説明

熱電変換材料及び熱電変換素子

【課題】導電性高分子を用いた熱電変換材料であって、導電性を飛躍的に向上させることで、熱変換効率をより高めた熱電変換材料を提供する。
【解決手段】導電性高分子、カーボンナノチューブ、及びオニウム塩化合物を含有し、導電率異方性が1.5〜10である熱電変換材料。オニウム塩化合物の共存下において特定の外部エネルギーを付与すると、オニウム塩化合物が酸を発生して優れたドーパントとして機能する結果、熱電変換特性を高めた材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及び当該材料を用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換材料や熱電変換素子を応用した熱電発電は、熱エネルギーを直接電力に変換することができ、可動部を必要とせず、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源等に用いられている。
熱電変換材料には良好な熱電変換効率が要求され、現在主に実用化されているのは無機材料である。しかし、これらの無機材料は材料自体が高価であったり、有害物質を含んでいたり、熱電変換素子への加工工程が複雑である等の問題を有している。そのため、比較的廉価に製造でき、成膜等の加工も容易な有機熱電変換材料の研究が進められ、導電性高分子を用いた熱電変換材料や素子が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1にはポリアニリン等の導電性高分子を用いた熱電素子が、特許文献2にはポリチエニレンビニレンを含む熱電変換材料が、特許文献3及び4にはポリアニリンをドーピングしてなる熱電材料がそれぞれ記載されている。また、特許文献5にはポリアニリンを有機溶剤に溶解させ基板上にスピンコートして薄膜を形成すること、及びそれを用いた熱電材料が記載されているが、その製造プロセスは複雑である。特許文献6には、ポリ(3−アルキルチオフェン)をヨウ素でドープした導電性高分子からなる熱電変換材料が記載され、実用レベルの熱電変換特性を発揮すると報告されている。特許文献7には、ポリフェニレンビニレン又はアルコキシ置換ポリフェニレンビニレンをドーピング処理して得られる導電性高分子からなる熱電変換材料が開示されている。
また、導電性材料としてカーボンナノチューブ等のナノカーボン材料を添加した熱電変換材料の実用化も検討されてきている。
しかしながら、これらの熱電変換材料は熱電変換効率が未だ十分とは言えず、より高い熱電変換効率を有する有機熱電変換材料の開発が望まれている。
【0004】
熱電変換材料の性能指数ZTは下記式(A)で示され、性能向上には熱起電力Sと共に、導電率σの向上が重要である。

性能指数ZT=S・σ・T/κ (A)
S(V/K):熱起電力(ゼーベック係数) σ(S/m):導電率
κ(W/mK):熱伝導率 T(K):絶対温度

導電性高分子は、延伸処理等により高分子鎖を特定方向に配向させて分子間距離を縮めることで、導電性をより向上させることができる(例えば特許文献8、9)。しかし、熱電変換材料に通常用いられるドーパントは酸化剤や酸性化合物であり、これらは導電性高分子やカーボンナノチューブを酸化して凝集させる。したがって、ドーパントを含む熱電変換材料から得られる膜やシートは脆弱で展性に劣り、延伸により破断やクラックが発生しやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−95688号公報
【特許文献2】特開2009−71131号公報
【特許文献3】特開2001−326393号公報
【特許文献4】特開2000−323758号公報
【特許文献5】特開2002−100815号公報
【特許文献6】特開2003−332638号公報
【特許文献7】特開2003−332639号公報
【特許文献8】特開2005−105510号公報
【特許文献9】特開2006−114793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性素材として導電性高分子及びカーボンナノチューブ(以下、CNTともいう。)を用いた熱電変換材料であって、導電性を飛躍的に向上させることで、熱変換効率をより高めた熱電変換材料を提供することを課題とする。また、本発明は、当該材料を用いた熱電変換素子、及び当該熱電発電素子を用いた熱電発電用物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み、導電性高分子及びCNTを用いた熱電変換材料について鋭意検討を行った。その結果、オニウム塩化合物の共存下において特定の外部エネルギーを付与すると、このオニウム塩化合物が酸を発生して優れたドーパントとして機能することを見い出した。さらに、本発明者らは、オニウム塩化合物の共存下であっても、特定の外部エネルギーを付与しなければ、導電性高分子やCNTの酸化・凝集を抑制でき、展性のより高い状態での材料成形が可能になることに着目した。その結果、ドーパントとしてオニウム塩化合物を用いれば、延伸や摩擦転写等による分子配向により所望の導電率異方性を付与してさらに導電性を向上させることができ、熱電変換特性をより高めた材料が得られることを見い出した。本発明は、これらの知見に基づき完成させるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により達成された。
<1>導電性高分子、カーボンナノチューブ、及びオニウム塩化合物を含有し、導電率異方性が1.5〜10である熱電変換材料。
<2>オニウム塩化合物が、熱又は活性エネルギー線照射の付与により酸を発生する化合物である、<1>に記載の熱電変換材料。
<3>前記導電性高分子が、チオフェン系化合物、ピロール系化合物、アニリン系化合物、アセチレン系化合物、p−フェニレン系化合物、p−フェニレンビニレン系化合物、p−フェニレンエチニレン系化合物、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーから導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子である、<1>又は<2>に記載の熱電変換材料。
<4>熱又は活性エネルギー線照射を付与された、<1>〜<3>のいずれかに記載の熱電変換材料。
<5>基材と、該基材上に設けられた<1>〜<4>のいずれかに記載の熱電変換材料とを備える、熱電変換積層体。
<6>基材が樹脂フィルムである、<5>に記載の熱電変換積層体。
<7><1>〜<4>のいずれかに記載の熱電変換材料、又は<5>もしくは<6>に記載の熱電変換積層体を用いた熱電変換素子。
<8>電極を有する、<7>に記載の熱電変換素子。
<9><7>又は<8>に記載の熱電変換素子を用いた熱電発電用物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電変換材料は、より高い導電性を示し、熱電変換性能に優れる。また、本発明の熱電変換素子及び熱電発電用物品は、本発明の熱電変換材料を用いているため、優れた熱電変換性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱電変換素子の一例を模式的に示す図である。図1中の矢印は素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。
【図2】本発明の熱電変換素子の一例を模式的に示す図である。図2中の矢印は素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱電変換材料は、導電性高分子、カーボンナノチューブ、及びオニウム塩化合物を含有し、特定の導電率異方性を備える。本発明の熱電変換材料はオニウム塩化合物のドーピング作用により導電性が飛躍的に向上している上に、導電率異方性も付与されているため、さらに導電性が高められており、優れた熱電変換特性を示す。
本発明の熱電変換材料は、通常には、導電性高分子、カーボンナノチューブ、オニウム塩化合物、及び溶媒を含有する組成物(以下、熱電変換材料用組成物ということがある。)の成形と同時に、又は成形後、導電性高分子を配向させることで所望の導電率異方性を付与して調製される。
以下、本発明について詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
[導電性高分子]
導電性高分子としては、共役系の分子構造を有する高分子化合物を用いることができる。ここで、共役系の分子構造を有する高分子とは、高分子の主鎖上の炭素−炭素結合において、一重結合と二重結合とが交互に連なる構造を有している高分子である。
このような共役系高分子としては、チオフェン系化合物、ピロール系化合物、アニリン系化合物、アセチレン系化合物、p−フェニレン系化合物、p−フェニレンビニレン系化合物、p−フェニレンエチニレン系化合物、p−フルオレニレンビニレン系化合物、ポリアセン系化合物、ポリフェナントレン系化合物、金属フタロシアニン系化合物、p−キシリレン系化合物、ビニレンスルフィド系化合物、m−フェニレン系化合物、ナフタレンビニレン系化合物、p−フェニレンオキシド系化合物、フェニレンスルフィド系化合物、フラン系化合物、セレノフェン系化合物、アゾ系化合物、金属錯体系化合物、及びこれらの化合物に置換基を導入した誘導体などをモノマーとし、当該モノマーから導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子が挙げられる。
【0013】
上記の誘導体中の置換基としては特に制限はないが、他の成分との相溶性や用いる媒体の種類等を考慮して、適宜選択して導入することが好ましい。
例示すると、媒体として有機溶媒を用いる場合、直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基のほか、アルコキシアルキレンオキシ基、アルコキシアルキレンオキシアルキル基、クラウンエーテル基、アリール基等を好ましく用いることができる。これらの基は、さらに置換基を有してもよい。また、置換基の炭素数に特に制限はないが、好ましくは1〜12個、より好ましくは4〜12個であり、特に炭素数6〜12個の長鎖のアルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルコキシアルキレンオキシ基、アルコキシアルキレンオキシアルキル基が好ましい。
水系の媒体を用いる場合は、各モノマーの末端又は上記置換基にさらに、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基等の親水性基を導入することが好ましい。
他にも、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、カルバメート基、ニトロ基、シアノ基、イソシアネート基、イソシアノ基、ハロゲン原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基などを置換基として導入することができ、好ましい。
導入されうる置換基の数も特に制限されず、導電性高分子の分散性や相溶性、導電性等を考慮して、1個又は複数個の置換基を適宜導入することができる。
【0014】
チオフェン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、ポリチオフェン、チオフェン環に置換基が導入されたモノマーから導かれる繰り返し単位を含む共役系高分子、及びチオフェン環を含む縮合多環構造を有するモノマーから導かれる繰り返し単位を含む共役系高分子が挙げられる。
【0015】
チオフェン環に置換基が導入されたモノマーから導かれる繰り返し単位を含む共役系高分子としては、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−シクロヘキシルチオフェン、ポリ−3−(2’−エチルヘキシル)チオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェン、ポリ−3−(2’−メトキシエトキシ)メチルチオフェン、ポリ−3−(メトキシエトキシエトキシ)メチルチオフェンなどのポリ−アルキル置換チオフェン類、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ヘキシルオキシチオフェン、ポリ−3−シクロヘキシルオキシチオフェン、ポリ−3−(2’−エチルヘキシルオキシ)チオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェン、ポリ−3−メトキシ(ジエチレンオキシ)チオフェン、ポリ−3−メトキシ(トリエチレンオキシ)チオフェン、ポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリ−アルコキシ置換チオフェン類、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルオキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどのポリ−3−アルコキシ置換−4−アルキル置換チオフェン類、ポリ−3−チオヘキシルチオフェン、ポリ−3−チオオクチルチオフェン、ポリ−3−チオドデシルチオフェンなどのポリ−3−チオアルキルチオフェン類が挙げられる。
【0016】
なかでも、ポリ−3−アルキルチオフェン類、ポリ−3−アルコキシチオフェン類が好ましい。3位に置換基を有するポリチオフェンに関しては、チオフェン環の2,5位での結合の向きにより異方性が生じる。3−置換チオフェンの重合において、チオフェン環の2位同士が結合したもの(HH結合体:head−to−head)、2位と5位が結合したもの(HT結合体:head−to−tail)、5位同士が結合したもの(TT結合体:tail−to−tail)の混合物になるが、2位と5位が結合したもの(HT結合体)の割合が多いほど、重合体主鎖の平面性が向上し、ポリマー間のπ−πスタッキング構造を形成しやすく、電荷の移動を容易にする上で好ましい。これら結合様式の割合は、H−NMRにより測定することができる。チオフェン環の2位と5位が結合したHT結合体の重合体中における割合は50質量%以上が好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、特に90質量%以上のものが好ましい。
【0017】
より具体的に、チオフェン環に置換基が導入されたモノマーから導かれる繰り返し単位を含む共役系高分子、及びチオフェン環を含む縮合多環構造を有するモノマーから導かれる繰り返し単位を含む共役系高分子として、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0018】
【化1】

