説明

燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法

【課題】高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、例えば炭化水素系ガスなどの改質すべき燃料ガスを、例えば水素ガスなどの燃料ガスに、高い効率で改質する。
【解決手段】実施形態の燃料ガス改質用電解セルは、酸素イオン導電性を有する固体電解質層と、前記固体電解質層の相対向する主面のそれぞれに形成されてなる第1の電子−イオン混合導電性の材料からなるカソード及び第2の電子−イオン混合導電性の材料からなるアノードとを具える。また、前記固体電解質層、前記カソード及び前記アノードは同一室に配置され、改質すべき燃料ガスを前記カソード及び前記アノードに接触するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)はその高い作動温度(700〜1000℃)から、高価な貴金属触媒を用いなくても十分な反応速度を得ることができ、また他のタイプの燃料電池と比較して最も発電効率が高くCOの発生も少ないため、次世代のクリーンな発電システムとして期待されている。さらに高温運転であるため、固体高分子型燃料電池で問題となる燃料極触媒のCO被毒の問題がない。また、燃料を高度に精製することなく使用することができるので、理論上はメタンなどの炭化水素系ガスを、外部改質器を用いることなくSOFC内部で水素ガスに改質し、この水素ガスを燃料ガスとして用いることによって発電できる。
【0003】
しかしながら、実際に炭化水素系ガスを直接燃料として供給すると、水素ガスを燃料として用いた場合に比べ発電効率が低くなってしまう。また、燃料極自体に十分な燃料改質触媒機能を持たせることが困難であることや、燃料ガス入口付近と出口付近で温度勾配やガス組成が大きく異なってしまうため、部分的に酸素リッチな雰囲気が形成されることにより、燃料極に使用されている金属が酸化されて、改質活性および電極触媒活性が著しく低下する可能性があり、高度な燃料極設計が必要になる。
【0004】
このため一般的なSOFCシステムでは、予備改質器にてかなりの部分の炭化水素系ガスを改質し、水素リッチな混合ガスを燃料極に供給し、改質し切れなかった炭化水素系ガスを内部で改質することが多い。
【0005】
また、SOFCに高純度の水素を供給する方法も検討されている。この場合、副生水素の利用や水電解などの方法によりセル外部で製造した水素を用いる。水素製造方法にはさまざまな方法があるが、固体酸化物電解質を用いる高温水蒸気電解(SOEC)技術は作動温度が高温であるため、反応のΔG(自由エネルギー)が減少することに加え、速度論的にも有利であることから、低い電解電圧で水素を製造が可能である。さらに、SOECの酸素発生極(アノード)側にCOを供給し酸化させることで、電解電圧をさらに小さくすることが可能になる。
【0006】
しかしながら、一般的なSOECは、電解時に水素を発生するカソードと、酸素を発生するアノードとで異なる雰囲気を持つ二室式の構造をとるため、両極のガスをシールする必要があるが、完全なシールは困難である。
【0007】
また、SOFCでは二室式構造の欠点を解決するため、燃料電池の両極を同一雰囲気として、メタンなどの炭化水素や水素を燃料として運転する一室式燃料電池が存在する。しかしながら、これを逆作動であるSOECに応用した例は無い。しかし本発明によれば、SOECの電極に炭化水素系燃料の改質特性に優れた材料を用いることで、炭化水素系ガスからの改質反応により生成する水素と、その時に副生するCOをSOECの酸素発生極(アノード)で減極剤として利用でき、高効率に高純度の水素を製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,116,1627−1933,1969.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−280017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、改質ガスを効率的かつ多量に生成することができる燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の燃料ガス改質用電解セルは、酸素イオン導電性を有する固体電解質層と、前記固体電解質層の相対向する主面のそれぞれに形成されてなる第1の電子−イオン混合導電性の材料からなるカソード及び第2の電子−イオン混合導電性の材料からなるアノードとを具える。また、前記固体電解質層、前記カソード及び前記アノードは同一室に配置され、改質すべき燃料ガスを前記カソード及び前記アノードに接触するように構成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す燃料ガス改質用電解セルの電解セルを拡大して示す断面図である。
【図3】第2の実施形態における燃料ガス改質用電解セルの電解セルを拡大して示す断面図である。
【図4】第3の実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図である。
