説明

熱電変換材料及びその製造方法

【課題】熱電変換材料において、熱電変換特性をより高める。
【解決手段】本発明の熱電変換材料は、Ti59及びTi611からなるTi酸化物のほか、WC粒子を含んで構成されている。このTi59及びTi611からなるTi酸化物としては、例えば、一般式TiOx(1.80≦x<1.84)で表されるTi酸化物としてもよい。具体的には、Ti59及びTi611からなるTi酸化物は、Ti59、Ti611のうちいずれか1以上としてもよい。また、Ti59及びTi611を含むTi酸化物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換とは、熱エネルギーと電気エネルギーを直接変換するものであり、物質から生じるゼーベック効果を用いて、効率良く相互エネルギー変換を行うものである。このような熱電変換が可能なP型、N型の素子を組み合わせたモジュールを用いて、大気中に廃棄されている熱エネルギー等を利用して発電することにより、エネルギー効率の改善を図る方法が期待されている。このような使用を目的とする熱電変換材料には、ゼーベック係数が高く、電気伝導度が高く、かつ、熱伝導率が低い材料が好適であり、これらの物性を組み合わせた性能指数と呼ばれる指標で特性が評価されている。比較的、特性が高いものとして金属化合物系、酸化物系の化合物からなるものが開発されている。
【0003】
このような熱電変換材料としては、例えば、TiOx(1.89≦x<1.94、又は1.94<x<2.00)で表され、X線回折において、所定の2θ値にピークを示す結晶構造を有す不定比酸化チタンからなるn型の熱電変換焼結体材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この材料では、熱電変換における性能指数を高めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−100683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した材料では、性能指数(Z)は室温付近において0.073×10-3〜0.16×10-3であり、熱電変換における性能指数を高めているとはいえ、まだ十分でなく、熱電変換における性能指数を更に高めることが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、熱電変換特性をより高めることができる熱電変換材料及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した主目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、タングステンカーバイド(WC)粒子が分散したTi59相及びTi611相からなるTi酸化物を用いると、熱電変換材料の熱電変換特性をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の熱電変換材料は、タングステンカーバイド(WC)粒子を含んでいる、Ti酸化物を含むものである。
【0009】
本発明の熱電変換材料の製造方法は、金属Tiに対するTi酸化物の質量比が6.0以上7.0以下の範囲となるよう該金属Tiと該Ti酸化物とを配合して混合粉砕し混合材料を得る混合工程と、前記混合材料をスパークプラズマシンタリング法(SPS法)で焼成する焼成工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱電変換材料及びその製造方法は、熱電変換特性をより高めることができる。この理由は定かではないが、WC粒子の分散がTi59相及びTi611相からなるTi酸化物、即ち、WC粒子の分散した微構造が、熱電変換特性の向上に寄与するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】温度と性能指数ZTとの関係図。
【図2】実施例のX線回折の測定結果。
【図3】比較例のX線回折の測定結果。
【図4】実施例のSEM写真及びEPMA測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱電変換材料は、Ti59及びTi611からなるTi酸化物のほか、WC粒子を含んでいることが好ましい。例えば、Ti59及びTi611からなるTi酸化物にWC粒子を含むものとしてもよいし、Ti59からなるTi酸化物にWC粒子を含むものとしてもよいし、Ti611からなるTi酸化物にWC粒子を含むものとしてもよい。
【0013】
本発明の熱電変換材料において、Ti酸化物は、粒径が1μm以上15μm以下であることが好ましい。また、WC粒子は、粒径が0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。この粒径は、熱電変換材料の焼結体の研磨面を電子顕微鏡(SEM)で観察した値をいうものとする。WC粒子の粒径は、以下のように求めるものとする。まず、倍率1000倍以上5000倍以下の範囲で研磨面をSEMで撮影した画像において、EPMAの元素分析を面測定で実行し、得られた元素分布においてWC粒子と認められる画像領域を抽出する。次に、この1つのWC粒子領域のなかで最大の長さをこの粒子の粒径とする。
