説明

熱電対、熱電対具備部材及びそれを用いたオゾン濃度計

【課題】応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なオゾン濃度計に用いることができる熱電対を提供する。
【解決手段】第1の素線15aと、第1の素線15aとは異なる材質からなる第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部6と、第1の素線15aと同じ材質からなる第3の素線15cと、第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材5が熱伝導可能に固定され、基材5の温度を感知する第2感知部8と、を有し、第1感知部6と第2感知部8とが同一の先端部に形成されており、第1感知部6で発生した起電力と第2感知部8で発生した起電力との差を、第1の素線15aと第3の素線15cとの電位差として測定する熱電対1A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対、熱電対具備部材及びそれを用いたオゾン濃度計に関し、更に詳しくは、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なオゾン濃度計に用いることができる熱電対、熱電対具備部材及びそれを用いたオゾン濃度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理施設などでは、オゾン(オゾンガス)を利用して殺菌・脱色・脱臭が行われている。このようにオゾンは、広い分野で使用されている。そして、オゾンは、空気または酸素を含む原料ガスの無声放電によって発生させることができる。
【0003】
そして、オゾンを生成する装置(オゾン発生装置)は、例えば、円筒状のステンレス鋼(SUS)製の金属管、この金属管の内周部に接合される円筒状のガラス管(誘電体)を備える接地電極管と、この接地電極管の外方に位置する円筒状のステンレス鋼(SUS)製の金属管である高電圧電極管とを備えているものなどを挙げることができる。
【0004】
そして、このようなオゾン発生装置から発生したオゾンの濃度を測定するための方法として、例えば、滴定法や吸光度法などの化学分析法、電極膜や半導体を用いた機器分析法などが知られている。
【0005】
また、オゾンと触媒とを接触させることによって生じるオゾンの分解反応に起因する反応熱を温度センサにより感知してオゾン濃度を測定する方法や測定装置が知られている。具体的には、オゾン処理剤の充填層と、この充填層に試料ガスを通気する手段と、充填層の温度を測定する手段とを備える測定装置が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−139141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の測定装置は、構造が複雑であるため高価であった。そのため、簡単な構成からなるものであって、良好にオゾン濃度を測定可能な測定装置(オゾン濃度計)の開発が切望されていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なオゾン濃度計に用いることができる熱電対、熱電対具備部材及びそれを用いたオゾン濃度計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、熱電対、熱電対具備部材及びそれを用いたオゾン濃度計が提供される。
【0010】
[1] 第1の素線と、前記第1の素線とは異なる材質からなる第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部と、前記第1の素線と同じ材質からなる第3の素線と、前記第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材が熱伝導可能に固定され、前記基材の温度を感知する第2感知部と、を有し、前記第1感知部と前記第2感知部とが同一の先端部に形成されており、前記第1感知部で発生した起電力と前記第2感知部で発生した起電力との差を、前記第1の素線と前記第3の素線との電位差として測定する熱電対。
【0011】
[2] 前記基材における複数の前記貫通孔が、細線によって区画形成されており、前記細線の太さが20〜400μmである前記[1]に記載の熱電対。
【0012】
[3] 前記基材における目開きは、20〜600μmである前記[2]に記載の熱電対。
【0013】
[4] 前記基材は、シートが折り曲げられてなるものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱電対。
【0014】
[5] 前記基材を複数有し、複数の前記基材は、一の基材に平行になるように他の基材が配列された状態で、隣接する基材が、相互に連結されている前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱電対。
【0015】
[6] 前記基材が、ステンレス鋼からなる前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱電対。
【0016】
[7] オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路、及び、前記貫通路に連通する熱電対配設路を有する外装部材と、前記熱電対配設路に、前記第1感知部と前記第2感知部とが前記貫通路内に位置するように配設された、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱電対と、を備える熱電対具備部材。
【0017】