【図5】第4の実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図であり、図2は、図1に示す燃料ガス改質用電解セルの電解セルを拡大して示す断面図である。
【0015】
図1に示す燃料ガス改質用電解セル10は、電解セル11と、この電解セル11を収容する単一室12とを有する。なお、図1において、単一室12の入口12A及び出口12Bは、単一室12の中央部12Cと同じ大きさ(直径)としているが、改質すべき燃料ガス以外のガスが混入しないように、入口12A及び出口12Bの大きさ(直径)は、中央部12Cの大きさ(直径)よりも小さくすることができる。
【0016】
電解セル11は、酸素イオン導電性を呈する固体電解質層111と、この固体電解質層111の主面111A側に形成されたカソード112と、固体電解質層11の、主面11Aと相対する主面11B側に形成されたアノード113とを含む。また、カソード112及びアノード113それぞれの、固体電解質層11と対向する側には、それぞれ一対の集電層114を介して一対の集電極115が形成されている。
【0017】
なお、本実施形態において、集電層114及び集電極115は必須の構成要素ではないが、このような集電層及び集電極を設けることによって、電解セル11に対して外部より効率よく電圧(電流)を印加することができ、以下に示す電解反応を効率的かつ簡易に生ぜしめることができる。
【0018】
固体電解質層11は、例えば安定化ジルコニアから構成することができる。この場合、安定化剤としては、Y、Sc、Yb、Gd、Nd、CaO、MgOなどを挙げることができる。これらの安定化剤はジルコニア中に固溶させて使用する。また、安定化ジルコニアに代えて、LaSrGaMg酸化物、LaSrGaMgCo酸化物、LaSrGaMgCoFe酸化物、LaSrGaMgCoFe酸化物などのペロブスカイト型酸化物から構成することもできる。さらに、CeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いることもできる。但し、固体電解質層11は、これらの材料に限定されるものではなく、これら以外の材料から構成してもかまわない。
【0019】
なお、固体電解質層11の厚さは、目的に応じて任意に設定することができるが、例えば0.005mm〜0.5mmの範囲とすることができる。
【0020】
一例として、厚さ0.005mmの8mol%Y安定化ジルコニアを用いることができる。
【0021】
カソード112は、図2に示すように、例えばアルミニウム酸化物あるいはマグネシウム酸化物からなる粒子112Aの表面に、ニッケル、コバルト、鉄、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる粒子112Bを担持してなる複合酸化物粒子112Cと、上述した安定化ジルコニアあるいはSmドープCeO,GdドープCeO、及びYドープCeO等のドープセリアからなる酸化物粒子112Dとが互いに接触してなる多孔質体として構成されている。
【0022】
なお、上述したドープセリアは、電子−イオン混合導電性の材料であり、電子及びイオン(特に酸素イオン)に対して導電性を示す。また、安定化ジルコニアも、還元性雰囲気で電解セルの駆動温度である1000℃にまで加熱すると、n型の半導体となるために、電子及びイオン(特に酸素イオン)に対して導電性を示す。結果として、カソード112は電子−イオン混合導電性の材料から構成されることになる。
【0023】
また、複合酸化物粒子112Cを構成する材料成分は、当該構成の複合酸化物粒子112Cを形成するために選択される原料に依存するものである。具体的には、例えば、NiO粉末とAl粉末とを混合焼結して、NiAl複合酸化物を作製した後、この複合酸化物に対して還元処理を施すことにより、上述のような複合酸化物粒子112Cを作製することに起因する。この場合、AlはNiOに比して還元されにくいため、Niのみが粒子として析出し、Alは残存することになる。
【0024】
アノード113も、図2に示すように、カソード112と同様に、例えばアルミニウム酸化物あるいはマグネシウム酸化物からなる粒子113Aの表面に、ニッケル、コバルト、鉄、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる粒子113Bが担持してなる複合酸化物粒子113Cと、上述した安定化ジルコニアあるいはSmドープCeO,GdドープCeO、及びYドープCeO等のドープセリアからなる酸化物粒子113Dとが互いに接触してなる多孔質体として構成されており、これによって、電子−イオン混合導電性の材料から構成されている。
【0025】
なお、以下に説明するように、カソード112の複合酸化物粒子112Cを構成する粒子112Bは、以下に説明するように改質反応における触媒として機能する。本実施形態では、アルミニウム酸化物等からなる酸化物粒子112Aの表面に微細な金属粒子112Bが担持されているので、カソード112に占める触媒の実質的な表面積が増大する。したがって、カソード112における改質反応が促進され、改質すべき燃料ガスの改質をより効率的に行うことができる。
