説明

熱音響機関

【課題】熱交換効率が高い熱音響機関を提供する。
【解決手段】内管2と外管内壁3と外管外壁4と内側端壁5と外側端壁6とにより囲まれる閉じた作動流体用空間7が形成され、作動流体用空間7に作動流体が充填され、内管2の端部から軸方向に距離を隔てた箇所にて外管内壁3と外管外壁4との間に複数の内部フィン9が放射状に配置された加熱器10と、加熱器10から軸方向に距離を隔てた箇所にて外管内壁3と外管外壁4との間に複数の内部フィン11が放射状に配置された冷却器12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ型の熱音響機関に係り、熱交換効率が高い熱音響機関に関する。
【背景技術】
【0002】
廃熱からエネルギを取り出すためにスターリングエンジンの開発研究が活発に行われている。スターリングエンジンの形式には、α型、β型、γ型、フリーピストン型などがある。これに対し、最近では、米国などにおいて、構造が単純でピストンやクランクで構成された可動部を有さない熱音響機関の開発研究が活発に行われるようになった。
【0003】
熱音響機関は、管の軸方向に、高温熱源との熱交換を行う加熱器と、低温熱源との熱交換を行う冷却器と、これら加熱器と冷却器との間で温度勾配を保持する再生器とを配置して構成される。管内の作動流体をある場所で局部的に加熱し、別のある場所で冷却すると、熱エネルギの一部が力学的エネルギである音響エネルギに変換されて管内の作動流体が自励振動を起こし、管内に音響振動すなわち音波が発生する。この作用は、熱力学的には、プライムムーバ(原動機)と見ることができる。この原理で熱エネルギを力学的エネルギにエネルギ変換を行うものが熱音響機関である。
【0004】
図3に示されるように、従来のループ型の熱音響機関31は、ループ状に閉じられた中空円筒状の管32内に作動流体が充填され、作動流体に外部からの熱を取り込むためのフィンを有する加熱器33と作動流体から外部に熱を取り出すためのフィンを有する冷却器34とが管32の軸方向に間隔をあけて配置され、加熱器33と冷却器34の間に再生器35が配置されてなる。加熱器33と再生器35と冷却器34を合わせて原動機(プライムムーバ)36という。
【0005】
図4に示されるように、原動機36の加熱器33の内部には互いに平行な複数の内部フィン37が管32の軸に沿って並べられる。冷却器34も同様の構造である。この原動機36では、加熱器33において、外部の熱が加熱器33の外周から内部フィン37に伝導され、内部フィン37から作動流体に熱が放出される。冷却器34においては、加熱器33とは逆の熱交換が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101910号公報
【特許文献2】特開2003−324932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加熱器33や冷却器34において外部との熱交換効率を向上させるためには、外部に接する受熱面積を大きくすることが考えられる。具体的には、加熱器33や冷却器34においては管32の外周が外部に接しているので、管32の外周面積を大きくすることになる。外周面積を大きくするためには、管32径を大きくすることになる。
【0008】
ところが、加熱器33や冷却器34においては管32の径を大きくすると、外部に接する受熱面積は大きくなるが、内部フィン37における熱交換効率は低下する。なぜなら、図5に示されるように、従来の熱音響機関においては、加熱器33(冷却器34も同)内には、互いに平行な複数の内部フィン37が管の軸に沿って並べられる。このとき、並び方向の端の方に位置する内部フィン37aは断面幅方向の長さが短い。これに対し、並び方向中央付近に位置する内部フィン37bは断面幅方向の長さが長い。このように長い内部フィン37bは、断面幅方向中央付近において管32の外周からの距離が長いため熱が伝導しにくい。外部からの熱が内部フィン37に伝導しにくいということは、熱交換効率が低下するということであり、ある一定量の廃熱量に対して熱音響機関の出力が上げられず、あるいは、生じている廃熱がうまく吸収処理できないことになる。
【0009】
これを改善するには、内部フィン37の根本(管32との境界近傍)における肉厚を厚くすることが考えられるが、内部フィン37間の間隙を音波が抵抗なく通過するためには、内部フィン37の肉厚はできるだけ薄くさせる必要があるため、肉厚を厚くするという対策は採用できない。
【0010】
また、従来の熱音響機関においては、図5に示されるように、複数の内部フィン37は断面幅方向の長さが異なるため、長い内部フィン37bにおいて断面幅方向中央付近と管32の外周付近とで温度が異なり、あるいは長い内部フィン37bの断面幅方向中央付近と短い内部フィン37aとで温度が異なるため、同一断面における温度分布が均一でなくなる。
【0011】