[8] 前記[7]に記載の熱電対具備部材と、前記熱電対の前記第1の素線と前記第3の素線との電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部と、を備えるオゾン濃度計。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱電対は、「前記第1感知部と前記第2感知部とが同一の先端部に形成」されているため、第1感知部と第2感知部とが近接して配置されていることになる。そのため、試料ガスを、ほぼ同時に第1感知部と第2感知部とに接触させることができる。従って、応答速度が速いという効果を奏する。また、「第1の素線と、前記第1の素線とは異なる材質からなる第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部と、前記第1の素線と同じ材質からなる第3の素線と、前記第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材が熱伝導可能に固定され、前記基材の温度を感知する第2感知部と」を有するものであればよいため、構成部品数が少なく簡単な構成からなる。更に、試料ガス中のオゾンにより基材が昇温されると、第1感知部と第2感知部との間に温度差が生じる。そして、このように温度差が生じると、第1感知部と第2感知部とに起電力が発生するため、これらの起電力の差(電位差)を計測すれば、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能である。
【0019】
本発明の熱電対具備部材は、「オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路、及び、前記貫通路に連通する熱電対配設路を有する外装部材と、前記熱電対配設路に、前記第1感知部と前記第2感知部とが前記貫通路内に位置するように配設された本発明の熱電対と、を備える」ため、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なオゾン濃度計を得ることができる。
【0020】
本発明のオゾン濃度計は、「本発明の熱電対具備部材と、前記熱電対の前記第1の素線と前記第3の素線との電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部と、を備える」ため、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の熱電対の一の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図2】図1における、A−A’断面を示す模式図である。
【図3】図1に示す熱電対の基材を長手方向に引き伸ばした状態を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明の熱電対の他の実施形態における基材を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明の熱電対の更に他の実施形態における図2に対応する模式図である。
【図6】本発明の熱電対の更に他の実施形態における図2に対応する模式図である。
【図7】本発明の熱電対の更に他の実施形態における図2に対応する模式図である。
【図8】本発明の熱電対の更に他の実施形態における図2に対応する模式図である。
【図9】本発明の熱電対具備部材(オゾン濃度計)の一の実施形態を模式的に示す一部断面図である。
【図10】本発明の熱電対具備部材の他の実施形態を模式的に示す一部断面図である。
【図11】本発明の熱電対具備部材の更に他の実施形態を模式的に示す一部断面図である。
【図12】実施例1のオゾン濃度計の動作確認のための評価を説明するための模式図である。
【図13】実施例1のオゾン濃度計を用いたときのオゾン濃度と温度差との関係を示すグラフである。
【図14】試料ガス中のオゾン濃度の経時変化と実施例1のオゾン濃度計で測定される温度差の経時変化を示すグラフである。
【図15】比較例1の熱電対具備部材(オゾン濃度計)を模式的に示す一部断面図である。
【図16】試料ガス中のオゾン濃度の経時変化と比較例1のオゾン濃度計で測定される温度差の経時変化を示すグラフである。
【図17】実施例2のオゾン濃度計を用いたときのオゾン濃度と温度差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0023】
[1]熱電対:
本発明の熱電対の一の実施形態は、図1,図2に示す熱電対1Aのように、第1の素線15aと、第1の素線15aとは異なる材質からなる第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部6と、第1の素線15aと同じ材質からなる第3の素線15cと、第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材5が熱伝導可能に固定され、基材5の温度を感知する第2感知部8と、を有し、第1感知部6と第2感知部8とが同一の先端部に形成されており、第1感知部6で発生した起電力と第2感知部8で発生した起電力との差を、第1の素線15aと第3の素線15cとの電位差として測定するものである。
【0024】
このような熱電対1Aは、「第1感知部6と第2感知部8とが同一の先端部に形成」されているため、第1感知部6と第2感知部8とが近接して配置されている。そのため、試料ガスを、ほぼ同時に第1感知部6と第2感知部8とに接触させることができる。従って、熱電対1Aをオゾン濃度計に用いた場合、応答速度が速いオゾン濃度計を作製することができるという効果を奏する。具体的には、第1感知部6と第2感知部8とが離れて配設されている熱電対においては、第1感知部6で感知される試料ガスの温度と、上記試料ガス中のオゾン濃度に起因して第2感知部8で感知される温度(基材の温度)とに感知される時間に大きな差が生じるため、正確なオゾン濃度の測定が困難になることがあった。しかし、第1感知部6と第2感知部8とを近接させて配置することにより、上記時間の差を小さくすることができる。なお、本明細書において「熱電対」とは、先端に温接点を有する一対の異種素線を備え、上記温接点で起電力が発生されるセンサのことである。また、「同一の先端部」とは、1つの熱電対における温度測定部分(先端部)のことであり、試料ガスに触れるセンサ部のことである。
【0025】
また、「第1の素線15aと、第1の素線15aとは異なる材質からなる第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部6と、第1の素線15aと同じ材質からなる第3の素線15cと、第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材5が熱伝導可能に固定され、基材5の温度を感知する第2感知部8と」を有するものであればよいため、構成部品数が少なく簡単な構成からなる。更に、試料ガス中のオゾンにより基材5が昇温されると、第1感知部6と第2感知部8との間に温度差が生じる。そして、このように温度差が生じると、第1感知部6と第2感知部8とに起電力が発生するため、これらの起電力の差(電位差)を計測すれば、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能である。なお、予め第1感知部6と第2感知部8との起電力の差(温度差)とオゾン濃度との関係を確認しておくことは必要である。
