説明

熱電材料評価装置及び熱電特性評価方法

【課題】簡単で安価な装置構成であって、短時間で精度の高い測定結果が得られる熱電材料評価装置及び熱電特性評価方法を提供する。
【解決手段】熱電特性評価装置1は、測定試料Sの端面Seを第1電極14及び第2電極15で挟んで一対のブロック11で支持し、測定試料Sに温度勾配を形成し、開閉器18を開いた状態で電圧計16により測定された測定試料Sの熱起電力及び熱電対21、22により測定された測定試料Sの端面Seの温度差に基づいて測定試料Sの熱電能αを算出し、測定試料Sの熱起電力を発生させた後に開閉器18を閉じて放電し電圧計16により測定された測定試料Sの電圧降下ΔV及び電流計17により測定された電流値Iに基づいて測定試料Sの抵抗率ρを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料の熱電能及び抵抗率を評価するための熱電材料評価装置及び熱電特性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱電材料の熱電特性の評価方法として、図6に示す直流4端子法が一般的に用いられている。測定試料Sは、外部ヒータ131により一定温度に保たれた測定槽130内で上方の低温側電極ブロック111及びヒータ112が内蔵された下方の高温側電極ブロック111に端面Seを挟まれた状態でセットされる。高温側電極ブロック111の温度は、低温側電極ブロック111の温度より約10℃高く設定されており、測定試料Sには温度勾配の方向に熱起電力が発生している。測定試料Sの側面には熱電対121、122が距離Lを介して接触しており、この間の温度差ΔT(=T1−T2)と同熱電対を利用して電圧計116により電位差V1とが測定される。熱電能αは、これらの測定結果から次式により算出される。
【0003】
(数1)
α= V1/ΔT
【0004】
抵抗率ρは、低温側及び高温側電極ブロック111に接続された定電流電源140から供給された一定量の電流値Iと、距離Lを介して測定試料に接触する熱電対で検出された電位差V2に基づいて次式により算出される。ここで、Aは測定試料の断面積である。
【0005】
(数2)
ρ= V2・A/I/L
【0006】
例えば特許文献1、2などに、直流4端子法による熱電特性評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−57121号公報
【特許文献2】特開平7−324991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のような測定法には、以下に示す問題があった。
(1)抵抗率測定において、ペルチェ効果及びジュール熱による測定結果への影響を避けるために、短時間の通電を行う必要があり、例えば、パルス通電可能な高価な定電流電源などを使用しなければならならず、システムが複雑かつ高価となってしまう。
(2)熱電対による電圧測定において、熱電対と測定試料とは点接触であるため、測定試料表面の酸化膜の影響や材料組織の不均一性が測定結果に影響するおそれがある。
(3)温度変化による測定結果への影響を少なくするため、測定試料、電極ブロックを含む系内全体を均一加熱する必要があるが、温度が安定し測定を開始できるまでに時間がかかる。また、系内全体を均一加熱するため、熱容量が大きくなり、温度を変化させた測定を行う際に時間がかかる。
(4)温度測定、電圧測定では測定試料側面に熱電対を接触させるため、使用できる測定試料の長さは5mm程度が限界となる。近年、π型熱電発電モジュールの素子などの熱電特性評価の需要が増大しているが、これら材料の測定試料は寸法が小さく、例えば、2〜3mm長の測定試料を測定する必要があるため、直流4端子法では対応ができない。
【0009】
そこで、本発明は、簡単で安価な装置構成であって、短時間で精度の高い測定結果が得られる熱電材料評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、熱電特性評価装置は、測定試料に温度勾配を形成するために温度差を形成可能に構成された一対のブロックと、前記ブロックと測定試料の端面との間に挟まれて配置される一対の第1電極と、前記一対の第1電極と接続され、測定試料に生じる電圧を測定するための電圧測定手段と、前記第1電極と絶縁された状態で、前記ブロックと測定試料の端面との間に挟まれて配置される一対の第2電極と、前記一対の第2電極と接続され、測定試料に流れる電流を測定するための