また、従来の熱音響機関においては、内部フィン37の枚数をあまり増やすと内部フィン37の相互間隔が狭くなるため、内部フィン37の枚数は少ない。内部フィン37の枚数が少ないため、加熱器33(冷却器34)内で作動流体と内部フィン37が接する総面積が小さく、熱交換効率がよくない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、熱交換効率が高い熱音響機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、中空円筒状の内管と、前記内管から径方向に距離を隔てて前記内管を覆う外管内壁と、前記外管内壁から径方向に距離を隔てて前記外管内壁を覆う外管外壁と、前記内管の端部と前記外管内壁の端部との間を覆う内側端壁と、前記内側端壁から軸方向に距離を隔てて前記外管外壁の端部を覆う外側端壁とを備えることにより、前記内管と前記外管内壁と前記外管外壁と前記内側端壁と前記外側端壁とにより囲まれる閉じた作動流体用空間が形成され、前記作動流体用空間に作動流体が充填され、前記内管の端部から軸方向に距離を隔てた箇所にて前記外管内壁と前記外管外壁との間に複数の内部フィンが放射状に配置された加熱器と、前記加熱器から軸方向に距離を隔てた箇所にて前記外管内壁と前記外管外壁との間に複数の内部フィンが放射状に配置された冷却器と前記加熱器と前記冷却器との間に形成された再生器とを備えるものである。
【0014】
前記内管における軸に直角な断面の断面積と、前記外管内壁と前記外管外壁との間の部分における軸に直角な断面の断面積とが等しくてもよい。
【0015】
前記内管と前記外管内壁と前記内側端壁とにより囲まれる閉じた遮蔽用空間が形成されてもよい。
【0016】
前記遮蔽用空間が真空であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0018】
(1)熱交換効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を示す熱音響機関の側断面図である。
【図2】図1の熱音響機関の加熱器における横断面図である。
【図3】従来の熱音響機関の概略構成図である。
【図4】従来の熱音響機関の原動機部分における側断面図である。
【図5】従来の熱音響機関の加熱器における横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1に示されるように、本発明に係る熱音響機関1は、中空円筒状の内管2と、内管2から径方向に距離を隔てて内管2を覆う外管内壁3と、外管内壁3から径方向に距離を隔てて外管内壁3を覆う外管外壁4と、内管2の端部と外管内壁3の端部との間を覆う内側端壁5と、内側端壁5から軸方向に距離を隔てて外管外壁4の端部を覆う外側端壁6とを備える。
【0022】
内管2と外管内壁3と外管外壁4と内側端壁5と外側端壁6とにより囲まれる閉じた作動流体用空間7が形成される。作動流体用空間7は、内管2の内側を占める内側作動流体用空間7aと、外管内壁3と外管外壁4との間を占める外側作動流体用空間7bと、内側端壁5と外側端壁6の間を占めて内側作動流体用空間7aと外側作動流体用空間7bとを連通させる折返作動流体用空間7c,7dとにより立体的な循環構造を形成している。作動流体用空間7には作動流体が充填される。作動流体には、空気、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの気体を用いるのが好ましい。
【0023】
また、内管2と外管内壁3と内側端壁5とにより囲まれる閉じた遮蔽用空間8が形成される。遮蔽用空間8は、内管2と外管内壁3との間の熱的な遮蔽を図るものである。遮蔽用空間8には、気体を充填するほかに、綿、グラスウールなどの素繊維集合体、スポンジや石膏ボードのような多孔質部材、発泡樹脂、粒状樹脂などを入れてもよい。この実施形態では、遮蔽用空間8は真空である。真空の度合いは限定しないが、熱的な遮蔽に有効な程度とする。
【0024】
さらに、本発明に係る熱音響機関1は、内管2の端部から軸方向に距離を隔てた箇所にて外管内壁3と外管外壁4との間に複数の内部フィン9(図2参照)が放射状に配置された加熱器10と、加熱器10から軸方向に距離を隔てた箇所にて外管内壁3と外管外壁4との間に複数の内部フィン11(図2参照)が放射状に配置された冷却器12とを備える。加熱器と冷却器との間には、外管内壁3と外管外壁4との間に積層金網、多孔質セラミックスなどが配置されて再生器13が形成される。加熱器10と再生器13と冷却器12とにより原動機14が構成される。
【0025】
図2に示されるように、加熱器10の横断面を見ると、軸心から順に、内側作動流体用空間7a、内管2、遮蔽用空間8、外管内壁3、外側作動流体用空間7b、外管外壁4が同軸状に配置されている。複数の内部フィン9は、それぞれ直径を通る線に沿わせて設けられ、周方向に等円周角間隔で並べられている。冷却器12の断面構造は加熱器10と同じであり、内部フィン9と同様の内部フィン11が配置される。
【0026】
次に、熱音響機関1の作用効果を説明する。
【0027】
原動機14において作動流体に軸方向の温度勾配が形成されると、作動流体用空間7内の作動流体が自励振動を起こし、音波が発生する。図1には音波の進行波が進むようすが矢印で示されている。すなわち、進行波は、加熱器10から外側作動流体用空間7bを経て折返作動流体用空間7cで径方向内側へ折り返され、内側作動流体用空間7aを経て折返作動流体用空間7dで径方向外側に折り返され、冷却器12に戻る。定在波もこの経路に沿って生じる。
【0028】
このとき、本発明の熱音響機関1の加熱器10の横断面(図2)と従来の熱音響機関の加熱器33の横断面(図5)が同じ縮尺で描かれているとして両者を比較すると、外管外壁4の径が管32の径より大きいため、本発明の熱音響機関1の方が加熱器10における受熱面積が大きい。冷却器12も同様に受熱面積が従来より大きい。受熱面積が大きいことにより、熱交換効率が向上する。
