説明

燃料タンクの気密検査方法

【課題】本発明は自動車等における燃料タンクの気密検査方法に関し、小型で低剛性の治具にて、燃料タンクの気密検査を高い精度で実現することを目的とする。
【解決手段】燃料タンク10の被検査面に気密検査治具の遮蔽蓋18を被せ、燃料タンクの被検査面の上方におけるチャンバ(被検査密閉空間)22を配管27より負圧ポンプにて排気する。遮蔽蓋18の内部空間22の圧力を圧力計にて計測し、圧力の時間変化や圧力差により燃料タンクの気密良否の判定を行う。漏洩可能部位毎にチャンバを区画し、区画されたチャンバの排気を行い、圧力の計測を行うことにより漏洩発生部位の特定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車等における燃料タンクの気密検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクに組み付けた燃料ポンプや燃料ゲージの取付け部の気密性を検査する方法として水没式気密検査方法がある。この方法にあっては、燃料タンクを加圧による膨張変形を起こさないように治具に固定した状態で水槽に没し、タンク内に空気を送り所定の圧力に加圧し、漏洩部があるとそこから発生する気泡により気密良否、及び気泡の発生部位より漏洩部位を特定する(特許文献1及び2)。
【0003】
その他の方法として、圧力低下気密検査方法があり、この方法においては、燃料タンクに空気を送り、所定の圧力まで加圧後に空気の供給を停止し、燃料タンク内圧力の変化を測定し、予め測定しておいた正常品の燃料タンク内圧力の変化データと比較し、気密良否の判定を行う。この方法においては水没の必要はないが、検査圧で燃料タンクが変形しないような治具の工夫は必要である。
【特許文献1】特開平7−198525号公報
【特許文献2】実公昭64−590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水没式気密検査によるものにあっては、燃料タンクの加圧時の燃料タンクの膨張を抑制するため治具に高い剛性が必要となり、また、治具で燃料タンクを抑えた状態で水没させるための大きな水槽が必要となり、装置として大掛かりとなる。また、水による治具や水槽の防錆対策素材としてステンレス等の耐錆性の良好な高価な素材が必要であり、設備コストが嵩む。気泡検出の精度確保のため、水の透明度を維持する必要があり、そのため、定期的な水の交換が必要であり、これもコスト増要因となる。水没するため検査後表面に残留した水により燃料ポンプや燃料ゲージにおける接続端子の腐食の懸念がある。更には、水没させるため燃料タンク表面の防錆皮膜が吸水軟化し、最悪の場合、剥離のおそれがある。
【0005】
圧力低下気密検査によるものは、まず、燃料タンクが大型で容量が大きいため、漏れ量自体が微量な場合は、不良品と良品との区別が付き難く誤判定のおそれがある。また、燃料タンクの内部圧力により良否の判断をするため、被検査面に燃料ポンプ及び燃料ゲージの二つの検出部位がある場合に漏洩有りと検出してもどちらの部位が発生源か区別し特定することができない。また、燃料タンクの内容積によって検出感度が変化してしまう。更に、水没式気密検査と同様な欠点であるが、燃料タンクの加圧を行うため、その膨張変形の抑制のため剛性の大きな治具が必要となり、設備コストが大きくなる。
【0006】
本発明は以上の従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、水没方式の如く接続端子の腐食や燃料タンク表面の防錆皮膜が軟化剥離する虞れなく高精度で気密検査を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、燃料タンクの気密検査方法であって、燃料タンクの被検査部を臨むチャンバを気密検査治具により形成し、前記チャンバを減圧排気することにより気密検査治具を燃料タンクの被検査面に密着させ被検査部において燃料タンク内外に所定の圧力差を生じさせつつ、前記チャンバの圧力を検出し、検出された圧力値を気密の確保された正常品のデータと比較することにより燃料タンクの気密良否の判定を行う方法が提供される。
【0008】
気密検査治具は燃料タンクとの密着のためシール材として弾性体を使用し、かつ非圧縮性のストッパにより前記チャンバの容積を一定化することができる。
【0009】
チャンバは漏洩を起こし得る燃料タンクの部位毎に区画することができ、気密良否の判定は区画されたチャンバ毎に行うことができる。
【0010】
また、被検査燃料タンク及び正常品の燃料タンクについて内部圧力の検出は漏洩を起こし得る燃料タンクの部位毎に行い、各部位毎に被検査燃料タンクと正常品の燃料タンクとで圧力差により気密良否の判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