【0019】
ピロール系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0020】
【化2】

【0021】
アニリン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0022】
【化3】

【0023】
アセチレン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0024】
【化4】

【0025】
p−フェニレン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0026】
【化5】

【0027】
p−フェニレンビニレン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0028】
【化6】

【0029】
p−フェニレンエチニレン系化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0030】
【化7】

【0031】
上記以外の化合物及びその誘導体から導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子としては、下記の化合物が例示できる。なお下記式中、nは10以上の整数を示す。
【0032】
【化8】

【0033】
上記共役系高分子のなかでも、直鎖状の共役系高分子を用いることが好ましい。このような直鎖状の共役系高分子は、例えば、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子の場合、各モノマーのチオフェン環又はピロール環が、それぞれ2,5位で結合することにより得られる。ポリ−p−フェニレン系高分子、ポリ−p−フェニレンビニレン系高分子、ポリ−p−フェニレンエチニレン系高分子では、各モノマーのフェニレン基がパラ位(1,4位)で結合することにより得られる。
【0034】
本発明で用いる導電性高分子は、上述の繰り返し単位(以下、この繰り返し単位を与えるモノマーを「第1のモノマー(群)」とも称する)を1種単独で有しても、2種以上を組合わせて有していてもよい。また、第1のモノマーに加えて、他の構造を有するモノマー(以下、「第2のモノマー」と称する)から導かれる繰り返し単位を、併せて有していてもよい。複数種の繰り返し単位からなる高分子の場合、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であっても、グラフト重合体であってもよい。
【0035】
上記第1のモノマーと併用される、他の構造を有する第2のモノマーとしては、フルオレニレン基、カルバゾール基、ジベンゾ[b,d]シロール基、チエノ[3,2−b]チオフェン基、チエノ[2,3−c]チオフェン基、ベンゾ[1,2−b;4,5−b’]ジチオフェン基、シクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]ジチオフェン基、ピロロ[3,4−c]ピロール−1,4(2H,5H)−ジオン基、ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール−4,8−ジイル基、アゾ基、1,4−フェニレン基、5H−ジベンゾ[b、d]シロール基、チアゾール基、イミダゾール基、ピロロ[3,4−c]ピロール−1,4(2H、5H)−ジオン基、オキサジアゾール基、チアジアゾール基、トリアゾール基等を有する化合物、及びこれらの化合物にさらに置換基を導入した誘導体が挙げられる。導入する置換基としては、上述した置換基と同様のものが挙げられる。
【0036】
本発明で用いる導電性高分子は、第1のモノマー群から選択された1種又は複数種のモノマーから導かれる繰り返し単位を導電性高分子中、合計で50質量%以上有していることが好ましく、70質量%以上有していることがより好ましく、第1のモノマー群から選択された1種又は複数種のモノマーから導かれる繰り返し単位のみからなることが更に好ましい。特に好ましくは、第1のモノマー群から選択された単一の繰り返し単位のみからなる共役系高分子である。
【0037】
第1のモノマー群のなかでも、チオフェン系化合物及び/又はその誘導体から導かれる繰り返し単位を含むポリチオフェン系高分子がより好ましく用いられる。特に、下記の構造式(1)〜(5)で表されるチオフェン環、又はチオフェン環含有縮合芳香環構造を繰り返し単位として有するポリチオフェン系高分子が好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
上記構造式(1)〜(5)中、R〜R11はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、アミノ基、チオエーテル基、ポリエチレンオキシ基、エステル基を表し、Yは炭素原子又は窒素原子を表し、nは1または2の整数を表す。また*は、各繰り返し単位の連結部位を表す。
【0040】
導電性高分子の分子量は特に限定されず、高分子量のものはもちろん、それ未満の分子量のオリゴマー(例えば重量平均分子量1000〜10000程度)であってもよい。
導電性の観点から、導電性高分子は、酸、光、熱に対して分解されにくいものが好ましい。また、高い導電性を得るためには、導電性高分子の長い共役鎖を介した分子内のキャリア伝達、及び分子間のキャリアホッピングが必要となる。そのためには、導電性高分子の分子量がある程度大きいことが好ましく、この観点から、本発明で用いる導電性高分子の分子量は、重量平均分子量で5000以上であることが好ましく、7000〜300,000であることがより好ましく、8000〜100,000であることがさらに好ましい。当該重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0041】
これらの導電性高分子は、構成単位である上記モノマーを通常の酸化重合法により重合させて製造できる。
また、市販品を用いることもでき、例えば、アルドリッチ社製のポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5ージイル) レジオレギュラー品が挙げられる。
【0042】
本発明に用いる導電性高分子のガラス転移温度(Tg)に特に制限はないが、Tgが150℃以下、好ましくは50〜130℃の高分子を用いることで、導電率異方性をより効率的に付与することができる。Tgは、動的粘弾性測定装置(SIIナノテクノロジー社製、DMS6100)を用いて、引張モードにてマイナス50℃〜200℃まで昇温速度5℃/分で昇温しながら、周波数1ヘルツにて測定した。測定データのTanδの最も高温側にあるピークトップの温度がTgの値である。
【0043】
本発明の熱電変換材料中の導電性高分子の含有量は、全固形分中、30〜90質量%であることが好ましく、35〜80質量%であることがより好ましく、40〜70質量%であることが特に好ましい。
【0044】
[カーボンナノチューブ]
カーボンナノチューブ(CNT)には、1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT、及び複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTがある。本発明においては、単層CNT、2層CNT、多層CNTを各々単独で用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。特に、導電性及び半導体特性において優れた性質を持つ単層CNT及び2層CNTを用いることが好ましく、単層CNTを用いることがより好ましい。