【0026】
図1に示す熱電対1Aは、第1の素線15aと第3の素線15cを支持する支持部17を更に備えており、熱電対1Aの先端部、即ち、図1における支持部17の上方に第1の素線15aと第3の素線15cとが延出しており、これらの先端に第1感知部6と第2感知部8とがそれぞれ形成されている。一方、図1における支持部17から下方に延出した第1の素線15aと第3の素線15cの先端部には、それぞれ、起電力をオゾン濃度や温度として算出可能な計測部に接続可能な接続端子16が配設されている。2つの溶接部分(第1感知部6及び第2感知部8)間の(離れ)長さLが、1〜20mmのもの(好ましくは、2〜10mm)である。上記長さLが上記範囲であると、第1感知部6と第2感知部8とが近接して配置されることになり、オゾン濃度計に用いた場合、応答速度が速いオゾン濃度計を作製することができる。
【0027】
なお、支持部17は、合成樹脂、セラミックなどからなる耐オゾン性を有する絶縁体である。支持部17から延出した第1の素線15aと第3の素線15cは、合成樹脂製の保護材により保護されている。支持部17と接続端子16の間の配線は、第1の素線15a、第3の素線15cに限らず、補償導線を用いることができる。計測部としては、K熱電対に対応するもの、R熱電対に対応するものを用いることが好ましく、具体的には、富士電機社製の「PXR4(型番)」などの温度調節機などを用いることができる。図1は、本発明の熱電対の一の実施形態を模式的に示す平面図であり、図2は、図1における、A−A’断面を示す模式図である。
【0028】
[1−1]第1感知部:
第1感知部6は、上述したように、第1の素線15aと第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分である。そして、第1感知部6では、試料ガスの温度に起因する起電力が発生する。
【0029】
第1の素線15aと第2の素線15bとを互いに溶接する方法としては、具体的には、スポット溶接、アーク溶接、トーチ溶接などの方法を挙げることができる。
【0030】
[1−2]第2感知部:
第2感知部8は、上述したように、第3の素線15cと第2の素線15bとを互いに溶接して形成された溶接部分である。この第2感知部8では、後述する基材5が熱伝導可能に固定されているため、基材5の温度に起因する起電力が発生する。
【0031】
溶接する方法としては、第1感知部と同様の方法を採用することができる。なお、伝熱性が良好になるという観点から、基材と素線とを接触させた状態で溶接して溶接部分を形成することが好ましい。
【0032】
[1−3]素線:
本発明の熱電対においては、第1の素線と第3の素線とは互いに同じ材質であり、第2の素線と第1の素線及び第3の素線とは互いに異なる材質であることが必要である。このような条件を満たす限り素線の形状やその寸法(幅や長さ)は特に制限はなく、後述する外装部材の内径との関係により適宜選択することができる。このように素線の幅や長さは適宜選択することができるが、太すぎたり厚すぎたりすると、感知性能の低下(感知時間の遅れ)や加工性が悪くなると推察する。なお、具体的には、線材であれば、径が0.05〜1mmのものを用いることができ、板材であれば厚さが0.05〜0.5mmのものを用いることができる。より具体的には、本発明の熱電対においては、K、J、T、E、N、R、S、Bなどの公知の熱電対とすることができる。なお、K熱電対であれば、第1の素線及び第3の素線としてクロメル材を用い、第2の素線としてアルメル材を用いることができる。また、第1の素線及び第3の素線としてアルメル材を用い、第2の素線としてクロメル材を用いることもできる。
【0033】
[1−4]基材:
基材は、上述したように、複数の貫通孔が形成されたシート状である金属製の部材である。このような簡単な構造の部材(基材)を用いるものであるため、本発明の熱電対を用いてオゾン濃度計を作製した場合、従来のオゾン濃度計に比べて製造にかかる費用が低廉になる。
【0034】
また、本発明の熱電対においては、試料ガスが基材に当てられた際に試料ガス中のオゾンと触媒とが良好に触媒反応を起こし、この反応により生じた熱によって基材が良好に昇温される。具体的には、基材には複数の貫通孔が形成されているため、試料ガスが基材の貫通孔を通過することになる。そのため、貫通孔の表面(貫通孔を形成する細線の側面)などでも触媒反応が生じ、貫通孔が形成されていない基材に比べて良好に昇温されることになる。そして、基材は、金属製のシートであるため、更に良好に昇温されることになる。このように、基材は、オゾンにより良好に昇温されるとともに、オゾン濃度が高い場合には触媒反応が活発に起こるためより高い温度まで昇温し、オゾン濃度が低い場合には触媒反応が起こり難く昇温し難いものであるため、オゾン濃度に比例した温度となる。
【0035】
基材は、複数の貫通孔が形成されたシート状であればよく、例えば、図3に示すように、複数の貫通孔3が、細線4によって区画形成されることによって形成されたもの(以下、「網状の部材」と記す場合がある)を挙げることができる。また、基材としては、例えば、シート状の金属(金属板)を、複数の貫通孔3が形成されるように打ち抜くことによって形成されたもの(パンチングプレート19(図4参照))などを挙げることができる。図3は、図1に示す熱電対1Aの基材5を長手方向Xに引き伸ばした状態を模式的に示す平面図である。図4は、本発明の熱電対の他の実施形態における基材を模式的に示す平面図である。
【0036】
なお、基材が網状の部材である場合、細線の太さ(線径)は、20〜400μmであることが好ましく、70〜300μmであることが更に好ましく、100〜200μmであることが特に好ましい。上記細線の太さが20μm未満であると、耐久性が劣るおそれがある。また、強度が弱く、外部からの振動などにより、担持された触媒が脱落するおそれがある。一方、400μm超であると、オゾンと触媒との反応により生じた熱が第2感知部に伝わるまでの時間が長く、かつ熱容量が多くなるため、オゾン濃度計に使用した際に良好なオゾン濃度測定が困難になるおそれがある。また、線径が太すぎると加工性が悪くなるため、形状を維持することが難しくなるおそれがある。具体的には、細線が縦横に配置されて構成される網状の部材(網状の基材)(即ち、縦横の細線によって織られたもの)は、通常、縦横の細線の交点は結合されていない。そのため、線径が太すぎると、細線同士の絡み力が低下して解れが生じることがある。従って、細線が脱落して網目形状を維持することが難しくなるおそれがある。