【0026】
また、金属粒子112Bの大きさは、例えば5nm以上300nm以下とすることができる。5nm未満の大きさのものは作製が困難であって製造コストが増大してしまうという問題があり、300nmを超える大きさのものは、隣接粒子112B同士が結合してしまい、実質的な表面積が減少してしまうことから、カソード112における触媒機能が劣化してしまう場合がある。
【0027】
さらに、本実施形態では、アノード113の複合酸化物粒子113Cを構成する粒子113Bも、カソード112の場合と同様に改質反応における触媒として機能する。したがって、カソード112の場合と同様に、酸化物粒子113Aの表面に微細な金属粒子113Bが担持されていることにより、アノード113に占める触媒の実質的な表面積が増大するので、アノード113における改質反応が促進され、改質すべき燃料ガスの改質をより効率的に行うことができる。
【0028】
なお、本実施形態において、カソード112を構成するアルミニウム酸化物等からなる酸化物粒子112Aの大きさ(直径)及びアノード113を構成するアルミニウム酸化物等からなる酸化物粒子113Aの大きさ(直径)は、0.05μm〜5μmとすることができる。また、カソード112を構成するドープセリア等からなる酸化物粒子112Dの大きさ(直径)及びアノード113を構成する同じくドープセリア等からなる酸化物粒子113Dの大きさ(直径)は、0.05μm〜5μmとすることができる。
【0029】
この場合、カソード112及びアノード113を構成する多孔質体の空孔率が、例えば30%〜80%となり、十分な割合の開気孔を有するので、十分な量の改質すべき燃料ガスをカソード112及びアノード113の、上記空孔に起因した空隙内に導入することができる。この結果、上記燃料ガスの、金属粒子112B及び113Bとの接触割合が増大するので、上述した改質反応をより効率的に行うことができる。また、以下に説明するような電解反応の反応場を増大させることができる。
【0030】
集電層114は、ニッケル、コバルト、鉄、銅、白金、金、銀などの金属材料の他、これら金属材料とカソード112及びアノード113を構成するドープセリア等の電子−イオン混合導電性の材料との混合物から構成することができる。なお、集電層114は、カソード112及びアノード113の、集電極115に対する電気的接触をより確実なものとしてそれらの間の抵抗を低減し、生成した電力を集電極より効率的に外部に取り出すためのものである。
【0031】
集電極115は、通常の運転条件で酸化しないような材料から構成することが必要であり、例えば金、銀、白金などの貴金属の他、他の母材となる金属等を銀などでコーティングしたものを用いることができる。また、導電性を有するセラミック材料を用いることもできる。さらには、酸化被膜が導電性を有するようなクロム系合金も用いることができる。
【0032】
次に、本実施形態における燃料改質用電解セル10を用いた燃料ガスの改質方法について説明する。本実施形態では、炭化水素系ガス、特に固体酸化物型燃料電池(SOFC)において汎用されているメタン(CH)ガスの、SOFCにおける燃料ガスである水素ガスへの改質について説明する。
【0033】
最初に、燃料改質用電解セル10の単一室12に対して、入口12A側から、メタンガスを水蒸気とともに導入する。この際、単一室12内に配置された電解セル11のカソード112では、メタンガス及び水蒸気が、触媒として機能する、カソード112の複合酸化物粒子112Cにおける金属粒子112Bと接触して互いに反応し、以下に示す反応式に基づいて、メタンガスの改質ガスである水素ガス、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスを生成する(改質反応)。
CH+HO→3H+CO
CO+HO→H+CO
【0034】
一方、上記メタンガス及び水蒸気は、電解セル11のアノード113においても、触媒として機能する、アノード113の複合酸化物粒子113Cにおける金属粒子113Bと接触して互いに反応し、上述した反応式に基づいて、水素ガス、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスを生成する(改質反応)。
【0035】
図2及び上述した説明から明らかなように、カソード112及びアノード113は多孔質体となっており、十分な開気孔を有するとともに、十分な空隙を有するので、上述したメタンガス及び水蒸気と、触媒である金属粒子112B及び113Bとの接触面積が増大する。したがって、上述した改質反応がより効率的に行われるようになり、メタンガスの改質ガスである水素ガスが効率的かつ多量に生成されることになる。
【0036】
また、上述した説明から明らかなように、本実施形態では、カソード112及びアノード113の双方において改質反応が行われるため、改質反応の効率性が増大し、メタンガスから多量の水素ガスをより簡易に生成することができる。
【0037】
一方、電解セル11に電圧(電流)を印加して駆動させると、カソード112では水蒸気と電子とが反応し、下記の反応式に従って、水素ガスと酸素イオン(O2−)とが生成する。
