説明

熱電変換材料の製造方法

【課題】長時間の水熱合成を必要とせずに合金化を可能とし、焼結により熱電変換材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】熱電変換材料の合金成分である複数種類の金属の化合物を液相中で還元して原料金属粉末の混合物を合成する工程、および
得られた原料金属粉末混合物を焼結且つ合金化する工程
から成る熱電変換材料の製造方法であって、
1)上記合金成分のうち蒸気圧が最高の合金成分が揮発しない焼結温度および焼結時間を予備実験により求め、
2)求めた焼結温度および焼結時間における上記合金成分の拡散距離を予備実験により求め、
3)求めた拡散距離を超えない粒径の上記原料金属粉末を用い、
4)上記焼結温度および焼結時間で焼結且つ合金化を行なう
ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料の製造方法に関し、特に焼結による熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、2つの基本的な熱電効果であるゼーベック(Seebeck)効果及びペルチェ(Peltier)効果に基づき、熱エネルギと電気エネルギとの直接変換を行なうエネルギ材料である。
【0003】
熱電変換材料を用いた熱電発電デバイスは、従来の発電技術に比べて、構造は簡単で、堅牢かつ耐久性が高く、可動部材は存在せず、マイクロ化が容易であり、メンテナンス不要で信頼性が高く、寿命が長く、騒音は発生せず、汚染も発生せず、低温の廃熱を利用可能であるといった多くの利点がある。
【0004】
熱電変換材料を用いた熱電冷却デバイスも、従来の圧縮冷却技術に比べて、フロン不要で汚染は発生せず、小型化は容易で、可動部材は存在せず、騒音も発生しないなどの利点がある。
【0005】
そのため、特に近年のエネルギ問題や環境問題の重大化に伴い、航空・宇宙、国防建設、地質及び気象観測、医療衛生、マイクロ電子などの領域や石油化工、冶金、電力工業における廃熱利用方面などの広範な用途への実用化が期待されている。
【0006】
熱電変換材料は、材料全体に亘って所定組成で均一に合金化している必要があり、かつ、優れた熱電変換特性を確保するにはナノサイズの微細な結晶粒組織とする必要がある。合金化の手段として溶融が考えられるが、下記の問題があった。
【0007】
すなわち、せっかくナノサイズで作製した粉末も一旦溶融すれば粒子サイズは一切無関係になり、凝固組織は元のナノサイズが生かされずにナノ結晶粒組織が確保できない。また、溶融時の高温下で蒸気圧の高い成分が揮発散逸して、所定の組成から外れてしまう。この組成ずれは蒸気圧の高い成分を余分に仕込むことで解消できるが、結局その成分の歩留まりが低下するので原料コストが増加することが避けられない。このように、合金化の手段として溶融は現実的でない。
【0008】
溶融法の問題を解消した合金化手段として、原料金属粉末の混合物を熱処理する方法が知られている。
【0009】
特許文献1に、熱電変換材料の合金成分である原料金属元素の化合物を液相中で還元して原料金属粉末を合成し、得られた複数種の原料金属粉末の混合物を高温・高圧で熱処理する水熱合成により合金化し、得られた合金粉末混合物を焼結して熱電変換材料を製造する方法が開示されている。このように水熱合成によれば、原料金属粉末の混合物を固相のままで合金化できるので、溶融法の問題点は解消する。しかし、合金化のための水熱合成に200℃で24hr(CoSb系)というような長時間を要するため、製造コストに問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開200−108876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、長時間の水熱合成を必要とせずに合金化を可能とし、焼結により熱電変換材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、熱電変換材料の合金成分である複数種類の金属の化合物を液相中で還元して原料金属粉末の混合物を合成する工程、および
得られた原料金属粉末混合物を焼結且つ合金化する工程
から成る熱電変換材料の製造方法であって、
1)上記合金成分のうち蒸気圧が最高の合金成分が揮発しない焼結温度および焼結時間を予備実験により求め、
2)求めた焼結温度および焼結時間における上記合金成分の拡散距離を予備実験により求め、
3)求めた拡散距離を超えない粒径の上記原料金属粉末を用い、
4)上記焼結温度および焼結時間で焼結且つ合金化を行なう