単層CNTは、半導体性のものであっても、金属性のものであってもよく、両者を併せて用いてもよい。半導体性CNTと金属性CNTとを両方を用いる場合、熱電変換材料中の両者の含有比率は、用途に応じて適宜調整することができる。また、CNTには金属などが内包されていてもよく、フラーレン等の分子が内包されたものを用いてもよい。なお、本発明の熱電変換材料には、CNTの他に、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノビーズなどのナノカーボンが含まれてもよい。
【0045】
CNTはアーク放電法、化学気相成長法(以下、CVD法という)、レーザー・アブレーション法等によって製造することができる。本発明に用いられるCNTは、いずれの方法によって得られたものであってもよいが、好ましくはアーク放電法及びCVD法により得られたものである。
CNTを製造する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生じ、また、ニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存する。これらの不純物を除去するために、精製を行うことが好ましい。CNTの精製方法は特に限定されないが、硝酸、硫酸等による酸処理、超音波処理が不純物の除去には有効である。併せて、フィルターによる分離除去を行うことも、純度を向上させる観点からより好ましい。
【0046】
精製の後、得られたCNTをそのまま用いることもできる。また、CNTは一般に紐状で生成されるため、用途に応じて所望の長さにカットして用いてもよい。例えば、半導体用途に用いる場合は、素子電極間の短絡を防ぐために、素子電極間の距離よりも短いCNTを使用することが好ましい。CNTは、硝酸、硫酸等による酸処理、超音波処理、凍結粉砕法などにより短繊維状にカットすることができる。また、併せてフィルターによる分離を行うことも、純度を向上させる観点から好ましい。
本発明においては、カットしたCNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製したCNTも同様に使用できる。このような短繊維状CNTは、例えば、基板上に鉄、コバルトなどの触媒金属を形成し、その表面にCVD法により700〜900℃で炭素化合物を熱分解してCNTを気相成長させることによって、基板表面に垂直方向に配向した形状で得られる。このようにして作製された短繊維状CNTは基板から剥ぎ取るなどの方法で取り出すことができる。また、短繊維状CNTはポーラスシリコンのようなポーラスな支持体や、アルミナの陽極酸化膜上に触媒金属を担持させ、その表面にCNTをCVD法にて成長させることもできる。触媒金属を分子内に含む鉄フタロシアニンのような分子を原料とし、アルゴン/水素のガス流中でCVDを行うことによって基板上にCNTを作製する方法でも配向した短繊維状のCNTを作製することもできる。さらには、SiC単結晶表面にエピタキシャル成長法によって配向した短繊維状CNTを得ることもできる。
【0047】
本発明で用いるCNTの平均長さは特に限定されず、組成物の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の導電性組成物を半導体用途に用いる場合、電極間距離にもよるが、製造容易性、成膜性、導電性等の観点から、CNTの平均長さが0.01μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0048】
本発明で用いるCNTの直径は特に限定されないが、耐久性、透明性、成膜性、導電性等の観点から、0.4nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。
【0049】
本発明の熱電変換材料中のCNTの含有量は、全固形分中、2〜40質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましく、8〜30質量%であることが特に好ましい。
【0050】
[オニウム塩化合物]
本発明の熱電変換材料はオニウム塩化合物を含有し、当該オニウム塩化合物により熱電変換材料の導電性を飛躍的に向上させることができる。導電性が向上するメカニズムの詳細はまだ定かではないが、オニウム塩化合物が、上記CNT及び/又は導電性高分子に対し、適宜に光や熱などのエネルギーを外部から付与し活性化させた状態で、酸化能を発現する。このような酸化の過程で酸を発生し、発生した酸がドーパントとして作用するものと考えられる。ドーパントによって、導電性高分子、及び導電性高分子とCNT間の電荷移動がよりスムーズになるため、導電性が向上する。
従来のドーピング手法では、プロトン酸やルイス酸などの酸をドーパントとして用いるため、熱電変換材料用組成物中に酸を添加した時点でCNTや導電性高分子が凝集・析出・沈殿を生じてしまう。このような組成物では塗布性や成膜性が劣り、その結果、得られる熱電変換材料の導電性も低下していた。また、得られた膜は脆弱で展性に劣り、加工に制限があった。
本発明のオニウム塩化合物は中性であり、CNTや導電性高分子を凝集・析出・沈殿させることがない。また、光や熱などのエネルギー付与により酸が発生する化合物でもあり、酸発生の開始時期をコントロールすることができる。酸を発生させない条件下で熱電変換材料用組成物を調製して凝集を防止し、良好な分散性・塗布性を維持したまま当該組成物を成形することができる。また、この成形品はより展性に富み、延伸処理や摩擦転写等の引っ張りや押圧によって分子を配向させても破断やクラックが生じにくく、導電率異方性の付与を高い再現性で行うことができ、歩留まりがよい。これらの工程を経た後に適宜エネルギー付与を行ってドーピングすれば、より優れた導電性に伴う高い熱電変換特性を備えた熱電変換材料を調製できる。
【0051】
本発明で用いるオニウム塩化合物は、CNT及び/又は導電性高分子に対し、酸化能を有する化合物であることが好ましい。さらに、本発明で用いるオニウム塩化合物は、光や熱などのエネルギーの付与により酸を発生する化合物(酸発生剤)であることが好ましい。エネルギー付与の方法としては、後述するような活性エネルギー線の照射や加熱が挙げられる。
【0052】
このようなオニウム塩化合物として、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、アンモニウム塩、カルボニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。なかでも、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、アンモニウム塩、カルボニウム塩が好ましく、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、カルボニウム塩がより好ましく、スルホニウム塩、ヨードニウム塩が特に好ましい。当該塩を構成するアニオン部分としては、強酸の対アニオンが挙げられる。
【0053】
具体的には、スルホニウム塩としては下記一般式(I)及び(II)で表される化合物が、ヨードニウム塩としては下記一般式(III)で表される化合物が、アンモニウム塩としては下記一般式(IV)で表される化合物が、カルボニウム塩としては下記一般式(V)で表される化合物がそれぞれ挙げられ、本発明において好ましく用いられる。
【0054】
【化10】

