説明

熱音響機関

【課題】音場が不安定になることによる出力低下を防止する熱音響機関を提供する。
【解決手段】作動流体が充填されたループ管2に、内部フィンを有する加熱器3,7と金網を収容した再生器4,8と内部フィンを有する冷却器5,9とからなる原動機6,10が設置された熱音響機関1において、原動機10における作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場が不安定になることによる出力低下を防止する熱音響機関に関する。
【背景技術】
【0002】
廃熱からエネルギを取り出すためにスターリングエンジンの開発研究が活発に行われている。スターリングエンジンの形式には、α型、β型、γ型、フリーピストン型などがある。これに対し、最近では、米国などにおいて、構造が単純でピストンやクランクで構成された可動部を有さない熱音響機関の開発研究が活発に行われるようになった。
【0003】
熱音響機関は、管の軸方向に、高温熱源との熱交換を行う加熱器と、低温熱源との熱交換を行う冷却器と、これら加熱器と冷却器との間で温度勾配を保持する再生器とを配置して構成される。管内の作動流体をある場所で局部的に加熱し、別のある場所で冷却すると、熱エネルギの一部が力学的エネルギである音響エネルギに変換されて管内の作動流体が自励振動を起こし、管内に音響振動すなわち音波が発生する。
【0004】
図6に示されるように、原動機が1つ設置された従来の熱音響機関61においては、円筒管をループ状に閉じてなるループ管62に作動流体が満たされ、このループ管62に作動流体に外部からの熱を取り込むためのフィンを有する加熱器63と作動流体から外部に熱を取り出すためのフィンを有する冷却器65とが円筒管の長手方向に間隔をあけて配置され、加熱器63と冷却器65の間に再生器64が配置されてなる。加熱器63と再生器64と冷却器65を順に並べて原動機(プライムムーバ)66が構成される。
【0005】
図7に示されるように、原動機が2つ設置された従来の熱音響機関71は、ループ管62に、加熱器63と再生器64と冷却器65とが順に並べられた原動機66と、それとは別の加熱器73と再生器74と冷却器75とが原動機66と同じ周回方向に順に並べられた原動機76とが設置されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101910号公報
【特許文献2】特許第3050543号公報
【特許文献3】特開2001−207909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の熱音響機関71では、作動流体の流路断面積がループ全長にわたり均一とはなっておらず、原動機66,76のところで流路断面積が減少している。
【0008】
図8に詳しく示したように、原動機66,76の加熱器63,73は、ループ管62に対して断面輪郭の形状と寸法が同じで両端が開放された加熱器円筒管81を有し、加熱器円筒管81の内部には流路と平行な複数の内部フィン82が並べられ、加熱器円筒管81の外周には複数の外部フィン83が設けられる。冷却器65,75も同様に、ループ管62に対して断面輪郭の形状と寸法が同じで両端が開放された冷却器円筒管84を有し、冷却器円筒管84の内部には流路と平行な複数の内部フィン85が並べられ、冷却器円筒管84の外周には複数の外部フィン86が設けられる。再生器64,74は、ループ管62に対して断面輪郭の形状と寸法が同じで両端が開放された再生器円筒管87を有し、再生器円筒管87の内部に流路を横断する複数の金網88が長手方向に積層される。これにより、片側のループ管62から加熱器円筒管81、再生器円筒管87、冷却器円筒管84、反対側のループ管62まで、形状と寸法が同じ断面輪郭のまま連通している。
【0009】
原動機66,76では、加熱器63,73において、外部の熱が外部フィン83に吸収され、その熱が内部フィン82に伝導され、内部フィン82から作動流体に熱が放出される。冷却器65,75においては、加熱器63,73とは逆の熱交換が行われる。
【0010】
原動機66,76では、加熱器63,73も冷却器65,75も、内部フィン82,85の伝熱性能を確保するために、内部フィン82,85の厚さをあまり薄くすることはできない。一方、ループ管62と同一サイズの加熱器円筒管81あるいは冷却器円筒管84の内部に内部フィン82,85が存在することで、加熱器円筒管81あるいは冷却器円筒管84内における作動流体の流路断面積はループ管62における作動流体の流路断面積に比べて小さくなる。内部フィン82,85の厚さを厚くすると、加熱器円筒管81あるいは冷却器円筒管84内における流路断面積はいっそう小さくなる。再生器64,74においても、再生器円筒管87内に金網88が存在するため、流路断面積はループ管62における流路断面積に比べて小さくなる。
【0011】
ところで、音波は、作動流体の流路断面積が小さくなるところで音圧の節になる。
【0012】
図7の熱音響機関71は、原動機66,76において、作動流体の流路断面積が顕著に減少しているため、原動機66,76に音圧の節が生じて、熱音響機関71の出力を低下させる原因となっている。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、音場が不安定になることによる出力低下を防止する熱音響機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、作動流体が充填されたループ管に、内部フィンを有する加熱器と金網を収容した再生器と内部フィンを有する冷却器とからなる原動機が設置された熱音響機関において、前記原動機における作動流体の流路断面積が前記ループ管における作動流体の流路断面積より大きいものである。
【0015】
前記ループ管に、前記原動機の他に内部フィンを有する加熱器と金網を収容した再生器と内部フィンを有する冷却器とからなる原動機又は冷凍機が設置され、前記他の原動機又は冷凍機における作動流体の流路断面積が前記ループ管における作動流体の流路断面積と同じであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)音場が不安定になることによる出力低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示す熱音響機関の構成図である。
