説明

熱電変換素子出力制御装置

【課題】熱電変換素子から発生する起電力を最大化できる電流×電圧の最大電力点あるいは最適動作点を自動で求めて負荷や蓄電池に出力する。
【解決手段】熱電素子から出力される起電力の電流Iを検出、測定する手段と、電圧Vを検出、測定する手段と、前記電圧V、電流I及び熱電素子の内部抵抗Rとから出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較演算する手段と、この比較演算された判定値により、PWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ値Dを変更するコンバート手段とを有する。判定値1=VI−RI或いは判定値2=V−RIの関数を用いて、コンバータの電流スイッチを制御するPWMのパルス幅Wまたはデューティ値Dを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電発電素子等のゼーベック効果を有する素子のように、温度により熱起電力を生じる熱電変換素子について、発生した起電力を制御して出力する熱電変換素子出力制御装置に関する。特に熱電変換素子から発生する起電力を最大化できる最適な電流×電圧の最大電力点あるいは最適動作点を自動で求めて負荷や蓄電池に出力するMPPT(最大電力点追従:Maximum Power Point Tracking又はMaximum Power Point Tracker)機能を有する熱電変換素子出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の出力特性は、図4のように電圧が上昇しても電流は変化せず、ある電圧を超えると急激に電流が低下し、流れ無くなってしまう。電圧と電流を掛けた発電能力(電力)をグラフにすると図4の点線の様にある極大点まで昇詰めて急激に低下する。従って、理想的にはこの最大電力点で動作してくれれば良いが、自然にそうなることは殆ど無く、最大電力点を探して充放電を制御する制御器が必要になる。天気に左右され、光からの変換効率が悪いだけでは無く、このことも利用効率を下げる要因になっている。
【0003】
太陽電池の良いところは、日射強度が変化しても最大電力点の電圧変化は少なく最大電力点は急峻な極大点なので、この点の電圧に成るように制御すれば自ずと最大電力が得られるので、この点の電圧に成るように制御するのが一般的である。太陽光発電用のMPPT制御は、この性質を利用し、基本的に電圧をほぼ一定に設定し、取り出す電流を可変する仕組みになっている。
【0004】
しかし熱電発電素子等のゼーベック効果を有する熱電変換素子は、図5の様に電圧上げて電流を流そうとするとゼーベック効果で直線的に電流が流れなくなって、最後には全く流れなくなってしまう。この時の最大電力点は、緩やかな山形の頂上に存在し、太陽電池の急峻な最大電力点の電圧と違って、単純な電圧を目標に制御する事は誤差が大きく、更に温度変化に伴い、電圧、電流が共に変化するので、太陽光発電用のMPPT制御回路をそのまま利用することは出来ない。太陽光発電用のMPPT制御回路は、基本的に1段構成のものが殆どであるため、温度変化に伴い電圧、電流が共に変化する熱電変換素子では、その出力電圧を一定に出来ない。また従来の熱電素子の出力制御では、熱電素子のインピーダンスとコンバータ入力側のインピーダンスのマッチングしかとられていなかった。そのため、MPPT制御を実現することが困難であった。
【0005】
熱電変換素子では温度変化に伴い、電圧、電流が共に変化するので、回路構成として例えば図3に示すような2段構成の制御回路が必要となる。1段目の昇圧コンバータで最大電力を取り出し、2段目の降圧コンバータで必要な電圧で蓄電池又は負荷に電力を供給することが必要となる。
【0006】
例えば図3の出力制御装置では、コンデンサから出力側の降圧コンパータ等についでは、通常のDC−DCコンバータが使用できるので、負荷側電圧に合わせて、コンバータICを利用する。MPPTの検討に重要なのが昇圧コンバータであり、実現方法として具体的には次の2つの手段が考えられる。
(1)昇圧コンバータICを利用し、制御用の入力にMPPT用の信号を入力する。
(2)FET(電界効果トランジスタ:Field effect transistor)及びFETを駆動する回路を個別部品で構成し、PIC(Peripheral Interface Controller:マイクロチップ・テクノロジー社が製造している制御用マイクロコントローラIC)で制御する。
【0007】
このうち、方法(2)が自由度もあり、性能を引き出すために必要な回路である。しかし、PICのデジタル出力の分解能では不十分で、外部にPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)の発生回路、スロースターター回路等が必要である。そこで、方法(1)を用い、入力電圧、入力電流を基板上のOPアンプで増幅しながら例えばLABVIEW等で測定し、MPPT用の信号を作り出し、それによってMPPT制御の最適化を図ることが考えられる。