【0055】
上記一般式(I)〜(V)中、R21〜R23、R25〜R26及びR31〜R33は、それぞれ独立に直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、芳香族へテロ環基を表す。R27〜R30は、それぞれ独立に水素原子、直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アラルキル基、アリール基、芳香族へテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。R24は、直鎖、分岐又は環状のアルキレン基、アリーレン基を示す。R21〜R33は、さらに置換基を有してもよい。Xは、強酸のアニオンを表す。
一般式(I)においてR21〜R23のいずれか2つの基が、一般式(II)においてR21及びR23が、一般式(III)においてR25及びR26が、一般式(IV)においてR27〜R30のいずれか2つの基が、一般式(V)においてR31〜R33のいずれか2つの基が、それぞれ結合して脂肪族環、芳香族環、ヘテロ環を形成してもよい。
【0056】
21〜R23、R25〜R33において、直鎖又は分岐のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などが挙げられる。
環状アルキル基としては、炭素数3〜20のアルキル基が好ましく、具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、炭素数7〜15のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンシル基、ピレニル基などが挙げられる。
芳香族へテロ環基としては、ピリジル基、ピラゾール基、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基、インドール基、キノリン基、イソキノリン基、プリン基、ピリミジン基、オキサゾール基、チアゾール基、チアジン基等が挙げられる。
【0057】
27〜R30において、アルコキシ基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、iso−プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、炭素数6〜20のアリールオキシ基が好ましく、具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。
【0058】
24において、アルキレン基としては、炭素数2〜20のアルキレン基が好ましく、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基などが挙げられる。環状アルキレン基としては、炭素数3〜20の環状アルキレン基が好ましく、具体的には、シクロペンチレン基、シクロへキシレン、ビシクロオクチレン基、ノルボニレン基、アダマンチレン基などが挙げられる。
アリーレン基としては、炭素数6〜20のアリーレン基が好ましく、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、アントラニレン基などが挙げられる。
【0059】
21〜R33が更に置換基を有する場合、置換基として好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、沃素原子)、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数2〜6のアルケニル基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルアルキル基、アリールカルボニルアルキル基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、トリフルオロメチル基、−S−R41などが挙げられる。なお、R41は、前記R21と同義である。
【0060】
としては、アリールスルホン酸のアニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸のアニオン、過ハロゲン化ルイス酸のアニオン、パーフルオロアルキルスルホンイミドのアニオン、過ハロゲン酸アニオン、又は、アルキル若しくはアリールボレートアニオンが好ましい。これらは、さらに置換基を有してもよく、置換基としてはフルオロ基が挙げられる。
アリールスルホン酸のアニオンとして具体的には、p−CHSO、PhSO、ナフタレンスルホン酸のアニオン、ナフトキノンスルホン酸のアニオン、ナフタレンジスルホン酸のアニオン、アントラキノンスルホン酸のアニオンが挙げられる。
パーフルオロアルキルスルホン酸のアニオンとして具体的には、CFSO、CSO、C17SOが挙げられる。
過ハロゲン化ルイス酸のアニオンとして具体的には、PF、SbF、BF、AsF、FeClが挙げられる。
パーフルオロアルキルスルホンイミドのアニオンとして具体的には、CFSO−N−SOCF、CSO−N−SOが挙げられる。
過ハロゲン酸アニオンとして具体的には、ClO、BrO、IOが挙げられる。
アルキル若しくはアリールボレートアニオンとして具体的には、(C、(C、(p−CH、(CF)が挙げられる。
としてより好ましくは、過ハロゲン化ルイス酸のアニオン、フルオロ基が置換したアルキル若しくはアリールボレートアニオンであり、さらに好ましくはフルオロ置換アリールボレートアニオンであり、特に好ましくはペンタフルオロフェニルボレートアニオンである。
【0061】
オニウム塩の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
【化14】

【0066】
【化15】

【0067】
【化16】

【0068】
なお、上記具体例中のXは、PF、SbF、CFSO、CHPhSO、BF、(C、RfSO、(C、又は下記式で表されるアニオン
【0069】
【化17】

【0070】
を表し、Rfは任意の置換基を有するパーフルオロアルキル基を示す。
【0071】
本発明においては、特に下記一般式(VI)又は(VII)で表されるオニウム塩化合物が好ましい。
【0072】
【化18】

【0073】
一般式(VI)中、Yは炭素原子又は硫黄原子を表し、Arはアリール基を表し、Ar〜Arは、それぞれ独立にアリール基、芳香族へテロ環基を表す。Ar〜Arは、さらに置換されていてもよい。
Arとしては、好ましくはフルオロ置換アリール基であり、より好ましくはペンタフルオロフェニル基、又は少なくとも1つのパーフルオロアルキル基で置換されたフェニル基であり、特に好ましくはペンタフルオロフェニル基である。
Ar〜Arのアリール基、芳香族へテロ環基は、上述のR21〜R23、R25〜R33のアリール基、芳香族へテロ環基と同義であり、好ましくはアリール基であり、より好ましくはフェニル基である。これらの基は、さらに置換されていてもよく、置換基としては上述のR21〜R33の置換基が挙げられる。
【0074】
【化19】

