説明

熱電変換材料、熱電変換素子およびその作製方法

【課題】新規な材料で構成された熱電変換素子を提供する。
【解決手段】 本発明による熱電変換素子(10)は、n型半導体層(20n)と、p型半導体層(20p)とを備える。p型半導体層(20p)は、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む。熱電変換素子(10)は800K以上の温度下で好適に用いられる。例えば、p型半導体層(20p)はCuGaTeを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、熱電変換素子およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱と電気とを相互に変換可能な熱電変換モジュールが注目されている。一般に、動力発生源で動力を発生させる際に発生した熱の大部分は棄てられてしまう。例えば、自動車のエンジンで発生したエネルギーのうち動力として取り出せるのは約30%であり、残りの約70%は熱として廃棄されてしまう。このため、発生した熱の有効利用を図ることが検討されている。
【0003】
一般に、熱電変換素子の効率は性能指数ZTで表され、性能指数の向上が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、超格子構造を有する熱電効果素子が記載されている。特許文献1に記載の熱電効果素子は、2種類以上のターゲットに照射するイオンビームを調整することにより、異なる層を交互に積層させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−012980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱電効果素子では、超格子構造を形成する必要があり、このような熱電効果素子を簡便に作製することは困難である。また、比較的簡便に作製可能な熱電変換素子は充分な変換効率を示さない。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、新規な熱電変換材料、および、このような熱電変換材料を含む熱電変換素子およびその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による熱電変換素子は、n型半導体層と、p型半導体層とを備える、熱電変換素子であって、前記p型半導体層は、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0008】
ある実施形態において、前記熱電変換素子は、700K以上、好ましくは800K以上、より好ましくは900K以上の温度下で用いられる。
【0009】
ある実施形態において、前記p型半導体層は、CuGaTeを含む。
【0010】
ある実施形態において、前記熱電変換素子は、前記p型半導体層と前記n型半導体層のそれぞれと接触する電極をさらに備える。
【0011】
本発明による熱電変換材料は、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0012】
本発明による熱電変換素子の作製方法は、n型半導体層を用意する工程と、p型半導体層を用意する工程と、前記n型半導体層および前記p型半導体層を電気的に接続する工程とを包含し、前記p型半導体層を用意する工程において、前記p型半導体層はCuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0013】
ある実施形態において、前記p型半導体層を用意する工程は、化学量論的に所定の割合でCu、GaおよびTeの存在する原料を用意し、上記原料の溶融を行う工程を含む。
【0014】
ある実施形態では、前記p型半導体層を用意する工程において、前記p型半導体層はCuGaTeを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規な熱電変換材料、ならびに、このような熱電変換材料を含む熱電変換素子およびその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による熱電変換素子の実施形態の模式図である。
【図2】CuGaTe化合物のXRDの結果を示すグラフである。
【図3】CuGaTe化合物の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
【図4】CuGaTe化合物のゼーベック係数の温度依存性を示すグラフである。
【図5】CuGaTe化合物の熱伝導率の温度依存性を示すグラフである。
【図6】CuGaTe化合物の性能指数の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明による熱電変換材料、熱電変換素子およびその作製方法の実施形態を説明する。だだし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
図1に、本発明による熱電変換素子の実施形態の模式図を示す。本実施形態の熱電変換素子10は、n型半導体層20nと、p型半導体層20pとを備えている。本明細書の以下の説明においてn型半導体層20nおよびp型半導体層20pをそれぞれ半導体層20nおよび半導体層20pと呼ぶことがある。図1に示した熱電変換素子10では、半導体層20nおよび半導体層20pは電極22を介して電気的に接続されている。ここでは、電極22は、半導体層20pおよび半導体層20nの両方の端部と接触している。また、図1に示したように、熱電変換素子10は、半導体層20pの他方の端部と電気的に接続された電極24aと、n型半導体層20nの他方の端部と電気的に接続された電極24bとをさら備えていてもよい。
