説明

熱電変換温度センサ

【課題】温度の検出に適した熱起電力が得られる熱電変換半導体を使用した熱電変換温度センサを提供する。
【解決手段】P型熱電変換半導体1とN型熱電変換半導体2とを間に絶縁物4を介在させて導電体3により接続し、かつ、P型熱電変換半導体1とN型熱電変換半導体2との間に空気などの絶縁物4を充填して、これらを断熱容器7に収納した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換温度センサに関し、詳細には温度変化を電気信号に変換して温度を検出する熱電変換温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化を検出する方法としては、白金抵抗測温対やサーミスタに代表される温度変化を金属抵抗変化として取り出すもの、異種金属を接合させた熱電対に代表される温度変化を熱起電力変化として取り出すもの、バイメタルに代表される温度変化を機械的変化として取り出すもの、空気を使用した圧力の変化を捉える温度センサなどがよく知られている。
【0003】
より具体的には、熱電対を使用したものとしては、図8に示すような棒状に形成された形態の熱電対温度センサが商品化されている。
【0004】
また、図9に示すように、コンスタンタン41、純鉄42の異種金属を密着した接合部46、空洞の接合部47、密着した接合部48と連続して接合した温度センサ40が商品化されている。このような温度センサは、形状が長く(大きく)、発生する熱起電力が少ない。
【0005】
そこで、より小型で、熱起電力が大きな材料として熱電変換半導体を使用した温度センサが開発されている。熱電変換半導体は、P型熱電変換半導体とN型熱電変換半導体にそれぞれ大別される。具体的には例えば、図10に示すようにP型熱電変換半導体52と、N型熱電変換半導体51が対になった温度センサ50がある。この熱電変換半導体を使用した温度センサは、熱電対を使用した温度センサに比べ熱源との熱交換により大きな熱起電力が発生することが知られている(特許文献1、非特許文献1など)。
【特許文献1】特開2007−324500号公報
【非特許文献1】「FeSi2系熱電変換モジュールのゼーベック係数の測定」、田中勝之他、The 28th Japan Symposium on Thermophysical Properties,Oct.24−26,2007,Sapporo.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱電変換半導体を用いた温度センサは、熱電変換半導体配置、接続方法、接続する導線の接続により大きく影響し、熱電変換半導体に発生する熱起電力が大きく変わることがわかってきた。そこで、熱起電力を大きくするための効率的な構造を解明することが技術的な課題となっている。
【0007】
本発明の目的は、温度の検出に適した熱起電力が得られるようにした熱電変換半導体を使用した熱電変換温度センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係わる発明は、第1導電型の熱電変換半導体と、前記第1導電型の熱電変換半導体との間に絶縁物を介在させて配置された第2導電型の熱電変換半導体と、前記第1導電型の熱電変換半導体と前記第2導電型の熱電変換半導体との間を接続する導電体と、前記第1導電型の熱電変換半導体、前記絶縁物、前記第2導電型の熱電変換半導体、および前記導電体を収納した断熱容器とを有することを特徴とする熱電変換温度センサである。
【0009】
請求項2に係わる発明は、請求項1において、前記絶縁物として、空気が充填されることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係わる発明は、請求項1において、前記絶縁物として、空気よりも熱伝導率の低い物質が充填されることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係わる発明は、請求項1において、前記絶縁物として、空気よりも熱伝導率の高い物質が充填されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係わる熱電変換温度センサによれば、絶縁物を介在して電気的に接続された異種熱電変換半導体を断熱容器により密封したことで、密封されている内部の絶縁物と外部との温度差により異種熱電変換半導体に熱起電力が生じるので、その熱起電力から温度を検出することができる。
【0013】
