説明

熱CVD装置

【課題】別途加熱手段を設けることなく、真空室に送り込む原料ガスを加熱するとともに、基板を適切に加熱することで、安定して基板上に膜を形成することができる熱CVD装置を提供する。
【解決手段】基板Kを内部に配置するとともに所定の真空度を維持し得る加熱室13を有して、熱化学気相成長法により基板Kに原料ガスGを供給してカーボンナノチューブを成長させる熱CVD装置であって、基板Kの上方で且つ加熱室13内に配置されて基板Kを加熱する加熱装置21と、この加熱装置21の上方に配置されて加熱装置21により加熱される渦巻状の被加熱部33を有するとともに基板Kの下方から原料ガスGを供給するガス供給管31とを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱CVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸着装置の1つである熱化学気相成長装置(以下、熱CVD装置という)は、不活性ガスを充填または真空(減圧状態)にした反応容器内に基板を配置し、この反応容器内で基板を加熱するとともに、当該反応容器に原料ガスを送り込んで、加熱された基板の表面に触媒を介して膜を成長させるものである。
【0003】
一般に熱CVD装置では、原料ガスの方が基板よりも低温であるから、膜の成長時に基板が原料ガスにより冷却される。したがって、従来の熱CVD装置では安定して蒸着を行うことができないため、新たな熱CVD装置として、蒸着を行う反応管の外部に、ガスを加熱するための加熱手段を設け、加熱されたガスを反応管に導入して、ヒータで加熱した基板に蒸着させる構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−322837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献記載の熱CVD装置では、ガスを加熱する加熱手段を反応管の外部に設けているため、ガス加熱用の加熱手段と、基板加熱用のヒータとで、少なくとも2つの加熱手段が必要であった。
【0006】
また、基板は外縁部から自然冷却していくので、外縁部と内部で温度差が生じ、ガスを加熱するだけでは、安定した蒸着を行うことができなかった。
そこで、本発明は、別途加熱手段を設けることなく、真空容器内に送り込む原料ガスを加熱するとともに、基板を適切に加熱することで、安定して基板上に膜を形成することができる熱CVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る熱CVD装置は、基板を内部に配置するとともに所定の真空度を維持し得る真空容器を有して、熱化学気相成長法により当該基板に原料ガスを供給して蒸着膜を成長させる熱CVD装置であって、
基板の上方で且つ真空容器内に配置されて当該基板を加熱する加熱手段と、この加熱手段の上方に配置されて当該加熱手段により加熱される曲線状の被加熱部を有するとともに基板の下方から原料ガスを供給するガス供給管とを具備したものである。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る熱CVD装置は、請求項1に記載の熱CVD装置において、ガス供給管の被加熱部が、原料ガスの供給方向にそって中心から外周に広がる渦巻状であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の請求項3に係る熱CVD装置は、請求項1に記載の熱CVD装置において、ガス供給管の被加熱部が、蛇行状であることを特徴とする。
また、本発明の請求項4に係る熱CVD装置は、請求項1に記載の熱CVD装置において、ガス供給管の被加熱部が複数の配管から構成され、これら配管が原料ガスの供給方向にそって放射状に配置されるとともに、各配管がそれぞれ蛇行状であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係る熱CVD装置は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱CVD装置において、加熱手段およびガス供給管の被加熱部が、いずれも基板に対して略平行に配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
原料ガスを基板に供給するガス供給管を、基板を加熱する加熱手段の上方に配置することで、ガス供給管を加熱するための加熱手段を別途設けずに原料ガスを加熱でき、さらに、ガス供給管を加熱手段の上方で曲線状にすることで、全体で均一な温度になるように基板を加熱できるので、したがって、安定して基板に蒸着膜を成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1に係る熱CVD装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同熱CVD装置における加熱室の概略斜視図である。