電流測定手段と、測定試料、前記一対の第2電極及び前記電流測定手段とからなる電流測定回路の開放及び接続の切り替えを行う開閉器と、測定試料の端面近傍の温度測定を行う測温手段と、前記開閉器を開いた状態で前記電圧測定手段により測定された測定試料の熱起電力及び前記測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて測定試料の熱電能を算出し、測定試料の熱起電力を発生させた後に前記開閉器を閉じて放電し前記電圧測定手段により測定された測定試料の電圧降下及び前記電流測定手段により測定された電流値に基づいて測定試料の抵抗率を算出する演算手段と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、測定試料の端面を第1電極及び第2電極で挟んで一対のブロックで支持し、測定試料に温度勾配を形成し、開閉器を開いた状態で電圧測定手段により測定された測定試料の熱起電力及び測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて測定試料の熱電能を算出し、測定試料の熱起電力を発生させた後に開閉器を閉じて放電し電圧測定手段により測定された測定試料の電圧降下及び電流測定手段により測定された電流値に基づいて測定試料の抵抗率を算出することができる。
抵抗率の測定では、測定試料の熱起電力を利用して開閉器を閉じることにより短時間で生じる放電を利用するため、パルス通電可能な定電流電源などを用いる必要がない。これにより、従来装置に比べ構成が簡単で安価な熱電特性評価装置により、精度の高い熱電能、抵抗率の測定を実現することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の熱電特性評価装置において、前記電流測定回路は、抵抗値が可変である可変抵抗器を備えた、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、電流測定回路は、抵抗値が可変である可変抵抗器を備えているので、可変抵抗器において異なる抵抗値を設定し、それぞれの設定において電流値及び電圧降下を測定し、各抵抗値に応じた電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出することができる。これによれば、電流測定回路の抵抗の影響をキャンセルできるとともに、各抵抗値に応じた複数個の電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出するため、個々の測定値が有する誤差を小さくすることができるので、抵抗率の高精度の測定を行うことができる。
また、測定試料の抵抗値が小さいと電圧降下が微小となり精度よく測定することが難しいが、可変抵抗器を用いて適当な抵抗値を設定することにより高精度の測定を行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の熱電特性評価装置において、前記測温手段は前記ブロックを貫通して測定試料の端面に接触して設けられている、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、測温手段はブロックを貫通して測定試料の端面に接触して設けられているため、直流4端子法では困難であった長さが短い測定試料の熱電特性評価を行うことができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置において、前記一対のブロックは、温度制御が可能な温調手段をそれぞれ内蔵している、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、一対のブロックは、温度制御が可能な温調手段をそれぞれ内蔵しているため、測定試料を短時間で測定温度に到達するように制御することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置を用い、測定試料の端面を前記第1電極及び前記第2電極で挟んで前記一対のブロックで支持し、測定試料に温度勾配を形成する工程と、前記測温手段により測定試料の端面の温度差を測定する工程と、前記開閉器により前記電流測定回路が開放された状態で、前記電圧測定手段により測定試料の熱起電力を測定する工程と、前記演算手段により前記熱起電力及び前記測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて熱電能を算出する工程と、前記開閉器により前記電流測定回路を開放された状態から接続された状態に切り替えて測定試料の熱起電力を放電し、前記電流測定手段により測定試料に流れる電流値を測定するとともに前記電圧測定手段により電圧降下を測定する工程と、前記演算手段により前記電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出する工程と、を備えた熱電特性評価方法、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、測定試料の端面を第1電極及び第2電極で挟んで一対のブロックで支持し、測定試料に温度勾配を形成し、開閉器を開いた状態で電圧測定手段により測定された測定試料の熱起電力及び測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて測定試料の熱電能を算出し、測定試料の熱起電力を発生させた後に開閉器を閉じて放電し電圧測定手段により測定された測定試料の電圧降下及び電流測定手段により測定された電流値に基づいて測定試料の抵抗率を算出することができる。
抵抗率の測定では、測定試料の熱起電力を利用して開閉器を閉じることにより短時間で生じる放電を利用するため、パルス通電可能な定電流電源などを用いる必要がない。これにより、従来装置に比べ構成が簡単で安価な熱電特性評価装置により、精度の高い熱電能、抵抗率の測定を実現することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の熱電特性評価方法において、請求項2ないし請求項4のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置であって、前記可変抵抗器を備えた熱電特性評価装置を用い、前記可変抵抗器において異なる抵抗値を設定し、それぞれの設定において電流値及び電圧降下を測定し、各抵抗値に応じた電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出する、という技術的手段を用いる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、可変抵抗器において異なる抵抗値を設定し、それぞれの設定において電流値及び電圧降下を測定し、各抵抗値に応じた電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出することができる。これによれば、電流測定回路の抵抗の影響をキャンセルすることができるとともに、各抵抗値に応じた複数個の電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出するため、個々の測定値が有する誤差を小さくすることができるので、抵抗率の高精度の測定を行うことができる。
また、測定試料の抵抗値が小さいと電圧降下が微小となり精度よく測定することが難しいが、可変抵抗器を用いて適当な抵抗値を設定することにより高精度の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の熱電特性評価装置の構成図である。
【図2】第1電極及び第2電極の配置を示す平面説明図である。
【図3】抵抗率の測定法の説明図である。
【図4】従来法と本発明の方法によりP型BiTeの熱電特性評価を行った結果を比較する説明図である。図4(A)は熱電能の測定結果、図4(B)は抵抗率の測定結果である。
【図5】従来法と本発明の方法によりN型BiTeの熱電特性評価を行った結果を比較する説明図である。図5(A)は熱電能の測定結果、図5(B)は抵抗率の測定結果である。
【図6】従来の熱電特性評価装置(直流4端子法)の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の熱電特性評価装置について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、熱電特性評価装置1は、測定試料Sに温度勾配を形成するために温度差を形成可能に構成された一対のブロック11(11a、11b)と、ブロック11と測定試料Sの端面との間に挟まれて配置される一対の第1電極14、14及び一対の第2電極15、15と、測定試料Sに生じる電圧を測定するための電圧計16と、測定試料Sに流れる電流を測定するための電流計17と、電流測定回路Kの開閉の切り替えを行う開閉器18と、測定試料Sの端面の温度測定を行う熱電対21、22と、測定試料の熱電能及び抵抗率を算出する、例えば、パーソナルコンピュータなどの演算装置40と、を備えている。