【0037】
また、基材が網状の部材である場合、基材の目開きは、1000μm以下であることが好ましく、100〜500μmであることが更に好ましい。上記目開きが1000μm超であると、基材の表面での密着性が低下するため、触媒が脱落するおそれがある。
【0038】
上記目開きが100〜500μmであると、基材を通過するオゾンの量が適当になり、オゾン濃度計に使用した際にオゾン濃度を良好に測定することができる。上記目開きが100μm未満であると、基材を通過するオゾンの量が少なくなるため、オゾン濃度を良好に測定することが困難になるおそれがある。また、細線と触媒との結合力が小さくなり、付着強度が低下するため、触媒が落下するおそれがある。一方、500μm超であると、基材の表面での密着性が低下するため、触媒が脱落するおそれがある。具体的には、触媒は細線の表面を包み込むように一体化することにより細線に付着しているが、網目が大きくなる(目開きが大きくなる)と、触媒同士の結合割合に比べて細線との接触面が増加するため、触媒が細線に保持され難くなり脱落するおそれがある。
【0039】
ここで、「目開き」とは、基材に形成された複数の貫通孔の平均的な大きさを表すものであり、本実施形態における「目開き」は、網状の部材の網目を形成する細線間の平均的な距離をいう。
【0040】
基材は、シート状のものであり、その厚さD1(図2参照)、即ち、本実施形態における網状の部材(網状の基材)の厚さは、具体的には、50〜800μmであることが好ましく、100〜650μmであることが更に好ましく、200〜400μmであることが特に好ましい。上記厚さが50μm未満であると、薄過ぎるため、耐久性が劣るおそれがある。また、強度が弱く、外部からの振動などにより、触媒が脱落するおそれがある。一方、800μm超であると、オゾンと触媒との反応により生じた熱が第2感知部に伝わるまでの時間が長く、また熱容量が多くなるため、良好なオゾン濃度の測定が困難になるおそれがある。また、線径が太すぎると加工性が悪くなるため、形状を維持することが難しくなる。
【0041】
基材の材料としては、金属であれば特に制限はないが、例えば、ステンレス鋼(SUS)、鉄、ニッケルなどを挙げることができる。これらの中でも、オゾンや酸に対して耐久性があるため、ステンレス鋼が好ましい。ステンレス鋼としては、具体的には、SUS304、SUS316などを挙げることができる。
【0042】
基材はシート状、即ち、厚さが上述した厚さ程度の板状であればよく、そのシートの外周形状は特に制限されず、図3に示すような長方形以外に、正方形、円形、楕円形、三角形、多角形などを挙げることができる。
【0043】
基材の大きさは、例えば図3に示すような外周形状が長方形の場合、縦H1(図3参照)0.5〜20mm、横H2(図3参照)0.5〜20mmとすることができる。
【0044】
基材は、シートが折り曲げられてなるものであることが好ましい。折り曲げられることによって、平板状である場合(折り曲げられていない場合)に比べて、試料ガスの流れに起因する基材の温度変動が小さくなる。即ち、平板状であると、試料ガスの温度が基材よりも低い場合、試料ガスが基材を通過する際に基材の温度を下げてしまう。そのため、基材全体として温度が維持されるように、シート状の基材を折り畳むことが好ましい。このようにすると、オゾン濃度をより正確に(良好に)測定することができる。また、試料ガスと基材の接触部分をコンパクトにしながらも、オゾンとの接触範囲を十分に確保できる。即ち、シート状の基材を折りたたむことにより、試料ガスとの接触面積を損なうことなく、コンパクトにすることができる。そのため、基材が、第2感知部8以外の部分(例えば、第1感知部6など)に接触し難くなり(接触することを避けることができ)、熱電対の先端部に取り付けることが容易になる。
【0045】
図2に示す熱電対1Aは、長方形状の網状の部材の一方の端部側の部分を、上記網状の部材の一方の面側に折り曲げ、他方の端部側の部分を上記網状の部材の他方の面側に折り曲げて、平板状の部材を三つ折にされた(Z字状に折られた)基材5を有する例である。
【0046】
シート状のものが折り曲げてなる基材としては、図2に示すようなZ字状に限定されず、例えば、S字状、V字状、平行層状などとすることができる。これらの中でも、形成が容易であり、オゾン濃度に正確に対応する温度となり、第2感知部8においてオゾン濃度に応じた起電力を発生させ得るという観点から、Z字状であることが好ましい。図5は、本発明の熱電対の更に他の実施形態における図2に対応する模式図であり、図5に示す熱電対1Bは、S字状に折り曲げられた基材5を備えている例である。
【0047】
本発明の熱電対は、基材を複数有し、複数の基材が、一の基材に平行になるように他の基材が配列された状態で、隣接する基材が、相互に連結されていることが好ましい。このようにすることで、一つの基材のみ有する場合に比べて、試料ガスの流れに起因する基材の温度変動が小さくなる。
【0048】
例えば、図6は、2枚の基材5,5を有する熱電対1Cを示す例である。図6に示すように、熱電対1Cは、断面円弧状の2つの基材5,5を有し、これらの2つの基材5,5は、凸状の頂点部分で互いに溶接により固定されている。このような熱電対1Cの基材5,5は、作製が容易であり、Z字状の基材5(図2参照)と同様に、オゾン濃度に正確に対応する温度となり、第2感知部8においてオゾン濃度に応じた起電力を発生させ得るため、オゾン濃度をより正確に(良好に)測定することができる。なお、図6に示す熱電対1Cは、断面円弧状の基材5を有しているが、基材5の形状は特に制限はなく、例えば、断面V字状、断面U字状、断面コ字状などであってもよい。
【0049】
3つ以上の基材を有する場合、内側に位置する基材を素線に溶接することが好ましい(図7参照)。内側に位置する基材を素線に溶接することによって、外側に位置する基材に素線を溶接する場合に比べて、熱の発生源(即ち、オゾンと触媒との反応によって熱が生じる部分)が第2感知部の周りを囲むように存在し、かつ、試料ガスが第2感知部に直接的に当たらないため、試料ガスの流れに起因する基材の温度変動が小さくなる。そのため、オゾン濃度をより正確に(良好に)測定することができる。また、オゾンとの接触部分をコンパクトにしながらも、十分なオゾンとの接触範囲を確保できる。
