説明

燃料サクションフィルタ用フィルタ材

【課題】微細粒子の充分な捕捉性能を維持しながら、フィルタの体積を増やすことなくフィルタ寿命を延長させ、かつ、フィルタ性能の均一性に優れた燃料サクションフィルタ用フィルタ材の提供。
【解決手段】中間層として熱可塑性長繊維不織布を含むスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。前記中間層は、繊維径10〜20μmのスパンボンド不織布、目付20〜60g/m2で構成され、片面が繊維径3〜8μm、繊維長3〜10mmの短繊維、目付30〜100g/mで構成され、そして他面が繊維径5〜15μm、繊維長5〜15mmの短繊維、目付50〜200g/m2で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用燃料タンクに設置される燃料ポンプの1次側に用いられるサクションフィルタ用フィルタ材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車燃料タンクに設置される燃料ポンプの1次側に用いられるフィルタ(以下、「サクションフィルタ」ともいう。)には、織物メッシュやスパンボンド不織布、メルトブロー不織布等を使用したフィルタ材が使用されており、これらのフィルタ材には5〜50μm前後の粒子の捕捉性能、好ましくは10〜20μm程度の粒子の捕捉性能に優れることが求められていた。
この様なフィルタ材として、例えば、以下の特許文献1には、スパン結合濾過媒体(スパンボンド不織布)や溶融吹込成型濾過媒体(メルトブロー不織布)等を積層して一体化することにより、フィルタ材の内部に粗密構造を形成させ、スパンボンド層で比較的大きな固形物を除去した後、メルトブロー層でより細かな固形物を除去する様にしたフィルタ材が提案されている。
また、以下の特許文献3には、押出メッシュの内層に2種以上の合成長繊維不織布を積層させたフィルタ層を使用することが提案されている。
さらに、以下の特許文献4には、上述のメルトブロー不織布に変えて、より微細な粒子を除去するためにエレクトロスピニング法により製作された合成長繊維不織布を積層させたフィルタ層を使用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、従来のスパンボンド法やメルトブロー法、エレクトロスピニング法等により製作された不織布は、小面積で見ると繊維配列が必ずしも均一ではなく、そのため、繊維間隔の均一性に欠け、目付、繊維径、通気度などのフィルタ性能に関わる性質のばらつきが大きいとの問題点があった。このばらつきは、フィルタ材としての捕集性能や寿命などの性能ばらつきとなって現れるため、濾過面積が50〜500cm程度の小さい面積で安定したフィルタ性能を維持することが難しく、従って、サクションフィルタとして使用するフィルタ材としては不向きとされてきた。
【0004】
また、スパンボンド不織布等の合成長繊維不織布をフィルタ材として用いると、微細粒子の捕捉効率の面で問題があった。すなわち、スパンボンド法においては、当該方法により成型される繊維の繊維径を10μm以下とすることが難しく、求められる粒子の捕捉性能を得るためにはスパンボンド不織布の製作が行われた後の工程で表面の平滑処理を施すなど、後工程での処理が必要となり、フィルタ材自体の生産性が悪く、高コスト化の問題が生じていた。さらに、このような表面平滑処理がなされたスパンボンド不織布や、メルトブロー不織布、エレクトロスピニング不織布等の合成長繊維不織布は、高捕捉効率であるものの、その捕捉態様は表面濾過であり、ろ材表面が粒子により早期に閉塞されて短寿命であるとの問題点が生じていた。
【0005】
これらの問題課題を回避するため、以下の特許文献5において、サクションフィルタ材として中間部として薄手の織物を用いたスパンレース不織布が提案されているが、この場合にも、粒子捕捉効率を上昇させた場合には低捕捉効率のフィルタ材と比較してフィルタ寿命が短くなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−246026号公報
【特許文献2】特開2003−236321号公報
【特許文献3】特開2003−28019号公報
【特許文献4】特開2009−28617号公報
【特許文献5】特開2006−187710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、前記した従来技術の問題点を解消し、微細粒子の十分な捕捉性能を有し、かつ、フィルタ体積を増やすことなく長寿命化を達成し、さらに低コスト化を可能とするフィルタ材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討し、実験を重ねた結果、スパンボンド不織布を中間層としたスパンレース不織布をフィルタ材として用いることにより、中間層として織物を用いた場合と比較して、微細粒子の十分な捕捉性能を維持しながら、長寿命かつ低コストのフィルタ材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]中間層として熱可塑性長繊維不織布を含むスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。
【0009】