燃料タンクを加圧してタンク全体を膨張させる従来方式との比較では、燃料ポンプや燃料ゲージなどの取付部だけに圧力差を生じさせる方式であるため、治具構造を大幅に簡略化することが可能である。また、燃料タンクではなく治具に設けたチャンバ内を減圧するため外力で治具を押え付けることなく燃料タンクへの密着を起こさせることができる。
【0012】
水没させることで生ずる問題である、燃料ポンプや燃料ゲージの接続端子に残留した水による端子の腐食、防錆用塗料の吸水による軟化や剥離が生じない。
【0013】
また、従来の圧力低下式気密検査法の問題を解決し、検査に用いるチャンバ容積を燃料タンクのそれに対して極めて小さくすることができ、検出感度を数百倍といったレベルまで高めることができ、チャンバ容積で検出感度が決まり、燃料タンク内容積に依存することなく気密良否の判定が可能である。
【0014】
気密検査治具の内部を燃料タンクの漏洩を起こし得る部位毎に区画することにより漏れ発生箇所をより細かく特定して検出することができる。
【0015】
そして、圧力差による漏洩判定は、圧力の絶対値を測定する圧力低下検出方式と比較し、検出値を1−2桁小さくすることができ、測定レンジの小さい計測器の使用が可能であり、検出精度を数十倍高くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はこの発明の燃料タンクの気密検査方法の第1の実施形態を示し、燃料タンク上部に装着した気密検査治具の断面図である。
【図2】図2は図1と同様に第1の実施形態を示すが、燃料タンク上部に装着した気密検査治具の平面図である。
【図3】図3はこの発明の第1の実施形態の燃料タンクの気密検査方法における遮蔽空洞内部圧力の時間変化を模式的に示すグラフである。
【図4】図4はこの発明の燃料タンクの気密検査方法の第2の実施形態を示し、燃料タンク上部に装着した気密検査治具の断面図である。
【図5】図5は図4と同様に第2の実施形態を示すが、燃料タンク上部に装着した気密検査治具の平面図である。
【図6】図6は図5の矢印VIにて示した部位の模式的拡大図である。
【図7】図7は図4のVII−VII線に沿って表される矢視断面図である。
【図8】図8はこの発明の第2の実施形態の燃料タンクの気密検査方法における遮蔽空洞内部間圧力差の時間変化を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2は本発明の第1の実施形態を示しており、10は自動車用の燃料タンクの上部を示しており、燃料タンク10は内部に燃料ポンプ(図示しない)が配置され、燃料タンクの上面には燃料ポンプから燃料噴射弁への接続配管部12が設けられる。また、燃料タンク10の内部には燃料ゲージ(図示しない)が設けられ、燃料タンク10の上面には燃料ゲージへの電気接続のための接続端子(コネクタ)14も設けられる。燃料タンクの上部はアッパシェル10-1にアッパプレート10-2をリテーナ及びОリング(図1には詳細な図示を省略)を介在させつつねじ止めした構成となっており、燃料噴射弁への接続配管部12及び燃料ゲージへの接続端子14はアッパプレート10-2上に取り付けられる。
【0018】
16は気密検査治具を示しており、金属板材(鉄板)からのプレス成形品である遮蔽蓋18とストッパ棒20とを備える。遮蔽蓋18は上面が閉じ下面が開放した筒状をなし、金属板材(鉄板)からのプレス成形品であり、その板厚(剛性)は本発明による吸引による気密試験時に内部負圧による変形を起こさないように十分余裕を持って設定される。ストッパ棒20は上端20-1が遮蔽蓋18の内側上面に固定され、下端20-2は気密検査を受ける燃料タンク10の上面に当接される。ストッパ棒20は図2に示すように円周方向に等間隔に複数設置され、かつ気密検査中の負圧に対して上下方向に非圧縮で非曲折を呈するに十分な剛性を有し、遮蔽蓋18自体が十分な剛性を有していることとあいまって、吸引による負圧下での気密検査時に変形を抑制することができる。そのため、排気中における燃料タンク10の上面において遮蔽蓋18により密閉形成されるチャンバ(被検査空間)22の容量を一定に確保することかでき、気密精度の確保が可能となる。遮蔽蓋18は下端に遮蔽蓋18の全周に沿ったフランジ18-1を形成しており、フランジ18-1は燃料タンク10との対向面との間に弾性体よりなるシールリング24(シール材)を備えており、シールリング24が弾性変形することによりチャンバ22の気密を維持することができる。遮蔽蓋18のフランジ18-1とこれに対向する燃料タンク10の上面との間に断面袋状の空間26(図1)が全円周に亘って形成され、ここにシールリング24を収容することができる。遮蔽蓋18の上面には負圧ポンプ(図示しない)への接続配管部27が設けられ、側面には圧力計(図示せず)への接続配管部28が設けられる。アッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部は段差Sとなっており、この部位には後述第2実施形態にて詳細説明するようにОリングが設けてあり、この取付部も漏洩可能箇所となるが、シールリング24はこの外側に位置しており、アッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部に漏洩があっても以下説明のようにチャンバ22にて圧力変化として捕らえることができる。
