説明

燃料ガス中のアクリル酸C1−C8エステルの濃度の測定方法

本発明は、可燃ガス中のアクリル酸-C1-C8-エステルの濃度の測定方法に関する。前記方法では、アクリル酸-C1-C8-エステルを含有する可燃ガスを、色の変化が起こるようにモリブデン酸パラジウムと接触させる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、気体状の可燃ガス(燃料ガス)中のアクリル酸C1-C8エステルの含量の測定方法及び気体状の可燃ガス(燃料ガス)中のアクリル酸C1-C8エステルの含量の測定のためのモリブデン酸パラジウムの使用に関する。
ガス臭気化は、警告又は警報物質(発臭剤)として作用する臭気の強い物質を、そうでなければ無臭のガスに添加することを意味するものと解釈する。
天然ガスは、主にメタン(典型的なメタン含量は50〜99質量%の範囲、普通60〜99質量%、通常80〜99質量%の範囲である)を含み、その起源によって、さらに種々の含量のエタン、プロパン及び高分子量炭化水素を含みうる。天然ガスH(H=高い)は87〜99.1vol.%のメタン含量を有し、天然ガスL(L=低い)は原則として79.8〜87vol.%のメタンを含む。
その高純度のため、今日公共の本管で使用され、かつ通常天然ガスから得られる業務用ガスはそれ自体実質的に無臭である。
漏出が即座に気付かれない場合、非常に危険な可能性のある爆発性のガス/空気混合物が急速に増える。
従って、安全性の理由のため、臭気の強い物質を添加してガスを臭気化する。そこで、独国では、例えば、十分な固有臭を持たず、かつ公共のガス供給で配給されているガスの臭気化は指定されている。これら発臭剤は高希釈でも認知でき、その格別に不快な臭いのため、ヒトに所望の警報連合を生じさせる。
独国では、現在約90%の業務用ガスをテトラヒドロチオフェン(12〜25mg/m3)で臭気化しており;さらに、メルカプタン又はチオフェンによる臭気化も一般的である。
【0002】
本発明では、アクリル酸C1-C8エステルは、アクリル酸C1-C8-アルキルエステル、アクリル酸C2-C8-アルケニルエステル及びアクリル酸C2-C8-アルキニルエステル、特にアクリル酸C1-C8-アルキルエステルを意味するものと解釈する。この文脈では、アルキル、アルケニル及びアルキニル基は直鎖又は分岐鎖でよい。
DE-A 19837066では、イオウ-フリーのガス臭気化の問題を少なくとも1種のアクリル酸C1-C12-アルキルエステルと、90〜120℃の範囲の沸点及び80〜160の分子量を有する窒素化合物とを含む混合物(この混合物は少なくとも2種の異なるアクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい)を用いて解決した。
約60質量%のアクリル酸エチル、約37質量%のアクリル酸メチル及び約3質量%の2,3-メチルエチルピラジン及び小量の抗酸化剤を含むイオウ-フリー発臭剤は、名称Gasdor(TM) S-Free(TM)(Symrise GmbH & Co. KGの商標名)で市販されている。
この発臭剤をいわゆる臭気化ステーションでガスに添加する。この臭気化したガスをパイプラインで末端消費者に供給する。最終消費の現場で、確実に所望の警報作用が生じるように、ガスは十分な量の発臭剤を含有していなければならない。その場で測定して必要な最少臭気化の存在をチェックする必要がある。この測定は、高い技術的経費をかけずに迅速かつ確実に行われるべきであり、それによって得られる測定結果は疑いの余地がなく、かつ決定的でなければならない。
【0003】
従って、本発明の目的は、このような気体状の可燃ガス、特に天然ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの検出のための測定方法を開発することだった。この文脈では、燃料ガスの直接測定、すなわち、ガスパイプラインからの臭気化ガスの直接測定を目標とするものである。
US 6,100,097は、液体中、具体的にはネイルスタジオでの人工爪の製造用モノマーを有する液体中のモノマーメタクリル酸メチルの選択的検出を開示している。この検出は呈色反応:モリブデン酸パラジウムとメタクリル酸メチルの錯体が青色を有し、モリブデン酸パラジウムの他のメタクリレートとの錯体は緑色又は黄色であることに基づく。モリブデン酸パラジウム試薬を、被調査モノマー含有液体と混合し、生成したモリブデン酸パラジウムとアクリレートの固形錯体をろ過してからこれを容器内で極性溶媒にて洗浄する。洗浄後の極性溶媒の青呈色は、モノマー含有液体中のモノマーメタクリル酸メチルの存在を選択的に示すと言われる。しかし、この方法はメタクリル酸メチルの含量について定量的又は半定量的な結論を与えることができない。
通常は空気の分析で用いるための物質(分類)特異的化学吸着測定を可能にする試験管(測定管)が市販されている。このような試験管は、例えばEP 201 663から公知である。
