説明

燃料およびエネルギーの蓄積のためのメタノールおよび/またはジメチルエーテルの備蓄

本発明は、石油が利用できなくなること、石油の利用が制限されること、または石油の過剰な費用が原因の不足を避けるために用いることができる代替的な燃料源を供給するのに適切な貯蔵設備内にて、メタノールまたはジメチルエーテルを貯蔵することにより燃料源を備蓄する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代替燃料源を供給するために、メタノールおよび/またはジメチルエーテルを貯蔵することにより代替燃料源を備蓄する方法に関し、二酸化炭素およびメタン等の自然に存在し容易に利用可能な化合物の化学的再利用により、貯蔵されるメタノールおよび/またはジメチルエーテルを生成することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素は現代生活において必要不可欠である。炭化水素は、化学工業、石油化学工業、プラスチック工業、およびゴム工業を含む様々な分野で燃料および原材料として用いられる。石炭、石油、およびガソリン等の化石燃料は、様々な比率の炭素および水素を有する炭化水素から成り、燃焼する際に再生不能に用いられ、二酸化炭素および水を生成する。その広範な用途および高い需要にもかかわらず、化石燃料は、有限な埋蔵量、不可逆な燃焼、ならびに大気汚染および地球温暖化への寄与を含む多数の不利益を呈する。これらの不利益およびエネルギーに対して高まる需要を考慮すると、代替のエネルギー源が必要とされる。
【0003】
メタノール(CHOH)は最も単純な液体含酸素炭化水素であり、メタン(CH)とは、酸素原子が一つ多いだけということが異なる。メチルアルコールまたは木精とも呼ばれるメタノールは、無色で淡いアルコール臭を伴う水溶性の液体であり、貯蔵および輸送が容易である。メタノールは−97.6℃で凍結し、64.6℃で沸騰し、20℃で0.791の密度を有する。
【0004】
メタノールは、エネルギーを貯蔵するのに便利で安全な方式というだけでなく、優れた燃料でもある。例えば、内燃機関または発電機内において、メタノールをガソリンまたはディーゼル油と混合して、燃料として用いることができる。メタノールの最も効率的な用途の1つは、燃料電池、具体的には直接メタノール燃料電池(DMFC)にあり、DMFCの中で、メタノールは空気で二酸化炭素および水に直接酸化される一方で電気を生成する。
【0005】
多くの様々な炭化水素および添加剤の複合混合物であるガソリンとは違い、メタノールは単一の化学化合物である。メタノールはガソリンの約半分のエネルギー密度を含有する。これは、2リットルのメタノールが1リットルのガソリンと同じエネルギーを提供することを意味する。たとえメタノールのエネルギー含有量がより低くても、メタノールは、より高いオクタン価100(リサーチオクタン価(RON)107およびモータオクタン価(MON)92の平均)を有し、これは、燃料/空気混合物を点火する前に、より小さい体積に圧縮することができることを意味する。これは、ガソリン動力エンジンより効率的に、より高い圧縮比(ガソリンエンジンの8〜9対1に対して10〜11対1)でエンジンが動作することを可能にする。効率は、メタノールのより高い「火炎速度」によっても増加され、これは、エンジン内において、より早くより完全な燃料燃焼を可能にする。これらの要因は、そのガソリンより低いエネルギー密度にもかかわらずメタノールの高効率を説明する。さらに、メタノールを最も極寒の状態下でも引火しやすくするため、メタノールを気化または霧化する機器によって、ガソリン、揮発性化合物(例えば、ジメチルエーテル)、または他の成分とメタノールを混合することができる。例えば、自動車が低温環境内でも容易に始動することができるように、少なくとも15体積%の最小ガソリン含有率を有する燃料(M85燃料)を有するガソリンにメタノールを添加することにより自動車燃料を調製することができる。当然ながら、このような燃料においてガソリンを代替することは石油資源を節約することになり、特定のエンジン設計に応じて添加するメタノールの量を決定することができる。
【0006】