【0025】
ブロック11(11a、11b)は、高熱伝導材料、例えば、銅などの金属材料や窒化アルミニウムなどのセラミックス材料により略直方体形状に形成されている。図2に示すように、ブロック11の測定試料Sを挟み込む面は、測定試料Sの端面Seよりも大きく形成されており、ブロック11aとブロック11bとに挟まれて測定試料Sが支持されるようになっている。これにより、測定試料Sの端面Seの面内温度分布を均一にすることができ、より正確な測定が可能となる。測定試料Sの端面Seとブロック11との間には、ブロック11側から順に、絶縁層13、同一平面上に設けられる第1電極14及び第2電極15が介装される。
【0026】
ブロック11a、11bは、ヒータ、クーラーなどの温調手段12a、12bをそれぞれ備えており、所定の温度に制御可能に構成されている。これにより、測定試料Sを短時間で測定温度に到達するように制御することができる。本実施形態では、上方のブロック11aが高温側ブロック、下方のブロック11bが低温側ブロックとして使用される。
【0027】
ブロック11の鉛直方向の中央部には貫通孔11cが形成されており、熱電対21、22を挿通して測定試料Sの端面Seに接触させて温度を測定できるように構成されている。熱電対21、22は、演算装置40と接続されており、演算装置40に対し測定試料Sの端面Seの温度情報を出力する。ここで、熱電対21、22による測定試料Sの端面Seの温度に基づいて、ブロック11a、11bをそれぞれ温度制御することもできる。
【0028】
絶縁層13は、金属製のブロックを用いる場合に、第1電極14、14及び第2電極15、15とブロック11とを絶縁するために設けられる。絶縁層13は、熱抵抗を小さくするために、熱伝導性が良い材質で形成することが好ましい。例えば、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素などからなる。絶縁層13の厚みは熱抵抗を小さくするためにできる限り薄い方が好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。絶縁層13は、板状部材を用いても良いが、部材間の接触による熱抵抗を小さくするために、溶射、ペースト焼付けなど公知の方法によりブロック11と一体的に形成することがより好ましい。絶縁層13にも熱電対21、22を挿通可能な穴部が形成されている。絶縁層13は、ブロック11がセラミックス等の絶縁材料の場合は省略してもよい。
【0029】
第1電極14と第2電極15とは、導電性材料により層状または板状に形成されており、同一平面上に互いに絶縁された状態で設けられる。本実施形態では、第1電極14及び第2電極15と、図2に示すように、それぞれ矩形状に形成されており、貫通孔11cを避けて離間して配置されている。ここで、第1電極14と第2電極15との間隙は、測定試料Sの端面Seとの接触面積を増大させるために、絶縁に必要最小限な幅にするとよい。第1電極14及び第2電極15は、自らが熱起電力を発生するため、金、銅、銀などのゼーベック係数の小さい材料で形成することが好ましい。
【0030】
第1電極14及び第2電極15は、板状部材を用いてもよく、絶縁層13と一体的に形成してもよい。絶縁層13と一体的に形成する場合には、ペースト焼付け、溶射、拡散接合、めっきなど公知の方法を用いることができる。
更に、第1電極14及び第2電極15は、測定試料Sの端面Seに直接形成することもできる。
また、絶縁層13が不要の場合には、ブロック11と一体的に形成することができる。
【0031】
第1電極14及び第2電極15の測定試料Sと接する面は、平滑面とすることにより測定試料と十分な面接触させることができるため、酸化膜や材料組織不均一性などが測定結果に与える影響を小さくすることができる。例えば、算術平均粗さRa0.8μm以下の表面粗さと5μm以下の平面度にすることが好ましい。
【0032】
電圧計16は、第1電極14、14の間に設けられており、測定試料Sの端面Se間に生じる電圧を測定する。また、電圧計16は、演算装置40と接続されており、演算装置40に対し測定された電圧値を出力する。
【0033】
電流測定回路Kは、第2電極15、15により測定試料Sを挟み込み、電流計17及び可変抵抗器19が直列に接続されて構成されており、開閉器18により電流測定回路Kの開閉の切り替えを行うことができる。電流計17は、測定試料Sに流れる電流を測定する。電流計17は、演算装置40と接続されており、演算装置40に対し測定された電流値を出力する。