【図3】本発明の実施例2に係る熱CVD装置における加熱室の概略斜視図である。
【図4】本発明の実施例3に係る熱CVD装置における加熱室の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る熱CVD装置について、具体的に示した実施例に基づき説明する。
本実施例1においては、一例としてカーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置について説明する。
【0014】
カーボンナノチューブを形成する基板としては、ステンレス製の薄鋼板、すなわちステンレス鋼板(薄板材の一例であり、例えば箔材の場合は20〜300μm程度の厚さのものが用いられ、ステンレス箔ということもできる。また、板材である場合には、300μm〜数mm程度の厚さのものが用いられる。)を用いるようにしたもので、しかも、このステンレス鋼板としては、所定幅で長いもの、つまり帯状のものが用いられる。したがって、このステンレス鋼板(以下、主として、基板と称す)はロールに巻き付けられており、カーボンナノチューブの形成に際しては、このロールから引き出されて連続的にカーボンナノチューブが形成されるとともに、このカーボンナノチューブが形成された基板は、やはり、ロールに巻き取るようにされている。すなわち、一方の巻出しロールから基板を引き出し、この引き出された基板の表面にカーボンナノチューブを形成(生成)した後、このカーボンナノチューブが形成された基板を他方の巻取りロールに巻き取るようにされている。
【0015】
上述した基板の表面に、カーボンナノチューブを形成するための熱CVD装置には、図1に示すように、炉本体2内にカーボンナノチューブを形成するための細長い処理用空間部が設けられて成る加熱炉1が具備されており、この炉本体2内に設けられた処理用空間部は、所定間隔おきに配置された区画壁3により、複数の、例えば5つの部屋に区画されて(仕切られて)いる。
【0016】
すなわち、この炉本体2内には、ステンレス鋼板つまり基板Kが巻き取られた巻出しロール16が配置される基板供給室11と、この巻出しロール16から引き出された基板Kを導きその表面に前処理を施すための前処理室12と、この前処理室12で前処理が施された基板Kを導きその表面にカーボンナノチューブを形成するための加熱室(真空容器ともいえる)13と、この加熱室13でカーボンナノチューブが形成された基板Kを導き後処理を施すための後処理室14と、この後処理室14で後処理が施された基板Kを巻き取るための巻取りロール17が配置された基板回収室(製品回収室ということもできる)15とが具備されている。なお、上記各ロール16,17の回転軸心は水平方向にされており、したがって加熱室13内に引き込まれる(案内される)基板Kは水平面内を移動するとともに、基板Kの下面にカーボンナノチューブを形成するようにされている。以下では、上記ロール16,17の間の方向、すなわち基板Kが移動する方向を前後方向といい、この前後方向に水平面上で直交する方向を左右方向という。
【0017】
上記前処理室12では、基板Kの表面、特にカーボンナノチューブを形成する下面の洗浄、不動態膜の塗布、カーボンナノチューブ生成用の触媒微粒子、具体的には、鉄の微粒子(金属微粒子)の塗布が行われる。洗浄については、アルカリ洗浄、UVオゾン洗浄が用いられる。また、不動態膜の塗布方法としては、ロールコータ、LPDが用いられる。触媒微粒子の塗布方法としては、スパッタ、真空蒸着、ロールコータなどが用いられる。
【0018】
また、後処理室14では、基板Kの冷却と、基板Kの下面に形成されたカーボンナノチューブの検査とが行われる。
そして、基板回収室15では、基板Kの上面に保護フィルムが貼り付けられ、この保護フィルムが貼り付けられたステンレス鋼板である基板Kが巻取りロール17に巻き取られる。なお、基板Kの上面に保護フィルムを貼り付けるようにしているのは、基板Kを巻き取った際に、その外側に巻き取られる基板Kに形成されたカーボンナノチューブを保護するためである。
【0019】
上述したように、炉本体2内には、区画壁3により5つの部屋が形成されており、当然ながら、各区画壁3には、基板Kを通過させ得る連通用開口部(スリットともいう)3aがそれぞれ形成されている。
【0020】