メタノールは、ガソリンより約3.7倍高い気化潜熱を有し、液体状態から気体状態に移行する際に著しくより大量の熱を吸収することができる。これはエンジンから熱を取り除くのに役立ち、より重い水冷システムの代わりに空冷放熱器の使用を可能にする。従って、ガソリン動力車と比較して、メタノール動力エンジンは、より小さくより軽いエンジンブロックと、少ない冷却要件と、より良好な加速性能および燃費性能とを提供する。メタノールはまたガソリンより環境に優しく、炭化水素、NO、SO、および粒子状物質等の大気汚染物質の全体の排出が低い。
【0007】
メタノールは、利用可能な最も安全な燃料の1つでもある。ガソリンと比較して、メタノールの物理的特性および化学的特性は火災の危険を著しく減らす。メタノールはより低い揮発性を有し、発火が起きるためには、メタノール蒸気をガソリンより4倍濃縮しなければならない。点火された場合でも、メタノールはガソリンより約4倍遅く燃え、ガソリンの火の8分の1しか熱を放出せず、低い放射熱出力のために周囲の点火可能な材料に広がる可能性はずっと低い。ガソリンからメタノールへの切り替えにより、燃料関連の火災発生率が90%減らされるであろうということがEPA(米国の環境保護庁)により推測されてきた。メタノールは無色の炎を伴って燃えるが、添加剤がこの問題を解決することができる。
【0008】
メタノールは、ディーゼル燃料の魅力的で、より環境に優しい代替物も提供する。一般的に燃焼の最中に汚染粒子を生成するディーゼル燃料と対照的に、メタノールは、煙、煤、または粒子状物質を燃焼される際に生成しない。メタノールは、ディーゼル油より低い温度で燃焼するため、NOの排出が非常に低い。さらに、メタノールはディーゼル燃料と比較して著しく高い蒸気圧を有し、従来型ディーゼルエンジンを用いた低温始動に典型的な白煙を生成することなく、より高い揮発性によって寒冷な気候でも容易な始動が可能になる。所望であれば、硝酸オクチル、硝酸テトラヒドロフルフリル、過酸化物、または高級アルキルエーテル等の添加剤または点火改良剤を添加し、メタノールのセタン価をディーゼル油により近い度合いに至らせることができる。脂肪酸のエステル化により、メタノールをバイオディーゼル燃料の製造に用いることもできる。
【0009】
メタノールと密接に関係しかつ由来している望ましい代替燃料は、ジメチルエーテルである。ジメチルエーテルは、メタノールから脱水により容易に得られる。全てのエーテルの中で最も単純なジメチルエーテルつまりCHOCHは、禁止されたCFCガスの代わりに、今日スプレー缶の中でエアロゾル推進剤として主に用いられる、無色、無毒、非腐食性、非発癌性で環境に優しい化学物質である。ジメチルエーテルは−25℃の沸点を有し、環境条件下で気体である。しかしながら、ジメチルエーテルは、液化石油ガス(LPG)と同様に、容易に液体として扱われ加圧槽内に貯蔵される。代替燃料としてのジメチルエーテルへの関心は、55〜60というその高いセタン価のためであり、これはメタノールのそれより遥かに高く、従来型ディーゼル燃料の40〜55というセタン価よりも高い。前記セタン価は、ジメチルエーテルをディーゼルエンジン内で効果的に用いることができることを示す。有利なことには、メタノールのようなジメチルエーテルは清浄に燃焼するものであり、煤粒子状物質、黒煙、またはSOを全く生成せず、その排気の後処理を伴わずに非常に低い量のNOおよび他の排出物のみを生成する。
【0010】
別のメタノール誘導体は炭酸ジメチルであり、ホスゲンでメタノールを変換するか、またはメタノールの酸化的カルボニル化によりこれを得ることができる。炭酸ジメチルは高いセタン価を有し、これを最大10%の濃度までディーゼル燃料に混ぜ込むことにより、燃料粘度を減らして排出を改善することができる。
【0011】
メタノールおよびその誘導体、例えば、ジメチルエーテル、炭酸ジメチル、およびバイオディーゼル燃料は、多くの既存の用途および潜在的な用途を有する。それらを、例えば、既存のエンジンおよび燃料システムに対する小規模な修正のみで、ICE(内燃機関)動力車におけるガソリンおよびディーゼル燃料の代用品として用いることができる。燃料電池車(FCV)用の燃料電池内でメタノールを用いることもでき、燃料電池車は、輸送分野においてICEの最良の代替物と考えられる。ジメチルエーテルは、家庭暖房用および工業的用途におけるLNGおよびLPGに対する潜在的な代用品でもある。
