試験番号1〜3のNi基合金管には横割れが発生しなかった。特に、試験番号1及び2では、押出比が4以上と高かったにもかかわらず、横割れが発生しなかった。
【0047】
一方、試験番号4〜6のN含有量は、本発明のN含有量の上限を超えた。そのため、試験番号4〜6のNi基合金管のいずれにも、横割れが観察された。特に、試験番号5及び6の押出比は4未満と低かったにもかかわらず、横割れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、熱間押出加工により製造されるNi基合金管に広く適用可能であり、特に、高い押出比で製造されるNi基合金管及びその製造方法に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.040%以下、Cr:14〜17%、Fe:6〜10%、Nb:1〜3%、Al:0.50%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下及びTi:0.30%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、不純物としてのP、S、O及びNの含有量はそれぞれ、P:0.030%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.0040%以下に制限される、熱間押出性に優れたNi基合金管。
【請求項2】
質量%で、C:0.040%以下、Cr:14〜17%、Fe:6〜10%、Nb:1〜3%、Al:0.50%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下及びTi:0.30%以下を含有し、残部はNi及び不純物からなり、不純物としてのP、S、O及びNの含有量はそれぞれ、P:0.030%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.0040%以下に制限される素材を準備する工程と、
前記素材に対して熱間押出加工を実施してNi基合金管を製造する、Ni基合金管の製造方法。