説明

熱電素子のための保護管

【課題】ガスタービン中、高温の酸化雰囲気で使用することができ、高い酸化抵抗性ならびに高いクリープ破壊強さおよび高い熱衝撃抵抗性を有する熱電素子のための保護管を提供する。
【解決手段】該保護管は、以下の化学組成(記載は質量%):Cr 7.7〜8.3、Co 5.0〜5.25、Mo 2.0〜2.1、W 7.8〜8.3、Ta 5.8〜6.1、Al 4.9〜5.1、Ti 1.3〜1.4、Si 0.11〜0.15、Hf 0.11〜0.15、C 200〜750ppm、B 50〜400ppm、残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物、を有する単結晶ニッケル基超合金から製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、約1100℃の範囲の極めて高い温度で酸化雰囲気に曝される熱電素子のための保護管に関する。このような過酷な使用条件はたとえばガスタービン中での温度測定の際に生じる。
【背景技術】
【0002】
従来技術から公知の出願人によるGT24/GT26タイプのガスタービンは、二段燃焼法の原理に従って運転される。この場合、第一の燃焼室中で生じた高温ガスは、第一のタービンに衝突し、その際、この第一のタービンから排出される排ガスは、引き続き第二の燃焼室で再度、後処理されて高温ガスとなり、次いで該ガスは第二のタービンに衝突する。この場合、第二の燃焼室は、自己点火が可能であるように設計されている、つまり第一のタービンからの排ガスの温度は、ここで噴射される燃料との関連で自己点火を可能にしなくてはならない。この理由から、ガス流の温度制御および温度測定が必要である。このために、出願人は、保護管(熱電対のためのジャケット)を備えており、この保護管がODS(酸化物分散強化された(oxide-dispersion-strengthened))材料PM2000からなっている熱電素子を使用している。
【0003】
PM2000は、以下の標準化学組成(質量%):Cr 20.0、Al 5.5、Ti 0.5、Y23 0.5(酸化物分散物の形での添加)、残分鉄、を有する鉄基フェライトODS合金である。
【0004】
この金属材料の使用温度は約1350℃にまで達する。該材料は、セラミック材料に典型的な特性ポテンシャル、たとえば極めて高い温度における極めて高いクリープ破壊強さ、およびさらにはAl23保護膜の形成による優れた高温酸化抵抗性、ならびに硫化および水蒸気酸化腐食に対する高い抵抗性を有する。該材料は著しく顕著な、方向に依存した特性を有している。たとえば管において、横方向でのクリープ強さは、長軸方向でのクリープ強さの約50%にすぎない。
【0005】
このようなODS合金(前記の合金PM2000以外にここではたとえば合金MA956が挙げられる)の製造は、粉末冶金法で、公知の方法、たとえば押出成形法により、または熱間等静圧圧縮成形法により圧縮される、機械的に合金化される粉末混合物を使用して行われる。引き続き成形体を強力に、多くの場合、熱間圧延により塑性変形し、かつ再結晶化のために焼き鈍し処理に供する。このような製造、あるいはまた記載の材料組成は特に、これらの合金が極めて高価であり、かつ異方性の特性を有するために不利であることを意味している。
【0006】
さらに、約1050℃までの高温下で使用するための熱電対との関連におけるジャケット材料として、以下の化学組成(質量%):C 最大で0.10、Si 最大で0.50、Mn 最大で1.00、P 最大で0.02、S 最大で0.015、Cr 最大で14.00〜17.00、Fe 最大で6.00〜10.00、Ti 最大で0.30、Cu 最大で0.50、Al 最大で0.30、残分Ni、を有する、公知の高耐熱性ニッケル基合金であるインコネル600(材料番号2.4816、NiCr15Fe)を使用することが従来技術となっている。たしかにこの多結晶材料は、高いニッケル含有率に基づいて約1050℃までの良好な酸化安定性および応力亀裂腐食に対する良好な抵抗性を有しているが、クリープ破壊強さはなお改善の余地がある。残念ながらこの多結晶材料の熱衝撃抵抗性にも同じことが該当する。
【0007】
ガスタービンにおける単結晶部材を製造するために、この数年で、現代のガスタービンの使用条件に対する高い要求をかなえる特殊なニッケル基超合金が開発されている。これらの単結晶ニッケル基超合金は従来、主としてガスタービン羽根を製造するために使用されている。
【0008】