【0012】
メタノールは静的用途に関して魅力的な燃料源でもある。例えば、メタノールをガスタービン内で直接燃料として用いて電力を生成することができる。ガスタービンは、通常、天然ガスまたは軽質石油留分を燃料として用いる。このような燃料と比較して、メタノールはそのより低い火炎温度のためにより高い出力およびより低いNO排出を実現することができる。メタノールは硫黄を含有しないため、SO排出もない。メタノールでの稼働は天然ガスおよび蒸留燃料での稼働と同じフレキシビリティを持ち、これを既存のタービンを用いて実行し、比較的容易な修正の後に天然ガスまたは他の化石燃料のために独創的に設計することができる。また、タービンには燃料等級のメタノールを使えばよいので、メタノールは魅力的な燃料である。燃料等級のメタノールは、より高純度の化学等級のメタノールより低い製造費用を伴う。
【0013】
本発明者は、二酸化炭素の水素化性の化学的再利用を用いて、メタノールおよび/またはジメチルエーテルのための改良された新規な製造方法を現在までに発見している。これらの方法は、米国特許出願公開第2006/0235088号、第2006/0235091号、および第2007/0254969号、ならびに米国特許第5,928,806号および第7,378,561号で開示され、これらの全体の内容はこれらに対する言及により明示的に本明細書の一部をなす。これらの方法により、再生可能なエネルギー源としてのメタノールおよびジメチルエーテルの使用が可能になり、これらの効率的な燃料およびそれらの誘導された合成炭化水素生成物の使用に対する環境的に中立な二酸化炭素の平衡を提供し、一方で、問題になっている地球気候に対する温室ガスとしての二酸化炭素の影響を軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0235088号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0235091号
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0254969号
【特許文献4】米国特許第5,928,806号
【特許文献5】米国特許第7,378,561号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在のところ、世界は、天然資源の急速な枯渇と、燃料を必要とする技術の使用が増加することにより引き起こされた石油危機に直面している。国家の石油備蓄は、石油または天然ガスの深刻な非常事態に対して今のところクッションとなり、自然の原因およびこれらの資源の地政学的または経済的な障害により引き起こされる破滅的な混乱を避ける助けになる。
【0016】
米国政府はこの危機を認識しており、戦略的石油備蓄(SPR)が非常事態の石油供給を維持するために1970年代に制定され、2005年エネルギー政策法は、エネルギー省長官に対してSPRを1,000,000,000バレルの容量まで満たすように指示している。残念ながら、この指示を満たすことに対するいくつかの障害があった。例えば、ハリケーン・カトリーナ、中東で続く動乱、および全体的な石油不足のような非常事態の状況である。さらに、石油の貯蔵は、その性質から、いくつかの安全性の問題、例えば、極度の可燃性をはらんでいる。
【0017】
輸入源からの自立に対して大きな関心が表され、国内のエネルギー源および燃料源の代替源を見つけるための努力が続いている。エネルギー源に関する懸念に加えて、貯蔵および輸送に関するさらなる懸念がある。エネルギーがどのように生成されるかにかかわらず、容易に適用可能で、安全で、かつ経済的な解決法が未だ全く利用可能でないため、その貯蔵および輸送は、困難で、技術的に複雑で、かつ高価な問題である。米国政府は、2005年エネルギー政策法の第369条(h)により明らかなように、これら全ての困難を認識しており、「非従来型燃料の開発を迅速化する」ために戦略的非従来型燃料に関する調査特別委員会を設置した。
【0018】