【0050】
図7に示す熱電対1Dは、相互に平行に配置された3つの基材5(5a,5b,5c)を備え、3つの基材5a,5b,5cのうちの中央の基材5bが第2の素線15bに溶接されている例である。3つの基材5a,5b,5cは、隣接する基材5a,5b,5c同士が円柱状の2つの熱伝導性の連結部21,21によって相互に連結されている。図7に示す熱電対1Dは、外側に位置する基材5a,5cで生じた熱が連結部21,21によって中央に位置する基材5bに伝達され、その熱を第2感知部8が感知する。
【0051】
複数の基材5a,5b,5cを平行に配置する場合、各基材5a,5b,5cの間の距離Kは、特に制限はないが、0.1〜1mmであることが好ましい。上記距離Kが0.1mm未満であると、各基材5a,5b,5cが近接しすぎるため、複数の基材5a,5b,5cを有する効果が得られ難くなる(オゾン濃度をより正確に(良好に)測定することが困難になる)おそれがある。一方、1mm超であると、上記距離Kが大きくなりすぎる(即ち、隙間が大きく開きすぎる)ため、触媒とオゾンとの反応によって生じた熱が伝わり難くなりオゾン濃度を正確に測定することが困難になるおそれがある。
【0052】
連結部21,21の材料としては、熱を伝達可能なものである限り特に制限はないが、基材5a,5b,5cと同様の材料(具体的には、ステンレス鋼やニッケルなど)などを用いることができる。連結部21,21の形状や大きさは、特に制限はないが、例えば、円柱状、四角柱状、三角柱状、多角柱状などの形状を挙げることができ、円柱状である場合、端面の直径が1〜10mmであり、中心軸方向の長さが1〜20mmであることが好ましい。
【0053】
基材5としては、図8に示すように、折り曲げられていない平板状であってもよい。このような平板状であると、熱電対の作製が容易である。図8に示す熱電対1Eは、平板状の基材5を有すること以外は、図1に示す熱電対1Aと同様の構成を有している。
【0054】
なお、基材5は、第2感知部8以外とは接触せず第1感知部6及び第1感知部6の周辺を流れる試料ガスに影響を与えない(具体的には、発熱した基材5の熱が第1感知部6及び第1感知部6の周辺を流れる試料ガスに及ばない)ように考慮して取り付けることは言うまでもない。
【0055】
[1−5]触媒:
触媒は、オゾンと接触することにより熱を発生させるものである限り特に制限はない。例えば、オゾンと接触することにより発熱するオゾン分解触媒、ニッケル、マンガン、銅、白金、パラジウム、鉄、コバルト、銀等の金属や、上記金属の酸化物(具体的には、酸化マンガン、酸化鉄)を含有するものなどを挙げることができる。これらの中でも、オゾンを良好に酸素に分解し、分解反応における反応熱の発生が良好であるという観点から、酸化マンガンを含有するものが好ましく、酸化銅を含む酸化マンガン(カロライト)が更に好ましい。
【0056】
触媒は、基材の表面に、付着厚さとして20〜500μmとなるような層(触媒層)を形成していることが好ましく、50〜300μmとなるような層を形成していることが更に好ましい。上記触媒層の厚さが20μm未満であると、オゾンと触媒との反応が十分に起こらずに、オゾン濃度計に使用した場合にオゾン濃度を正確に測定することが困難になるおそれがある。一方、500μm超であると、基材と触媒(触媒層)との密着力(または触媒が基材に付着する力(付着力))が低下するため、触媒層が脱落するおそれがある。即ち、触媒層はスラリー状の触媒を塗布することによって形成することができるが、スラリー状の触媒が塗布後に乾燥することに伴って触媒に割れ等が生じるため、触媒層が脱落するおそれがある。
【0057】
なお、触媒は、基材の表面の少なくとも一部に担持されていればよいが、基材の表面の全部に担持されることが好ましい。なお、上記基材表面に限らず第2感知部の表面上に触媒が担持されてもよい。このように第2感知部上にも触媒を担持させると、第2感知部上においてもオゾンと触媒との反応が起こり、熱が発生するため、オゾン濃度をより正確に測定することができる。
【0058】
上記のように説明した発明は、第1感知部の温度と第2感知部の温度との差に起因して第1感知部と第2感知部とに発生する起電力から、これらの差を算出するもの(熱電対)に関する発明であるが、オゾン濃度計においては、第1感知部と第2感知部の電気的特性(例えば、抵抗値)の差を算出可能なもの(例えばサーミスターなど)を、熱伝対の代わりとして使用することができる。
【0059】
[2]熱電対具備部材:
本発明の熱電対具備部材の一の実施形態は、図9に示す熱電対具備部材20のように、オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路25、及び、貫通路25に連通する熱電対配設路27を有する外装部材29と、熱電対配設路27に、第1感知部6と第2感知部8とが貫通路25内に位置するように配設された熱電対1Aと、を備えるものである。このような熱電対具備部材20を用いれば、「オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路25、及び、貫通路25に連通する熱電対配設路27を有する外装部材29と、熱電対配設路27に、第1感知部6と第2感知部8とが貫通路25内に位置するように配設された熱電対1Aと、を備える」ため、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なオゾン濃度計を得ることができる。熱電対具備部材20においては、熱電対配設路27が熱電対1Aによって塞がれており、試料ガスが熱電対配設路27に流れないようになっている。
【0060】
[2−1]外装部材:
貫通路は、図9に示すような貫通路25のように、中心軸が直線状に延びる流路であり、試料ガスが貫通路25の一方の開口25aから流入し、貫通路25内を直進して、他方の開口25bから流出するものであることが好ましい。このように中心軸が直線状に延びる流路であると、貫通路25内で試料ガスの流れが滞るという不具合が生じ難くなる。そのため、昇温した基材5の熱が試料ガスに伝達されてしまうことを防止でき、より正確な温度測定が可能になる。即ち、第1感知部6及び第2感知部8においてオゾン濃度に起因した正確な起電力を発生させることが可能になる。従って、オゾン濃度を精度良く測定できる。