このような試験管は、例えば、Drager, Gastec, Kitagawa又はMSA Auerから入手可能である。
試験管による測定方法は、典型的には、例えば、EP 225 520又はUS 4,554,133に記載されているように、測定すべく正確に定義した体積の空気をガス検出ポンプ(空気供給ポンプ)を用いて試験管を介して吸引する。被測定物質に特異的であり、かつ該物質と反応すると色を変える試薬で試験管を充填する。この文脈では、反応ゾーンの長さ、すなわち色の変化の長さが、被測定物質の濃度の尺度である。濃度は、例えば、試験管に取り付けたスケールの助けで読み取ることができる。予想される測定値によってガスの体積、すなわち、行うべきストローク数を選択しなければならない。
【0004】
任意に不飽和でよいエステルの測定用試験管は市販されている。市販の試験管は種々の試薬を含有し、天然ガス中のアクリル酸メチルエステル及びアクリル酸エチルエステルの測定では以下の少なくとも1つの欠点が存在する:
a)反応に長くかかりすぎ(オーダー:60〜120分)、より短い測定時間の場合、色の変化が起こる反応ゾーンが小さすぎるので、アクリレートの濃度について信頼できる結論を与えられない;
b)色の変化を認識しにくい;
c)色の変化が起こった後、色が淡くなり又は変化し、特に遅い反応では問題がある。
さらに、色の数回の変化が連続的に起こるので、測定結果の信頼性のある評価を難しくするという欠点もありうる。
この試験管は燃料ガスパイプラインへの直接連結には適さない。本発明の場合、空気から(燃料ガス、例えば天然ガスからではなく)のアクリル酸C1-C8エステルの測定は行われないので、ガス検出ポンプを使う方法は適さない。
今まで使用されている多くの試薬は、被測定物質の酸化反応に基づいており、試薬は通常、例えば、Cr(VI)又はMn(VII)のような高酸化状態の遷移金属を主成分とする。これら試薬は比較的非選択的なので、他物質の存在が測定結果の歪曲につながることがある。
上記理由のため、これらの方法及び市販の試験管は、気体状の可燃ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの直接測定には適さない。
【0005】
燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの濃度の測定のための本発明の方法は以下の工程を含む:アクリル酸C1-C8エステルを含有する燃料ガス(すなわち、例えば天然ガス)を、色の変化が起こるようにモリブデン酸パラジウムと接触させる工程。
本発明では、モリブデン酸パラジウムを試薬として使用する。この試薬では、アクリル酸C1-C8エステルと反応すると、容易に認識できる色の変化が起こり、特に淡黄色から青色への色の変化が起こる。色の変化は、おそらくモリブデン酸パラジウムとアクリル酸C1-C8エステルの錯化に基づく。この容易に認識できる色の変化は、少なくとも60質量%のメタン含量を有する気体状の可燃ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの存在の調査中にも起こる。
【0006】
モリブデン酸パラジウムは純粋状態で使用できるが、不活性担体材料に塗布すると好ましい。有利な担体材料は、例えば、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素である。例えば、ケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び酸化カルシウム、並びに不活性有機担体材料のような他の担体材料も使用可能である。それでも、担体材料によって色の変化が逆の影響を受けず、歪曲されず、或いは解読できなくならないことを保証すべきである。
好ましくは、モリブデン酸パラジウムを反応ゾーンに沿って配置し、色の変化が燃料ガスの流れ方向に進行するように、アクリル酸C1-C8エステルを含有する燃料ガスをモリブデン酸パラジウム上の反応ゾーンに沿って通して燃料ガスをモリブデン酸パラジウムと接触させる。
この文脈では、有利には、モリブデン酸パラジウムを反応ゾーンに沿って配置し、少なくとも断面で、反応ゾーンの長さ1cm当たり、燃料ガスに含まれる10-7モル量のアクリル酸C1-C8エステルが色の変化を起こすように、アクリル酸C1-C8エステルを含有する燃料ガスをモリブデン酸パラジウム上の反応ゾーンに沿って通して燃料ガスをモリブデン酸パラジウムと接触させる。
モリブデン酸パラジウムは、有利には担体材料上にあり、従って有利には粉末、粒子、結晶粒又は顆粒として使用する。担体への塗布は、例えば、浸漬、沈殿又は含浸によって行うことができる。
モリブデン酸パラジウムそれ自体を直接使用するのではなく、例えば、(a)硫酸パラジウムとモリブデン酸アンモニウム又は(b)塩化パラジウムとモリブデン酸リチウムのような、モリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物系を使用することも可能であり、場合によっては有利である。