【0034】
演算装置40は、例えば、パーソナルコンピュータなどの記憶手段を備え演算可能な装置であり、電圧計16及び電流計17の測定値を記憶し、これら測定値に基づいて、測定試料Sの熱電能及び抵抗率を算出する。
【0035】
測定試料S、ブロック11、各電極などは、測定槽30の内部に収容されている。測定槽30は、槽内温度、雰囲気などの測定雰囲気制御が可能に構成されている。例えば、測定槽30内部を真空状態にすると、空気等の対流に起因する熱伝導の影響が除去され、より正確な熱電特性の測定が可能となる。
【0036】
以下に、上述の熱電特性評価装置1を用いた熱電特性評価方法について説明する。測定試料Sは、角柱や円柱などの柱状に形成されている。
【0037】
まず、ブロック11a、11bにより、測定試料Sの端面Seとの間に絶縁層13、第1電極14及び第2電極15を介装して、測定試料Sを支持する。そして、ブロック11a、11bの貫通孔11cに熱電対21、22をそれぞれ挿通して測定試料Sの端面Seに接触させる。熱電対21、22の先端の周辺は、ブロック11a、11bからの熱により一定温度に保たれるため、熱電対21、22による伝熱に起因する温度変化が小さく、測定試料Sの端面Seの温度を精度良く測定することができる。また、熱電対21、22を測定試料Sの端面Seに配置することにより直流4端子法では困難であった5mm以下の長さの測定試料Sの熱電特性評価が可能となる。
【0038】
このとき、開閉器18は開いており、電流測定回路Kは開放された状態である。
【0039】
次に、ブロック11a、11bをそれぞれ所定の温度に制御し、測定試料Sに温度勾配を生じさせる。ここで、高温側のブロック11bは、低温側のブロック11aより5〜30℃程度高く設定する。ここで、測定された熱電能、抵抗率は、低温側温度T1及び高温側温度T2の平均値(T1+T2)/2
での値とするため、ブロック11a、11bの温度差は小さい方が真値に近くなるが、温度差が小さい程、電圧、電流の出力値が小さくなり測定誤差への影響が大きくなるため、測定試料Sの熱電特性に応じて適宜設定する。
【0040】
続いて、測定試料Sの端面Se間の熱起電力Vを第1電極14に接続された電圧計16により測定する。
測定された熱起電力Vは、演算装置40に出力され、演算装置40は、測定された電圧値Vに基づいて次式により熱電能αを算出する。
【0041】
(数3)
α= V/(T2−T1)
【0042】
続いて、可変抵抗器19により抵抗値を所定の値(例えば、Re:推定抵抗値)に設定した後に、開閉器18を閉じて電流測定回路Kを接続する。測定試料Sには熱起電力が発生しているので、電流測定回路Kに可変抵抗器19及び測定試料Sの抵抗値Rに見合った電流が流れる。電流測定回路Kに流れる電流値及び測定試料Sの電圧値の変化の一例を図4に示す。開閉器18を閉じると、測定試料Sから放電され電流測定回路Kに流れる電流値が急激に上昇し、可変抵抗器19及び測定試料Sの抵抗値に応じた電圧降下が生じる。電圧降下ΔVは、第1電極14に接続された電圧計16により測定され、そのときに測定試料Sに流れる電流値Iは、第2電極15に接続された電流計17により測定され、測定値はそれぞれ演算装置40に出力される。演算装置40では、抵抗値Rを算出するための電流値I及び電圧降下ΔVを算出する。電流値I及び電圧降下ΔVは、図4に示すように、時間変化が小さくなった状態の値を用い、電流及び電圧の時間変化の曲線より変曲点を外挿して求めると再現性が高く精度よく求めることができる。算出された電流値I及び電圧降下ΔVは、演算装置40の記憶手段に記憶される。
【0043】
測定試料Sの抵抗値測定の誤差要因として、測定試料Sが発生する電流によるペルチェ効果及びジュール熱による誤差が含まれる。これらの影響は測定試料Sの温度の時間変化に起因するが、本実施形態では、図4に示すように、短時間のデータ、例えば、500msec以内に測定される測定値に基づいて抵抗値を算出することができるので、これらの影響を最小限にすることができる。
【0044】
続いて、開閉器18を開いて電流測定回路Kを開放し、測定試料Sに起電力を発生させ、可変抵抗器19により抵抗値をReと異なる値、例えば、2Reに設定した後に、開閉器18を閉じて電流測定回路Kを接続し、前述と同様に電圧降下ΔV及び電流値Iを測定する。可変抵抗器19における抵抗値は、測定試料Sの熱電特性にあわせて適宜設定することができる。例えば、測定条件を5条件とする場合には、可変抵抗器19における抵抗値は、4Re、3Re、2Re、Re、0(短絡) に設定することができる。