【0061】
図9に示す熱電対具備部材20は、熱電対1Aの第1感知部6と第2感知部8とが、外装部材29の貫通路25の一方の開口25aからの、貫通路25の延びる方向における距離D2が同じになるように並列に配置されている。即ち、第1感知部6と第2感知部8とが、図9中、紙面の上下方向に並んで配置されている。そのため、試料ガスが、第1感知部6と第2感知部8とに接触するタイミングが同時になるため、試料ガス温度とオゾンにより昇温された温度とを更に良好に測定することができる。
【0062】
本発明の熱電対具備部材は、図10に示す熱電対具備部材120のように、熱電対1Fの第1感知部6の方が、第2感知部8に比べて、外装部材29の貫通路25の試験ガスの流入口である一方の開口25aに近くなるように配置されている(第1感知部6が上流側に配置され、第2感知部8が下流側に配置されている)ことも好ましい。このような熱電対1F(熱電対具備部材120)は、第1感知部6が基材5の熱による影響を受け難い。即ち、発熱した基材5の熱が第1感知部6及び第1感知部6の周辺を流れる試料ガスに及ばない。そのため、より正確なオゾン濃度の測定が可能になる。図10に示す熱電対具備部材120は、第1感知部6が上流側に配置され、第2感知部8が下流側に配置されていること以外は、図9に示す熱電対具備部材20と同様の構成を有している。
【0063】
図11は、熱伝対の第1感知部が上流側に配置され、第2感知部が下流側に配置される別の形態を示している。そして、図11に示す熱電対具備部材220は、外装部材29の貫通路25が屈曲(例えば、への字に屈曲)している例である。このとき、屈曲する角度(屈曲する前の流路(試料ガスの流入口側に位置する流路)25xが延びる方向と屈曲した後の流路25yが延びる方向とがなす角度)は、特に限定されないが、例えば、図11に示すように90°とすることができる。そして、図11に示す熱電対具備部材220においては、線熱電対配設路27は、貫通路25が屈曲した部分(屈曲部)から、貫通路25の、試料ガスの流入口側に位置する流路25xを、上記流路25xの延びる方向に延長させた流路として形成されている。熱電対配設路27には、熱電対1Gが配設され、更に、第1感知部6が試料ガスの流れの上流側、第2感知部8が下流側に位置するように貫通路25中に配置されている。図11は、本発明の熱電対具備部材の更に他の実施形態を模式的に示す一部断面図である。このような熱電対具備部材220は、第1感知部6が基材5の熱による影響を受け難く、更に図10に示す熱電対具備部材120に比べて、小さくすることができる。
【0064】
外装部材29の貫通路25の内径は、試料ガスを通過させることができる限り特に制限はないが、2〜40mmであることが好ましい。また、熱電対配設路27の内径は、本発明の熱電対を配設可能な大きさであれば特に制限はないが、2〜40mmであることが好ましい。
【0065】
外装部材の材質としては、例えば、ステンレス鋼などの金属、塩化ビニル樹脂、ポリポリエチレン樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂、アルミナ、ムライトなどのセラミックなどを挙げることができる。これらの中でも、耐オゾン性が優れるため、テフロン(登録商標)が好ましい。
【0066】
[3]オゾン濃度計:
本発明のオゾン濃度計の一の実施形態は、図9に示すオゾン濃度計10Aのように、熱電対具備部材20と、熱電対1Aの第1感知部6と第2感知部8との電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部13と、を備えるものである。このようなオゾン濃度計10Aは、「熱電対具備部材20と、熱電対1Aの第1の素線15aと第3の素線15cとの電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部13と、を備える」ため、応答速度が速く、構成部品数が少なく簡単な構成からなり、オゾン濃度を継続的かつ良好に測定することが可能なものである。
【0067】
なお、オゾン濃度測定に際しては、試料ガスの流量を一定に保つことが好ましい。試料ガスの流量が変動することにより、第1感知部、第2感知部、及び基材の温度がそれぞれ変動する。このとき、温度の変動の割合は、第1感知部、第2感知部、及び基材(特に、感知部と基材)においてそれぞれ異なる。そのため、正確な温度測定が困難になることに起因して正確なオゾン濃度の測定ができなくなるおそれがある。
【0068】
[3−1]オゾン濃度計測部:
本発明のオゾン濃度計は、図9に示すオゾン濃度計10Aのように、熱電対の第1の素線15aと第3の素線15cとの電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部13を備えることが好ましい。図9において、オゾン濃度計測部13には、熱電対1Aの接続端子16が接続されている。なお、オゾン濃度計測部13に代えて、電位差から温度を算出する温度測定部を用いてもよい。この場合には、温度測定部に表示された温度をオゾン濃度に換算すること(換算部を備えること)が好ましい。また、オゾン濃度計測部13に代えて、オゾン濃度制御機を用い、熱電対の第1の素線15aと第3の素線15cとの電位差(第1感知部6で発生した起電力と第2感知部8で発生した起電力との差)を直接、オゾン濃度制御機に制御信号として送信してもよい。
【0069】
[4]オゾン濃度計の製造方法:
次に、本発明のオゾン濃度計の製造方法について、図9に示すオゾン濃度計10Aを製造する方法に基づいて説明する。
【0070】
まず、一方の先端部に接続端子16が配設された同じ材質からなる第1の素線15a及び第3の素線15cと、第1の素線15a及び第3の素線15cとは異なる材質からなる第2の素線15bを用意し、第3の素線15cの他方の先端部と第2の素線15bの一方の先端部をスポット溶接して溶接部分(第1感知部6)を形成する。次に、第1の素線15aの他方の先端部と第2の素線15bの他方の先端部、及び、予め表面に触媒が担持されたステンレス鋼からなる網状の基材5をスポット溶接して溶接部分(第2感知部8)を形成する。このとき、2つの溶接部分(第1感知部6と第2感知部8)の間の長さLが1〜20mmとなるようにする。その後、基材5をZ字状をなすように折り曲げる。次に、第1の素線15a及び第3の素線15cを合成樹脂製の支持部17により支持(固定)する。このようにして、熱電対1Aを作製する。なお、表面に触媒が担持された基材5は、オゾンを分解可能な触媒を有するスラリーを調製した後、触媒担持前の網状の基材の全部を上記スラリーに浸漬することによって作製することができる。