本発明の方法は、特にアクリル酸C1-C8-アルキルエステルの測定に有利である。この文脈では、アクリル酸C1-C8-アルキルエステルは、有利には、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-プロピルエステル、アクリル酸イソ-プロピルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル、アクリル酸イソ-ブチルエステル、アクリル酸tert-ブチルエステル、アクリル酸n-ペンチルエステル、アクリル酸イソ-ペンチルエステル及びアクリル酸n-ヘキシルエステルから成る群より選択される。
本発明の方法は、アクリル酸C1-C4-アルキルエステル、特にアクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸n-プロピルエステル、アクリル酸イソ-プロピルエステル、アクリル酸n-ブチルエステル及びアクリル酸イソ-ブチルエステルの測定に好ましい。この観点で非常に特に好ましいアクリル酸C1-C4-アルキルエステルはアクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル及びアクリル酸n-ブチルエステルである。
【0007】
臭気化した燃料ガス中の発臭剤の量は、DE-A-19837066に記載されているように、(臭気化直後)典型的に5〜100mg/m3、好ましくは5〜50mg/m3、特に好ましくは10〜40mg/m3、非常に特に好ましくは12〜30mg/m3の範囲内である。本発明の方法は、このような臭気化した燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの濃度の測定に顕著に好適である。
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、被分析(臭気化した)燃料ガスを定置燃料ガスパイプラインから取り、希釈せずにモリブデン酸パラジウムと接触させる。
この場合、特に、0.5〜5mmの範囲の内径を有する側定管にモリブデン酸パラジウムを配置し、この測定管に燃料ガスを通すことが好ましい。
本発明は、モリブデン酸パラジウム又はモリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物を含んでなる測定管にも関する。少なくとも断面での、測定管中のモリブデン酸パラジウム又はモリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物の濃度は、モリブデン酸パラジウムがアクリル酸C1-C8エステルと反応するとすぐに、測定管の長さ1cm当たり、10-7モル量のアクリル酸C1-C8エステルが色の変化を起こすように選択する。
本発明のこのような測定管は、有利には0.5〜5mmの範囲の内径を有する。
本発明の測定管は、燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの濃度の測定及び本発明の方法で使うのに顕著に好適である。
【0008】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例:
22hPa(22mbar)のパイプライン過圧下(ガスパイプラインの最小の既知値;過圧値は1,013hPa(1,013mbar)の常圧に基づく)、(a)本発明の測定管と(b)定評のある市販の側定管を通る約60ml/分の天然ガスの定常流下で実験を行った。各場合に、60質量%のアクリル酸エチル、37質量%のアクリル酸メチル及び3質量%の2,3-メチルエチルピラジンを含む発臭剤の量は18.3mg/m3天然ガスLだった。
【0009】
【表1】

【0010】
“Methylacrylat 5/a”測定管は、Drager(Drager Safety AG & Co. KGa, Lubeck)の製品である。
測定の解釈可能かつ信頼できる評価を行えるように、市販の“Methylacrylat 5/a”測定管には、18.3mg/m3で臭気化した天然ガスLを1時間より長く通さなければならない。しかし、アクリル酸エチル及びアクリル酸メチルとモリブデン酸パラジウム試薬の反応によって生じる青への色の変化は、この間に既に再び灰色-黒色の方向に変わるので、この測定は正確でもなく迅速でもない。従って、市販の測定管の使用は、臭気化した燃料ガスの分析に適さない。
燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステル含量の信頼できる定量的測定をしながら可能な最短の測定時間を達成できるように、本発明の測定管の特定パラメーターを固守することが有利である。