【0045】
可変抵抗器19における抵抗値を変化させることにより、測定される電圧降下ΔV及び電流値Iが変化する。これらの値は比例関係にあり、その傾きが測定試料Sの抵抗値Rとなる。測定試料の抵抗値Rは、演算装置40により、電圧降下ΔVと電流値Iとを最小自乗法にて直線近似した場合の傾きの値を用い、次式により算出する。
【0046】
【数4】

【0047】
抵抗率ρは、上式で計算された抵抗値Rと測定試料の断面積A、長さLから演算装置40において次式により算出される。
【0048】
(数5)
ρ= R・A/L
【0049】
可変抵抗器19を用いた測定では、電流測定回路Kの抵抗の影響をキャンセルし、また、個々の測定値が有する誤差を最小自乗法により小さくすることができるので、抵抗率ρの高精度の測定を行うことができる。
また、測定試料Sの抵抗値Rが小さいと電圧降下ΔVが微小となり精度よく測定することが難しいが、可変抵抗器19を用いて適当な抵抗値を設定することにより高精度の測定を行うことができる。
【0050】
(実施例)
本発明の熱電特性評価装置1による熱電材料の熱電特性評価結果を、従来の直流4端子法を比較法とした熱電特性評価結果と比較した。
【0051】
測定試料は、端面形状が4mm×4mmの正方形、高さが6mmの角柱状試験片に形成されたP型BiTe及びN型BiTeを用いた。
比較法としては、直流4端子法を用い、熱電対の距離は3mm、測定試料の端面の温度差ΔTは10℃とした。
本発明による測定では、ΔTは5〜30℃とし、可変抵抗器19はレンジオーダー10mΩとし、測定水準を3水準とした。
【0052】
P型BiTeの熱電特性測定結果を図4に、N型BiTeの熱電特性測定結果を図5にそれぞれ示す。熱電能、抵抗率ともに本発明による測定値は、比較法による測定値とよい一致を示し、本発明の熱電測定評価方法によっても、精度のよい測定が可能であることが確認された。
【0053】
[実施形態の効果]
(1)上述のように、本発明の熱電特性評価装置1によれば、測定試料Sの端面Seを第1電極14及び第2電極15で挟んで一対のブロック11で支持し、測定試料Sに温度勾配を形成し、開閉器18を開いた状態で電圧計16により測定された測定試料Sの熱起電力及び熱電対21、22により測定された測定試料Sの端面Seの温度差に基づいて測定試料Sの熱電能αを算出し、測定試料Sの熱起電力を発生させた後に開閉器18を閉じて放電し電圧計16により測定された測定試料Sの電圧降下ΔV及び電流計17により測定された電流値Iに基づいて測定試料Sの抵抗率ρを算出することができる。
抵抗率ρの測定では、測定試料Sの熱起電力を利用して開閉器18を閉じることにより短時間で生じる放電を利用するため、パルス通電可能な定電流電源などを用いる必要がない。これにより、従来装置に比べ構成が簡単で安価な熱電特性評価装置1により、精度の高い熱電能、抵抗率の測定を実現することができる。
また、第1電極14及び第2電極15は測定試料Sの端面Seと面接触させることができるため、酸化膜や材料組織不均一性などが測定結果に与える影響を小さくすることができる。
【0054】
(2)可変抵抗器19を用いた測定では、電流測定回路Kの抵抗の影響をキャンセルし、また、個々の測定値が有する誤差を最小自乗法により小さくすることができるので、抵抗率ρの高精度の測定を行うことができる。
また、測定試料Sの抵抗値Rが小さいと電圧降下ΔVが微小となり精度よく測定することが難しいが、可変抵抗器19を用いて適当な抵抗値を設定することにより高精度の測定を行うことができる。
【0055】
(3)熱電対21、22は、それぞれブロック11a、11bの貫通孔11cに挿通されて測定試料Sの端面Seに接触して設けられているため、直流4端子法では困難であった長さが短い測定試料の熱電特性評価を行うことができる。
【0056】
(4)ブロック11a、11bが温調手段12a、12bをそれぞれ備えているので、測定試料Sを短時間で測定温度に到達するように制御することができる。
【0057】
[その他の実施形態]