現在考えられているエネルギーを貯蔵する方法の1つは水素という形態である。しかしながら、水素は高度に揮発性かつ爆発性の気体であり、酸素(我々の大気の必要不可欠な主成分)とのその高い反応性のために地球上ではその自由な形態では存在しない。水素を、水等の化合物から(電気分解または熱的な高エネルギー変換により)結果として発生させるか、または炭化水素から生成しなければならない。大量の水素の貯蔵は、たいていの場合、その液化のために費用のかかる凝固点効果条件および高圧条件を必要とする。その極度の軽い性質および高い揮発性は、ほとんどの材料を通じて敏速な拡散および大きな爆発の危険をさらに引き起こす。結果的に、水素は大規模で実現可能な戦略的貯蔵設備、または敏速な輸送および商業的用途を確立するのに向いていない。
【0019】
本発明は、特に、石油または他の既存の代替的な燃料源を調達および貯蔵することで引き起こされる問題に曝されることなく、安全に貯蔵および輸送するべき非従来型の燃料の貯蔵を提供することにより、燃料の貯蔵を確立する必要性を満たす方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1つの実施形態は、石油が利用できなくなること、石油の利用が制限されること、または石油の過剰な費用が原因の不足を避けるために用いることができる代替的な燃料源を供給するのに十分な量で、適切な貯蔵設備内にてメタノールまたはジメチルエーテルを貯蔵することにより燃料源を備蓄する方法に関する。貯蔵設備は、地下槽、地上槽、または岩塩ドーム等の、安全で、経済的で、かつ便利なメタノールまたはジメチルエーテルの貯蔵を提供する天然または人工の貯蔵設備であってよい。2005年米国エネルギー政策法の第369条(h)に明記されているような非従来型の燃料を開発する目標を達成する助けになる方式で、備蓄を行うことができる。
【0021】
貯蔵されるメタノールは、二酸化炭素の還元変換により作ることができる。その二酸化炭素は、(a)化石燃料の火力発電所または工業プラントからの排気流、(b)天然ガスに付随する源、または(c)二酸化炭素を有する大気のうち1つ以上から得られ、大気の二酸化炭素を適切な吸収剤にて吸収し、その後、吸収剤から吸収された二酸化炭素を放出するように吸収剤を処理することにより得られる。得られた二酸化炭素の還元は、蟻酸およびホルムアルデヒドの反応混合物、メタノールならびにメタンを生成するのに十分な条件下で行われ、その後、反応混合物を分離せずに、ホルムアルデヒドを蟻酸およびメタノールに変換するのに十分な条件下で行われる処理ステップにより行われる。
【0022】
得られた二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成することができ、その後、一酸化炭素は蟻酸メチルを得るのに十分な条件下でメタノールと反応させられ、蟻酸メチルはメタノールを生成するのに十分な条件下で触媒的に水素化される。反応混合物から蟻酸の少なくとも一部を分解すること、メタン、天然ガス、もしくは二酸化炭素と二酸化炭素を反応させること、または、水の電気分解または触媒分裂もしくは熱分裂により、蟻酸メチルの水素化に必要な水素を得ることができる。
【0023】
あるいは、一酸化炭素および水素の混合物を生成するのに十分な反応条件下で十分な量のメタン、二酸化炭素、および水の湿式改質および乾式改質を組み合わせ、メタノールを生成するのに十分な条件下で混合物の一酸化炭素および水素を変換することにより、貯蔵されるメタノールを作ることができる。金属または金属酸化物の触媒の存在下における約800〜1,100℃の温度での単一または多数のステップにおいて、組み合わせた湿式改質および乾式改質を行うことができる。本発明の別の実施形態では、貯蔵用のジメチルエーテルを生成するのに十分な条件下でメタノールを脱水することにより、貯蔵されるジメチルエーテルを調製することができる。
【0024】
他の一実施形態は、本明細書で開示されている適切な貯蔵設備内でメタノールまたはジメチルエーテルを備蓄し、メタノールまたはジメチルエーテルを貯蔵設備から回収し、燃料不足を少なくとも部分的に是正するのに十分な量のメタノールまたはジメチルエーテルから代替燃料を調製することにより、石油が利用できなくなることまたは石油の過剰な費用が原因の燃料不足を防ぐ方法に関する。
【0025】
