説明

熱電変換材料とそれを利用した熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子

【課題】熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こして、高温で高い熱電性能指数を実現した多元系希土類硫化物の熱電変換材料を提供する。
【解決手段】組成式(AxBy)S3(Aは、Sm、Ybから選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luから選ばれる少なくとも1種であり、xの範囲は0.80以上で1.20以下であり、yの範囲は0.80以上で1.30以下であり、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる多元系の希土類硫化物で、Aに価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種含み、Bに価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種含む熱電変換材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱電変換材料及びそれを利用した熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子、特に希土類硫化物及びそれを利用した熱電発電用素子とペルチェ冷却用素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電やペルチェ冷却が良く知られている。熱電発電は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用しており、この技術は、特に廃棄された熱エネルギー(廃熱)を電気エネルギーとして回収できる省エネルギー技術として大きな注目を浴びている。ペルチェ冷却は熱電発電の逆で、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用しており、電気エネルギーを用いた冷却の技術である。しかしながら、熱電変換の効率は低く、そのため、これら技術の実用は限定的な分野に留まっている。
【0003】
熱電変換では、ゼーベック効果とペルチェ効果といった材料に関係する物理現象を利用している。すなわち、熱電変換の効率を向上させるためには、性能の高い材料(熱電変換材料)を開発する必要がある。熱電変換材料の性能は、次の数1に示す熱電性能指数(ZT)で評価される。
数1:ZT = ST/ρκ
ここで、Sはゼーベック係数、Tは温度、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率である。熱電変換材料の活用分野を広げるためには、この熱電性能指数を向上させる必要がある。
【0004】
現在使用されている又は使用が検討されている熱電変換材料としては、ビスマス・テルル、鉛・テルルやシリコン・ゲルマニウム、希土類ホウ化物、希土類硫化物などがあるが、現状ではその熱電性能指数は十分に高い値であるとはいえない。
【0005】
希土類硫化物は既知の材料であり、その組成式はR(RはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類金属群から選ばれる少なくとも1種であり、zの範囲は1.80以上で2.50以下)で表わせる。その結晶構造は立方晶Th型である。融点は2000℃程度と高く、そのため高温まで使用できるn型の熱電変換材料として期待されている。ここで、一般的に材料を構成する元素が多いほど熱伝導率は低くなることから、高温熱電変換材料として期待される希土類硫化物はRに二つ以上の希土類金属を含む。
さらに、硫黄は地球上に大変多く存在する元素であり、資源として枯渇する心配がない。そのため、希土類硫化物は資源的な面からも大きな注目を浴びている。
【0006】
従来の技術では、Rに二つ以上の希土類金属を含む多元系の希土類硫化物の熱電性能指数を金属伝導的な振る舞いを利用して向上させている(特許文献1、非特許文献1)。例えば、特許文献1によると、SmLa、EuLa、YbLa、(xの範囲は0.11以上で0.60以下であり、yの範囲は1.65以上であり2.14以下であり、xとyを足した値は2.25)は金属伝導的な振る舞いを示す。また、非特許文献1には、NdGd(xは1.00、yの範囲は1.00以上で1.08以下)も金属伝導的な振る舞いを示すことが記載されている。
金属伝導では、温度が上昇するにつれてゼーベック係数の絶対値と電気抵抗率は共に線形的に増加する。その結果として、温度が上昇するにつれて、前記数1で定義される熱電性能指数は緩やかに増加することとなる。この増加の程度が低いので、この従来の技術では、多元系の希土類硫化物の熱電性能指数は高温で十分に高い値には達していない。
また、前記[0004]で記載したビスマス・テルル、鉛・テルルやシリコン・ゲルマニウムなどほとんどの既存の熱電変換材料でも同様に、金属伝導的な振る舞いを利用して熱電性能指数を向上させているが十分に高い値には達していない。
【0007】
このように、多元系の希土類硫化物では金属伝導的な振る舞いを利用しているため、高温の熱電性能指数が十分に高い値に達しないと考えられていた。
一方で、理論的には、ホッピング伝導を利用することで、高温の熱電性能指数を改善できる可能性があることが知られている。非特許文献2によると、例えば可変領域ホッピング伝導では、温度Tが上昇するにつれてゼーベック係数の絶対値はT1/2に比例する形で増加して、一方で電気抵抗率はexp(C/T1/4)に比例して減少する。ここでCは定数である。これらの結果として、温度が上昇するにつれて前記数1で定義される熱電性能指数は著しく増加する。さらに、ホッピング長、活性化エネルギー、ホッピングをしているキャリアの濃度を調整すれば、高温で高い熱電性能指数が得られる。