【0014】
このWC粒子は、熱電変換材料の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた面積全体に対するWC粒子の面積の割合が1.0%以上2.0%以下の範囲で含まれていることが好ましい。こうすれば、熱電変換特性をより高めることができるものと推察される。
【0015】
次に、本発明の熱電変換材料の製造方法について説明する。この製造方法は、金属TiとTi酸化物とを配合して混合粉砕し混合材料を得る混合工程と、混合材料を焼成する焼成工程と、を含むものである。混合工程では、金属Tiに対するTi酸化物の質量比が6.0以上7.0以下の範囲となるよう金属TiとTi酸化物とを配合することが好ましい。こうすれば、焼成後にTi59及びTi611からなるTi酸化物を得ることができる。また、混合工程では、Ti酸化物としてTiO2(ルチル型)を用いることが好ましい。このTi酸化物は、例えば、平均粒径が0.1μm以上1.0μm以下の範囲のものを用いることが好ましく、0.2μm以上0.5μm以下の範囲のものを用いることがより好ましい。また、Ti金属は、平均粒径が10μm以上50μm以下の範囲のものを用いることが好ましく、20μm以上40μm以下の範囲のものを用いることがより好ましい。このような範囲の粒子を用いると、Ti59及びTi611からなるTi酸化物を作製しやすい。なお、原料粒子における平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として原料粒子を測定したメディアン径(D50)をいうものとする。また、混合工程では、遊星ミル、ポットミル、アトライターなどを用いて、原料粒子を混合粉砕するものとしてもよい。混合粉砕は、乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。湿式で行う際には、アルコールやアセトンなど、揮発性の高い有機溶媒を用いることが好ましい。また、混合粉砕では、WC製の容器やボールを用いる。WC製の容器やボールを用いると、得られる熱電変換材料にW成分を導入することができる。このようにして混合材料を得ることができる。
【0016】
焼成工程では、混合材料を成形したのちに焼成することが好ましい。成形方法は、例えば、一軸プレスや、静水圧プレス、ヒートプレス、押出成形などを用いることができる。成形する形状は、角柱状、円柱状など望まれる形状とすればよい。焼成方法は、例えば、真空雰囲気や不活性雰囲気において、常圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。不活性雰囲気には、例えば、Ar雰囲気、N2雰囲気、He雰囲気などが挙げられる。また、焼成方法としては、例えば、スパークプラズマシンタリング法(SPS法)やヒートプレスなどにより焼成してもよい。焼成温度は、例えば、900℃以上1300℃以下が好ましく、1000℃以上1200℃以下がより好ましい。このようにして、熱電変換材料を作製することができる。
【0017】
以上詳述した本実施形態の熱電変換材料では、例えば、無次元性能指数(ZT)など、熱電変換特性をより高めることができる。この理由は定かではないが、微量に含む、W成分(WC)などにより、熱電変換材料の微構造が好ましい形態を示すためであると推察される。また、Ti59及びTi611からなるTi酸化物上にW成分(WC)を含んでいるためであると推察される。このように、作製された本実施形態の熱電変換材料は、n型熱電変換材料として良好な性能を発揮するのである。また、本実施形態の熱電変換材料では、量産性に優れた多結晶材料であり、毒性を有する元素を含まず、資源量が多い元素を用いた、高温で高い特性を有するものとすることができる。
【0018】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0019】
以下には、本発明の熱電変換材料を具体的に製造した例を実施例として説明する。
【0020】
[実施例]
粒径が0.3μmのTiO2(ルチル型)の粉末と、粒径が30〜35μmのTi金属粉末を混合した。混合比率は、Ti金属粉末を1としたときに、TiO2粉末が6.98となる質量比とした。これらをタングステンカーバイド製のポットとボールを用い、遊星ポットミル中のアセトン媒体にて2時間湿式混合し、乾燥した。更に、これらをタングステンカーバイド製のポットとボールを用い、遊星ポットミル中で乾式にて2時間混合し、混合粉体を得た。この混合粉体は一軸プレスで成形したあと、27MPaの面圧の元、1100℃×5分間の条件で、スパークプラズマシンタリング法(SPS法)により焼結させた。得られた焼結体から試験片を切り出し、導電率、ゼーベック係数、熱伝導率、XRD、微構造(組成像とEPMA)を評価した。
【0021】
[比較例]
タングステンカーバイド製の代わりにジルコニア製ポットとボールを用いた以外は、実施例と同様の工程を経て得られた焼結体を比較例とした。