貯蔵されて回収されたジメチルエーテルは、天然ガスまたはLPGの代用品として用いることができる。またそのジメチルエーテルは、従来型ディーゼル燃料と混合されて改良型のディーゼル燃料を生成するか、または、燃料、燃料補助剤、もしくは燃料添加剤として使用される、エチレン、プロピレン、高級オレフィン、合成炭化水素、または芳香族化合物に変換される。貯蔵されて回収されたジメチルエーテルをエチレンまたはプロピレンに変換することができ、この後、エチレンまたはプロピレンは水和されて、燃料、燃料補助剤、または燃料添加剤としての使用されるエタノールまたはプロパノールを生成する。さらなる一実施形態では、貯蔵されて回収されたメタノールをガソリンに添加し、少なくとも15体積%の最小ガソリン含有率を有する代替燃料を生成することができる。
【0026】
本発明の他の一実施形態は、外国の石油に対する米国の依存を減らす方法に関し、この方法は、本明細書で開示されている適切な貯蔵設備内でメタノールまたはジメチルエーテルを備蓄することと、前記メタノールまたはジメチルエーテルを前記貯蔵設備から回収することと、外国の石油に対する依存を減らすのに十分な量の前記メタノールまたはジメチルエーテルから代替燃料を調製することとを備える。貯蔵されて回収されたジメチルエーテルは、天然ガスまたはLPGの代用品として用いることができ、従来型ディーゼル燃料と混合して改良型のディーゼル燃料を生成することができ、または、燃料、燃料補助剤、もしくは燃料添加剤として使用される、エチレン、プロピレン、高級オレフィン、合成炭化水素、または芳香族化合物に変換することができる。あるいは、貯蔵および回収されたジメチルエーテルをエチレンまたはプロピレンに変換することができ、この後、エチレンまたはプロピレンは水和され、燃料、燃料補助剤、または燃料添加剤として使用されるエタノールまたはプロパノールを生成する。貯蔵されて回収されたメタノールをガソリンに添加し、少なくとも15体積%の最小ガソリン含有率を有する代替燃料を生成してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、燃料を使用のために容易に引き出すことができる天然または人工の貯蔵設備内で、容易かつ効果的に貯蔵することができる戦略的予備燃料としてのメタノールおよび/またはジメチルエーテルの便利な貯蔵を提供する。メタノールおよびジメチルエーテルは、水により供給される水素を有する空気を含む任意の源からCOを再利用することと、任意のエネルギー源を利用することとからほとんど調製することができる。このため、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの形態にある燃料およびエネルギーの蓄積物を備蓄する本方法は、エネルギーおよび燃料の非常事態および不足を防ぐための便利で新たな方式を提供する。
【0028】
メタノールの備蓄は、石油を備蓄することに比べていくつかの利点を提供する。第1に、メタノールは石油または他の炭化水素より遥かに引火性が低く、大気圧で64.6℃(54°F)の沸点を有する。ガソリンは、対照的に、凝固点未満の温度で発火する。また、メタノールは天然に存在し、かつ植物実験および動物実験でほぼ無毒と判明している。人間にとって、メタノールは低濃度では安全である。メタノールは直ちに容易に利用可能であり比較的安全であるため、その貯蔵は石油および他の燃料より遥かに費用がかからない。その物理的特性により、メタノールは輸送するのも容易である。
【0029】
ジメチルエーテルも液化石油ガスと同じ方法で便利に貯蔵して取り扱うことができる。ジメチルエーテルは室温では気体であり、従って、取り扱いを容易にするために液体に加圧される。一般的に、加圧槽または同様の容器内でジメチルエーテルを保存するべきである。
【0030】
メタノールおよびジメチルエーテルは両方とも、ある条件下で、天然の地質学的層または人工の設備内に、蓄積物を備蓄するために便利に貯蔵することができる。その条件は、既存の石油または天然ガスの貯蔵設備のわずかな修正のみを(あったとしても)必要とする。例えば、ガソリンまたはエタノールの貯蔵のために用いられる槽と同様の地上槽または地下槽内に、メタノールおよびジメチルエーテルを貯蔵することができる。それゆえ、石油等の従来型燃料をより多く貯蔵する目的で以前に建造された既存の設備を、大幅な余分の費用を負うことなく、メタノールおよびジメチルエーテルを貯蔵するように容易に適合させることができる。加えて、天然の地下空洞、岩塩ドーム、掘り尽くされた縦坑、および油田等の、天然の設備内でメタノールおよびジメチルエーテルを貯蔵することができる。液体として貯蔵されるには、ジメチルエーテルは加圧される必要があるのに対し、メタノールは室温で既に液体であるため加圧を必要としない。