【0008】
非特許文献3によると、希土類硫化物の一種である硫化サマリウムSm(zの範囲は2.00以上で2.31以下)がホッピング伝導的な振る舞いを示すことが報告されている。しかしながら、RにSmのみしか含まない二元系の希土類硫化物のためにその熱伝導率は高く、その結果、熱電性能指数は727℃の高温でも0.15程度の低い値に留まっている。さらに、RにSmのみしか含まないため、ホッピング長、活性化エネルギー、ホッピングをしているキャリアの濃度を調整することが困難であり、これ以上の熱電性能指数の向上は期待できない。
また、非特許文献4によると多元系の希土類硫化物の一種であるSm0.75Eu0.75Gd0.75がホッピング伝導的な振る舞いを示すことが報告されている。しかしながら、原子価が2+に安定しているEuイオンの影響を大いに受けて、一般的な希土類硫化物とは異なるp型の非常に劣っている熱電変換特性を示す。
報告されているその他の熱電変換材料においても、ホッピング伝導を用いても熱電性能指数は十分に高い値には達していない。例えば、特許文献2によると、希土類ホウ化物の一種であるテルビウム多ホウ化物の伝導機構はホッピング則に従うが、その熱電性能指数は727℃の高温でも0.06程度の低い値に留まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】United States Patent、Reg.No.H197
【特許文献2】特許第4081547号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Michihiro OHTA and Shinji HIRAI、「Thermoelectric Properties of NdGd1+xS3 Prepared by CS2 Sulfurization」、Journal of Electronic Materials、Vol.38、No.7、pp.1287〜1292、2009年1月28日。
【非特許文献2】Nevill MOTT、「Conduction in Non−Crystalline Materials」(Oxford Science Publications)、pp.18〜38、1987年。
【非特許文献3】A.V.GOLUBKOV、M.M.KAZANIN、V.V.KAMINSKII、V.V.SOKOLOV、S.M.SOLOV’EV、 L.N.TRUSHNIKOVA、「Thermoelectric Properties of SmSx(x=0.8―1.5)」、Inorganic Materials、Vol.39、No.12、pp.1251〜1256、2003年1月8日。
【非特許文献4】Michihiro OHTA、Toshihiro KUZUYA、Hideto SASAKI、Taku KAWASAKI、Shinji HIRAI、「Synthesis of Multinary Rare‐earth Sulfides PrGdS3、NdGdS3、and SmEuGdS4、and Investigation of their Thermoelectric Properties」、Journal of Alloys and Compounds、Vol.484、Issues 1〜2、pp.268〜272、2009年4月23日。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多元系の希土類硫化物は既知の材料であり、資源的な制約のないn型の高温熱電変換材料の候補である。しかしながら、従来の技術では、金属伝導的な振る舞いを利用して熱電変換材料としての設計を行っているため、多元系の希土類硫化物の熱電性能指数は十分に高い値に達していない。一方で、一般的にホッピング伝導を利用することで、熱電性能指数を高温で大きく改善できる可能性があることが知られている。
【0012】
そこで、本発明は、これらの課題を解決するために、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属Aと価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属Bを含むことを特徴とする組成式(A)S(xの範囲は0.80以上で1.20以下であり、yの範囲は0.80以上で1.30以下であり、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる多元系の希土類硫化物を作製して、熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こして、高温で高い熱電性能指数を実現した熱電変換材料を提供することを目的とする。さらに、この熱電変換材料を利用した熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
金属伝導では、温度が上昇するにつれてゼーベック係数の絶対値と電気抵抗率は共に増加する。その結果、温度が上昇するにつれて、前記数1で定義される熱電性能指数は緩やかに増加することとなる。したがって、温度の上昇による熱電性能指数の大きな増加は望めない。
それに対して、ホッピング伝導では、温度が上昇するにつれてゼーベック係数の絶対値は増加して、一方で電気抵抗率は減少する。その結果、温度が上昇するにつれて熱電性能指数は著しく増加する。言い換えれば、ホッピング伝導は、高温で高い熱電性能指数をもたらす可能性がある。
【0014】
価数揺動状態では、固体中のイオンは異なった原子価の状態を揺動している。この異なった原子価のイオン間をキャリア(電荷を運ぶ電子やホール)がホッピングすることで電気伝導が生じ、その結果、高温で高い熱電性能指数がもたらされる。