ことを特徴とする熱電変換材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、1)合金成分のうち蒸気圧が最高の合金成分が揮発しない焼結温度および焼結時間を予備実験により求め、2)求めた焼結温度および焼結時間における上記合金成分の拡散距離を予備実験により求め、3)求めた拡散距離を超えない粒径の上記原料金属粉末を用い、4)上記焼結温度および焼結時間で焼結且つ合金化を行なうことにより、合金化のために別途に熱処理を行なうことなく、原料金属粉末のナノサイズを活かしたナノ結晶粒組織を有し、組成ずれもなく全体に均一な組成で、熱電変換材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の方法により、ナノサイズ(50μm以下)の原料金属粉末の均一な混合物を焼結且つ合金化して、均一な組成でナノ結晶粒組織を有する熱電変換材料を製造する過程を模式的に示す。
【図2】図2は、比較例として、粗粒(1μm以上)の原料金属粉末の不均一な混合物を、従来の水熱処理なしに焼結を行なった場合の、不均一な組成で粗大結晶粒組織を有する不完全な熱電変換材料を製造する過程を模式的に示す。
【図3】図3は、比較例として、ナノサイズ(数十nm)の原料金属粉末の不均一な混合物を、従来の水熱処理なしに焼結を行なった場合の、不均一な組成の不完全な熱電変換材料を製造する過程を模式的に示す。
【図4】図4は、本発明の方法により、(Bi,Sb)Te系熱電変換材料を製造するプロセスを示すフローチャートである。
【図5】図5は、(1)図1に示した本発明の実施例および(2)図3に示した比較例により得られた焼結体のX線回折(XRD)チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、熱電変換材料の合金成分である複数種類の金属の化合物を液相中で還元して原料金属粉末の混合物を合成する工程、および
得られた原料金属粉末混合物を焼結且つ合金化する工程
から成る熱電変換材料の製造方法である。
【0016】
この製造方法においては、合金化のための熱処理を別途に行なわずに、焼結且つ合金化すなわち焼結と合金化を同時に行なう。それには、焼結中に、(A)合金成分が揮発散逸しないこと、および(B)原料金属粉末粒子間の相互拡散により合金化が完了すること、が必要である。
【0017】
そのために、
1)上記合金成分のうち蒸気圧が最高の合金成分が揮発しない焼結温度および焼結時間を予備実験により求め、
2)求めた焼結温度および焼結時間における上記合金成分の拡散距離を予備実験により求め、
3)求めた拡散距離を超えない粒径の上記原料金属粉末を用い、
4)上記焼結温度および焼結時間で焼結且つ合金化を行なう。
【0018】
上記1)の「合金成分が揮発しない」ことの判断基準は、目標とする特性値の低下が許容範囲内であることである。許容範囲は実際に必要とする目標値によって異なる。例えば、目標値に対する低下率は、40%まで許容される場合、15%まで許容される場合、5%まで許容される場合等である。
【0019】
各場合に応じて、特性値が許容低下率以内になるように焼結温度および焼結時間を設定する。これは予備実験により求めることができる。焼結温度はT1℃〜T2℃、焼結時間はt1sec〜t2secのように、それぞれ温度範囲、時間範囲として求まる。
【0020】
求めた焼結温度および焼結時間における各合金成分の拡散距離を予備実験により求める。すなわち、製造する熱電変換材料を構成する各合金成分同士の相互拡散距離を求める。
【0021】
焼結処理に供する原料金属粉末の粒子径が、上記の相互拡散距離を超えなければ、各粉末金属粒子全体が相互拡散により合金化する。この観点から、原料金属粉末粒子径は小さいほど好ましく、少なくとも50nm以下のナノサイズであることが好ましい。30nm以下、20nm以下、10nm以下であればより好ましい。
【0022】
このようなナノサイズの原料金属粉末粒子は、熱電変換材料を構成する金属の化合物を液相中で還元することにより合成できる。その際、生成する金属粒子を微細化するために下記のa)〜d)に配慮する。
【0023】
a)例えば低温で還元反応をゆっくり進行させれば、生成する金属粒子は微細になる。
【0024】
b)また、この反応は発熱反応であるため、反応溶液を希薄系にして激しい発熱を回避することも、生成粒子の粗大化を防止するために重要である。
【0025】
c)更に、酸化還元電位のできるだけ近い金属から成る合金系の熱電変換材料を選定することにより、各金属粒子の生成タイミングをできるだけ近接させることで、先に生成した金属粒子の粗大化を防止できる。
【0026】