【0029】
本発明の熱音響機関1は、内部フィン9(11)が放射状に配置されているため、従来の内部フィン37bのような外部からの熱が伝導しにくいものが存在せず、熱交換効率が向上する。
【0030】
本発明の熱音響機関1は、全ての内部フィン9(11)の幅(径方向長さ)が均一で、かつ、短いので、同一断面における温度分布が均一となる。
【0031】
本発明の熱音響機関1は、内部フィン9(11)における熱の伝導がよくなった結果、内部フィン9(11)の肉厚を薄くすることができる。肉厚を薄くすることで、内部フィン9(11)間の間隙を音波が抵抗なく通過することができる。
【0032】
本発明の熱音響機関1は、内部フィン9(11)が外管内壁3よりも径方向外側にあるため、内部フィン9(11)の枚数を増やしても内部フィン9(11)の相互間隔を十分に広くすることができる。例えば、図2の内部フィン9は、図5の内部フィン37の約1.5倍設けられている。内部フィン9(11)の枚数が多くなることで、作動流体と内部フィン9(11)が接する総面積が大きくなり、熱交換効率が向上する。なお、従来のループ管による熱音響機関31において仮に内部フィンを放射状に配置しようとすると、軸心部分では内部フィンが密集してしまい、好ましくない。
【0033】
本発明の熱音響機関1は、熱交換効率が向上するため、ある一定量の廃熱量に対して熱音響機関の出力を大きくすることができると共に、生じている廃熱を余さず吸収処理することができる。
【0034】
本発明の熱音響機関1は、図3のようなループを形成しないので、従来の熱音響機関31に比べて、小型にでき、狭いスペースに設置することができる。
【0035】
本発明の熱音響機関1は、内管2と外管内壁3との間に遮蔽用空間8が存在する。これにより、加熱器10、再生器13、冷却器12からなる原動機14と内管2とが熱的に遮蔽される。ここでもし、内管2と外管内壁3が接していたり、あるいは遮蔽がなされていないと、加熱器10がある位置の内管2は加熱器10の温度に近づき、冷却器12がある位置の内管2は冷却器12の温度に近づいて、逆向きの温度勾配が形成される。これは内管2に図1とは逆向きの進行波を生じる原動機が存在するのと同じことになり、熱音響機関の出力を低下させてしまう。その点、本発明の熱音響機関1は、遮蔽用空間8が存在するので、内管2に逆向きの温度勾配が形成されることが防止される。
【0036】
本発明の熱音響機関1は、遮蔽用空間8が存在するため、加熱器10に入力された熱が逃げにくくなり、熱交換効率が向上する。
【0037】
ところで、熱音響機関1においては、作動流体の流路の断面積は場所によって変化しないことが望ましい。そこで、内管2における軸に直角な断面の断面積と、外管内壁3と外管外壁4との間の部分における軸に直角な断面の断面積とを等しくするとよい。これにより、内側作動流体用空間7aにおける作動流体の流路の断面積と、外側作動流体用空間7bにおける作動流体の流路の断面積が同じになる。さらに、折返作動流体用空間7c,7dにおいても作動流体の流路の断面積が変化しないよう、本実施形態では、外側端壁6の軸心部分をラッパ状に凹ませてある。
【符号の説明】
【0038】
1 熱音響機関
2 内管
3 外管内壁
4 外管外壁
5 内側端壁
6 外側端壁
7 作動流体用空間
8 遮蔽用空間
9 内部フィン
10 加熱器
11 内部フィン
12 冷却器
13 再生器
14 原動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状の内管と、
前記内管から径方向に距離を隔てて前記内管を覆う外管内壁と、
前記外管内壁から径方向に距離を隔てて前記外管内壁を覆う外管外壁と、
前記内管の端部と前記外管内壁の端部との間を覆う内側端壁と、
前記内側端壁から軸方向に距離を隔てて前記外管外壁の端部を覆う外側端壁とを備えることにより、
前記内管と前記外管内壁と前記外管外壁と前記内側端壁と前記外側端壁とにより囲まれる閉じた作動流体用空間が形成され、
前記作動流体用空間に作動流体が充填され、
前記内管の端部から軸方向に距離を隔てた箇所にて前記外管内壁と前記外管外壁との間に複数の内部フィンが放射状に配置された加熱器と、
前記加熱器から軸方向に距離を隔てた箇所にて前記外管内壁と前記外管外壁との間に複数の内部フィンが放射状に配置された冷却器と、
前記加熱器と前記冷却器との間に形成された再生器とを備えることを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
前記内管における軸に直角な断面の断面積と、前記外管内壁と前記外管外壁との間の部分における軸に直角な断面の断面積とが等しいことを特徴とする請求項1記載の熱音響機関。
【請求項3】
前記内管と前記外管内壁と前記内側端壁とにより囲まれる閉じた遮蔽用空間が形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の熱音響機関。
【請求項4】
前記遮蔽用空間が真空であることを特徴とする請求項3記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−145006(P2011−145006A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6102(P2010−6102)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)