ところで、上記加熱室13においては、熱CVD法により、カーボンナノチューブが形成(生成)されるが、当然に、内部は所定の真空度(負圧状態)に維持されるとともに、カーボンナノチューブの生成用ガスつまり原料ガスG(例えば、アセチレン、メタン、ブタンなどの低級炭化水素ガスである)が供給されており、またこの原料ガスGが隣接する部屋に漏れないように考慮されている。例えば、加熱室13においては、ヘリウムガスなどの不活性ガスNと一緒に原料ガスGが供給されるとともに上方から排出されて(引き抜かれて)いる。なお、この加熱室13以外の部屋、すなわち基板供給室11、前処理室12、後処理室14および製品回収室15についても、ヘリウムガスなどの不活性ガスNが供給されるとともに上方から排出されて(引き抜かれて)、大気が入り込まないようにされている。
【0021】
ここで、加熱室13について図2に基づき詳しく説明する。
加熱室13の上壁部2bには、ガスを排出するガス排出口(例えば、排出管である)7が形成されている。なお、この加熱室13を形成する内壁面には所定厚さの断熱材4が貼り付けられている。また、図示しないが、加熱室13には、当該加熱室13内の空気を排気して所定の減圧下にするための排気装置(真空装置でもある)が接続されている。
【0022】
そして、加熱室13内の中間部分の上方位置(カーボンチューブ形成室内での基板Kの上方位置)には当該加熱室13内を加熱するための複数本の円柱形状(または棒状)の発熱体22よりなる加熱装置(加熱手段の一例である)21が設けられている。この加熱装置21は、基板Kの上面側に水平に配置されるもので、円柱形状の発熱体22が左右方向と平行(並行)に且つ前後方向にて所定間隔おきに配置されている。また、これら発熱体22を含む平面は、当然ながら、基板Kと平行となるようにされている。なお、発熱体22としては非金属の抵抗発熱体が用いられ、具体的には、炭化ケイ素、ケイ化モリブデン、ランタンクロマイト、ジルコニア、黒鉛などが用いられる。特に、炭化ケイ素およびケイ化モリブデンは、ヘリウムガス、水素ガス雰囲気下で用いられ、ランタンクロマイトは大気下でのみ用いられ、黒鉛は不活性ガス雰囲気(還元雰囲気)下で用いられる。また、加熱された基板Kの温度が均一となるような加熱装置21の位置は、予めシミュレーション等により求められる。
【0023】
さらに、加熱室13には、原料ガスGを基板Kに供給するためのガス供給管31が設けられており、このガス供給管31は、加熱室13の外部から内部に導入されて、加熱装置21の上方で渦巻状に形成されるとともに、側壁部および底壁部2aに貼り付けられた断熱材4に沿って基板Kの下方まで伸び、この基板Kの下方位置から原料ガスGを放出するものである。詳しく説明すると、ガス供給管31は、図示しない原料ガス供給装置から原料ガスGの供給を受ける上流側の室内導入部32と、この室内導入部32に接続された中流側の被加熱部33と、一端側がこの被加熱部33に接続されるとともに他端側から原料ガスGを放出して基板Kに供給する下流側のガス供給部34とから構成されている。この室内導入部32は、加熱室13の外部に設けられた原料ガス供給装置に接続されるとともに、この原料ガス供給装置から加熱室13の外側上方まで伸び、ガス排出口7に挿通されることで加熱室13内に導入され、基板Kの平面視における中心位置の真上方(加熱装置21の上方)まで伸びている。また、被加熱部33は、室内導入部32との接続箇所を中心に外周へ広がる渦巻状の配管であり(渦巻状とした理由については後述する)、この渦巻状の平面が基板Kおよび加熱装置21と平行、すなわち水平となるように配置されている。さらに、ガス供給部34は、被加熱部33との接続箇所から側壁部方向へ水平に伸びるとともに、側壁部に貼り付けられた断熱材4に沿って底壁部2a方向へ鉛直下方に伸び、底壁部2aに貼り付けられた断熱材4に沿って基板Kの平面視における中心位置の真下方まで水平に伸びている。
【0024】
ここで、ガス供給管31の被加熱部33について、渦巻状とした理由も含めてさらに詳細に説明する。
ガス供給管31から原料ガスGの供給を受けて下面にカーボンナノチューブを形成する基板Kは、加熱装置21で加熱されても、自然冷却により外縁部から温度が低下するので、若干ではあるが外縁部と中央部で温度差が生じ、中央部では温度が高く、外縁部に近づくほど温度が低くなる。このため、加熱装置21において、基板Kの中央部(高温部)を加熱する箇所では熱が吸収されて加熱量を少なくするとともに、外縁部(低温部)を加熱する箇所では熱が吸収されず加熱量を多くすることで、加熱された基板Kの温度勾配を修正し、基板Kを全体で均一な温度にする必要がある。
【0025】
