説明

熱音響機関

【課題】増幅しようとする進行波音波の減少が防止される熱音響機関を提供する。
【解決手段】気体が満たされた主管2と、主管2の一端に取り付けられ主管2内に進行波音波を発生させる音源3と、主管2の管軸方向に間隔をおいて配置され、主管2内の進行波音波を低温部8と高温部10との温度勾配によって順次増幅する複数の増幅器4と、少なくとも1つの増幅器4に対し当該増幅器4よりも音源3側にて主管2から分岐され当該増幅器4からの反射波を相殺する反射波を発生させる分岐管5とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅しようとする進行波音波の減少が防止される熱音響機関に関する。
【背景技術】
【0002】
廃熱からエネルギを取り出すためにスターリングエンジンの開発研究が活発に行われている。スターリングエンジンの形式には、α型、β型、γ型、フリーピストン型などがある。これに対し、最近では、ピストン等の可動部を有さない熱音響機関の開発研究が活発に行われるようになった。
【0003】
熱音響機関は、管と熱源で構成される。管内の気柱を局部的に加熱又は冷却すると、熱エネルギの一部が力学的エネルギに変換され、気柱が自励振動を起こす。すなわち、管内に音響振動が発生する。この作用は、熱力学的には、プライムムーバ(原動機)と見ることができる。この作用を用いた熱音響機関が知られている。原動機は、管軸方向に順に配置された低温部と再生部と高温部とからなる。再生部は、蓄熱器、あるいはスタックとも呼ばれる。
【0004】
類似の熱音響現象として、原動機と同様に低温部と再生部と高温部で構成された部材(以下、増幅器という)を進行波音波が通過すると音響強度が増幅されることが知られている(非特許文献1)。理論的には、この増幅器を管軸方向に複数配置した場合、進行波音波が増幅器を通過するたびに音響強度が増幅されるはずである。この現象を本発明者らは実験的に確認した。
【0005】
図6に示されるように、実験装置は、断面が円形で真っ直ぐな管61の一端にベローズ62を設け、このベローズ62にスピーカ63を取り付けて、スピーカ63によってベローズ62が加振されるようにする。管61の反対端にもベローズ64を設け、このベローズ64にリニア発電機65を取り付ける。管内には、3つの増幅器66を直列に配置する。この実験装置において、管61内に進行波音波が発生するようスピーカ63でベローズ62を加振し、リニア発電機65の発電量を制御すると、スピーカ63から入力された音のエネルギが増幅器66を通過するたびに増幅されることが確認できた。
【0006】
この結果から、熱音響機関の管に増幅器を直列多段に配置することで、小さな入力仕事を大きな出力仕事に変換できることが分かる。すなわち、図7に示されるように、管のベローズから、1段目の増幅器、2段目の増幅器、3段目の増幅器を経るたびに、音響パワーが増大している。例えば、1段の増幅器のみで5倍の利得を得るためには、極端に大きな温度差が必要となるが、図6の構成では、1段の増幅器で1.7倍の利得が得られるとすると、3段で5倍の利得となる。このとき、どの段の増幅器においても、低温部の温度Tcと高温部の温度Thは小さい温度差にすることができる。なお、本発明者らは、この成果による発明をすでに出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3050543号公報
【特許文献2】特開2008−167580号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ceperley,P.H.,J.Acout.Soc.Am.66,1508(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、管と増幅器との境界では、構造の差異のため反射波が発生する。増幅器を直列多段に配置した構造の熱音響機関では、進行波音波が増幅器に至るたびに反射波が生じて進行波音波が減少するので、音響強度がうまく増幅されない。また、反射波が増幅器に戻って逆向きに通過すると音響エネルギが熱に戻されてしまう。
【0010】