【0075】
一般式(VII)中、Arはアリール基を表し、Ar及びArは、それぞれ独立にアリール基、芳香族へテロ環基を表す。Ar、Ar及びArは、さらに置換されていてもよい。
Arは、上記一般式(VI)のArと同義であり、好ましい範囲も同様である。
Ar及びArは、上記一般式(VI)のAr〜Arと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0076】
上記オニウム塩化合物は、通常の化学合成により製造することができる。また、市販の試薬等を用いることもできる。
オニウム塩化合物の合成方法の一実施態様を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。他のオニウム塩に関しても、同様の手法により合成する事ができる。
トリフェニルスルホニウムブロミド(東京化成製)2.68g、リチウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート−エチルエ−テルコンプレックス(東京化成製)5.00g、およびエタノール146mlを500ml容三口フラスコに入れ、室温にて2時間撹拌した後、純水200mlを添加し、析出した白色固形物を濾過により分取する。この白色固体を純水およびエタノールにて洗浄および真空乾燥することにより、オニウム塩としてトリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート6.18gを得ることができる。
【0077】
オニウム塩化合物は、1種類単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。オニウム塩化合物の含有量は、ドーピング効果の観点から、導電性高分子100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、より好ましく2〜50質量部、さらに好ましくは5〜40質量部である。
【0078】
[その他のドーパント]
本発明の熱電変換材料は、ドーパントとして、上記オニウム塩化合物の他に、ハロゲン、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、電解質アニオン等の酸化剤や、ポリリン酸、ヒドロキシ化合物、カルボキシ化合物、スルホン酸化合物等の酸性化合物を含有してもよい。これらの酸化剤や酸性化合物は、導電性高分子やCNTが著しい凝集を生じない範囲の量で用いる。好ましくは熱電変換材料の固形分中、総量で0〜10質量%であり、より好ましくは0〜5質量%である。
【0079】
[熱励起アシスト剤]
本発明の熱電変換材料は熱励起アシスト剤を含有してもよい。熱励起アシスト剤を含有せしめることで、熱起電力をより向上させることができる。
本発明の熱電変換材料に用いる熱励起アシスト剤とは、導電性高分子のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;最低空軌道)よりもエネルギー準位の低いLUMOを有する化合物であって、導電性高分子にドープ準位を形成しない化合物をいう。一方、本発明の熱電変換材料に含まれるオニウム塩化合物はドーパントであり、導電性高分子にドープ準位を形成する化合物である。
導電性高分子にドープ準位が形成されるか否かは吸収スペクトルの測定により評価でき、本発明におけるドープ準位を形成する化合物及びドープ準位を形成しない化合物とは、下記の方法によって評価されたものをいう。
−ドープ準位形成の有無の評価法−
ドーピング前の導電性高分子Aと別成分Bとを重量比1:1で混合し、薄膜化したサンプルの吸収スペクトルを観測する。その結果、導電性高分子A単独又は成分B単独の吸収ピークとは異なる新たな吸収ピークが発生し、且つこの新たな吸収ピーク波長が導電性高分子Aの吸収極大波長よりも長波長側である場合にドープ準位が発生したと判断する。この場合、成分Bをドーパントと定義する。
【0080】
熱励起アシスト剤のLUMOは、導電性高分子のLUMOよりもエネルギー準位が低く、導電性高分子のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital;最高被占軌道)から発生した熱励起電子のアクセプター準位として機能する。
さらに、導電性高分子のHOMOのエネルギー準位の絶対値と熱励起アシスト剤のLUMOのエネルギー準位の絶対値とが下記数式(I)を満たす関係にあるとき、熱電変換材料は優れた熱起電力を備えたものとなる。

数式(I)
0.1eV≦|導電性高分子のHOMO|−|熱励起アシスト剤のLUMO|≦1.9eV

【0081】
上記数式(I)は、熱励起アシスト剤のLUMOと導電性高分子のHOMOとのエネルギー差を表し、これが0.1eVよりも小さい場合(熱励起アシスト剤のLUMOのエネルギー準位が導電性高分子のHOMOのエネルギー準位よりも低い場合を含む)、導電性高分子のHOMO(ドナー)と熱励起アシスト剤のLUMO(アクセプター)との間の電子移動の活性化エネルギーが非常に小さくなるため、導電性高分子と熱励起アシスト剤との間で酸化還元反応が起きて凝集が発生してしまう。その結果、材料の成膜性の悪化や導電率の悪化を招くこととなる。逆に、両軌道のエネルギー差が1.9eVよりも大きい場合、当該エネルギー差が熱励起エネルギーよりも遙かに大きくなってしまうために熱励起キャリアがほとんど発生しない、すなわち熱励起アシスト剤の添加効果がほとんどなくなってしまう。熱電変換材料の熱起電力が向上には、両軌道のエネルギー差が上記数式(I)の範囲内であることが必要である。
なお、導電性高分子及び熱励起アシスト剤のHOMO及びLUMOのエネルギー準位は、HOMOエネルギーレベルに関しては、単一の各成分の塗布膜(ガラス基板)をそれぞれ作製し、光電子分光法によりHOMO準位を測定できる。LUMO準位に関しては、紫外可視分光光度計を用いてバンドギャップを測定した後、上記で測定したHOMOエネルギーに加えることにより、LUMOエネルギーを算出できる。本発明において導電性高分子及び熱励起アシスト剤のHOMO及びLUMOのエネルギー準位は、当該方法により測定・算出された値を用いる。
【0082】
熱励起アシスト剤により熱励起効率が向上し、熱励起キャリア数が増加するため、材料の熱起電力が向上する。この原理は、導電性高分子のドーピング効果によって熱電変換性能を向上させるものとは異なる。
熱電変換材料はゼーベック効果を利用して熱電変換を行うものであるが、その熱電変換性能を表す指標として、下記数式(A)で表される性能指数ZTが用いられている。

ZT=S・σ・T/κ (A)
S(V/K):熱起電力(ゼーベック係数) σ(S/m):導電率
κ(W/mK):熱伝導率 T(K):絶対温度

【0083】
上記数式(A)から、熱電変換材料の熱電変換性能を高めるためには、材料のゼーベック係数S及び導電率σを大きくし、熱伝導率κを小さくすればよいことがわかる。なお、ゼーベック係数は、絶対温度1Kあたりの熱起電力である。
【0084】
熱励起アシスト剤の使用によりゼーベック係数を高めることで、熱電変換性能を向上させることができる。熱励起アシスト剤を用いた場合には、熱励起によって発生した電子がアクセプター準位である熱励起アシスト剤のLUMOに存在するため、導電性高分子上の正孔と熱励起アシスト剤上の電子とが物理的に離れて存在している。そのため、導電性高分子のドープ準位が熱励起によって発生した電子によって飽和されにくくなり、ゼーベック係数をより高めることができる。
【0085】
熱励起アシスト剤としては、ベンゾチアジアゾール骨格、ベンゾチアゾール骨格、ジチエノシロール骨格、シクロペンタジチオフェン骨格、チエノチオフェン骨格、チオフェン骨格、フルオレン骨格、及びフェニレンビニレン骨格から選ばれる少なくとも1種の構造を含む高分子化合物、フラーレン系化合物、フタロシアニン系化合物、ペリレンジカルボキシイミド系化合物、又はテトラシアノキノジメタン系化合物が好ましく、ベンゾチアジアゾール骨格、ベンゾチアゾール骨格、ジチエノシロール骨格、シクロペンタジチオフェン骨格、及びチエノチオフェン骨格から選ばれる少なくとも1種の構造を含む高分子化合物、フラーレン系化合物、フタロシアニン系化合物、ペリレンジカルボキシイミド系化合物、又はテトラシアノキノジメタン系化合物がより好ましい。
【0086】
上述の特徴を満たす熱励起アシスト剤の具体例として下記のものが例示できるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の例示化合物中、nは整数(好ましくは10以上の整数)を、Meはメチル基を表す。
【0087】
【化20】