そこで、被加熱部33では、低温の原料ガスGが通過して最も低温となる室内導入部32との接続箇所を、基板Kの平面視における中心位置(中央部のさらに中心)の上方に配置することで、加熱装置21における基板Kの中央部を加熱する箇所から熱を多く奪う(多く吸収する)。また、室内導入部32との接続箇所を中心として外周へ広がる渦巻状の配管にすることで、渦巻状の配管内を通過する原料ガスGが徐々に加熱されて温度が上昇するので、加熱装置21における基板Kの外縁部を加熱する箇所からは熱を奪う量が少ない(吸収が少ない)。したがって、基板Kは加熱装置21により全体で温度が均一になるように加熱される。
【0026】
以下、さらに詳しく説明する。
加熱装置21は円柱形状の発熱体22が複数本並置されたものであり、また、これら発熱体22は、全て同じ消費電力にされてその輻射熱により基板Kが均一に加熱されるように考慮されている。しかし、加熱室13内には薄いガスが存在し、このガスの熱伝導により、基板Kの周辺部の温度が僅かに下がってしまう。
【0027】
ここで、ガス供給管31の渦巻状の被加熱部33が発熱体22の上方に配置されるとともにその渦巻の中心部に低い温度の原料ガスGが流されると、当然ながら発熱体22の熱は、ガス供給管31内に移動する。
【0028】
このため、渦巻の中心部に近い発熱体22での温度が低下してその部分の輻射熱量が減り、したがって基板Kの中心に近い部分では、温度が僅かに下がることになる。
一方、渦巻の周辺部ではガス供給管31内での原料ガスGの温度が高くなるため、基板周辺部での温度低下が殆どなくなる。
【0029】
すなわち、原料ガスGを渦巻状のガス供給管31に流すことにより、基板全体の温度の均一化を図ることができる。
なお、被加熱部33の渦巻のピッチ、渦径および配管径などについては、基板周辺部での不均一な熱伝導がなくなるように決定される。具体的には、シミュレーションなどにより求められる。
【0030】
ところで、この基板Kの平面視における中心位置の真下方に位置するガス供給部34の端部、すなわち加熱室13におけるガス供給管31の端部であって原料ガスGを放出する箇所には、ガス供給管31により供給された原料ガスGを基板Kに導くガス案内用ダクト23が設けられる。このガス案内用ダクト23は、ガス供給管31から加熱された原料ガスGを基板Kへ均一に導くため、側面視がホッパー形状(逆台形状)である。
【0031】
また、基板Kの直ぐ下面でガス案内用ダクト体23の上面には、圧力制御が可能な小さい穴が多数形成された整流板26が配置されており、この整流板26としては、例えば直径が5〜20mm程度の穴が多数形成された石英ガラス、セラミックスが用いられている。
【0032】
さらに、有機ガスの影響を無くすために、加熱室13における基板K以外の構成材料、例えば断熱材4などは、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)などの無機材料で構成されている。
【0033】
ここで、前処理室12での工程について説明する。
この前処理室12内では、基板Kが洗浄された後、シリカ、アルミナなどの不動態膜が塗布され、さらにこの不動態膜の表面に、金属例えば鉄(Fe)の触媒微粒子が塗布される。勿論、図示しないが、この前処理室12内には、基板Kの洗浄手段、不動態膜の塗布手段、および金属例えば鉄(Fe)の触媒微粒子の塗布手段が設けられており、これら塗布手段はマスク等を有しない簡易な構造であるから、不動態膜および触媒微粒子は基板Kの全面に塗布される。
【0034】
ところで、基板Kとして、厚さが20〜300μm以下に圧延加工されてコイル状に巻き取られた薄いステンレス鋼板(ステンレス箔でもある)が用いられており、このような基板Kには、コイルの巻き方向に引張りの残留応力が存在するため、触媒の微粒化および熱CVD時に、残留応力の開放により、基板Kに反りが発生する。このような反りの発生を防止するために、コイル巻き方向で張力を付加する機構、具体的には、巻出しロール16と巻取りロール17との間で張力を発生させて(例えば、両ロールの回転速度を異ならせることにより張力を発生させる。具体的には、一方のモータで引っ張り、他方のモータにブレーキ機能を発揮させればよい。)基板Kを引っ張るようにしてもよい。また、巻取りロール17側に錘を設けて引っ張るようにしてもよい。
【0035】
ところで、上記加熱炉1にて熱CVD法が行われる際には、加熱室13内が所定圧力に減圧される。
この減圧値としては、数Pa〜数千Paの範囲に維持される。例えば、数十Pa〜数百Paに維持される。なお、減圧範囲の下限である数Paは、カーボンナノチューブの形成レート(成膜レートである)を保つための限界値であり、上限である数千Paは煤、タールの抑制という面での限界値である。また、炉本体2内の構成部材としては、煤、タールなどの生成が促進しないように、非金属の材料が用いられている。