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、資源的に豊富な希土類硫化物Rにおいて、Rに価数揺動状態のイオンで存在するSmと価数揺動状態ではないイオンで存在するGdを含むとき、熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いが引き起こされ、その結果として500℃以上の高温で高い熱電性能指数を示すことを見出した。この組成式は、(SmGd)S(xの範囲は0.95以上で1.10以下、yの範囲は0.95以上で1.15以下、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる。Smイオンは、Sm2+とSm3+で揺動している。また(SmGd)Sは多元系の希土類硫化物であり、熱伝導率は低い値を示す。
【0016】
Smのみならず、Ybイオンは価数揺動状態を起こしやすいということは既知の事実である。そのため、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属は、Sm、Ybから選ばれる少なくとも1種であることで同様の効果が得られるという結論に至った。YbイオンはYb2+とYb3+で揺動しやすい。これらのイオンを同時に含んだ場合は、同じ希土類金属のイオン間をキャリアがホッピングすることはもちろん、異なる希土類金属のイオン間もキャリアはホッピングする。例えば、Sm2+とSm3+の間はもちろん、Sm2+とYb3+の間もキャリアがホッピングする。
【0017】
一方で、Gdのみならず全ての希土類金属のイオンは価数揺動状態ではない状態もとりえる。すなわち、価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属は、La、Ce、Pr、Nd、Gdから選ばれる少なくとも1種であることで同様の効果が得られるという結論に至った。さらに検討した結果、価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luから選ばれる少なくとも1種であることで、同様の効果が得られるという結論に至った。
これらは希土類金属の種類に依らず、全てのイオンの原子価は3+で安定しており、またホッピング伝導的な振る舞いには直接は関与しない。希土類金属の種類は関係なく、価数揺動状態のイオンと価数揺動状態ではないイオンが共に存在することが重要である。価数揺動状態ではないイオンが価数揺動状態のイオンの間に存在することで、ホッピング長や活性化エネルギーが変化する。また、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属の組成比率により、ホッピングをしているキャリアの濃度が決まる。すなわち、ホッピング長、活性化エネルギー、ホッピングをしているキャリアの濃度を最適とできるので、高温の熱電性能指数を向上できる。
【0018】
本発明の熱電変換材料では、その組成は、xの範囲は0.95以上で1.10以下、yの範囲は0.95以上で1.15以下だけではなく、その組成から、わずかにずれたxの範囲は0.80以上で1.20以下でありyの範囲は0.80以上で1.30以下でも同様の効果が得られるという結論に至った。
前記[0006]に記載の通り、特許文献1よると、xの範囲が0.11以上で0.60以下かつyの範囲が1.65以上であり2.14以下のときは、ホッピング伝導的な振る舞いを示さなくなり、金属伝導的な振る舞いを示すことになると言われているが、これはあくまで金属伝導的振る舞いを利用して熱電性能指数を向上させるものである。一方、本願発明では、ホッピング伝導的な振る舞いを利用するものであって、上記のような特許文献1の技術に拘束されるものではない。すなわち、特許文献1に記載するxとyの数値を逸脱する範囲において、ホッピング伝導的な振る舞いを利用して、熱電性能指数を向上させており、この意味から、本願発明は、従来技術とは明確に異なるものである。
また、前記[0008]に記載の通り、非特許文献4には、多元系の希土類硫化物の一種であるSm0.75Eu0.75Gd0.75がホッピング伝導的な振る舞いを示すことが報告されている。しかしながら、xとyの数値が共に少なすぎるためにEuの影響を大いに受け、熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こすことはできていない。その結果、Sm0.75Eu0.75Gd0.75は非常に劣っているp型の熱電変換特性を示す。
【0019】
本発明の熱電変換材料では、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属の組成比率を調整して、ホッピング長、活性化エネルギー、ホッピングをしているキャリアの濃度を最適として、高温の熱電性能指数の向上に成功した。
前記[0008]に記載の通り、非特許文献3に報告がある価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属のみしか含まないSm(zの範囲は2.00以上で2.31以下)の場合では、価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を含まないため、組成比率の調整を通じて、ホッピング長、活性化エネルギー、ホッピングをしているキャリアの濃度を調整できず、熱電性能指数の改善は望めない。Smは二元系の希土類硫化物であり、熱伝導率が高いことも致命的な欠陥である。
【0020】
また、本発明の熱電変換材料には、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属という、双方の機能を有する同種の希土類金属を用いることができるため、異種金属間で発生し易い、製造工程中の反応(複数の化合物の形成)あるいは偏析を抑制できるという大きな利点がある。
【0021】