d)各金属粒子の生成に差がでないように、還元力が十分強い還元剤を用いる。
【0027】
焼結処理に供する原料金属粉末の混合物は、微視的に均一に混合している必要がある。ここで「微視的に均一」とは、原料金属粉末粒子径のオーダーすなわちナノサイズのオーダーで均一であること意味する。微視的に均一な混合状態とすることにより、焼結中の拡散により局所的に進行する合金化が焼結体の全体に亘って均一な組成を実現する。
【0028】
すなわち、本発明によれば、焼結反応に関与する体積のどのナノサイズ領域も均一な混合状態であり、隣接するナノサイズ領域間も組成の変動が無く、結局焼結体の体積全体に亘って均一な組成の合金化が達成される。
【0029】
図1を参照して、本発明による焼結処理により同時に合金化を行なって熱電変換材料を製造する過程を説明する。一例として、Bi、Sb、Teの3成分から成る(Bi、Sb)Te系合金の熱電変換材料の場合を示す。図中のSiO粒子は、フォノン散乱粒子であり、熱電変換特性の指標である無次元性能指数ZT=(S2σ/κ)Tにおいてフォノン散乱により熱伝導率κを低下させて熱電変換特性を高めるために、安定な分散相として合金中に存在し、焼結反応・合金化反応には関与しない。なお、S:ゼーベック係数、σ:導電率、T:絶対温度である。
【0030】
図1において、(1)は原料金属粉末粒子の混合物であり、これを焼結することにより、(2)の合金化した焼結体が得られる。(1)の混合物は、Bi、Sb、Teの個々の金属粒子の粒径が50nm以下のナノサイズであり、同時に、異種金属粒子同士が微視的に均一に混合している。これを焼結することで得られた(2)の焼結体は、全体に亘って組成が均一でナノ結晶粒組織の合金である。
【0031】
図2および図3に比較例を示す。
【0032】
図2において、(1)に示した混合物は、原料金属粉末粒子がナノサイズではなく数μmオーダーであり、混合状態も巨視的に不均一である。これを図1の本発明と同じ焼結温度・時間で焼結すると、(2)に示したように、隣接する金属粒子間では一部分が拡散により合金化するが、大きな体積を持つ粒子は大部分が未反応で単元素のまま残留する。合金化した各部分も、それぞれ異なる組成(図の例ではBiTe合金、BiSb合金、SbTe合金)になってしまい、混合物全体の合金化は達成されない。この場合、合金化には(1)の混合物を溶融する必要があり、前述した成分の揮発による問題が生ずる。更に、図示はしていないが、フォノン散乱粒子を添加した場合、混合物を溶融により生成する合金溶湯から浮上分離してしまい合金中に分散させることができない。
【0033】
図3は、前述の特許文献1のような従来技術の場合を示しており、(1)に示した混合物は、原料金属粉末粒子が数十nmのナノサイズであるが、混合状態が微視的に不均一である。これを図1の本発明と同じ焼結温度・時間で焼結すると、(2)に示したように、ある程度合金化が進行するが、例えば図示したように局所的なTeリッチ領域の内部ではBi、Sbとの相互拡散が届かずにTeが単元素の状態で残留する。逆に、合金化した領域では、内部にTeが残留した分だけTeが欠乏してしまい、所定組成が得られない。均一な合金化を達成するために、従来は(1)の混合物を水熱合成する必要があり、(Bi、Sb)Te系の場合、240℃で48hrという長時間を要した。水熱反応容器は高圧に耐える必要があり、装置のコストが高く、溶媒も多量に用いるため、材料コスト増加が避けられなかった。
【0034】
本発明によれば、溶融のように揮発の問題を生ぜず、かつ、水熱反応等の長時間熱処理を必要としないで、相互拡散距離でカバーし得る原料金属粉末粒子径で焼結することにより、組成が均一でナノ結晶粒組織を持った合金として、熱電変換材料を製造することができる。
【実施例】
【0035】
〔実施例〕
本発明にしたがって、Bi0.5Sb1.5Te合金のマトリクス中に、フォノン散乱粒子としてSiO粒子とSb粒子が分散した熱電変換材料を製造した。合金成分のBi、Sb、Teは、酸化還元電位がBi:0.16V、Sb:0.16V、Te:0.53Vと互いに近く、生成タイミングの差が小さいため、先に生成する金属粒子(この場合Te)の粗大化を防止できる。
【0036】
以下、手順と条件を説明する。
【0037】
<原料金属粉末粒子の合成>
図4に示すように、原料溶液に還元剤を滴下し還元反応により金属粒子を生成させる。
【0038】
(A)原料溶液の調製