【0036】
一方、加熱室13以外の他の処理室、すなわち基板供給室11、前処理室12、後処理室14および製品回収室15については詳しくは説明しなかったが、これら各室11,12,14,15についても減圧状態にされるとともに、加熱室13に空気などのカーボンナノチューブの形成に悪影響を及ぼすガスが流入するのを防止するために、図1に示すように、それぞれの底壁部2aにはヘリウムガスなどの不活性ガスNを供給するためのガス供給口5が設けられるとともに、上壁部2bには、ガス放出口(ガス排出口でもある)6が設けられている。
【0037】
なお、図1は熱CVD装置の概略構成を示し、その内部が分かるように、ガス供給管31並びに手前側の側壁部および断熱材4については省略している。
次に、上記熱CVD装置によるカーボンナノチューブの形成方法について説明する。
【0038】
まず、巻出しロール16から基板Kを引き出し、前処理室12、加熱室13および後処理室14における各区画壁3の連通用開口部3aを挿通させ、その先端を巻取りロール17に巻き取らせる。このとき、基板Kには張力が付与されて真っ直ぐな水平面となるようにされている。
【0039】
そして、前処理室12内では基板Kの洗浄が行われた後、不動態膜が上下面全体に亘って塗布され、この下面に塗布された不動態膜の表面に鉄の微粒子が塗布(付着)される。なお、この触媒微粒子の塗布範囲については、少なくとも、カーボンナノチューブの形成面(生成面)であれば足りるが、塗布手段が簡易な構造であるから、触媒微粒子の塗布範囲も下面全体となる。
【0040】
この前処理が済むと、基板Kは所定長さ分だけ、つまりカーボンナノチューブが形成される長さ分だけ、巻取りロール17により巻き取られる。したがって、前処理室12で前処理が行われた部分が、順次、加熱室13内の整流板26上に移動される。
【0041】
この加熱室13では、排気装置(図示せず)により、所定の減圧下に、例えば数Pa〜数千Paの範囲に、具体的には、上述したように数十Pa〜数百Paに維持される。
そして、加熱装置21、すなわち発熱体22により、基板Kの温度を所定温度例えば700〜800℃に加熱するとともに、加熱室13の外壁温度が80℃またはそれ以下(好ましくは、50℃以下)となるようにする。この場合、加熱室13には断熱材4が設けられているため若干ではあるが、基板Kは外縁部から自然冷却し、基板Kの外縁部と中央部で温度差が生ずる。
【0042】
上記温度になると、原料ガスGとしてアセチレンガス(C)を原料ガス供給装置からガス供給管31に送る。この原料ガスGは、原料ガス供給装置から室内導入部32内を通過して被加熱部33内に導かれ、渦巻状の配管内で中心から外周へ向けての移動により徐々に加熱されていき、ガス供給部34を通過して、基板Kへ供給される。なお、室内導入部32は、ガス排出口7に挿通されることで加熱室13内に導入されているので、原料ガスGは、室内導入部32内においてガス排出口7からの排出ガスおよび加熱室13の熱でも加熱されるが、主としては被加熱部33内で加熱される。
【0043】
また、被加熱部33において、原料ガスGが低温のまま通過する室内導入部32との接続箇所では加熱装置21から熱を多く奪い、原料ガスGの温度が上昇している外周では加熱装置21から熱を奪う量が少ない。このため、加熱装置21における基板Kの中央部を加熱する箇所では、熱が多く奪われて加熱量が少なくなり、基板Kの外縁部を加熱する箇所では、熱があまり奪われず加熱量が多いままである。したがって、基板Kは、高温側の中央部よりも、低温側の外縁部の方が若干強く加熱されて、全体で均一な温度となる。
【0044】
一方、加熱された原料ガスGは、ガス供給部34を通過するとともに、ガス案内用ダクト23から基板Kへ供給される。基板Kの温度は外縁部と中央部で均一であり、また供給される原料ガスGも加熱されているので、安定して所定の反応が行われてカーボンナノチューブが生成(成長)する。
【0045】
そして、所定時間が経過して所定高さのカーボンナノチューブが得られると、同じく、所定長さだけ移動されて、このカーボンナノチューブが形成された基板Kが後処理室14内に移動される。
【0046】
この後処理室14内では、基板Kの冷却と検査とが行われる。
この後処理が済むと、基板Kは製品回収室15内に移動されて、その上面に保護フィルムが貼り付けられるとともに、巻取りロール17に巻き取られる。すなわち、カーボンナノチューブが形成された基板Kが製品として回収されることになる。なお、カーボンナノチューブが形成された基板Kが全て巻取りロール17に巻き取られると、外部に取り出されることになる。