さらに、ホッピング伝導を利用して高い熱電性能指数を実現した希土類硫化物からなる熱電変換材料が、熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子に利用できることを見出した。
【発明の効果】
【0022】
多元系の希土類硫化物は資源的な制約のないn型の高温熱電変換材料として期待されているが、従来の技術では金属伝導的な振る舞いを利用しているため、高温で十分に高い熱電性能指数を得るには至っていない。一方で、ホッピング伝導は、高温で高い熱電性能指数をもたらす可能性を秘めているが、現状では十分に活用された例はない。本発明によれば、多元系の希土類硫化物において、熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こすことが可能になり、その上、希土類硫化物とホッピング伝導的な振る舞いの持っている利点をお互いに効果的に高めあうことができて、熱電性能指数を改善できる。
【0023】
さらに、発明したホッピング伝導的な振る舞いを示す希土類硫化物からなる熱電変換材料は、熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例1において作製されたSmGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.06以下)の(a)ゼーベック係数と(b)電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図2】この発明の実施例1と比較例1において作製されたSmGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.06以下)とLaGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.03以下)の熱電性能指数の温度依存性を示す図である。
【図3】この発明の比較例1において作製されたLaGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.03以下)の(a)ゼーベック係数と(b)電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の熱電変換材料は、組成式(A)S(xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる多元系の希土類硫化物を基本としている。多元系の希土類硫化物の熱伝導率は低い値を示す。
【0026】
本発明では、組成式(A)Sにおいて、ホッピング伝導的な振る舞いを引き起こすために、Aに価数揺動状態のイオンで存在するSm、Ybから選ばれる少なくとも1種を含む、好ましくはAに価数揺動状態のイオンで存在するSmを含むことを特徴としている。
【0027】
一方、Bに価数揺動状態ではないSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luを含む、好ましくはBに価数揺動状態ではないイオンで存在するLa、Ce、Pr、Nd、Gdから選ばれる少なくとも1種を含む、さらに好ましくはBに価数揺動状態ではないイオンで存在するGdを含むことを特徴としている。
【0028】
本発明では、組成式(A)Sにおいて、xの範囲は0.8以上で1.2以下でありyの範囲は0.8以上で1.3以下であり、好ましくはxの範囲は0.95以上で1.10以下でありyの範囲は0.95以上で1.15以下であることを特徴としている。
【0029】
本発明の熱電変換材料は500℃以上で使用できる。
【0030】
本発明の熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子は、熱電変換材料として上記熱電変換材料から構成されていることを特徴としている。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例を提示して、本発明について詳しく説明する。なお、以下に示す実施例及び比較例の説明は、発明の理解を容易にするためのものであり、これらの実施の形態の説明によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施条件等は、当然本発明含まれるものである。
【0032】
(実施例1)
実施例1として、価数揺動状態のイオンで存在するSmと価数揺動状態ではないイオンで存在するGdを含むSmGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.06以下)を作製して、その熱電変換特性を評価した。出発原料として、酸化サマリウムSmと酸化ガドリニウムGdを準備した。これら酸化物を別々に石英ボートに載せて、二硫化炭素ガスを用いて850℃の温度で8時間硫化することで、硫化サマリウムSmと硫化ガドリニウムGdを合成した。
【0033】
次に、合成したSmとGd粉末、さらにGd量を調整するためにGdH粉末を混合しグラファイトボートに載せて、真空中にて1300℃の温度で2時間反応させることでSmGdを作製した。ここで、GdHを用いたのは、大気中での取り扱いが容易であり、かつ数百度程度で分解して、最終生成物に不要な水素をガスとして放出するためである。
最後に、この合成粉末をグラファイト型に充填して、真空中にて1200℃の温度と30MPaの圧力で2時間加圧焼結して、立方晶Th型の結晶構造を持つ緻密な焼結体を作製した。
【0034】
作製した焼結体の格子定数を、X線回折法を用いて評価した。SmイオンがSm3+のみで存在する価数揺動状態ではないイオンで存在する場合に予想される格子定数は0.839nm程度である。しかし、実際の格子定数は0.844nm程度と予想値よりも大きい。この結果は、Smイオンの原子価が3+より低いことを意味しており、すなわちSm2+とSm3+の価数揺動状態にあることを示唆している。
【0035】