100mlのエタノールに、合金の構成元素Bi,Te,Sbの塩として塩化ビスマス(BiCl)0.5g、塩化テルル(TeCl)3.2g、塩化アンチモン(SbCl)1.67gを溶解してエタノール溶液を作成し、この溶液中にフォノン散乱粒子としてSiO粒子0.35g(平均粒径:5nm)を分散させ、原料溶液とした。ここで、塩化アンチモンは、Bi0.5Sb1.5Te合金組成に対して室温で過飽和なSbとなる過剰量とした。過剰量のSbは、還元処理により一旦金属Sb粒子として析出した後に、焼結処理中に酸化されてSb粒子となりフォノン散乱粒子として合金マトリクス中に分散する。
【0039】
(B)還元処理
NaBH3.0gを100mlのエタノールに溶解した還元剤を、上記の原料溶液に滴下した。これにより、SiO粒子を含み、Bi,Te、Sbの金属ナノ粒子が析出したエタノールスラリーが形成された。これを水500ml+エタノール300mlでろ過し、その後更にエタノール300mlでろ過洗浄した。
【0040】
その後、Nガスフロー雰囲気で乾燥させ、SiO、Bi,Te、Sbの混合粉末を回収した。このとき、約2.1gの混合粉末が回収された。
【0041】
<焼結>
得られた混合粉末をホットプレスに装入し、350℃×5hrの焼結を行なった。
【0042】
これにより、Bi0.5Sb1.5Te合金のマトリクス中に
〔比較例1〕
図2に示したように、粒径が1〜20μmという粗大で混合状態が巨視的に不均一である原料金属粉末混合物を用いて、実施例と同じ条件で焼結を行なった。
【0043】
〔比較例2〕
図3に示したように、粒径が30〜50nmのナノサイズであるが、混合状態が微視的に不均一である原料金属粉末混合物を用いて、実施例1と同じ条件で焼結を行なった。
【0044】
顕微鏡観察(50万倍〜100万倍)および室温(27℃)での熱電性能の測定を行なった。
【0045】
測定結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明の実施例は最も高い熱電性能を示した。異相の析出が多い比較例1は熱電性能が最も低く、これよりは異相の析出が少ない比較例2でも、熱電性能が比較例1よりは高いが、実施例に比べて大幅に劣っていた。
【0048】
本発明の実施例は、組成が均一でナノ結晶粒組織であり、比較例1はBi、Sb、Teの粗大な粒子が単元素の状態で残留しており、比較例2は、ほぼ合金化しているがTeの一部が単元素で残留していた。
【0049】
図5の(1)、(2)に、それぞれ実施例と比較例2について、エックス線回折(XRD)の結果を示す。
【0050】
(1)の実施例では所定組成Bi0.5Sb1.5Teの結晶面からの回折ピークのみが検出され、均一な合金が得られていることが分かる。
【0051】
(2)の比較例2では所定組成Bi0.5Sb1.5Teの結晶面からの回折ピークの他に、Teからの回折ピークも検出され、一部のTeが単元素の状態で残留していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、長時間の水熱合成を必要とせずに合金化を可能とし、焼結により熱電変換材料を製造する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料の合金成分である複数種類の金属の化合物を液相中で還元して原料金属粉末の混合物を合成する工程、および
得られた原料金属粉末混合物を焼結且つ合金化する工程
から成る熱電変換材料の製造方法であって、
1)上記合金成分のうち蒸気圧が最高の合金成分が揮発しない焼結温度および焼結時間を予備実験により求め、
2)求めた焼結温度および焼結時間における上記合金成分の拡散距離を予備実験により求め、
3)求めた拡散距離を超えない粒径の上記原料金属粉末を用い、
4)上記焼結温度および焼結時間で焼結且つ合金化を行なう
ことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記揮発しない焼結温度および焼結時間は、焼結により得られた熱電変換材料の特性低下が40%以下、好ましくは15%以下であることを基準として判定することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、上記拡散距離を超えない粒径は、50nm以下であることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記合金成分はBi、Sb、Teであることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−23201(P2012−23201A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159824(P2010−159824)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】