O+2e→H+O2−
【0038】
カソード112で生成した酸素イオンは、固体電解質層111を通ってアノード113で電子を放出する。この時、アノード113では酸素イオンと改質反応で生成したCOとが反応し、以下の反応式に基づいてCOの酸化反応が生じる(電解反応)。
2O2−→O+4e
CO+O2−→CO+2e
【0039】
したがって、電解セル11で生じる電解反応は、以下の二種類になる。
O→H+1/2O
O+CO→H+CO
【0040】
上記電解反応において、COの酸化電位は酸素の発生電位よりも低いためCOが減極剤として働き、通常の水蒸気電解よりも電解セル11の電解電圧を下げることができる。これにより、電解反応を通じても高効率で水素ガスを製造することが可能になる。
【0041】
また、上述したように、カソード112及びアノード113は多孔質体となっており、十分な開気孔を有するとともに、十分な空隙を有するので、電解反応に伴う反応場を増大させることができる。したがって、電解反応による水素ガスをより高い効率で製造することができる。
【0042】
このように、本実施形態の燃料改質用電解セル10を用いた燃料ガスの改質方法では、カソード112及びアノード113の金属粒子112B及び113Bによる触媒反応に起因した改質反応によってメタンガスの改質ガスである水素ガスが生成されるとともに、電解セル11を駆動させることによる電解反応を通じても、追加の改質ガスに相当する水素ガスが生成されるようになる。したがって、目的とするSOFCにおける燃料ガスである水素ガスを効率的に、簡易かつ多量に生成することができる。
【0043】
また、本実施形態では、単一室12内に電解セル11を配置した簡易な構成の燃料改質用電解セル10を用いているので、上述したように、単一室12内に改質すべき燃料ガス、具体的にはメタンガスを導入し、このメタンガスを電解セル11のカソード112及びアノード113の双方に単純に接触させるという簡易な操作で、多量の改質ガスである水素ガスを生成することができる。したがって、従来の二室式の燃料改質用電解セルのように、カソード及びアノード間をシールし、両者を異なる雰囲気に設定するなどの複雑な装置構成及びこれに基づく複雑な操作を要することなく、簡易かつ多量に改質ガスを生成することができる。また、高加湿のメタンガスを供給することで、電解に必要なHOを確保するとともに、メタン分解による炭素析出反応を防ぐことも可能になる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態においては、高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、改質ガスを効率的かつ多量に生成することができる燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法を提供することができる。
【0045】
(第2の実施形態)
図3は、本実施形態における燃料ガス改質用電解セルの電解セルを拡大して示す断面図である。なお、燃料ガス改質用電解セルの全体構成は第1の実施形態における図1に示す態様と同じである。また、図1及び図2に示す構成要素と類似あるいは同一の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0046】
図3から明らかなように、本実施形態の燃料ガス改質用電解セルでは、これを構成する電解セル11において、アノード113が、例えばアルミニウム酸化物あるいはマグネシウム酸化物からなる粒子113Aの表面に、ニッケル、コバルト、鉄、及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる粒子113Bが担持してなる複合酸化物粒子113Cを含まず、一般式Ln1−xBO3−δ(Ln=希土類元素;A=Sr、Ca及びBaのうちの少なくとも1種;B=Cr、Mn、Fe、Co及びNiのうち少なくとも1種)で表される複合酸化物からなる酸化物粒子113Dのみを含む多孔質体として構成されている。
【0047】
上述した一般式で表される複合酸化物は、電子及びイオン(特に酸素イオン)に対して高い導電性を示す。したがって、以下に説明するように、改質反応には寄与しないが電解反応には寄与するようになる。
【0048】
したがって、第1の実施形態のように、改質ガスであるメタンガスを水蒸気とともに、単一室12内に導入し、電解セル11に接触させた場合において、アノード113は改質反応の触媒として機能する金属粒子113Bを含まないので、改質反応は専らカソード112のみで生じ、上記同様の反応式に基づいて、改質ガスである水素ガスが生成されるようになる。
【0049】
一方、電解セル11を駆動させることにより、第1の実施形態と同様の電解反応が生じ、当該電解反応を通じて高効率で水素ガスが生成されるようになる。また、上述したように、カソード112及びアノード113は多孔質体となっており、十分な開気孔を有するとともに、十分な空隙を有するので、電解反応に伴う反応場を増大させることができる。したがって、電解反応による水素ガスをより高い効率で製造することができる。