作製した焼結体の熱電変換特性を、室温から680℃の温度範囲で評価した。作製した全ての焼結体において、ゼーベック係数は負の値(n型)を示した。図1に示す通り、温度が上昇するにつれてゼーベック係数の絶対値は増加して、一方で電気抵抗率は減少する。すなわち、SmGdはホッピング伝導的な振る舞いを示した。電気抵抗率のアレニウスプロットより、ホッピング伝導的な振る舞いの活性化エネルギーは0.14eVから0.19eVと求まった。
熱伝導率は、測定した温度範囲において0.5W/Kmから0.8W/Kmまでの値を示した。
【0036】
これらの結果、図2に示す通り、前記数1を用いて計算できる熱電性能指数は著しく増加した。SmGd1.02の場合、その熱電性能指数は、温度が上昇するにつれて室温の0.0003から680℃の0.3(室温の値の1000倍)へと高い値に著しく増加する。この熱電性能指数の著しい改善は、希土類硫化物において、熱電性能指数を向上させる効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こすことに成功したことを意味している。希土類硫化物の融点が2000℃程度であることを考慮に入れれば、この熱電性能指数はより高温で他の熱電変換材料を凌駕する値に達することが容易に理解できる。
【0037】
(比較例1)
比較例1として、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を一切含まないLaGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.03以下)を作製して、その熱電変換特性を評価した。出発原料として、酸化ランタンLaと酸化ガドリニウムGdを準備した。これら酸化物を別々に石英ボートに載せて、二硫化炭素ガスを用いて850℃の温度で8時間硫化することで、硫化ランタンLaと硫化ガドリニウムGdを合成した。
【0038】
次に、合成したLa、Gd、GdH粉末を混合してグラファイトボートに載せて、真空中にて1300℃の温度で2時間反応させることでLaGdを作製した。最後に、この合成粉末をグラファイト型に充填して、真空中にて1200℃の温度と30MPaの圧力で2時間加圧焼結して、立方晶Th型の結晶構造を持つ緻密な焼結体を作製した。
【0039】
作製した焼結体の格子定数を、X線回折法を用いて評価した。格子定数は、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を一切含まない場合に予想される値と一致した。すなわちこの結果は、作製したLaGdが、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を一切含まないことを示唆している。
【0040】
作製した焼結体の熱電変換特性を、室温から680℃の温度範囲で評価した。作製した全ての焼結体において、ゼーベック係数は負の値(n型)を示した。図3に示す通り、温度が上昇するにつれて、ゼーベック係数の絶対値と電気抵抗率は共に増加した。すなわち、LaGdは金属伝導的な振る舞いを示した。
熱伝導率は、測定した温度範囲において0.5W/Kmから1.3W/Kmまでの値を示した。
【0041】
以上の結果から、図2に示す通り、熱電性能指数は緩やかに増加する。LaGd1.00の場合、その熱電性能指数は、温度が上昇するにつれて室温の0.04から680℃の0.2(室温の値の5倍)へと緩やかに増加する。実施例1に比べ、この温度に至るまで(低温)の熱電性能指数は高い。しかし、図3に示すように、さらに温度が上昇した場合には、電気抵抗率が高くなるだけで、低下することは考えられないので、図2に示すように、温度が上昇しても熱電性能指数の大きな増加は望めず、熱電変換材料として利用することは難しいと言える。
【0042】
これに対して、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を使用した実施例1では、低温での熱電性能指数は低いが、680℃に至ると比較例1の熱電性能指数に比べて最大で1.5倍もの値に達する。この結果から、高温で本発明の熱電変換材料が有用であると言える。
さらに温度が上昇すると、より電気抵抗率が低下することが強く推定されるので、熱電変換材料として有用である。また、この傾向は、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を上記の組成範囲で使用した場合の共通する特性と言える。さらに、低温での熱電性能指数は低いとしても、高温域での熱電性能指数が急上昇する本発明の熱電変換材料は、温度が上昇した場合に電気抵抗率が増加し、高温での熱電性能指数の増加が望めない従来型の熱電変換材料に比べて、はるかに有用であると言える。
【0043】
(比較例2)
酸化セリウムCeO、酸化プラセオジムPr11、酸化ネオジムNd、酸化ガドリニウムGdを出発原料として、これら酸化物を二硫化炭素ガスによって850℃の温度で8時間硫化することで、硫化セリウムCe、硫化プラセオジムPr、硫化ネオジムNd、硫化ガドリニウムGdを合成した。さらに、これら二元系の希土類硫化物とGdH粉末を混合して、真空中にて1300℃から1500℃の温度で1時間から2時間反応させることでCeGdS、PrGdS、NdGd(xは1.00でありyは1.00以上で1.08以下)を作製した。最後に、これら合成粉末を真空中にて1200℃から1400℃の温度と30MPaの圧力で1時間から2時間加圧焼結して、立方晶Th型の結晶構造を持つ緻密な焼結体を作製した。
【0044】
作製した焼結体の格子定数を、X線回折法を用いて評価した。全ての格子定数は、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を一切含まない場合に予想される値と一致した。すなわちこの結果は、作製したCeGdS、PrGdS、NdGdの全てが、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を一切含まないことを示唆している。