【0008】
このような検討と観点から熱電変換素子用のMPPT制御のためのICの開発が望まれるところである。しかし現在、MPPT用として市販されている制御用ICは、ほぼ全てのものが太陽光発電用の出力制御用として開発されており、温度変化に伴い電圧、電流が共に変化する熱電変換素子用の出力制御に使用出来るものは殆ど見当たらないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−179840号公報
【特許文献2】特開2007−97335号公報
【特許文献3】特開2008−22688号公報
【特許文献4】特開2007−5371号公報
【特許文献5】特開2010−41903号公報
【特許文献6】特開2009−232511号公報
【特許文献7】特開2007−12768号公報
【特許文献8】特開2006−129554号公報
【特許文献9】特開2005−176408号公報
【特許文献10】特開2005−151661号公報
【特許文献11】特開2005−51934号公報
【特許文献12】特開平6−22571号公報
【特許文献13】特開2002−272094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の熱電変換素子出力制御における課題に鑑み、熱電変換素子であっても、それから発生する起電力を最大化できる電流×電圧の最大電力点あるいは最適動作点を自動で求めて負荷や蓄電池に出力するMPPT機能を有する熱電変換素子出力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、前記の目的を達成するため、熱電素子から出力される起電力の電圧Vと出力回路に流れる電流Iを測定し、電圧V、電流I及び熱電素子の内部抵抗Rとから出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較することにより、或いは前記電圧Vと熱電素子の内部抵抗Rに電流Iを掛けて出来た電圧降下RIを比較することにより、PWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ(ONとOFFの時間比率)値Dを変更する。
【0012】
すなわち、本発明による熱電変換素子出力制御装置は、熱電素子から出力される起電力の電流Iを検出、測定する手段と、電圧Vを検出、測定する手段と、前記電圧V、電流I及び熱電素子の内部抵抗Rとから出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較演算する手段と、或いはこれらの式から電流を括って直接前記電圧Vと熱電素子の内部抵抗Rに電流Iを掛けて出来た電圧降下RIを比較演算する手段と、PWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ値Dを変更するコンバート手段とを有するものである。
【0013】
具体的には、判定値1=VI−RI或いは判定値1から電流を括って判定値2=V−RIの関数を用いて、コンバータの電流スイッチを制御するPWMのパルス幅Wまたはデューティ値Dを変更する。判定値が正であれば、PWMによるパルス幅を広くし、逆に、負であれば、PWMによるパルス幅を狭くする。判定値1も判定値2も同じ効果を発揮するが、判定値2の方が1次式なので演算時間が少なくて済む。しかし、熱電発電の場合電流・電圧が常に変化しているが、温度が急激に変化することは無いので、演算時間が影響する事は無い。判定値1は、電力に比例した制御量になるので、熱源の温度が大きく変動しても、電力に比例した制御が行えることになるので、熱源が変動する場合に安定した制御が行える。一方の判定値2は、電圧と電流を比較することになるので、熱源の変動が小さい場合に精密に最大出力を求める用途に適している。
【0014】
この方式は、従来用いられていたコンダクタンスあるいは抵抗値を計算するのではなく、温度変化に伴い電圧、電流が共に変化する熱電変換素子用から出力される電力を最大に取り出すために、出力電力と内部損失を比較して、その差が小さくなるように制御するため、熱電変換素子用として最適なMPPT制御を実現することが出来る。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した通り、前記本発明による熱電変換素子出力制御装置では、温度変化に伴い電圧、電流が共に変化する熱電変換素子用から出力される電力を最大に取り出すことが出来るため、熱電変換素子用として最適なMPPT制御を実現することが出来る。更に、電圧と電流を時間平均して測定すればノイズに対しても強くなり、これにより、熱電変換素子から効率的に電力を取り出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】熱電変換素子出力制御装置の回路の一実施例を示すブロック図である。