【0050】
このように、本実施形態の燃料改質用電解セルを用いた燃料ガスの改質方法では、アノード113において改質反応が生じないので、第1の実施形態に比較して、生成される改質ガスである水素ガスの量は減少するものの、第1の実施形態と同様に、単一室12内に電解セル11を配置した簡易な構成の燃料改質用電解セルを用いているので、単一室12内に改質すべき燃料ガス、具体的にはメタンガスを導入し、このメタンガスを電解セル11のカソード112及びアノード113の双方に単純に接触させるという簡易な操作で、多量の改質ガスである水素ガスを生成することができる。
【0051】
したがって、従来の二室式の燃料改質用電解セルのように、カソード及びアノード間をシールし、両者を異なる雰囲気に設定するなどの複雑な装置構成及びこれに基づく複雑な操作を要することなく、簡易かつ多量に改質ガスを生成することができる。
【0052】
なお、その他の構成及び特徴、並びに利点については、第1の実施形態と同様である。
また、本実施形態の変形例として、カソード及びアノードの双方を汎用のサーメットから構成することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
図4は、本実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図である。
【0054】
図4に示す燃料ガス改質用電解セル20は、電解セル21と、この電解セル21を収容する単一室22とを有する。なお、図4において、単一室22の入口22A及び出口22Bは、単一室22の中央部22Cと同じ大きさ(直径)としているが、改質すべき燃料ガス以外のガスが混入しないように、入口22A及び出口22Bの大きさ(直径)は、中央部22Cの大きさ(直径)よりも小さくすることができる。
【0055】
なお、電解セル21を構成する第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2、並びに第1のアノード213−1及び第2のアノード213−2は、第1の実施形態に係る図2に示すような構成とすることもできるし、第2の実施形態に係る図3に示すような構成とすることもできる。
【0056】
本実施形態では、電解セル11の第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2は、それぞれ固体電解質層211の主面211A及び211B上において互いに対向するようにして配置されており、電解セル11の第1のアノード213−1及び第2のアノード213−2も、それぞれ固体電解質層211の主面211A及び211B上において、第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2の、改質ガスの導入方向における下流側において、互いに対向するようにして配置されている。
【0057】
なお、本実施形態では、図4から明らかなように、簡便化のために、集電層及び集電体の記載は省略している。
【0058】
図4に示すように、本実施形態の燃料ガス改質用電解セル20では、最初に、燃料改質用電解セル20の単一室22に対して、入口22A側から、メタンガスを水蒸気とともに導入する。この際、単一室22内に配置された電解セル21の第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2では、第1の実施形態において説明したように、メタンガス及び水蒸気が、触媒として機能する複合酸化物粒子における金属粒子と接触して改質反応を生ぜしめ、これらが互いに反応することにより、メタンガスの改質ガスである水素ガス、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスを生成する(改質反応)。
【0059】
また、電解セル21に電圧(電流)を印加して駆動させると、第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2では水蒸気と電子とが反応し、上述した反応式に従って、水素ガスと酸素イオン(O2−)とが生成する。
【0060】
第1のカソード212−1で生成した酸素イオンは、固体電解質層111を通って隣接する第1のアノード213−1で電子を放出する。この時、第1のアノード213−1では酸素イオンと改質反応で生成したCOとが反応し、COの酸化反応が生じるとともに追加の改質ガスに相当する水素ガスが生成される(電解反応)。同様に、第2のカソード212−2で生成した酸素イオンは、固体電解質層111を通って隣接する第2のアノード213−2で電子を放出する。この時、第2のアノード213−2では酸素イオンと改質反応で生成したCOとが反応し、COの酸化反応が生じるとともに追加の改質ガスに相当する水素ガスが生成される(電解反応)。
【0061】