【0031】
メタノールは、天然ガスもしくは石炭から、または、米国特許出願公開第2008/0039538号、第2007/0254969号、第2006/0235091号、および第2007/0254969号、ならびに、米国付与特許第5,928,806号および第7,378,561号で説明されているような方法によって容易かつ効率的に調製することができる適切な液体燃料である。前記特許出願公開および特許の全ては、言及により本明細書の一部をなす。例えば、メタンを用いた二改質(bi-reforming)、水を用いた還元的触媒水素化、または水を用いた電気化学的還元によって、二酸化炭素を変換することにより、メタノールを生成することができる。本発明者のBIREFORMING(商標)の方法は、湿式(蒸気式)改質および乾式(CO)改質の条件の特定の組み合わせにおいて、メタンを特定のモル比の反応体と反応させることと、COおよびHをメタノールに変換するためのさらなる反応を有する。特定のモル比とは、一酸化炭素および水素を約1:2の比率で含む合成ガス混合物を生成するのに十分なモル比である。
3C(2n+2)+(3n−1)HO+CO→(3n+1)CO+(6n+2)H
(ここでn=1はメタン自体を表す)
【0032】
メタンは生物学的手段によっても生成することができる。そのような生物学的手段としては、様々な生物的材料、例えば生物ガスなどの酵素変換がある。生物ガスは、ほとんどの哺乳類および他の生命体(例えばシロアリおよび細菌等)の消化の経路内で生成される。ジメチルエーテルは、メタノールの脱水、または本明細書で言及されているBIREFORMING(商標)の方法により生成されるメタノールの派生生成物である。
【0033】
また、メタノールおよびジメチルエーテルは、様々な源により生成される排気から得られる二酸化炭素の還元により作ることができる。このような排気は、燃料の燃焼源(例えば、工業プラント)からの排気、または米国特許出願公開第2008/0039538号および第2007/0254969号、ならびに米国特許第7,378,561号で説明されているように大気を含む。この還元は、二酸化炭素のためのBIREFORMING(商標)の方法、または、水中におけるその還元的触媒水素化または電気化学的還元も含み得る。本発明のさらに別の実施形態では、二酸化炭素の還元は、蟻酸およびホルムアルデヒドの混合物、メタノールならびにメタンを結果的にもたらす条件下で起こり、その後、米国特許出願公開第2008/0039538号および第2007/0254969号で説明されているように、ホルムアルデヒドの蟻酸およびメタノールへの変換が起こる。
【0034】
米国特許出願公開第2008/0039538号で説明されているように、エチレンおよびプロピレン、高級オレフィン、合成炭化水素、または芳香族化合物等の化学原料を、メタノールおよびジメチルエーテルから調製することができる。その後、エチレンおよびプロピレンを脱水し、エタノールまたはプロパノールを生成することができる。M85として知られる代替燃料として使用されるメタノールをガソリンに添加することもでき、天然ガスまたは液体石油ガス(LPG)の代用品としてジメチルエーテルも用いることができる。メタノールおよびジメチルエーテルについては、燃料としてのいくつかの用途があり、これらはほんの数例である。
【0035】
本明細書で示されるように、メタノールおよびジメチルエーテルは、多用途で、経済的で、環境に優しく、かつ容易に利用可能な燃料源である。それらは減少する燃料埋蔵量を補充するための望ましい方式を提供するだけでなく、様々な方式で生成されるエネルギーのための便利な貯蔵も提供する。メタノール燃料および/またはジメチルエーテル燃料の形態で便利にエネルギーを貯蔵および備蓄する能力は、再生可能で環境的にカーボンニュートラルな燃料の使用を伴うので、かなりの重要性を有する。それらの製造に必要なエネルギーは、非ピーク時の化石燃料の火力発電所、原子力発電所、または太陽光発電、水力発電、風力発電、もしくは波力発電に基づくあらゆる代替エネルギー源を含む、あらゆるエネルギー源からもたらすことができる。