【0047】
上記熱CVD装置の構成によると、基板の温度が高い中央部では加熱装置からの加熱量が少なく、基板の温度が低い外縁部では加熱装置からの加熱量が多いので、加熱された基板の温度の均一化が図られ、一方で、原料ガスが加熱されるため、安定して基板上にカーボンナノチューブを形成することができる。また、原料ガスの加熱は、基板を加熱するための加熱装置により行われるので、別途加熱装置を設ける必要がなく、簡略な構造にすることができる。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の実施例2に係る熱CVD装置について図3に基づき説明する。
なお、本実施例2においても、カーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置について説明するが、実施例1と同一部分については説明を省略する。
【0049】
上記実施例2におけるカーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置は、実施例1と比べて、ガス供給管のみが異なる。すなわち、ガス供給管における室内導入部は、図示しないが加熱室の外部で2つの配管に分岐し、各配管内のガス流量を等しくするため各配管に流量制御装置(図示しない)が設けられている。また、図3に示すように、室内導入部42の各配管42a,42bを加熱室13の外部から内部における加熱装置21の上方まで導入する。被加熱部43は、上記各配管42a,42bにそれぞれ接続された2つの配管43a,43bから構成されており、これら配管43a,43bは、原料ガスGの供給方向にそって左右方向へ広がるように配置されるとともに、各配管43a,43bは蛇行状で前後方向へ伸びている。そして、これら配管43a,43bは、それぞれが側壁部および底壁部2aに貼り付けられた断熱材4に沿って基板Kの下方まで伸び、この基板Kの下方から原料ガスGを放出するものである。詳しく説明すると、被加熱部43は、実施例1のような渦巻状の1つの配管ではなく、2つの配管43a,43bから構成されて、これら配管43a,43bが室内導入部42との接続箇所で左右方向へ広がるように配置されるとともに、蛇行状で且つ前後方向へ水平に伸びる形状としたものである。また、被加熱部43が2つの配管43a,43bから構成されているので、ガス供給部44も同様に2つの配管44a,44bで構成され、これら両配管44a,44bは、基板Kの平面視における中心位置の真下方で結合されている。なお、この結合箇所には、必要に応じて鉛直方向の放出ノズルを配置しておけばよい。これら以外については、実施例1と同様である。
【0050】
実施例2では、実施例1とは異なり、被加熱部43を通過する原料ガスGの温度が基板Kの前後端に近づくほど上昇するので、基板Kの前後方向における中央部では加熱装置21による加熱量が少なく、基板Kの前後端では加熱装置21による加熱量が多い。このため、基板Kの左右端よりも前後端からより強く自然冷却する場合、例えば加熱室13が左右方向に比べて前後方向に長く、断熱材4がない箇所である連通用開口部3aからの温度影響を基板Kが強く受ける場合に有効である。このような場合でも加熱された基板Kの温度を全体で均一化でき、実施例1で説明した効果と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0051】
次に、本発明の実施例3に係る熱CVD装置について図4に基づき説明する。
なお、本実施例3においても、カーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置について説明するが、実施例1と同一部分については説明を省略する。
【0052】
上記実施例3におけるカーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置は、実施例1と比べて、ガス供給管のみが異なる。すなわち、ガス供給管における室内導入部は、図示しないが加熱室の外部で4つの配管に分岐し、各配管内のガス流量を等しくするため各配管に流量制御装置(図示しない)が設けられている。また、図4に示すように、室内導入部52の各配管52a,52b,52c,52dを加熱室13の外部から内部における加熱装置21の上方まで導入する。被加熱部53は、上記各配管52a,52b,52c,52dにそれぞれ接続された4つの配管53a,53b,53c,53dから構成されており、これら配管53a,53b,53c,53dは、原料ガスGの供給方向にそって前後左右方向へ広がるように配置されるとともに、各配管53a,53b,53c,53dは蛇行状で前後左右方向へ伸びている。