EP1359231B1からはたとえば、良好な注型性および高い酸化抵抗性により優れており、かつガスタービン中の単結晶部材または配向硬化した部材、たとえばガスタービン羽根を製造するために適切なニッケル基合金が公知である。この合金は、以下の化学組成を有する(記載は質量%):Cr 7.7〜8.3、Co 5.0〜5.25、Mo 2.0〜2.1、W 7.8〜8.3、Ta 5.8〜6.1、Al 4.9〜5.1、Ti 1.3〜1.4、Si 0.11〜0.15、Hf 0.11〜0.15、C 200〜750ppm、B 50〜400ppm、残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP1359231B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術の前記の欠点を回避することである。本発明の根底には、熱電素子のための保護管を製造するために適切な材料であって、ガスタービン中で約1200℃の極めて高い温度において酸化雰囲気に問題なく曝すことができる材料を見出すという課題が存在する。該保護管は一方では、約1200℃で十分な、可能な限り高い酸化抵抗性を有しているべきであり、他方、高いクリープ破壊強さおよび高い熱衝撃抵抗性を有しているべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は本発明により、従来技術から公知の単結晶ニッケル基超合金から保護管を製造することによって解決される。この合金から製造される熱電対用保護管は、一方では高い使用温度での十分なクリープ破壊強さを有し、他方では良好な熱衝撃抵抗性を有している。というのも、多結晶材料と比較して、使用される単結晶合金の場合、欠陥箇所としての粒界および亀裂のための出発点が存在しないからである。これはガスタービン中での使用の際に重要な要因である。というのも、ここではたとえばガスタービンを停止した時に、装置の継続運転と比較して大きな温度差が生じるからである。
【0012】
有利には、熱電素子の保護管は、以下の化学組成を有する合金からなる(記載は質量%):Cr 7.7〜8.3、Co 5.0〜5.25、Mo 2.0〜2.1、W 7.8〜8.3、Ta 5.8〜6.1、Al 4.9〜5.1、Ti 1.3〜1.4、Si 0.11〜0.15、Hf 0.11〜0.15、C 200〜750ppm、B 50〜400ppm、残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物。特に有利には以下の化学組成を有する合金からなる(記載は質量%):Cr 7.7、Co 5.1、Mo 2.0、W 7.8、Ta 5.8、Al 5.0、Ti 1.4、Si 0.12、Hf 0.12、C 200ppm、B 50ppm、残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物。EP1359231B1から公知の合金は、前記の高い温度において極めて良好な強度との関連で良好な酸化抵抗性によって優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】熱電素子のための保護管の断面を示す図
【図2】保護管のための材料として使用される種々の合金に関する温度に依存した降伏強さを記載するグラフを示す図
【図3】保護管のための材料として使用される種々の合金に関する時間に依存した、1050℃での擬似等温酸化質量(quasi-isothermal oxidation weight)の変化を記載するグラフを示す図
【実施例】
【0014】
図面には本発明の実施例が記載されている。以下では実施例および図面に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0015】
図1は、出願人が二段燃焼法でのガスタービン中でのガス流の温度測定のために使用している熱電素子のための保護管(熱電対のためのジャケット)の断面を略図で示している。従来このような保護管は、粉末冶金学的な方法で、従来技術から公知のODS FeCrAl比較合金PM2000から製造されていた。
【0016】
本発明によれば該保護管は今後、種々の単結晶ニッケル基超合金から製造され、かつ酸化挙動および機械的特性に関して1100℃までの温度で試験を行った。
【0017】
第1表には、試験した合金のそのつどの化学組成が記載されており、ここで合金成分は質量%もしくは特別な記載がなされている箇所ではppmで記載されている:
【表1】

【0018】
図1は、たとえば出願人が使用している熱電素子のための保護管(1)の断面を示している。