上述の実施形態では、可変抵抗器19を備えた構成を採用したが、これに限定されるものではない。電流測定回路Kの抵抗が電圧降下ΔV及び電流値Iの測定精度に大きな影響を及ぼさない程度であれば、可変抵抗器19を用いずに電圧降下ΔV及び電流値Iを測定し、直接抵抗値Rを算出してもよい。また、測温手段として、熱電対21、22を用いたが、貫通孔11cを利用して放射温度計などの非接触温度計を用いることもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 熱電特性評価装置
11、11a、11b ブロック
11c 貫通孔
12a 温調手段
13 絶縁層
14 第1電極、
15 第2電極
16 電圧計(電圧測定手段)
17 電流計(電流測定手段)
18 開閉器
19 可変抵抗器
21、22 熱電対(測温手段)
30 測定槽
40 演算装置(演算手段)
K 電流測定回路
S 測定試料
Se 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料に温度勾配を形成するために温度差を形成可能に構成された一対のブロックと、
前記ブロックと測定試料の端面との間に挟まれて配置される一対の第1電極と、
前記一対の第1電極と接続され、測定試料に生じる電圧を測定するための電圧測定手段と、
前記第1電極と絶縁された状態で、前記ブロックと測定試料の端面との間に挟まれて配置される一対の第2電極と、
前記一対の第2電極と接続され、測定試料に流れる電流を測定するための電流測定手段と、
測定試料、前記一対の第2電極及び前記電流測定手段とからなる電流測定回路の開放及び接続の切り替えを行う開閉器と、
測定試料の端面近傍の温度測定を行う測温手段と、
前記開閉器を開いた状態で前記電圧測定手段により測定された測定試料の熱起電力及び前記測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて測定試料の熱電能を算出し、測定試料の熱起電力を発生させた後に前記開閉器を閉じて放電し前記電圧測定手段により測定された測定試料の電圧降下及び前記電流測定手段により測定された電流値に基づいて測定試料の抵抗率を算出する演算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱電特性評価装置。
【請求項2】
前記電流測定回路は、抵抗値が可変である可変抵抗器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱電特性評価装置。
【請求項3】
前記測温手段は前記ブロックを貫通して測定試料の端面に接触して設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱電特性評価装置。
【請求項4】
前記一対のブロックは、温度制御が可能な温調手段をそれぞれ内蔵していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置を用い、
測定試料の端面を前記第1電極及び前記第2電極で挟んで前記一対のブロックで支持し、測定試料に温度勾配を形成する工程と、
前記測温手段により測定試料の端面の温度差を測定する工程と、
前記開閉器により前記電流測定回路が開放された状態で、前記電圧測定手段により測定試料の熱起電力を測定する工程と、
前記演算手段により前記熱起電力及び前記測温手段により測定された測定試料の端面の温度差に基づいて熱電能を算出する工程と、
前記開閉器により前記電流測定回路を開放された状態から接続された状態に切り替えて測定試料の熱起電力を放電し、前記電流測定手段により測定試料に流れる電流値を測定するとともに前記電圧測定手段により電圧降下を測定する工程と、
前記演算手段により前記電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする熱電特性評価方法。
【請求項6】
請求項2ないし請求項4のいずれか1つに記載の熱電特性評価装置であって、前記可変抵抗器を備えた熱電特性評価装置を用い、
前記可変抵抗器において異なる抵抗値を設定し、それぞれの設定において電流値及び電圧降下を測定し、各抵抗値に応じた電流値及び電圧降下に基づいて抵抗率を算出することを特徴とする請求項5に記載の熱電特性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−185697(P2011−185697A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50320(P2010−50320)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】