測定管中のモリブデン酸パラジウム試薬の量(担体材料なし)又は一定量のモリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物の対応する量は5〜200mgの範囲、好ましくは10〜100mgの範囲であるべきだ。測定管の内径は0.5〜5mmの範囲、好ましくは1〜4mmの範囲であるべきだ。反応ゾーン、すなわち試薬床の長さは1〜5cmの範囲、好ましくは1.5〜4cmの範囲であるべきだ。
本発明の方法で発臭剤の定量化を行えるように、定常流の天然ガスを測定管に通すことを保証すべきである。天然ガスの量は、圧力又は流量調整弁で調整することができる。
以下の図中、配列1)においてダイアグラム形態で示されるように、測定管の後の流量調整弁で最良の結果を達成した。当然、例えば、配列2)及び3)に示されるように、他の配列を使用することもできる。







【0011】
〔図1〕

A=ガスパイプライン
B=タップ
C=ハウジングを有する測定管(モリブデン酸パラジウムを有する測定単位)
D=流量調整弁
E=圧力調整弁
F=出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステルの濃度の測定方法であって、以下の工程:
−アクリル酸C1-C8エステルを含有する燃料ガスを、モリブデン酸パラジウムと接触させて、色の変化が起こさせる工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モリブデン酸パラジウムを反応ゾーンに沿って配置し、色の変化が燃料ガスの流れ方向に進行するように、アクリル酸C1-C8エステルを含有する前記燃料ガスを前記モリブデン酸パラジウム上に該反応ゾーンに沿って通して燃料ガスをモリブデン酸パラジウムと接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記モリブデン酸パラジウムを該反応ゾーンに沿って配置し、少なくとも断面で、該反応ゾーンの長さ1cm当たり、燃料ガスに含まれる10-7モル量のアクリル酸C1-C8エステルが色の変化を起こすように、アクリル酸C1-C8エステルを含有する燃料ガスをモリブデン酸パラジウム上に反応ゾーンに沿って通して燃料ガスをモリブデン酸パラジウムと接触させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記燃料ガスが、天然ガスである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記燃料ガスが、少なくとも60質量%のメタン含量を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記モリブデン酸パラジウムが、担体に適用されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料ガスが、定置燃料ガスパイプラインから取り出され、希釈せずにモリブデン酸パラジウムと接触される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
0.5〜5mmの範囲の内径を有する測定管中に前記モリブデン酸パラジウムが、配置され、前記測定管に燃料ガスを通す、請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
モリブデン酸パラジウム又はモリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物系を含む測定管であって、少なくとも断面での、モリブデン酸パラジウム又はモリブデン酸パラジウムを生成しうる化合物系の測定管中の濃度を、モリブデン酸パラジウムがアクリル酸C1-C8エステルと反応すると、測定管の長さ1cm当たり、10-7モル量のアクリル酸C1-C8エステルが色の変化を起こすように選択することを特徴とする、測定管。
【請求項10】
0.5〜5mmの範囲の内径を有する、請求項9記載の測定管。
【請求項11】
請求項9又は10記載の測定管の、燃料ガス中のアクリル酸C1-C8エステル濃度の測定のための使用。

【公表番号】特表2007−504452(P2007−504452A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525142(P2006−525142)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051955
【国際公開番号】WO2005/024413
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(591278585)ジムリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディットゲゼルシャフト (14)
【Fターム(参考)】