【0019】
図2には、熱電素子のためのこのような保護管のために使用される種々の材料に関する降伏強さの、温度に依存した推移が記載されている。室温から1100℃までの全ての試験された範囲で、合金A(単結晶ニッケル基超合金)の降伏強さは、鉄基の両方のODS合金(MA956およびPM2000)と比較して実質的により高い。
【0020】
降伏強さは室温ではほぼ2倍の高さである一方、1000℃では約4倍である。
【0021】
単結晶ニッケル基超合金は、極めて良好な熱衝撃抵抗性を有している。というのも、該合金は、微細構造中に欠陥箇所としての粒界を有していないからであり、このことは予定されている使用目的にとって大きな利点である。
【0022】
合金Aの試験体による引張試験から以下の結果が生じた:
950℃で引張強さは830MPaであり、他方、降伏強さは624MPaである。伸び率は28%である。これらの機械的特性は、ガスタービン中で1050〜1100℃でのガス流の負荷に耐えるために十分である。
【0023】
図3には、保護管のための材料として使用される種々の合金に関する、1050℃での擬似等温酸化質量の、時間に依存した変化を読み取ることができるグラフが記載されている。従来技術から公知の単結晶ニッケル基超合金PWA1483、MK4HCおよび合金Aに関する、1000時間までの時効硬化時間での結果が記載されている。図3から、合金Aは、1050℃で1000時間の全期間にわたって、僅かな質量の変化を示すにすぎない、つまり極めて良好な酸化抵抗性を有することを読み取ることができ、このような酸化抵抗性はたしかにODS合金と比較すると低いが、しかし予定される使用目的にとっては十分である。合金PWA1483は、約500時間の時効硬化時間から、酸化抵抗性の顕著な低下を示すが、他方、合金MK4HCの場合、質量の変化は約600時間からも依然として穏やかである。
【0024】
要するに、二段燃焼法によるガスタービンのガス流中で温度測定のために使用される熱電素子のための保護管は、公知の単結晶ニッケル基超合金から製造することができ、かつ高温でもクリープ破壊強さ、熱衝撃抵抗性および酸化安定性に関して過酷な使用条件に十分に耐えることができるということができる。特にCr 7.7、Co 5.1、Mo 2.0、W 7.8、Ta 5.8、Al 5.0、Ti 1.4、Si 0.12、Hf 0.12、C 200ppm、B 50ppm、残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物の化学組成(記載は質量%)を有する合金Aは、この使用目的のために極めて良好な特性の組み合わせを示す。該合金はさらに、比較的容易に製造することができる。というのも、該合金は注型性が良好だからである。
【符号の説明】
【0025】
1 本発明による保護管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1100℃の範囲の温度で酸化雰囲気に曝される熱電素子のための保護管において、該保護管が単結晶ニッケル基超合金から製造されていることを特徴とする、熱電素子のための保護管。
【請求項2】
前記単結晶ニッケル基超合金が、以下の化学組成(記載は質量%):
Cr 7.7〜8.3
Co 5.0〜5.25
Mo 2.0〜2.1
W 7.8〜8.3
Ta 5.8〜6.1
Al 4.9〜5.1
Ti 1.3〜1.4
Si 0.11〜0.15
Hf 0.11〜0.15
C 200〜750ppm
B 50〜400ppm
残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物
を有することを特徴とする、請求項1記載の保護管。
【請求項3】
前記単結晶ニッケル基超合金が、以下の化学組成(記載は質量%):
Cr 7.7
Co 5.1
Mo 2.0
W 7.8
Ta 5.8
Al 5.0
Ti 1.4
Si 0.12
Hf 0.12
C 200ppm
B 50ppm
残分ニッケルおよび製造条件に基づいた不純物
を有することを特徴とする、請求項2記載の保護管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−31372(P2010−31372A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172795(P2009−172795)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】