【図2】熱電変換素子出力制御装置の回路の一実施例のより詳細を示すブロック図である。
【図3】熱電変換素子出力制御装置の回路の基本構成を示すブロック図である。
【図4】太陽電池の出力特性の例を示すグラフである。
【図5】熱電変換素子の出力特性の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、前記の目的を達成するため、熱電素子から出力される起電力の電流Iと電圧V及び熱電素子の内部抵抗Rとから出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較し、これによりPWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ値Dを変更するようにした。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明による熱電変換素子出力制御装置の一実施例を示すブロック図である。この図1に示すように、電流センサにより熱電素子から出力される起電力の電流Iが検知され、その電流値Iが電流検出装置により検知、測定される。また、電流センサにより熱電素子から出力される起電力の電圧Vが検知され、その電圧値Vが電圧検出装置により検知、測定される。この電流Iと電圧Vは、演算処理部により演算され、出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとが比較される。これによりコンバータにおいてPWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ値Dを変更する。
【0019】
例えば、熱電素子からの電力取り出しの制御方式として次の判定値1を利用する。
判定値1=VI−RI
ここで、Vは熱電素子からの出力電圧、Rは熱電素子の内部抵抗、Iは熱電素子から流れ出る電流を表わす。これは、出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較するもので、両者から電流Iを括ると、次の判定値2となる。
判定値2=V−RI
これは、出力電圧Vと熱電素子の内部損失電圧RIとを比較することになり、この関数を用いて、コンバータの電流スイッチを制御するPWMの周期Dを変更する。
【0020】
この判定式を利用すると、(1)演算時間が掛かる割り算が発生しない、(2)変化分ではないので安定な評価(計算)が出来る、というメリットがある。
判定式には、従来用いられていたコンダクタンスあるいは抵抗値を計算するのではなく、電力を最大に取り出すために、出力電力と内部損失を比較して、その差が小さくなるように制御している。判定値が正であれば、PWMのスイッチONの時間を長くし、パルス幅を広くする。逆に、負であれば、PWMのスイッチのONの時間を短くし、パルス幅を狭くする。
【0021】
図2は、本発明による熱電変換素子出力制御装置の一実施例を示すブロック図であり、特にコンバータの部分を図1より詳細に示している。
熱電素子から電力を取り出す場合に、コンバータ内のMOSFET(金属酸化膜半導体FET:Metal Oxide Semiconductor FET)およびダイオードに加わる電圧降下が影響する。従って、その電圧降下を考慮して、厳密に出力の最大電力を求める必要が有る。その電圧降下分を考慮したときの出力電圧Voutは次の数式1のように表わせる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、DはFETスイッチのデューティ比(周期)、VFETはMOSFETのON時の電圧降下を表す。ここで、電流をIoutとしてIout=αIとなり、α=(1−D)と表わせる。したがって、出力電力は次の数式2で表わせる。
【0024】
【数2】

【0025】
ここで、簡単のためにαを取ると、出力電力は次の数式3で表わせる。
【0026】
【数3】

【0027】
ここで、Vinは入力電圧、Vdはダイオードの順方向電圧を表す。最大出力電力を得るためには、上式を微分して0になるところである。まず、熱電素子の開放電圧Vopenと内部抵抗Rとして、Vopen−Vin=RIの関係があるから、出力電力微分すると次の数式4となり、これを変形すると次の数式5となる。
【0028】
【数4】

【0029】
【数5】

【0030】
従って、次の判定値3を利用することで、コンバータ内部の特性を考慮して最大の電力を取り出すように制御できることになる。この判定値3は、判定値2の於いてMOSFETやダイオードでの電圧降下を考慮したものと考える事ができる。
判定値3=Vin−RI−DVFET−(1−D)Vd
判定値が正であれば、PWMのスイッチONの時間を長くする。逆に、負であれば、PWMのスイッチのONの時間を短くする。これは、低い電圧から最大電力を取り出す場合に重要なことである。