また、請求項2乃至4に係わる熱電変換温度センサによれば、内部の絶縁物として、熱伝導性の異なる様々な物質を入れることで、温度特性の異なる温度センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した実施形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は実施形態1の熱電変換温度センサを説明するための断面図であり、図2はこの熱電変換温度センサの外観を示す斜視図である。また、図3はこの熱電変換温度センサの分解斜視図である。なお、図3においては電極5および6を省略している。
【0016】
本実施形態1による熱電変換温度センサ10は、第1導電型の熱電変換半導体としてP型熱電変換半導体1、第2導電型の熱電変換半導体としてN型熱電変換半導体2を備える。これら2つの半導体は、その間に配置された導電体3によって電気的に接続されている。さらに、P型熱電変換半導体1とN型熱電変換半導体2との間には絶縁物4が充填されている。本実施形態1において、絶縁物4は空気である。
【0017】
P型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2の両端部には、それぞれ電極5および6が接続されている。電極5および6の接続は、例えばハンダ付け、銀ペーストなどの導電性接着材による接続である。
【0018】
そして、これらP型熱電変換半導体1、N型熱電変換半導体2、導電体3、および絶縁物4は断熱容器7に収納され、電極5および6のみが露出している。
【0019】
なお、熱電変換半導体は、熱電変換半導体特性を有し、これは温度差により熱起電力が発生する特性を言い、P型とN型では発生する熱起電力極性が逆の特性を表す。
【0020】
外観形状としては、例えば、図2および図3に示すように、断熱容器部分が円柱形状である。P型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2は、円盤形状であり、所定の厚さを有する。導電体3はリング形状をしていて、断熱容器7内部でP型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2と接続されている。導電体3とP型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2の接続には銀ペーストなどの導電性接着剤が用いられる。熱電変換半導体は、円柱形状に加工することで形状的に安定で割れや欠けが少なくなるためである。もちろん用途などに応じて、楕円径や四角形などであってもよい。
【0021】
P型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2は、粉末原料を型成形し、それを一定の圧力、温度、時間の焼結条件下、放電プラズマ焼結方により形成することができる。なお、通常の電気炉での焼結では金属相ができてしまい、半導体特性を示さない。
【0022】
導電体3は、例えばアルミニウム、銅など電気伝導性の良いものが好ましい。
【0023】
断熱容器7は、断熱性および絶縁性のある部材であれば特に限定されず、樹脂部材を使用することができる。
【0024】
次に、本実施形態による熱電変換温度センサ10の動作原理について説明する。
【0025】
図4は異種熱電変換半導体を接合した温度センサの動作原理を説明する説明図である。
【0026】
異種熱電変換半導体を接合した温度センサの基本動作原理は、導電体53を冷却、電極54および電極55を加熱すると、P型熱電変換半導体52、N型熱電変換半導体51に温度差が発生し、熱電変換半導体のゼーベック効果により熱起電力が発生して電流56が流れる。
【0027】
この原理と同じく、本実施形態1による熱電変換温度センサ10を温度測定場所に置くことにより、外側、すなわち電極5および6はその温度にさらされて温度が変化することになる。一方、断熱容器7の内部である、P型熱電変換半導体1、N型熱電変換半導体2、および導電体3に遮蔽された空間内部(すなわち絶縁物4が充填されている部分)は、外部の温度の影響を受けないので温度変化がほとんど生じない。
【0028】