[2]前記中間層が、繊維径10〜20μmのスパンボンド不織布、目付20〜60g/m2で構成され、片面が繊維径3〜8μm、繊維長3〜10mmの短繊維、目付30〜100g/mで構成され、そして他面が繊維径5〜15μm、繊維長5〜15mmの短繊維、目付50〜200g/m2で構成される、前記[1]に記載のスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。
【0010】
[3]JIS B8356−8法に準拠した簡便法によって測定した10μm以上の粒子捕捉効率が70%以上であり、かつ、フィルタ寿命が17分以上である、前記[1]又は[2]に記載のスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下記の様な優れた効果が得られる。
(i)熱可塑性長繊維不織布不織布をスパンレース不織布の中間層として用いることにより、従来は織物であるため燃料等の通液を阻害していた中間層が、捕捉した微細粒子を保持する機能を有し、フィルタ寿命の延長を図ることができる。
(ii)中間層が織物であるスパンレース不織布と比較して、不織布の厚さ方向に繊維径を変化させて、大きさの異なる粒子を順次捕捉する傾斜機能を大きく持たせることが可能であり、フィルタ寿命の延長を図ることができる。
(iii)織物を中間層として使用する場合と比較して、低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】粒子捕捉効率の測定方法フロー図である。
【図2】フィルタ寿命の測定方法フロー図である。
【図3】スパンレース不織布製造時の短繊維の交絡イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の燃料サクションフィルタ用フィルタ材は、中間層として熱可塑性長繊維不織布を含むスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材である。本発明の燃料サクションフィルタ用フィルタ材は、好ましくは、繊維径10〜20μmのスパンボンド不織布、目付20〜60g/m2で構成される中間層を有し、片面が繊維径3〜8μm、繊維長3〜10mmの短繊維、目付30〜100g/mで構成され、そして他面が繊維径5〜15μm、繊維長5〜15mmの短繊維、目付50〜200g/m2で構成される。
【0014】
スパンレース不織布を構成する繊維の平均繊維径が上記範囲にあると、スパンレース不織布に特徴的な交絡処理における交絡効果が高く、繊維が三次元方向に短い間隔で交絡することができ、スパンレース不織布の表面方向及び厚み方向に対して均一かつ目的とする微細粒子の捕捉に十分なフィルタ性能を得ることができる。
また、中間層上下の繊維を上記構成とすることにより、不織布の厚さ方向に繊維径を変化させた傾斜機能を持たせて、各層で異なる粒子径の微細粒子を保持してフィルタ寿命を延長させることが可能となる。
【0015】
本発明において、スパンレース不織布とは、短繊維をウェブ化し、高圧水流で繊維交絡させた不織布をいう。例えば、カードウェブ、ランダムウェブ、湿式抄造ウェブ等を高圧の柱状流により、三次元交絡させた不織布が挙げられる。中でも極細の短繊維を用いて湿式抄造ウェブとし、高圧の柱状流により三次元交絡させた湿式極細繊維不織布は、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布などの合成長繊維不織布と比較して、目付、厚み、通気度などフィルタ性能に影響を及ぼす物性が均一であり、微細粒子の捕捉効率が優れている点からも、サクションフィルタ用不織布として好ましい。
【0016】
本発明において、スパンレース不織布の中間層として用いられる熱可塑性長繊維不織布は、公知の方法により製造することができる。例えば、合成樹脂をエクストルーダーで加熱・溶融し、紡糸口金から押し出し・延伸して連続した長繊維を得、次いで当該長繊維を均一に分散させたウェブをエンボスロール等の熱圧着により接合する方法などがある。
また、その材質としては、ナイロン6、ナイロン66、共重合ポリアミドなどのポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系繊維などが挙げられる。
また、コスト面、ポリマー性能に起因する燃料油中での寸法安定性、及び高水圧柱状流での短繊維の交絡時の工程性を考慮すると、材質としては、ポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維が特に好ましい。
【0017】
更に、中間層の上下に配置される短繊維の繊維径、及び目付等との関係から、中間層として用いられる熱可塑性長繊維不織布の繊維径は10〜20μmであることが好ましく、より好ましくは12〜16μmである。また、中間層として用いられる熱可塑性長繊維不織布の目付は、短繊維の交絡時における高水圧柱状流での短繊維の交絡時の工程性を考慮すると、20〜60g/m2であることが好ましい。中間層の厚みは、問わないが、0.20〜0.35mmであることができる。
【0018】
本発明において、熱可塑性長繊維不織布を中間層とするスパンレース不織布に用いられる短繊維は、平均繊維径が大きな層と小さな層から構成されていることが好ましい。例えば、平均繊維径として5〜15μmの層と、3〜8μmの2層から構成されていることが好ましい。上記、熱可塑性長繊維不織布を中間層とするスパンレース不織布を構成する繊維の各繊維層間に繊度勾配を設け、フィルタの上流側に平均繊維径が大きな層を、下流側に小さな層を配することで、各繊維層間に繊度差を設け、各層で異なる粒子径の微細粒子を保持してフィルタ寿命を延長させることが可能となる。平均繊維径が大きな層の目付は、問わないが、好ましくは50〜200g/m、より好ましくは120〜160g/mであることができる。平均繊維径が小さな層の目付は、問わないが、好ましくは30〜100g/m、より好ましくは40〜80g/mであることができる。また、平均繊維径が大きな層の繊維長は、好ましくは5〜15mmであり、平均繊維径が小さな層の繊維長は、好ましくは3〜10mmである。