【0071】
次に、オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路25、及び、この貫通路25に連通する熱電対配設路27が形成されたテフロン(登録商標)製の外装部材29を用意し、この外装部材29の熱電対配設路27に、先端部側(第1感知部6と第2感知部8が形成された側)から熱電対1Aを挿入する。そして、第1感知部6と第2感知部8とが貫通路25内に位置したところで熱電対1Aの挿入を停止する。このとき、第1感知部6と第2感知部8とが貫通路25の中央部(貫通路25の延びる方向に直交する断面における中央部)に位置するように熱電対1Aを配設することが好ましい。次に、熱電対配設路27の内周壁と熱電対1A(特に、熱電対1Aの支持部17)との間に隙間がある場合には、封止剤などにより上記隙間を埋めることにより、熱電対配設路27を塞ぐ。このようにして、熱電対具備部材20を作製する。なお、熱電対配設路27の内径と支持部17の外径を同じにしておくことにより、上記封止剤を使用することなく熱電対配設路27を塞ぐことができる。次に、熱電対1Aの接続端子16をオゾン濃度計測部13に接続する。このようにして、オゾン濃度計10Aを作製する。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
まず、熱電対の材料の第1の素線及び第3の素線として2本のクロメル材、第2の素線としてアルメル材(部材長さ10mm)、基材として縦4mm×横12mmの平板状で網状のステンレス鋼(SUS304(目開き500μm、厚さ(細線径)630μm))を用いた。なお、基材としては、表面の全部に酸化マンガン触媒を担持させたものを用いた。このような基材(触媒が担持された基材)は、酸化マンガン触媒(カロライト)の粉末に水を添加してスラリーを調製し、調製したスラリーを基材に塗布して作製した。
【0074】
次に、1本のクロメル材(第1の素線)の一方の先端部とアルメル材(第2の素線)の一方の先端部とをスポット溶接して直径0.32mmの溶接部分(第1感知部)を形成した。次に、別のクロメル材(第3の素線)の一方の先端部とアルメル材(第2の素線)の他方の先端部をスポット溶接して直径0.32mmの溶接部分(第2感知部)を形成した。このとき、上記溶接部分(第2感知部)に上記基材も接合した(接合位置は、基材の中央部分とした)。次に、上記基材を前後に三つ折りにしてZ字状にした。このようにして、熱電対(K熱電対)を作製した。なお、第1の素線及び第3の素線の他方の先端部には、接続端子が配設されている。
【0075】
次に、この熱電対を、第1の感知部と第2の感知部との距離L(図1参照)が5mmとなるようにテフロン(登録商標)製のT型の継ぎ手(外装部材)の熱電対配設路に挿入し配設して熱電対具備部材を作製した(図9参照)。その後、熱電対の接続端子をオゾン濃度計測部に接続してオゾン濃度計を作製した(図9参照)。
【0076】
[オゾン濃度計の評価]
図12に示すオゾン濃度計評価装置30を用いて、本実施例のオゾン濃度計10Aの評価を行った。オゾン濃度計評価装置30は、図12に示すように、純度98%以上の酸素が充填された酸素供給源33と、オゾン発生装置35(小型オゾナイザ:メタウォーター社製(オゾン発生量能力1g/時間))と、紫外線オゾン濃度計37(エバラ社製(型番)「Model−600」)と、カロライトを有するオゾン分解処理塔39と、を備えている。更に、酸素供給源33とオゾン発生装置35との間に配置された酸素流量計41と、紫外線オゾン濃度計37と本実施例のオゾン濃度計10Aとの間に配置された2つのオゾン流量計43と、オゾン発生装置35と紫外線オゾン濃度計37との間には圧力計45と、を備えている。
【0077】
オゾン濃度計10Aの評価は、具体的には、以下のようにして行った。なお、オゾン濃度計の評価については全てオゾン濃度計測部に代えて、温度計測部(富士電機社製の「PXR4(型番)」)を熱電対に接続して評価を行った。即ち、上記温度計測部により温度を計測し、この温度からオゾン濃度を算出して評価を行った。
【0078】
まず、酸素供給源33からオゾン発生装置35に酸素を2L/分の流量で供給した。そして、供給された酸素を原料にしてオゾン発生装置35においてオゾンを発生させた(発生量:1g/時間、流量:1L/分)。なお、発生させたオゾンの濃度は、紫外線オゾン濃度計37でも測定した。
【0079】
上記評価結果を図13に示す。図13は、実施例1のオゾン濃度計を用いたときのオゾン濃度と感知温度との関係を示すグラフである。なお、図13では、測定を2度行い、2度の測定の結果を示している。
【0080】
また、以下の評価(感知応答性の評価)を行った。まず、オゾン濃度0g/Nmのガスをオゾン濃度計に供給した。その後、順次オゾン濃度を高くして最終的にオゾン濃度30g/Nmのガス(オゾン)を上記オゾン濃度計に供給し、その後、オゾン濃度0g/Nmのガスを供給した。このようにして、供給する試料ガス中のオゾン濃度と、第1感知部と第2感知部との温度差(温度計測部に表示される温度)との経時変化を測定した。
【0081】
上記評価結果を図14に示す。図14は、試料ガス中のオゾン濃度の経時変化と本実施例のオゾン濃度計で測定される温度差(第1感知部と第2感知部との温度の差)を示すグラフである。オゾン濃度の変化に対する温度差の変化の遅れは2分以内であることが確認できた。即ち、本実施例の熱電対は、第1感知部と第2感知部とが近接しているため、図14に示すように、供給した試料ガス中のオゾンの濃度変化に追従して、感知される温度(第1感知部と第2感知部との温度差)が良好に変化した。
【0082】
(比較例1)
図12に示すオゾン濃度計評価装置30におけるオゾン濃度計10Aを、図15に示すオゾン濃度計100に置き換えたこと以外は、実施例1と同様に、「感知応答性の評価」を行った。オゾン濃度計100は、熱電対(K熱電対)101aを備える熱電対具備部材101と熱電対(K熱電対)201aを備える熱電対具備部材201とを直列に接続し、上流側に熱電対(K熱電対)101a(熱電対具備部材101)を配置し、下流側に熱電対(K熱電対)201a(熱電対具備部材201)を配置したものである(図15参照)。