このため熱電変換温度センサ10全体に熱を加えれば、電極5および6の温度が上昇して高温側となり、内部の絶縁物4の温度はほとんど変わらないので低温側となる。特に、絶縁物4として空気を使用した場合、空気は熱伝達率が低いため、熱電変換温度センサ10全体に熱が加わっても、P型熱電変換半導体1、N型熱電変換半導体2の内側は温度が急激に高くならない低温状態のままとなり、外側との間で温度差が大きくなって、大きな熱起電力が発生することになる。さらに断熱容器7によって、絶縁物4を入れた空間内部への熱伝達率が非常に低くなるため、温度差が生じやすくなり、より大きな熱起電力を得ることができる。
【0029】
このような特性から、この熱電変換温度センサ10は、熱の絶対温度を測定するものではなく、熱の温度上昇率を測定するものとなる。すなわち、熱電変換温度センサ10全体に温度を加えるとP型熱電変換半導体1が内部と外部の温度差により熱起電力を発生し、円筒状の導電体3を経由してN型熱電変換半導体2に伝わり、さらにN型熱電変換半導体2の温度差による熱起電力が加わる。そのときの熱起電力の上昇率と経過時間により温度差を判定することができるようになる。
【0030】
なお、発生した熱起電力はさらに外部回路(増幅器)などにより増幅してもよい。
【0031】
ここでは、P型熱電変換半導体1、N型熱電変換半導体2、導電体3に遮蔽された空間内部は、絶縁体として空気が充填される例について示したが、この内部空間には空気以外の熱容量の相違する物質を充填するようにしてもよい。すなわち、空気よりも熱伝導率の低い物質、あるいは空気よりも熱伝導率の高い物質を充填することができる。このように、熱伝導率の異なる物質を充填することによって、熱電変換温度センサ10全体に熱を加えた場合の時間と熱起電力の出力関係が相違した特性の温度センサを製造することができる。
【0032】
これは充填される物質の熱伝導率の相違により、空間内部の温度上昇が相違するためで、外周温と空間内部の絶縁体との温度差が相違し、ゼーベック効果による熱起電力の発生が相違するもので、その温度特性の相違により温度センサが早く作動するか、ゆっくり作動するかなどの応答特性を任意に設定することができるようになる。
【0033】
なお、センサ各部品の寸法などは様々に変えて用いることができることは言うまでもない。
【実施例】
【0034】
本発明を適用した実施形態1の熱電変換温度センサを製作して実験した。また、従来の温度センサも比較例として実験した。
【0035】
(実施例)
実施例は、図1に示したものと同形状の熱電変換温度センサ10を製作した。 製作は、熱電変換半導体として、原料粉末P型FeSi2:FeSi2−4.1質量%Cr、N型FeSi2:FeSi2−2.4質量%Coを使用し、加圧力35MPa、温度1023K、保持時間600sの焼結条件下、放電プラズマ焼結法によりP型熱電変換半導体1とN型熱電変換半導体2を形成した。P型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2はそれぞれφ20mm厚さ7mmに焼結した。
【0036】
これを実施形態1に示したように、円筒状の導電体3によって接続して、断熱容器7に収納した。そして、P型熱電変換半導体1およびN型熱電変換半導体2のそれぞれの露出している端面に電極5および6を銀ペースト接着した。
【0037】
この熱電変換温度センサ10を、室温より30度高く、風速85センチメートル毎秒の垂直気流に投入して、電極5、電極6の間に発生した熱起電力を測定した。
【0038】
図5は、この電極5、電極6の間に発生した熱起電力と時間の関係を示す特性図である。
【0039】
図5に示すように、熱起電力は、約70秒後に約1.23mVに達して飽和し、その後減少した。これは、後述する比較例1の熱電対温度センサと同様の応答特性を示しており、かつ、比較例の熱電対温度センサよりも約1.26倍高い熱起電力が発生することを示している。
【0040】
また、この図から、熱電変換温度センサ10は、熱が全体に伝達された状態となった後は、熱起電力が低下していることがわかる。したがって、温度センサとして使用するときは、図5に示したデータのうち、熱起電力が上昇している間の上昇率により温度差を判定することができる。
【0041】
(比較例1)
比較例1は、図8および10に示したものと同様に、コンスタンタン、純鉄を10対使用した熱電対温度センサを製作した。この熱電対温度センサはφ2.2mm×全長445mm1本の熱電対温度センサである。
【0042】
図6はこの比較例1の熱電対温度センサにおける熱起電力を測定した特性図である。
【0043】
測定は実施例1と同様に、この比較例1の熱電対温度センサ1本を室温より30度高く、風速85センチメートル毎秒の垂直気流に投入して時間の経過ともに熱起電力を測定した。
【0044】