本発明者らは、このような増幅器を直列多段に配置した構造の熱音響機関において、音場調整を行うことで反射波を打ち消して進行波音波の減少を防止することができれば、熱音響機関の性能や出力パワーが向上すると考えた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、増幅しようとする進行波音波の減少が防止される熱音響機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、気体が満たされた主管と、前記主管の一端に取り付けられ前記主管内に進行波音波を発生させる音源と、前記主管の管軸方向に間隔をおいて配置され、前記主管内の進行波音波を低温部と高温部との温度勾配によって順次増幅する複数の増幅器と、少なくとも1つの前記増幅器に対し当該増幅器よりも音源側にて前記主管から分岐され当該増幅器からの反射波を相殺する反射波を発生させる分岐管とを備えたものである。
【0013】
前記分岐管は、前記主管の管軸方向に分布する複素音響アドミタンスの実数項が1/(ρc)(ρは主管内の気体の密度、cは音速)となる位置で分岐され、この位置にて前記主管の管軸方向に分布する複素音響アドミタンスの虚数項を打ち消す複素音響アドミタンスを有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0015】
(1)増幅しようとする進行波音波の減少が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す熱音響機関の側面図である。
【図2】本発明の熱音響機関における複素音響アドミタンスを示すグラフである。
【図3】本発明の熱音響機関の音響特性を調べるための実験装置の構成図である。
【図4】(a)(b)は、本発明の熱音響機関と従来の熱音響機関における音響アドミタンスの周波数依存性を示すグラフである。
【図5】(a)は、分岐管がない従来の熱音響機関における音響アドミタンスの空間分布を示すグラフであり、(b)は、分岐管がある本発明の熱音響機関における音響アドミタンスの空間分布を示すグラフである。
【図6】従来の熱音響機関の側面図である。
【図7】従来の熱音響機関による音響パワーの増幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1に示されるように、本発明に係る熱音響機関1は、気体が満たされた主管2と、主管2の一端に取り付けられ主管2内に進行波音波を発生させる音源3と、主管2の管軸方向に間隔をおいて配置され、主管2内の進行波音波を低温部と高温部との温度勾配によって順次増幅する複数の増幅器4と、少なくとも1つの増幅器4に対し当該増幅器4よりも音源3側にて主管2から分岐され当該増幅器4からの反射波を相殺する反射波を発生させる分岐管5とを備える。
【0019】
主管2は、例えば、断面が円形で、一端から他端まで径の変化や曲がりのない真っ直ぐに伸びた中空の円筒管である。主管2に満たされる気体は、音波の媒体となるものであり、空気、ヘリウムガスなど種類はなんでもよいが、密度ρ、音速cが既知であることが好ましい。主管2は、ステンレス等の金属で構成される。
【0020】
音源3は、ベローズ6とスピーカ7により構成される。すなわち、主管2の一端にベローズ6が取り付けられ、ベローズ6によって主管2が閉じられる。このベローズ6にベローズ6を加振するスピーカ7が取り付けられる。スピーカ7は、例えば、音響コイルと振動板とから構成される。
【0021】
増幅器4は、管軸方向に順に配置された低温部8と再生部9と高温部10とからなる。低温部8は、図示しない冷却管から供給される冷媒により主管2内の気体を冷却する熱交換器である。高温部10は、図示しない加熱管から供給される冷媒により主管2内の気体を加熱する熱交換器である。再生部9は、金網あるいは複数の細管が集合されたものである。低温部8、再生部9、高温部10は、公知のものを使用することができるので、詳細な構造の説明は省略する。
【0022】
増幅器4は、管軸方向に適宜な間隔で任意の複数個が配置されるが、ここでは3つの増幅器4が示されている。各増幅器4における低温部8には共通の冷却管を導入することができ、また、各増幅器4における高温部10には共通の加熱管を導入することができる。
【0023】