【0031】
この判定式を利用するためには、あらかじめ熱電素子の内部抵抗R,コンバータで使用するFETのON時の電圧降下、ダイオードの電圧降下を演算処理部に設定しておく必要がある。判定式には、(1)割り算が発生しない、(2)測定が、コンバータに入力する電圧と電流およびデューティ比Dだけで変化分ではないので安定な評価(計算)が出来る。(3)低い入力電圧時に最大の電力をコンバータ出力で取り出すことが出来る、等の3つのメリットがある。
【0032】
さらに次の判定値4により、VdはDに対して増減が逆に作用するので、Vをコンバータの定数として、求めてもよい。
判定値4=Vin−RI−V
判定値3は、FETの電圧降下、ダイオードの電圧降下を考慮した制御が行えることになるので、素子の出力電圧が変動する場合に安定した制御が行える。一方の判定値4は、FETの電圧降下、ダイオードの電圧降下が相殺すること見込んでおり、変動をあらかじめ抑えたロバストな判定とすることができる。ここでは、VFET、Vd、VAとして、定数として与える例を示したが、回路の温度を測定し、あらかじめ温度毎に各電圧VFET、Vd、VAをメモリ等に設定しておき、回路の温度変化に対して、温度毎の設定値を読みだして判定に利用するのが好例である。
【0033】
なお、コンバータとして昇圧型のみを示したが、昇圧型の後に降圧型を組み合わせることもできる。このように構成することで、入力は最大電力まで取り出し、出力は一定電圧のものに対して電流を流すことが出来る。これによって、機構に対する駆動、2次電池等の充電が安定して行える。但し、最大電力を得ようとして、昇圧回路の出力電圧は、素子の耐圧以上に上昇する場合があるので、その場合には、素子の耐圧等の電圧上限値で、出力電力を飽和させる様に制御した方が良い。これによって、回路を保護し、且つ安定に動作させることができる。なお、熱電変換素子の発生電力に上限がある場合にも同様に制御することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明による熱電変換素子出力制御装置は、熱電変換素子から発生する起電力を最大化できる電流×電圧の最大電力点あるいは最適動作点を自動で求めて負荷や蓄電池に出力するので、熱電発電素子等のゼーベック効果を有する素子の出力制御に利用することが出来る。また、FETおよびダイオードの電圧が影響する起電力が小さい温度差の小さい分野にも適応でき、広い温度範囲で使用できる回路を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電素子から出力される起電力を制御する熱電変換素子出力制御装置において、熱電素子から出力される起電力の電流Iを検出、測定する手段と、電圧Vを検出、測定する手段と、前記電圧V、電流I及び熱電素子の内部抵抗Rとから出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較演算する手段と、この比較演算された判定値により、PWMによる出力パルスのパルス波の幅W或いはデューティ値Dを変更するコンバート手段とを有することを特徴とする熱電変換素子出力制御装置。
【請求項2】
熱電素子から出力される起電力の電圧V、電流I、熱電素子の内部抵抗Rとから計算される出力電力VIと熱電素子の内部損失RIとを比較することに出力電力と内部損失の差が小さくなるようパルス幅を長短加減することを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子出力制御装置。
【請求項3】
熱電素子から出力される起電力の電圧V、電流I、熱電素子の内部抵抗Rとから計算される出力電圧Vと熱電素子の内部損失電圧RIとを比較することに出力電圧と内部損失電圧の差が小さくなるようパルス幅を長短加減することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱電変換素子出力制御装置。
【請求項4】
熱電素子から電力を取り出すときのコンバータ内部に有るMOSFETやダイオードでの電圧降下を考慮した判定値3=Vin−RI−DVFET−(1−D)Vd並びに判定値4=Vin−RI−Vで、出力電圧と内部損失電圧の差が小さくなるようパルス幅を長短加減することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の熱電変換素子出力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55769(P2013−55769A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191655(P2011−191655)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】