したがって、本実施形態では、第1のカソード212−1及び第2のカソード212−2で改質反応が生じて水素ガスが生成されるとともに、第1のカソード212−1及び第1のアノード213−1間、並びに第1のカソード212−2及び第2のアノード213−1間で電解反応が生じて水素ガスが生成される。この結果、第1の実施形態に比較して、電解反応が2つの電極間で生じることになるので、電解反応に起因して生成される水素ガスの量が増大する。このため、燃料ガス改質用電解セル20を用いた燃料ガスの改質方法では、第1の実施形態における、燃料ガス改質用電解セル10を用いた場合に比較して、導入した改質すべきメタンガスに対する改質ガスとしての水素ガスの量が増大することになる。
【0062】
すなわち、本実施形態の燃料ガス改質用電解セル20では、より簡易かつ効率的に多量の改質ガスである水素ガスを生成することができる。
【0063】
また、従来の二室式の燃料改質用電解セルのように、カソード及びアノード間をシールし、両者を異なる雰囲気に設定するなどの複雑な装置構成及びこれに基づく複雑な操作を要することなく、簡易かつ多量に改質ガスを生成することができる。
【0064】
なお、その他の構成及び特徴、並びに利点については、第1の実施形態と同様である。このように、本実施形態においても、高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、改質ガスを効率的かつ多量に生成することができる燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法を提供することができる。
【0065】
(第4の実施形態)
図5は、本実施形態における燃料ガス改質用電解セルの概略構成を示す断面図である。
【0066】
図5に示す燃料ガス改質用電解セル30は、第1の電解セル31及び第2の電解セル34と、これらの電解セルを収容する円筒型の単一室32とを有する。
【0067】
なお、第1の電解セル31を構成するカソード312及びアノード313、並びに第2の電解セル34を構成するカソード342及びアノード343は、第1の実施形態に係る図2に示すような構成とすることもできるし、第2の実施形態に係る図3に示すような構成とすることもできる。
【0068】
本実施形態では、単一室32内において、第1の電解セル31と第2の電解セル34とが、それぞれカソード312及び342を対向するようにして並列に配置されている。また、改質すべき燃料ガスであるメタンガスは、水蒸気とともに、第1の電解セル31及び第2の電解セル34間に導入するように構成されている。したがって、第1の電解セル31におけるカソード312及び第2の電解セル34におけるカソード342は、改質ガスの導入方向において、第1の電解セル31におけるアノード313及び第2の電解セル34におけるアノード343の上流側に位置するようになる。
【0069】
なお、本実施形態では、図5から明らかなように、簡便化のために、集電層及び集電体の記載は省略している。
【0070】
図5に示すように、本実施形態の燃料ガス改質用電解セル20では、最初に、燃料改質用電解セル30の単一室32に対して、入口32A側から、第1の電解セル31及び第2の電解セル34間にメタンガスを水蒸気とともに導入する。この際、単一室32内に配置された第1の電解セル31のカソード312及び第2の電解セル34のカソード342では、第1の実施形態において説明したように、メタンガス及び水蒸気が、触媒として機能する複合酸化物粒子における金属粒子と接触して改質反応を生ぜしめ、これらが互いに反応することにより、メタンガスの改質ガスである水素ガス、一酸化炭素ガス及び二酸化炭素ガスを生成する(改質反応)。
【0071】
また、第1の電解セル31及び第2の電解セル34に電圧(電流)を印加して駆動させると、カソード312及びカソード342ではでは水蒸気と電子とが反応し、上述した反応式に従って、水素ガスと酸素イオン(O2−)とが生成する。
【0072】
カソード312で生成した酸素イオンは、固体電解質層311を通って対向配置されたアノード313で電子を放出する。この時、アノード313では酸素イオンと改質反応で生成したCOとが反応し、COの酸化反応が生じるとともに追加の改質ガスに相当する水素ガスが生成される(電解反応)。同様に、カソード342で生成した酸素イオンは、固体電解質層341を通って対向配置されたアノード343で電子を放出する。この時、アノード343では酸素イオンと改質反応で生成したCOとが反応し、COの酸化反応が生じるとともに追加の改質ガスに相当する水素ガスが生成される(電解反応)。
【0073】
したがって、本実施形態では、第1の電解セル31のカソード312及び第2の電解セル34のカソード342で改質反応が生じて水素ガスが生成されるとともに、カソード312及びアノード313間、並びにカソード342及びアノード343間で電解反応が生じて水素ガスが生成される。この結果、第1の実施形態に比較して、電解反応が2つの電極間、すなわち2つの電解セルで生じることになるので、電解反応に起因して生成される水素ガスの量が増大する。このため、燃料ガス改質用電解セル30を用いた燃料ガスの改質方法では、第1の実施形態における、燃料ガス改質用電解セル10を用いた場合に比較して、導入した改質すべきメタンガスに対する改質ガスとしての水素ガスの量が増大することになる。
【0074】