分岐管5は、反射波相殺の対象となる増幅器4よりも音源3側にて主管2から分岐される。ここに示された3つの分岐管5は、それぞれ分岐管5から見て音源3と反対側にある増幅器4に対して反射波を返すものである。分岐管5の形状は、例えば、主管2と同様の円筒管である。分岐管5の長さ及び径は限定しない。分岐管5は、先端(主管2から遠い端)が閉じたものでも開放されたものでもよい。分岐管5の先端が反射端となるよう、音波の周波数(又は波長)と分岐管5の寸法、形状、先端の開閉を定めるのが好ましい。
【0024】
主管2の反対端は、図6の熱音響機関と同様にベローズとリニア発電機を設けてもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0025】
本発明の熱音響機関1の動作を説明する。
【0026】
音源3で発生した音波は、主管2内を管軸方向に進行波音波として進行する。進行波音波は、増幅器4に入力される。この進行波音波は、増幅器4を通過するとき低温部8と高温部10との温度勾配によって増幅される。増幅器4から出力された進行波音波は、主管2内を管軸方向に進行し、次の段の増幅器4に入力される。このようにして、進行波音波が順次増幅器4を通過すると、図7で説明したのと同様に1段目の増幅器4、2段目の増幅器4、3段目の増幅器4を経るたびに、音響パワーが増大する。
【0027】
主管2と1段目の増幅器4との境界においては、主管2と増幅器4の構造の差異のため反射波が発生する。反射波は、主管2を逆方向に戻る。反射波は、分岐管5に入ると、分岐管5の先端で再び反射し、主管2に戻る。このとき、増幅器4からの反射波を相殺する反射波を発生させる分岐管5が構成されているので、分岐管5の先端からの反射波と増幅器4からの反射波とが相殺される。
【0028】
増幅器4からの反射波が相殺されたということは、より多くの進行波音波が当該増幅器4に入力されたということである。よって、当該増幅器4での増幅によりより多くの音響エネルギが得られ、次段の増幅器4に送られることになる。
【0029】
次段の増幅器4では、前段の増幅器4からの進行波音波が前段と同様にして減少することなく増幅される。このようにして、各段の増幅器4において、増幅しようとする進行波音波の減少が防止され、増幅されるので、最終段の増幅器4では従来よりもはるかに大きなエネルギを取り出すことが可能となる。
【0030】
次に、分岐管5の分岐位置を定めるための音場解析について説明する。
【0031】
まず、音源3において発生する音波の周波数(又は波長)を掃引し、このときの音場と流速を測定する。この測定に基づき、複素音響アドミタンスの空間分布(管軸方向の分布)を求める。ここで、主管2内における音波の圧力振動を
P=|P|exp(iωt)
とし、断面平均流速振動を
U=|U|exp[i(ωt+φ)]
とするとき、複素音響アドミタンスは、次の式(1)で表される。
【0032】
【数1】

【0033】
主管2内に純粋な進行波音波のみが存在する音場では、音響アドミタンスは空間的に一様であり、その音響アドミタンスYは、気体の密度をρ、音速をcとすると、
Y=1/(ρc)
で与えられる。
【0034】
一方、主管2内に純粋な定在波音波のみが存在する音場では、圧力振動Pと断面平均流速振動Uの位相差φが±π/2であるため、音響アドミタンスは純虚数となる。その響アドミタンスYの大きさは、空間的に変化し、流速の節では極小値0を取り、圧力の節に近づくにつれて発散的に増大する。
【0035】
進行波音波と定在波音波からなる一般の音場では、音響アドミタンスは実数部Reと虚数部Imを共に持つ。図2に示されるように、実数部Reと虚数部Imからなる複素平面に実数項Re Yと虚数項Im Yを示すと、これらを合成して複素音響アドミタンスYとなることが分かる。
【0036】
次に、
実数項Re Y=1/(ρc)
を満たす主管2内の管軸方向位置と音波の周波数の組を探す。この管軸方向位置に分岐管5を設けることになる。次いで、この周波数でのこの管軸方向位置における虚数項Im Yを求め、この虚数項Im Yをちょうど打ち消すだけの音響アドミタンスを持つ分岐管5の長さを決定する。ただし、この周波数は、分岐管5における気体の共鳴周波数とは大きく異なるのが好ましい。
【0037】
このようにして求めた位置に求めた長さの分岐管5を設けることにより、分岐管5よりも音源3側は、進行波音波のみが存在する音場となる。増幅器4において生じた反射波は、分岐管5の先端からの反射波によって相殺される。その結果、音源3からの進行波音波が減少することなく増幅器4に入力されることになる。