【0083】
熱電対具備部材101は、実施例1と同様の外装部材を備え、この外装部材に熱電対101aが実施例1の熱電対と同様に配設されている。熱電対101aは、クロメル材とアルメル材とをスポット溶接して直径0.32mmの溶接部分(感知部106)を形成し、支持部である直径8mmの外管117(テフロン(登録商標)製)により支持させたものである。
【0084】
熱電対具備部材201は、熱電対101aに代えて熱電対201aを有すること以外、熱電対具備部材101と同様の構成を有している。熱電対201aは、クロメル材215aとアルメル材215bとをスポット溶接して直径0.32mmの溶接部分(感知部206)を形成し、かつ、この溶接部分(感知部206)に実施例1の基材と同様の基材207を溶接し、その後、直径8mmの外管217(テフロン(登録商標)製)により支持させたものである。
【0085】
評価結果を図16に示す。図16に示すように、オゾン濃度の変化に対する温度差の変化の遅れ、即ち、熱電対101aにおける起電力と熱電対201aにおける起電力の差の変化の遅れは5分以上あった。図16は、試料ガス中のオゾン濃度の経時変化と比較例1のオゾン濃度計で測定される温度差の経時変化を示すグラフである。
【0086】
(実施例2)
実施例1のオゾン濃度計の温度計測部を、R熱電対(白金−ロジウム)用の温度計測部に代えたこと以外は、実施例1と同様のオゾン濃度計を作製した。
【0087】
R熱電対(白金−ロジウム)用の温度計測部を用いることにより、K熱電対(温度表示レンジ:0〜23℃)をR熱電対用の温度表示レンジ(0〜157℃)まで拡大して読み取ることができ、読み取り精度を向上させることができた。図17は、実施例2のオゾン濃度計を用いたときのオゾン濃度と温度差との関係を示すグラフである。
【0088】
実施例1,2及び比較例1から明らかなように、実施例1,2のオゾン濃度計は、本発明の熱電対を備えているため、比較例1のオゾン濃度に比べて、応答速度が速く(即ち、オゾン濃度の変化に対する温度差の変化の遅れが小さく追随性が良く)、継続的かつ良好に測定することが可能であることが確認できた。また、実施例1,2のオゾン濃度計は、比較例1のオゾン濃度計に比べて、構成部品数が少なく簡単な構成からなるものである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の熱電対及び熱電対具備部材は、オゾン濃度計を構成する部材として好適に用いることができる。本発明のオゾン濃度計は、オゾン発生装置(オゾナイザー)から発生したオゾンの濃度を測定するための装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,101a,201a:熱電対、3:貫通孔、4:細線、5,5a,5b,5c,207:基材、6:第1感知部、8:第2感知部、10A,100:オゾン濃度計、13:オゾン濃度計測部、14:温度計測部、15a:第1の素線、15b:第2の素線、15c:第3の素線、16:接続端子、17:支持部、19:パンチングプレート、20,101,120,201,220:熱電対具備部材、21:連結部、25,25x,25y:貫通路、25a:一方の開口、25b:他方の開口、27:熱電対配設路、29:外装部材、30:オゾン濃度計評価装置、33:酸素供給源、35:オゾン発生装置、37:紫外線オゾン濃度計、39:オゾン分解処理塔、41:酸素流量計、43:オゾン流量計、45:圧力計、106,206:感知部、117,217:外管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の素線と、前記第1の素線とは異なる材質からなる第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であり、オゾンを含む試料ガスの温度を感知する第1感知部と、
前記第1の素線と同じ材質からなる第3の素線と、前記第2の素線とを互いに溶接して形成された溶接部分であって、複数の貫通孔が形成されたシート状のものからなり表面に触媒が担持され、オゾン濃度に比例して昇温される金属製の基材が熱伝導可能に固定され、前記基材の温度を感知する第2感知部と、を有し、
前記第1感知部と前記第2感知部とが同一の先端部に形成されており、
前記第1感知部で発生した起電力と前記第2感知部で発生した起電力との差を、前記第1の素線と前記第3の素線との電位差として測定する熱電対。
【請求項2】
前記基材における複数の前記貫通孔が、細線によって区画形成されており、前記細線の太さが20〜400μmである請求項1に記載の熱電対。
【請求項3】
前記基材における目開きは、20〜600μmである請求項2に記載の熱電対。
【請求項4】
前記基材は、シートが折り曲げられてなるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱電対。
【請求項5】
前記基材を複数有し、複数の前記基材は、一の基材に平行になるように他の基材が配列された状態で、隣接する基材が、相互に連結されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱電対。
【請求項6】
前記基材が、ステンレス鋼からなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱電対。
【請求項7】
オゾンを含む試料ガスが流れる貫通路、及び、前記貫通路に連通する熱電対配設路を有する外装部材と、
前記熱電対配設路に、前記第1感知部と前記第2感知部とが前記貫通路内に位置するように配設された、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱電対と、を備える熱電対具備部材。
【請求項8】
請求項7に記載の熱電対具備部材と、前記熱電対の前記第1の素線と前記第3の素線との電位差からオゾン濃度を算出するオゾン濃度計測部と、を備えるオゾン濃度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−173007(P2012−173007A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32371(P2011−32371)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】