すなわち、本実施形態の燃料ガス改質用電解セル30では、より簡易かつ効率的に多量の改質ガスである水素ガスを生成することができる。
【0075】
また、従来の二室式の燃料改質用電解セルのように、カソード及びアノード間をシールし、両者を異なる雰囲気に設定するなどの複雑な装置構成及びこれに基づく複雑な操作を要することなく、簡易かつ多量に改質ガスを生成することができる。
【0076】
なお、その他の構成及び特徴、並びに利点については、第1の実施形態と同様である。
【0077】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、改質ガスを効率的かつ多量に生成することができる。すなわち、高温水蒸気電解(SOEC)技術を用いて、改質ガスを効率的かつ多量に生成することができる燃料ガス改質用電解セル、及び電解セルを利用した改質ガスの生成方法を提供することができる。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
10、20、30 燃料改質用電解セル
11 電解セル
111、211、311、341 固体電解質層
112、312、342 カソード
113、342、343 アノード
114 集電層
115 集電体
12、22 単一室
212−1 第1のカソード
212−2 第2のカソード
213−1 第1のアノード
213−2 第2のアノード
31 第1の電解セル
34 第2の電解セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン導電性を有する固体電解質層と、
前記固体電解質層の相対向する主面のそれぞれに形成されてなる第1の電子−イオン混合導電性の材料からなるカソード及び第2の電子−イオン混合導電性の材料からなるアノードとを具え、
前記固体電解質層、前記カソード及び前記アノードは同一室に配置され、
改質すべき燃料ガスを前記カソード及び前記アノードに接触するように構成したことを特徴とする、燃料ガス改質用電解セル。
【請求項2】
酸素イオン導電性を有する少なくとも一つの固体電解質層と、
前記少なくとも一つの固体電解質層の相対向する主面において形成されてなる第1の電子−イオン混合導電性の材料からなる第1のカソード及び第2のカソード、並びに第2の電子−イオン混合導電性の材料からなる第1のアノード及び第2のアノードとを具え、
前記固体電解質層、前記カソード及び前記アノードは同一室に配置され、
改質すべき燃料ガスを順次に前記カソード及び前記アノードに接触するように構成したことを特徴とする、燃料ガス改質用電解セル。
【請求項3】
前記燃料ガスは、水蒸気を含む炭化水素系ガスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料ガス改質用電解セル。
【請求項4】
前記カソード及び前記アノードは、ニッケル、コバルト、鉄及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる粒子を担持してなるアルミニウム酸化物若しくはマグネシウム酸化物と、安定化ジルコニア若しくはドープセリアとの複合材料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の燃料ガス改質用電解セル。
【請求項5】
前記カソードは、ニッケル、コバルト、鉄及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなる粒子を担持してなるアルミニウム酸化物若しくはマグネシウム酸化物と、安定化ジルコニア若しくはドープセリアとの複合材料を含み、
前記アノードは、Ln1−xBO3−δ(Ln=希土類元素;A=Sr,Ca,及びBaのうちの少なくとも一種;B=Cr,Mn,Fe,及びNiのうちの少なくとも一種)で表される酸化物、又は前記酸化物及びドープセリアの複合材料を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の燃料ガス改質用電解セル。
【請求項6】
酸素イオン導電性を有する固体電解質層と、
前記固体電解質層の相対向する主面のそれぞれに形成されてなる第1の電子−イオン混合導電性の材料からなるカソード及び第2の電子−イオン混合導電性の材料からなるアノードとが同一室に配置された電解セルを利用した改質ガスの生成方法において、
改質すべき燃料ガスを少なくとも前記カソードに供給して改質反応を生ぜしめ、改質ガスを生成するステップ
を具えることを特徴とする、電解セルを利用した改質ガスの生成方法。
【請求項7】
前記カソード及び前記アノード間で電解反応を生ぜしめ、追加の改質ガスを生成するステップを具えることを特徴とする、請求項6に記載の電解セルを利用した改質ガスの生成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−14820(P2013−14820A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150198(P2011−150198)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】