【0022】
(評価試験)
得られた焼結体から試験片を切り出し、導電率、ゼーベック係数、熱伝導率、XRD、微構造(組成像とEPMA)を評価した。導電率σ(S/m)は、大気中で直流四端子法にて測定した。また、ゼーベック係数S(μV/K)は、大気中で定常直流法(試料の両端に温度差を発生させ熱起電力を測定する方法)にて測定した。熱伝導率κ(W/K/m)は、Ar雰囲気中で示差走査熱量測定(DSC)法にて測定した比熱:Cp(J/kg/K;JIS−R1672参照)と、Ar雰囲気中でレーザーフラッシュ法にて測定した熱拡散率:α(m2/s)と、アルキメデス法で測定した密度:ρ(kg/m3;JIS−R1634参照)とから、熱伝導率の算出式:κ=α×Cp×ρの式に従い算出した(JIS−R1611参照)。これらの結果と温度T(K)とを用い、ZTの算出式:ZT=(S2×σ/κ)・Tに従い、無次元性能指数(ZT)を算出した。
【0023】
(XRD測定)
作製した実施例及び比較例の評価として、XRD回折装置(Bruker AXS社製 D8ADVANCE)を用い、熱電変換材料の結晶面に対してX線を照射したときのXRD回折パターンを測定した。測定は、Cukα線を用い、スキャンスピード2.4deg/minで行った。
【0024】
(SEM観察、EPMA測定)
作製した実施例及び比較例の評価として、断面のSEM撮影を行った。SEM撮影は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5410)を用いた。試料は、断面に沿って研磨し、倍率1000〜5000倍で観察した。また、SEM観察した領域に対して、EPMA測定を行った。
【0025】
(結果と考察)
実施例及び比較例(各サンプル)の温度に対する無次元性能指数(ZT)の関係を表1及び図1に示す。また、各サンプルの導電率、ゼーベック係数、熱伝導率、結晶組成の測定結果を表2に示す。無次元性能指数(ZT)は、実施例で高い値を示した。図2は、実施例のX線回折の測定結果である。この結果から、実施例はTi59とTi611の混相であり、(TiOx(1.80≦x<1.84))が主相であることがわかった。また、タングステンカーバイド(WC)が僅かに検出された。また、図3は、比較例のX線回折の測定結果である。図3に示すように、比較例は、Ti59とTi611の混相であるが、タングステンカーバイド(WC)は検出されなかった。図4は、実施例のSEM写真及びEPMA測定結果である。図4に示すように、実施例の微構造では、粒径1〜15μmの範囲のTi酸化物の中に粒径0.5〜3μmの範囲のタングステン成分が、面積比で、1.5%程度存在していることがわかった。
【0026】
以上より、WCが面積比で1.0〜2.0%の割合で存在する、Ti59及びTi611を含むTi酸化物では、より高い熱電変換特性を得ることができることがわかった。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンカーバイド(WC)粒子を含んでいる、Ti酸化物を含む、熱電変換材料。
【請求項2】
前記Ti酸化物は、一般式TiOx(1.80≦x<1.84)で表されるTi酸化物である、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記Ti酸化物は、Ti59、Ti611のうちいずれか1以上を含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記Ti酸化物は、Ti59及びTi611を含むTi酸化物である、請求項3に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記WC粒子は、前記熱電変換材料の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた面積全体に対するW成分の面積の割合が1.0%以上2.0%以下の範囲で含まれている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記Ti酸化物は、粒径が1μm以上15μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
前記WC粒子は、粒径が0.5μm以上3μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項8】
金属Tiに対するTi酸化物の質量比が6.0以上7.0以下の範囲となるよう該金属Tiと該Ti酸化物とを配合して混合粉砕し混合材料を得る混合工程と、
前記混合材料をスパークプラズマシンタリング法(SPS法)で焼成する焼成工程と、
を含む熱電変換材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−199493(P2012−199493A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64076(P2011−64076)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】