図6に示すように、この比較例の熱電対温度センサでは、約7秒後に約0.98mVに飽和し、その後、熱起電力は減少した。
【0045】
(比較例2)
比較例2として、図10に示した従来の熱電変換半導体を使用した温度センサを製作した。すなわち、P型熱電変換半導体51、N型熱電変換半導体52のそれぞれの一方の端部に共通の導電体53を接続し、他端にそれぞれに電極54、電極55を接続した温度センサを製作した。
【0046】
P型熱電変換半導体51およびN型熱電変換半導体52は、それぞれφ20、厚さ7mmを基本形(1/1サイズ)とし、熱電変換半導体を1/2、1/4に切断して3個の温度センサを製作した。
【0047】
そして、電極54および電極55にペルチェクーラーを取り付け低温側とし、導電体53を高温側としてヒーターで加熱し、温度制御し、電極54、電極55間の電圧を測定した。
【0048】
図7は、比較例2における温度差と熱起電力を示す特性図である。図7に示すように、高温側、低温側の温度差に対する熱起電力は、1/1サイズ、1/2サイズ、1/4サイズの1対で構成された温度センサにおいていずれも同じように変化していることがわかる。また、ゼーベック係数α=0.302の近似データとなることが、特性図により確認できる。したがって、熱電変換半導体のサイズを小型化してもほぼ同じ特性を持つことがわかる。
【0049】
以上の実施例および比較例の結果から、本発明を適用した熱電変換温度センサ10は、熱電対を使用した温度センサと同様な応答性能を有し、かつ、熱電対温度センサよりも大きな熱起電力が得られることがわかる。また、比較例2の結果から、小型化することも可能であることがわかる。
【0050】
また、熱電対はコンスタンタン、純鉄を中空の特殊構造に加工する必要があるのに対し熱電変換温度センサ10は、半導体はCr、Coは微少で、主材となるFe、Si粉は安価であるとともに、接合箇所が熱電対に比べ少なくできるというメリットがある。
【0051】
また、粉末原料を焼結させて形成することができるため、製造が容易である。
【0052】
上記のような特徴を有する本発明に係わる熱電変換温度センサは、例えば空調装置、プラントなどの温度センサとして、また、火災報知設備差動式感知器として防災システムにも利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1の熱電変換温度センサを説明するための断面図である。
【図2】実施形態1の熱電変換温度センサの外観を示す斜視図である。
【図3】実施形態1の熱電変換温度センサの分解斜視図である。
【図4】異種熱電変換半導体を接合した温度センサの動作原理を説明する説明図である。
【図5】実施例1の熱電変換温度センサにおける熱起電力と時間の関係を示す特性図である。
【図6】比較例1の熱電対温度センサにおける熱起電力を測定した特性図である。
【図7】比較例2における熱電変換温度センサの温度差と熱起電力を示す特性図である。
【図8】従来の熱電対温度センサの外観を示す図である。
【図9】従来の熱電対温度センサの構造を示す図である。
【図10】従来の熱電変換温度センサの構造を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1…P型熱電変換半導体
2…N型熱電変換半導体
3…導電体
4…絶縁物
7…断熱容器
10…熱電変換温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の熱電変換半導体と、
前記第1導電型の熱電変換半導体との間に絶縁物を介在させて配置された第2導電型の熱電変換半導体と、
前記第1導電型の熱電変換半導体と前記第2導電型の熱電変換半導体との間を接続する導電体と、
前記第1導電型の熱電変換半導体、前記絶縁物、前記第2導電型の熱電変換半導体、および前記導電体を収納した断熱容器と、
を有することを特徴とする熱電変換温度センサ。
【請求項2】
前記絶縁物として、空気が充填されることを特徴とする請求項1記載の熱電変換温度センサ。
【請求項3】
前記絶縁物として、空気よりも熱伝導率の低い物質が充填されることを特徴とする請求項1記載の熱電変換温度センサ。
【請求項4】
前記絶縁物として、空気よりも熱伝導率の高い物質が充填されることを特徴とする請求項1記載の熱電変換温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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