【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
本発明の熱電変換材料には上記熱励起アシスト剤を1種単独で又は2種以上組合わせて使用することができる。
熱電変換材料中の熱励起アシスト剤の含有量は、全固形分中、0〜40質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることが特に好ましい。
【0091】
[溶媒]
本発明の熱電変換材料は、通常には、熱電変換材料用組成物を基材等に塗布、成膜し、乾燥後に導電率異方性を付与したものであり、又は熱電変換材料用組成物よりなるペレットを基材上に摩擦転写し、乾燥させたものである。したがって、通常は溶媒を含有しないが、本発明の効果を損なわい程度で上記組成物由来の溶媒が含有されていてもよい。
熱電変換材料用組成物に含まれうる溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。好ましくは有機溶媒であり、アルコール、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、DMF、NMP、DMSOなどの極性の有機溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジンなどの芳香族系溶媒、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、THF、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグリムなどのエーテル系溶媒等が好ましく使用される。
本発明の熱電変換材料中、溶媒の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。
【0092】
[他の成分]
本発明の熱電変換材料は上記成分の他に、酸化防止剤、対光安定剤、耐熱安定剤、可塑剤等を適宜含有してもよい。これらの成分の含有量は、熱電変換材料中5質量%以下であることが好ましく、0〜2質量%であることがより好ましい。
酸化防止剤としては、イルガノックス1010(日本チガバイギー製)、スミライザーGA−80(住友化学工業(株)製)、スミライザーGS(住友化学工業(株)製)、スミライザーGM(住友化学工業(株)製)等が挙げられる。
耐光安定剤としては、TINUVIN 234(BASF製)、CHIMASSORB 81(BASF製)、サイアソーブUV−3853(サンケミカル製)等が挙げられる。
耐熱安定剤としては、IRGANOX 1726(BASF製)が挙げられる。
可塑剤としては、アデカサイザーRS(アデカ製)等が挙げられる。
【0093】
[熱電変換材料]
本発明の熱電変換材料は、当該材料中に含有されうる各成分を溶媒中に混合した熱電変換材料用組成物を調製し、これを成形し、必要により乾燥後、導電率異方性を付与して調製することができる。上記成形は、基材上に上記熱電変換材料用組成物を塗布して成膜する工程を含むことが好ましい。これにより、上記基材上に本発明の熱電変換材料を得ることができる。導電率異方性は導電性高分子を特定の方向に配向させることで付与することができる。ここで、導電率異方性とは、測定する方向によって導電率が異なる性質であり、後述する実施例に記載の方法で測定・算出した値である。導電率異方性を示す熱電変換材料では、導電性高分子が配向する方向に向けた導電率が上昇する。したがって、同一素材からなる材料であって導電率異方性を示さないものに比べて、特定方向への導電率を大きく向上させることができる。導電率異方性の付与は、延伸処理、摩擦転写、ラビング配向法、光配向法、液晶鋳型配向法等の手法を用いて行うことができ、詳細は後述する。
導電率異方性の付与は、導電性高分子やCNTの酸化・凝集が抑えられた状況下で行うことが好ましい。したがって、材料に導電率異方性を付与するまでは、ドーピングのための外部エネルギーの付与を行わないことが好ましい。
本発明の熱電変換材料において、当該導電率異方性は1.5〜10であり、1.7〜8であることが好ましく、2〜7であることがより好ましく、2.3〜6であることがさらに好ましい。
上記熱電変換材料用組成物の調製方法に特に制限はなく、通常の混合装置等を用いて常温常圧下で行うことができる。例えば、各成分を溶媒中で撹拌、振とうして溶解又は分散させて調製すればよい。また、溶解や分散を促進するため超音波処理を行ってもよい。
【0094】
[熱電変換積層体]
本発明の熱電変換積層体は、少なくとも基材と、該基材上に設けられた本発明の熱電変換材料とを備える。本発明の熱電変換積層体は、例えば、基材上に上記の熱電変換材料用組成物を塗布するなどして成膜又はシート状に成形し、必要により乾燥させた後、導電率異方性を付与して調製することができる。また、本発明の熱電変換積層体は、熱電変換材料用組成物からなるペレットを調製し、これを基材上に摩擦転写することで所望の導電率異方性を付与して得ることもできる。
【0095】
上記延伸処理及び摩擦転写の方法、並びにこれらに用いる基材(熱電変換材料の調製に用いる基材、熱電変換積層体を構成する基材)について以下に説明する。
【0096】
(延伸処理)
導電率異方性を付与するための延伸処理は、導電率異方性を付与できれば特に制限はなく、1軸延伸であっても2軸延伸であってもよい。延伸温度はTg〜(Tg+50℃)が好ましく、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1.5〜10倍、より好ましくは2〜6倍である。一方の延伸倍率を他方より大きくして延伸するほうがより高い導電率異方性が得られるため、小さい方の延伸倍率は1〜5倍が好ましく、より好ましくは1〜2倍であり、大きいほうの延伸倍率は1.5〜10倍が好ましく、より好ましくは2〜6倍である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、延伸方向に向けて延伸前の長さを1としたときの延伸後の長さである。
このような延伸はニップロール、テンター等を用いて実施することが好ましい。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0097】
延伸処理は、基材上に熱電変換材料用組成物を塗布して形成させた膜、又はシートを、基材と共に延伸することで行うことができる。これにより、延伸された基材上に本発明の熱電変換材料を得ることができる。また、基材と共に延伸した積層体そのものは、本発明の熱電変換積層体として用いられる。
【0098】
(摩擦転写)
導電率異方性を付与するための摩擦転写は、例えば、特開2008−150584号公報等に記載の通常の方法で行うことができる。例えば、熱電変換材料用組成物からなる、表面を平滑にしたペレットを調製し、このペレットを均一な圧力で基材に押しつけ移動させる。これにより、基材上に本発明の熱電変換材料を得ることができる。また、基材と基材上に得られた本発明の熱電変換材料とを併せて、本発明の熱電変換積層体として用いることができる。ペレットを基材に押しつける力やペレットの移動速度などの条件は、ペレットの性質や必要とする材料の形状を考慮して、事前に検討して決定すればよい。
【0099】
(基材)
本発明の熱電変換積層体における基材に特に制限はないが、塗布、成膜後に加熱や光照射を行う場合は、これらの刺激による影響を受けにくい基材を選択することが好ましい。本発明で使用可能な基材としては、ガラス、透明セラミックス、金属、プラスチックフィルムなどの基板が挙げられる。ガラス、透明セラミックスは、金属、プラスチックフィルムに比べ、柔軟性に欠ける。また、金属とプラスチックフィルムを価格的に比べると、プラスチックフィルムの方が安価であり、柔軟性を有するので好ましい。
このような観点から、本発明の基材としては、樹脂フィルムが好ましく、特に、ポリエステル系樹脂(以下、適宜、「ポリエステル」と称する)、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂が好ましい。ポリエステルとしては、芳香族二塩基酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルが好ましい。
【0100】
本発明に用い得る樹脂フィルムの具体例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂又はこれらの変性物若しくは誘導体、汎用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリメチルアクリレート、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、アクリロニトリル又はこれらの変成物若しくは誘導体等、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−フタレンジカルボキシレート、ビスフェノールAとイソ及びテレフタル酸のポリエステルフィルム等のポリエステルフィルム、製品名ゼオノアフィルム(日本ゼオン社製)、アートンフィルム(JSR社製)、スミライトFS1700(住友ベークライト社製)等のポリシクロオレフィンフィルム、製品名カプトン(東レ・デュポン社製)、アピカル(カネカ社製)、ユービレックス(宇部興産社製)、ポミラン(荒川化学社製)等のポリイミドフィルム、製品名ピュアエース(帝人化成社製)、エルメック(カネカ社製)等のポリカーボネートフィルム、製品名スミライトFS1100(住友ベークライト社製)等のポリエーテルエーテルケトンフィルム、製品名トレリナ(東レ社製)等のポリフェニルスルフィドフィルム等が挙げられる。使用条件や環境により適宜選択させるが入手の容易性、好ましくは100℃以上の耐熱性、経済性及び効果の観点から、市販のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリイミドやポリカーボネートフィルム等が好ましい。また、可塑性の観点からは、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0101】