【0036】
時間の経過とともに化石燃料の入手可能性が減少し続けることになる一方で、その需要および費用は増加する一方であることが予想される。世界中の政府が代替燃料を特定および利用する対策を講じている中で、代替燃料源の必要性はこれまでそれほど明白ではなかった。本発明は、安全で、経済的に実現可能で、かつ環境に優しい、代替燃料を備蓄し、大惨事、人間の使用、または単純に不足の不安により引き起こされる危機的状況を潜在的に排除する方法を提供することにより、この必要性を満たす。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油が利用できなくなること、石油の利用が制限されること、または石油の過剰な費用が原因の不足を避けるために用いることができる代替的な燃料源を供給するのに十分な量で、適切な貯蔵設備内にてメタノールまたはジメチルエーテルを貯蔵することを備える、燃料源を備蓄する方法。
【請求項2】
前記貯蔵設備が、安全で、経済的で、かつ便利な前記メタノールまたはジメチルエーテルの貯蔵を提供する天然または人工の貯蔵設備である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記貯蔵設備が、地下槽、地上槽、または岩塩ドームである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記備蓄が、2005年米国エネルギー政策法の第369条(h)に明記されているような非従来型の燃料を開発する目標を達成する助けになる方式で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
メタノールが貯蔵され、前記メタノールが二酸化炭素の還元変換により作られ、前記二酸化炭素は、(a)化石燃料の火力発電所または工業プラントからの排気流、(b)天然ガスに付随する源、または(c)二酸化炭素を有する大気のうち1つ以上から得られ、大気の二酸化炭素を適切な吸収剤にて吸収し、その後、前記吸収剤から吸収された二酸化炭素を放出するように前記吸収剤を処理することにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
得られた二酸化炭素の還元は、蟻酸およびホルムアルデヒドの反応混合物、メタノールならびにメタンを生成するのに十分な条件下で行われ、その後、反応混合物を分離せずに、ホルムアルデヒドを蟻酸およびメタノールに変換するのに十分な条件下で行われる処理ステップにより行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記得られた二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成し、蟻酸メチルを得るのに十分な条件下で前記一酸化炭素をメタノールと反応させ、メタノールを生成するのに十分な条件下で前記蟻酸メチルを触媒的に水素化する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
蟻酸メチルの水素化に必要な水素が、前記反応混合物からの前記蟻酸の少なくとも一部を分解すること、メタン、天然ガス、もしくは二酸化炭素と二酸化炭素を反応させること、または、水の電気分解または触媒分裂もしくは熱分裂により得られる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
メタノールが貯蔵され、前記メタノールが、一酸化炭素および水素の混合物を生成するのに十分な反応条件下で十分な量のメタン、二酸化炭素、および水の湿式改質および乾式改質を組み合わせ、メタノールを生成するのに十分な条件下で前記混合物の一酸化炭素および水素を変換することにより作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