【0038】
以上説明したように、本発明の熱音響機関1によれば、分岐管5を設けることにより、音響パワーを大きく損失することなく音場を調整することができる。
【0039】
また、本発明の熱音響機関1によれば、主管2内にもっぱら進行波音波を作ることができる。
【0040】
また、本発明の熱音響機関1によれば、分岐管5を設けることによる音場調整により、熱から音響へのエネルギ変換効率を向上させることができる。
【0041】
また、本発明の熱音響機関1によれば、分岐管5を設けることによる音場調整により、出力される音響パワーをより大きくすることができる。
【0042】
また、本発明の熱音響機関1によれば、主管2内にもっぱら進行波音波を作ることで、数多くの増幅器4を設置することが可能となり、段階的な音響強度の増幅により、温度差の小さい熱源を用いて大きな増幅率が実現できる。
【0043】
本発明の熱音響機関1は、例えば、熱音響冷凍機に利用でき、冷凍能力を向上させることができる。
【実施例】
【0044】
図3に示されるように、実験用の熱音響機関として、主管2の一端に音源3を取り付け、主管2の管軸方向に直列に2段の増幅器4を設け、1段目の増幅器4と音源3の間に分岐管5を設けた。この熱音響機関は、音源3で発生した進行波音波の仕事流を2段の増幅器4で増幅する機能を有する。スターリングエンジンと同様の熱力学的サイクルを通じて増幅作用を実現するためには、圧力振動Pと断面平均流速振動Uの位相差φは0であるべきだが、実際には温度勾配のある増幅器4で発生する反射波の影響により、位相差φは変化する。この音場を分岐管5により調整する実験を行う。
【0045】
主管2には、内径24mm、長さ150mの円筒管を用いる。音源3は、発振器31の出力をパワーアンプ32で増幅し、ラウドスピーカ33を駆動する。音源3の周波数は、0〜500Hzの範囲で掃引する。音源3から3.4mの位置に増幅器4を配置する。増幅器4の再生部9には、流路半径r0=0.665mmのハニカムセラミックスを用いる。低温部8は、冷却水を循環させることにより室温Tcに保ち、高温部10は、電気ヒータを用いて温度Thに加熱し、温度勾配ΔT=330Kとした。主管2内は大気圧空気を充填し、主管2の反対端(図外)は適当な量の綿で閉じて反対端からの反射がないようにする。周波数5〜400Hzの範囲で、2段目の増幅器4の下流に進行波音波のみが存在することは確認済みである。
【0046】
1段目の増幅器4を原点とし、下流方向を正とするx軸をとり、分岐管5の位置をxで表す。分岐管5は、1段目の増幅器4の上流の任意の位置に設置したり、取り外して主管2のみとすることができるようにする。1段目の増幅器4の上流の主管2の管壁に2つの圧力センサ34を設置し、FFTアナライザ35により同時に2カ所の空気圧を測定する。この測定データに対し、公知の2センサ法を適用することで、枝分かれのない区間における任意の位置の音場を解析する。以下では、1段目の増幅器4から0.28mの位置、つまりx=−0.28mの位置における音響アドミタンスに着目する。
【0047】
分岐管5がある場合に測定した音響アドミタンスの実数部Re Yと虚数部Im Y、及び分岐管5がない場合に測定した音響アドミタンスの実数部Re Ytと虚数部Im Ytの周波数依存性を図4(a)及び図4(b)に示す。
【0048】
ここで、主管2内の音場が純粋な進行波音波のみが存在する音場であるための2つの条件、
実数項Re Y=1/(ρc)
虚数部Im Y=0
を同時に満たさす周波数は存在しない。これは、温度勾配のある増幅器4で反射波が生じているためである。これでは、2段の増幅器4の上流側にさらに増幅器4を追加しても、有効的な進行波音波の増幅は期待できない。そこで、本発明では、分岐管5を設置する。
【0049】
分岐管5には、先端を開放とした長さ0.85m、内径0.24mの円筒管を用いる。この分岐管5をx=−0.28mの位置に取り付ける。主管2と分岐管5の接続部では、流路が分岐しているため、次の3つの音響アドミタンスを考える。
【0050】