【0019】
サクションフィルタ用フィルタ材に求められるフィルタ性能は、接続される燃料ポンプの各種性能から求められる微細粒子の捕捉効率と捕捉効率を維持しながらの充分なフィルタ寿命を保持することが求められるが、本発明において開示されるフィルタ性能は、図1に示す方法により測定した場合の10μm以上の微細粒子の捕捉効率は70%以上であり、図2に示す方法により測定した場合の10kPaに到達するフィルタ寿命は17分以上である。
本発明において開示するサクションフィルタ材は、特定範囲の極細繊維を用いたスパンレース不織布とし、かつ、中間層として熱可塑性長繊維不織布、好ましくはスパンボンド不織布を用いることにより、充分な微細粒子の捕捉効率を維持しながら、フィルタ寿命を格段に上昇させることができる。
【実施例】
【0020】
[実施例1〜8、比較例1]
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の特性は、下記の方法で測定した。
(1)目付(g/m2 ):100mm×100mmの試料を原反幅方向に12点、長さ方向に4点採取し、重量を測定し、g/m2に換算し、その平均値を求めた。
(2)嵩密度(g/cm3 ):目付と、荷重10kPaの厚みから単位容積当たりの重量を求め、3カ所以上の平均値で表した。
(3)平均繊維径(μm):不織布の表面を顕微鏡写真で拡大し、その繊維径を10点実測し、その平均値で示した。
(4)通気性(通気度):JIS−L−1906フラジール形試験機で、3カ所測定し、その平均値を求めた。
(5)部分熱圧着率(%):不織布の表面を顕微鏡写真で拡大し、不織布全面積に対する接合部面積の割合を算出した。
(6)微粒子捕捉効率(%):JIS B8356−8法に準拠した図1に示す簡便法により測定した。すなわち、上水中にJIS7種のダストを1mg/Lの割合で混合し、超音波振動で1分間撹拌して均一に分散させた液を、流量12cc/min/cm2で試料に通過させ、通過前後の液を採取し、各液の粒度分布を粒度分布計で測定し、各粒子径の捕捉効率を求めた。
(7)フィルタ寿命:JIS B8356−8法に準拠した図2に示す簡便法により測定した。すなわち、JIS2号軽油中に、JIS8種ダストを20mg/Lの割合で添加し、当該軽油を流量150cc/minで試料に通過させ、差圧10kPaに達するまでの時間(分)を測定し、フィルタ寿命時間とした。
【0021】
ポリエチレンテレフタレート製長繊維不織布を公知のスパンボンド法により作製し、得られたスパンボンド不織布を中間層として、以下の表1に示すように各層を構成し、公知の方法によりスパンレース不織布を作製した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から、熱可塑性長繊維不織布を中間層として用いたスパンレース不織布は、織物を中間層として使用した場合と比較して、微粒子の捕捉効率を維持しながらフィルタ寿命を格段に延長することが可能となることが分かる。特に、実施例7に示す構成においては、中間層に織物を使用した場合(比較例1)と同程度の粒子捕捉効率を維持しながら、格段にフィルタ寿命を延長することができ、優れたフィルタ性能を有しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る燃料サクションフィルタ用フィルタ材は、微細粒子の十分な捕捉性能を有し、かつ、フィルタ体積を増やすことなく長寿命化を達成し、さらに低コスト化を可能とすることができるため、自動車用燃料タンクに設置される燃料ポンプの1次側に用いられるサクションフィルタ用フィルタ材として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層として熱可塑性長繊維不織布を含むスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。
【請求項2】
前記中間層が、繊維径10〜20μmのスパンボンド不織布、目付20〜60g/m2で構成され、片面が繊維径3〜8μm、繊維長3〜10mmの短繊維、目付30〜100g/mで構成され、そして他面が繊維径5〜15μm、繊維長5〜15mmの短繊維、目付50〜200g/m2で構成される、請求項1に記載のスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。
【請求項3】
JIS B8356−8法に準拠した簡便法によって測定した10μm以上の粒子捕捉効率が70%以上であり、かつ、フィルタ寿命が17分以上である、請求項1又は2に記載のスパンレース不織布からなるサクションフィルタ用フィルタ材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184832(P2011−184832A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53465(P2010−53465)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】