そして、これら配管53a,53b,53c,53dは、それぞれが側壁部および底壁部2aに貼り付けられた断熱材4に沿って基板Kの下方まで伸び、この基板Kの下方から原料ガスGを放出するものである。詳しく説明すると、被加熱部53は、実施例1のような渦巻状の1つの配管ではなく、4つの配管53a,53b,53c,53dから構成されて、これら配管53a,53b,53c,53dが室内導入部52との接続箇所で前後左右方向へ広がるように配置されるとともに、蛇行状で且つ前後左右方向へ水平に伸びる形状としたものである。これらの配管は、基板Kの平面視における中心位置に近いほど、蛇行状の蛇行幅が小さく、外縁部に近いほど蛇行幅を大きくしている。また、被加熱部53が4つの配管53a,53b,53c,53dから構成されているので、ガス供給部54は、実施例1および2と異なり4つの配管54a,54b,54c,54dで構成されるとともに、これら4つの配管54a,54b,54c,54dは、基板Kの平面視における中心位置の真下方で結合されている。なお、この結合箇所には、実施例2と同様に、必要に応じて鉛直方向の放出ノズルを配置しておけばよい。これら以外については、実施例1と同様である。
【0053】
実施例3では、実施例1と同様に、基板Kの中央部の加熱量が少なく、基板Kの前後左右端(すなわち外縁部)では加熱装置21による加熱量が多い。しかし、被加熱部53は、実施例1での渦巻状の配管とは異なり、基板Kが左右方向に比べて前後方向に長い場合であっても、基板Kの前後端上方まで配管が配置される。したがって、基板Kが左右方向に比べて前後方向に長い場合に有効であり、このような場合でも加熱された基板Kの温度を全体で均一化でき、実施例1で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0054】
ところで、上記実施例1においては、被加熱部33の配管を円形の渦巻状として図2で図示したが、方形や楕円形の渦巻状など、他の曲線状であってもよい。
また、実施例2および3で示した被加熱部は、2つまたは4つの配管から構成されるものとして説明したが、この数に限られず、原料ガスの供給方向にそって放射状に配置されるのであれば、3つまたは5つ以上の配管から構成されるものでもよい。
【0055】
さらに、上記実施例1〜3においては、カーボンナノチューブ形成用の熱CVD装置について説明したが、これは熱CVD装置の一例に過ぎず、他の蒸着膜を生成(成長)させる熱CVD装置であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
G 原料ガス
K 基板
N 不活性ガス
3 区画壁
4 断熱材
7 ガス排出口
13 加熱室
21 加熱装置
22 発熱体
23 ガス案内用ダクト
26 整流板
31 ガス供給管
32 室内導入部
33 被加熱部
34 ガス供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を内部に配置するとともに所定の真空度を維持し得る真空容器を有して、熱化学気相成長法により当該基板に原料ガスを供給して蒸着膜を成長させる熱CVD装置であって、
基板の上方で且つ真空容器内に配置されて当該基板を加熱する加熱手段と、この加熱手段の上方に配置されて当該加熱手段により加熱される曲線状の被加熱部を有するとともに基板の下方から原料ガスを供給するガス供給管とを具備したことを特徴とする熱CVD装置。
【請求項2】
ガス供給管の被加熱部が、原料ガスの供給方向にそって中心から外周に広がる渦巻状であることを特徴とする請求項1に記載の熱CVD装置。
【請求項3】
ガス供給管の被加熱部が、蛇行状であることを特徴とする請求項1に記載の熱CVD装置。
【請求項4】
ガス供給管の被加熱部が複数の配管から構成され、これら配管が原料ガスの供給方向にそって放射状に配置されるとともに、各配管がそれぞれ蛇行状であることを特徴とする請求項1に記載の熱CVD装置。
【請求項5】
加熱手段およびガス供給管の被加熱部が、いずれも基板に対して略平行に配置されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱CVD装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17477(P2012−17477A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153513(P2010−153513)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】