1つ目は、接続部より上流側から接続部へ外挿して求まる音響アドミタンスY1であり、2つ目は、分岐管5から接続部へ外挿して求まる音響アドミタンスY2であり、3つ目は、接続部より音響アドミタンスY3である。定義により、音響アドミタンスY3は、分岐管5がない場合の音響アドミタンスYと等しい。音響アドミタンスY1は、前述の実験と同様に、分岐管5より上流の管壁に取り付けた2つの圧力センサの出力に2センサ法を適用して求め、音響アドミタンスY2は分岐管5に2つの圧力センサを設けて同様に求める。
【0051】
図4(a)及び図4(b)に示されるように、分岐管がない従来の熱音響機関における音響アドミタンスと、本発明の熱音響機関における音響アドミタンスは大きく異なる。このとき、本発明の熱音響機関では、所定の周波数f1、例えば、324Hzにおいて、進行波音波を得るための2つの条件、
実数項Re Y=1/(ρc)
虚数部Im Y=0
が同時に満たされている。
【0052】
図5(a)に、分岐管がない従来の熱音響機関の周波数f1における音響アドミタンスの空間分布を示し、図5(b)に本発明の熱音響機関の周波数f1における音響アドミタンスの空間分布を示す。
【0053】
図5(a)に示されるように、実数項Re Yが1/(ρc)となる位置では虚数部は0でない。しかし、図5(a)において実数項Re Yが1/(ρc)となる位置を本発明では分岐管5の設置位置とする。
【0054】
図6(b)に示されるように、本発明の熱音響機関1において、分岐管5の設置位置から上流では、
実数項Re Y=1/(ρc)
虚数部Im Y=0
が同時に満たされるので、主管2内は進行波音波のみ存在することになる。すなわち、増幅器4において生じる反射波は相殺され、生じないのと等価である。これにより、増幅しようとする進行波音波の減少を防止することができる。その結果、増幅器4を直列多段に配置したとき、熱音響機関の性能や出力パワーが向上する。
【0055】
分岐管5の設置位置では、体積流一定の条件から、
【0056】
【数2】

【0057】
が成り立つ。定義により、Y3とYは等しいので、分岐管5を設置しても主管2と分岐管5の接続部の直下流の音響アドミタンスは変わらない。しかし、接続部の直上流の音響アドミタンスは接続部の音響アドミタンスY2の分だけ、YからY1に変更される。これが分岐管5の機能である。
【0058】
分岐管5の音響アドミタンスを調べたところ、分岐管5の共鳴周波数近傍を除いて、Re Y2はほぼ0であった。分岐管5に流れ込む仕事流Iは、
【0059】
【数3】

【0060】
であるから、共鳴周波数以外では、分岐管5への音響パワーの流出は小さいことを示している。接続部の上流から接続部へ流れ込む音響パワーは、そのまま接続部の下流に流れ出すことになり、分岐管5を設置したことによる音響パワーの損失は小さい。
【符号の説明】
【0061】
1 熱音響機関
2 主管
3 音源
4 増幅器
5 分岐管
8 低温部
9 再生部
10 高温部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が満たされた主管と、前記主管の一端に取り付けられ前記主管内に進行波音波を発生させる音源と、前記主管の管軸方向に間隔をおいて配置され、前記主管内の進行波音波を低温部と高温部との温度勾配によって順次増幅する複数の増幅器と、少なくとも1つの前記増幅器に対し当該増幅器よりも音源側にて前記主管から分岐され当該増幅器からの反射波を相殺する反射波を発生させる分岐管とを備えたことを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
前記分岐管は、前記主管の管軸方向に分布する複素音響アドミタンスの実数項が1/(ρc)(ρは主管内の気体の密度、cは音速)となる位置で分岐され、この位置にて前記主管の管軸方向に分布する複素音響アドミタンスの虚数項を打ち消す複素音響アドミタンスを有することを特徴とする請求項1記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−99606(P2011−99606A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254030(P2009−254030)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)