組み合わせた湿式改質および乾式改質が、金属または金属酸化物の触媒の存在下における約800〜1,100℃の温度での単一または多数のステップにおいて行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ジメチルエーテルが貯蔵され、前記ジメチルエーテルが貯蔵用のジメチルエーテルを生成するのに十分な条件下でメタノールを還元することにより調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
石油の利用できなくなることまたは石油の過剰な費用が原因の燃料不足を防ぐ方法であって、前記方法は、請求項1に記載の方法による適切な貯蔵設備内でメタノールまたはジメチルエーテルを備蓄することと、前記メタノールまたはジメチルエーテルを前記貯蔵設備から回収することと、前記燃料不足を少なくとも部分的に是正するのに十分な量の前記メタノールまたはジメチルエーテルから代替燃料を調製することとを備える、方法。
【請求項13】
ジメチルエーテルを貯蔵および回収し、その後、天然ガスまたはLPG(液化石油ガス)の何れかの代用品として用いるか、従来型ディーゼル燃料と混合して改良型のディーゼル燃料を生成するか、または、燃料、燃料補助剤、もしくは燃料添加剤として使用される、エチレン、プロピレン、高級オレフィン、合成炭化水素、または芳香族化合物に変換する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ジメチルエーテルを貯蔵および回収し、エチレンまたはプロピレンに変換し、この後、エチレンまたはプロピレンを水和して、燃料、燃料補助剤、または燃料添加剤として使用されるエタノールまたはプロパノールを生成する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
メタノールを貯蔵および回収し、その後ガソリンに添加し、少なくとも15体積%の最小のガソリン含有率を有する代替燃料を生成する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
外国の石油に対する米国の依存を減らす方法であって、前記方法は、請求項1に記載の方法による適切な貯蔵設備内でメタノールまたはジメチルエーテルを備蓄することと、前記メタノールまたはジメチルエーテルを前記貯蔵設備から回収することと、外国の石油に対する依存を減らすのに十分な量の前記メタノールまたはジメチルエーテルから代替燃料を調製することとを備える、方法。
【請求項17】
ジメチルエーテルを貯蔵および回収し、その後天然ガスまたはLPG(液化石油ガス)の何れかの代用品として用いるか、従来型ディーゼル燃料と混合して改良型のディーゼル燃料を生成するか、または、燃料、燃料補助剤、もしくは燃料添加剤として使用される、エチレン、プロピレン、高級オレフィン、合成炭化水素、または芳香族化合物に変換する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ジメチルエーテルを貯蔵および回収し、エチレンまたはプロピレンに変換し、この後、エチレンまたはプロピレンを水和して、燃料、燃料補助剤、または燃料添加剤として使用されるエタノールまたはプロパノールを生成する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
メタノールを貯蔵および回収し、その後ガソリンに添加し、少なくとも15体積%の最小ガソリン含有率を有する代替燃料を生成する、請求項15に記載の方法。


【公表番号】特表2011−526235(P2011−526235A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516377(P2011−516377)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/044683
【国際公開番号】WO2009/158085
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(511000197)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (6)
【Fターム(参考)】