【0019】
電極22の温度が電極24a、24bよりも高い場合、ゼーベック効果によって半導体層20nおよび半導体層20p内をそれぞれ電子および正孔が移動し、これにより、電流を発生させることができる。このような電流を負荷Lに流すことにより、負荷Lに仕事をさせることができる。また、電極22の温度が電極24a、24bよりも低い場合、電流は反対方向に流れる。
【0020】
あるいは、電極24bから半導体層20n、電極22、半導体層20pおよび電極24aを通るように電流を流すことにより、電極22で吸熱を行い、電極24a、24bで放熱を行うことができる。また、電極24aから半導体層20p、電極22、半導体層20nおよび電極24bを通るように電流を流すことにより、電極22で放熱を行い、電極24a、24bで吸熱を行うことができる。
【0021】
例えば、電極22、24a、24bは銀から形成され、電極22、24a、24bは、絶縁基板(ここでは図示せず)によって支持されてもよい。絶縁基板として例えばセラミック基板(一例としてアルミナ基板)を用いてもよい。また、電極24a、24bは分離されているが、電極24a、24bを支持する絶縁基板は一体的に設けられてもよい。
【0022】
本実施形態の熱電変換素子10において、p型半導体層20pは本発明による熱電変換材料の実施形態から形成される。本実施形態の熱電変換材料は、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む。本明細書の以下の説明において、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeを総称してCuGaTe化合物と呼ぶことがある。性能指数の比較的高い半導体層20pはバルク状のCuGaTe化合物から作製される。CuGaTe化合物はカルコパイライト型結晶構造または閃亜鉛鉱型構造を有している。
【0023】
なお、詳細は後述するが、半導体層20pは、CuGaTeから形成されることが好ましい。これにより、性能指数の高いバルク状の半導体層20pを形成することができる。性能指数は温度にも依存するが、温度が900Kを超える場合、性能指数ZTを1.5よりも大きくすることができる。
【0024】
半導体層20nは任意の材料から形成されてもよい。ただし、半導体層20nの材料は、同一基板に、p型半導体層20pとともにn型半導体層20nを作製可能なように選択されることが好ましい。例えば、添加する不純物を変更することにより、p型半導体層20pおよびn型半導体層20nを別々に形成可能であることが好ましい。
【0025】
本実施形態の熱電変換素子10では熱電変換が効率的に行われる。上述したように、熱電変換素子10の特性は性能指数で示される。性能指数ZTは、ZT=SσT/κと表される。ここで、Sはゼーベック係数(VK−1)であり、σは電気伝導率(Ω−1−1)であり、Tは絶対温度(K)であり、κは熱伝導率(Wm−1−1)である。なお、電気伝導率σは電気抵抗率ρの逆数であり、性能指数ZTはZT=ST/ρκとも表される。例えば、熱電変換素子10は800K以上の温度下で用いられることが好ましく、900K以上の温度下で用いられることがさらに好ましい。また、熱電変換素子10は温度700K以上の温度下で用いられてもよい。
【0026】
CuGaTe化合物は、例えば、以下のように作製される。まず、作製されるべきCuGaTe化合物に応じて、化学量論的に所定の割合でCu、GaおよびTeの存在する原料を用意する。例えば、この原料は、CuTeおよびGaTeを所定の割合で含んでもよい。CuTeおよびGaTeからCuGaTeを形成する場合、CuTeおよびGaTeの割合は1:1である。なお、ここでは、原料は、CuTeおよびGaTeを所定の割合で含んでいるが、原料は、Cu、GaおよびTeを個別に所定の割合で含んでもよく、または、Cu、GaTeおよびTeを所定の割合で含んでもよい。
【0027】
その後、上述した原料の溶融を行い、CuGaTe化合物を形成する。例えば、CuTeおよびGaTeを石英管に真空封入して900℃で1日溶融させた後、500℃で3日間アニーリングする。アニーリングにより、石英管には溶融インゴット試料が形成される。
【0028】
この溶融インゴット試料を石英管から取り出し、溶融インゴット試料を粉砕する。その後、アルゴン気流下において3時間、600℃でホットプレスによって焼結する。これにより、バルク体の試料が得られる。その後、バルク体を切断、整形、研磨することにより、物性測定用の試料が得られる。
【0029】
得られた試料の同定は、例えば、X線回折(X−Ray Diffraction:XRD)を用いて行われる。例えば、1:1の割合でCuTeおよびGaTeを溶融させた場合、XRDから、得られたバルク体がCuGaTeであること、および、その構造がカルコパイライト型構造であることが確認できる。
【0030】
図2に、CuGaTe化合物のX線回折の結果を示す。図2では、CuTeおよびGaTeを1:1の割合で溶解させたものをCGT−112と示しており、CuTeおよびGaTeを3:5の割合で溶解させたものをCGT−359と示している。同様に、CuTeおよびGaTeを1:3の割合で溶解させたものをCGT−135と示しており、CuTeおよびGaTeを1:5の割合で溶解させたものをCGT−158と示している。図2に示したX線回折の結果は、CGT−112、CGT−359、CGT−135、CGT−158は、それぞれ、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeの結晶と同様の結果を示しており、これにより、所定の割合で溶解したCuGaTe化合物が得られたことがわかる。
【0031】