【0045】
作製したNdGd焼結体のゼーベック係数と電気抵抗率を、室温から680℃の温度範囲で評価した。作製した全ての焼結体において、ゼーベック係数は負の値(n型)を示した。さらに、温度が上昇するにつれて、ゼーベック係数の絶対値と電気抵抗率は共に増加した。すなわち、NdGdは金属伝導的な振る舞いを示し、高温で高い熱電性能指数は期待できない。
【0046】
本発明を上記実施例の材料を中心に説明したが、先に列挙した材料、すなわち組成式(A)S(Aは、Sm、Ybから選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luから選ばれる少なくとも1種であり、xの範囲は0.80以上で1.20以下であり、yの範囲は0.80以上で1.30以下であり、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる多元系の希土類硫化物において、同様に適用できる。すなわち、前記組成の条件において、Aに価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種をxの範囲で0.80以上で1.20以下含み、Bに価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種をyの範囲で0.80以上で1.30以下含むことが重要であり、これらの条件が満たされる場合に、優れた熱電変換材料を得ることが可能となる。
【0047】
実施例として特に示さないが、実施例に示すものと同様の条件又は類似の条件で、すなわち価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属と価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属の種類と組成比率を、上記の範囲内で任意に設定することによって、全て実施できるものである。
【0048】
さらに、実施例として特に示さないが、本発明の熱電変換材料を熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子に利用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の希土類硫化物は、価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属Aと価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属Bを含む組成式(A)S(xの範囲は0.80以上で1.20以下であり、yの範囲は0.80以上で1.30以下であり、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せることを特徴としており、この多元系の希土類硫化物において熱電性能指数の向上に効果的なホッピング伝導的な振る舞いを引き起こすことが可能になり、さらに希土類硫化物とホッピング伝導的な振る舞いの持っている利点をお互いに効果的に高めあうことができて、高温の熱電性能指数を改善できるという大きな効果を有するので熱電変換材料として有用であり、さらに、熱電発電用素子及びペルチェ冷却用素子に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(A)S(Aは、Sm、Ybから選ばれる少なくとも1種であり、Bは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luから選ばれる少なくとも1種であり、xの範囲は0.80以上で1.20以下であり、yの範囲は0.80以上で1.30以下であり、xとyを足した値の範囲は1.80以上で2.50以下)で表せる希土類硫化物で、Aに価数揺動状態のイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種含み、Bに価数揺動状態ではないイオンで存在する希土類金属を少なくとも1種含むことを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
組成式(A)SのAが価数揺動状態のイオンで存在するSmであることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
Bが価数揺動状態ではないイオンで存在するLa、Ce、Pr、Nd、Gdから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱電変換材料。
【請求項4】
Bが価数揺動状態ではないイオンで存在するGdであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
組成式(A)Sのxの範囲は0.95以上で1.10以下であり、yの範囲は0.95以上で1.15以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
500℃以上の温度で利用可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のいずれかの熱電変換材料を利用した熱電発電用素子。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のいずれかの熱電変換材料を利用したペルチェ冷却用素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−43917(P2012−43917A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182745(P2010−182745)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】