【0019】
気密検査治具16による気密検査時、遮蔽蓋18は検査を受ける燃料タンク10に上面から被せられ、ストッパ棒20は下端20-2が燃料タンク10の上面に載置当接される。燃料タンク10への接続配管部12には盲栓29が装着され、外周のシールリング24はフランジ18-1とこれに対向する燃料タンク10の上面間に軽く接触されるようにされ、そのため必要あれば遮蔽蓋18が上面より適当に加圧され、シールリング24の上下対向面への密着を促すことかできる。そして、接続配管部27に接続される負圧ポンプの始動によりチャンバ22が減圧される。図3における実線Lは時間経過によるチャンバ22の圧力変化を模式的に示している。漏洩のない正常品の場合は、圧力は、最初は大気圧pより時間とともに下降し、負圧ポンプの停止時点tにおいてはほとんど一定値p(検査圧)となる。その後は圧力は少し上昇するが漏洩のない正常品の場合は一定値pに留まる。ところが漏洩がある燃料タンクの場合は破線L´のように圧力の上昇は止まず(異常値をp´とする)、この状態を圧力検知器で判断する。判断の手法としてはtでの圧力検出値を設定値(正常値p付近の適当な値)と比較することにより漏洩検査を行うことができる。
【0020】
以上説明の第1の実施形態においては、漏洩可能箇所としての燃料噴射弁等への接続配管部12、燃料ゲージへの接続端子14及びアッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部(段差S)のいずれであっても漏洩があると、その影響によりチャンバ22の減圧特性が本来のもの(図3の実線L)と変化(図3の破線L´)するため気密良否の判定をすることができる。
【0021】
図4−図7はこの発明の第2の実施形態を示しており、図4には、図1では段差Sとして簡略化した、アッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付状態がより詳細に図示される。即ち、アッパシェル10-1には円環状のリテーナ10-3が溶接固定される。アッパシェル10-1とアッパプレート10-2との対向面間にОリング10-4が介在されており、ねじ10-5によりアッパシェル10-1にアッパプレート10-2を固定し、Оリング10-4によりアッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部の気密を維持する構造となっている。
【0022】
この第2の実施形態では、アッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部、燃料噴射弁への接続配管部12、燃料ゲージへの接続端子14の3箇所の漏洩可能部について個別的な検査を行うことを意図している。そのため、3分割構造のチャンバとしている。即ち、検査治具16は被検査面である燃料タンク10の上面を臨む被検査空間を分割する直径方向の第1の仕切壁30と、円周方向の第2の仕切壁31とを備える。第1の仕切壁30及び第2の仕切壁31は図5では2点鎖線にて示している。第1の仕切壁30及び第2の仕切壁31により、検査治具16の遮蔽蓋18の内側に形成される検査燃料タンクの上面(被検査面)を臨むチャンバは、夫々が円周方向の第2の仕切壁31の内側に位置され、直径方向の第1の仕切壁30により隔てられる半円形の第1及び第2のチャンバ37, 38と、第2の仕切壁31の外側に位置される円環状の第3のチャンバ39との三つに分離される。第1のチャンバ37に漏洩可能部としての燃料噴射弁への接続配管部12が位置され、第2のチャンバ38に漏洩可能部としての燃料ゲージへの接続端子14が位置され、第3のチャンバ39に漏洩可能部としてのアッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部が位置される。
【0023】