ここで、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeの結晶構造を検討する。CuGaTe化合物では、カチオンサイトおよびアニオンサイトの割合は1:1であり、カチオンサイトにCuおよびGaが占有し、アニオンサイトにTeが占有する。これらのCuGaTe化合物のうちのいくつかではCuおよびGaの原子数の和とTeの原子数とが一致しておらず、カチオンサイトに空孔が存在している。CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeの空孔の割合は、それぞれ0、1/18、1/10、1/8である。
【0032】
以下、図3〜図6を参照して、CuGaTe化合物の空孔の割合と、特性の温度依存性を説明する。図3に、CuGaTe化合物の電気抵抗率の温度依存性を示す。図3から理解されるように、CuGaTe化合物のいずれにおいても電気抵抗率は温度の増加とともに減少する。一般に、温度が増加すると、キャリアの移動度が減少するが、キャリアの数が増大する影響が大きいため、抵抗率が減少する。また、特に600K以上の所定の温度に着目すると、電気抵抗率は、空孔の割合が高いほど高い傾向がある。これは、空孔が、キャリアの散乱に寄与しているためと考えられる。
【0033】
図4に、CuGaTe化合物のゼーベック係数の温度依存性を示す。特に700K未満の比較的低い温度において、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeのゼーベック係数は比較的高いのに対して、CuGaTeのゼーベック係数は比較的低い。一方、温度が比較的高くなると、異なるCuGaTe化合物におけるゼーベック係数の差が小さくなる。
【0034】
図5に、CuGaTe化合物の熱伝導率の温度依存性を示す。CuGaTe化合物のいずれにおいても熱伝導率は温度の増加とともに減少する。これは、温度の増加により、フォノンによる熱伝達の散乱が激しくなるからと考えられる。また、同一温度で比較した場合、空孔の割合が高いほど熱電導率は低い。これは、空孔が、フォノンによる熱伝達を散乱しているためと考えられる。このように、空孔はキャリアだけでなくフォノンによる熱伝達も散乱する。なお、空孔が少ないほど、温度変化に応じた熱伝導率の変化率が大きく、CuGaTeの熱伝導率は低温時に比較的高いが、温度の増加とともに大きく減少する。
【0035】
図6に、CuGaTe化合物の性能指数の温度依存性を示す。温度が同じ場合、空孔の割合が低いほど性能指数は高い。特に、CuGaTeの性能指数は温度の増加とともに大きく増加する。これは、温度の増加とともにCuGaTeの熱伝導率が大きく減少していることが寄与していると考えられる。例えば、温度が950℃の場合、CuGaTeの指数ZTは1.66である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、新規な材料で比較的簡便に作製可能な熱電変換素子が提供される。特に、熱電変換材料がCuGaTeである場合、高い性能指数を実現することができる。このような熱電変換素子は、例えば、発電所におけるコジェネレーションシステムや自動車の発電システムに好適に用いられる。または、熱電変換素子はプロジェクタに取り付けられ、プロジェクタから発生した熱を利用して発電を行ってもよい。あるいは、熱電変換素子は地熱を利用して発電を行ってもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 熱電変換素子
20p p型半導体層
20n n型半導体層
22 電極
24a 電極
24b 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
p型半導体層と
を備える、熱電変換素子であって、
前記p型半導体層は、CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む、熱電変換素子。
【請求項2】
800K以上の温度下で用いられる、請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記p型半導体層は、CuGaTeを含む、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記p型半導体層と前記n型半導体層のそれぞれと接触する電極をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項5】
CuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む熱電変換材料。
【請求項6】
n型半導体層を用意する工程と、
p型半導体層を用意する工程と、
前記n型半導体層および前記p型半導体層を電気的に接続する工程と
を包含し、
前記p型半導体層を用意する工程において、前記p型半導体層はCuGaTe、CuGaTe、CuGaTeおよびCuGaTeからなる群から選択された少なくとも1つを含む、熱電変換素子の作製方法。
【請求項7】
前記p型半導体層を用意する工程は、化学量論的に所定の割合でCu、GaおよびTeの存在する原料を用意し、上記原料の溶融を行う工程を含む、請求項6に記載の熱電変換素子の作製方法。
【請求項8】
前記p型半導体層を用意する工程において、前記p型半導体層はCuGaTeを含む、請求項6または7に記載の熱電変換素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16685(P2013−16685A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149055(P2011−149055)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)