基材は単一の材料からなる1層でもよいし、異なる材料からなる2層以上の構成を有してもよい。また、熱電変換材料との圧着面に各種電極材料を設けた基材も本発明の熱電変換積層体の基材として好適である。この電極材料としてはITO、ZnO等の透明電極、銀、銅、金、アルミニウムなどの金属電極、CNT、グラフェンなどの炭素材料、PEDOT/PSS等の有機材料等が使用できる。
本発明の熱電変換積層体における基材の厚みは50〜1000μmであることが好ましく、200〜800μmであることがより好ましい。
【0102】
延伸または摩擦転写等の導電率異方性付与処理を経て、本発明の熱電変換材料が設けられた基材は、後述する熱電変換素子の基材としてそのまま用いることができる。また、導電率異方性付与処理後に、基材上に得られた熱電変換材料を別の基材に転写し、この熱電変換材料が転写された基材を、後述する熱電変換素子の基材として用いても良い。その場合において、転写される基材としては、上記で説明した基材と同様のものを用いることができる。熱電変換材料の欠陥を抑制する観点から、上記転写は、100〜200℃程度の加熱下で行うことが好ましい。
【0103】
導電率異方性を付与された熱電変換材料及び熱電変換積層体は、ドーピングのために加熱又は活性エネルギー線照射を行うことが好ましい。このように外部エネルギーを付与して得られる材料及び積層体は、本発明の熱電変換材料及び熱電変換積層体として特に好ましい。加熱又は活性エネルギー線照射によってオニウム塩化合物から酸が発生し、この酸が導電性高分子をプロトン化することにより導電性高分子が正の電荷でドーピング(p型ドーピング)される。
活性エネルギー線には、放射線や電磁波が包含され、放射線には粒子線(高速粒子線)と電磁放射線が包含される。粒子線としては、アルファ線(α線)、ベータ線(β線)、陽子線、電子線(原子核崩壊によらず加速器で電子を加速するものを指す)、重陽子線等の荷電粒子線、非荷電粒子線である中性子線、宇宙線等が挙げられ、電磁放射線としては、ガンマ線(γ線)、エックス線(X線、軟X線)が挙げられる。電磁波としては、電波、赤外線、可視光線、紫外線(近紫外線、遠紫外線、極紫外線)、X線、ガンマ線などがあげられる。本発明において用いる線種は特に限定されず、例えば、使用するオニウム塩化合物の極大吸収波長付近の波長を有する電磁波を適宜選べばよい。
これらの活性エネルギー線のうち、ドーピング効果および安全性の観点から好ましいのは紫外線、可視光線、赤外線であり、より好ましいのは紫外線である。具体的には240〜1100nm、好ましくは300〜850nm、より好ましくは350〜670nmに極大吸収を有する光線である。
【0104】
活性エネルギー線の照射には、放射線または電磁波照射装置が用いられる。照射する放射線または電磁波の波長は特に限定されず、使用するオニウム塩化合物の感応波長に対応する波長領域の放射線または電磁波を照射できるものを選べばよい。
放射線または電磁波を照射できる装置としては、LEDランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、DeepUVランプ、低圧UVランプなどの水銀ランプ、ハライドランプ、キセノンフラッシュランプ、メタルハライドランプ、ArFエキシマランプ、KrFエキシマランプなどのエキシマランプ、極端紫外光ランプ、電子ビーム、X線ランプを光源とする露光装置がある。紫外線照射は、通常の紫外線照射装置、例えば、市販の硬化/接着/露光用の紫外線照射装置(ウシオ電機株式会社SP9-250UB等)を用いて行うことができる。
露光時間及び光量は、用いるオニウム塩化合物の種類及びドーピング効果を考慮して適宜選択すればよい。具体的には、光量10mJ/cm〜10J/cm、好ましくは50mJ/cm〜5J/cmで行うことが挙げられる。
【0105】
熱によるドーピングは、熱電変換材料をオニウム塩化合物が酸を発生する温度以上で加熱すればよい。加熱温度として、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは70℃〜120℃である。加熱時間は、好ましくは5分〜3時間、より好ましくは15分〜1時間である。
【0106】
[熱電変換素子]
本発明の熱電変換材料は、高い熱電変換特性を備え、熱電変換素子用の材料として好適に用いることができる。
本発明の熱電変換素子は、本発明の熱電変換材料を用いてなるものであればよく、その構成については特に限定されないが、基材と、本発明の熱電変換材料を含む熱電変換層と、これらを電気的に接続する電極とを有していることが好ましい。本発明の熱電変換素子の構造の一例として、図1に示す素子(1)及び図2に示す素子(2)の構造が挙げられる。図1に示す素子(1)は、第1の基材(12)上に、第1の電極(13)及び第2の電極(15)を含む一対の電極と、該電極間に本発明の熱電変換材料の層(14)を備える素子である。第2の電極(15)は第2の基材(16)表面に配設されており、第1の基材(12)及び第2の基材(16)の外側には互いに対向して金属板(17)が配設される。図2に示す素子(2)は、第1の基材(22)上に、第1の電極(23)及び第2の電極(25)が配設され、その上に熱電変換材料の層(24)が設けられている。図1及び2中、矢印は、熱電変換素子の使用時における温度差の向きを示す。
【0107】
熱電変換層の形状や調製方法は特に限定されないが、本発明の熱電変換積層体を用い、これに含まれる熱電変換材料を熱電変換層として用いることが好ましい。ここで用いる熱電変換積層体は、基材上に本発明の熱電変換材料が膜(フィルム)状に設けられ、この基材を上記第1の基材(12、22)として機能させることが好ましい。したがって、本発明の熱電変換素子に用いる本発明の熱電変換積層体は、基材表面(熱電変換材料との圧着面)に、上述した各種電極材料が設けられ、その上に本発明の熱電変換材料が設けられた構造であることが好ましい。
本発明の熱電変換積層体は熱電変換材料の一方の表面が基材で覆われているが、これを用いて熱電変換素子を調製するに際しては、他方の表面にも基材(第2の基材(16、26))を圧着させることが、膜の保護の観点から好ましい。また、この第2の基材(16)表面(熱電変換材料との圧着面)には上記各種電極材料を予め設けておいてもよい。また、第2の基材と熱電変換材料との圧着は、密着性向上の観点から100℃〜200℃程度に加熱して行うことが好ましい。
【0108】
本発明の熱電変換素子において、本発明の熱電変換材料を配設する向きに特に制限はないが、図2に示す形態の熱電変換素子(2)においては、第1の電極(23)と第2の電極(25)とを結ぶ最短距離(直線)の方向と、本発明の熱電変換材料において最も高い導電率を示す方向(熱電変換材料の配列方向、例えば、延伸処理をしたものであれば延伸方向、摩擦転写であればペレットの移動方向)とが平行になるように、本発明の熱電変換材料を配設することが好ましい。
【0109】
本発明の熱電変換素子において、熱電変換層の膜厚は、0.1〜1000μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましい。膜厚が薄いと温度差を付与しにくくなることと、膜内の抵抗が増大してしまうため好ましくない。
また、第1及び第2の基材の厚さに特に制限はなく、使用目的に応じて適宜選択できるが、50〜1000μmであることが好ましく、200〜800μmであることが好ましい。基材が薄すぎると外部衝撃により膜が損傷しやすくなる。
【0110】
一般に熱電変換素子では、有機薄膜太陽電池用素子等の光電変換素子と比べて、変換層の塗布・製膜が有機層1層分でよく、簡便に素子を製造できる。特に、本発明の熱電変換材料を用いると有機薄膜太陽電池用素子と比較して100倍〜1000倍程度の厚膜化が可能であり、空気中の酸素や水分に対する化学的な安定性が向上する。
【0111】
本発明の熱電変換素子は、熱電発電用物品の発電素子として好適に用いることができる。すなわち、本発明の熱電変換素子は、温泉熱発電、腕時計用電源、半導体駆動電源、小型センサー用電源、太陽熱発電、廃熱発電等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0113】
調製例1
下記に示す導電性高分子1〜8を10mg、及びCNT(ASP−100F、Hanwha Nanotech社製)4mgを、オルトジクロロベンゼン5mL中に添加し、超音波水浴にて70分間分散させた。その後、下記に示すオニウム塩化合物を4mg添加し十分に溶解させて混合液を調製した。この混合液をポリプロピレン基板(厚さ:400μm)上に塗布し、室温真空下にて12時間乾燥させ、ポリプロピレン基板上に膜厚2.3μmの熱電変換用膜を設けた積層体を作製した。
【0114】
【化23】