【図2】図1の熱音響機関の原動機付近の側断面図及び流路断面積分布図である。
【図3】(a)は図1の熱音響機関のループ全長にわたる内径分布図、(b)は流路断面積分布図、(c)は音圧分布で示した定在波イメージ図である。
【図4】(a)は本発明の原理を説明するための原動機を1つ備えた熱音響機関の構成図、(b)は(a)の熱音響機関における定在波と外径と流路断面積の分布図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す熱音響機関の構成図である。
【図6】従来の原動機を1つ備えた熱音響機関の構成図である。
【図7】従来の原動機を2つ備えた熱音響機関の構成図である。
【図8】従来の熱音響機関の原動機付近の側断面図及び流路断面積分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1に示されるように、本発明に係る熱音響機関1は、作動流体が充填されたループ管2に、内部フィンを有する加熱器3と金網を収容した再生器4と内部フィンを有する冷却器5とからなる原動機6が設置され、さらに、そのループ管2に、別の加熱器7と再生器8と冷却器9とからなる原動機10が設置されたものである。原動機10における作動流体の流路断面積は、ループ管2における作動流体の流路断面積より大きい。
【0021】
ループ管2は、円筒管がループ状に閉じられたものであり、内部に作動流体が充填される。作動流体には、空気、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの気体を用いるのが好ましい。
【0022】
図2に、原動機10(原動機6)付近の側断面と流路断面積分布を示す。図2に示されるように、加熱器7は、ループ管2よりも寸法が大きい両端が開放された加熱器円筒管21を有し、加熱器円筒管21の内部には流路と平行な複数の内部フィン22が並べられ、加熱器円筒管21の外周には複数の外部フィン23が設けられる。冷却器9も同様に、ループ管よりも寸法が大きい両端が開放された冷却器円筒管24を有し、冷却器円筒管24の内部には流路と平行な複数の内部フィン22が並べられ、冷却器円筒管24の外周には複数の外部フィン23が設けられる。再生器8は、ループ管2よりも寸法が大きい両端が開放された再生器円筒管25を有し、再生器円筒管25の内部に流路を横断する複数の金網26が長手方向に積層される。
【0023】
これにより、片側のループ管2と加熱器円筒管21の境界、及び冷却器円筒管24と反対側のループ管2の境界にて、寸法(内径)が段階的に増減している。
【0024】
一方、加熱器7における流路断面積は、加熱器円筒管21の断面積から内部フィン22の総断面積を引いて求められる。流路断面積の分布を見ると、加熱器7における流路断面積は、実線で示されるように、ループ管2における流路断面積よりも大きい。冷却器9における流路断面積も同様に、ループ管2における流路断面積より大きい。再生器8における流路断面積は、再生器円筒管25の断面積から金網26の骨格部分の総断面積を引いて求められる。再生器8における流路断面積は、実線で示されるように、ループ管2における流路断面積よりも大きく、さらに、ここでは加熱器7及び冷却器9における流路断面積よりも大きい。
【0025】
これに対し、もう1つの原動機6においては、内部構造は原動機10とほぼ同じであるが、諸寸法の違いにより、図2に破線で示されるように、加熱器3、再生器4、冷却器5における流路断面積がいずれもループ管2における流路断面積と同じとなっている。
【0026】
以下、本発明の熱音響機関1の動作を説明する。
【0027】
図3(a)に、図1のA点から矢印方向に見た熱音響機関1のループ全長にわたる内径分布を示す。図3(a)に示されるように、原動機6における内径はループ管2の内径に比べて大きく、原動機10における内径は原動機6における内径よりも大きい。
【0028】
図3(b)に、図1のA点から矢印方向に見た熱音響機関1のループ全長にわたる流路断面積分布を示す。図3(b)に示されるように、原動機6における流路断面積は、ループ管2における流路断面積と同じである。一方、原動機10における流路断面積は、ループ管2における流路断面積より大きい。原動機10内では、再生器8における流路断面積が加熱器7及び冷却器9における流路断面積より大きい。
【0029】
図1に示した本発明の熱音響機関1にあっては、図3(a)と図3(b)の比較から分かるように、原動機6では、ループ管2との流路断面積の変化がない程度に内径が拡大されている。詳しくは、図2に示されるように、原動機6は、加熱器円筒管21、再生器円筒管25及び冷却器円筒管24の内径、内部フィン22の厚さ、枚数、金網26の骨格材太さ、メッシュ粗さを適宜決めることで、ループ管2との流路断面積の変化がないように構成することができる。
【0030】
一般に、流路断面積が大きくなる境界あるいは小さくなる境界では、反射波が発生し、ループ管2内の定在波の成分を増大させるが、熱音響機関1の原動機6では、ループ管2との流路断面積の変化がないので、反射波の発生が少なく、定在波成分が増加しない。これにより、進行波成分は増加するので、原動機6における出力が増大する(言い換えると、同じ量の熱エネルギを投入したとき、従来よりも多くの音響エネルギを原動機10に伝送することができる)。
【0031】
また、熱音響機関1の原動機6では、流路断面積がループ管2における流路断面積と同じであるが、従来の熱音響機関71の原動機66における流路断面積に比べると、原動機6における流路断面積は大きい。よって、原動機6における流速は、従来の原動機66における流速より低下しており、音波が減衰しにくくなっている。その結果として原動機6における音波出力は、従来の原動機66における音波出力よりも増大する。
【0032】