図4に示すように仕切壁30は下端に直径方向に延びるシール材収容部32を備えており、他方第2の仕切壁31は下端に円周方向に延びるシール材収容部33を備えている。直径方向の第1の仕切壁30の下端のシール材収容部32は夫々が直径方向に延びる一対の収容区分32-1, 32-2を備え、一対の収容区分32-1, 32-2の 夫々が第2の仕切壁31の下端の円周方向に延びるシール材収容部33に連なっている。シール材収容部32とシール材収容部33との接続部は図6に模式的に示される。収容区分32-1及びこれに連なるシール材収容部33の半円周部分には第1のチャンバ37をシールするようにシール材34が収容される。収容区分32-2及びこれに連なるシール材収容部33の残余の半円周部分には第2のチャンバ38をシールするようにシール材36が収容される。即ち、シール材34, 36は、収容区分32-1, 32-2では直径方向に延び(直径方向に延びるシールの部分を図5で34A, 36Aにて示す)、シール材収容部33との接続部において円周方向に方向を転ずる。図7にはシール材34の直径方向延設部分34Aがアッパプレート10-2の上面10-2'の形状に追従し、シール材収容部33に至ると円周方向(図7の紙面直交方向)に方向を転ずる様子が模式的に図示され、これはシール材36についても同様である。また、円周方向に延びるシール材34, 36の部分は遮蔽蓋18の下面のシール24と協働することにより円環状の第3のチャンバ39をシールしている。
【0024】
チャンバ37, 38, 39に、夫々、負圧ポンプへの接続配管部41, 42、43及び圧力計への接続配管部44, 45, 46が設けられ、チャンバ37, 38, 39を減圧し、その圧力検出により燃料噴射弁への接続配管部12、燃料ゲージへの接続端子14、アッパシェル10-1に対するアッパプレート10-2の取付部の夫々について個別的な検査を行うことができる。
【0025】
この実施形態においては被検査空間である区画されたチャンバ37, 38, 39を夫々負圧ポンプによって設定圧まで減圧し、その後負圧ポンプを停止しチャンバ37, 38, 39の圧力を計測し、チャンバ37, 38, 39の各々につき被検査品と正常品とで圧力差の時間変化を計測することにより、夫々のチャンバ37, 38, 39につき個別に漏洩検査を実施することができる。即ち、図8はチャンバ37, 38, 39,の各々につき被検査品と正常品間の圧力差を模式的に示し、実線Mは漏洩がない場合で、時間の経過に関らず圧力差は一定値を維持する。漏洩がある場合は破線M´のように時間とともに圧力差が現れ、漏洩検出が可能となる。また、圧力差を見る方式は第1実施形態のように圧力低下を見る方式と比較して、検出値が1−2桁小さくて済むため、測定レンジの小さい計測器が使用可能であり、検出感度を数十倍高めることができる点で有利である。
【符号の説明】
【0026】
10…燃料タンク
12…燃料噴射弁への接続配管部
14…燃料ゲージ配線接続部
16…気密検査治具
18…遮蔽蓋
20…ストッパ棒
22…チャンバ
24…シールリング
27…負圧ポンプへの接続配管部
28…圧力計への接続配管部
30…仕切壁
34, 36…シール材
37, 38, 39…チャンバ
41, 42, 43…負圧ポンプへの接続配管部
44. 45, 46…圧力計への接続配管部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの気密検査方法であって、気密検査治具により燃料タンクの被検査部を臨むチャンバを形成し、前記チャンバを減圧排気することにより気密検査治具を燃料タンクの被検査面に密着させ被検査部において燃料タンク内外に所定の圧力差を生じさせつつ、チャンバの圧力を検出し、検出された圧力値を気密の確保された正常品のデータと比較することにより燃料タンクの気密良否の判定を行う方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、気密検査治具は燃料タンクとの密着のためシール材として弾性体を使用し、かつ非圧縮性のストッパにより前記チャンバの容積を一定化する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、気密検査治具はその内部を漏洩を起こし得る燃料タンクの部位毎のチャンバに区画し、気密良否の判定は各区画のチャンバ毎に行う方法。
【請求項4】
請求項3に記載の発明において、被検査燃料タンク及び正常品の燃料タンクについて内部圧力の検出は漏洩を起こし得る燃料タンクの部位のチャンバ毎に行い、各部位のチャンバ毎に被検査燃料タンクと正常品の燃料タンクとの間の圧力差により気密良否の判定を行う方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−2854(P2013−2854A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131780(P2011−131780)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000178804)ユニプレス株式会社 (83)
【Fターム(参考)】