【0115】
用いた導電性高分子1〜8の分子量は下記のとおりである。
導電性高分子1:重量平均分子量=87000
導電性高分子2:重量平均分子量=77000
導電性高分子3:重量平均分子量=103000
導電性高分子4:重量平均分子量=118000
導電性高分子5:重量平均分子量=95000
導電性高分子6:重量平均分子量=83000
導電性高分子7:重量平均分子量=109000
導電性高分子8:重量平均分子量=69000
【0116】
【化24】

【0117】
得られた熱電変換用膜を下記方法により延伸し、その後、この膜を紫外線照射機(アイグラフィックス株式会社製、ECS−401GX)により紫外線を照射(光量:1.06J/cm)し、ドーピングを行うことで、基板上に膜状の熱電変換材料が設けられた熱電変換積層体を得た。なお、ドーピングの有無を下記方法で測定したところ、オニウム塩化合物を配合したものでは、すべてドーピングされていることを確認した。
【0118】
[ドーピングの確認]
下記の測定により、熱電変換用膜がドーピングされているか否かを決定した。
膜の吸収スペクトルを波長300〜2000nmの領域で測定した。ドーピングされていない膜の主吸収よりも長波長側に出現する新たな吸収ピークはドーピングによるものである。この吸収ピークが観測された場合、所望通りドーピングされているものと判断した。
【0119】
[延伸]
ポリプロピレン基板上に作製した熱電変換用膜を基板と共に、自動一軸延伸機(株式会社センテック社製)により延伸した。延伸条件はチャック間距離30mm、樹脂温度170℃、延伸速度15mm/分、延伸距離120mmとした(延伸倍率:5倍)。延伸後、フィルム温度を70℃に冷却し、自動一軸延伸機から取り出した。
【0120】
調製例2
上記導電性高分子1〜3を100mg、及びCNT(ASP−100F、Hanwha Nanotech社製)40mgを、オルトジクロロベンゼン38mL中に添加し、超音波水浴にて70分間分散させた。その後、下記に示すオニウム塩化合物を40mg添加し十分に溶解させて混合液を調製した。この混合液を室温にて24時間減圧乾燥させることにより溶媒を留去した。次に、この固形物を分取し、所定を型枠に詰め込み、180℃に加熱して圧縮しながらペレット状に成形した。140℃に加温したポリプロピレン基板(厚さ:400μm)に、上記ペレットを均一な圧力で押しつけ移動させ、熱電変換用膜を含む熱電変換積層体を得た。なお、上記圧力は1.4MPa、掃引速度は50cm/分とした。その後、この熱電変換用膜に紫外線を照射(光量:5.30J/cm)し、ドーピングを行うことで、基板上に膜状の熱電変換材料が設けられた熱電変換積層体を得た。なお、ドーピングの有無を上記方法で測定したところ、オニウム塩化合物を配合したものでは、すべてドーピングされていることを確認した。
【0121】
試験例
得られた熱電変換積層体を構成する熱電変換材料について、下記方法により導電率異方性及び熱電特性を粗測定した。上記調製例1で調製した材料の結果を下記表1に、上記調製例2で調製した材料の結果を下記表2にそれぞれ示す。
【0122】
[導電率異方性の測定]
上記調製例1及び2で得られたで熱電変換積層体を4cm×4cmの大きさに切削し、該積層体を構成する膜状の熱電変換材料に、室温にて測定器の端末を当てることで表面抵抗率(単位:Ω/□)を測定した。測定器にはロレスタEP(三菱化学製)を、プローブにはESP型を使用した。続いて触針式膜厚計にて熱電変換材料の膜厚(単位:m)を測定し、表面抵抗率と膜厚の積の逆数より導電率σ(単位:S/cm)を測定した。導電率に異方性がある膜の場合、方向によって導電率が異なる。ある方向で最も導電率が高くなる場合、その導電率をσ、それと直交する方向の導電率をσと定義する。この時、導電率異方性Xは、X=σ/σと定義される。
なお、表1及び2に記載の最大導電率は、上記σの値の相対値として算出したものである。
【0123】
[熱電特性の測定]
得られた熱電変換用膜を、熱電特性測定装置(オザワ科学(株)製:RZ2001i)を用いて、100℃におけるゼーベック係数(単位:μV/K)及び導電率(単位:S/cm)を評価した。続いて、熱伝導率測定装置(英弘精機(株)製:HC-074)を用いて熱伝導率(単位:W/mK)を算出した。これらの値を用いて、上記式(A)に従って、100℃におけるZT値を算出し、この値を熱電特性値とした。なお、上記導電率として上記σを採用した。
【0124】
【表1】

【0125】
【表2】

【0126】
表1の結果から、ドーパントとしてオニウム塩化合物を含有させることで、導電率が飛躍的に上昇し、熱電特性値の上昇も顕著であった(比較例2と実施例2の比較)。また、10倍程度の高い延伸倍率でも延伸が可能であり、所望の導電率異方性を付与できることがわかった。この導電率異方性が1.5以上である実施例1〜14では、最大導電率がより高く、導電率異方性の低い比較例5及び6に比べて優れた熱電特性値を示した。
また、表2の結果から、延伸に限らず、摩擦転写によっても最大導電率の大幅な向上が認められ、高い熱電特性値を示すことがわかる。つまり、所定レベルの導電率異方性の付与が、導電率の向上に大きく貢献することがわかった。
【符号の説明】
【0127】
1、2 熱電変換素子
11、17 金属板
12、22 第1の基材
13、23 第1の電極
14、24 熱電変換層
15、25 第2の電極
16、26 第2の基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子、カーボンナノチューブ、及びオニウム塩化合物を含有し、導電率異方性が1.5〜10である熱電変換材料。
【請求項2】
オニウム塩化合物が、熱又は活性エネルギー線照射の付与により酸を発生する化合物である、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記導電性高分子が、チオフェン系化合物、ピロール系化合物、アニリン系化合物、アセチレン系化合物、p−フェニレン系化合物、p−フェニレンビニレン系化合物、p−フェニレンエチニレン系化合物、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種のモノマーから導かれる繰り返し単位を有する共役系高分子である、請求項1又は2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
熱又は活性エネルギー線照射を付与された、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
基材と、該基材上に設けられた請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換材料とを備える、熱電変換積層体。
【請求項6】
基材が樹脂フィルムである、請求項5に記載の熱電変換積層体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換材料、又は請求項5もしくは6に記載の熱電変換積層体を用いた熱電変換素子。
【請求項8】
電極を有する、請求項7に記載の熱電変換素子。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の熱電変換素子を用いた熱電発電用物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−98299(P2013−98299A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238779(P2011−238779)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】