さらに、図1に示した本発明の熱音響機関1にあっては、図3(a)と図3(b)の比較から分かるように、原動機10では、ループ管2に比べて流路断面積が大きくなるように内径が拡大されている。詳しくは、図2に示されるように、原動機10では、加熱器円筒管21、再生器円筒管25及び冷却器円筒管24の内径、内部フィン22の厚さ、枚数、金網26の骨格材太さ、メッシュ粗さを適宜決めることで、ループ管2に比べて流路断面積が大きくなるよう構成することができる。
【0033】
一般に、ループ内に流路断面積が大きい部分があると、そこを音圧の腹とする定在波が発生しやすい。熱音響機関1では、原動機10において流路断面積が大きくなっているため、原動機10の位置を音圧の腹とする定在波が発生することになる。
【0034】
この結果、原動機6が音圧の節からずれるため、原動機6における熱交換効率が向上して熱音響機関1の動作が安定する。一方、原動機10が音圧の腹に位置することにより、原動機10における熱交換効率が向上する。
【0035】
以上説明したように、本発明は、原動機6と原動機10が設置された熱音響機関1において、原動機6における作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積と同じであり、原動機10における作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きい。これにより、エネルギ変換効率が向上するので、従来に比べて発振開始温度(発振に必要な加熱器3と冷却器5の温度差、加熱器7と冷却器9の温度差)が低くなるという効果が得られる。これにより、従来では、例えば、原動機66において冷却器65が常温であるとすると常温よりかなり高い温度の加熱器63を必要としたのに対し、本発明では、冷却器5,9が常温であるならば常温よりそれほど高くない温度の加熱器3,7が利用できることになる。
【0036】
また、本発明によれば、エネルギ変換効率が向上するので、従来より大きな音響強度が得られる。
【0037】
また、本発明によれば、エネルギ変換効率が向上するので、従来より少ない投入エネルギ量で発振が可能となる。
【0038】
また、本発明によれば、少ない投入エネルギ量で発振が可能になるため、小型化が可能となる。小型化により、熱音響機関1の体積を従来より小さくすることができる。
【0039】
また、本発明によれば、エネルギ変換効率が向上するので、原動機6の代わりに受動機として冷凍機、冷却機を組み込んで冷凍装置、冷却装置を構成した場合、従来と比較して、冷凍性能、冷却性能を飛躍的に向上させることができる。
【0040】
次に、図4(a)に原動機を1つ備えた熱音響機関41を示す。この熱音響機関41は、図6に示した従来の熱音響機関61とは異なり、原動機42における作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きい。具体的には、図4(b)に示されるように、図4(a)のB点から矢印方向に見た熱音響機関41のループ全長にわたる外径と流路断面積の分布を見ると、原動機42の箇所では外径と流路断面積が他の箇所に比べて大きい。これにより、定在波は、音圧の腹が原動機42の位置に形成される。作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きい原動機42の代わりに、作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きい受動機を設置しても、同様の定在波のプロファイルを得ることができる。
【0041】
図5の熱音響機関51は、図4(a)の熱音響機関41に2つの原動機52,53を加えて本発明の構成としたものである。原動機52,53は、作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積と同じである。原動機42における作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積より大きいことにより、音圧の腹が原動機42の位置に形成されているため、ループ全長にわたる定在波のプロファイルが確立されている。このため、原動機52,53のように作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積と同じ原動機であれば、2つに限らず、3つ以上の複数個の原動機を任意の箇所に配置することが可能となる。また、原動機の代わりに、作動流体の流路断面積がループ管2における作動流体の流路断面積と同じ受動機(冷凍機)を複数個配置してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 熱音響機関
2 ループ管
3,7 加熱器
4,8 再生器
5,9 冷却器
6,10 原動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が充填されたループ管に、内部フィンを有する加熱器と金網を収容した再生器と内部フィンを有する冷却器とからなる原動機が設置された熱音響機関において、
前記原動機における作動流体の流路断面積が前記ループ管における作動流体の流路断面積より大きいことを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
前記ループ管に、前記原動機の他に内部フィンを有する加熱器と金網を収容した再生器と内部フィンを有する冷却器とからなる原動機又は冷凍機が設置され、前記他の原動機又は冷凍機における作動流体の流路断面積が前記ループ管における作動流体の流路断面積と同じであるこことを特徴とする請求項1記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−208911(P2011−208911A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78931(P2010−78931)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)